特許第6675150号(P6675150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675150
(24)【登録日】2020年3月12日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】サイトグロビン発現増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/18 20060101AFI20200323BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200323BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20200323BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200323BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20200323BHJP
【FI】
   A61K38/18
   A61P35/00
   A61P13/12
   A61P43/00 111
   !C07K14/50ZNA
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-77604(P2015-77604)
(22)【出願日】2015年4月6日
(65)【公開番号】特開2016-196440(P2016-196440A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:第28回肝類洞壁細胞研究会学術集会 プログラム・抄録集、第30頁、当番世話人 山本 和秀 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、消化器・肝臓内科学 発行者名:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器・肝臓内科学(第一内科) 発行日:2014年12月
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】河田 則文
(72)【発明者】
【氏名】松原 三佐子
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−525309(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/084027(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/097988(WO,A1)
【文献】 特表2004−520295(JP,A)
【文献】 HUANG JUEN, et al.,Journal of Guangxi Medical University,2002年,Vol.19, No.1,p.24-6
【文献】 PAN, R.L. et al.,Low-Molecular-Weight Fibroblast Growth Factor 2 Attenuates Hepatic Fibrosis by Epigenetic Down-Regulation of Delta-Like1,Hepatology,2015年 3月23日,Vol. 61, No. 5,p.1708-20,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25501710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF−1及びFGF−2からなる群より選択される少なくとも1種(但し、FGF−1が融合タンパク質である場合、及びFGF−2が融合タンパク質である場合を除く)を有効成分とし、肝癌以外の癌の治療予防乃至治療に使用される、サイトグロビン発現増強剤。
【請求項2】
FGF−1及びFGF−2からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分(但し、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3からなる群より選択される少なくとも1種と併用される場合を除く)とし、間質病変(但し、ゲンタマイシンが誘発する急性腎不全を除く)の予防乃至治療に使用される、サイトグロビン発現増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトグロビン発現増強剤に関する。より具体的には、本発明は、サイトグロビンの発現を増強し、生体内でサイトグロビンによる有益な機能を効果的に発揮させるサイトグロビン発現増強剤。
【背景技術】
【0002】
