特許第6674163号(P6674163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674163
(24)【登録日】2020年3月10日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】粉体塗料及び該塗料の塗膜を有する物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/14 20060101AFI20200323BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20200323BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C09D133/14
   C09D163/00
   C09D5/03
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-542752(P2019-542752)
(86)(22)【出願日】2018年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2018044513
(87)【国際公開番号】WO2019124051
(87)【国際公開日】20190627
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2017-242796(P2017-242796)
(32)【優先日】2017年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124143
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】杉山 典幸
(72)【発明者】
【氏名】岡部 英樹
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−028828(JP,A)
【文献】 特開昭55−075403(JP,A)
【文献】 特開昭49−021448(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105462429(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00〜201/10
B05D 1/00〜 7/26
Registry(STN)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有する粉体塗料用の、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物であって、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)のMark−Houwink−Sakuradaプロットにおける分子形態パラメータα値が0.3〜0.5の範囲であり、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)が多官能性重合開始剤を用いた重合体であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)が、多官能単量体を必須原料とするものである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有することを特徴とする粉体塗料。
【請求項4】
前記エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)が、脂肪族多価カルボン酸及び/又はその無水物である請求項3記載の粉体塗料。
【請求項5】
請求項3又は4記載の粉体塗料の塗膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料及び該塗料の塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染等の問題から有機溶剤に対する規制が厳しくなり、環境調和型塗料が注目されている。その中でも、粉体塗料は無溶剤型塗料として環境保護の観点から脚光を浴びており、特にアクリル系粉体塗料は耐候性、耐汚染性等の塗膜性能に優れることから、アルミホイール等の自動車部品、金属外装、家電の用途に注目されている。しかしながら、粉体塗料は溶剤型塗料と比較し、塗膜外観が劣るという欠点があった。
【0003】
これに対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エポキシ基含有アクリル単量体、その他共重合可能なビニル系単量体を共重合させて得られるエポキシ基含有アクリル樹脂と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤とを含んでなる粉体塗料が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この粉体塗料から得られる硬化塗膜は、外観が改善されているものの、耐糸錆性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−69368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、耐糸錆性に優れる硬化塗膜を得ることのできる粉体塗料、及び該塗料の塗膜を有する物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、特定のエポキシ基を有するアクリル樹脂(A)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有する粉体塗料から得られる硬化塗膜が、耐糸錆性に優れることを見出し、発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有する粉体塗料であって、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)のMark−Houwink−Sakuradaプロットにおける分子形態パラメータα値が0.3〜0.5であることを特徴とする粉体塗料及び該塗料の塗膜を有する物品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粉体塗料は、耐糸錆性に優れる硬化塗膜を形成することができることから、アルミホイールなどの物品を塗装する塗料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粉体塗料は、エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有する粉体塗料であって、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)のMark−Houwink−Sakuradaプロットにおける分子形態パラメータα値が0.3〜0.5であるものである。
【0010】
まず、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)について説明する。このエポキシ基を有するアクリル樹脂(A)のMark−Houwink−Sakuradaプロットにおける分子形態パラメータα値は、耐糸錆性等の塗膜物性に優れる塗膜が得られることから、0.3〜0.5であることが重要である。
【0011】
