特許第6674774号(P6674774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674774
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】フィルム搬送装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20200323BHJP
   C23C 16/54 20060101ALI20200323BHJP
   B65H 27/00 20060101ALI20200323BHJP
   B65H 26/00 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C23C14/56 B
   C23C16/54
   B65H27/00 Z
   B65H26/00
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-247913(P2015-247913)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-110283(P2017-110283A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】飯島 栄一
(72)【発明者】
【氏名】廣野 貴啓
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−052872(JP,A)
【文献】 特開2010−121202(JP,A)
【文献】 特開2008−273700(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139834(WO,A1)
【文献】 特開2001−139198(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/078318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
B65H 26/00
B65H 27/00
C23C 16/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを繰り出す巻出しローラと、
前記巻出しローラから繰り出された前記フィルムを巻き取る巻取りローラと、
前記フィルムの搬送経路に配置され前記フィルムの処理面に所定の表面処理を施す処理部と、
前記巻出しローラと前記処理部との間に配置され、前記フィルムを巻き付け、前記処理面の両側縁部を支持する第1のガイドローラと、
前記巻出しローラと前記第1のガイドローラとの間、及び、前記第1のガイドローラと前記処理部との間の少なくとも1つに配置され、前記フィルムを巻き付け、前記フィルムの前記処理面とは反対側の非処理面を支持する第2のガイドローラと
を具備し、
前記第1のガイドローラ及び前記第2のガイドローラの少なくとも1つは、前記フィルムに作用する張力を前記フィルムの幅方向に沿った引張応力に変換する拡幅構造を有し、
前記第1のガイドローラは、
前記処理面に隙間をおいて対向する円柱状のロール面と、
前記ロール面上に、前記ロール面の中心軸の方向において離間して設けられ、前記処理面の両側縁部を支持する環状の一対のガイド部と、を有し、
前記一対のガイド部は、前記フィルムに作用する張力によって、前記処理面に接触する前記一対のガイド部のそれぞれの外周面が前記中心軸の方向において相互に離間するように変形することが可能な弾性材料で構成される
フィルム搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルム搬送装置であって、
前記第1のガイドローラに対向して配置され、前記フィルムを挟んで前記第1のガイドローラと接触する補助ローラをさらに具備する
フィルム搬送装置。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルム搬送装置であって、
前記補助ローラは、拡張ローラで構成される
フィルム搬送装置。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1つに記載のフィルム搬送装置であって、
前記第2のガイドローラは、拡張ローラで構成される
フィルム搬送装置。
【請求項5】
請求項〜4のいずれか1つに記載のフィルム搬送装置であって、
前記処理部と前記巻取りローラとの間に配置され、前記フィルムを巻き付け、前記処理面の両側縁部を支持する第3のガイドローラと、
前記処理部と前記第3のガイドローラとの間、及び、前記第3のガイドローラと前記巻取りローラとの間の少なくとも1つに配置され、前記フィルムを巻き付け、前記非処理面を支持する第4のガイドローラと
をさらに具備し、
前記第3のガイドローラ及び前記第4のガイドローラの少なくとも1つは、前記フィルムに作用する張力を前記フィルムの幅方向に沿った引張応力に変換する拡幅構造を有する
フィルム搬送装置。
【請求項6】
請求項に記載のフィルム搬送装置であって、
前記第3のガイドローラは、
前記第3のガイドローラのロール面の中心軸の方向において離間して設けられ、前記処理面の両側縁部を支持する、環状であって、一対の別のガイド部と、
前記別のガイド部間に配置された単数又は複数の補助ガイド部と
を有する
フィルム搬送装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のフィルム搬送装置であって、
減圧雰囲気において、
前記処理面及び前記非処理面の少なくとも1つに対向して配置されたヘッド部を有し、前記ヘッド部と前記フィルムとの間の距離を検出するセンサユニットと、
前記センサユニットの出力に基づいて、前記第1のガイドローラ又は前記第2のガイドローラによる前記フィルムの拡幅量、又は前記フィルムの搬送張力を調整する調整機構と
をさらに具備するフィルム搬送装置。
【請求項8】
請求項に記載のフィルム搬送装置であって、
前記ヘッド部は、前記フィルムの幅方向に配列された複数のセンサヘッドを含む
フィルム搬送装置。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1つに記載のフィルム搬送装置であって、
前記処理部は、
前記フィルムの前記非処理面を支持するメインローラと、
前記メインローラに対向して配置され、前記フィルムの前記処理面を成膜する成膜ユニットとを含む
