(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
「第1実施形態の概要」
本実施形態の電子冷暖房衣服は、頸部または脇下部を通る太い血管を覆う皮膚に当接可能とする変温素子を配する首まわり(ヨーク)、襟(衿)または脇下部と、変温素子の皮膚に当接可能とされる面の反対側の面に熱結合する熱媒体循環路と、熱媒体循環路の一部となり熱媒体を循環させるポンプと、ポンプおよび変温素子に電力を供給する電池と、を配する前身ごろ(前見頃)、または、後ろ身ごろ(後見頃)、と、を備える。
【0026】
そして、熱媒体循環路は、可撓熱伝導材(可撓性、かつ、熱伝導性を有する材料)で形成され、筒形状の空間内部に循環する熱媒体を密閉保持するとともに電池からの電力を変温素子およびポンプに送電するための可撓導電材の第1電極と第2電極とを有する。なお、首まわりが明確な形で存在しない衣服においては、首まわりに替えて、頸部の太い血管に近い衣服のえり(襟、衿)に熱媒体循環路を固着するようにしてもよい。襟の用語は洋服の場合に用いられることが多く、衿の用語は和服の場合に用いられることが多い。
【0027】
上述した本実施形態の電子冷暖房衣服の概要を以下に順に説明する。
【0028】
本実施形態の電子冷暖房衣服は、身体を電子装置によって冷房、または/および、暖房するための衣服である。すなわち、人体を冷房する衣服、人体を暖房する衣服、人体を冷房および暖房する衣服のすべてを含むものである。そして、冷房、または/および、暖房する部分は、人体の太い血管を覆う皮膚の部分である。
【0029】
上述したように、特に、人体の頸部を通る太い血管は脳に連結する血管であることから、この血管を覆う皮膚に変温素子を当接すれば、核心温(深部体温)と呼ばれる脳の温度を所定温度に保つことができ、高温、低温の環境下でも生命活動を維持することができる。また、「暑い・寒い」「快・不快」という感覚は、脳の温度に大きく依存している。よって、頸部を通る太い血管を冷暖房することによって快適性を得る効果は、人体の他の部分を冷暖房することにより得られる効果に比べて極めて大きい。
【0030】
頸部を通る太い血管を覆う皮膚に直接に単体の変温素子を着装するには手間が掛り、変温素子を脱着(撤去)するにも手間が掛り面倒であるので、本実施形態では衣服の首まわりに変温素子を配している。衣服の首まわりは、着用中においては衣服の部位の中で最も頸部を通る太い血管に近い位置に配置される。特に、洋服の場合には首回りは、首そのまま覆うような、首まわりが用いられることも多い。この場合には、首回りに変温素子を配置して、変温素子を、頸部を通る太い血管の上の皮膚に最も近い位置に配置できる。和服の場合には、洋服の場合のような明確な首まわりに対応する部分が存在しない場合もあるので、その場合には太い血管に近い皮膚に当接する和服の衿の部分に変温素子を配置する。また、太い血管が皮膚の近くを通っている部位は頸部のみではなく、脇下部にも存在する。よって、衣服の脇下部に変温素子を配置してもよい。太い血管の上の皮膚に近い場所であれば変温素子を当接するに適当な場所である。
【0031】
本実施形態の変温素子は、電力を供給して人体に対して与熱し、または、電力を供給して吸熱(冷却)する素子である。暖房衣服に用いる与熱する素子(与熱素子)としては、抵抗体に電流を流して発熱させるヒータ、または、ペルチェ素子(Peltier device)を用いることができる。冷房衣服に用いる吸熱する素子(吸熱素子)としては、ペルチェ素子を用いることができる。冷暖房衣服に用いる与熱素子、かつ、吸熱素子としてはペルチェ素子を用いることができる。変温素子の名称は、与熱素子/吸熱素子であるペルチェ素子の上位概念の用語であり、ヒートポンプ作用を用いる種々の与熱素子/吸熱素子、与熱素子としてのヒータ等を含む素子である。本実施形態の説明では、変温素子の1実施形態であるペルチェ素子を変温素子の代表例として適宜に用いて以下では説明をする。
【0032】
ペルチェ素子は、与熱素子としての機能と吸熱素子としての機能の両方の機能を有する素子である。別の見方をすれば、ペルチェ素子の一方の面は吸熱面であり、その反対側の面は与熱面であり、ペルチェ素子に流す電流の方向に応じて、同一面が吸熱面であるか与熱面であるかに切替わる。
【0033】
また、本実施形態の電子冷暖房衣服は、ペルチェ素子の皮膚に当接可能とされる面の反対側の面に熱結合する熱媒体循環路と、熱媒体循環路の一部となり熱媒体を循環させるポンプと、ポンプおよびペルチェ素子に電力を供給する電池と、を配する前身ごろ、または、後ろ身ごろ、と、を備える。
【0034】
本実施形態の電子冷暖房衣服においては、熱媒体循環路は筒形状を有している。そして、熱媒体循環路の筒形状の空間内部が密閉保持する熱媒体を循環する機能を有している。筒形状の外部面が電池からの電力をペルチェ素子およびポンプに送電する機能を有している。
【0035】
熱媒体循環路は、可撓熱伝導材で形成されるので、ペルチェ素子の形状、身体の形状、衣服の形状、着用者の動作に合わせて自由に変形する。着用者は、このような可撓性の素材で形成される熱媒体循環路を衣服と共に身に着けることによって行動の自由が確保され、熱媒体循環路の存在に違和感を覚えることがない。
【0036】
まず、熱媒体循環路の熱媒体を循環する機能について説明をする。電子冷暖房衣服が電子冷房衣服として機能するときと電子暖房衣服として機能するときとに分けて説明をする。
【0037】
電子冷暖房衣服が電子冷房衣服として機能するときには、ペルチェ素子の皮膚に当接可能とされる面が吸熱する吸熱面として機能するように、ペルチェ素子の電極には所定方向の電流が流される。このときに、皮膚に当接可能とされる面の反対側の面は与熱面となり温度が上昇する。ここで、与熱面に発生する熱を速やかにペルチェ素子の外部に移動させなければ、吸熱面と与熱面との間で熱が移動して吸熱面の温度上昇を引き起こしてしまい、吸熱面はもはや期待される吸熱機能を生じないものとなってしまう。
【0038】
このような事態の発生を防止するために、ペルチェ素子の与熱面から発生する熱をペルチェ素子の外部へ移動させる機能を有するのが熱媒体循環路である。熱媒体循環路は、ペルチェ素子の皮膚に当接可能とされる面の反対側の面に熱結合されているので、皮膚に当接する面が吸熱面である場合には、与熱面が熱媒体循環路に熱結合されていることとなる。ここで、熱媒体循環路は熱伝導性を有する素材で形成されるので熱媒体循環路の内部を循環する熱媒体の熱を熱媒体循環路に伝えて、その外部に放熱し、または、熱媒体循環路の外部からの熱を熱媒体循環路の中の熱媒体に伝えることができる。
【0039】
熱媒体循環路の筒形状の空間内部を循環する熱媒体は気体媒体(例えば、空気、二酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン等)であっても液体媒体(例えば、水、凍結を防止するためにエチレングリコール等を主成分とするクーラント、油)であってもよい。熱媒体循環路は、ドーナツ形状をしており、首まわり、襟(衿)、または脇下部、前身ごろ、または、後ろ身ごろに固着される。そして、熱媒体循環路中にポンプが配されている。ここでいうドーナツ形状とは位相幾何学的な意味でのドーナツ形状である。すなわち、ドーナツ形状とは、設けられた孔の形状が円形に限られず、他の形状であってもよい。熱媒体循環路は熱媒体を循環させる機能を有すれば、その形状はいかなる形状でもよく熱媒体循環路に凹凸があってもよい。
【0040】
熱媒体循環路中のより高温の熱媒体は、より上方に集まる。したがって、人が立った姿勢においては、衣服の首まわり、襟(衿)、または脇下部付近に配置されるペルチェ素子の与熱面の付近に高温の熱媒体が滞留してしまう。ポンプは強制的に熱媒体を熱媒体循環路中で循環させる。熱媒体を移動させることによって熱媒体の移動とともに与熱面で発生した熱は、衣服の首まわり、襟(衿)、または脇下部付近から前身ごろ、または、後ろ身ごろに沿った熱媒体循環路の内部を流れ、この過程で熱媒体循環路の外部、さらには衣服の外部に放熱をする。すなわち、熱媒体循環路は筒形状の可撓熱伝導材を有して形成されているので、熱交換器(ラジエータ)としても機能する。
【0041】
