特許第6674832号(P6674832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6674832粉末醤油、調味料組成物、及び粉末醤油の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674832
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】粉末醤油、調味料組成物、及び粉末醤油の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20200323BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20200323BHJP
【FI】
   A23L27/50 111
   A23L27/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-82868(P2016-82868)
(22)【出願日】2016年4月18日
(65)【公開番号】特開2017-192307(P2017-192307A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2018年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】勝川 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 知実
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−101823(JP,A)
【文献】 特開2010−279303(JP,A)
【文献】 特開2013−141420(JP,A)
【文献】 特公平03−034916(JP,B2)
【文献】 特開昭60−232074(JP,A)
【文献】 特開2011−244711(JP,A)
【文献】 特開2015−171325(JP,A)
【文献】 特開2014−036621(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末醤油であって、油脂の含量が1質量%以下であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.025〜1質量%含有し、かつ、もち種とうもろこし由来リン酸架橋でん粉を含有することを特徴とする該粉末醤油。
【請求項2】
全体の30質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度である請求項1記載の粉末醤油。
【請求項3】
掛け用、付け用、及び/又はトッピング用に用いられる請求項1又は2記載の粉末醤油。
【請求項4】
請求項1又は2記載の粉末醤油と、他の調味用素材の1種又は2種以上とを含む調味料組成物。
【請求項5】
醤油と、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、もち種とうもろこし由来リン酸架橋でん粉とを含有する原料液を減圧乾燥し、油脂の含量が1質量%以下であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.025〜1質量%含有する乾燥物を得る工程を含むことを特徴とする粉末醤油の製造方法。
【請求項6】
更に、前記乾燥物を粉砕して、全体の30質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度とする工程を含む、請求項5記載の粉末醤油の製造方法。
【請求項7】
前記減圧乾燥を、真空ベルト乾燥機により行なう、請求項5又は6記載の粉末醤油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥させた醤油を含む粉末醤油に関し、特に食品への調味用トッピングや調味料組成物の配合素材などとして好適な粉末醤油に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食の嗜好の多様化にともなって粉末醤油へのニーズが高まっている。すなわち粉末醤油は、水産・畜肉加工食品、スープ類、ソース類、タレ類、インスタント食品の粉末調味料等の配合材料などとして、調味用に広く利用されていたが、最近では、液体醤油や食卓塩のように、刺身、天ぷら、焼魚、目玉焼き、豆腐などといった食品に直接ふり掛けたり、付けたりして、その風味や食感を味わうことが好まれるようになってきている。
【0003】
一般に、粉末醤油は、デキストリンなどの賦形剤とともに醤油を噴霧乾燥して製造されるが、乾燥の際に醤油の好ましい揮発性成分が減少し、醤油香の一部が失われてしまうという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、下記特許文献1には、醤油に醤油油および乳化剤を混合、撹拌し、静置して油相部と水相部に分離し、該水相部を噴霧乾燥することを特徴とする粉末醤油の製造法が開示されている。また、下記特許文献2には、醤油諸味、賦形剤及び醤油油蒸留液を配合した醤油を乾燥粉末化した粉末醤油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−279303号公報
