【文献】
GenBank Database [online], Accession No.CP019699.1, 21-FEB-2017, [検索日:2018.10.12],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/1148968360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
酵素は、D型アミノ酸を可逆的に脱水素する活性を有することが好ましい。尚、本書では、D型アミノ酸を「D−アミノ酸」又は「Dアミノ酸」とも表記する。D型アミノ酸とは、不斉炭素を有するアミノ酸の光学異性体である。本書において、D型アミノ酸には、分子内にL型とD型の両方の構造を有する
meso型アミノ酸(例えば、
meso−ジアミノピメリン酸)も含まれる。一実施形態において、D型アミノ酸は
meso型ではない(L型が実質的に存在しない)D型アミノ酸であることが好ましい。
【0009】
D型アミノ酸を可逆的に脱水素するとは、D型アミノ酸を対応するオキソ酸に変換する反応とオキソ酸を対応するD型アミノ酸に変換する反応の両方を触媒することを意味する。この反応を式で表せば次のとおりである。
D−アミノ酸+NAD(P)
++H
2O⇔2−オキソ酸+NH
4++NAD(P)H+H
+
【0010】
例えば、D型アミノ酸が
meso−ジアミノピメリン酸の場合、
meso−ジアミノピメリン酸をL−2−アミノ−6−オキソピメリン酸に変換する反応、及び、L−2−アミノ−6−オキソピメリン酸を
meso−ジアミノピメリン酸に変換する反応の両方を触媒する。このような酵素を「
meso−ジアミノピメリン酸脱水素酵素」と称することもできる。一実施形態において、酵素は、少なくともオキソ酸のD型アミノ酸への変換を触媒する活性を有することが好ましい。即ち、一実施形態において、酵素は必ずしもD型アミノ酸をオキソ酸に変換する活性を有する必要はない。
【0011】
酵素は、配列番号2のアミノ酸配列又はそれとの同一性が60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%、91%以上、92%以上、93%条、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上%以上であるアミノ酸配列を有することが好ましい。配列番号2は、
Numidum massiliense由来のD型アミノ酸脱水素酵素のアミノ酸配列である。
【0012】
アミノ酸の同一性は、市販の又はインターネットを通じて利用可能な解析ツール(例えば、FASTA、BLAST、PSI−BLAST、SSEARCH等のソフトウェア)を用いて計算することができる。例えば、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、及びLambda ratioをそれぞれ11、1、0.85(デフォルト値)にして、他の各種パラメーターもデフォルト値に設定して検索を行うことにより、アミノ酸配列の同一性の値(%)を算出することができる。
【0013】
酵素は、配列番号2のアミノ酸配列における6番目〜17番目、19番目、23番目、27〜35番目、37番目、48番目、54番目、62番目、64番目、65番目、68番目〜70番目、73番目、75番目、84番目、90番目〜95番目、97番目、100番目、107番目、108番目、110番目、111番目、115番目、117番目〜127番目、130番目、131番目、133番目、139番目、146番目、147番目、149番目、150番目、152番目〜158番目、160番目〜162番目、164番目、166番目〜172番目、174番目〜176番目、182番目、184番目、187番目、188番目、191番目、193番目〜195番目、199番目〜201番目、203番目、205番目、207番目、209番目、213番目、214番目、216番目、219番目、227番目、228番目、230番目、231番目、234番目、238番目、240番目、241番目、245番目、246番目、248番目、250番目、252番目〜254番目、256番目、257番目、259番目〜262番目、265番目、266番目、269番目、270番目、271番目、273番目、275番目、277番目、278番目、280番目〜284番目、291番目、293番目、300番目、及び302番目から成る群から選択される1以上のアミノ酸残基を有することが好ましい。ここで、「1以上のアミノ酸残基」とは、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、100以上、105以上、110以上、115以上、120以上、125以上、130以上、135以上、140以上、又は145であることが好ましい。
【0014】
一実施形態において、酵素は、配列番号2のアミノ酸配列における10〜14番目、16番目、27〜29番目、31番目、37番目、54番目、69番目、90番目、92番目、95番目、97番目、121番目、123番目〜127番目、130番目、133番目、147番目、150番目、152番目、154番目、156番目、158番目、160番目、164番目、166番目、167番目、170番目、174番目、176番目、182番目、184番目、188番目、194番目、195番目、203番目、207番目、209番目、216番目、230番目、231番目、238番目、256番目、257番目、260番目、266番目、270番目、271番目、277番目、280番目、及び291番目から成る群から選択される1以上のアミノ酸残基を有することが好ましい。ここで「1以上のアミノ酸残基」は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、又は60のアミノ酸残基であり得る。一実施形態において、前記特定のアミノ酸残基のより多くのアミノ酸残基を有することが好ましい。