熱媒体循環路が可撓熱伝導材で形成される理由は、可撓性(撓る性質)を有しなければ、衣服に熱媒体循環路を着装した状態において自由に身動きできないからであり、可撓性を有しなければ外力が熱媒体循環路の特定の点に集中することによって熱媒体循環路が破壊するおそれがあるからである。また、熱伝導性(熱を伝える性質)がなければ、熱媒体循環路の壁面の内部の熱媒体と熱媒体循環路の壁面の外部との間で熱の移動をさせることができず、上述した熱交換器としての機能を果たさないからである。熱媒体循環路の壁面の厚さに、熱媒体循環路の内部と外部との間の熱の移動量は依存し、薄い壁面であれば、材質自体の熱伝導性はそれ程よくなくとも熱媒体循環路としての機能を果たすことができる。
【0042】
熱媒体循環路は筒形状の可撓熱伝導材を有して形成されるとは、熱媒体循環路の一部が筒形状の可撓熱伝導材でなくともよいという意味である。筒形状の可撓熱伝導材でない部分{例えば、筒形状の可撓非熱伝導材(可撓材かつ非熱伝導材)の部分、筒形状の非可撓非熱伝導材(非可撓材かつ非熱伝導材)の部分}が熱媒体循環路の一部に含まれていたとしても、その部分の割合が少なく、その場所によっては、熱媒体循環路の機能に影響を殆ど与えない。可撓非熱伝導材を用いる場合においては、熱媒体と外部空間との間の熱交換機能が、熱媒体循環路の全体に対する可撓非熱伝導材の部分の割合に応じて低下するだけである。また、非可撓非熱伝導材を用いる場合においては、熱交換に関しては可撓非熱伝導材と同様であり、さらに、非可撓材の部分は撓ることがないというだけである。例えば、ポンプの材料として可撓非熱伝導材を用いる場合があるが、ポンプが小型であれば、着用者の動作を阻害せず、第三者もポンプの存在に気が付かない。
【0043】
熱媒体の熱を熱媒体循環路の外部に放熱をすることにより、ペルチェ素子の与熱面に熱結合されている熱媒体循環路の部分に向かって一循環して戻る熱媒体は再び低温となっている。そして、熱媒体はペルチェ素子の与熱面から熱を奪い、熱媒体は再び高温となり循環を繰り返す。ここで、与熱面に熱結合されている熱媒体循環路の部分に向かって流れる熱媒体の温度が低ければ低い程、与熱面から熱媒体に移動する熱量が大きいので、ペルチェ素子の与熱面から吸熱面へ移動する熱量は減少する。そして、皮膚の下の血管から吸熱面に対して、その減少分に対応するより大きな熱量の移動が生じ冷房の効果は大きくなる。
【0044】
ペルチェ素子の与熱面に熱結合されている熱媒体循環路の部分は、頸部を通る太い血管に近い衣服の首まわり、または、えりの部分であるので、ペルチェ素子の与熱面からなるべく遠くまで熱媒体循環路を引き回すことが望ましい。また、熱媒体循環路と身体とが近づき過ぎて熱媒体循環路の中の熱媒体の熱が再び人体に移動することを防止するために、衣服と身体との間に十分な余裕を確保できる場所である前身ごろ、または、後ろ身ごろの下部で放熱するのが望ましい。よって放熱を促進する放熱フィンを配する場合には、前身ごろ、または、後ろ身ごろの下部に放熱フィンを配することが望ましい。
【0045】
電子冷暖房衣服が電子暖房衣服として機能するときには、ペルチェ素子の皮膚に当接可能とされる面が与熱する与熱面として機能するように、ペルチェ素子の電極には吸熱時とは逆方向の電流が流される。このときに、当接可能とされる面の反対側の面は吸熱面となり温度が下降する。ここで、吸熱面に発生する冷気を速やかにペルチェ素子の外部に移動させなければ(より正確な別の言い方をすれば、熱循環路の中の熱媒体の熱を速やかにペルチェ素子の吸熱面に移動させなければ)、吸熱面と与熱面との間で熱が移動して与熱面の温度下昇を引き起こしてしまい、与熱面はもはや期待される与熱機能を生じないものとなってしまう。
【0046】
冷房における与熱面から熱媒体循環路への熱の移動とは反対に、暖房おいては熱媒体循環路から吸熱面への熱の移動が生じる。ペルチェ素子の暖冷房の効率を高めるために、皮膚に当接する面の反対側の面と熱媒体循環路との間で熱媒体の熱を移動させる機能を熱媒体循環路が有する点は冷房時、暖房時のいずれにおいても変わりはない。
【0047】
電子暖房衣服として機能するときにも熱媒体循環路の筒形状の空間内部を循環する熱媒体は、電子冷房衣服におけると同じものである。熱媒体循環路の衣服における配置も電子冷房衣服におけると同じである。熱媒体循環路中にポンプを配することも電子冷房衣服におけると同じである。
【0048】
熱媒体循環路中のより低温の熱媒体はより下方に集まる。したがって、人が立った姿勢においては、衣服の首まわり、襟(衿)、または脇下部の付近に配置されるペルチェ素子の吸熱面の付近の低温の熱媒体は、下方の身ごろ方向に流れるので若干の自然循環が熱媒体循環路中の熱媒体には生じる。しかしながら、熱媒体の循環をより良好なものとし、人の姿勢に応じない確実な熱媒体の循環を促進するために、ポンプは強制的に熱媒体を熱媒体循環路中で循環させる。
【0049】
吸熱面に熱結合されている熱媒体循環路の部分に向かって流れる熱媒体の温度が高ければ高い程、吸熱面に与える熱量が大きいので、暖房の効果は大きくなる。よって、熱媒体循環路の外部面に吸熱フィンを配すると熱の取り込み効果はより良好となり、暖房の効果はより大きくなる。冷房時における放熱フィンは暖房時には吸熱フィンとして機能する。
【0050】
次に、熱媒体循環路の電池からの電力をペルチェ素子およびポンプに送電する機能について説明をする。
【0051】
熱媒体循環路は電池からの電力をペルチェ素子およびポンプに送電するための可撓導電材の第1電極と第2電極とを有している。すなわち、本実施形態の熱媒体循環路には上述した可撓熱伝導材で形成されているという、可撓性の条件と熱伝導の条件に、さらに、電気伝導の条件が加重される。以下では可撓性の条件と熱伝導の条件を既に満たしているという前提で、送電の観点から導入される新たな部材である電極の条件に絞って説明をする。
【0052】
第1電極、第2電極は、相互に絶縁された構造としなければならない。変温素子(ペルチェ素子)、および、ポンプに電力を供給するためには、少なくとも、+電極(正電極)と-電極(負電極)とが必要だからである。
【0053】
熱媒体循環路の外部面に相互に絶縁された第1電極と第2電極とを形成する実施形態としては、種々の方法によるものが可能である。例えば、熱媒体循環路は可撓導電材(可撓材かつ導電材、例えば、銅泊、アルミ箔等のパイプ)で形成される可撓導電材部と可撓非導電材で形成される可撓非導電材部(可撓材かつ非導電材、例えば、シリコーンゴムのパイプ)とを有する。第1電極は第1可撓導電材部であり、第2電極は第2可撓導電材部である。第1可撓導電材部の一端と第2可撓導電材部の一端との間に第1可撓非導電材部を連結し、第1可撓導電材部の他端と第2可撓導電材部の他端との間に第2可撓非導電材を連結する。このようにして、熱媒体が漏れることがないドーナツ形状の熱媒体循環路を形成するとともに第1可撓非導電材部と第2可撓非導電材とによって第1電極と第2電極とを相互に絶縁する(
図9(b)を参照)。
【0054】
また、第1電極、第2電極の別の実施形態としては、熱媒体循環路は可撓非導電材(可撓材かつ非導電材)で形成され、第1電極は熱媒体循環路の外部面に第1可塑導電箔材(可撓性を有する薄い導電性の箔材:銅箔、アルミ箔等)を貼って形成され、第2電極は前記熱媒体循環路の外部面に第2可塑導電箔材を貼って形成される(
図9(a)を参照)。後に説明する実施例ではこの方法についてより詳細に説明する。
【0055】
また、第1電極、第2電極のさらに別の実施形態としては、熱媒体循環路は可撓非導電材(可撓材かつ非導電材)で形成され、第1電極は、熱媒体循環路の外部面の第1メッキ部(導電材のメッキを施した部分)または第1導電塗料部(導電性を有する塗料を塗布した部分)によって形成され、第2電極は、熱媒体循環路の外部面の第2メッキ部または第2導電塗料部によって形成される(
図9(c)を参照)。
【0056】
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)に記載される熱媒体循環路は、以下の共通する特徴を有している。すなわち、熱媒体循環路は、筒形状の可撓熱伝導材で形成され、筒形状の空間内部に循環する熱媒体を密閉保持するとともに電池からの電力をペルチェ素子およびポンプに送電するための可撓導電材の第1電極と第2電極とを有する。
【0057】
熱交換器としての機能を発揮するためには、第1実施形態、後述する第2実施形態において用いられる熱媒体循環路は筒形状の可撓熱伝導材(可撓材かつ熱伝導材)で形成されるのが最も望ましい。しかしながら、熱媒体循環路の一部が可撓非熱伝導材(可撓材かつ非熱伝導材)で形成される場合には、可撓非熱伝導材の部分は熱交換機能を発揮しないだけである。熱媒体循環路のそれ以外の部分が熱交換機能を発揮するので重大な問題とはならない。さらに、例えば、ポンプ部は動く機構部であるという性質上、可撓非熱伝導材(非可撓材かつ非熱伝導材)で形成されるポンプで熱媒体循環路の一部を形成してもよい。