【特許文献2】特開2015−73502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2等の技術では、醤油の油分をもって乾燥により失われた醤油香を回復しようとしたので、かえってその油分によってキレのある風味を得ることができなかった。
【0007】
一方、本発明者らの研究によれば、油分を抑えた粉末醤油は、変わり塩のようなキレのある風味を呈したが、旨味に欠けるという問題があった。
【0008】
よって、本発明の目的は、変わり塩のようなキレのある風味を呈し、なお且つ、旨味にも優れた粉末醤油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1は、粉末醤油であって、油脂の含量が1質量%以下であり、乳化剤を0.025〜1質量%含有することを特徴とする該粉末醤油を提供するものである。
【0010】
本発明の粉末醤油によれば、油脂含量を抑えた粉末醤油に所定量で乳化剤を含有せしめることによって、変わり塩のようなキレのある風味を呈し、なお且つ、旨味にも優れた粉末醤油を提供することができる。
【0011】
本発明の粉末醤油においては、全体の30質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度であることが好ましい。これによれば、食感がより良好となる。
【0012】
本発明の粉末醤油は、掛け用、付け用、及び/又はトッピング用に用いられることが好ましい。
【0013】
一方、本発明の第2は、上記の粉末醤油と、他の調味用素材の1種又は2種以上とを含む調味料組成物を提供するものである。
【0014】
他方、本発明の第3は、醤油と、乳化剤とを含有する原料液を減圧乾燥し、油脂の含量が1質量%以下であり、前記乳化剤を0.025〜1質量%含有する乾燥物を得る工程を含むことを特徴とする粉末醤油の製造方法を提供するものである。
【0015】
本発明の粉末醤油の製造方法によれば、油脂含量を抑えた粉末醤油に所定量で乳化剤を含有せしめることによって、変わり塩のようなキレのある風味を呈し、なお且つ、旨味にも優れた粉末醤油を提供することができる。また、減圧乾燥して多孔質を呈するので、カリカリとした食感でいて、なお且つ、口どけも良好となる。
【0016】
本発明の粉末醤油の製造方法においては、更に、前記乾燥物を粉砕して、全体の30質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度とする工程を含むことが好ましい。これによれば、食感がより良好となる。
【0017】
また、前記減圧乾燥を、真空ベルト乾燥機により行なうことが好ましい。これによれば、より効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、油脂含量を抑えた粉末醤油に所定量で乳化剤を含有せしめることによって、変わり塩のようなキレのある風味を呈し、なお且つ、旨味にも優れた粉末醤油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の粉末醤油は、油脂含量を抑えた粉末醤油に、所定量で乳化剤を含有せしめたことを特徴とする。
【0020】
醤油としては、通常の調味料に用いられる醤油類でよく、例えば、濃口醤油、淡口醤油、白醤油、溜り醤油、再仕込み醤油など、またはそれらの処理物などが挙げられる。また、生又は火入れ醤油のいずれも使用できる。ただし、香味の良い醸造醤油を用いることが好ましい。
【0021】
乳化剤としては、食品として使用できるものであればよく、特に制限はない。例えば、酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド等の有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、さらには、大豆や卵から精製されたレシチン等の食品由来の既存天然添加物などが挙げられる。このうち、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが特に好ましく使用される。
【0022】
乳化剤の含有量は、0.025〜1質量%であることが好ましい。上記範囲未満では、旨味を付与する効果が乏しくなる傾向となり、上記範囲を超えると、油の酸化臭が強くなる傾向となるので、いずれも好ましくない。
【0023】
本発明の粉末醤油は、油脂の含量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。これにより、変わり塩のようなキレのある風味を呈し、なお且つ、上記乳化剤の添加によって、旨味にも優れている。なお、ここで油脂の含量は、上記乳化剤に油脂が含まれる場合には、それに由来する油脂を除く含量を意味するものとする。
