特許第6674686号(P6674686)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特許6674686被覆細胞、その製造方法及び被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法
<>
  • 特許6674686-被覆細胞、その製造方法及び被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法 図000002
  • 特許6674686-被覆細胞、その製造方法及び被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法 図000003
  • 特許6674686-被覆細胞、その製造方法及び被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674686
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】被覆細胞、その製造方法及び被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20200323BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12M3/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-544247(P2016-544247)
(86)(22)【出願日】2015年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2015073370
(87)【国際公開番号】WO2016027853
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2018年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-169699(P2014-169699)
(32)【優先日】2014年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 寧
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133629(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/027693(WO,A1)
【文献】 特開平06−142414(JP,A)
【文献】 特開平05−124705(JP,A)
【文献】 特開平05−200244(JP,A)
【文献】 長倉三郎 ほか,岩波 理化学辞典 第5版,2003年11月10日,p. 1505-1506,「濾過」の項目
【文献】 工学的細胞操作による創薬研究のための三次元ヒト生体組織体の構築,再生医療,2014年 1月27日,Vol. 13, Suppl,p. 130, SY-10-1
【文献】 ヒトiPS細胞由来心筋細胞表面への高分子ナノ薄膜コーティングのための新しい交互積層法の開発と三次元心,第63回高分子討論会 予稿集,高分子学会,2014年 9月 3日,Vol. 63, No. 2,p. 7307-7308, 2X05
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 − 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の表面に被膜を形成することを含む、細胞へのダメージを低減しつつ被覆細胞製造する方法であって、
前記被覆細胞は、細胞と前記細胞表面を覆う被膜とを含み、
前記被膜の形成は、
被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程を含み、
前記浸漬は、前記液及び/又は前記細胞を振とうしながら行うことを含み、
前記分離は、前記液透過性膜を振とうしながら行うことを含む、被覆細胞の製造方法。
【請求項2】
前記被膜の形成は、異なる2種類以上の成分を含む被膜を形成することを含む、請求項に記載の被覆細胞の製造方法。
【請求項3】
前記被膜の形成は、被膜成分である第1物質を含む被膜と、被膜成分であって前記第1物質とは異なる第2物質を含む被膜とを形成することを含み、
前記第1物質を含む被膜の形成は、
前記第1物質を含む第1液に細胞を浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記第1液とを液透過性膜によって分離する工程を含み、
前記第2物質を含む被膜の形成は、
前記分離した細胞を前記第1物質とは異なる第2物質を含む第2液に浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記第2液とを液透過性膜によって分離する工程を含む、請求項1又は2に記載の被覆細胞の製造方法。
【請求項4】
前記第1物質を含む被膜の形成と前記第2物質を含む被膜の形成とを交互に行うことを含む、請求項3に記載の被覆細胞の製造方法。
【請求項5】
前記被膜の形成は、さらにリンス工程を含み、
前記リンス工程は、
リンス液に前記分離工程により得られた細胞を浸漬させること、及び
前記リンス液に浸漬させた細胞と前記リンス液とを液透過性膜によって分離することを含む、請求項1からのいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記被膜の厚みが1nm〜1×10nmとなるように前記被膜の形成を行う、請求項1からのいずれかに記載の被覆細胞の製造方法。
【請求項7】
被覆細胞のLDH活性が、1000activity/μU以下である、請求項1から6のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法。
【請求項8】
細胞が、ヒトiPS細胞、ES細胞、心筋細胞、肝細胞、血管平滑筋細胞、膵島細胞、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞、ヒトiPS細胞由来の肝細胞、ヒトiPS細胞由来の血管平滑筋細胞、ヒトiPS細胞由来の膵島細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上のものである、請求項1から7のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法により製造された被覆細胞。