フィルム搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムを連続的又は間欠的に送り出し、走行する上記フィルムに対して成膜処理、加熱処理、プラズマ処理等の表面処理を行いながら、当該フィルムを連続的又は間欠的に巻き取るフィルム搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻出しローラから連続的又は間欠的に送り出された長尺のベースフィルムを冷却用ローラに巻き付けながら、当該冷却用ローラに対向して配置された蒸発源からの蒸発物質をベースフィルム上に蒸着させ、蒸着後のベースフィルムを巻取りローラで巻き取る巻取式真空蒸着装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の巻取式真空蒸着装置において、ベースフィルムは搬送経路に設けられた複数のガイドローラによるガイド作用を受けながら搬送される。従来のガイドローラは、円柱状のロール面を有し、当該ロール面でベースフィルムの一方の面を支持することによりベースフィルムの搬送をガイドしている。
【0004】
ところが、ベースフィルム及び/又は蒸着材料の種類、成膜形態、装置の使用条件等により、ベースフィルムの処理領域をガイドローラのロール面に接触させるのは好ましくない場合がある。例えば、ベースフィルムの処理領域にガイドローラのロール面が接触すると、成膜部に微小のキズがついてしまう。
【0005】
このような問題を解決するために、押圧部を有する補助ローラをガイドローラに対向して設置する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の方法では、ベースフィルムの非使用領域である両端縁部をガイド部で支持することにより、ベースフィルムの処理領域がガイドローラのロール面に接触するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3795518号公報
【特許文献2】特許第5024972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、走行中のベースフィルムに作用する張力に起因するベースフィルムの幅方向における収縮を充分に抑えることができない。これにより、ベースフィルムに皺が生じてしまう。このような皺の発生は、巻取異常を誘発し、ベースフィルムの安定した走行の妨げとなる。また、皺が生じた部分は熱による影響を受けやすく、ベースフィルムに熱によるダメージを与えることがある。このような熱によるダメージを抑制するためには、成膜レートや処理パワーを低減させなければならず、生産性に影響が出てしまう。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、フィルムの処理領域を保護しつつ、走行中のフィルムの皺の発生を抑制することができるフィルム搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るフィルム搬送装置は、フィルムを繰り出す巻出しローラと、上記巻出しローラから繰り出された上記フィルムを巻き取る巻取りローラと、処理部と、第1のガイドローラと、第2のガイドローラとを具備する。
上記処理部は、上記フィルムの搬送経路に配置され、上記フィルムの処理面に所定の表面処理を施す。
上記第1のガイドローラは、上記巻出しローラと上記処理部との間に配置され、上記処理面の両側縁部を支持する。
上記第2のガイドローラは、上記巻出しローラと上記第1のガイドローラとの間、及び、上記第1のガイドローラと上記処理部との間の少なくとも1つに配置され、上記フィルムの上記処理面とは反対側の非処理面を支持する。
そして、上記第1のガイドローラ及び上記第2のガイドローラの少なくとも1つは、上記フィルムに作用する張力を上記フィルムの幅方向に沿った引張応力に変換する拡幅構造を有する。
【0010】
上記フィルム搬送装置において、第1のガイドローラ及び第2のガイドローラの少なくとも1つのガイドローラは上記拡幅構造を有するため、フィルムへの皺の発生を抑制しつつ、フィルムを連続的に処理部へ搬送することができる。これにより、フィルムの処理面を保護しながら、処理部におけるフィルムの熱ダメージを低減することができる。さらに、フィルムの安定した走行性が確保されるため、例えば巻取りローラにおける巻取り異常を効果的に抑制することが可能となる。
【0011】
上記第1のガイドローラは、一実施形態として、上記処理面に隙間をおいて対向する円柱状のロール面と、上記ロール面上にそれぞれ設けられ上記処理面の両側縁部を支持する一対のガイド部とを有してもよい。
【0012】
この場合、上記一対のガイド部は、上記フィルムに作用する張力を受けて相互に離間する方向へ変形することが可能な弾性材料で構成されてもよい。
あるいは、上記一対のガイド部の周面は、上記フィルムの側縁部に向かって上り傾斜となるテーパ面で構成されてもよい。
あるいは、上記フィルム搬送装置は、上記第1のガイドローラに対向して配置され上記フィルムを挟んで上記第1のガイドローラと接触する補助ローラをさらに具備してもよい。
これにより、フィルムの成膜領域を保護しつつ、フィルムの拡幅作用により皺の発生を抑えることができる。
【0013】
第2のガイドローラの拡幅構造としては、例えば、第2のローラは、拡張ローラで構成されてもよい。
【0014】
一方、上記フィルム搬送装置は、第3のガイドローラと、第4のガイドローラとをさらに具備してもよい。
上記第3のガイドローラは、上記処理部と上記巻取りローラとの間に配置され、上記処理面の両側縁部を支持する。
上記第4のガイドローラは、上記処理部と上記第3のガイドローラとの間、及び、上記第3のガイドローラと上記巻取りローラとの間の少なくとも1つに配置され、上記非処理面を支持する。
そして、上記第3のガイドローラ及び上記第4のガイドローラの少なくとも1つは、上記フィルムに作用する張力を前記フィルムの幅方向に沿った引張応力に変換する拡幅構造を有する。
これにより、表面処理が施されたフィルムの処理面を保護しながら、フィルムの安定した走行性を確保することができるため、巻取りローラにおける巻取り異常を効果的に抑制することができる。
【0015】
上記フィルム搬送装置は、センサユニットと、調整機構とをさらに具備してもよい。
上記センサユニットは、上記処理面及び上記非処理面の少なくとも1つに対向して配置されたヘッド部を有し、上記ヘッド部と上記フィルムとの間の距離を検出する。
上記調整機構は、上記センサユニットの出力に基づいて、上記第1のガイドローラ又は上記第2のガイドローラによる上記フィルムの拡幅量、又は上記フィルムの搬送張力を調整する。
【0016】
上記ヘッド部は、上記フィルムの幅方向に配列された複数のセンサヘッドを含んでもよい。
