(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674786
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】チョコレート菓子及びチョコレート菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/36 20060101AFI20200323BHJP
A23G 1/54 20060101ALI20200323BHJP
A23D 9/00 20060101ALN20200323BHJP
【FI】
A23G1/36
A23G1/54
!A23D9/00 510
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-18934(P2016-18934)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-136013(P2017-136013A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】西村 研
(72)【発明者】
【氏名】金田 泰佳
【審査官】
野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/143223(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/051388(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/034601(WO,A1)
【文献】
特開平09−037705(JP,A)
【文献】
特開昭63−240745(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/065726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00− 9/52
A23D 7/00− 9/06
A23L 2/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の全部又は一部にチョコレートからなるチョコレート表面を有し、前記チョコレート表面の下層には、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物が配されており、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記チョコレート表面から前記ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物までの層厚が1mm以下であることを特徴とするチョコレート菓子。
【請求項2】
第1チョコレートからなるセンターと、前記第1チョコレートからなるセンターの外側に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層の外側に第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなし、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記第2チョコレートの層の層厚が1mm以下であることを特徴とするチョコレート菓子。
【請求項3】
第1チョコレートからなるセンターと、前記第1チョコレートからなるセンターを覆う、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層を覆う第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなし、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記第2チョコレートの層の層厚が1mm以下であることを特徴とするチョコレート菓子。
【請求項4】
センターの外側に第1チョコレートの層と、前記第1チョコレートの層の外側に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層の外側に第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなし、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記第2チョコレートの層の層厚が1mm以下であることを特徴とするチョコレート菓子。
【請求項5】
センターと、それを覆う第1チョコレートの層と、前記第1チョコレートの層を覆う、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層を覆う第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなし、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記第2チョコレートの層の層厚が1mm以下であることを特徴とするチョコレート菓子。
【請求項6】
前記チョコレート表面から前記ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物までの層厚が0.05〜1mmである請求項1記載のチョコレート菓子。
【請求項7】
前記第2チョコレートの層は、その層厚が0.05〜1.0mmである請求項2〜6のいずれか1つに記載のチョコレート菓子。
【請求項8】
第1チョコレートからなるセンターを、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆して、該油脂含有組成物の層を形成し、前記油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆して、該第2チョコレートの層を形成することを特徴とするチョコレート菓子の製造方法であって、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記第2チョコレートの層の層厚が1mm以下である、チョコレート菓子の製造方法。
【請求項9】
