特許第6673563号(P6673563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6673563蒸留酒の製造方法、及び金属担持イオン交換樹脂を含む処理部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673563
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】蒸留酒の製造方法、及び金属担持イオン交換樹脂を含む処理部材
(51)【国際特許分類】
   C12H 1/04 20060101AFI20200316BHJP
   C12G 3/08 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 39/02 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 39/17 20170101ALI20200316BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20200316BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20200316BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20200316BHJP
   B01J 47/016 20170101ALI20200316BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 47/14 20170101ALI20200316BHJP
【FI】
   C12H1/04
   C12G3/08
   B01J39/02
   B01J39/17
   B01J47/02
   B01J39/05
   B01J39/07
   B01J47/016
   B01J39/20
   B01J47/14
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-123198(P2015-123198)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-6025(P2017-6025A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110918
【氏名又は名称】ニッカウヰスキー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】河島 義実
(72)【発明者】
【氏名】各務 成存
(72)【発明者】
【氏名】村田 充子
(72)【発明者】
【氏名】深澤 峻
(72)【発明者】
【氏名】細井 健二
(72)【発明者】
【氏名】杉本 利和
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−515448(JP,A)
【文献】 特開2010−051309(JP,A)
【文献】 特開2012−016321(JP,A)
【文献】 特開平03−080907(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第86107014(CN,A)
【文献】 米国特許第05505120(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12H 1/04
B01J 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部が銀イオンに交換されてなる金属担持イオン交換樹脂と、蒸留酒とを接触させる工程を包含し、当該工程により、蒸留酒に含まれる不要成分である硫黄化合物を除去することにより行う、熟成期間を短縮した蒸留酒の製造方法。
【請求項2】
前記銀イオンの担持量が、乾燥換算の前記金属担持イオン交換樹脂全量に対して、銀質量換算で、10質量%以上40質量%以下である請求項1に記載の蒸留酒の製造方法。
【請求項3】
前記金属担持イオン交換樹脂と、蒸留酒とを接触させる工程の後、前記金属担持イオン交換樹脂に接触させた蒸留酒から、金属捕捉材料により金属イオンを除去する工程を、さらに有する請求項1又は2に記載の蒸留酒の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留酒がウイスキーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸留酒の製造方法。
【請求項5】
陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部が銀イオンに交換されてなり、蒸留酒に含まれる不要成分である硫黄化合物を除去することができる金属担持イオン交換樹脂を含む処理部材
【請求項6】
前記銀イオンの担持量が、乾燥換算の酒類処理用金属担持イオン交換樹脂全量に対して、銀質量換算で、10質量%以上40質量%以下である請求項に記載の金属担持イオン交換樹脂を含む処理部材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料に含まれる不要成分を除去する飲料の精製方法、及び該精製方法に用いられる飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料、特に酒類のなかには、ウイスキーのように、短くて4〜6年、通常7〜10年、長い場合には20年近く樽に貯蔵されて、熟成されるものがある。
貯蔵の間に、硫黄化合物等の未熟成成分の蒸散及び消滅、ニューポット由来成分の反応(酸化反応、アセタール化反応、エステル化反応等)、樽の原材料由来成分の分解反応、樽内に溶出した原材料由来成分と原酒との反応、原酒を構成するエタノールと水との状態変化等が起こることにより、ウイスキーに特有の風味が引き出される。