【0058】
熱媒体循環路と衣服との固着方法は、衣服の首まわり、襟(衿)、または脇下部、前身ごろ、または、後ろ身ごろに糸を用いて、熱媒体循環路を固着してもよく、面ファスナを用いて熱媒体循環路と衣服の首まわり、襟(衿)、または脇下部、前身ごろ、または、後ろ身ごろに、熱媒体循環路を固着してもよい。
【0059】
周知の面ファスナは、小さなループが並んだル−プ面と細かいカギ状になっているフック面の2枚1組で使うものである。例えば、熱媒体循環路にフック面を配し、衣服面にループ面を配し、2つの面を強く押し当てると、カギ状の部分がループ状の部分に引っかかり、両者が固着される。
【0060】
電池およびポンプは、身体と衣服との間に余裕がある部分である、前身ごろ、または、後ろ身ごろの下部に吸熱フィンまたは放熱フィンを配することができる。例えば、前身ごろ、または、後ろ身ごろの比較的下部に1個または複数個の収納ポケットを設け、この収納ポケットの内部に電池、ポンプを保持することができる。さらに、熱媒体循環路に熱結合されている放熱フィンも前身ごろ、または、後ろ身ごろの比較的下部の収納ポケットの内部に保持するようにしてもよい。
【0061】
ポンプは、吸引口と吐出口とを有する密閉箱と、その密閉箱の内部に配される流体移動装置(例えば、ピストンまたはファン)と、流体移動装置を駆動するために密閉箱の外部に配される電動機で構成される。ポンプの吸引口は熱媒体循環路の筒形状をした一端に熱媒体が漏れないように結合され、ポンプの吐出口は熱媒体循環路の筒形状をした他端に熱媒体が漏れないように結合されている。ポンプは熱媒体循環路に熱媒体を循環させる機能を有し、ドーナツ形状の熱媒体循環路の一部としても機能する。本実施形態においては、熱媒体循環路を流れる熱媒体の方向は、作用に影響を与えない。また、同一部分が熱媒体の流れる方向に応じて吸引口にも吐出口にもなる。
【0062】
流体移動装置を駆動する電動機の電力は、熱媒体循環路の外部に配される第1電極と第2電極から供給される。この電力供給源は電池であり、電池が発生する電力は、第1電極と第2電極を介してポンプのみならず、変温素子にも供給される。第1電極と第2電極を介して変温素子に供給される電流の向きを切り換えることにより、冷暖房衣服は冷房衣服、または、暖房衣服のいずれかとして機能する。
【0063】
「第2実施形態の概要」
本実施形態の衣服に着脱可能な電子冷暖房装置は、太い血管を覆う皮膚に当接可能とする変温素子と、変温素子の皮膚に当接可能とされる面の反対側の面に熱結合する熱媒体循環路と、熱媒体循環路の一部となり熱媒体を循環させるポンプと、ポンプおよび変温素子に電力を供給する電池と、を具備する。
【0064】
本実施形態の衣服に着脱可能な電子冷暖房装置においては、熱媒体循環路は、筒形状の可撓熱伝導材を有して形成され、筒形状の空間内部に循環する熱媒体を密閉保持するとともに電池からの電力を変温素子およびポンプに送電するための可撓導電材の第1電極と第2電極とを有する。
【0065】
第1実施形態と第2実施形態とは、以下の新規なる技術的特徴が共通する。(1)変温素子の皮膚に当接可能とされる面の反対側の面に熱結合する熱媒体循環路と、熱媒体循環路の一部となり熱媒体を循環させるポンプと、ポンプおよび変温素子に電力を供給する電池と、を有する点。(2)熱媒体循環路は、筒形状の可撓熱伝導材を有して形成され、筒形状の空間内部に循環する熱媒体を密閉保持するとともに電池からの電力を変温素子およびポンプに送電するための可撓導電材の第1電極と第2電極とを有する点。
【0066】
第2実施形態と第1実施形態との構成の実質的な異なりは、第1実施形態においては第2実施形態の電子冷暖房装置が衣服に固着されているのに対して、第2実施形態においては、電子冷暖房装置は衣服に着脱可能とされている点である。第2実施形態の衣服に着脱可能な電子冷暖房装置の要部は第1実施形態の電子冷暖房衣服の要部と共通するので、第2実施形態の概要の説明は省略する。
【0067】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。
【0068】
(第1実施形態の第1実施例)
図1は、第1実施形態の電子冷暖房衣服を模式的に示す図である。以下、
図1を参照して第1実施形の実施例について説明をする。
【0069】
図1は、人体(
図1の破線部)と電子冷暖房衣服20(
図1の一点鎖線)との関係を模式的に示す。電子冷暖房衣服20は、シャツ、セータ、コート等の衣類に冷暖房のための種々の部材を配するものである。電子冷暖房衣服20は、冬用コート、レインコート、アンダーシャツ、背広、ジャケット、ウインドウブレーカー、ブレザーコート、作業着、ユニフォーム等の人体の少なくとも上半身を覆う衣類はすべて実施例の段冷房衣服として機能させることができる。
【0070】
周知の衣服のタイプとして、前見ごろが、ボタン穴を有する上前身ごろとボタンを有する下前身ごろとを有するものがある。ボタンを穴に通さないことによって固着されていない状態と、ボタンを穴に通すことによって上前身ごろと下前身ごろとが固着されている状態との2つの状態を取り得るタイプ(第1タイプ)である。また、別のタイプのものとして、前見ごろが、ジッパーを閉じていない状態では左右に分かれており、ジッパーを閉じている状態では左右に分かれていない状態を取り得るタイプ(第2タイプ)のものがある。このような第1タイプ、または、第2タイプの衣服においては、前身ごろを2つの部分に分けて人体の上半身に着用することは周知である。また、着用後に人体の上半身に衣類をフィットさせておくために前身ごろの2つの部分を固着した状態に保つことも周知である。
【0071】
上述した、第1タイプ、または、第2タイプの衣服を
図1に示すような電子冷暖房衣服20として採用するに際しては、前身ごろ22に熱媒体循環路34を配することは困難である。その理由は、前身ごろ22を2つの部分に分ける第1タイプ、第2タイプにおいては、熱媒体循環路34は閉路として形成される熱媒体の流路であるところから2つの部分に分けることが困難であることに基づいている。よって、第1タイプ、または、第2タイプの衣服を
図1に示すような電子冷暖房衣服20として採用するに際しては、後ろ身ごろ23に熱媒体循環路34を配することになる。
【0072】
衣服のさらに別の周知のタイプとして、頭からすっぽりかぶって着用し、脱衣する際には着用とは逆に頭から順に脱ぐ、周知のタイプ(第3タイプ)のものがある。第3タイプの衣服を
図1に示すような電子冷暖房衣服20として採用するに際しては、前身ごろ22、後ろ身ごろ23のいずれにも熱媒体循環路34を配することが可能である。さらに、第3タイプの衣服においては、前身ごろ、後ろみごろの両方に跨る領域にも熱媒体循環路34を配することが可能である。
【0073】
さらに、別のタイプ(第4のタイプ)として、前身ごろは、ボタン、ジッパーを配しない平坦な面として、後ろ身ごろにジッパーを配して着脱可能とした競技用の衣服が周知である。同様に後ろ身ごろを開閉して着脱する衣類としては、公式パーティで女性が着用するホーマルウエアであるドレスが周知の衣類である。このような後ろ身ごろを開閉して着脱する第4タイプの衣類を電子冷暖房衣服20として採用するに際しては、前身ごろ22に熱媒体循環路34を配することが可能である。
【0074】
本実施形態では変温素子の一実施形態であるペルチェ素子31を衣服の首まわり(襟、衿も含む)に配するが、衣服の首まわりには種々のタイプがある。ハイネックと称される首まわりは、首にそって高く立っており、身ごろから続き、折り返しのないものである。タートルネックと称される首まわりは、首まわりの部分を折り返して着用するものである。ボトルネックと称されるものは、ハイネックよりも低めに立ち上がった首まわりであり、人体の首の下部のみを覆うようにするものである。
【0075】
本実施形態においてはハイネック、タートルネック、ボトルネックはペルチェ素子31を取りつけるに好適な場所である。例えば、先に引用した特許文献3(特開2013-248293号公報)の
図1に記載のように、ペルチェ素子を人体の首に直接取り付ける場合と比較すると以下の利点がある。ペルチェ素子を人体の首に直接取り付けると、ファッション性を阻害して、着脱も面倒である。しかしながら、本実施形態の
図1に示す電子冷暖房衣服20のハイネック、タートルネック、ボトルネック等の首まわり21に、熱媒体循環路34に当接するペルチェ素子31を配すれば、ペルチェ素子31の機能を最大限に発揮できるとともに、衣服そのもののファッション性を阻害することはない。また、電子冷暖房衣服20の着脱は、通常の衣服の着脱と同様に行なえるので電子装置を着用しているとの違和感がない。