センターを、第1チョコレートで被覆して、該第1チョコレートの層を形成し、前記第1チョコレートの層を、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆して、該油脂含有組成物の層を形成し、前記油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆して、該第2チョコレートの層を形成することを特徴とするチョコレート菓子の製造方法であって、前記油脂含有組成物はBOBを含有する粉体状組成物であり、前記第2チョコレートの層の層厚が1mm以下である、チョコレート菓子の製造方法。
【請求項10】
前記第2チョコレートを、その層厚が0.05〜1.0mmとなるように被覆する請求項8又は9記載のチョコレート菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ブルーム性に優れたチョコレート菓子、及びそのためのチョコレート菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートにおいては、いわゆるファットブルーム現象によって、時間経過により表面に白い模様が浮き出たり、融点を上昇させて口どけが悪くなったりして、商品価値を低下させるという問題があった。その主な原因は、チョコレートに含まれるカカオ由来油脂の結晶構造のうちβ型が粗大結晶化することとされ、それに伴う相分離による組織変化が、外観及び食感を低下させると考えられている。ファットブルームを回避するためには、チョコレートに含まれる油脂の結晶構造を安定化するため、シード剤としてブルーム抑制用油脂を添加する方法が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの安定結晶型粒子を融解することなくチョコレート配合物に添加混合することにより、チョコレートのブルームの発生を抑制することが記載されている。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2には、炭素原子数20〜24の構成飽和脂肪酸を含むSUS型グリセリドと、炭素原子数20以上の構成飽和脂肪酸を含まないSSU型および/またはSUS型のグリセリドとが共晶で存在し、前者の結晶が安定型であるショートニングを、その炭素原子数20〜24の構成飽和脂肪酸を含むSUSグリセリドの安定型結晶を実質的に保持した状態でチョコレート配合物に添加混合することにより、チョコレートのブルームの発生を抑制することが記載されている。
【0005】
また、例えば、下記特許文献3には、炭素数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素数20−24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを予め含有する溶融したチョコレート類生地に、炭素数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素数20−24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの安定化結晶を油脂の主成分とする粉末状のチョコレート添加剤を添加することにより、チョコレートのブルームの発生を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−123922号公報
【特許文献2】特開平9−103244号公報
【特許文献3】特開2007−259737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では、ブルーム抑制用油脂をチョコレートの生地に混合するので、その混合の際に、チョコレートの生地に含まれる他の油脂への溶解作用等によりブルーム抑制効果を示す安定型結晶が消失あるいは減少してしまい、ブルーム抑制効果が十分に付与されない場合があった。また、ブルーム抑制用油脂の混合による粘度上昇により、作業性よくチョコレート菓子を製造することができない場合があった。更に、その製造の際の品温管理も煩雑であった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題の解決された、耐ブルーム性に優れたチョコレート菓子を得るための新たな技術を提供することにある。また、そのためのチョコレート菓子及びチョコレート菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、ブルーム抑制用油脂をチョコレート菓子のチョコレート表面の下層に配することで、そのチョコレート表面のブルームの発生を有効に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のチョコレート菓子は、表面の全部又は一部にチョコレートからなるチョコレート表面を有し、前記チョコレート表面の下層には、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物が配されていることを特徴とする。
【0011】
本発明のチョコレート菓子によれば、チョコレート菓子のチョコレート表面の下層にブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物が配されているので、そのブルーム抑制用油脂の作用が確実にチョコレート表面に及ぼされて、少量でも有効にチョコレート菓子に耐ブルーム性を付与することができる。また、チョコレートの生地中にブルーム抑制用油脂を含有せしめて製造する場合に比べて、粘度上昇などによる作業性への不都合を回避することができる。
【0012】
本発明のチョコレート菓子においては、第1チョコレートからなるセンターと、前記第1チョコレートからなるセンターの外側に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層の外側に第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなすことが好ましい。
【0013】
また、第1チョコレートからなるセンターと、前記第1チョコレートからなるセンターを覆う、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層を覆う第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなすことが好ましい。