【0017】
上記処理部は、上記フィルムの上記非処理面を支持するメインローラと、上記メインローラに対向して配置され、上記フィルムの上記処理面を成膜する成膜ユニットとを含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によれば、フィルムの処理領域を保護しつつ、走行中のフィルムの皺の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るフィルム搬送装置を備えた蒸着装置の構成を示す概略縦断面図である。
図2】上記蒸着装置の要部の模式図である。
図3】比較例に係る蒸着装置の概略断面図である。
図4】比較例に係るガイドローラの構成及び作用を説明する概略図である。
図5】上記蒸着装置における第1のガイドローラ及び第3のガイドローラに適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの一構成例及びその作用を説明する要部断面図である。
図6】上記第1のガイドローラ及び第3のガイドローラに適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの他の構成例及びその作用を説明する要部断面図である。
図7】上記蒸着装置における第2のガイドローラ及び第4のガイドローラに適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの一構成例及びその作用を説明する要部断面図である。
図8】上記第2のガイドローラ及び第4のガイドローラに適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの他の構成例及びその作用を説明する要部断面図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係るフィルム搬送装置を示す概略構成図である。
図10】上記フィルム搬送装置におけるガイドローラと補助ローラとの組み合わせ例を示す要部断面図である。
図11】上記フィルム搬送装置におけるセンサユニットの構成例を示す概略図である。
図12】上記第1及び第3のガイドローラの構成の変形例を示す図である。
図13】上記フィルム搬送装置に適用される合紙機構の一構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルム搬送装置を備えた巻取式真空蒸着装置(以下、蒸着装置という)の構成を示す概略縦断面図である。
なお、図において、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交する3軸方向を示しており、本実施形態ではX軸及びY軸は水平方向を、Z軸は高さ方向をそれぞれ示している。
【0022】
[蒸着装置の全体構成]
蒸着装置1は、巻出しローラ2と、巻取ローラ3と、メインローラ4と、成膜ユニット6と、これらを収容する真空チャンバ7とを備える。蒸着装置1は、巻出しローラ2から連続的又は間欠的に送り出された長尺のベースフィルム(以下、フィルムFという)をメインローラ4に巻き付けながら、当該メインローラ4に対向して配置された成膜ユニット6からの蒸発物質をフィルムF上に蒸着させ、蒸着後のフィルムFを巻取りローラ3で巻き取るように構成される。
【0023】
真空チャンバ7は、密閉構造を有し、排気ラインLを介して真空ポンプPに接続される。これにより、真空チャンバ7は、その内部が所定の減圧雰囲気に排気又は維持可能に構成される。
【0024】
真空チャンバ7は内部に仕切板8を有する。当該仕切板8は、真空チャンバ7のZ軸方向における略中央部に配置されており、所定の大きさの開口部を有する。当該開口部の周縁部は、所定の隙間を空けてメインローラ4の外周面に対向している。真空チャンバ7の内部は、仕切板8により、仕切板8よりZ軸方向の上側にある搬送室9と、仕切板8よりZ軸方向の下側にある成膜室10とに区画される。
【0025】
成膜室10には排気ラインLが接続されている。したがって、真空チャンバ7の内部を排気する際には、まず、成膜室10の内部が排気される。一方、上述のように仕切板8とメインローラ4との間には所定の隙間があるため、この隙間を通して搬送室9の内部も排気される。これにより、成膜室10と搬送室9との間に圧力差が生じる。この圧力差により、成膜ユニット6からの蒸発材料の蒸気流が搬送室9に侵入するのを防ぐことができる。
【0026】
なお、本実施形態では、排気ラインLを成膜室10にのみ接続したが、搬送室9にも別の排気ラインを接続することにより、搬送室9と成膜室10とを同時にあるいは独立して排気してもよい。
【0027】
巻出しローラ2、巻取りローラ3、メインローラ4、ガイドローラ5A〜5Hは、フィルム搬送機構50(フィルム搬送装置)を構成する。巻出しローラ2、巻取りローラ3、及びメインローラ4は、それぞれ図示しない回転駆動部を備え、X軸に平行な軸まわりに回転可能に構成される。
【0028】
巻出しローラ2及び巻取りローラ3は、搬送室9内に配置され、それぞれの回転駆動部により図1の矢印で示す方向(時計回り)に所定速度で回転可能に構成される。なお、巻出しローラ2の回転方向はこれに限られず、メインローラ4に向かってフィルムFを繰り出せる限り、どの方向に回転させてもよい。同様に、巻取りローラ3の回転方向も時計回りに限られず、メインローラ4からフィルムFを巻き取れる限り、どの方向に回転させてもよい。
【0029】
メインローラ4は、フィルムFの搬送経路において巻出しローラ2と巻取りローラ3との間に配置される。具体的には、メインローラ4のZ軸方向における下部の少なくとも一部が、仕切板8に設けられた開口部を通して成膜室10に臨むような位置に配置される。
【0030】
また、メインローラ4は、巻出しローラ2及び巻取りローラ3と同様に、回転駆動部により時計回りに所定速度で回転可能に構成される。さらに、メインローラ4は、鉄あるいはステンレス鋼等の金属材料で筒状に構成され、その内部に図示しない冷却媒体又は加熱媒体の循環機構を備える。これにより、メインローラ4上のフィルムを所定温度に冷却又は加熱することが可能となる。メインローラ4の大きさは特に限定されないが、典型的には、軸方向の長さ(軸長)はフィルムFの幅と同じかそれよりも長い。
【0031】
ガイドローラ5A,5B,5C,及び5Dは、フィルムFの搬送経路において巻出しローラ2とメインローラ4との間に配置され、フィルムFの走行をガイドする。また、ガイドローラ5E,5F,5G,及び5Hは、フィルムFの搬送経路において巻取りローラ3とメインローラ4との間に配置され、フィルムFの走行をガイドする。各ガイドローラ5A〜5Hの詳細については、後述する。
