【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
<飲料処理用金属担持イオン交換樹脂の銀担持量の定量>
後述する供試イオン交換樹脂における銀担持量は、ICP発光分光分析装置(アジレントテクノロジー株式会社製 720−ES)を用いて定量した。ここで、銀担持量とは、乾燥換算の供試イオン交換樹脂全質量に対する金属換算の質量%である。
希硝酸を用いて、供試イオン交換樹脂から銀を溶出させる処理を2回行って、抽出された液の分析結果から、供試イオン交換樹脂の銀担持量を算出した。
【0020】
<酒類の硫黄成分分析>
後述する供試イオン交換樹脂を封入したカラムの通液前の供試酒と、通液後の供試酒中の硫黄化合物(硫化水素(H
2S)、メチルメルカプタン(CH
3SH)、ジメチルスルフィド(DMS)、及びジメチルジスルフィド(DMDS))の濃度を、GC−SCD装置(化学発光硫黄検出器付ガスクロマトグラフィー、アレジレントテクノロジー株式会社製、GC:6890N/SCD:355)を用いて分析した。なお、ここでの硫黄化合物の濃度は、化合物濃度ではなく、硫黄原子濃度である。
また、供試酒中に含まれている全硫黄濃度を、紫外蛍光法硫黄分析計(三菱化学アナルテック株式会社製、型番TS−100)を使用して、燃焼−紫外蛍光法により測定した。なお、全硫黄濃度とは、化合物濃度ではなく、硫黄原子濃度である。
【0021】
<酒類の香気成分等の分析>
後述する供試イオン交換樹脂を封入したカラムの通液前の供試酒と、通液後の供試酒中の香気成分等の分析は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析計(ヘッドスペースインジェクター「MultiPurpose Sampler MPS2」 Gerstel株式会社製)を用いて行った。ここでの濃度は、化合物濃度である。
【0022】
<銀の溶出量の定量>
後述する供試イオン交換樹脂を封入したカラムの通液後の供試酒に、硫酸処理と、灰化処理とを施した後、アルカリ溶解法を実施することにより均一な水溶液を得た。この水溶液に含まれる銀の量を、ICP発光分光分析装置 アジレントテクノロジー株式会社製 720−ESを用いて定量し、これを溶出量とした。
【0023】
<官能評価試験>
実施例1及び比較例1,2の方法にて通液処理したウイスキー、および未処理のウイスキー(未処理)に対し、12名のパネラーにより、最低1点〜最高7点による7段階で行った。その結果を第4表に示す。
【0024】
[供試イオン交換樹脂の製造例]
<製造例1>
硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を、乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4型イオン交換樹脂を得た。水洗の後、水3Lに硝酸銀788gを溶解して得られた硝酸銀溶液に、NH
4型イオン交換樹脂1kgを投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂1を得た。
【0025】
<製造例2>
硝酸銀788gを水3Lに溶解し、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂2を得た。
【0026】
<製造例3>
硝酸銀394gを水3Lに溶解し、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂3を得た。
【0027】
<製造例4>
硝酸銀394gを水3Lに溶解し、市販のH型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlyst 15)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂4を得た。
【0028】
<製造例5>
硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、市販のH型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlyst 15)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4型イオン交換樹脂を得た。水洗の後、水3Lに硝酸銀394gを溶解して得られた硝酸銀溶液に、NH
4型イオン交換樹脂1kgを投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂5を得た。
【0029】
<製造例6>
市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、上記ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4Y型ゼオライトを得た。水洗及び乾燥の後、NH
4Y型ゼオライト1kgを硝酸銀394g及びアンモニア(30%)330gを水2.5Lに溶解した銀アンミン錯イオン溶液に投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgY型ゼオライト1を得た。
【0030】
<比較製造例1>
直径1cmのカラムに、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を18cm
3封入し、濃硫酸(純正化学株式会社製)を用いて調製した3質量%硫酸水溶液1.8Lを1時間通液し、H型イオン交換樹脂を作製した。
【0031】
[実施例及び比較例]
(1)供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)を用いたときの評価
<実施例1>
直径1cmの第1カラムに、製造例1により得られたAg型イオン交換樹脂1を18cm
3封入した。また、直径1cmの第2カラムに、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を18cm
3封入した。第1カラムと第2カラムとを直列に接続し、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。
通液前の供試酒と、通液後の供試酒とを、上述の方法により分析した。なお、通液後の供試酒とは、通液開始から7時間後に流出した供試酒である。
供試酒のモルトウイスキーには、DMSが1.047ppm、DMDSが0.248ppm含まれていた。第1カラム及び第2カラムからのAg溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に、香気成分の分析結果を第3表に、官能評価試験の結果を第4表に示す。なお、Ag溶出量は、第1カラム通液後と第2カラム通液後の双方について確認した。