【0014】
また、センターの外側に第1チョコレートの層と、前記第1チョコレートの層の外側に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層の外側に第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなすことが好ましい。
【0015】
また、センターと、それを覆う第1チョコレートの層と、前記第1チョコレートの層を覆う、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、前記油脂含有組成物の層を覆う第2チョコレートの層とを有し、前記第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなすことが好ましい。
【0016】
また、前記ブルーム抑制用油脂は、安定型結晶の状態の炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むことが好ましい。
【0017】
また、前記第2チョコレートの層は、その層厚が0.05〜1.0mmであることが好ましい。
【0018】
一方、本発明のチョコレート菓子の製造方法の第1は、第1チョコレートからなるセンターを、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆して、該油脂含有組成物の層を形成し、前記油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆して、該第2チョコレートの層を形成することを特徴とする。
【0019】
上記製造方法によれば、第1チョコレートからなるセンターと第2チョコレートの層との間に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層を形成することにより、チョコレート菓子に有効に耐ブルーム性を付与することができる。よって、チョコレートの生地中にブルーム抑制用油脂を含有せしめて製造する場合に比べて、粘度上昇などによる作業性への不都合を回避することができる。
【0020】
他方、本発明のチョコレート菓子の製造方法の第2は、センターを、第1チョコレートで被覆して、該第1チョコレートの層を形成し、前記第1チョコレートの層を、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆して、該油脂含有組成物の層を形成し、前記油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆して、該第2チョコレートの層を形成することを特徴とする。
【0021】
上記製造方法によれば、センターの外側に配された第1チョコレートの層と第2チョコレートの層との間に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層を形成することにより、チョコレート菓子に有効に耐ブルーム性を付与することができる。よって、チョコレートの生地中にブルーム抑制用油脂を含有せしめて製造する場合に比べて、粘度上昇などによる作業性への不都合を回避することができる。
【0022】
本発明のチョコレート菓子の製造方法においては、前記ブルーム抑制用油脂は、安定型結晶の状態の炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むことが好ましい。
【0023】
また、前記第2チョコレートを、その層厚が0.05〜1.0mmとなるように被覆することが好ましい。
【0024】
また、前記ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層は、該組成物が粉体状に調製されたものを被覆してなる層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ブルーム抑制用油脂をチョコレート菓子のチョコレート表面の下層に配することで、そのチョコレート表面にブルームが発生するのを有効に抑制することができる。これにより、ブルーム抑制用油脂をチョコレートの生地に混合する際の粘度上昇などによる作業性の悪さや品温管理の煩わしさ等を伴うことなく、耐ブルーム性に優れたチョコレート菓子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のチョコレート菓子の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明のチョコレート菓子の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において「チョコレート」は、規約や法規上の規定によって限定されるものではなく、カカオマス、ココア、ココアバター、ココアバター代用脂等を使用した油脂加工食品全般を意味するものとする。
【0028】
本明細書において「ブルーム」は、チョコレートが部分的又は全体的に淡色化することであり、視覚で認識できる程度のものをいう。
【0029】
本明細書において「テンパリングタイプ」は、加温してシードとなる結晶が実質的に存在しない状態からテンパリング(調温)の処理を行なわないで固化させたときにブルームが生じるタイプのチョコレートの原料・生地をいう。
【0030】
(チョコレート)
本発明に用いられるチョコレートは、通常の方法で得られたものであればよく、特に制限はない。例えば、カカオマス及び/又はココア、糖類、粉乳、乳化剤、ココアバター及び/又はココアバター代用脂、香料等のチョコレート原料を用いて、原料をミキシングし、リファイニングを行った後、コンチングを行うこと等により得ることができる。その糖類としては、例えば、砂糖に、必要に応じてトレハロース、乳糖等の他の糖類や、糖アルコールなどを配合したものが好ましく用いられる。また、その粉乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳などを用いることができる。また、その乳化剤としては、レシチンなどが好ましく用いられる。
【0031】
本発明は、テンパリングタイプのチョコレートの原料・生地を用いたときの、そのチョコレート菓子のブルームの発生を抑制するために好ましく適用される。すなわち、カカオ脂等のカカオ由来油脂の配合量を比較的多くすることができて風味がよく、なお且つ、耐ブルーム性を備えたチョコレートを提供することができる。