【請求項10】
DH活性が、1000activity/μU以下である、請求項9に記載の被覆細胞。
【請求項11】
前記被膜の厚みが1nm〜1×10nmである、請求項又は10に記載の被覆細胞。
【請求項12】
三次元組織体の製造方法であって、
細胞の表面に被膜が形成された被覆細胞を形成すること、及び
前記被覆細胞を三次元に配置することを含み、
前記被覆細胞の形成は、請求項1から8のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法により行う、三次元組織体の製造方法。
【請求項13】
請求項1からのいずれかに記載の被覆細胞の製造方法を実施するための装置であって、
被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる手段、及び
浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する手段を含む、装置。
【請求項14】
請求項12に記載の三次元組織体の製造方法を実施するための装置であって、
被覆細胞を三次元に配置する手段
を含み、
前記被覆細胞は、請求項1から8のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法によって形成されたものである、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆細胞、その製造方法及び被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体外で細胞の三次元組織を構築する技術が開発されている(例えば、特許文献1及び2)。特許文献1には、細胞層を形成する工程と、細胞層を第1物質含有液と第2物質含有液とに交互に積層させる工程とを繰返し行い、細胞外マトリックス(ECM)を介して細胞層を積層する技術が記載されている。特許文献2には、細胞表面全体が細胞外マトリックス膜で被覆された被覆細胞を基材上で培養することによって細胞の三次元組織を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−228921号公報
【特許文献2】特開2012−115254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元組織を実験動物の代替品や移植材料としての利用の普及を促進するためには、より高品質の三次元組織を効率よく製造することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ね、被膜成分を含有する液に浸漬させた細胞の回収を、液透過性膜を用いて行うことにより、被膜形成における細胞へのダメージを低減しつつ被覆細胞の収率(回収率)を向上できることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、細胞へのダメージを低減しつつ効率よく被覆細胞を製造する方法が提供される。本開示は、高品質な被覆細胞を提供しうる。このような被覆細胞を利用することで、細胞へのダメージを低減しつつ三次元組織が効率よく製造されうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1(Example 1)及び比較例1(Com.Example 1)における被膜形成に用いた細胞数(cell number)と収率(yield)との関係を示すグラフの一例である。
図2図2は、実施例1(Example 1)及び比較例1(Com.Example 1)におけるLDH活性(LDH activity)と被膜形成の回数(step number)との関係を示すグラフの一例である。
図3図3は実施例2及び比較例2の三次元組織体の画像の一例であって、図3Aは位相差写真であり、図3Bはヘマトキシリン・エオジン(HE)組織切片像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、被膜成分を含有する液に浸漬させた細胞の回収を、液透過性膜を用いて行うことにより、被膜形成における細胞へのダメージを低減しつつ被覆細胞の収率(回収率)を向上できるとの知見に基づく。
【0009】
一つの実施態様において、本開示は、細胞の表面に被膜を形成することを含む被覆細胞の製造方法であって、前記被覆細胞は、細胞と前記細胞表面を覆う被膜とを含み、前記被膜の形成は、前記被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる工程、及び前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程を含む、被覆細胞の製造方法に関する。
【0010】
他の実施態様において、本開示は、本開示の被覆細胞の製造方法により製造された被覆細胞に関する。
【0011】
別の実施態様において、本開示は、細胞と前記細胞表面を覆う被膜とを含む被覆細胞であって、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性が、1000activity/μU以下である被覆細胞に関する。
【0012】
別の実施態様において、本開示は、三次元組織体の製造方法であって、細胞の表面に被膜が形成された被覆細胞を形成すること、及び前記被覆細胞を三次元に配置することを含み、前記被覆細胞の形成は、前記被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させること、及び前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離することを含む、三次元組織体の製造方法に関する。
【0013】
別の実施態様において、本開示は、本開示の被覆細胞の製造方法を実施するための装置であって、被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる手段、及び浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する手段を含む、装置に関する。
【0014】
別の実施態様において、本開示は、本開示の三次元組織体の製造方法を実施するための装置であって、被覆細胞を三次元に配置する手段を含み、前記被覆細胞は、被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる工程、及び前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程によって形成されたものである、装置に関する。