【0032】
<実施例2>
直径1cmのカラムに、製造例2により得られたAg型イオン交換樹脂2を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒としてモルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0033】
<実施例3>
直径1cmのカラムに、製造例3により得られたAg型イオン交換樹脂3を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒としてモルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0034】
<実施例4>
直径1cmの第1カラムに、製造例4により得られたAg型イオン交換樹脂4を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0035】
<実施例5>
直径1cmの第1カラムに、製造例5により得られたAg型イオン交換樹脂5を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0036】
<参考例1>
直径1cmの第1カラムに、製造例6により得られたAgY型ゼオライト1を18cm
3封入した。また、市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えて、これを直径1cmの第2カラムに18cm
3封入した。第1カラムと第2カラムとを直列に接続し、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lに酢酸カルシウム(和光純薬社製)0.10gを加え、これを通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に示す。
【0037】
<比較例1>
直径1cmのカラムに、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。硫黄化合物の分析結果を第2表に、香気成分の分析結果を第3表に、官能評価試験の結果を第4表に示す。
【0038】
<比較例2>
比較製造例1によって得られたH型イオン交換樹脂に、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。硫黄化合物の分析結果を第2表に、香気成分の分析結果を第3表に、官能評価試験の結果を第4表に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
<モルトウイスキーの評価結果>
第4表に示すように、未処理品の評点の平均が4.00点であるのに対して、比較例1は4.00点、比較例2は4.08点であり、比較例のものは、未処理品と同等の未熟感を有していた。
一方、実施例1は4.50点であり、未処理品に比べて未熟感の少ない良好な香味を有していた。
上記結果から、モルトウイスキー(アルコール分62%)を、本実施例に係る金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。
また、実施例1のように、Ag型イオン交換樹脂のカラムと、Na型イオン交換樹脂のカラムとを直列に接続したシステムでは、上記不要成分の除去とともに、溶出した銀イオン量も十分に低減できることがわかった。
【0044】
(2)供試酒として、麦焼酎を用いたときの評価
<実施例6>
直径1cmの第1カラムに、製造例1により得られたAg型イオン交換樹脂1を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒として、麦焼酎(常圧蒸溜(アルコール分25%))2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第5表に、硫黄化合物の分析結果を第6表に、香気成分の分析結果を第7表に示す。
<参考例2>
直径1cmの第1カラムに、製造例6により得られたAgY型ゼオライト1を18cm
3封入した。また、市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えて、これを直径1cmの第2カラムに18cm
3封入した。第1カラムと第2カラムとを直列に接続し、供試酒として、麦焼酎(常圧蒸溜(アルコール分25%))2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第5表に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
【表7】
【0048】
<麦焼酎の評価結果>
上記結果から、麦焼酎を、製造例1の金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。
【0049】
(2)供試酒として、芋焼酎を用いたときの評価
<実施例7>
直径1cmの第1カラムに、製造例1により得られたAg型イオン交換樹脂1を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒として、芋焼酎(常圧蒸溜(アルコール分39%))2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第8表に、硫黄化合物の分析結果を第9表に、香気成分の分析結果を第10表に示す。
【0050】
【表8】
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
<芋焼酎の評価結果>
上記結果から、芋焼酎を、製造例1の金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。
【0054】
(3)供試酒として、ラム酒を用いたときの評価
<実施例8>
直径1cmの第1カラムに、製造例2により得られたAg型イオン交換樹脂2を18cm
3封入した。このカラムに、供試酒として、ラム酒(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h
−1で通液させた。Ag溶出量を第11表に、硫黄化合物の分析結果を第12表に、香気成分の分析結果を第13表に示す。
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
<ラム酒の評価結果>
上記結果から、ラム酒を、製造例2の金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。