なお、本発明におけるアクリル樹脂(A)のMark−Houwink−Sakuradaプロットにおける分子形態パラメータα値は、GPC−MALS−VISCO測定により求めたものである。Mark−Houwink−Sakuradaの式:[η]=K・Mwαから、log[η]=logK + αlogMwとなる。MALSから絶対分子量Mw、VISCOから極限粘度[η]を得て、横軸にlogMw、縦軸にlog[η]をプロットし、その傾きからαを求めたものである。
【0012】
前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)は、 例えば、エポキシ基を有するアクリル単量体(a1)と、その他の不飽和単量体(a2)とを共重合することにより得られる。
【0013】
前記エポキシ基を有するアクリル単量体(a1)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル、(メタ)アリルメチルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらの中でも、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、これらのアクリル単量体(a1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0014】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル基」とは、メタクリロイル基とアクリロイル基の一方又は両方をいう。
【0015】
前記その他の不飽和単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、末端に水酸基を有するラクトン変性(メタ)アクリレート等の単官能単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA−ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート等の2官能単量体;イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の3官能以上の単量体などが挙げられるが、単官能単量体及び多官能単量体を併用することが好ましく、ゲル化の可能性が低く、分子形態パラメータα値が0.3〜0.5のアクリル樹脂を容易に得られることから、単官能単量体及び2官能単量体を併用することが好ましい。これらのその他の不飽和単量体(a2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。なお、本発明においては、重合性二重結合を1有する単量体を単官能単量体とし、2有する単量体を2官能単量体、3以上有する単量体を3官能以上の単量体とする。
【0016】
前記エポキシ基を有するアクリル単量体(a1)の使用量は、得られる塗膜の耐糸錆性、塗膜物性がより向上することから、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中の質量比率で、10〜70質量%の範囲が好ましく、20〜50質量%の範囲がより好ましい。前記多官能単量体の使用量は、得られる塗膜の耐糸錆性がより向上することから、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中の質量比率で、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、0.1〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0017】
前記アクリル樹脂(A)の数平均分子量は、得られる塗膜の耐糸錆性、塗膜物性がより向上することから、1,000〜5,000が好ましい。ここで、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。
【0018】
前記アクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、得られる塗膜の耐糸錆性、塗膜物性がより向上ことから、30〜80℃が好ましい。
【0019】
前記アクリル樹脂(A)を得る方法としては、前記アクリル単量体(a1)、及びその他の不飽和単量体(a2)を原料として、公知の重合方法で行うことができるが、溶液ラジカル重合法が最も簡便であることから好ましい。
【0020】
上記の溶液ラジカル重合法は、原料である各単量体を溶剤に溶解し、重合開始剤存在下で重合反応を行う方法である。この際に用いることができる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、オクタン等の炭化水素溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール等のアルコール溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0021】
前記重合開始剤としては、分子形態パラメータα値が0.3〜0.5のアクリル樹脂を容易に得られることから、多官能性重合開始剤を用いることが好ましく、3官能以上の重合開始剤を用いることがより好ましい。多官能性重合開始剤とは、例えば、2,2−ビス−(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−t−ブチルパーオキシオクタン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、4,4−ジ−t−ブチルパーオキシバレリックアシッド−n−ブチルエステル、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシアゼレート、ジーt−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の1分子内に2つ以上のパーオキサイド基などの重合開始機能を有する官能基を有するものが挙げられる。
【0022】
前記重合開始剤としては、単官能性重合開始剤を使用してもよく、多官能性重合開始剤と併用してもよい。単官能性重合開始剤として、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド化合物;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジt−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジt−アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジt−ヘキシルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジt−オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール化合物;クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド化合物;1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジt−アミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物;ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−アミルパーオキシネオデカネート、t−アミルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシノルマルオクトエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル化合物などの有機過酸化物と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0023】