【0076】
先に引用した特許文献2(特開2010-82427号公報)には、ペルチェ素子を人体に直接に取り付けることが記載され、「首の後ろ側には、体温調整を司る動静脈吻合血管(AVA)のスイッチがあると言われている。前記首の後ろを冷暖房することは、前記動静脈吻合血管(AVA)を開閉し、血液循環による冷暖房効果を高めることができる。」と記載されている。本実施形態の電子冷暖房衣服20のハイネック、タートルネック、ボトルネック等の首まわり21に、熱媒体循環路34の上のペルチェ素子31を配するようにすれば、「首の後ろ側」にもペルチェ素子を当接して特許文献2に記載の効果を得ることができる。
【0077】
本実施形態において、冷暖房衣服20として和服を採用する場合には、一般的に、前身ごろは左右に分かれるようになっており、人体の後ろ首に当接する衿の部分が存在する。よって、後ろ首に当接する衿の部分が変温素子31を取りつけるに最適な場所である。
【0078】
また、人体の後ろ首を衿に当接させないような、女性の和服の着用の方法が周知である。このような場合には、和服の衿の後ろ首に対応する部分ではなく、首を通る太い血管のなるべく近くの皮膚に接する衿の部分がペルチェ素子31を取りつけるに好適な場所である。
【0079】
以上のように、衣服と冷暖房に関わる構成部が一体化した冷暖房衣服20は、非常に広い範囲の周知の衣服に適用可能である。また、特許文献2、特許文献3に記載されるように直接に人体にペルチェ素子31を取り付けるのではなく、本実施例ではペルチェ素子31を衣服に取付けて、衣服とともにペルチェ素子31を人体10に当接する構成を採用するために、衣服と連結される部材を適宜に配して、この部材にペルチェ素子31を取り付け、人体10の所望の場所にペルチェ素子31が当接するようにもできる。例えば、
図1には図示しないが、体の内部を循環する血液を通す血管が皮膚の近くを通っている脇下部にもペルチェ素子31が当接するようにもできる。
【0080】
また、人体10とペルチェ素子31との間に柔らかい熱伝導性のクッションを衣服で隠しながら配することができるので、人体に対する負担(違和感、かぶれの発生)を除去することができる。また、人体10の広い部分を衣服で支え、覆い尽くすことができるので、冷暖房に関わる部材の重みが首だけに加わることなく、肩やその他の部位に分散でき、重量負担を低減することができる。さらに、冷暖房に関する各部材を衣服の部材で覆い、または、衣服に自然に溶け込ませることによって、目立たなくすることで、異物を装着していることが、特許文献1〜特許文献3の各図に記載のように目立たず、奇異な印象を他人に与え、他人から注視されるという着用者の精神的な負担を無くすことができる。
【0081】
図1は、首まわりまたは襟(衿)にペルチェ素子31を取り付ける場合についての図であるが、脇下部にペルチェ素子31を取り付ける場合には、ペルチェ素子の位置を衣服の脇下部に配置することによって同様に実施可能である。
【0082】
図1を参照して熱媒体を循環する熱媒体循環路34の機能について説明をする。電子冷暖房衣服20が電子冷房衣服として機能するときには、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面が吸熱するように、ペルチェ素子31には所定方向の電流が流される。例えば、電池35の正極を第1電極32に接続し、電池35の負極を第2電極33に接続してペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面が吸熱するようにする。すなわち、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面は吸熱面として機能する。
【0083】
熱媒体循環路34には、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面の反対面が熱結合されている。すなわち、熱媒体循環路34は、ペルチェ素子31の与熱面で発生する熱が皮膚に当接可能とされる吸熱面に伝達されないようにする熱遮断機能を有する。熱遮断効果を高くするためには、ペルチェ素子31の与熱面で発生する熱をペルチェ素子31の吸熱面に移動させるのではなく、熱媒体循環路34に効率的に移動させなければならない。熱は高温側から低温側に拡散するので、ペルチェ素子31の与熱面(高温側)と、これに熱結合する部分の熱媒体循環路34の温度(低温側)の温度差が大きい程、ペルチェ素子31の与熱面からの熱は熱媒体循環路34により多く移動して、上述したペルチェ素子31の両方の面間の熱遮断機能は高められ吸熱面の温度は低く維持され、皮膚、ひいては血管に対する吸熱効果も高かまる。
【0084】
そこで、与熱面に熱結合される熱媒体循環路34の部分から熱を速やかに効率的に移動させるのがポンプ341の機能である。ポンプ341は流体である熱媒体を移動させる流体移動装置341bと、流体移動装置341bを駆動する電動機341aとで構成される。
図1に示すポンプ341は、流体移動装置341bとしてファンを用いファンを電動機341aによって回転させることによって熱媒体を熱媒体循環路34の中で一方向に流して循環させている。
【0085】
ポンプ341は熱媒体循環路34の一部を構成している。
図1に示すように、ポンプ341の一端(例えば吸入口)は、筒形状の熱媒体循環路34の一端に挿入されて流体が漏れることがないように接着剤で固着されている。同様にポンプ341の他端(例えば吐出口)は、筒形状の熱媒体循環路34の他端に挿入されて流体が漏れることがないように接着剤で固着されている。
【0086】
ポンプ341の別の構成としては、図示はしないが、ファンに替えて弁を有するピストンを用い、ピストンを電動機341aによって往復運動させ、弁の作用によって熱媒体を熱媒体循環路34の中で一方向に流して循環させるようにしてもよい。
【0087】
ペルチェ素子31の与熱面で発生する熱によって温度が上昇した熱媒体は、熱媒体循環路34をポンプの作用によって循環している間に放熱して、再び、ペルチェ素子31の与熱面に熱結合する部分に到達するときには温度は低下している。よって、再び、ペルチェ素子31の与熱面で発生する熱によって熱媒体の温度を上昇させる動作を繰り返し行わせることができる。このようにして、熱遮断機能は高められ吸熱面の温度は低く維持され、皮膚に対する吸熱効果が高かくされる。ここで、熱媒体循環路34は筒形状の可撓熱伝導材で形成されているので、熱媒体循環路34の中の熱媒体と熱媒体循環路34の外部の空間(身体の存在する環境)との間で熱の移動が生じ、熱媒体循環路34が熱交換器(ラジエータ)としても機能する。
【0088】
なお、熱媒体循環路34の厚さは、外部の空間に伝わる熱量と関係する。例えば、熱媒体循環路34の熱伝導度が小さい場合でも熱が移動する方向の距離が短い(熱媒体循環路34の厚さが薄い)場合には、熱媒体と外部の空間との間を移動する熱量は大きい。一方、熱媒体循環路34の熱伝導度が大きい場合には、熱媒体循環路34の厚さが厚いときにも熱媒体の熱は熱媒体循環路34の中の広い範囲に拡散し、熱媒体循環路34と外部の空間との間を移動する熱量は大きい。よって、熱媒体循環路34を形成する素材の熱伝導度と素材の強度に応じて適宜に熱媒体循環路34の厚さ(筒形状の部材の断面の厚さ)を定めることができる。
【0089】
本実施例においては、熱媒体としては、取扱いが容易な流体である水を使用している。寒冷地においては、熱媒体の凍結を防止するために、水に替えてクーラントを使用している。熱媒体循環路34の中を流れる熱媒体の循環方向は
図1において右回りでも左回りでもよい。すなわち、第1電極、第2電極に対する電池35の極性を変えても熱媒体循環路34の中を流れる熱媒体の奏する効果に差違はない。第1電極、第2電極に対する電池35の極性を変えることによってポンプ341の吸入口と吐出口とは入れ替わる。
【0090】
熱媒体循環路34の筒形状の外部面は電池35からの電力を変温素子(ペルチェ素子)31およびポンプ341の電動機341aに伝送するための導電性の第1電極32と第2電極とを有している。
【0091】
第1電極32、第2電極33の実施例としては、可撓性絶縁材で形成される熱媒体循環路34の筒形状の外部面に、相互に絶縁された2枚の可撓性を有する薄い導電性の箔材(銅箔、アルミ箔等)を貼るものである。実施例においては、シリコーンゴムで形成される熱媒体循環路34の外部面に、10μm(マイクロ・メータ)〜100μmの厚さの銅箔を熱媒体循環路34に接着剤で貼って第1電極32、第2電極33としている(