近年、肝癌患者数の増大が問題となっている。2012年度国立がん研究センターの報告によると、国内の肝癌死亡者数は男女ともに全癌中4位であり、2010年には年間33000人にも及んでいる。肝癌は、B型、C型肝炎ウイルス感染、多量飲酒や糖尿病肥満と関連する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を土台として発生する。即ち、肝癌は慢性炎症と線維化肝を母地として生じ、病因の如何を問わず年率8%で発癌し、一旦肝癌が生じると再発と肝内転移を繰り返す。肝硬変とは、肝実質がI型コラーゲンなどの細胞外マトリックス蛋白で置換されて機能的肝細胞が減少する病態である。この線維性肝臓は、生理的状態ではビタミンA貯蔵を主機能とする肝星細胞(Hepatic stellate cell、HSC)が活性化して形質を変えた筋線維芽細胞(Myofibroblast、MFB)で肝実質が置換される病態である。この形質転換には、トランスフォーミング増殖因子−β(Transforming growth factor(TGF)−β)や結合組織成長因子(connective tissue growth factor、CTGF)が関与し、これらの因子が肝星細胞の持続活性化や実質での筋線維芽細胞の増加が肝細胞機能を低下させる要因であり、肝癌発症に寄与することが報告されている(非特許文献1及び2)。そのため、肝星細胞の活性化抑制と筋線維芽細胞の制御が肝線維化及び肝癌の治療法開発に繋がると考えられている。
【0003】
一方、本発明者等は、ラットHSCのプロテオミクス解析で、Stellate cell activation−associated proteinを発見し、第17番染色体のヒト遺伝子も同定した。このタンパク質は、今ではサイトグロビン(Cytoglobin、CYGB)と呼ばれており、ヘモグロビン、ミオグロビン、ニューログロビンに次ぐ哺乳類第4番目のグロビンとして位置付けられている(非特許文献3及び4)。
【0004】
サイトグロビンは、肝星細胞のみならず、膵臓(膵星細胞)や腎臓の尿細管上皮近傍の線維芽細胞等にも発現していることが知られており、これまでに、肝臓以外の生体組織でも、重要な役割を果たしていることが報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、サイトグロビンを欠損させたマウスが肝発癌物質であるジエチルニトロサミン投与に対して易発癌性を示し、サイトグロビンが肝癌の予防乃至治療作用を発揮していることが報告されており、サイトグロビンは、肝癌の予防乃至治療に有効であると考えられている。また、非特許文献5には、サイトグロビンには腫瘍の抑制作用を示すことが報告されている。非特許文献6には、サイトグロビンが、酸素や一酸化窒素等と結合して生体内ガスのリザーバーとして機能していることが報告されている。また、非特許文献7には、サイトグロビンが低酸素誘導因子(Hypoxia−inducible Factor、HIF)によって転写調節され、酸素センサーとなることも報告されている。更に、非特許文献8には、サイトグロビンには、ペルオキシダーゼ活性により過酸化水素を分解して細胞内酸化ストレス代謝を調節する役割を担っていることも報告されている。非特許文献9には、サイトグロビンは、低酸素状態や虚血状態の環境下において、亜硝酸を還元して一酸化窒素を発生させ、これにより可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、血管の拡張をもたらし得ることが報告されている。更に、非特許文献10には、虚血状態下での酸化ストレスに対して間質病変に対するサイトグロビンの治療応用効果が期待されることが開示されている。
【0006】
このようにサイトグロビンは様々な生体機能に関与しており、サイトグロビンの発現の減弱が一因となって発症している疾患、サイトグロビンの機能によって予防乃至治療効果が見込まれる疾患等に対して、生体内でのサイトグロビンの発現を増強させる方策が有効になると考えられている。
【0007】
一方、従来、サイトグロビンを発現させる方法としては、細胞を低酸素条件下に晒す方法(非特許文献11)、過酸化水素等によって細胞に酸化ストレスを与える方法(非特許文献12)、カルシニューリンを細胞に導入して過剰発現させる方法(非特許文献13)、アルンジン酸を細胞に暴露させる方法(非特許文献14)等が知られている。これらの方法の内、通常の細胞条件や生体内(in vivo)において利用でき、臨床的に応用可能な技術は、アルンジン酸を用いる方法のみであり、必ずしも、汎用的な手法が確立されているとはいえず、他の手法の選択肢も存在していない。
【0008】
このような従来技術を背景として、生体内でサイトグロビンの発現を増強させる新たな治療技術の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nat.Med.,2001,17:1668
【非特許文献2】Hepatology,2012,56:769
【非特許文献3】J.Biol.Chem.,2004,339:873
【非特許文献4】Acta. Crystallogr. D. Biol. Crystallogr.,2006,62:671
【非特許文献5】Cancer Res.,2008,68:7448
【非特許文献6】Biochemistry,2003,42:5133
【非特許文献7】J.Biol.Chem.,2009,284:1049
【非特許文献8】J.Biol.Chem.,2001,276:25318
【非特許文献9】J.Biol.Chem.,2012,287:36623−36632
【非特許文献10】The American Journal of Pathology,2011,178;123−139
【非特許文献11】Biochem.Biophys.Res.Commun.,2004,319;342−348
【非特許文献12】Neurochem.Res.,2007,32:1375−1380
【非特許文献13】J.Bio.l.Chem.,2009,284:10409−10421.