前記重合開始剤の使用量は、得られる塗膜の耐糸錆性、塗膜物性がより向上することから、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分に対し、0.5〜15質量%の範囲が好ましく、2〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0024】
次に、前記硬化剤(B)について説明する。前記硬化剤(B)は、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤であり、例えば、スベリン酸、アゼライン酸、2,4−ジエチルグルタル酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ブラシル酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ブタントリカルボン酸等の多価カルボン酸化合物、これら多価カルボン酸の無水物、及び多価フェノール化合物などが挙げられる。これらの中でも、高強度の塗膜が得られることから、脂肪族多価カルボン酸化合物及びその無水物が好ましく、ドデカンジカルボン酸がより好ましい。また、これらの硬化剤(B)は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
本発明の粉体塗料は、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(A)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有するものであるが、高強度の塗膜が得られることから、これらの配合量としては、前記アクリル樹脂(A)中のエポキシ基の当量数(EP)と、前記硬化剤(B)中のカルボキシル基の当量数(COOH)との当量比[(EP)/(COOH)]が、0.5〜1.5の範囲が好ましく、0.8〜1.2の範囲がより好ましい。
【0026】
本発明の粉体塗料には、本発明の効果を損なわない範囲内で、有機系ないしは無機系の顔料をはじめ、流動調整剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知慣用の種々の添加剤を添加することができる。また、焼き付け時の硬化反応を促進する目的で、触媒を添加することもできる。
【0027】
本発明の粉体塗料の調製方法としては、公知慣用の種々の方法を利用することができるが、例えば、前記アクリル樹脂(A)と、前記硬化剤(B)と、必要に応じて、顔料、表面調整剤等の種々の添加剤とを混合し、次いで、それらを溶融混練したのちに、微粉砕、分級するという、いわゆる機械粉砕方式などを利用することができる。
【0028】
本発明の粉体塗料は、エクステリア、家電用品、自動車用品、二輪車用品、防護柵等の各種物品に塗装することが可能であるが、耐糸錆性、耐候性、耐衝撃性、耐チッピング性、耐水性等に優れる高外観の塗膜が得られることから、アルミホイール合金部材等の金属部材への塗装に適している。
【0029】
本発明の粉体塗料の塗装方法としては、静電粉体塗装法等の公知慣用の種々の方法が挙げられる。また、本発明の粉体塗料を塗装後、硬化塗膜とする方法としては、基材の種類や目的に応じて適宜選択することができるが、耐糸錆性、耐水性及び耐候性に優れる塗膜が得られることから、120〜250℃の温度範囲で、5〜30分間の範囲で焼き付けることが好ましい。また、塗装膜厚は、50〜150μmの範囲が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。なお、アクリル樹脂のエポキシ当量、ガラス転移温度、及び数平均分子量は、下記の方法で測定したものである。
[エポキシ当量の測定方法]
塩酸−ピリジン法により測定した。樹脂に、塩酸−ピリジン溶液25mlを加え、130℃で1時間、加熱溶解した後、フェノールフタレインを指示薬として0.1N−水酸化カリウムアルコール溶液で滴定した。消費した0.1N−水酸化カリウムアルコール溶液の量によってエポキシ当量を算出した。
【0031】
[ガラス転移温度の測定方法]
DSC法(示差走査熱量測定法)により求めた。
測定装置:示差走査熱量計(TA INSTRUMENTS株式会社製「DSC Q−100」)
雰囲気条件:窒素雰囲気下
温度範囲:−50〜150℃
昇温速度:5℃/分
【0032】
[重量平均分子量の測定方法]
GPCにより測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0033】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0034】
(合成例1:アクリル樹脂(A−1)の合成)
攪拌機、温度計、冷却管及び窒素導入管を備えた反応容器に、キシレン76質量部を仕込み、窒素雰囲気下に135℃にまで昇温した。そこへ、スチレン(以下、「St」と略記する。)18質量部、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する。)42質量部、n−ブチルメタクリレート(以下、「nBMA」と略記する。)4質量部、2−エチルヘキシルメタクリレート(以下、「2EHMA」と略記する。)2質量部、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」と略記する。)32質量部、n−ブチルアクリレート(以下、「BA」と略記する。)2質量部、および2,2−ビス−(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(以下、「P−TA」と略記する。)0.3質量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(以下、「P−O」と略記する。)5質量部とからなる混合物を6時間かけて滴下した。滴下終了後も同温度にて10時間保持し、重合反応を行った後、160℃で20mmHgの減圧下に溶剤をのぞき、分子形態パラメータ0.47、数平均分子量2,200、ガラス転移温度52℃、エポキシ当量460g/eqなる固形のアクリル樹脂(A−1)を得た。
【0035】
(合成例2:アクリル樹脂(A−2)の合成)
単量体及び重合開始剤の組成を、St 20質量部、MMA 44質量部、nBMA 6質量部、イソブチルメタクリレート(以下、「iBMA」と略記する。)3質量部、GMA 24質量部、エチルアクリレート(以下、「EA」と略記する。)3質量部、およびP−TA 5.3質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、分子形態パラメータ0.42、数平均分子量2,100、ガラス転移温度52℃、エポキシ当量600g/eqなる固形のアクリル樹脂(A−2)を得た。
【0036】
(合成例3:アクリル樹脂(A−3)の合成)
単量体及び重合開始剤の組成を、St 25質量部、MMA 38質量部、nBMA 4質量部、2EHMA 2質量部、GMA 26質量部、アクリル酸イソブチル(以下、「iBA」と略記する。)4質量部、エチレングリコールジメタクリレート(以下、「EDMA」と略記する。)1質量部およびP−O 8質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、分子形態パラメータ0.46、数平均分子量1,700、ガラス転移温度41℃、エポキシ当量570g/eqなる固形のアクリル樹脂(A−3)を得た。