図9(a)を参照)。
【0092】
本実施例の冷暖房衣服20においては、一般的なエアコンと違って空気を介さないで直接に身体を冷暖房するので冷暖房の効率は極めて高い。ペルチェ素子31と電動機341aとに伝送される伝送電力の合計は、冷房時で20W(ワット)程度、暖房時で10W程度である。実施例では、電池35の電圧が12V(ボルト)であるので、第1電極32、第2電極33の各々に、冷房時には1.7A(アンペア)程度、暖房時には0.85A程度の電流が流れる。
【0093】
電子冷暖房衣服20を電子暖房衣服として機能させるときには、電池35の負極を第1電極32に接続し、電池35の正極を第2電極33に接続してペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面が与熱するようにする。すなわち、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面は与熱面として機能する。
図1には図示しない、極性の切替スイッチを用いて容易に電池35の極性の切替えをおこなうことができるので、電子冷暖房衣服20は、電子暖房衣服と電子冷房衣服とを兼用できる。ここで、切替スイッチを切り換えることにより、熱媒体循環路34を流れる熱媒体の循環方向は反転するが、熱媒体の循環方向の差違は上述したように暖房効果に影響を与えない。
【0094】
熱媒体循環路34と外部環境との間の熱交換は、衣服の外部面を用いておこなうのが望ましい。このために、ペルチェ素子31のみを衣服の内面側に取り付け、衣服の内面側と外面側とに通じる孔部を設け、熱媒体循環路34の多くの部分および電池35、ポンプ341等を衣服の外部に配するようにしてもよい(
図7を参照)。しかしながら、熱媒体循環路34を衣服の内部に配しても課題解決の目的は達せられる(
図6を参照)。その理由は、ペルチェ素子31を脳と繋がる太い血管の近くに配置するのは、生命維持の目的のために、深部温度を適切に保つためであり、深部温度を適切に保つ結果として、人間の感覚も快適感を感じることとなる。それ故に、深部体温の適切な管理が優先され、熱媒体循環路34によって人体の皮膚の表層部の温度が僅かに、上昇、下降したとしても大きな影響を与えないからである。
【0095】
上述したように電子冷暖房衣服20が電子暖房衣服として機能するときには、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面が与熱面として機能する。一方、熱媒体循環路34には、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面の反対面が吸熱面となる。そして、ペルチェ素子の吸熱面と与熱面とを熱遮断して暖房効率を向上させるために、ペルチェ素子の吸熱面が熱媒体循環路34に熱結合されている。
【0096】
ペルチェ素子の吸熱面が熱媒体循環路34に熱結合されているので、ペルチェ素子の吸熱面に熱媒体の熱が移動する。すなわち、熱媒体循環路34は、皮膚に当接可能とされるペルチェ素子31の発熱面で発生する熱がペルチェ素子31の吸熱面に移動しないようにする熱遮断機能を有する。このようにして、ペルチェ素子の発熱面からペルチェ素子の吸熱面への熱移動は妨げられペルチェ素子の発熱面の温度は高く維持され、皮膚、ひいては血管に対する暖房効果が高かくされる。
【0097】
(第1実施形態の第2実施例)
図2は、第2実施例の電子冷暖房衣服201を模式的に示す図である。
図3は電子冷暖房衣服201に配される電子部材の相互の関係を示すブロック図である。以下、
図2、
図3を参照して第2実施例について説明をする。
【0098】
第2実施例の電子冷暖房衣服201は、第1実施例の電子冷暖房衣服20に種々の構成部を追加してより高機能化したものである。電子冷暖房衣服201において、電子冷暖房衣服20における構成部と同一の作用・効果を生じる構成部には同一の符号を付して説明を省略する。
【0099】
電子冷暖房衣服201は、独立した電極である第1電極431、第3電極433、第5電極435を備える。第1電極431、第3電極433、第5電極435は第1実施例における第1電極32を3分割したものである。また、電子冷暖房衣服201は、独立した電極である第2電極432、第4電極434、第6電極436を備える。第2電極432、第4電極434、第6電極436は第1実施例における第2電極33を3分割したものである。
【0100】
また、電子冷暖房衣服201は、電子冷暖房衣服20にはない、変温素子制御部41、電動機制御回路42を備える。変温素子制御部41は電池35と変温素子(ペルチェ素子)31との間に介在する。電動機制御回路42は電池35とポンプ341の電動機341aとの間に介在する。
【0101】
また、電子冷暖房衣服201は、電子冷暖房衣服20にはない、各種センサである、体温センサ511、脈波センサ512、発汗センサ513を備える。体温センサ511は人体の皮膚表面の温度である体温Tbを検出する体温計と称される周知のセンサである。脈波センサ512は血液が流れる血管の脈波Wbを検出する周知のセンサである。発汗センサ513は皮膚から出る汗の量Apを検出する周知のセンサである。体温Tb、脈波Wb、汗の量Ap、等は、バイタルサインと総称される。なお、各センサは、内部に超小型電池(例えば、耳あな型補聴器用の超小型ボタン電池)によって自律して働くようにされ、電子冷暖房衣服201の所望の位置に面ファスナ、糸、ポケットまたはクリップで固着可能とされる。
【0102】
バイタルサインとは、医学・医療用語であり、「vital:バイタル」は「生きている」、「sign:サイン」は「兆候」という意味である。すなわち、バイタルサインとは人間が生きている状態であるということを示す兆候(生命兆候)を意味する。バイタルサインと言われているものは例えば以下のものである。*心臓が拍動している。*血圧が一定値以上に保たれている。*呼吸をしている。*体温を維持している。*排尿・排便をしている。*意識状態に応じて反応する。*脳波が特定パターンを示す。バイタルサインとしてどのようなものを採用するかは、解決しようとする課題に応じて適宜に選択できるものである。
【0103】
なお、脈波Wbは、周知の心電図検出装置でも検出できる。呼吸は、周知の空気動圧センサで検出できる。排尿・排便については、排尿・排便の後の検出であれば、おむつの湿度を周知の湿度検出器で検出できる。意識状態に応じて応答するか否かは、周知のスピーカとマイクから成る応答システムである程度検出できる。脳波のパターンは脳波センサを含む周知の脳波計で検出できる。よって、バイタルサインの選び方、バイタルサインの検出の方法は、以上に述べたものに限られるものではなく、その検出手段は上述した検出方法に限るものではない。
【0104】
本実施形態においては、解決しようとする課題は、身体にとって過酷な外部環境下において、深部体温を適切に制御することである。より具体的には、快適な健康状態を維持することである。高齢者にとっては特に危険な症状である、低体温症の予防、熱中症の予防をすることである。このような解決課題と、発明者らの研究の成果を踏まえて、第2実施例ではバイタルサインを検出するために、上述の体温センサ511、脈波センサ512、発汗センサ513の3種類のセンサを採用し、それに加えて、外部環境センサとして外気温を検出する外気温度計54、冷暖房の制御のための熱媒体温度計55を採用した。これらの5種類のセンサを用いてペルチェ素子31の制御、システム全体の制御をどのようにするかについては後述する。
【0105】
第1実施例にはない第2実施例の構成部である、変温素子制御部41と電動機制御回路42の作用について
図3を参照して以下に説明をする。
【0106】
変温素子制御部41は、変温素子であるペルチェ素子31を制御する機能を有する。変温素子制御部41は、演算器411とペルチェ素子電力制御器412と送受信号IF(送受信インターフェィス)413とを有している。演算器411は、各センサからのセンサ情報を予め定めた処理手順に従って処理・演算をして、その演算結果であるペルチェ素子制御信号Spをペルチェ素子電力制御器412に対して出力する。ペルチェ素子電力制御器412は、ペルチェ素子31を駆動する電力増幅器である。
【0107】