【0032】
成膜ユニット6は、図1に示すように、成膜室10に配置され、蒸発源61と、防着板62とを有する。
【0033】
蒸発源61は、メインローラ4のZ軸方向における直下に配置される。蒸発源61は、図示せずとも、蒸発材料を保持する容器としての丸型の坩堝と、当該坩堝の外周部を取り囲む誘導コイルとを含む。上記誘導コイルは、真空チャンバ7の外部に設置された図示しない交流電源に電気的に接続されている。蒸発源61は、誘導加熱方式により、フィルムFの成膜面(処理面)に堆積させる蒸発材料の蒸気を生成する。ただし、これに限定されず、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱等により、蒸発材料を加熱してもよい。
【0034】
蒸発材料は特に限定されず、例えば、Al、Co、Cu、Ni、Ti等の金属元素単体のほか、Al−Zn、Fe−Co等の二種以上の金属、多元系の合金、SiOx、AlOx等の酸化物あるいは有機物等が適用される。なお、蒸発源61の数は1つに限られず、複数設けられてもよい。
【0035】
防着板62は、開口部621を有し、メインローラ4と蒸発源61との間に配置される。また、防着板62は、図示しない支持部を介して真空チャンバ7の内壁に接続され、真空チャンバ7の内壁面への蒸発材料の付着を防止する。防着板62を構成する材料は特に限定されず、典型的にはステンレス鋼や銅等の金属材料が適用される。
【0036】
図2は、メインローラ4と防着板62との関係を示す、フィルムFの搬送方向から見た模式図である。開口部621は、防着板62の略中央部に設けられた矩形の貫通孔であり、メインローラ4の外周面に対向して配置される。開口部621の大きさや形状は特に限定されず、蒸発源61との距離やフィルムFとの距離等に応じて適宜設定可能である。本実施形態において開口部621は、フィルムFの成膜領域を規定するマスクとして機能する。当該マスクを設けることにより、図2に示すように、フィルムFの成膜領域のみに蒸着膜Fmが成膜される。
【0037】
フィルムFは、所定幅に裁断された長尺のプラスチックフィルムからなり、例えば、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルム、CPP(無軸延伸ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PI(ポリイミド)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム等が用いられる。また、フィルムFは、ステンレス鋼、銅箔、鉄板等の金属箔であってもよいし、織物やガラスフィルム等であってもよい。
【0038】
フィルムFの厚さは、特に限定されず、例えば、約5μm〜100μmである。また、フィルムFの幅や長さについては特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。典型的には、フィルムFには、1000m以上の長尺フィルムが用いられる。
【0039】
本実施形態において、フィルムFには、その成膜面の両側縁部、すなわちフィルム幅方向の両端縁部が非成膜領域とされるものや、成膜面の全域が成膜される場合であってもその両側縁部が不使用領域とされるものが用いられる。成膜面の両側縁部を非成膜領域とするためには、例えば、メインローラ4と蒸発源61との間に成膜領域を制限するマスクを設置すればよい。上記マスクは、図2に示すように開口部621を有する防着板62で構成されてもよいし、防着板62とメインローラ4との間に別途配置されたマスク材が用いられてもよい。
【0040】
図1に示すように、蒸着装置1は、真空チャンバ7の外部に設置されたコントローラ11をさらに備える。コントローラ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータ等により構成され、蒸着装置1の各部を統括的に制御する。コントローラ11は、例えば、真空ポンプPの動作の制御、各ローラの回転駆動及び位置制御、蒸発源61における蒸発材料の蒸発量の制御等を行う。
【0041】
[フィルム搬送機構]
続いて、フィルム搬送機構50の詳細について説明する。
【0042】
(背景)
フィルム搬送機構50は、複数のガイドローラ5A〜5Hを有する。巻出しローラ2から巻き出されたフィルムFは、複数のガイドローラ5A〜5Dによって走行をガイドされながら、メインローラ4と仕切板8との間に形成された所定の隙間を通って、所定の抱き角でメインローラ4の周面に巻回される。メインローラ4の外周面に接触するフィルムFの内側の面(非成膜面または非処理面)は、メインローラ4によって所定温度以下に冷却あるいは所定温度以上に加熱される。メインローラ4に巻回されたフィルムFは、メインローラ4の回転により時計回りに搬送され、その搬送過程で、成膜ユニット6により蒸発材料の膜がフィルムFの成膜面の成膜領域に形成される(図2参照)。成膜されたフィルムFは、ガイドローラ5E〜5Hを介して巻取りローラ3に巻き取られる。
【0043】
フィルム搬送機構50において、フィルム搬送経路に各々設置されたメインローラ4及び蒸発源61(成膜ユニット6)は、フィルムFの処理面に所定の表面処理を施す処理部に相当する。上記処理部としては、成膜処理部に限られず、これに代えて又はこれに加えて、フィルムFの加熱脱ガス・水分除去、表面クリーニング、表面改質のためのイオンビームや電子ビーム等の荷電ビーム照射処理、オイルマスキング処理、プラズマを用いた除電処理等の種々の表面処理ユニットが適用可能である。例えば、荷電ビーム照射処理ユニットは、ガイドローラ5Aとガイドローラ5Bとの間に設置することができ、除電処理のためのイオンボンバード機構は、メインローラ4とガイドローラ5Eとの間に設置することができる。
【0044】
その一方で、フィルムFまたは成膜材料の種類、成膜形態、装置の使用条件などにより、フィルムFの成膜領域をガイドローラのロール面に接触させることができない場合がある。フィルムFの成膜領域にガイドローラのロール面が接触すると、成膜部に微小なキズがつくなどの問題を招くからである。
【0045】
この場合、例えば図3に示す蒸着装置2のように、フィルムFの非成膜面のみを支持するガイドローラ5A,5B,5D,5E,5G,及び5HによってフィルムFの走行をガイドする方法が考えられる。しかし、この方法では、フィルムFとガイドローラ5B,5D,5E,5Gとの間に十分な接触角(抱き角)を確保することができないためフィルムFの安定した走行性を確保することができないこと、ガイドローラの配置位置が制限されるため装置構成上の制約が大きくなること、等の不具合が生じる。