【非特許文献14】Biochem.Biophys.Res.Commun,2012,425:642−8
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−51277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、生体内でサイトグロビンの発現を増強させ得る新たなサイトクロビン発現増強剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth Factor)であるFGF−1及びFGF−2には、生体内でサイトグロビンの発現を増強させ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. FGF−1及びFGF−2からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、サイトグロビン発現増強剤。
項2. 肝癌、肝線維化、又は肝硬変の予防乃至治療に使用される、項1に記載のサイトグロビン発現増強剤。
項3. 肝癌以外の癌の治療予防乃至治療に使用される、項1に記載のサイトグロビン発現増強剤。
項4. 間質病変の予防乃至治療に使用される、項1に記載のサイトグロビン発現増強剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生体内でサイトグロビンの発現を増強させることができるので、生体内でサイトグロビンの発現を増強できるので、サイトグロビンの発現増強によって予防乃至治療効果が期待される疾患や症状の予防乃至治療、具体的には、正常な状態でサイトグロビンが発現している臓器(例えば、肝臓、消化管、腎臓、肺臓等)における線維化や癌、肝硬変、腎尿細管間質性腎炎等の予防乃至治療に有効であり、更には細胞内の酸化ストレス代謝の調節、低酸素状態や虚血状態における血管収縮の抑制等に有効である。その他、
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1において、FGF−2中和抗体存在下で培養したヒト肝星細胞について、形態観察、並びにサイトグロビン(CYGB)及び肝星細胞の活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)の発現量をウエスタンブロットにて分析した結果を示す。
図2】実施例2において、FGF−2存在下で培養したヒト肝星細胞について、サイトグロビン(CYGB)及び肝星細胞の活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)の発現量をウエスタンブロットにて分析した結果を示す。
図3】実施例3において、FGF−2存在下で培養したヒト肝星細胞について、サイトグロビンのmRNAの発現量を測定した結果を示す。
図4】実施例4において、FGF−2存在下で培養したヒト肝星細胞について、サイトグロビン(CYGB)、平滑筋アクチン(αSMA)、及び核(DAPI)を免疫染色した結果を示す。
図5】実施例5において、FGF−1存在下で培養したヒト肝星細胞について、サイトグロビン(CYGB)及び肝星細胞の活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)の発現量をウエスタンブロットにて分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のサイトグロビン発現増強剤は、FGF−1及びFGF−2からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明のサイトグロビン発現増強剤について詳述する。
【0017】
有効成分
本発明のサイトグロビン発現増強剤は、有効成分として、FGF−1及びFGF−2からなる群より選択される少なくとも1種を使用する。
【0018】
FGF−1は、線維芽細胞増殖因子の1種として、生体内に存在しているタンパク質である。本発明で使用されるFGF−1としては、具体的には、ヒトFGF−1、そのオルソログ、及びそれらの変異体が挙げられる。
【0019】
ヒトFGF−1は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなることが知られている。また、ヒトFGF−1としては、配列番号1における第2〜15位のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるもの(配列番号2)も見出されておる。本発明では、これらのいずれのヒトFGF−1を使用してもよい。
【0020】
FGF−1のオルソログとしては、特に制限されないが、例えば、ラット、ハムスター、モルモット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ等の哺乳動物;ニワトリ、ダチョウ等の鳥類等に由来するものが挙げられる。FGF−1は、投与対象となる生物種に応じて、その由来を適宜設定すればよい。
【0021】