【0015】
本開示により、被膜形成における細胞へのダメージを低減しつつ被覆細胞の収率(回収率)を向上できるというメカニズムの詳細については不明であるが、以下のように推定される。従来の被覆細胞の製造では、多くの場合に合計で15回を越える遠心分離処理が行われる。この遠心分離処理が細胞にストレスを与えて細胞膜を脆弱化させたり、さらには細胞を死滅させる場合がある。また、遠心分離処理後にピペット等による液の除去が行われるが、その際に、液と共に誤って細胞が取り除かれる場合がある。これに対し、被膜成分を含有する液の分離を液透過性膜によって行うことにより、従来の遠心分離処理と比較して被膜形成時における細胞へのストレスが軽減され細胞膜の脆弱化を防ぐことができ、被覆細胞の収率を向上できると推定される。ただし、これらの推測は本発明を限定するものではない。
【0016】
本開示によれば、一つの実施形態において、被膜形成時における細胞へのストレスを低減できるため、細胞膜の脆弱化が低減され、製造される被覆細胞の生存率が向上する。このため、本開示によれば、高品質の被覆細胞が製造されうる。また、本開示によれば、液透過性膜を用いて液との分離を行うことから、自動化及び/又は量産化が可能になりうる。本開示における「高品質の被覆細胞」について、「高品質」とは、細胞膜が脆弱化していないこと、細胞から放出されるLDH活性が無処理の細胞(被覆されていない細胞)のLDH活性と同じ又は同じ程度又は実質的に同じ程度又はほぼ同じ程度であること等が挙げられる。一つの実施形態において、細胞膜の脆弱化は、被膜の形成前後におけるLDH活性の増加率や細胞から放出されるLDH量等で評価することができる。例えば、被膜の形成前後におけるLDH活性の増加率が20%以下、15%以下、10%以下、10%未満、9%以下又は8%以下である場合、高品質の被覆細胞であると評価することができる。被膜の形成前後におけるLDH活性の増加率は、被覆細胞のLDH活性(LDHcoat)と被覆前(無処理)の細胞のLDH活性(LDHnon-coat)とを用いて下記式から求めることができる。
[増加率]={(LDHcoat−LDHnon-coat)/LDHnon-coat}×100
【0017】
本開示において「被覆細胞」とは、表面が被膜で覆われた細胞をいう。
【0018】
一つの実施形態において、細胞には、例えば、線維芽細胞、肝ガン細胞等のがん細胞、上皮細胞、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞及び免疫細胞等の接着性細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、血管平滑筋細胞が挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態において、細胞は、ヒト由来の細胞であってもよいし、ヒト以外の動物由来の細胞であってもよい。別の実施形態において、細胞は、胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞等の由来の細胞であってもよい。別の実施形態において、細胞は培養細胞であってもよい。別の実施形態において、培養細胞には、例えば、初代培養細胞、継代培養細胞、及び細胞株細胞が挙げられるが、これらに限定されない。細胞は、一種類でもよいし、二種類以上であってもよい。
【0019】
本開示は、上述のとおり、被膜形成時における細胞へのダメージを低減しうる。このため、一つの実形形態において、本開示は、ダメージに弱い細胞(ナイーブな細胞)への被膜形成に特に適している。ダメージに弱い細胞には、例えば、ヒトiPS細胞、ES細胞、心筋細胞、肝細胞、血管平滑筋細胞、膵島細胞、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞、ヒトiPS細胞由来の肝細胞、ヒトiPS細胞由来の血管平滑筋細胞、ヒトiPS細胞由来の膵島細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
一つの実施形態において、被膜は、細胞外マトリックスを含む。細胞外マトリックスには、例えば、生体内で細胞の外の空間を充填して骨格的役割、足場を提供する役割、及び生体因子を保持する役割等の少なくとも一つの役割を果たす物質が挙げられる。一つの実施形態において、細胞外マトリックスは、in vitro細胞培養において上記の役割を果たしうる物質や、人工的に合成された物質やその一部を含んでもよい。細胞外マトリックスの具体例には、例えば、フィブロネクチン、ゼラチン、コラーゲン、コラーゲンペプチド、ラミニン及びポリリジン等が挙げられる。細胞外マトリックスは、これらの例に限定されるものではなく、特開2007−228921号公報(特許第4919464号)及び特開2012−115254号公報に開示のものが挙げられる。一つの実施形態において、被膜は、1又は2種類以上の細胞外マトリックスを含んでいてもよい。他の実施形態において、被膜は、2以上の異なる細胞外マトリックスを含む膜を2層以上積層されている。
【0021】
別の実施形態において、被膜は、第1物質を含む膜及び第1物質と相互作用する第2物質を含む膜を含み、好ましくは第1物質を含む膜と第1物質と相互作用する第2物質を含む膜とが交互に積層されている。第1物質と第2物質との組み合わせには、例えば、RGD配列を有する高分子とRGD配列を有する高分子と相互作用する高分子との組み合わせ、又は、正の電荷を有する高分子と負の電荷を有する高分子との組み合わせが挙げられる。第1物質と第2物質との組み合わせの具体例には、フィブロネクチンとゼラチン(またはコラーゲンペプチド)、フィブロネクチンとε−ポリリジン、フィブロネクチンとヒアルロン酸、フィブロネクチンとデキストラン硫酸、フィブロネクチンとヘパリン、及びラミニンとゼラチン等が挙げられる。
【0022】
本開示において「液透過性膜」とは、被膜成分を含有する液と細胞とを分離可能な膜をいう。一つの実施形態において、液透過性膜としては、例えば、不織布、多孔質膜、フィルター、及びメッシュ等が使用できるが、これらに限定されない。他の実施形態において、液透過性膜には、例えば、細胞の分離膜として公知の分離膜、及び今後開発されうる分離膜が使用できる。例えば、液透過性膜は、液透過性膜上に細胞を保持できるものが好ましい。液透過性膜の孔径は、例えば、細胞直径の10〜90%の大きさである。当業者であれば、液透過性膜の孔径を、細胞の大きさ等に応じて適宜設定できる。一つの実施形態において、液透過性膜の孔径は、0.4〜8μm、又は3〜8μmである。