【0032】
(油脂含有組成物)
以下には、本発明に用いられるブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物について説明する。
【0033】
本発明に用いられるブルーム抑制用油脂としては、炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドなどが挙げられる。この2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドは、例えば、特開平7−123922号公報、特開平9−103244号公報、特開2007−259737号公報等に開示されている、酵素活性を利用した位置選択的エステル交換法によって調製することができる。より具体的には、高オレイン酸ヒマワリ油等、グリセリドの2位に不飽和脂肪酸(主としてオレイン酸)を有する油脂に対して、炭素原子数20〜24の飽和脂肪酸をエステル交換して、その飽和脂肪酸を1,3位に選択的に結合すること等によって得ることができる。炭素原子数20〜24の飽和脂肪酸は、例えば、菜種油等を硬化、分解、精留して得られるアラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、そのエステル類等であってよい。あるいは、上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドとして1,3−ジベヘノイル−2−オレイルグリセリド(以下、「BOB」という。)は、従来、チョコレート用のブルーム抑制用油脂(シード剤)として知られ、市販されており、これを使用してもよい。なお、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの存在状態は、その全部又は少なくとも一部が安定型結晶であることを要する。これにより、その結晶がシードとなってチョコレートに耐ブルーム性を効果的に付与することができる。安定型であることは、示査走査熱量測定により、その油脂が安定型結晶の状態のときに呈する固有の昇温融解吸熱ピーク温度や、あるいはX線回析測定において面間隔4.58−4.59Åに相当するピークが安定型を示すことを考慮することで確認できる。
【0034】
上記油脂含有組成物において、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの含有量は、その油脂の総量として全体中に0.6〜100質量%含有することが好ましく、10〜70質量%含有することがより好ましい。また、全油脂成分に対する質量割合にして、その油脂の総量として2〜100質量%含有することが好ましく、20〜100質量%含有することがより好ましい。
【0035】
(チョコレート菓子)
以下には、本発明のチョコレート菓子について説明する。
【0036】
本発明のチョコレート菓子においては、ブルーム抑制用油脂をチョコレート菓子のチョコレート表面の下層に、そのチョコレート表面のブルームの発生を抑制するのに有効な量で配する。その構成に特に制限はないが、好ましくは以下のような構成が挙げられる。
【0037】
(1)第1チョコレートからなるセンターと、その第1チョコレートからなるセンターの外側に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、その油脂含有組成物の層の外側に第2チョコレートの層とを配し、その第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなしている。
【0038】
(2)第1チョコレートからなるセンターと、その第1チョコレートからなるセンターを覆う、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、その油脂含有組成物の層を覆う第2チョコレートの層とを配し、その第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなしている。
【0039】
(3)センターの外側に第1チョコレートの層と、その第1チョコレートの層の外側に、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、その油脂含有組成物の層の外側に第2チョコレートの層とを配し、その第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなしている。
【0040】
(4)センターと、それを覆う第1チョコレートの層と、その第1チョコレートの層を覆う、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物の層と、その油脂含有組成物の層を覆う第2チョコレートの層とを配し、その第2チョコレートの層の全部又は一部が前記チョコレート表面をなしている。
【0041】
なお、第1チョコレート、油脂含有組成物、及び第2チョコレートの各々の「層」とは、チョコレート菓子の表面から垂直方向に垂線を引いたときに貫く所定厚さ(長さ)の範囲に、第1チョコレート、油脂含有組成物、及び第2チョコレートのそれぞれに由来する成分・構成がその他の部分に比べて局在している部分が形成されていることを意味し、例えば電子顕微鏡やレーザー顕微鏡による観察やその他分析方法で確認できれば必ずしも層状の形状が視認できなくてもよく、見た目には単一の組織に見えることもあり得る。また、油脂含有組成物が第1チョコレートの全部を覆ってもよく、第1チョコレートの一部の外側に配されているか、あるいは第1チョコレートの一部を覆うように配されていてもよい。また、第2チョコレートが油脂含有組成物の全部を覆ってもよく、油脂含有組成物の一部の外側に配されていてもよいが、ただし、外観の観点からは、第2チョコレートが油脂含有組成物のおよそ全部を覆うことが好ましい。
【0042】
第1チョコレートと第2チョコレートとは、チョコレートの生地として同一のものを用いてもよく、チョコレートの生地としてそれぞれ異なるものを用いてもよい。また、上記(1),(2)の構成では第1チョコレートがチョコレート菓子のセンターを構成しているが、センターは、上記(3),(4)の構成のように、他の具材で構成してもよい。その具材としては、チョコレート類、ビスケット類、クッキー類、スナック類、ナッツ類、パフ類、ドライフルーツ類、キャンディー類などが挙げられる。これらの具材を含有することにより、チョコレート菓子の食感や風味に変化をもたらすことができる。