FGF−1の変異体としては、FGF−1が本来有する生物活性を保持していることを限度として特に制限されず、例えば、突然変異したFGF−1、遺伝子工学的手法によって改変したFGF−1等が挙げられる。
【0022】
FGF−1は、遺伝子工学的手法により製造された組換え体であってもよく、また生体から抽出、精製したものを使用してもよい。
【0023】
FGF−2は、線維芽細胞増殖因子の1種として、生体内に存在しているタンパク質である。本発明で使用されるFGF−2としては、具体的には、ヒトFGF−2、そのオルソログ、及びそれらの変異体が挙げられる。
【0024】
ヒトFGF−2は、配列番号3に示すアミノ酸配列からなることが知られている。また、ヒトFGF−2としては、配列番号1における第1〜134位のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるもの(配列番号4)も見出されておる。本発明では、これらのいずれのヒトFGF−2を使用してもよい。
【0025】
FGF−2のオルソログとしては、特に制限されないが、例えば、ラット、ハムスター、モルモット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ等の哺乳動物;ニワトリ、ダチョウ等の鳥類等に由来するものが挙げられる。FGF−2は、投与対象となる生物種に応じて、その由来を適宜設定すればよい。
【0026】
FGF−2の変異体としては、FGF−2が本来有する生物活性を保持していることを限度として特に制限されず、例えば、突然変異したFGF−2、遺伝子工学的手法によって改変したFGF−2等が挙げられる。
【0027】
FGF−2は、遺伝子工学的手法により製造された組換え体であってもよく、また生体から抽出、精製したものを使用してもよい。
【0028】
本発明のサイトグロビン発現増強剤では、FGF−1又はFGF−2のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0029】
他の成分
本発明のサイトグロビン発現増強剤は、前記有効成分の他に、治療対象となる疾患の種類に応じて、他の薬理活性成分を含んでいてもよい。
【0030】
また、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、前記有効成分の他に、所望の投与形態及び製剤形態に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される担体や添加剤を含んでいてもよい。このような担体や添加剤としては、希釈剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、緩衝剤、粘稠化剤等が挙げられる。
【0031】
剤型
本発明のサイトグロビン発現増強剤の剤型については、特に制限されず、その投与形態等に応じて適宜設定すればよい。本発明のサイトグロビン発現増強剤の剤型として、具体的には、注射剤、シロップ剤、細胞懸濁液、リポソーム製剤等の液状製剤;錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤等の固形状製剤等が挙げられる。また、注射剤にする場合には、使用前に生理食塩水等で溶解する用時調製用粉末(例えば凍結乾燥粉末)の形態であってもよい。
【0032】
投与対象
本発明のサイトグロビン発現増強剤は、生体内でサイトグロビンの発現を増強できるので、サイトグロビンの発現増強によって予防乃至治療効果が期待される疾患に適用して使用される。
【0033】
例えば、サイトグロビンが肝癌の予防乃至治療作用を発揮し得ることが報告されている(特許文献1)。また、肝星細胞の活性化抑制は肝癌の予防や治療に有効であると考えられており(非特許文献1及び2)、その一方で後述する実施例に示すように、サイトグロビンの発現増強によって肝星細胞の活性化を抑制できることが確認されている。従って、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、肝癌の予防乃至治療目的で使用することができる。
【0034】
また、肝星細胞の活性化抑制は肝線維化や肝硬変の予防や治療に有効であると考えられている(非特許文献1及び2)。一方、前述するように、サイトグロビンの発現増強によって肝星細胞の活性化を抑制できるので、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、肝線維化や肝硬変の予防乃至治療目的で使用することもできる。
【0035】
更に、サイトグロビンには、肝癌に止まらず、他の腫瘍に対しても予防や治療に有効であることが知られているので(非特許文献5)、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、肝癌以外の癌の予防乃至治療目的で使用することもできる。本発明のサイトグロビン発現増強剤の予防乃至治療対象となる癌(肝癌以外)としては、例えば、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、舌癌、甲状腺癌、腎臓癌、肺癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫等が挙げられる。特に、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、正常な状態でサイトグロビンが発現している臓器(例えば、肝臓、消化管、腎臓、肺臓等)における線維化や癌の予防乃至治療目的で好適に使用できる。