【0023】
[被覆細胞の製造方法]
一つの実施態様において、本開示は、被覆細胞の製造方法(以下、「本開示の被覆細胞の製造方法」ともいう)に関する。本開示の被覆細胞の製造方法は、細胞の表面に被膜を形成することを含み、被膜の形成は、前記被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる工程、及び前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程を含む。
【0024】
一つの実施形態において、細胞の浸漬工程は、細胞を、被膜成分を含有する液に浸漬させることにより行う。
【0025】
本開示において「被膜成分」とは、被膜を構成する成分、及び/又は被膜に含まれる成分をいう。被膜成分には、上述の細胞外マトリックスが挙げられる。
【0026】
一つの実施形態において、被膜成分を含有する液は、被膜成分及び溶媒を含む。被膜成分の含有量は、例えば、0.0001〜1質量%、0.01〜0.5質量%、又は0.02〜0.5質量%である。溶媒には、例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及び緩衝液等の水性溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。緩衝液には、例えば、Tris−HCl緩衝液等のTris緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、グリシルグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、Britton−Robinson緩衝液、及びGTA緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。溶媒のpHは、例えば、3〜11、6〜8、又は7.2〜7.4であるが、これらに限定されない。
【0027】
一つの実施形態において、浸漬条件は、被膜を構成する成分の種類及び濃度、細胞の種類及び濃度等に応じて適宜決定できる。浸漬時間は、例えば、30秒〜24時間、1分〜60分、1分〜15分、1分〜10分、又は1分〜5分であるが、これらに限定されない。浸漬時の周囲温度は、例えば、4〜60℃、20〜40℃、又は30〜37℃であるが、これらに限定されない。
【0028】
一つの実施形態において、細胞の浸漬は、細胞へのストレスを低減しつつ、効率よく被膜を形成する点から、液及び/又は細胞を振とうしながら行うことが好ましい。振とう速度は、例えば、3000rpm以下、100〜2000rpm、又は500〜1000rpmであるが、これらに限定されない。
【0029】
他の実施形態において、細胞の浸漬は、液透過性膜上で行ってもよく、液透過性膜が底面に配置された容器(例えば、セルカルチャーインサート等)を用いて行ってもよい。細胞へのストレスを低減しかつ工数を削減する点から、別の実施形態において、細胞の浸漬は、細胞を液透過性膜上に配置し、それを被膜成分を含有する液に浸漬させることによって行ってもよいし、また、液透過性膜上に細胞を配置し、そこに被膜成分を含有する液を添加することによって行ってもよい。別の実施形態において、細胞の浸漬は、細胞へのストレスを低減する点から、液透過性膜を振とうしながら細胞の浸漬を行うことが好ましい。振とう速度は、上述のとおりである。
【0030】
被膜成分を含有する液と細胞との分離工程は、液透過性膜によって浸漬した細胞と被膜成分を含有する液とを分離することにより行ってもよい。分離は、例えば、重力、毛管現象又は表面張力等を用いて行うことができる。一つの実施形態において、細胞と液との分離は、細胞へのストレスを低減する点から、液透過性膜を振とうしながら行うことが好ましい。また、他の実施形態において、同様の点から、細胞と液との分離は、液及び/又は細胞を振とうしながら行ってもよい。振とう速度は、例えば、3000rpm以下、100〜2000rpm、又は500〜1000rpmであるが、これらに限定されない。
【0031】
一つの実施形態において、被膜の形成は、リンス工程を含んでいてもよい。リンス工程は、分離工程により得られた細胞を、リンス液に浸漬させること、及びリンス液に浸漬させた細胞とリンス液とを液透過性膜によって分離することを含みうる。一つの実施形態では、予めリンス液を添加した容器(例えば、カルチャープレート等)に、細胞を配置した液透過性膜を配置することで、細胞をリンス液に浸漬させる。他の実施形態では、細胞を配置した液透過性膜を備える容器(例えば、セルカルチャーインサート等)に、リンス液を添加することで、細胞をリンス液に浸漬させる。リンス液の除去は、被膜成分を含有する液の除去と同様に行うことができる。一つの実施形態において、リンス工程は、上述の被膜成分を含有する液との分離工程毎に行うことが好ましい。リンス液としては、例えば、被膜成分を含有する液の調製に用いられうる溶媒が挙げられるが、他の溶媒であってもよい。一つの実施形態において、リンス液は、被膜成分を含有する液の調製に用いた溶媒が好ましい。
【0032】
他の実施形態において、被膜の形成は、異なる2種類以上の成分を含む被膜を形成することを含む。異なる2種類以上の成分を含む被膜の形成は、例えば、2種類以上の異なる被膜成分を含む液を使用したり、異なる被膜成分をそれぞれ含む2種類以上の液を交互に使用すること等により行うことができる。
【0033】
別の実施形態において、被膜の形成は、被膜を構成する成分である第1物質を含む被膜と、被膜を構成する成分であって前記第1物質とは異なる第2物質を含む被膜とを形成することを含む。さらに別の実施形態において、被膜の形成は、第1物質を含む被膜の形成と第2物質を含む被膜の形成とを交互に2回以上行うことを含む。第1物質及び第2物質には、上述のものが挙げられる。
【0034】
一つの実施形態において、第1物質を含む被膜と第2物質を含む被膜との形成は、第1物質を含む第1液と、第2物質を含む第2液との2種類の液を使用することにより行うことができる。一つの実施形態において、第1物質を含む被膜の形成は、第1物質を含む第1液に細胞を浸漬させる工程、及び前記浸漬させた細胞と第1液とを液透過性膜によって分離する工程を含む。一つの実施形態において、第2物質を含む被膜の形成は、第1物質とは異なる第2物質を含む第2液に第1液から分離した細胞を浸漬させる工程、及び記浸漬させた細胞と第2液とを液透過性膜によって分離する工程を含む。