【0046】
そこで、フィルムFの成膜面に接触するガイドローラを図4Aに示すような構成にする方法がある。図4Aに示すガイドローラ29は、円柱状のロール面29aに、フィルムFの両側縁部を支持するように互いに離間して突出形成された一対の環状のガイド部29bを備えている。各ガイド部29bは、非成膜領域あるいは不使用範囲であるフィルムFの両側縁部を支持し、フィルムFの成膜領域Fcとロール面29aとの接触を回避する。
【0047】
しかしながら、フィルムFは長尺であり、かつ張力が加えられた状態で搬送されるため、フィルムFの中央部が撓み、図4Bに示すようにフィルムFの成膜面Faがガイドローラ29のロール面29aに接触する場合がある。さらに、フィルムFの安定したガイド機能が果たせず、フィルムFの走行経路が乱れ、巻取りローラ3によるフィルムFの巻取りに支障をきたすおそれがある。
【0048】
一方、一対のガイド部29bにフィルムFを挟んで対向する一対の補助ローラを設置し、この補助ローラでフィルムFの両側縁部をガイド部29bに向けて押圧することで、フィルム中央部の撓みを抑える方法がある。しかし、この方法においても、フィルムの張力の影響でフィルム中央部の撓みを十分に抑えることはできない。
【0049】
さらに、加熱処理、冷却処理、放電処理、成膜処理等のプロセスによって熱の収支があるため、フィルムの温度は走行位置に応じて変化する。このため、フィルムの走行方向と直交する幅方向に張力あるいは上記幅方向に分力を加えなければフィルムに皺などが発生し、これが原因でフィルムまたは成膜層がダメージを受けるおそれがある。この場合、ガイドローラが図4Aに示したような段付き構造を有する場合、ガイドローラに接する部分と接しない部分との間でフィルムに応力が発生するため、フィルムに与えるダメージはより甚大となる。特に、厚さが50μm以下のフィルムでは、皺の発生およびそれによるダメージがより一層顕著である。
【0050】
そこで本実施形態では、上述のような問題を解消するため、フィルム搬送機構50が以下のように構成されている。
【0051】
(基本構成)
本実施形態のフィルム搬送機構50は、図1に示すように、第1のガイドローラ51と、第2のガイドローラ52とを有する。第1のガイドローラ51は、巻出しローラ2とメインローラ4(処理部)との間に配置され、フィルムFの成膜面(処理面)の両側縁部を支持する。一方、第2のガイドローラ52は、巻出しローラ2と第1のガイドローラ51との間、及び、第1のガイドローラ51とメインローラ4との間の少なくとも1つに配置され、フィルムFの成膜面とは反対側の非成膜面(非処理面)を支持する。
【0052】
本実施形態において、第1のガイドローラ51は、ガイドローラ5Cに適用され、第2のガイドローラ52は、ガイドローラ5Cの直上流側のガイドローラ5Bと、ガイドローラ5Cの直下流側のガイドローラ5Dとにそれぞれ適用される(図1参照)。
【0053】
そして本実施形態において、第1のガイドローラ51及び第2のガイドローラ52の少なくとも1つは、フィルムFに作用する張力をフィルムFの幅方向に沿った引張応力に変換する拡幅構造を有する。
【0054】
本実施形態において、巻出しローラ2とメインローラ4との間には、フィルムFの成膜面の両側縁部を支持する第1のガイドローラ51が設けられているため、フィルムFの安定した走行性を確保しつつ、フィルムFの成膜面(成膜領域)を保護することができる。また、第1及び第2のガイドローラ51,52のうち少なくとも1つがフィルムFを拡幅させる構造を有するため、巻出しローラ2から繰り出されたフィルムFを、皺の発生を抑えながら、メインローラ4へ搬送することができる。これにより、メインローラ4上におけるフィルムFの皺の発生を極力抑えて、フィルムFの非成膜面とメインローラ4との間の密着性を確保し、成膜処理中のフィルムの熱ダメージを低減することができる。
【0055】
さらに、本実施形態のフィルム搬送機構50は、図1に示すように、第3のガイドローラ53と、第4のガイドローラ54とをさらに有する。第3のガイドローラ53は、メインローラ4と巻取りローラ3との間に配置され、フィルムFの成膜面の両側縁部を支持する。一方、第4のガイドローラ54は、メインローラ4と第3のガイドローラ53との間、及び、第3のガイドローラ53と巻取りローラ3との間の少なくとも1つに配置され、フィルムFの非成膜面を支持する。
【0056】
本実施形態において、第3のガイドローラ53は、ガイドローラ5Fに適用され、第4のガイドローラ54は、ガイドローラ5Fの直上流側のガイドローラ5Eと、ガイドローラ5Fの直下流側のガイドローラ5Gとにそれぞれ適用される(図1参照)。
【0057】
そして、第3のガイドローラ53及び第4のガイドローラ54の少なくとも1つは、フィルムに作用する張力を前記フィルムの幅方向に沿った引張応力に変換する拡幅構造を有する。
【0058】
本実施形態のフィルム搬送機構50において、メインローラ4と巻取りローラ3との間には、フィルムFの成膜面の両側縁部を支持する第3のガイドローラ53が含まれているため、フィルムFの安定した走行性を確保しつつ、成膜済のフィルムFの成膜面(成膜領域)を保護することができる。また、第3及び第4のガイドローラ53,54のうち少なくとも1つがフィルムFを拡幅させる構造を有するため、メインローラ4上で成膜されたフィルムFを、皺の発生を抑えながら、巻取りローラ3へ搬送することができる。これにより、巻取りローラ3でのフィルムFの巻取り異常を防止することができる。
【0059】
(拡幅構造)
フィルムにその幅方向に沿った引張力を付与するガイドローラの拡幅構造としては、種々の構成が採用可能である。以下、第1〜第4のガイドローラに適用可能な拡幅構造の幾つかの構成例について説明する。
【0060】
(適用例1)
図5A,Bは、第1のガイドローラ51及び第3のガイドローラ53に適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの一例を示す要部断面図である。
【0061】
図5A、Bに示すガイドローラ151は、円柱状のロール面510と、ロール面510の両端部に設けられた一対のガイド部520とを有する。一対のガイド部520は、ゴム、エラストマー等の弾性材料からなる環状のローラ部品で構成され、各々の内周面523がロール面510に固定される。一対のガイド部520は、相互に対向する第1の端部521と、第1の端部521の反対側の第2の端部522とを有する。また、一対のガイド部520は、フィルムFの両側縁部を支持する外周面524を有し、当該外周面524のフィルム幅方向に沿った幅寸法がフィルムFの非成膜領域の幅と同等かそれよりも小さくなるように構成される。外周面524には、当該外周面524の変形を容易とするため、その全周にわたって単数又は複数の環状溝526が設けられている。