【0036】
また、サイトグロビンには、ペルオキシダーゼ活性により過酸化水素を分解して細胞内酸化ストレス代謝を調節する役割を担っていることも報告されているので(非特許文献8)、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、細胞内の酸化ストレス代謝の異常をきたしている疾患(例えば、肺線維症、慢性膵炎、炎症性腸疾患、慢性腎障害等)の予防乃至治療目的で使用することもできる。
【0037】
更に、サイトグロビンは、低酸素状態や虚血状態の環境下において、亜硝酸を還元して一酸化窒素を発生させ、これにより可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、血管の拡張をもたらし得ることも報告されているので(非特許文献9)、本発明のサイトグロビン発現増強剤は、低酸素状態や虚血状態における血管収縮が生じている疾患(例えば、心筋梗塞、腎不全、虚血性脳疾患等)の予防乃至治療目的で使用することもできる。
【0038】
また、サイトグロビンは、間質病変に対して治療効果を示し得ることが報告されているので(非特許文献10)、発明のサイトグロビン発現増強剤は、腎間病変の予防乃至治療目的で使用することもできる。本発明のサイトグロビン発現増強剤の予防乃至治療対象となる腎間病変としては、具体的には、慢性腎炎、糖尿病性腎炎等の尿細管間質性腎炎、薬剤性腎障害、腎不全等が挙げられる。
【0039】
本発明のサイトグロビン発現増強剤において、投与対象となる生物は、サイトグロビン発現増強が求められる生物であればよく、ヒトの他、ラット、ハムスター、モルモット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ等の哺乳動物等が挙げられる。本発明で使用される有効成分の由来は、投与対象となる生物の種類に応じて設定すればよい。例えば、ヒトに対して適用する場合であれば、有効成分は、ヒトFGF−1及び/又はヒトFGF−2を使用すればよい。
【0040】
投与方法
本発明のサイトグロビン発現増強剤の投与形態としては、例えば、局所投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経直腸的、皮内投与等の非経口投与;経口投与が挙げられ、適用する疾患の種類等に応じて適宜設定すればよい。本発明のサイトグロビン発現増強剤の投与形態として、好ましくは非経口投与が挙げられる。
【0041】
本発明のサイトグロビン発現増強剤の投与量については、適用する疾患の種類、投与対象者の年齢、性別、体重、症状の程度、投与形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、FGF−1及び/又はFGF−2が1日当たり、3〜100μg/kgμg程度となる量を1又は数回に別けて投与すればよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例1:FGF−2によるサイトグロビン(CYGB)の発現増強効果の確認(1)
60mmプレートに、ヒト肝星細胞株(HHSteC)細胞を5×105cells/well播種し、Supplement(SteCGS, Cat. No. 5352)、2%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン、及びストレプトマイシンを添加したSteCM培地(ScienCell,Cat.No.5300)にて、約24時間培養した。
【0044】
培養後、Supplement無添加SteCM培地に交換し、Supplement(x100)(SteCGS, Cat. No. 5352)及びFGF−2中和抗体の無添加、Supplement(x100)(SteCGS, Cat. No. 5352)のみ添加、又はSupplement(x100)(SteCGS, Cat. No. 5352)とFGF2中和抗体(Anti-FGF2/basic FGF (neutralizing), clone bFM-1 (Monoclonal antibody, Cat. NO.05-117, Millipore)(2μg/ml)の添加の条件で培養を行った。
【0045】