【0035】
被膜の形成を行う回数は、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回又は11回以上であるが、これらに限定されない。一つの実施形態において、被膜の形成は、特に制限されるものではなく、形成される被膜の厚みが1nm以上、又は1nm〜1×103nmとなるように行う。
【0036】
一つの実施形態において、本開示の被覆細胞の製造方法により製造される被覆細胞は、細胞へのストレスが軽減され細胞膜の脆弱化が抑制されていることから、高品質であり、LDH活性が無処理の細胞(被覆されていない細胞)のLDH活性と同程度である。被覆細胞が心筋細胞又はヒトiPS由来の心筋細胞の被覆細胞である場合、一つの実施形態において、被覆細胞のLDH活性は、1000activity/μU以下、又は800activity/μU以下である。LDH活性は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0037】
本開示の被覆細胞の製造方法によれば、細胞の浸漬と液透過性膜を用いた分離(液の除去)とによって被膜を形成できるため、一つの実施形態において、自動化への応用が容易であり、好ましくは量産化が可能になりうる。
【0038】
[被覆細胞]
他の実施態様において、本開示は、本開示の被覆細胞の製造方法により製造された被覆細胞に関する。また、一つの実施形態において、本開示は、細胞と前記細胞表面を覆う被膜とを含む被覆細胞であって、LDH活性が、1000activity/μU以下である被覆細胞に関する。他の実施形態において、本開示の被服細胞は、被膜の厚みが1nm以上、又は1nm〜1×103nmである。本開示の被覆細胞において、被膜及び細胞は上述のとおりである。
【0039】
[三次元組織体の製造方法]
別の実施態様において、本開示は、三次元組織体の製造方法(以下、「本開示の三次元組織体の製造方法」ともいう)に関する。本開示の三次元組織体の製造方法は、本開示の被覆細胞を三次元に配置することを含む。一つの実施形態において、本開示の三次元組織体の製造方法は、本開示の被覆細胞を積層して培養することにより三次元組織体を形成することを含む。他の実施形態において、三次元組織体の形成は、特開2012−115254号公報に開示された方法及び実施例の記載を参酌して行うことができる。
【0040】
一つの実施形態において、本開示の三次元組織体の製造方法は、被覆細胞を形成することを含んでいてもよい。一つの実施形態において、被覆細胞の形成は、被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させること、及び前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離することを含む。他の実施形態において、被覆細胞の形成は、本開示の被覆細胞の製造方法により行うことができる。
【0041】
[被覆細胞の製造方法を実施するための装置]
別の実施態様において、本開示は、本開示の被覆細胞の製造方法を実施するための装置(以下、「本開示の被覆細胞の製造装置」ともいう)に関する。本開示の被覆細胞の製造装置は、被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる手段、及び浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する手段を含む。被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる手段には、例えばカルチャープレート、ディッシュ、フラスコ等が挙げられるが、これらに限定されない。浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する手段には、例えばセルカルチャーインサートが挙げられるが、これらに限定されない。一つの実施形態において、本開示の被覆細胞の製造装置は、プレート等をシェイクするための手段をさらに含んでもよい。プレート等をシェイクするための手段には、例えば混合・振とう機(例えば、ロータリーシェイカー)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本開示の被覆細胞の製造装置は、三次元組織体を製造する装置をさらに含んでもよい。三次元組織体を製造する装置については、以下に説明する。
【0042】
[三次元組織体の製造方法を実施するための装置]
別の実施態様において、本開示は、本開示の三次元組織体の製造方法を実施するための装置(以下、「本開示の三次元組織体の製造装置」ともいう)に関する。本開示の三次元組織体の製造装置は、被覆細胞を三次元に配置する手段を含み、ここで、被覆細胞は、被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる工程と、前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程によって形成されたものである。一つの実施形態において、被覆細胞を三次元に配置する手段は、被覆細胞を容器(例えば、セルカルチャーインサート、カルチャープレート、ディッシュ、フラスコ等)に播種する手段である。例えば、以下の実施例に示すように、本開示の被覆細胞をセルカルチャーインサートに播種し、培養することで、被覆細胞を三次元に配置しうる。本開示の三次元組織体の製造装置は、細胞の表面に被膜が形成された被覆細胞を形成する装置をさらに含んでもよい。被覆細胞を形成する装置は、被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる手段、及び前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する手段を含む。一つの実施形態では、被覆細胞を形成する装置は、上述した本開示の被覆細胞の製造装置である。
【0043】
以下に、本開示を具体的な実施形態を示しながら詳細に説明する。しかしながら、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0044】
(実施形態1)
本実施形態1では、第1物質(例えば、フィブロネクチン)を含む被膜と第2物質(例えば、ゼラチン)を含む被膜との2種類の被膜を交互に形成する形態を例にとり説明する。
【0045】
まず、培養した細胞をリンス工程に供する。