しかし、貯蔵の間に原酒が樽に吸収されたり、樽を透過して揮発したりするため、原酒量は自然に減少する。このため、貯蔵期間の長期化は、製造効率の面では、製品ロスの増加を招いていた。
そこで、硫黄化合物等の未熟成成分、寒冷時における析出成分、不快な香り成分等の酒類にとっての不要成分を、貯蔵により自然に起こる変化を待たずに、積極的に除去する方法が考えられている。
【0003】
酒類から不要成分を除去する方法としては、例えば、シリカを有機シラン化合物で処理してなる吸着剤に酒類を接触させる方法(特許文献1参照)、活性炭に酒類を接触させる方法(特許文献2参照)、金属粒と樹脂層とを用いる方法(特許文献3参照)、イオン交換樹脂を用いる方法(特許文献4参照)等が既に提案されている。
特許文献4には、内部に充填した強塩基性陰イオン交換樹脂を食塩で再生した後、更に亜硫酸水素ナトリウムで再生してなる単床式カラムと、内部に充填した強塩基性陰イオン交換樹脂を食塩のみで再生してなる亜硫酸トラップカラムとを使用して酒類の精製処理を行って、酒類に含まれる不快成分(ダイアセチル)を除去できることが記載されている。
しかし、酒類には、上述のように、硫黄化合物等の未熟成成分などのように、ダイアセチル以外の不要成分も含まれており、より高い品質の要求を満足する製品を提供するためには、更なる改良の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−137668号公報
【特許文献2】特開平03−187374号公報
【特許文献3】特開2012−016321号公報
【特許文献4】特開2004−222567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酒類のような飲料に含まれる不要成分を効率よく除去し得る飲料の精製方法、及び該精製方法に用いることのできる飲料処理用金属担持イオン交換樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の金属担持イオン交換樹脂に飲料を通液することにより、飲料に含まれる不要成分を除去することができ、前記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
[1]陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部が銀イオンに交換されてなる飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる工程を包含する、飲料に含まれる不要成分を除去する飲料の精製方法。
[2]前記銀イオンの担持量が、乾燥換算の前記飲料処理用金属担持イオン交換樹脂全量に対して、銀質量換算で、10質量%以上40質量%以下である[1]に記載の飲料の精製方法。
[3]飲料を前記飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる工程の後、前記飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させた飲料を、金属捕捉材料により金属イオンを除去する工程を、さらに有する[1]又は[2]に記載の飲料の精製方法。
[4]前記飲料が蒸留酒であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の飲料の精製方法。
[5]前記飲料が醸造酒であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の飲料の精製方法。
[6]陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部が銀イオンに交換されてなり、飲料に含まれる不要成分を除去する飲料処理用金属担持イオン交換樹脂。
[7]前記銀イオンの担持量が、乾燥換算の飲料処理用金属担持イオン交換樹脂全量に対して、銀質量換算で、10質量%以上40質量%以下であることを特徴とする[6]に記載の飲料処理用金属担持イオン交換樹脂。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酒類のような飲料に含まれる不要成分を効率よく除去し得る飲料の精製方法、及び該精製方法に用いることのできる飲料処理用金属担持イオン交換樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[飲料の精製方法]
本発明の実施形態に係る飲料の精製方法について、詳細に説明する。本実施形態に係る飲料の精製方法は、陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部が銀イオンに交換されてなる飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる工程を包含し、飲料に含まれる不要成分を除去するものである。
本発明において対象とする飲料は、特に限定されるものではなく全ての飲料が適用できるが、以下では、飲料のなかでも酒類について説明する。
酒類としては、具体的には、ウイスキー、ブランデー、ジン、ウオッカ、テキーラ、ラム、白酒、アラック等の全ての蒸留酒が適用できる。また、清酒、ビール、ワイン、酒精強化ワイン、中国酒等の全ての醸造酒及び混成酒が適用できる。醸造酒及び混成酒のなかでは、清酒が好適に用いられる。さらに、麦焼酎、米焼酎、芋焼酎、黒糖酒、そば焼酎、コーン焼酎、粕取り焼酎、泡盛等の全ての焼酎が適用できる。
【0009】