培養72時間後に細胞の形態観察を行った。また、培養72時間後の細胞を回収し、RIPA(Radio−Immunoprecipitation Assay)バッファーを用いて細胞溶解液100μlを調製した。調製された細胞溶解液(20μg相当のタンパク質含有)に5×ローディングBuffer(2−メルカプトエタノール含有)を添加し、95℃で5分間熱処理後、SDS−PAGEを行った。一次抗体として、マウス抗ヒトαSMA抗体(Clone 1A4、DAKO製、1/100 in PBS)とウサギ抗ヒトCYGB抗体(Rabbit Polyclonal、in house)を使用して反応させ、次いで、二次抗体として、其々POD(peroxydase)標識ウサギ抗マウスIgG抗体(1:200、Dako製)とPOD標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200、Dako製)で反応させた後、化学発光基質ECL(GE Healthcare、Buckinghamshire)で処理し、高感度CCDイメージアナライザー(LAS 1000 device、富士フィルム製)を用いて検出した。なお、タンパク質のローディングコントロールとしてGAPDHを使用した。
【0046】
得られた結果を図1に示す。図1の左図において、「S−」はSupplement及びFGF2中和抗体の無添加、「S+」はSupplementのみ添加、「2μg/ml Ant-FGF2 + Supplement」は、SupplementとFGF−2の添加の条件で培養した場合の形態観察の結果である。形態観察の結果、Supplement添加によるヒト肝星細胞の形態変化はFGF−2中和抗体により阻害され、Supplement無添加と同様の形態を示した。ウエスタンブロッティングの結果から、Supplementで誘導されるヒト肝星細胞におけるサイトグロビンの発現増強が、FGF−2中和抗体で抑制されることが分かった。また、サイトグロビンの発現増強に伴って、肝星細胞の活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)の減少も確認され、サイトグロビンの発現量の増加は、肝星細胞の活性化抑制をもたらしていると考えられた。
【0047】
実施例2:FGF−2によるサイトグロビン(CYGB)の発現増強効果の確認(2)
60mmプレートに、ヒト肝星細胞株(HHSteC)細胞を5×105cells/well播種し、Supplement(SteCGS, Cat. No. 5352)、2%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン、及びストレプトマイシンを添加したSteCM培地(ScienCell,Cat.No.5300)にて、約24時間培養した。
【0048】
培養後、Supplement無添加SteCM培地に交換し、Supplement(x100)、又は以下に示す条件でヒトFGF−2(配列番号3)を添加して細胞の処理を行った。時間依存性試験(図2の左図)のために、FGF−2の添加濃度を4ng/mlにして、0、8、24、48、及び72時間、細胞を処理した後に、細胞を回収した。濃度依存性試験(図2の右図)のために、FGF−2の添加濃度を0.5、1、2、及び4ng/mlを処理し72時間後に細胞を回収した。回収した各細胞について、前記実施例1と同様の方法でSDS−PAGEを行い、サイトグロビン、αSMA、及びGAPDH(ローディングコントロール)の発現量の測定を行った。
【0049】
得られた結果を図2に示す。図2の右図において「S+」は、Supplement添加且つFGF−2未添加の場合の条件を指す。この結果から、FGF−2の添加によって、ヒト肝星細胞におけるサイトグロビンの発現量が経時的及び濃度依存的に増加しており、FGF−2にはサイトグロビンの発現を増強させる作用があることが明らかとなった。また、肝星細胞の活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)は、サイトグロビンの発現量が増加するのに伴って、その発現量が低下しており、サイトグロビンの発現量の増強は、肝星細胞の活性化抑制をもたらし得ることも明らかとなった。
【0050】
実施例3:FGF−2によるサイトグロビン(CYGB)の発現増強効果の確認(3)
35mmプレートに、ヒト肝星細胞株(HHSteC)細胞を5×105cells/well播種し、Supplement(SteCGS, Cat. No. 5352)、2%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン、及びストレプトマイシンを添加したSteCM培地(ScienCell,Cat.No.5300)にて、約24時間培養した。
【0051】
培養後、Supplement無添加SteCM培地に交換し、Supplement(x100)及びヒトFGF−2(配列番号3)(4ng/ml)を添加した。添加0、4、8、24、及び48時間後に、それぞれ、Trizol500μlに溶解し、direct-Zol RNA miniPrep(ZYMO RESEARCH)キットでRNA抽出を行った。抽出されたRNA、100ngをSuperscript III Reverse Transcriptase (Invitrogen)でcDNA合成し、Fast SYBR Green Master mixを用いてリアルタイム定量PCR(Applied Biosystems 7500 Fast Real-time PCR system)を行った。なお、本試験では、内在性コントロールとして18Sを使用した。
【0052】