リンスは、セルカルチャーインサートに配置した細胞をリンス液(例えば、Tris−HCl)に浸漬し、その後、リンス液を除去することにより行うことができる。細胞の浸漬は、例えば、細胞が配置されたセルカルチャーインサートをリンス液(例えば、Tris−HCl)を含有する容器(ウェル又はディッシュ等)に配置し、所定の時間浸漬することにより行うことができる。次いで、インサートを容器から取り出すことにより、インサートのフィルターからリンス液を除去し、これにより細胞を回収することができる。細胞へのダメージを低減しつつ、リンス液と細胞とを分離する点から、ゆっくり振とうさせながらインサートを容器から取り出すことが好ましい。インサートの振とう速度は上述のとおりである。
【0046】
セルカルチャーインサートのメンブレンの孔径は、メンブレン上に細胞を保持でき、かつ液を透過できるものであればよく、通常の細胞培養に用いられるメンブレンの孔径が挙げられる。孔径は、一つの実施形態において、0.1μm〜20μm、又は0.4μm〜10μmである。メンブレンの材質には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
次に、第1物質を含む被膜を形成する。
被膜の形成は、リンスした細胞をインサートと共に、第1物質を含む液(例えば、フィブロネクチン/Tris−HCl液)に浸漬し、液を除去することにより行うことができる。細胞の浸漬は、リンスした細胞が配置されたインサートを、第1物質を含む液(例えば、フィブロネクチン/Tris−HCl液)が配置された容器に、所定の時間浸漬することにより行うことができる。浸漬は、細胞へのダメージを低減しつつ効率よく被膜を形成する点から、インサートをゆっくり振とうさせながら行うことが好ましい。次いで、インサートを容器から取り出すことにより、インサートのフィルターから第1物質を含む液を除去し、これにより細胞を回収することができる。細胞へのダメージを低減しつつ、第1物質を含む液と細胞とを分離する点から、ゆっくり振とうさせながらインサートを容器から取り出すことが好ましい。また、細胞の浸漬は、リンスした細胞が配置されたインサートを容器に配置し、そこに第1物質を含む液を添加することにより行ってもよい。
【0048】
次に、上記と同様にしてリンス工程を行った後、第2物質を含む被膜を形成する。
被膜の形成は、第1物質を含む液に替えて第2物質を含む液(例えば、ゼラチン/Tris−HCl液)を用いる以外は、第1物質を含む被膜の形成と同様の方法で行うことができる。浸漬は、細胞へのダメージを低減しつつ効率よく被膜を形成する点から、インサートをゆっくり振とうさせながら行うことが好ましい。次いで、インサートを容器から取り出すことにより、インサートのフィルターから第2物質を含む液を除去して細胞を回収する。細胞へのダメージを低減しつつ、第2物質を含む液と細胞とを分離する点から、ゆっくり振とうさせながらインサートを容器から取り出すことが好ましい。
【0049】
次に、上記と同様にしてリンス工程を行い、所定の厚みの被膜が形成されるまで、第1物質を含む被膜の形成、リンス工程、及び第2物質を含む被膜の形成をこの順番で繰返し行い、最後に第1物質を含む被膜の形成及びリンス工程を行う。これにより、第1物質を含む被膜と第2物質を含む被膜との2種類の被膜が細胞表面に交互に積層された被覆細胞が形成される。
【0050】
(実施形態2)
本実施形態2では、被覆細胞を用いた三次元組織体の製造方法について、血管内皮細胞の層(1層)を線維芽細胞の細胞層(2層以上)でサンドイッチして製造する形態を例にとり説明する。
【0051】
まず、線維芽細胞の被覆細胞(以下、「被覆線維芽細胞」ともいう)を準備する。被覆細胞は実施形態1に基づき作製できる。
【0052】
被覆線維芽細胞を基材上に播種して培養する。被覆線維芽細胞の播種は、被覆線維芽細胞が2層以上、好ましくは3層、4層、5層、8層又は10層以上積層されるように行う。播種時の線維芽細胞の密度は、一つの実施形態において、1×102〜1×109細胞/cm3、1×104〜1×108細胞/cm3又は1×105〜1×107細胞/cm3である。
【0053】
一つの実施形態において、培養は、ディッシュ内に培地を添加して行う。培地には、例えば、Eagle’s MEM培地、Dulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)、Modified Eagle培地(MEM)、Minimum Essential培地、RDMI、及びGlutaMax培地等が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、培養する細胞の種類に応じて、適宜培地を選択できる。一つの実施形態において、培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培養温度は、例えば、4〜60℃、20〜40℃、又は30〜37℃である。培養時間は、例えば、1〜24時間、又は6〜24時間である。
【0054】
次に、形成された積層体の上に血管内皮細胞を播種して培養する。血管内皮細胞は、血管内皮細胞の層が1層形成されるように配置する。血管内皮細胞は、被膜を形成したものを使用してもよいし、被膜が形成されていないものを使用してもよい。培養条件は上述のとおりである。
【0055】
ついで、血管内皮細胞の上に被覆線維芽細胞を播種して培養する。被覆線維芽細胞の播種及び培養は上記と同様に行う。これにより、内部に毛細血管様構造が形成された三次元組織体が形成できる。
【0056】
本実施形態2では血管内皮細胞の層(1層)を線維芽細胞の細胞層(2層以上)でサンドイッチして製造する形態を例にとり説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。他の実施形態において、血管内皮細胞と線維芽細胞とを混合して播種し培養することによって三次元組織体を形成してもよい。
【0057】
本実施形態2では線維芽細胞と血管内皮細胞とを用いて三次元組織体を製造する方法を例にとり説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。他の実施形態において、線維芽細胞に替えて又は併せて心筋細胞を用いて三次元組織体を製造してもよい。別の実施形態において、血管内皮細胞に替えて又は併せてリンパ管内皮細胞を用いて三次元組織体を製造してもよい。
【0058】
本開示は、以下の実施形態に関しうる。
[1] 細胞の表面に被膜を形成することを含む、被覆細胞の製造方法であって、
前記被覆細胞は、細胞と前記細胞表面を覆う被膜とを含み、