【0043】
チョコレート菓子のチョコレート表面にブルームが発生するのを抑制するには、第2チョコレートの層の層厚が0.05〜1.0mmであるようにすることが好ましく、0.1〜0.5mmであるようにすることがより好ましい。上記範囲より層厚が厚いとチョコレート菓子のチョコレート表面にブルームが発生するのを抑制する効果が乏しくなる傾向があり、上記範囲より層厚が薄いとチョコレートで油脂含有組成物の層を覆い難くなり、外観が悪くなるので、いずれも好ましくない。また、油脂含有組成物は、チョコレート菓子の全体量に対して0.05〜1.0質量%の量で用いることが好ましく、0.1〜0.8質量%の量で用いることがより好ましい。上記範囲より用いる油脂含有組成物の量が少ないとチョコレート菓子のチョコレート表面にブルームが発生するのを抑制する効果が乏しくなる傾向があり、上記範囲より用いる油脂含有組成物の量が多いとチョコレートで油脂含有組成物の層を覆い難くなり、外観が悪くなるので、いずれも好ましくない。
【0044】
上記に説明したような構成によって、ブルーム抑制用油脂をチョコレート菓子のチョコレート表面の下層に配することができるが、本発明の奏する作用効果を害しない範囲で、その他の構成を採用してもよい。
【0045】
(チョコレート菓子の製造方法)
以下には、本発明のチョコレート菓子の製造方法について説明する。
【0046】
上記に説明したような、ブルーム抑制用油脂をチョコレート菓子のチョコレート表面の下層に配するように構成したチョコレート菓子を得る方法については、当業者に周知の方法によって行えばよく、特に制限はないが、好ましくは以下のような方法が挙げられる。
【0047】
(5)第1チョコレートからなるセンターを、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆して、該油脂含有組成物の層を形成し、その油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆して、該第2チョコレートの層を形成する。
【0048】
図1には、上記(5)の一例を示す。このチョコレート菓子10は、第1チョコレート1を、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物2で被覆して、その油脂含有組成物2の層を形成し、更に油脂含有組成物2の層を第2チョコレート3で被覆して、その第2チョコレート3の層を形成するようにして得られたものである。
【0049】
(6)センターを、第1チョコレートで被覆して、該第1チョコレートの層を形成し、その第1チョコレートの層を、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆して、該油脂含有組成物の層を形成し、その油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆して、該第2チョコレートの層を形成する。
【0050】
図2には、上記(6)の一例を示す。このチョコレート菓子20は、センター4を、第1チョコレート1で被覆して、その第1チョコレート1の層を形成し、第1チョコレート1の層を、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物2で被覆して、その油脂含有組成物2の層を形成し、更に油脂含有組成物2の層を第2チョコレート3で被覆して、その第2チョコレート3の層を形成するようにして得られたものである。
【0051】
より具体的には、レボルビングパン、コータロー、チョココーター、ベルトコーターなど回転釜などにて、センターを第1チョコレートで被覆したり、その第1チョコレートの層や第1チョコレートからなるセンターを、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆したり、その油脂含有組成物の層を第2チョコレートで被覆したりすることができる。また、エンロービングのような方法でも可能である。このとき、チョコレートを被覆するときの温度設定条件は、被覆対象となるチョコレートや被覆用チョコレート生地の種類に応じて適宜決定することができるが、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆した後には、そのブルーム抑制用油脂の安定型結晶の状態が保たれる条件下に行うことが好ましい。より具体的には、例えばBOBであればその安定型結晶の融解温度が50℃前後であるので、被覆対象となるチョコレートや被覆用チョコレート生地の品温がその溶解温度より低い温度、より好ましくはその溶解温度より2℃以上低く、作業上問題のない温度以上の条件下に行うことが好ましい。また、被覆用チョコレート生地としてテンパリングタイプのチョコレート生地を用いる場合であれば、テンパリング(調温)の処理の後に25〜30℃程度の品温で用いることができる。一方、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物で被覆するときの温度設定条件についても、そのブルーム抑制用油脂の安定型結晶の状態が保たれる条件下に行うことが好ましい。更に、被覆対象となるチョコレートの品温については、20〜30℃程度とし、その表面を固化もしくは半固化状態にすることで、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物が付着しやすく、なじみやすいので、そのような温度設定条件で行うことがより好ましい。
【0052】
本発明の好ましい態様にいては、ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物として、該該組成物が粉体状に調製されたものを用いる。これによれば、その油脂含有組成物中でブルーム抑制用油脂の安定型結晶の状態を維持させやすく、また、対象となるチョコレートの表面に万遍なく配することができるので、より有効にチョコレート菓子に耐ブルーム性を付与することができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
[BOB含有組成物]