得られた結果を図3に示す。この結果から、FGF−2の添加によって、ヒト肝星細胞におけるサイトグロビンのmRNAの発現量が経時的に増加しており、FGF−2にはサイトグロビンの発現を増強させる作用があることが明らかとなった。また、サイトグロビンの発現量が増加するのに伴いαSMA発現量が低下しており、FGF−2によりサイトグロビンの転写が誘導され、肝星細胞の活性化が抑制された。
【0053】
実施例4:FGF−2によるサイトグロビン(CYGB)の発現増強効果の確認(4)
4wellチャンバースライドに、HHSteC細胞2×104cells/wellとなるように播種し、約24時間培養した。培養は、Supplement、2%FBS、ペニシリン、及びストレプトマイシンを添加したSteCM培地(ScienCell Research Laboratories製、Cat.No.5300)を用いて行った。
【0054】
その後、Supplement無添加SteCM培地に交換し、Supplement(×100)及びヒトFGF−2(配列番号3)(4ng/ml)を添加して培養を継続し、72時間後に4%パラフォルムアルデヒド/PBSTで細胞を固定した。次いで、固定化した細胞に対して、一次抗体として、マウス抗ヒトSMA抗体(Clone 1A4、DAKO製、1/100 in PBS)とウサギ抗ヒトCYGB抗体(Rabbit Polyclonal、in house)1時間反応させた後、PBST(Phsophate Buffered Saline with Tween 20)溶液で洗浄した。次いで、二次抗体として、AlexaFluor 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Molecular Probes、ライフテクノロジーズ製)とAlexaFour 594標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Molecular Probes、ライフテクノロジーズ製)をそれぞれ使用し、反応させた。反応後、PBST溶液で洗浄した後、DAPI(di−aminおーphenyl−indole)で核染色し、蛍光顕微鏡(BZ−8000、キーエンス製)にて観察を行った。また、比較のために、Supplement及びヒトFGF−2を添加しない条件、及びSupplementのみを添加した条件でも、前記と同様に試験を行った。
【0055】
得られた結果を図4に示す。図4中、S(−)はSupplement及びヒトFGF−2を添加しなかった場合、S(+)はSupplementのみを添加した場合、FGF2はSupplement及びヒトFGF−2を添加した場合の結果である。図4から明らかなように、ヒトFGF−2を添加した場合には、α−SMAが消失し、CYGBが強く発現されていた。即ち、本試験結果からも、FGF−2にはサイトグロビンの発現を増強させる作用があることが確認された。
【0056】
実施例5:FGF−1によるサイトグロビン(CYGB)の発現増強効果の確認(5)
60mmプレートに、ヒト肝星細胞株(HHSteC)細胞を5×105cells/well播種し、Supplement(SteCGS, Cat. No. 5352)、2%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン、及びストレプトマイシンを添加したSteCM培地(ScienCell,Cat.No.5300)にて、約24時間培養した。
【0057】
培養後、Supplement無添加SteCM培地に交換し、Supplement(x100)、又は以下に示す条件でヒトFGF−1(配列番号1)を添加して細胞の処理を行った。時間依存性試験(図5の上図)のために、FGF−1の添加濃度を4ng/mlにして、0、8、24、48、及び72時間、細胞を処理した後に、細胞を回収した。濃度依存性試験(図5の下図)のために、FGF−1の添加濃度を0.5、1、2、及び4ng/mlを処理し72時間後に細胞を回収した。回収した各細胞について、前記実施例1と同様の方法でSDS−PAGEを行い、サイトグロビン、αSMA、及びGAPDH(ローディングコントロール)の発現量の測定を行った。
【0058】
得られた結果を図5に示す。図5の下図において、「S−」はSupplement未添加且つFGF−2未添加の場合の条件を指し、「S+」は、Supplement添加且つFGF−2未添加の場合の条件を指す。この結果から、FGF−1の添加によって、ヒト肝星細胞におけるサイトグロビンの発現量が、FGF−2の場合と同様に、経時的及び濃度依存的に増加しており、FGF−1にはサイトグロビンの発現を増強させる作用があることが明らかとなった。また、肝星細胞の活性化マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)は、サイトグロビンの発現量が増加するのに伴って、その発現量が低下しており、サイトグロビンの発現量の増強は、肝星細胞の活性化抑制をもたらし得ることも明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]