【0015】
好適な一実施形態において、酵素は、更に配列番号2のアミノ酸配列における7番目、9番目、15番目、17番目、23番目、30番目、34番目、48番目、62番目、64番目、65番目、68番目、73番目、75番目、84番目、91番目、93番目、94番目、100番目、107番目、108番目、111番目、118〜120番目、131番目、139番目、146番目、149番目、153番目、161番目、162番目、168番目、171番目、175番目、187番目、191番目、199番目、200番目、205番目、213番目、219番目、228番目、240番目、245番目、246番目、250番目、252番目、254番目、259番目、261番目、265番目、271番目、273番目、281番目〜284番目、及び302番目から成る群より選択される1以上のアミノ酸残基を有することが好ましい。ここで「1以上のアミノ酸残基」とは、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、又は60のアミノ酸残基であり得る。一実施形態において、前記特定のアミノ酸残基のより多くのアミノ酸残基を有することが好ましい。
【0016】
より好適な一実施形態において、酵素は、更に配列番号2のアミノ酸配列における6番目、8番目、19番目、32番目、33番目、70番目、110番目、117番目、122番目、169番目、172番目、193番目、201番目、214番目、227番目、241番目、248番目、253番目、262番目、275番目、278番目、293番目、及び300番目から成る群より選択される1以上のアミノ酸残基を有することが好ましい。ここで「1以上のアミノ酸残基」は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、又は25のアミノ酸残基であり得る。
【0017】
一実施形態において、酵素は、配列番号2のアミノ酸配列において、下記表1のアミノ酸残基の置換の1以上を有していてもよい。ここで「1以上」とは、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、又は85であり得る。
【0019】
表1において、「位置」とは、配列番号2におけるアミノ酸残基の位置を意味する。「置換アミノ酸残基」とは、配列番号2の特定の位置のアミノ酸残基を置換することができるアミノ酸残基の種類を意味する。表1において、アミノ酸残基の種類は、アルファベット一文字表記で示されている。
【0020】
一実施形態において、アミノ酸残基の置換は、保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。よって、同一のファミリー内のアミノ酸残基間で置換されることが好ましい。
【0021】
一実施形態において、酵素は、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Asp95、Met155、Val159、Thr174、Arg184、及びHis230から成る群より選択される1以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されていることが好ましい。一実施形態において、酵素は、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Asp95Ser、Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnから成る群より選択される1以上のアミノ酸残基の置換を有することが好ましい。ここで、「Met155Leu」とは、155番目のメチオニン残基がロイシン残基に置換されていることを意味する。他の置換についても同様である。また、「1以上」とは、好ましくは2以上、3以上、4以上、5以上、又は6であり得る。Thr174Ile、Arg184Met、及び/又はHis230Asnの置換を有することにより、より幅広い種類のD−アミノ酸及び2−オキソ酸を基質として対応するオキソ酸及びD−アミノ酸を生産することが可能になる。また、Asp95Ser、Met155Leu及び/又はVal159Glyの置換を有することにより、触媒効率をより高めることが可能である。
【0022】
例えば、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有することにより、酵素は、変異前と比較して、次の反応を触媒する高い活性を有する:2−オキソ−3−メチルブタン酸をD−バリンに変換する反応、2−オキソ−4−メチルペンタン酸をD−ロイシン酸に変換する反応、2−オキソ−3−メチルペンタン酸をD−イソロイシンに変換する反応、2−オキソ−4−(メチルチオ)ブタン酸をD−メチオニンに変換する反応、2−オキソブタン酸をD−2−アミノ酪酸に変換する反応、及び、2−オキソオクタン酸をD−2−アミノオクタン酸に変換する反応。従って、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素は、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−メチオニン、D−2−アミノ酪酸、及びD−2−アミノオクタン酸の製造に適している。また、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnだけでなく、更にMet155Leu及びVal159Glyという置換を有することにより、酵素は、次の反応を触媒する更に高い活性を有する:2−オキソ−4−メチルペンタン酸をD−ロイシン酸に変換する反応、2−オキソ−3−フェニルプロパン酸をD−フェニルアラニンに変換する反応、2−オキソ−4−(メチルチオ)ブタン酸をD−メチオニンに変換する反応、及び、2−オキソオクタン酸をD−2−アミノオクタン酸に変換する反応。