除去される不要成分とは、飲料の風味を妨げる成分であり、主として、不味成分が挙げられる。不味成分としては、酒類においては、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド、ジメチルトリサルファイド等の硫黄化合物が挙げられる。また、ピリジン等の窒素化合物が挙げられる。
酒類の精製方法の場合は、酒類に含まれる上述した不要成分を除去する一方で、高級アルコール類、フーゼル類、エステル類等の旨味成分を酒類中に残すことができる。
飲料が酒類である場合には、処理前の酒類に含まれる硫黄化合物の濃度が100質量ppm以下であることが好ましい。この範囲であれば、上述した飲料処理用金属担持イオン交換樹脂にて脱硫処理することが可能である。硫黄化合物の濃度は、より好ましくは、10質量ppm以下である。
処理温度の範囲は、−50℃以上150℃以下であり、より好ましくは0℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは10℃以上60℃以下である。
上述した飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に、飲料を通液させる際の条件は、流速(LHSV)範囲が0.1h−1以上100h−1以下であり、より好ましくは0.5以上50h−1以下であり、さらに好ましくは1以上30h−1以下である。また、液の流れ方向はアップフロー又はダウンフローのどちらでも構わない。
【0010】
上記条件によれば、飲料が酒類であれば、酒類中に高級アルコール類、フーゼル類、エステル類等の旨味成分を保持しながら、不要成分を除去することができる。
本発明の実施形態に係る飲料の精製方法は、飲料を飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる工程の後、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させた飲料を、金属捕捉材料により金属イオンを除去する工程を、さらに有することが好ましい。
本実施形態に係る飲料の精製方法では、後述する、銀イオンが担持されたイオン交換樹脂を用いるため、該イオン交換樹脂に通液した後の飲料には、銀イオンが溶出していることがある。
そこで、金属捕捉材料により、通液後の飲料に許容量を超える銀イオンが流出することを防止することができる。
【0011】
[飲料処理用金属担持イオン交換樹脂]
本発明の実施形態に係る飲料処理用金属担持イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部が銀イオンに交換されたものである。この飲料処理用金属担持イオン交換樹脂は、飲料に含まれる不要成分を除去することができる。
<陽イオン交換樹脂>
本実施形態に係る飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に適用可能な陽イオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂等の種類に限定されず、適用可能である。陽イオン交換樹脂のイオン型は、特に限定されず、水素型であってもよいし、カルシウム型、ナトリウム型等の塩型であってもよい。
陽イオン交換樹脂の構造として、スチレンやアクリルといった母体構造は、特に問わない。また、架橋密度などの樹脂物性によって特に限定されず、種々の陽イオン交換樹脂が使用できる。例えば、多孔質型又はゲルタイプの陽イオン交換樹脂が使用でき、特により表面積が高い多孔質型の陽イオン交換樹脂が好ましい。これらの陽イオン交換樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上の陽イオン交換樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
イオン交換樹脂の粒径は、0.3mm未満では通液時の差圧が高くなり、1.0mmを超えると拡散性が悪くなる、又は破砕しやすくなるといった弊害が起きやすい。この観点から、イオン交換樹脂の粒径は0.3〜1.0mmの粒径であることが好ましい。
本実施形態に係る飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に適用可能な陽イオン交換樹脂の市販品としては、銀イオンの担持の容易性や、その後の飲料の精製効率を高める観点から、例えば、Rohm and Haas株式会社製のAmberliteを用いることができる。
また、上述した陽イオン交換樹脂は、本実施形態に係る飲料の精製方法において、飲料を飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる工程の後、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させた飲料を、陽イオン交換樹脂により金属イオンを除去する工程を有するものとした場合に、該金属イオンを除去する工程で使用される陽イオン交換樹脂としても適用可能である。
【0013】
<飲料処理用金属担持イオン交換樹脂の製造方法>
本発明の実施形態に係る飲料処理用金属担持イオン交換樹脂の製造方法は、陽イオン交換樹脂の陽イオンの少なくとも一部に、銀イオンを含有する溶液を用いてイオン交換法により、銀イオンを担持させる工程を有する。
イオン交換法では、上述したイオン交換樹脂の内部に、銀イオンを含有する溶液を用いて、イオン交換樹脂の内部のイオン、例えば、Hイオン又はNaイオンを銀イオンで交換し、イオン交換樹脂の内部に銀イオンを担持させる。
本実施形態では、銀イオンを含有する溶液として、硝酸銀など水溶性の金属塩を用いることができる。
また、本実施形態では、銀イオンを含有する溶液を用いて銀イオンを担持させる工程の前に、硝酸アンモニウム溶液や塩化アンモニウム溶液、硫酸アンモニウム溶液、アンモニア水等のNHイオンを含む水溶液を用いて、陽イオン交換樹脂の陽イオンをNHイオンで置き換える工程を有することが好ましい。