【0037】
(合成例4:アクリル樹脂(A−4)の合成)
単量体及び重合開始剤の組成を、St 18質量部、MMA 38質量部、nBMA 8質量部、GMA 30質量部、 nBA 1質量部、EDMA 5質量部およびP−O 5.3質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、分子形態パラメータ0.40、数平均分子量2,600、ガラス転移温度60℃、エポキシ当量490g/eqなる固形のアクリル樹脂(A−4)を得た。
【0038】
(合成例5:アクリル樹脂(RA−1)の合成)
単量体及び重合開始剤の組成を、St 20質量部、MMA 30質量部、nBMA 9質量部、nBA 8質量部、GMA 28質量部、iBA 5質量部およびP−O 3.5質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、分子形態パラメータ0.57、数平均分子量3,300、ガラス転移温度50℃、エポキシ当量520g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA−1)を得た。
【0039】
(合成例6:アクリル樹脂(RA−2)の合成)
単量体及び重合開始剤の組成を、St 18質量部、MMA 43質量部、nBMA 10質量部、2EHMA 2質量部、GMA 25質量部、iBA 2質量部およびP−O 5.3質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、分子形態パラメータ0.52、数平均分子量2,200、ガラス転移温度50℃、エポキシ当量580g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA−2)を得た。
【0040】
(合成例7:アクリル樹脂(RA−3)の合成)
単量体及び重合開始剤の組成を、St 25質量部、MMA 36質量部、iBMA 7質量部、2EHMA 1質量部、GMA 30質量部、nBA 1質量部およびP−O 6質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、分子形態パラメータ0.53、数平均分子量2,200、ガラス転移温度56℃、エポキシ当量490g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA−3)を得た。
【0041】
上記の合成例1〜7で合成したアクリル樹脂(A−1)〜(A−4)及び(RA−1)〜(RA−3)の単量体・重合開始剤組成及び性状値を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例1:粉体塗料(1)の調製)
合成例1で得られたアクリル樹脂(A−1)82質量部、ドデカンジカルボン酸(以下、「DDDA」と略記する。)18質量部、ベンゾイン0.5質量部及び表面調整剤(ESTRON製「レジフローLF」;以下、「表面調整剤(1)」と略記する。)1質量部を配合した配合物を、二軸混練機(ツバコー横浜販売株式会社製「APV・ニーダーMP−2015型」)を使用して溶融混練した後、微粉砕し、さらに、200メッシュの金網で分級し、粉体塗料(1)を得た。
【0044】
(実施例2:粉体塗料(2)の調製)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A−1)82質量部及びDDDA 18質量部を、アクリル樹脂(A−2)86質量部及びDDDA 14質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(2)を得た。
【0045】
(実施例3:粉体塗料(3)の調製)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A−1)82質量部及びDDDA 18質量部を、アクリル樹脂(A−3)85質量部及びDDDA 15質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(3)を得た。
【0046】
(実施例4:粉体塗料(4)の調製)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A−1)82質量部及びDDDA 18質量部を、アクリル樹脂(A−4)83質量部及びDDDA 17質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(4)を得た。
【0047】
(比較例1:粉体塗料(R1)の調製)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A−1)82質量部及びDDDA 18質量部を、アクリル樹脂(RA−1)84質量部及びDDDA 16質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(R1)を得た。
【0048】
(比較例2:粉体塗料(R2)の調製)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A−1)82質量部及びDDDA 18質量部を、アクリル樹脂(RA−2)85質量部及びDDDA 15質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(R2)を得た。
【0049】
(比較例3:粉体塗料(R3)の調製)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A−1)82質量部及びDDDA 18質量部を、アクリル樹脂(RA−3)83質量部及びDDDA 17質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(R3)を得た。
【0050】
[評価用硬化塗膜の作製]
上記で得られた粉体塗料を未処理アルミ板(A−1050P)(7cm×15cm)に、焼き付け後の膜厚が80〜120μmとなるように静電粉体塗装した後、160℃で20分間焼き付けを行い、評価用硬化塗膜を作製した。
【0051】
[耐糸錆性の評価]
上記で得られた評価用硬化塗膜にカッターナイフで基材の素地に達するように13cmの直線の傷を2本入れ、CASS試験機にて次の試験を行った。温度50℃、噴霧液量1.2〜1.8cc/h、噴霧圧力0.1MPaの条件下、塩水(塩化銅(II)水和物2.6g、氷酢酸10cc、並塩500gを10Lのイオン交換水に溶解し調製)を6時間噴霧する試験1と、温度60℃、湿度85%の条件下96時間放置する試験2とを1サイクルとして、合計5サイクル行った。CASS試験終了後、塗装板の傷から生じた糸錆を目視にて確認し、耐糸錆性を下記の基準に従い評価した。
◎:直線に入れた傷に対して、糸錆が垂直方向に1mm未満である。
○:直線に入れた傷に対して、糸錆が垂直方向に1mm以上、2mm未満である。
×:直線に入れた傷に対して、糸錆が垂直方向に2mm以上である。
【0052】
上記の実施例1〜4で調製した粉体塗料(1)〜(4)及び比較例1〜3で調製した粉体塗料(R1)〜(R3)の配合組成及び評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1〜4の評価結果から、本発明の粉体塗料から得られる塗膜は耐糸錆性に優れることが確認された。
【0055】
一方、比較例1〜3は、本発明の粉体塗料の成分であるアクリル樹脂(A)の分子形態パラメータα値が0.5以上である例であるが、得られる塗膜の耐糸錆性が劣ることが確認された。