ブルーム抑制用油脂を含有する油脂含有組成物として、市販のBOB含有組成物(商品名「チョコシードB」、不二製油社製)を使用した。このBOB含有組成物は、ブルーム抑制用油脂としてBOBを含み、それ以外にも、BOB調製時の副産物としてBOBに類似する油脂であって「炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリド」を満たす油脂を副次的に含んでいる。より具体的には、BOBを全油脂中およそ56質量%含むとともに、BOBのグリセロール基の1位ないし3位のベヘノイル基が炭素原子数20個の飽和脂肪酸であるアラキン酸のエステル残基に置換されてなるAOB(トリアシルグリセロールを構成している脂肪酸残基について、Aはアラキン酸を、Oはオレイン酸を、Bはベヘン酸を、それぞれ表す。)を全油脂中少なくとも9質量%含む。よって、以下、便宜上それらを総称して「BOB類」という。BOB含有組成物である「チョコシードB」の構成は以下のとおりである。
【0055】
<チョコシードB>
BOB類(安定結晶粉末) 33質量部
ハードバター(BOB類を含まない) 17質量部
砂糖(粉糖) 50質量部
【0056】
(実施例1)
表1に示す配合で、常法に従い、チョコレートの生地を調製した。
【0057】
【表1】
【0058】
上記チョコレート生地を使用し、表2に示す配合で、チョコレート菓子を調製した。
【0059】
【表2】
【0060】
具体的には、およそ1.0gで球状のビスケットをセンターにして、レボルビングパンを用いてチョコ掛けを行い、チョコレート生地全量のうち90/100量のチョコレート生地でチョコ掛けを終えたところで一旦止め、BOB含有組成物をレボルビングパンに投入、全体にいきわたるまでレボルビングパンを回転させ、なじんだ所で更に残量のチョコレート生地でチョコ掛けを行った。固化後、艶出し剤・光沢剤を添加、なじませて乾燥し、実施例1のチョコレート菓子を得た。なお、BOB含有組成物の添加量は菓子全体の質量に対して0.8質量%とした。そして、BOB含有組成物を投入したあとのチョコ掛けにより形成されたチョコレートの層の層厚はおよそ0.07mmであった。また、レボルビングパンを用いたチョコ掛けの温度設定条件は、チョコ掛けの対象物の品温が23〜30℃、チョコ掛け用チョコレート生地の品温が45℃となるように設定した。
【0061】
(実施例2)
菓子全体の質量に対して0.4質量%のBOB含有組成物を添加した以外は実施例1と同様にして、実施例2のチョコレート菓子を得た。
【0062】
(実施例3)
菓子全体の質量に対して0.2質量%のBOB含有組成物を添加した以外は実施例1と同様にして、実施例3のチョコレート菓子を得た。
【0063】
(実施例4)
菓子全体の質量に対して0.1質量%のBOB含有組成物を添加した以外は実施例1と同様にして、実施例4のチョコレート菓子を得た。
【0064】
(比較例1)
BOB含有組成物を添加しない以外は実施例1と同様にして、比較例1のチョコレート菓子を得た。
【0065】
(比較例2)
表1に記載の配合で調製したチョコレート生地を品温32〜35℃に調整し、その生地全体の質量に対して0.1質量%のBOB含有組成物を混合し、BOB入りのチョコレート生地を調製した。これを実施例1と同様にしてレボルビングパンを用いておのろけピーナッツにチョコ掛けして、比較例2のチョコレート菓子を得た。得られたチョコレート菓子のチョコレートの層の層厚はおよそ1.7mmであった。
【0066】
[試験例1]
実施例1〜4、比較例1,2のチョコレート菓子について、ブルーム発生率を検討した。具体的には、チョコレート菓子を60℃の恒温機に3秒間入れた後、20℃で24時間静置し、目視によりブルームの有無を確認した。20個のサンプルのうち何個にブルームが発生するかにより発生率を求めた。その結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
その結果、チョコレート菓子の表面からおよそ0.07mm下層の箇所にBOB含有組成物を全体にいきわたらせた実施例1〜4では、BOB含有組成物を用いない比較例1に比べて、ブルームの発生が顕著に抑制された。一方、比較例2にみられるように、BOB含有組成物をチョコレート生地に混合する方法では、ブルームの発生をほとんど抑制できなかった。
【0069】
(実施例5)
BOB含有組成物をレボルビングパンに投入する前に、チョコレート生地全量のうち85/100量のチョコレート生地でチョコ掛けを行う以外は実施例1と同様にして、実施例5のチョコレート菓子を得た。得られたチョコレート菓子の、BOB含有組成物を投入したあとのチョコ掛けにより形成されたチョコレートの層の層厚はおよそ0.26mmであった。
【0070】
(実施例6)
BOB含有組成物をレボルビングパンに投入する前に、チョコレート生地全量のうち64/100量のチョコレート生地でチョコ掛けを行う以外は実施例1と同様にして、実施例6のチョコレート菓子を得た。得られたチョコレート菓子の、BOB含有組成物を投入したあとのチョコ掛けにより形成されたチョコレートの層の層厚はおよそ0.56mmであった。
【0071】
(実施例7)
BOB含有組成物をレボルビングパンに投入する前に、チョコレート生地全量のうち50/100量のチョコレート生地でチョコ掛けを行う以外は実施例1と同様にして、実施例7のチョコレート菓子を得た。得られたチョコレート菓子の、BOB含有組成物を投入したあとのチョコ掛けにより形成されたチョコレートの層の層厚はおよそ0.74mmであった。
【0072】
[試験例2]
実施例5〜7のチョコレート菓子について、試験例1と同様にしてブルーム発生率を検討した。その結果を、実施例1の結果とともに表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
その結果、BOB含有組成物を,チョコレート菓子の表面から所定厚さを経た下層に全体にいきわたらせる箇所がチョコレート菓子の表面から近い方が、ブルームの発生を抑制する効果がより顕著であった。なお、BOB含有組成物を、チョコレート菓子の表面から極めて近い下層全体にいきわたらせようとすると、その箇所をチョコレートで覆うことが困難となった。
【符号の説明】
【0075】
1 第1チョコレート
2 油脂含有組成物
3 第2チョコレート
4 センター
10、20 チョコレート菓子