【0014】
本実施形態においては、NHイオンを含む水溶液を用いることにより、イオン交換樹脂のHイオン又はNaイオンの少なくとも一部がNHイオンに置き換えられる。この後、硝酸銀溶液で処理すると、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂中における銀イオンの分散性を高めることができる。
これは、アンモニウムイオンが銀イオンを取り囲んだ銀アンミン錯体が形成されることにより、銀イオン同士の凝集が抑制されることによるものと推察される。
本実施形態に係る飲料処理用金属担持イオン交換樹脂において、イオン交換樹脂に担持された銀の総担持量は、乾燥換算の飲料処理用金属担持イオン交換樹脂全量に対して、10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、15質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくは、20質量%以上35質量%以下である。銀の担持量が10質量%未満であると飲料に含まれる不要成分を十分に除去できず、40質量%を超えると、銀がイオン交換され難くなるため、銀が凝集し、金属当たりの不要成分の除去効率が低下する。
【0015】
<金属捕捉材料>
飲料のなかの不要成分の除去効率を高めるためには、上述した飲料処理用金属担持イオン交換樹脂中の金属の担持量を増大させる必要がある。しかし、飲料を飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる場合、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に担持されている金属が飲料に溶出することがあり、金属の溶出量は、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に担持されている金属の担持量に比例して増大する。
そこで、本実施形態においては、飲料を飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させる工程の後、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させた飲料を、金属捕捉材料により金属イオンを除去する工程を、さらに有していることが好ましい。飲料処理用金属担持イオン交換樹脂に接触させた飲料を金属捕捉材料に接触させることにより、飲料処理用金属担持イオン交換樹脂から溶出した金属が除去される。
【0016】
金属捕捉材料としては、公知の陽イオン交換樹脂、ゼオライトなどのイオン交換能を示す材料が使用できる。金属捕捉材料のイオン交換可能な陽イオンとしては、特に限定されず、Hイオンであってもよいし、Ca2+イオン、Naイオン等であってもよい。
【0017】
金属捕捉材料用陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂等の種類に限定されず、適用可能である。
陽イオン交換樹脂の構造として、スチレンやアクリルといった母体構造は、特に問わない。また、架橋密度などの樹脂物性によって特に限定されず、種々の陽イオン交換樹脂が使用できる。例えば、多孔質型又はゲルタイプの陽イオン交換樹脂が使用でき、特により表面積が高い多孔質型の陽イオン交換樹脂が好ましい。これらの陽イオン交換樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上の陽イオン交換樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
金属捕捉材料用ゼオライトとしては、イオン交換可能な陽イオンを有するゼオライトであって、特に、フォージャサイト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、A型ゼオライト、ZSM−5ゼオライト、モルデンフッ石、ベータ型ゼオライトの中のいずれか1構造を有するゼオライトである。中でも好ましいゼオライトはX型ゼオライト、Y型ゼオライトである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
<飲料処理用金属担持イオン交換樹脂の銀担持量の定量>
後述する供試イオン交換樹脂における銀担持量は、ICP発光分光分析装置(アジレントテクノロジー株式会社製 720−ES)を用いて定量した。ここで、銀担持量とは、乾燥換算の供試イオン交換樹脂全質量に対する金属換算の質量%である。
希硝酸を用いて、供試イオン交換樹脂から銀を溶出させる処理を2回行って、抽出された液の分析結果から、供試イオン交換樹脂の銀担持量を算出した。
【0020】
<酒類の硫黄成分分析>
後述する供試イオン交換樹脂を封入したカラムの通液前の供試酒と、通液後の供試酒中の硫黄化合物(硫化水素(HS)、メチルメルカプタン(CHSH)、ジメチルスルフィド(DMS)、及びジメチルジスルフィド(DMDS))の濃度を、GC−SCD装置(化学発光硫黄検出器付ガスクロマトグラフィー、アレジレントテクノロジー株式会社製、GC:6890N/SCD:355)を用いて分析した。なお、ここでの硫黄化合物の濃度は、化合物濃度ではなく、硫黄原子濃度である。
また、供試酒中に含まれている全硫黄濃度を、紫外蛍光法硫黄分析計(三菱化学アナルテック株式会社製、型番TS−100)を使用して、燃焼−紫外蛍光法により測定した。なお、全硫黄濃度とは、化合物濃度ではなく、硫黄原子濃度である。
【0021】
<酒類の香気成分等の分析>
後述する供試イオン交換樹脂を封入したカラムの通液前の供試酒と、通液後の供試酒中の香気成分等の分析は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析計(ヘッドスペースインジェクター「MultiPurpose Sampler MPS2」 Gerstel株式会社製)を用いて行った。ここでの濃度は、化合物濃度である。