まず、変温素子制御部41のペルチェ素子電力制御器412について説明をする。次に、同様に電力増幅器である、ポンプ341の電動機341aを駆動する電動機制御回路42について説明する。その後、変温素子制御部41の演算器411について説明をする。
【0108】
変温素子制御部41は第1実施形態におけるように単にペルチェ素子の電流方向をスイッチで切替えるだけではなく、上述した4つのセンサからのセンサ情報に基づくペルチェ素子制御信号Spに応じてペルチェ素子に流れる電流の大きさも制御する。よって、ペルチェ素子電力制御器412は電力素子(MOSFET等)で構成される。ペルチェ素子電力制御器412は、電力損失を最小化し、小型化をするために周知のフルブリッジPWM(Pulse Width Modulation)回路で構成される正・負の両極性のアナログ電圧を発生する降圧型DC―DCコンバータである。なお、降圧型DC―DCコンバータの出力側にはLC(インダクタンスとキャパシタンス)で構成されるローパスフィルタが接続されてPWM信号はアナログ信号に変換される。第2実施例における電力制御回路はすべて、PWM方式を採用するので省電力、小型化のみならず、薄型化できるので衣服の外面、内面に美観を損なう程に飛び出すことはなく、着用したときの違和感も最少にできる。
【0109】
電池35の正極、負極の各々が接続される第1電極431、第2電極432はペルチェ素子電力制御器412の降圧型DC―DCコンバータの入力側に接続される。ペルチェ素子電力制御器412の出力側である、降圧型DC―DCコンバータのローパスフィルタの出力側は第3電極433、第4電極434に接続され、第3電極433、第4電極434に接続されるペルチェ素子31を駆動する。
【0110】
電動機制御回路42について説明をする。電動機制御回路42の電動機電力制御器421は、電動機341aがインダクションモータ等の交流(AC)電動機である場合には、周知のフルブリッジPWM(Pulse Width Modulation)回路で構成されるインバータとして構成される。また、電動機341aが3相交流で駆動される同期機である場合には、電動機制御回路42から出力される、
図2には図示しない3本の電極を同期機に接続して駆動する。
【0111】
電動機341aが直流(DC)電動機である場合には、電動機電力制御器421は周知のフルブリッジPWM回路、またはハーフブリッジPWM回路で構成される、降圧型DC―DCコンバータまたは昇降圧型DC―DCコンバータである。DC―DCコンバータの出力側は第5電極435、第6電極436に接続され、第5電極435、第6電極436に接続される電動機341aを駆動する。直流(DC)で働く電動機341aの回転方向の切り替えは第2実施例においては必要ではないので、降圧型DC―DCコンバータまたは昇降圧型DC―DCコンバータから出力される電動機駆動電圧の極性を切り換える必要はない。また、電動機341aはインバータで駆動される交流(AC)電動機であってもよい。
【0112】
電動機制御回路42は、変温素子制御部41から無線で送信される電動機制御信号Sdを受信する送受信号IF422を備えているので、変温素子制御部41で処理・演算された電動機制御信号Sdを受け取ることができる。なお、各センサからのセンサ情報を電動機制御回路42において処理・演算して電動機制御信号Sdを生成してもよいが、変温素子制御部41が電子冷暖房衣服201のすべての電子機器の制御の主役とし全体の動作の整合を図るためにこのような構成としている。
【0113】
変温素子制御部41の演算器411について説明をする。演算器411には各センサから無線で送られるセンサ情報を送受信号IF413で受信して検出する。送受信号IF413は、電動機制御回路42を制御する電動機制御信号Sdを送信する機能を有し、インターネットに接続する機能も有する。
【0114】
無線方式でセンサ情報を送受するので、各センサの配置の場所は限定されず、所望の情報を集めるのに最適な場所を選ぶことができる。例えば、脈波センサ512は首の太い血管に近いところ、心臓に近いところ、腕時計のベルトと皮膚の間等に配置してもよい。発汗センサ513は首に近いところ、発汗しやすい肌の部分に近いところ等に配置してもよい。体温センサ511は、首に近いところ、腋の内側周辺に張り付けて配置してもよい。外気温度計54は、電子冷暖房衣服201の外部環境に面する場所であって熱媒体循環路34から離れた位置に配置してもよい。熱媒体温度計55は熱媒体循環路34の近くに配置するのが望ましい。
【0115】
演算器411は主要構成部であるMPU(Micro Processing Unit)を中心に構成される。演算器411においては、5つのセンサからの情報を演算処理してペルチェ素子制御信号Spを発生させる。ペルチェ素子制御信号Spは、ペルチェ素子電力制御器412に入力される。また、演算器411においては、5つのセンサからの情報を演算処理して電動機制御信号Sdを発生させる。上述したように電動機制御信号Sdは電動機電力制御器421に入力される。例えば、ペルチェ素子制御信号Spが大きい場合には、ペルチェ素子31と熱媒体との間の熱の移動量は多くなる。このような場合には、熱媒体の移動速度を上げて単位時間当たりの熱の移動量が大きくしなければ、ペルチェ素子31の効率は低下してしまう。ここで、ペルチェ素子制御信号Spが大きい場合には電動機制御信号Sdも大きくなるようにして電動機341aの回転数を大きくすれば、ペルチェ素子31の効率の低下を防ぐことができる。反対にペルチェ素子制御信号Spが小さい場合には電動機制御信号Sdも小さくなるようにして電動機341aの回転数を小さくすれば、電池35から放電する無駄な電力を抑えることができる。
【0116】
第2実施例においては、熱媒体循環路34の外面に密着して熱媒体温度計55を配している。熱媒体循環路34と熱媒体温度計55との間の熱伝導度が大きい場合には、熱媒体温度計55で検出する熱媒体温Tnと熱媒体温度計55の直下を流れる熱伝導媒体の温度との差は少なく、熱媒体温Tnの検出精度は高い。よって、熱媒体温Tnは熱媒体温度計55の直下を流れる熱伝導媒体の温度とみなすことができる。熱媒体温Tnと外気温Toの差の絶対値が、小さければ熱媒体が良好に働いていることになり、大きければ熱媒体の働きが悪いこととなる。よって、熱媒体温Tnと外気温Toの差の絶対値に応じて電動機制御信号Sdの大きさを変えれば効率的な電動機341aの回転数の制御ができる。すなわち、熱媒体温Tnと外気温Toの差の絶対値が大きい場合には電動機341aの回転数を上げて熱媒体の流速を上げて熱媒体温Tnと外気温Toの差の絶対値を小さくし、熱媒体による熱の移動量を増進させる。その逆の場合には電動機341aの回転数を下げて無駄な電力の消費を防止することができる。
【0117】
変温素子制御部41の演算器411でおこなう処理・演算について説明をする。
【0118】
例えば、演算器411でおこなう最も簡単な処理・演算は、外気温度計54で検出する環境の温度が所定の温度よりも高いときには、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面を吸熱面とするような一定値のペルチェ素子制御信号Spを出力することであり、外気温度計54で検出する環境の温度が所定の温度よりも低いときには、ペルチェ素子31の皮膚に当接可能とされる面を発熱面とするような一定値のペルチェ素子制御信号Spを出力することである。この方法の変形として、外気温度計54で検出する環境の温度と所定の温度との差に応じて、絶対値が変化するペルチェ素子制御信号Spを出力するようにしてもよい。このような制御則は、ペルチェ素子31の人体の及ぼす効果を全く考慮に入れないフィードフォワード制御であり、人体に対する冷房、暖房の効果に関しては大きな個人差が生じる。
【0119】
フィードフォワード制御の欠点を改善するものとして、例えば、体温センサ511から検出される体温Tbを所定の値とするようなフィードバック制御もある。体温Tbを所定の値とする人工的なフィードバック制御系と、人体が本来有する恒常性機能を発揮するための生体システムのフードバック制御系と、が競合してうまく体温調整ができないことが特許文献3(特開2013-248293号公報)には記載されている。すなわち、バイタルサインの一つである身体表面の皮膚で検出する体温Tbのみを使った制御では不十分であると記載されている。
【0120】
そこで、第2実施例の電子冷暖房衣服201においては、特許文献3に記載の以下のようなペルチェ素子31を用いる体温調整方法を採用している。
【0121】