【0062】
各ガイド部520の第1の端部521は、ロール面510に対して所定の角度傾斜するテーパ面で構成される。本実施形態では、第1の端部521は、ロール面510の中心軸Cと同心的な円錐台形の周面で構成され、各ガイド部520の第1の端部521は、相互に接近する方向に外径が小さくなるように形成されている。
【0063】
一方、各ガイド部520の第2の端部522は、ロール面510の軸方向における端部を底面とするすり鉢状の凹部525(図5A,Bにおいて右側の凹部にのみ符示。)を有する。凹部525は、ロール面510の中心軸Cと同心的であり、その断面形状は等脚台形に形成される。凹部525は、その底部側に最小径D1を有し、その開口側に最大径D2を有する。凹部525の最小径D1はガイド部520の内周面523の径と等しく、最大径D2はガイド部520の外周面524の径と等しい。
【0064】
フィルムFの搬送中においては、ガイドローラ151に対して図5A中矢印で示す方向にフィルムFの張力T1が作用する。フィルムFの成膜面の両側縁部を支持する一対のガイド部520は、ロール面510に向かって押圧されて、局所的に弾性変形する。この時、各第2の端部522が凹部525を有するため、一対のガイド部520は相互に離間する方向に変形し、これらガイド部520の変形により、図5Bにおいて矢印で示す方向にフィルムFを拡張させる引張応力T2が生じる。このように一対のガイド部520は、フィルムFを支持しつつ、フィルムFに作用する張力をフィルムFの幅方向に沿った引張応力に変換するガイド面として機能する。これにより、ガイドローラ151上においてフィルムFへの皺の発生を防止し、フィルムFの成膜領域とロール面510との間の非接触状態を維持して上記成膜領域を保護することができることになる。
【0065】
(適用例2)
図6A,Bは、第1のガイドローラ51及び第3のガイドローラ53に適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの他の構成例を示す要部断面図である。
【0066】
図6A,Bに示すガイドローラ152は、円柱状のロール面510と、ロール面510の両端部に設けられた一対のガイド部530とを有する。一対のガイド部530は、金属材料等からなる高剛性の環状のローラ部品で構成され、ロール面510の両端に固定される。一対のガイド部530は、フィルムFの両側縁部を支持する外周面531を有し、これら外周面531は、それぞれフィルムFの側縁部に向かって上り傾斜となるテーパ面で構成される。
【0067】
フィルムFの搬送中においては、ガイドローラ152に対して図6A中矢印で示す方向にフィルムFの張力T1が作用する。一対のガイド部530の外周面531は、上述したテーパ面で構成されているため、張力T1は、フィルムFをその幅方向に拡幅させる引張応力T2に変換される。このように一対のガイド部530は、フィルムFを支持しつつ、フィルムFに作用する張力をフィルムFの幅方向に沿った引張応力に変換するガイド面として機能する。これにより適用例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
(適用例3)
一方、図7は、第2のガイドローラ52及び第4のガイドローラ54に適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの構成の一例を示す図である。
【0069】
図7に示すガイドローラ153は、ロール径が中央部から両端部に向かって連続的に大きくなるように構成されたコンケーブローラで構成される。この種のガイドローラ153は、軸心のまわりに回転しながら、フィルムFの非成膜面の全域を支持しつつ、走行途上でフィルムFへ拡幅方向に引張応力T2を付与する。これにより、フィルムFへの皺の発生が防止される。
【0070】
(適用例4)
また、図8は、第2のガイドローラ52及び第4のガイドローラ54に適用可能な拡幅構造を有するガイドローラの他の構成例を示す図である。
【0071】
図8に示すガイドローラ154は、フィルムFの走行方向下流側に凸なる形状に湾曲したバナナローラあるいはエキスパンダローラで構成される。このような構成のガイドローラにおいても、適用例3と同様に、フィルムFの拡幅機能を得ることができる。
【0072】
(フィルム搬送機構の動作)
以上のように構成される本実施形態のフィルム搬送機構50においては、図1に示すように、ガイドローラ5Cが第1のガイドローラ51で構成され、その直上流側及び直下流側のガイドローラ5B,5Dが第2のガイドローラ52で構成されているため、ガイドローラ5Aを介して巻出しローラ2から繰り出されたフィルムFは、その成膜面(成膜領域)を保護されつつ、拡幅作用を受けながらメインローラ4へ搬送される。したがって、フィルムFに皺を生じさせることなくフィルムFをメインローラ4の周面に密着させることができるため、フィルムFの熱ダメージを抑えながらフィルムFを成膜することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態のフィルム搬送機構50においては、図1に示すように、ガイドローラ5Fが第3のガイドローラ53で構成され、その直上流側及び直下流側のガイドローラ5E,5Gが第4のガイドローラ54で構成されているため、メインローラ4上で成膜されたフィルムFは、その成膜面(成膜領域)を保護されつつ、拡幅作用を受けながら、ガイドローラ5Hを介して巻取りローラ3に巻き取られる。したがって、フィルムFに皺を生じさせることなくフィルムFを巻取りローラ3へ搬送することができるため、フィルムFの巻取り異常を防止することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態によれば、フィルム搬送途上において、フィルムFの皺の発生を抑制することができるため、フィルムFへの荷電ビームの照射処理や除電処理等をも適切に行うことができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、ガイドローラ5C,5FとフィルムFとの接触部がフィルムFの一部(両側縁部)に限定されているため、フィルムFがガイドローラ5C,5Fから離れるときに発生し得る剥離帯電を抑制することができ、これにより更に安定したフィルム走行性を実現することができる。そして、ガイドローラ5C,5Fへのフィルム接触部を最小化できると同時に剥離帯電を防止できることから、フィルムFへのパーティクルの付着が抑えられ、プロセスの歩留まりの飛躍的な向上が図れることになる。