【0022】
<銀の溶出量の定量>
後述する供試イオン交換樹脂を封入したカラムの通液後の供試酒に、硫酸処理と、灰化処理とを施した後、アルカリ溶解法を実施することにより均一な水溶液を得た。この水溶液に含まれる銀の量を、ICP発光分光分析装置 アジレントテクノロジー株式会社製 720−ESを用いて定量し、これを溶出量とした。
【0023】
<官能評価試験>
実施例1及び比較例1,2の方法にて通液処理したウイスキー、および未処理のウイスキー(未処理)に対し、12名のパネラーにより、最低1点〜最高7点による7段階で行った。その結果を第4表に示す。
【0024】
[供試イオン交換樹脂の製造例]
<製造例1>
硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を、乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH型イオン交換樹脂を得た。水洗の後、水3Lに硝酸銀788gを溶解して得られた硝酸銀溶液に、NH型イオン交換樹脂1kgを投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂1を得た。
【0025】
<製造例2>
硝酸銀788gを水3Lに溶解し、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂2を得た。
【0026】
<製造例3>
硝酸銀394gを水3Lに溶解し、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂3を得た。
【0027】
<製造例4>
硝酸銀394gを水3Lに溶解し、市販のH型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlyst 15)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂4を得た。
【0028】
<製造例5>
硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、市販のH型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlyst 15)を乾燥重量で1kg投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH型イオン交換樹脂を得た。水洗の後、水3Lに硝酸銀394gを溶解して得られた硝酸銀溶液に、NH型イオン交換樹脂1kgを投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、濾過及び水洗を行った。この後、60℃で12時間の乾燥を行い、Ag型イオン交換樹脂5を得た。
【0029】
<製造例6>
市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、上記ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNHY型ゼオライトを得た。水洗及び乾燥の後、NHY型ゼオライト1kgを硝酸銀394g及びアンモニア(30%)330gを水2.5Lに溶解した銀アンミン錯イオン溶液に投入し、液を3時間撹拌し、Agイオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgY型ゼオライト1を得た。
【0030】
<比較製造例1>
直径1cmのカラムに、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を18cm封入し、濃硫酸(純正化学株式会社製)を用いて調製した3質量%硫酸水溶液1.8Lを1時間通液し、H型イオン交換樹脂を作製した。
【0031】
[実施例及び比較例]
(1)供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)を用いたときの評価
<実施例1>
直径1cmの第1カラムに、製造例1により得られたAg型イオン交換樹脂1を18cm封入した。また、直径1cmの第2カラムに、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を18cm封入した。第1カラムと第2カラムとを直列に接続し、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。
通液前の供試酒と、通液後の供試酒とを、上述の方法により分析した。なお、通液後の供試酒とは、通液開始から7時間後に流出した供試酒である。
供試酒のモルトウイスキーには、DMSが1.047ppm、DMDSが0.248ppm含まれていた。第1カラム及び第2カラムからのAg溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に、香気成分の分析結果を第3表に、官能評価試験の結果を第4表に示す。なお、Ag溶出量は、第1カラム通液後と第2カラム通液後の双方について確認した。
【0032】
<実施例2>
直径1cmのカラムに、製造例2により得られたAg型イオン交換樹脂2を18cm封入した。このカラムに、供試酒としてモルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0033】
<実施例3>
直径1cmのカラムに、製造例3により得られたAg型イオン交換樹脂3を18cm封入した。このカラムに、供試酒としてモルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0034】
<実施例4>