前記被膜の形成は、
細胞を、被膜成分を含有する液に浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程を含む、被覆細胞の製造方法。
[2] 前記浸漬は、前記液及び/又は前記細胞を振とうしながら行うことを含む、[1]記載の被覆細胞の製造方法。
[3] 前記分離は、前記液透過性膜を振とうしながら行うことを含む、[1]又は[2]に記載の被覆細胞の製造方法。
[4] 前記被膜の形成は、異なる2種類以上の成分を含む被膜を形成することを含む、[1]から[3]のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法。
[5] 前記被膜の形成は、被膜成分である第1物質を含む被膜と、被膜成分であって前記第1物質とは異なる第2物質を含む被膜とを形成することを含み、
前記第1物質を含む被膜の形成は、
細胞を、前記第1物質を含む第1液に浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記第1液とを液透過性膜によって分離する工程を含み、
前記第2物質を含む被膜の形成は、
前記分離した細胞を、前記第1物質とは異なる第2物質を含む第2液に浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記第2液とを液透過性膜によって分離する工程を含む、[1]から[4]のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法。
[6] 前記第1物質を含む被膜の形成と前記第2物質を含む被膜の形成とを交互に行うことを含む、[5]記載の被覆細胞の製造方法。
[7] 前記第1物質と前記第2物質との組み合わせが以下からなる群から選択される、[5]または[6]に記載の被覆細胞の製造方法:
(a)フィブロネクチン及びゼラチン;
(b)フィブロネクチン及びε−ポリリジン;
(c)フィブロネクチン及びヒアルロン酸;
(d)フィブロネクチン及びデキストラン硫酸;
(e)フィブロネクチン及びヘパリン;ならびに
(f)ラミニン及びゼラチン。
[8] 前記第1物質と前記第2物質との組み合わせがフィブロネクチン及びゼラチンである、[7]記載の被覆細胞の製造方法。
[9] 前記被膜の形成は、さらにリンス工程を含み、
前記リンス工程は、
前記分離工程により得られた細胞をリンス液に浸漬させること、及び
前記リンス液に浸漬させた細胞と前記リンス液とを液透過性膜によって分離することを含む、[1]から[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 前記被膜の厚みが1nm〜1×103nmとなるように前記被膜の形成を行う、[1]から[9]のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法。
[11] [1]から[10]のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法により製造された被覆細胞。
[12] 細胞と前記細胞表面を覆う被膜とを含む被覆細胞であって、
LDH活性が、1000activity/μU以下である、被覆細胞。
[13] 前記皮膜が、被膜成分である第1物質と、被膜成分であって前記第1物質とは異なる第2物質を含む、[12]記載の被覆細胞。
[14] 前記第1物質と前記第2物質との組み合わせが以下からなる群から選択される、[13]記載の被覆細胞:
(a)フィブロネクチン及びゼラチン;
(b)フィブロネクチン及びε−ポリリジン;
(c)フィブロネクチン及びヒアルロン酸;
(d)フィブロネクチン及びデキストラン硫酸;
(e)フィブロネクチン及びヘパリン;ならびに
(f)ラミニン及びゼラチン。
[15] 前記第1物質と前記第2物質との組み合わせがフィブロネクチン及びゼラチンである、[14]記載の被覆細胞。
[16] 前記被膜の厚みが1nm〜1×103nmである、[11]から[15]のいずれかに記載の被覆細胞。
[17] 三次元組織体の製造方法であって、
[11]から[16]のいずれかに記載の被覆細胞を三次元に配置することを含む、三次元組織体の製造方法。
[18] 前記被覆細胞を形成することを含む、[17]記載の三次元組織体の製造方法。
[19] 三次元組織体の製造方法であって、
細胞の表面に被膜が形成された被覆細胞を形成すること、及び
前記被覆細胞を三次元に配置することを含み、
前記被覆細胞の形成は、
被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させること、及び
前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離することを含む、三次元組織体の製造方法。
[20] 前記被覆細胞の形成は、[1]から[10]のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法により行う、[18]又は[19]に記載の三次元組織体の製造方法。
[21] [1]から[10]のいずれかに記載の被覆細胞の製造方法を実施するための装置であって、
被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる手段、及び
浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する手段
を含む、装置。
[22] [17]〜[20]のいずれかに記載の三次元組織体の製造方法を実施するための装置であって、
被覆細胞を三次元に配置する手段
を含み、
前記被覆細胞は、
被膜成分を含有する液に細胞を浸漬させる工程、及び
前記浸漬させた細胞と前記被膜成分を含有する液とを液透過性膜によって分離する工程によって形成されたものである、装置。
【0059】
以下、実施例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【0060】
なお、本明細書において、以下の略語を使用する。
50mM Tris−HCl(pH7.4):HCl(Nacalai Tesque社製)でpH7.4に調整した50mM Trisを、0.2μm γ−ray sterile filter(倉敷紡績株式会社製)で滅菌濾過したもの
BFN:Fibronectin from bovine plasma(Sigma−Aldrich社製)
FN液:0.2mg BFN/1ml 50mM Tris−HCl(pH7.4)