【0024】
本発明の粉末醤油には、本願発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜、食塩、賦形剤、増粘剤、糖類、香料、調味料、香辛料等を含有せしめてもよい。
【0025】
乾燥は、液体状の醤油を主体とする原料液、例えば、上記の醤油を30〜90v/v%、より好ましくは40〜80v/v%で含む原料液を適宜調製し、通常の方法、例えば噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、低温真空乾燥法、凍結乾燥法等により行うことができ、特に限定されない。乾燥後にその乾燥物を適宜粉末化して、粉末醤油を得ることができる。
【0026】
このようにして得られた粉末醤油は、通常、水分0〜5質量%程度であり、また、合計窒素含有量を100質量%としたとき、醤油由来の窒素含有量が50〜100質量%程度であり、より典型的には70〜100質量%程度である。その粒度としては、全体の30質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度であることが好ましく、全体の50質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度であることがより好ましい。このような粒度であると、サクサクとした食感があり、より良好となる。また、密充填嵩比重が0.3〜0.8g/cmであることが好ましく、0.3〜0.7g/cmであることが更により好ましい。このような密充填嵩比重の範囲のテクスチャーは、典型的には多孔質のテクスチャーであり、カリカリとした食感でいて、なお且つ、口どけも良好となり、食感がより良好となる。
【0027】
本発明の粉末醤油は、例えば刺身、天ぷら、焼魚、目玉焼き、豆腐などといった食品に直接ふり掛けたり、付けたり、トッピングしたりして、その食品と共に風味や食感を味わうようにして使用される、掛け用、付け用、及び/又はトッピング用として、特に好適である。
【0028】
一方、本発明の粉末醤油の製造方法は、醤油と、乳化剤とを含有する原料液を減圧乾燥し、油脂の含量が1質量%以下であり、その乳化剤を0.025〜1質量%含有する乾燥物を得る工程を含むことを特徴としている。油脂の含量が0.1質量%以下であり、乳化剤を0.025〜1質量%含有する乾燥物を得る工程を含むことがより好ましい。使用可能な醤油や乳化剤、あるいは、油脂の含量や乳化剤の含有量を所定範囲とすることにより奏される作用効果は、上述した通りである。また、減圧乾燥に供される原料液は、液体状の醤油を主体とする原料液、例えば、上記の醤油を30〜90v/v%、より好ましくは40〜80v/v%で含む原料液を適宜調製して使用すればよい。原料液には、本願発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜、食塩、糖類、香料、調味料、香辛料等を含有せしめてもよい。
【0029】
本発明の粉末醤油の製造方法においては、減圧乾燥に供される原料液には、更に賦形剤や増粘剤を含有せしめてもよい。賦形剤としては、例えば、タピオカ、とうもろこし、馬鈴薯等の澱粉や、それらのリン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉等の加工澱粉や、デキストリン、α化澱粉等が好ましく使用される。また、増粘剤としては、アラビアガム、ゼラチン、キサンタンガム、グアガム等が好ましく使用される。賦形剤や増粘剤を含有させることにより、減圧乾燥に適した粘度に調整することができると共に、減圧乾燥しやすくすることができる。これらのうち、特にリン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉、α化澱粉などの加工澱粉が好ましく使用される。賦形剤及び増粘剤の含有量は、特に限定されないが、10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。
【0030】
減圧乾燥の手段としては、上記原料液を減圧下に乾燥できる手段であればよく、従来公知の手段で行えばよく、特に制限はない。例えば、特公平3−34916号公報に記載された真空ベルト乾燥機は、真空度を調整できる減圧乾燥室を備え、その内部に被乾燥体を搬送する搬送ベルトと、その搬送ベルトの下面側には搬送ベルトを介して被乾燥体の温度を調整するための加熱プレートが設けられ、減圧下での連続的な乾燥処理が可能であるので、好適に用いられる。
【0031】
減圧乾燥後の乾燥物は、通常、水分0〜5質量%程度であり、また、合計窒素含有量を100質量%としたとき、醤油由来の窒素含有量が50〜100質量%程度であり、より典型的には70〜100質量%程度である。また、通常、多孔質のテクスチャーとなる。
【0032】
減圧乾燥後の乾燥物は、従来公知の粉砕手段により適宜粉砕して、全体の30質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度とすることが好ましく、全体の