直径1cmの第1カラムに、製造例4により得られたAg型イオン交換樹脂4を18cm封入した。このカラムに、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0035】
<実施例5>
直径1cmの第1カラムに、製造例5により得られたAg型イオン交換樹脂5を18cm封入した。このカラムに、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に、硫黄化合物の分析結果を第2表に示す。
【0036】
<参考例1>
直径1cmの第1カラムに、製造例6により得られたAgY型ゼオライト1を18cm封入した。また、市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えて、これを直径1cmの第2カラムに18cm封入した。第1カラムと第2カラムとを直列に接続し、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lに酢酸カルシウム(和光純薬社製)0.10gを加え、これを通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第1表に示す。
【0037】
<比較例1>
直径1cmのカラムに、市販のNa型イオン交換樹脂(Rohm and Haas株式会社製、商品名:Amberlite 200)を18cm封入した。このカラムに、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。硫黄化合物の分析結果を第2表に、香気成分の分析結果を第3表に、官能評価試験の結果を第4表に示す。
【0038】
<比較例2>
比較製造例1によって得られたH型イオン交換樹脂に、供試酒として、モルトウイスキー(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。硫黄化合物の分析結果を第2表に、香気成分の分析結果を第3表に、官能評価試験の結果を第4表に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
<モルトウイスキーの評価結果>
第4表に示すように、未処理品の評点の平均が4.00点であるのに対して、比較例1は4.00点、比較例2は4.08点であり、比較例のものは、未処理品と同等の未熟感を有していた。
一方、実施例1は4.50点であり、未処理品に比べて未熟感の少ない良好な香味を有していた。
上記結果から、モルトウイスキー(アルコール分62%)を、本実施例に係る金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。
また、実施例1のように、Ag型イオン交換樹脂のカラムと、Na型イオン交換樹脂のカラムとを直列に接続したシステムでは、上記不要成分の除去とともに、溶出した銀イオン量も十分に低減できることがわかった。
【0044】
(2)供試酒として、麦焼酎を用いたときの評価
<実施例6>
直径1cmの第1カラムに、製造例1により得られたAg型イオン交換樹脂1を18cm封入した。このカラムに、供試酒として、麦焼酎(常圧蒸溜(アルコール分25%))2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第5表に、硫黄化合物の分析結果を第6表に、香気成分の分析結果を第7表に示す。
<参考例2>
直径1cmの第1カラムに、製造例6により得られたAgY型ゼオライト1を18cm封入した。また、市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えて、これを直径1cmの第2カラムに18cm封入した。第1カラムと第2カラムとを直列に接続し、供試酒として、麦焼酎(常圧蒸溜(アルコール分25%))2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第5表に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
【表7】
【0048】
<麦焼酎の評価結果>
上記結果から、麦焼酎を、製造例1の金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。
【0049】
(2)供試酒として、芋焼酎を用いたときの評価
<実施例7>
直径1cmの第1カラムに、製造例1により得られたAg型イオン交換樹脂1を18cm封入した。このカラムに、供試酒として、芋焼酎(常圧蒸溜(アルコール分39%))2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第8表に、硫黄化合物の分析結果を第9表に、香気成分の分析結果を第10表に示す。
【0050】
【表8】
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
<芋焼酎の評価結果>
上記結果から、芋焼酎を、製造例1の金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。
【0054】
(3)供試酒として、ラム酒を用いたときの評価
<実施例8>
直径1cmの第1カラムに、製造例2により得られたAg型イオン交換樹脂2を18cm封入した。このカラムに、供試酒として、ラム酒(アルコール分62%)2.5Lを、通液温度30℃,通液条件LHSV=20h−1で通液させた。Ag溶出量を第11表に、硫黄化合物の分析結果を第12表に、香気成分の分析結果を第13表に示す。
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
<ラム酒の評価結果>
上記結果から、ラム酒を、製造例2の金属担持イオン交換樹脂に通液すると、旨味成分を残しながら、不要成分を除去できることがわかった。