【0076】
ここで、本実施形態では、ガイドローラ5B及び5Dの両方が拡幅機能を有する第2のガイドローラ52で構成されたが、ガイドローラ5A,5B及び5Dのうち少なくとも1つが拡幅機能を有する第2のガイドローラ52で構成されてもよいし、これらのガイドローラ5A,5B及び5Dが拡幅機能を有しない通常のガイドローラで構成されてもよい。あるいは、ガイドローラ5A,5B及び5Dのいずれかが拡幅機能を有する第2のガイドローラで構成される場合、フィルムFの成膜面を支持するガイドローラ5Cは、拡幅機能を有しなくてもよい。
【0077】
すなわち、ガイドローラ間の距離が所定以下の場合やフィルムFの厚さ(剛性)が所定以上の場合、あるいはフィルムFの搬送速度が所定以上の場合等においては、1つのガイドローラによるフィルムFへの拡幅作用が他のガイドローラ上のフィルムにも有効に付与される。したがって、ガイドロールの設置間隔やフィルムFの厚さ(剛性)、搬送速度等によっては、フィルムFに拡幅作用を付与するガイドローラを任意に選択することができる。このことは、メインローラ4と巻取りローラ3との間に位置するガイドローラ5E〜5Hについても同様に適用可能である。
【0078】
<第2の実施形態>
続いて、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0079】
図9は、本発明の第2の実施形態に係るフィルム搬送装置を示す概略構成図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0080】
本実施形態のフィルム搬送装置150は、例えば、第1の実施形態で説明したような巻取式真空蒸着装置におけるフィルム搬送機構として用いられる。フィルム搬送装置150は、第1の実施形態と同様に、巻出しローラ2と、巻取りローラ3と、メインローラ4と、複数のガイドローラ15A〜15Hとを有する。ガイドローラ15A,15B,15D,15E,15G及び15H並びにメインローラ4はそれぞれフィルムFの非成膜面を支持し、ガイドローラ15C及び15FはそれぞれフィルムFの成膜面を支持する。
【0081】
本実施形態のフィルム搬送装置150において、ガイドローラ15C及び15Fは、フィルムFの成膜面の両側縁部を支持する第1及び第3のガイドローラで構成される。一方、ガイドローラ15A,15B,15D,15E,15G,15Hの少なくとも1つは、例えば図7及び図8に示したようなフィルムFの拡幅機能を有する第2及び第4のガイドローラで構成される。
【0082】
そして、本実施形態のフィルム搬送装置150は、図9に示すように、補助ローラ25C,25Fをさらに備える。補助ローラ25C,25Fはそれぞれ、ガイドローラ15C,15F(第1のガイドローラ、第3のガイドローラ)に対向して配置され、フィルムFを挟んでガイドローラ15C,15Fと接触するように構成される。
【0083】
図10A,Bは、ガイドローラ15Cと補助ローラ25Cとの組み合わせ例を示す要部断面図である。
なお、これらの構成例は、ガイドローラ15Fと補助ローラ25Fとの組み合わせにも同様に適用可能であるため、以下、ガイドローラ15Cと補助ローラ25Cとの組み合わせ例を中心に説明する。
【0084】
図10A,Bに示す構成例では、ガイドローラ15Cとして、図5に示したガイドローラ151が採用される。
図10Aに示す補助ローラ25Cは、円筒状のロール面251と、そのロール面251の軸方向の両端に設けられた一対の環状のガイド部252とを有するガイドローラ250で構成される。各ガイド部252の外周面は円筒形状に形成され、フィルムFの非成膜面(図において上面)の両側縁部を支持する。
一方、図10Bに示す補助ローラ25Cは、補助ローラ15Cを構成するガイドローラ151と同一構成のガイドローラで構成され、フィルムFの非成膜面(図において上面)の両側縁部を支持する。
【0085】
補助ローラ25Cは、図示しない付勢機構を介してガイドローラ15Cに押圧される。これによりフィルムFの両側縁部は、ガイドローラ15Cと補助ローラ25Cとに挟持された状態で搬送される。これにより、ガイドローラ15Cの一対のガイド部520が相互に離間する方向へ弾性変形するため、フィルムFの拡幅作用が得られ、これによりフィルムFへ皺を発生させることなく、また、フィルムFの成膜面(図中下面)をガイドローラ15Cのロール面510に接触させることなく、フィルムFを搬送することが可能となる。
【0086】
図10Aに示す構成例では、ガイドローラ15C及び補助ローラ25Cのうちガイドローラ15CにフィルムFの拡幅機能を付与したが、これに限られず、補助ローラ25CにフィルムFの拡幅機能を付与してもよい。その構成例を図10Cに示す。
【0087】
フィルムFの拡幅量は、ガイドローラ15Cに対する補助ローラ25Cの押圧力によって調整することが可能である。ガイドローラ15Cに対する補助ローラ25Cの押圧力は、外部からの制御指令(例えばコントローラ11(図1参照)からの制御指令)によって調整可能に構成されてもよい。この場合、フィルムFの搬送経路の適宜の位置に配置されたセンサユニットによってフィルムFの平面度(撓み)を検出し、その検出出力に基づいてコントローラ11が補助ローラ25Cの上記押圧力を調整するように構成されてもよい。上記センサユニットの位置は、図9において例えばS1〜S6で符示する任意の1つ以上の位置とすることができる。
【0088】
図11A,Bは、上記センサユニットの構成例を示す概略図である。
【0089】
センサユニット16は、図11Aに示すように、フィルムFの成膜面及び非成膜面のうち一方の面に対向して配置されたヘッド部161を有し、ヘッド部161とフィルムFとの間の距離を検出する。本実施形態において、ヘッド部161は、フィルムFの幅方向に沿って配列された複数のセンサヘッド162を有する。複数のセンサヘッド162は、それぞれ、フィルムFとの間の距離を検出可能に構成される。
【0090】
距離の検出方法は特に限定されず、例えば、光学式の距離測定技術を用いることができる。また、フィルムFにあらかじめ金属膜が設けられている場合や、成膜ユニット6(図1参照)において金属膜が成膜される場合は、光学式に加えて又はこれに代えて、渦電流式や静電容量式の距離測定技術を用いることができる。
【0091】
センサユニット16は、複数のセンサヘッド162の出力に基づいてフィルムFへの皺の発生を検出する。すなわち、ヘッド部161とフィルムFとの間の相対距離に分布が生じた場合、センサユニット16はそれをフィルムFにおける皺の発生として検出する。