G液:0.2mg Gelatin/1ml 50mM Tris−HCl(pH7.4)
【実施例】
【0061】
(実施例1)
[被覆細胞の作製]
6wellカルチャープレート(Corning社製)のウェル及び6wellセルカルチャーインサート(corning社製、孔:3μm)を準備した。インサートに心筋細胞懸濁液(1〜10×106細胞/well)を入れた。500μlの50mM Tris−HClが配置されたウェルの中にインサートを配置した。細胞をTris−HClに浸漬させた状態で、プレート及びインサートを1分間500rpm、ロータリーシェイカーでシェイクした。その後、インサートを引き上げ、空のウェルに配置し、1000rpmで10〜20秒間シェイクしながら、インサートのメンブレンを通じてTris−HClを除去した(リンス処理)。ついで、500μlのFN液が配置されたウェルにTris−HClを除去したインサートを配置し、細胞をFN液に浸漬させた状態でプレート及びインサートを1分間500rpmでシェイクした後。その後、インサートを引き上げ、空のウェルに配置し、1000rpmで10〜20秒間シェイクしながら、インサートのメンブレンを通じてFN液を除去した。これにより細胞表面にFN膜を形成した(FN膜形成)。ついで、上記と同じ手順でリンス処理を行った。その後、500μlのG液が配置されたウェルにTris−HClを除去したインサートを配置し、細胞をG液に浸漬させた状態でプレート及びインサートを1分間500rpmでシェイクした後、インサートを引き上げ、空のウェルに配置し、1000rpmで10〜20秒間シェイクしながら、インサートのメンブレンを通じてG液を除去した。これにより細胞表面にG膜を形成した(G膜形成)。ついで、上記と同じ手順でリンス処理を行った。FN膜形成及びリンス処理と、G膜形成及びリンス処理とを交互に合計で9ステップ行い、細胞表面に(FN/G)4FN膜が形成された被覆心筋細胞を得た(被膜の厚み:およそ10nm)。
【0062】
[収率]
生細胞数をトリパンブルー染色及び血球計を用いた測定により求めて、収率を算出した。その結果を図1に示す。
[LDH活性測定]
FN膜又はG膜を形成するごとに細胞を回収し、被膜が形成された細胞のLDH活性を測定した。LDH活性の測定はLDH細胞毒性アッセイキットにより行った。その結果を図2に示す。
【0063】
(比較例1)
1〜10×106細胞の心筋細胞を遠心チューブに加え、0.04mg/mLのフィブロネクチンを含む50mM Tris−HCl(pH7.4)を1mL加えて37℃で1分間インキュベーションした。その後、800×gで1分間遠心分離を行い、上澄みを除去した(FN膜形成操作)。つぎに、50mM Tris−HCl(pH7.4)を1mL加えて37℃で1分間インキュベーションした。その後、800×gで1分間遠心分離を行い、上澄みを除去した(洗浄操作)。続いて、0.04mg/mLのゼラチンを含む50mM Tris−HCl(pH7.4)を1mL加えて37℃で1分間インキュベーションした。その後、800×gで1分間遠心分離を行い、上澄みを除去した(G膜形成操作)。つぎに、50mM Tris−HCl(pH7.4)を1mL加えて37℃で1分間インキュベーションした。その後、800×gで1分間遠心分離を行い、上澄みを除去した(洗浄操作)。FN膜形成操作及び洗浄操作と、G膜操作及び洗浄操作とを交互に合計で9ステップ行い、細胞表面に(FN/G)4FN膜が形成された被覆心筋細胞を得た(被膜の厚み:およそ10nm)。
【0064】
実施例1と同様にして収率及びLDH活性を測定した。これらの結果を図1及び2にそれぞれ示す。
【0065】
図1は心筋細胞懸濁液に含まれる細胞数(被膜形成に用いた細胞数)と収率との関係を示すグラフの一例であり、図2はLDH活性と被膜形成の回数との関係を示すグラフの一例である。図1に示すように、実施例1は、いずれの場合においても、比較例1と比較して収率が高かった。また、比較例1は被膜の形成工程(ステップ数)の増加と共にLDH活性が増加し、被膜形成終了(9ステップ)では被膜形成開始時(1ステップ目)よりもLDH活性が約4倍も上昇した。これに対し、実施例1ではLDH活性の増加は殆ど見られず、その増加率も10%未満であった。つまり、実施例1の方法によれば、細胞にダメージを殆ど与えることなく被膜を形成できることが確認できた。
【0066】
(実施例2)
実施例1で作製した被覆心筋細胞を用いて三次元組織体の作製を行った。24ウェルサイズのセルカルチャーインサートに1×106細胞の心筋細胞を播種し、4日間培養した。得られた三次元組織体の位相差写真及びHE組織切片像の一例を図3に示す。
【0067】
(比較例2)
比較例1で作製した被覆心筋細胞を用いた以外は実施例2と同様に三次元組織体の作製を行った。得られた三次元組織体の位相差写真及びHE組織切片像の一例を図3に示す。
【0068】
図3Aは三次元組織体の位相差写真の一例であり、図3BはHE組織切片像の一例である。図3A及びBにおいて上図が実施例2の三次元組織体であり、下図が比較例2の三次元組織体である。図3A及びBに示すように、実施例2の三次元組織体は、比較例2の三次元組織体と比較して、均一な組織を形成していることが確認できた。
【0069】
(実施例3)
被覆血管平滑筋細胞および血管内皮細胞を用いて三次元組織体の作製を行った。実施例1と同様の方法で、細胞表面に(FN/G)4FN膜が形成された被覆血管平滑筋細胞を得た。24ウェルサイズのセルカルチャーインサートに、作製した被覆血管平滑筋細胞(1×106細胞)を播種し、4日間培養した。得られた三次元組織体(以下、「第一の三次元組織体」ともいう)は、10層の血管平滑筋層を有していた。さらに、この第一の三次元組織体の上に、1×10細胞の血管内皮細胞を播種し、4日間培養した。得られた三次元組織体(以下、「第二の三次元組織体」ともいう)を、抗CD31抗体を用いて免疫染色した。免疫染色は従来公知の方法で行った。免疫染色の結果、第二の三次元組織体において、血管平滑筋層(10層)の上に血管内皮細胞層(1層)が形成されていることが確認された。また、血管平滑筋層中に血管内皮細胞が混在していないことが確認された。
【0070】
(比較例3)
比較例1と同様の方法で、(FN/G)4FN膜が形成された被覆血管平滑筋細胞を作製した。作製した被覆血管平滑筋細胞(1×106細胞)および血管内皮細胞(1×10細胞)を用いて、実施例3と同様の方法で、三次元組織体を得た。抗CD31抗体を用いた免疫染色の結果、一部の血管内皮細胞が血管平滑筋層中に混在していた。
図1
図2
図3