演算器411は、時系列情報である脈波Wbから所定時間毎の心拍数を求め、周知のFFT演算(高速フーリエ変換演算)をして心拍数の周波数成分を求める。0.2Hzより高い周波数帯の成分の積分によって副交感神経の活動に関係する値HFを検出し、0.04〜0.2Hzの帯域の成分の積分によって交感神経の活動に関係する値LFを検出し、0.04未満の周波数帯の成分の積分によって体温調節に係る交換神経の活動に関係する値VLFを検出する。演算器411は、外気温Toが予め定める所定値より高ければ、皮膚に当接可能とされるペルチェ素子31の面が吸熱面となるように、外気温Toが予め定める所定値より低ければ、皮膚に当接可能とされるペルチェ素子31の面が発熱面となるように、ペルチェ素子制御信号Spの極性を定めて、値VLFまたは汗の量Apに応じてペルチェ素子制御信号Spの絶対値を定める。
【0122】
図4は第1実施形態の第1実施例、第2実施例における電極の変形例である。
図4に示すように、熱媒体循環路34の外面に配される熱伝導性の電極の表面積を増加させて、吸熱フィン、または、放熱フィン(以下、吸熱・放熱フィンと称する)として機能させて放熱効果をより高くしてもよい。
図4(a1)は、電極の平面図であり、
図4(a2)は電極の断面図である。電極の表面には円錐形状の突起が配され、外部の空気と触れる表面積を増大している。電子部材(
図4の破線で示す)と接続する部分は接触抵抗を小さくするために円錐状の突起は配されていない。
図4(b1)、
図4(b2)は別の電極の例である。
図4(b1)は、電極の平面図であり、
図4(b2)は電極の断面図である。電極の表面には線状の突起が配され、外部の空気と触れる面の表面積を増大している。電子部材と接続する部分は接触抵抗を小さくするために線状の突起は配されていない。
【0123】
図5は第1実施形態の第1実施例、第2実施例のポンプの変形例を示す図である。
図5に示すような、衣服の生地の平面と平行する方向に扁平なポンプ342を採用することができる。
図5(a)は平面図、
図5(b)は側面図である。ポンプ342は、生地の平面方向に扁平な電動機342aと、生地の平面方向に扁平な流体移動装置342bとを用いるようにするものである。扁平な電動機342aは扁平な磁石とこれに対面する扁平な巻線とを有する、周知のブラシュレス同期電動機として構成することができる。扁平な流体移動装置342bは、椀状のプロペラで形成することができる。
図5(a)に矢印で示す方向に、椀状のプロペラが回転すると熱媒体は吸入口から吐出口に向かい移動する。衣服の生地の平面と平行する方向に扁平なポンプ342を採用することによって、着用する者に違和感を与えず、衣服に不自然な凹凸を生じることがなく、第三者に対して視覚的に奇異な印象を与えない。
【0124】
図6は、第1実施形態の第2実施例の電子冷暖房衣服201の縦方向の断面図である。熱媒体循環路34を含む電子部材のすべてが電子冷暖房衣服201の内部に配されている。従って、熱媒体循環路34と電子冷暖房衣服201の内部とで熱の移動が生じ電子冷暖房衣服201の内部の温度に影響を与える。しかしながら、上述したように、ペルチェ素子31により深部温度を適切に管理できる利益に較べると、内部の温度が略均一に若干、上昇、または、下降することは許容できるものである。
【0125】
図7は、第1実施形態の第2実施例の電子冷暖房衣服202の縦方向の別の断面図である。ペルチェ素子31およびペルチェ素子31の直下の熱媒体循環路34、第3電極433および第4電極434の一部が、電子冷暖房衣服202の内部に配されている。その他の構成部はすべて電子冷暖房衣服202の外部に配されている。従って、熱媒体循環路34と電子冷暖房衣服202の内部とで熱の移動が殆ど生じない。殆どの熱は、熱媒体循環路34と外部環境との間で移動する。電子冷暖房衣服202においては、熱媒体循環路34を電子冷暖房衣服202の内部と外部とに振り分けるための開口部が電子冷暖房衣服202に配されている。
【0126】
図4に示すように電極と兼用するのではなく、図示はしないが、熱媒体循環路34に放熱、吸熱だけを目的とする周知の専用フィンを配することもできる。放熱フィンを配する場合には、前身ごろ、または、後ろ身ごろの下部に配することが望ましい。
【0127】
(第2実施形態の実施例)
図8は、第2実施形態の実施例である電子冷暖房装置30の一例を示す図である。
図8には、
図2の一点鎖線で表す衣服の部分はないが、各構成部の構成および作用は、第2実施例と同様であるので、同一の符号を付して説明は省略する。電子冷暖房装置30の熱媒体循環路34の衣服に対する面(
図2の紙面裏面側)には、面ファスナのフック面が配されている。よって、フック面を配する衣類の内側の表面に容易に固着できる。すなわち、
図6に示す固着方法を採用する場合には、一般市場に出回っているいかなる衣類にも、その衣類の内側(身体側)の表面がループ面を有する限り、電子冷暖房装置30は固着可能ある。また、電子冷暖房装置30と衣服との着脱は、周知のホック(鉤かぎと受け金が一組みになったもの、スナップとも称される)を用いてもよい。
【0128】
1個の電子冷暖房装置30を所有するだけで、通常の衣服を電子冷暖房衣服にすることができる。また、一旦、電子冷暖房衣服にした後も簡単に電子冷暖房装置30を脱着(撤去)し、通常の衣服として着用できる。また、衣服から脱着(撤去)した電子冷暖房装置30は、他の衣服に装着することができる。なお、各種バイタルセンサ等のセンサ類は適宜に電子冷暖房装置30に配し、または、身体の各所に当接するように衣服に取り付けるようにしてもよい。
【0129】
(その他の実施例1)
近年の電子技術の進化には目覚ましいものがあるが、電子暖冷房装置を構成する各構成部の高性能化、高効率化、省電力化、小型化、コストダウン等の進化速度は、構成部毎に異なる。このために、電子暖冷房装置の全体を交換するのではなく、その一部の構成部を交換してバージョン・アップを図る技術の提供が要望される。すなわち、電子冷暖房衣服の一部の構成部、または、衣服に着脱可能な電子冷暖房装置の一部の構成部を交換可能とする技術を提供することが本発明の第三の解決課題である。
【0130】
上述した第三の解決課題は以下の手段によって解決できる。第1の実施形態、第2実施形態においては、センサの一部は衣服自体に直接に装着するものの、それ以外の部材は、熱媒体循環路34に固着されている。熱媒体循環路34に固着される部材は、変温素子(ペルチェ素子)31、変温素子制御部41、電池35、電動機制御回路42、電動機341a、電動機342a、流体移動装置341b、流体移動装置342bである。熱媒体循環路34に直接に固着される部材は、流体移動装置341b、流体移動装置342bであり、その他の部材は2個、または、それ以上の個数の電極に固着されている。なお、熱媒体温度計55は熱媒体循環路34の近くに配置するが電極に固着されておらず、内部電池で動作し、無線方式で情報の送受をおこなうので交換は容易である。
【0131】
流体移動装置341b、流体移動装置342bは、一般的な機構部材が故障した場合において、本体に対して、接着剤を用いないで圧着またはネジ止めにより圧接した部材を交換するのと同様の周知の手法で交換できる。すなわち、熱媒体循環路34の本体に、熱媒体が漏れないように圧接挿入された流体移動装置341b、流体移動装置342bを本体から抜き去り、新しい流体移動装置に交換できる。
【0132】
電極に固着されている電子部品の周知の交換方法は、ネジ止めを外して交換する方法である。しかしながら、可撓性を要求される第1電極431ないし第6電極436のいずれもが薄い箔でありこの方法は採用できない。よって、以下の様な従来にない方法で交換する。
【0133】
電極に固着される部材の中で、変温素子(ペルチェ素子)31は、第3電極433と第4電極434とに固着される。変温素子制御部41は、第1電極431と第2電極432と第3電極433と第4電極434とに固着される。電池35は、第1電極431と第2電極432とに固着される。電動機制御回路42は、第1電極431と第2電極432と第5電極435と第6電極436とに固着される。電動機341a、電動機342aは、第5電極435と第6電極436とに固着される。
【0134】
まず、上述の各電子部材の入出力の端子の位置が予め定めた範囲内にあることが前提となる。すなわち、各端子の位置が、接続すべき電極の上に配置されていることが、さらなる前提となる。このような前提を満たせば、電子部材の交換は以下の様にして容易にできる。
【0135】