50質量%以上が65メッシュ(開口210μm)にオンする粒度とすることがより好ましい。このような粒度に調整することにより、サクサクとした食感があり、より良好となる。また、密充填嵩比重が0.3〜0.8g/cmであることが好ましく、0.3〜0.7g/cmであることが更により好ましい。このような密充填嵩比重の範囲のテクスチャーであると、カリカリとした食感でいて、なお且つ、口どけも良好となり、食感がより良好となる。
【0033】
一方、本発明の調味料組成物は、上記の粉末醤油と、他の調味用素材とを含むことを特徴とする。他の調味用素材は1種であってもよく、または2種以上であってもよい。また、他の調味用素材としては、必要に応じて適当な基剤によって、乾燥状、液状、ゲル状、ペースト状、乳化状、あるいはオイル状等の形態に調製されたものであってもよく、上記の粉末醤油と他の調味用素材とを組み合わせた後、そのような形態に調製されてもよい。
【0034】
他の調味用素材としては、食塩、糖類、ダシ汁類、エキス類、各種具材などが挙げられる。
【0035】
糖類としては、特に限定されないが、例えば、砂糖、ぶどう糖、果糖、水飴、異性化液糖などの糖類や、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール類が用いられる。また、みりん、酒精含有調味料などの甘味調味料や、サッカリン、ステビオサイド、アスパルテームなどの甘味料などを用いることもできる。
【0036】
ダシ汁類としては、例えば、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鰯節などの魚節類の粉砕物や削り節類、あるいは、鰯、鯖、鯵、エビなどを干して乾燥した煮干し類の粉砕物などを、熱水やエタノールなどで抽出して得るダシ汁類が挙げられる。また、コンブ、ワカメなどの海藻類、しいたけなどのキノコ類のダシ汁も挙げられる。
【0037】
エキス類としては、例えば、鰹エキス、鰹節エキス、ホタテエキスなどの魚介類エキスや、鶏、豚、牛などの畜肉類から得られる畜肉エキス、ニンニクや生姜、椎茸などの野菜エキスなどが挙げられる。また、各種の蛋白加水分解物、酵母エキスなどを使用することもできる。
【0038】
具材としては、特に限定されないが、例えば、大根、玉ネギ、長ネギ、人参、牛蒡、れんこん、生姜、ニンニク、ピーマン、トマト、コーン、タケノコなどの野菜類や、シソ、パセリ、セロリ、ニラ、ミツバなどの香辛野菜類や、椎茸、マッシュルーム、エノキ、シメジなどのキノコ類や、リンゴ、ナシ、キウイ、パイナップル、梅などの果実類や、ゴマ、ナッツ、栗などの種実類や、ツナ、イカ、ホタテ、カニ、鮭などの魚介類や、ひじき、昆布、ワカメなどの海藻類や、豚、牛、鶏などの畜肉類や、ハム、ベーコン、ヤキブタなどの食肉加工品、豆腐、油揚げ、こんにゃく、粒状大豆たんぱくなどの加工食品などが好ましく用いられる。
【0039】
これらの具材は、必要により、すりおろしたり、ペースト状にしたり、粉砕したり、細切りしたり、ダイス状、短冊状などの形状にカットして、用いることができる。その場合、最大長さが1〜100mmとなるように調製することが好ましい。また、これらの具材は、生のものでもよいが、予め加熱調理したものでもよい。また、乾燥物であってもよい。
【0040】
本発明の調味料組成物は、その他、必要により、グルタミン酸ナトリウム、グリシンなどのアミノ酸系調味料、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどの核酸系調味料などの調味料類、でん粉、加工でん粉、多糖類、ガム類などの増粘剤、酸味調味料、有機酸類、食酢、果汁、清酒、ワイン、発酵調味料、味噌、大豆油、ナタネ油、ゴマ油、ラー油、オリーブオイルなどの食用油脂類、小麦粉、カレー粉、オイスターソース、乳化剤、香料、着色料などを含有していてもよい。
【0041】
本発明の調味料組成物は、上記の粉末醤油を30〜100質量%含有することが好ましく、50〜100質量%含有することがより好ましい。粉末醤油の含有量が少ないと、その粉末醤油の食感や風味を調味料組成物に充分に取り入れることができない傾向となり好ましくない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
<試験例1>
(粉末醤油の製造)
下記表1に示す配合で、粉末醤油を製造した。なお、醤油は「PこいくちしょうゆS」(商品名、キッコーマン株式会社製)、乳化剤は「リョートーポリグリエステルO−50−D」(商品名、三菱化学フーズ株式会社製)(乳化剤原料名:ポリグリセリン脂肪酸エステル)、加工でん粉は「ネオビスC−6」(商品名、日本食品化工株式会社製)(でん粉種類:リン酸架橋でん粉(もち種とうもろこし由来))、デキストリンは「パインデックス#1」(商品名、松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0044】
【表1】
【0045】