【0092】
なお、センサユニット16は、図11Bに示すように、フィルムFの両方の面に対向して配置されてもよい。これにより、フィルムFにおける皺の発生を、より高感度に検出することができる。
【0093】
複数のセンサヘッド162は、配線163を介してコントローラ11に接続される。コントローラ11は、センサユニット16の各センサヘッド162からの出力に基づいて、フィルムFの皺の有無を検出し、必要に応じて、フィルムFの拡幅量又はフィルムFの搬送張力を調整する。
【0094】
フィルムFの拡幅量又は搬送張力を調整する方法又は調整機構としては、例えば、巻出しローラ2、巻取りローラ3又はメインローラ4の回転速度を制御してもよいし、ガイドローラ15C,15Fに対する補助ローラ25C,25Fの押圧力を調整してもよい。あるいは、ガイドローラ15A〜15Hの少なくとも1つを、回転駆動源を有する駆動ローラで構成し、そのガイドローラの回転速度を制御することでフィルムFの張力を調整することも可能である。さらに、ガイドローラ15A〜15Hの一部を張力調整用のダンサーローラで構成し、そのダンサーローラの位置を可変に調整してもよい。
【0095】
なお、上述したセンサユニット16及び調整機構は、第1の実施形態で説明したフィルム搬送機構50に対しても同様に適用可能である。
【0096】
本実施形態によれば、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。特に本実施形態によれば、センサユニット16により、フィルム搬送経路の適宜の位置でフィルムFの皺の有無あるいは皺の程度を検出することができるため、フィルムの搬送張力、あるいは、拡幅機能を有するガイドローラ(例えばガイドローラ15C,15F等)上でのフィルム拡幅量の最適化を図ることができる。これにより、フィルムFへの皺の発生を未然に防止することができるため、フィルムFの安定した走行性が確保され、フィルムに対する適切な表面処理を実現し、更にフィルムFの巻取り異常を防止することができる。
【0097】
さらに、フィルムFの表面位置を検出しフィルムFの搬送張力を調整することにより、フィルムFに作用する応力を制御することができるため、後工程でのフィルム応力の偏在、応力履歴による不良を低減することができる。
【0098】
したがって、これらの作用効果により、今後のフレキシブルデバイス等の高機能性フィルムに要求される、ベースフィルムに微細加工を施したフィルム、ベースフィルムにアンダーコートを施したフィルム、ベースフィルムに真空中でトップコートを施したフィルム、フィルム両面プロセス等の処理において、歩留り及び生産性の向上を図ることが可能となる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0100】
例えば以上の実施形態では、フィルムFの成膜面を支持するガイドローラ5C,5F,15C,15Fとして、フィルムFの両側縁部を支持する一対のガイド部を有するガイドローラが用いられたが、両側縁部以外に不使用領域を有するフィルムの搬送に際しては、図12A,Bに概略的に示したガイドローラ35が用いられてもよい。
【0101】
図12A,Bに示すガイドローラ35は、円筒状のロール面351と、そのロール面351の軸方向両端部に設けられた一対の環状のガイド部352と、これら一対のガイド部352間に配置された単数又は複数の補助ガイド部353とを有する。補助ガイド部353は、ガイド部352と同径の環状体で構成され、ロール面351の適宜の位置に設けられる。具体的には、フィルムFの成膜面の両側縁部以外の不使用領域に対向する位置に、補助ガイド部353が配置される。
【0102】
このようにフィルムFの不使用領域の数や位置に合わせて補助ガイド部353が追加的に設けられたガイドローラ35を用いることにより、フィルムFの走行安定性をさらに高めることが可能となる。
【0103】
また、第2のガイドローラに付与される拡幅構造は、図7及び図8に示したコンケーブローラやエキスパンダローラに限られず、拡幅機能を有する公知のガイドローラ全般に適用可能である。その他、ガイドローラの数や構成、配置等も上述の例に限定されず、適宜設定可能である。成膜ユニット6についても同様に、成膜方式の種類に応じて適宜選択可能であり、例えばスパッタリングカソードやCVD用シャワープレート等の他の成膜源が用いられてもよい。また、成膜以外にも、エッチングやイオンビーム加工、熱処理などの上述したような他の表面処理が適用可能である。
【0104】
さらに、成膜後のフィルムへのごみなどの転写、フィルムの貼り付き防止のため、図13に示す合紙機構を上述の各実施形態に組み合わせることによって、高機能性フィルムの処理に対してさらに有効である。
【0105】
図13に示す合紙機構17は、巻取りローラ3の近傍に配置され、独自の回転駆動部を備えていないフリーローラで構成される。合紙機構17には、合紙Sが巻回される。合紙Sは成膜後のフィルムFの非成膜面と重なり合って巻取りローラ3にフィルムFと共に巻き取られる。合紙Sには、フィルムFの表面を保護する保護シートが用いられる。フィルムFの間に合紙Sを介在させることにより、フィルム非成膜に付着したパーティクルがフィルム成膜面に転写されることを防止して、フィルム成膜面を保護することができる。
【0106】
本発明に係るフィルム搬送装置は、フレキシブル有機ELデバイスの生産装置、FCCL、メタルメッシュ、タッチパネル用ITO膜の生産装置、電子部品用バリア膜の生産装置等、ロールツーロール方式の処理装置全般に広く適用可能である。特に、成膜前においてはフィルム表面の損傷、フィルム表面へのパーティクルの付着、ローラ表面に付着した異物のフィルムへの転写等の防止のため、また成膜後においては成膜面の保護と搬送によるフィルムの帯電防止のため、本発明に係るフィルム搬送技術はさらに重要になる。
【符号の説明】
【0107】
1…蒸着装置
2…巻出しローラ
3…巻取りローラ
4…メインローラ
50,150…フィルム搬送機構(フィルム搬送装置)
5A〜5H、15A〜15H…ガイドローラ
6…成膜ユニット
11…コントローラ
16…センサユニット
17…合紙機構
25C,25F…補助ローラ
51,151,152…第1のガイドローラ
52,153,154…第2のガイドローラ
53,151,152…第3のガイドローラ
54,153,154…第4のガイドローラ
352,520,530…ガイド部
F…フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13