第1電極431ないし第6電極436の電子部品が配される側の表面を上述した面ファスナのループ面とする。ループ面とするのは、第1電極431ないし第6電極436が、衣服やごみとむやみに付くのを防止するためである。電極として機能するために、このループ面は導電性を有している。
【0136】
一方、部品側の入出力の端子は、フック面とする。電極として機能するために、このフック面は導電性を有している。すなわち、変温素子(ペルチェ素子)31、変温素子制御部41、電池35、電動機制御回路42、電動機341a、電動機342aの入出力の端子は導電性を有するフック面である。
【0137】
以上のようにして、やや強い力で各電極と各電子部品とを押圧すれば、各電極と各電子部品とを固着することができる。その後、通常の力では両者は分離することがない。各電極と各電子部品とを分離するに際しては、やや強い力で各電極と各電子部品とを引き離せば両者を分離することができる。
【0138】
また別の方法としては、衣服と電子部品とで電極を有する熱媒体循環路34を押圧する方法もある。ただし、押圧する部分は、熱媒体循環路34の一部であり熱媒体の流れを大幅に阻害しないようにする。具体的には、フック面を有するバンドで、変温素子(ペルチェ素子)31、変温素子制御部41、電池35、電動機制御回路42、電動機341a、電動機342aの各々の部品側の入出力の端子と熱媒体循環路34の電極とをループ面を有する衣服に締め付ける。この方法によれば、電子部部品の端子を特殊形状としないでもよいという利点がある。
【0139】
(その他の実施例2)
図10は、熱媒体循環路の外部面に配される電極の変形例である。
図10に示す電極は、吸熱・放熱フィンの機能を有するとともに、面ファスナとしても機能するものである。
図10(a)は、熱媒体循環路34の外部面に配される第1電極4311、第2電極4321、第3電極4331、第4電極4341、第5電極4351、第6電極4361の各々を示す平面図である。
図10(a)の破線で示す四角形は、変温素子(ペルチェ素子)31の配置場所、変温素子制御部41の配置場所、電池35の配置の場所、電動機341aの配置場所の各々を示すものである。
【0140】
第1電極4311、第2電極4321の一部の断面図を、
図10(d)、
図10(e)、
図10(f)に示す。第3電極4331、第4電極4341の断面図を、
図10(b1)、
図10(b2)、
図10(c)に示す。第5電極4351、第6電極4361の断面図を、
図10(g)、
図10(h)に示す。
【0141】
図10(a)に示すように、第1電極4311ないし第6電極4361の各々の吸熱・放熱フィンの平面形状は、直線状である。
図10(b1)ないし
図10(h)に示すように、第1電極4311ないし第6電極4361の各々の吸熱・放熱フィンの断面形状は、熱媒体循環路34の側に向かう方向に順次がすぼまり、各電子部品の側が広がる構造である。各々の吸熱・放熱フィンは直線状に伸びる方向と直交する方向にバネ力を有して撓(しな)る。すなわち、各電極は、表面に直線状に平行して並ぶフィンを有し、フィンの断面形状は、熱媒体循環路の側に向かい順次すぼまり、直線状の方向と直交する方向にバネ力を有する。
【0142】
図10(b2)に示すようにペルチェ素子31が脱着状態においては、ペルチェ素子31の第1端子、第2端子は、第1電極4311、第2電極4321に接続されていない。変温素子制御部41、電池35、電動機制御回路42、電動機341aの脱着状態は図示しないが、
図10(b2)と同様である。
【0143】
第1端子、第2端子は、ペルチェ素子31に電力を供給する端子である。
図10(c)に示す、第3端子、第4端子は、変温素子制御部41の出力側の端子である。
図10(d)に示す、第5端子、第6端子は、変温素子制御部41の入力側の端子である。
図10(e)に示す、第7端子、第8端子は、電池35の正極、負極の端子である。
図10(f)に示す、第9端子、第10端子は、電動機制御回路42の入力側の端子である。
図10(g)に示す、第11端子、第12端子は、電動機制御回路42の出力側の端子である。
図10(h)に示す、第13端子、第14端子は、電動機341aの端子である。
【0144】
図10(b1)、
図10(c)ないし
図10(h)に示すように、各電子部品の端子である、第1端子ないし第14端子の各々は、隣接する吸熱・放熱フィンの間に挿入され、バネ力によって第1電極4311ないし第6電極4361のいずれかと圧接嵌合して電気的に導通する。このような圧接嵌合の状態は、各電子部品が装着状態である。
【0145】
図10(c)、
図10(d)は、変温素子制御部41の装着状態を示す図である。
図10(e)は、電池35の装着状態を示す図である。
図10(f)、
図10(g)は、電動機制御回路42の装着状態を示す図である。
図10(h)は、電動機341aの装着状態を示す図である。
【0146】
上述したループ面とフック面とを有する面テープと同様に、このような吸熱・放熱フィンとこれに嵌合する端子とを用いることによって、ビスとナットとを用いるには薄すぎる電極に各電子部品を着脱することができる。電極に各電子部品を装着するときには両者を押圧し、電極から各電子部品を脱着(撤去)するときには両者を引き離す。
【0147】
(その他の実施例3)
第1実施形態、第2実施形態においては、図を参照してペルチェ素子によって冷暖房をする部位が頸部を通る太い血管の近くである場合について説明をした。しかしながら、上述したように、深部体温を適切に維持するためには、冷暖房する人体の部位は頸部に限られるものではない。脳や心臓などの大切な臓器の働きを保つために体の内部を循環する血液を通す血管が皮膚の近くを通っている部位は頸部のみではなく、脇下部にも存在する。よって、頸部に替えて、脇下部を冷暖房することによっても頸部を冷暖房すると同様の効果を得ることができる。さらに、頸部と脇下部とをともに冷暖房することによっても同様の効果を得ることができる。衣類が肌着である場合には、人体の脇の下に当接する肌着の部分にペルチェ素子を固着することによって脇下部を冷暖房することができる。
【0148】
(その他の実施例4)
頸部、襟(衿)、脇下部に対応をする、すべての部分にペルチェ素子を装着可能とする電極を最初から設けた熱媒体循環路を製造しておき、所望の場所だけ(例えば、頸部にのみ)にペルチェ素子を配するようにしてもよい。電極と熱媒体循環路とは可撓材で形成されているので、少し、ゆとりがある長めのものとすれば、電極と熱媒体循環路とを弛ませて肌着からコートまでのサイズの異なる衣服に装着が可能である。また、着用者の身長、太り加減のばらつきも弛みの量によって調整できる。
【0149】
(その他の実施例5)
図3に示すように、変温素子制御部41は、インターネットを介して、サーバ70、契約医療機関80、契約セキュリティ会社90とも情報のやり取りができるようにしてもよい。例えば、サーバ70は、変温素子制御部41の演算器411で実行する最新のプログラム、ニュース等の一般情報を着用者に提供する。例えば、契約医療機関80は、着用者のバイタルサインを受け取り、健康管理をするとともに、バイタルサインに問題があると、契約医療機関80のサーバのAI(artificial intelligence 人工知能)または契約医療機関80に属する医師が判断する場合には着用者と連絡を取り適切な指示を与える。例えば、契約セキュリティ会社90は、変温素子制御部41の内部のGPS(Global Positioning System 全地球測位システム)によって着用者の位置を把握して老人の徘徊の防止を図り、異常事態には駆けつけ、津波警報等の地域情報を着用者に知らせる。
【0150】
インターネットを介してのこれらのサーバ・外部機関との情報のやり取りは、着用者の所有するスマートフォンを用いてもよく、
図3には図示しない変温素子制御部41に配されるデスプレイ、スピーカ、イヤホーン、マイク等を使用してもよい。なお、インターネットを介しての変温素子制御部41と外部との通信が途絶えた場合(災害により着用者が電波の届かない場所に隔離された場合等)には、変温素子制御部41がインターネットからの遮断を検知する。そして、変温素子制御部41は、演算器411の内部メモリに格納されている処理命令に従い、電子冷暖房装置30、電子冷暖房衣服202を外部からの情報の援助なしに単独で働くスターンドアローン機器として機能させ、災害時等の劣悪な環境下においても生命維持機能を発揮する。
【0151】
上述した実施形態に限らず、本明細書、図面に記載の実施形態、実施例の構成の全部またはその一部を任意に組み合わせた新たな実施形態、実施例も実施が可能である。