具体的には、上記表1に示す各原料を混合し、85℃に達温するまで加熱撹拌して、原料を溶解もしくは分散させた。その原料液をバットに薄く広げ、凍結乾燥機(「RLE II−103」、共和真空技術株式会社製)にて、棚温度70℃で5時間減圧乾燥させた。乾燥物を粉砕し、12メッシュ篩(目開き1410μm)を通過した粒度のものを採取した。得られた粉末醤油を以下の官能評価に供した。
【0046】
(官能評価)
試料1(対照)に対する評価の増減について、以下の評価項目に関し、下記評価基準にて7段階で評価を行い、パネル10名の評価の合計ポイントを集計して総合評価を決定した。
【0047】
・評価項目
(1)旨味の強さ
(2)コクの強さ
(3)まろやかさの強さ
(4)油の酸化臭の強さ
【0048】
・各項目の評価基準
+3 かなり強い
+2 強い
+1 やや強い
0 同程度
−1 やや弱い
−2 弱い
−3 かなり弱い
【0049】
・総合評価基準
「旨味」が4以上かつ、「油の酸化臭の強さ」が3以下のものに「○」
「旨味」が2〜3かつ、「油の酸化臭の強さ」が4〜5のものに「△」
「旨味」が4以上かつ、「油の酸化臭の強さ」が4〜5のものに「△」
「旨味」が2〜3かつ、「油の酸化臭の強さ」が3以下のものに「△」
「旨味」が1以下もしくは、「油の酸化臭の強さ」が6以上のものに「×」
【0050】
(官能評価の結果)
官能評価の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
その結果、乳化剤を所定量で添加した試料3〜試料6では、乳化剤を添加しない試料1(対照)や乳化剤の添加量が所定量未満の試料2に比べ、旨味が増強された。また、乳化剤を所定量を超えて添加した試料7、8では、旨味を増強する効果に乏しく、油の酸化臭が強く感じられるようになった。
【0053】
<試験例2>
試験例1の試料5における加工でん粉を、「フードスターチW」(商品名、松谷化学工業株式会社製)(でん粉種類:アセチル化でん粉(もち種とうもろこし由来))、「フードスターチT−1」(商品名、松谷化学工業株式会社製)(でん粉種類:リン酸架橋でん粉(タピオカ由来))、「ダリア」(商品名、松谷化学工業株式会社製)(でん粉種類:リン酸架橋でん粉(とうもろこし由来))、又は「マツノリンA」(商品名、松谷化学工業株式会社製)(でん粉種類:α化でん粉(もち種とうもろこし由来))に変えた以外は、試験例1の試料5と同様にして、それぞれの加工でん粉ないし食品でん粉(α化でん粉)を使用した試料9〜試料12の粉末醤油を製造し、官能評価を行った。官能評価は試験例1と同様にして行った。
【0054】
官能評価の結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
その結果、試験例1において明らかとなった、粉末醤油に乳化剤を添加することによる、油の酸化臭を強めずに旨味を増強する作用効果は、他の種類の加工でん粉ないし食品でん粉を配合した場合でも奏されることが明らかとなった。
【0057】
<試験例3>
試験例1の試料5における乳化剤を、「リョートーシュガーエステルS−770」(商品名、三菱化学フーズ株式会社製)(乳化剤原料名:ショ糖脂肪酸エステル)、又は「SLP−ホワイト」(商品名、辻製油株式会社製)(乳化剤原料名:レシチン)に変えた以外は、試験例1の試料5と同様にして、それぞれの乳化剤を使用した試料13〜試料14の粉末醤油を製造し、官能評価を行った。官能評価は試験例1と同様にして行った。
【0058】
官能評価の結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
その結果、試験例1において明らかとなった、粉末醤油に乳化剤を添加することによる、油の酸化臭を強めずに旨味を増強する作用効果は、他の種類の乳化剤を配合した場合でも奏されることが明らかとなった。
【0061】
<試験例4>
試験例1の試料5と同じ原料配合で、粉末醤油を製造した。
【0062】
具体的には、調合タンク(容量:2000L)にて各原料を混合し、80℃に達温まで加熱撹拌し、原料を溶解もしくは分散させた。調合した原料液を真空ベルト乾燥機(株式会社日阪製作所製)に供給し、下記表5に示す条件にて乾燥させた。乾燥物を粉砕し、12メッシュ篩(目開き1717μm)を通過した粒度のものを採取した。
【0063】
【表5】
【0064】
得られた粉末醤油について、以下の評価項目に関して、その品質の評価を行なった。
【0065】
・評価項目
(1)風味・食感
(2)油脂含量
(3)嵩比重
(4)粒度
【0066】
なお、油脂含量は、ソックスレー抽出法により油脂を含む脂質の含量を測定した。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
その結果、試験例1の試料5の粉末醤油と同様の風味、食感が得られた。すなわち、この粉末醤油は、油分をほとんど含まず、変わり塩のようなキレのある風味を呈し、なお且つ、旨味にも優れていた。また、カリカリとした食感でいて、なお且つ、口どけも良好であり、特に、食品に掛けたり付けたりして用いるトッピングの用途に好適であった。