【0023】
一方、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Asp95Ser、Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnといった変異を有さない酵素は、次の反応を触媒する比較的高い活性を有する:2−オキソプロパン酸をD−アラニンに変換する反応、2−オキソブタン二酸をD−アスパラギン酸に変換する反応、及び2−オキソグルタル酸をD−グルタミン酸に変換する反応。従って、上述の特定の変異(置換)を有さない酵素は、D−アラニン、D−アスパラギン酸、及びD−グルタミン酸の製造に好適である。
【0024】
一実施形態において、酵素は、配列番号2のアミノ酸配列において、Asp95、Asp125、Met155、Gly156、Thr174、Arg184、及びHis230から成る群より選択される1以上のアミノ酸残基を有することが好ましい。「1以上」とは、好ましくは2以上、3以上、4以上、5以上、6以上又は7であり得る。これらの1以上のアミノ酸残基を有すること(維持すること)により、後述するk
cat(min
−1)等に関する特性を好適に満たすと考えられる。
【0025】
酵素は、6量体であることが好ましい。6量体であるとは、酵素が活性型(活性を有する状態)のときに6個のポリペプチド(モノマー)が1個の纏まった構造を形成している状態であることを意味する。6量体は、ホモ6量体とヘテロ6量体のいずれでもよいが、ホモ6量体であることが好ましい。
【0026】
一実施形態において、酵素は、2−オキソブタン二酸からD−アスパラギン酸を生産する活性を有することが好ましい。このような酵素は、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、上述のAsp95Ser、Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnといった変異を有していても、有していなくても良い。一実施形態において、より効率的にD−アスパラギン酸を生産するという観点で、酵素は、前記変異を有さないことが好ましい。
【0027】
一実施形態において、酵素は、2−オキソグルタル酸からD−グルタミン酸を生産する活性を有することが好ましい。このような酵素は、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、上述のAsp95Ser、Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnといった変異を有さないことが好ましい。
【0028】
酵素は、D型アミノ酸を可逆的に脱水素する反応を触媒するための補酵素としてNADH及びNADPHのいずれを利用することも可能であることが好ましい。NADHはNADPHよりも一般的に安価に入手できる。よって、NADHを補酵素として利用できることは、酵素を用いたD型アミノ酸等の製造コストを低減する上で有意義である。
【0029】
酵素は、
meso−ジアミノピメリン酸を基質とする場合のk
cat(min
−1)が1.0×10
4以上であることが好ましい。k
cat(min
−1)は1.5×10
4、2.0×10
4以上、2.5×10
4以上又は3.0×10
4以上、3.5×10
4以上又は3.8×10
4以上であることが好ましい。k
catは単位時間当たりに何個の基質を触媒できるかというパラメーターである。
【0030】
酵素は、
meso−ジアミノピメリン酸を基質とする場合のK
m値が4.0 mM以下、又は3.5mM以下であることが好ましい。K
m値は、酵素と基質との親和性を示すパラメーターであり、その値が低いほど親和性が高く、少ない量の酵素で効率的に所望の反応を進めることができる。
【0031】
酵素は、
meso−ジアミノピメリン酸を基質とし、NAD
+を補酵素とする場合のNAD
+に対するK
m値が1000mM以下、950mM以下、又は900mM以下であることが好ましい。このようなK
m値を満たすことにより、酵素を用いてD−アミノ酸又はオキソ酸を生産するために必要となるNAD
+の量を低減することができる。
【0032】
酵素は、
meso−ジアミノピメリン酸を基質とし、NADP
+を補酵素とする場合のNADP
+に対するK
m値が10mM以下、1mM以下、又は0.5mM以下であることが好ましい。このようなK
m値を満たすことにより、酵素を用いてD−アミノ酸又はオキソ酸を生産するために必要となるNADP
+の量を低減することができる。
【0033】
酵素は、
meso−ジアミノピメリン酸を基質とする場合の至適活性pHが10.5であることが好ましい。至適活性pHが10.5とは、
図5に示すように、pHが9.0〜10.0及びpHが11.0〜11.5の場合と比較してpHが10.5の場合の酵素活性が高いことを意味する。
【0034】
酵素は、
meso−ジアミノピメリン酸を基質とする場合の至適活性温度が75℃であることが好ましい。至適活性温度が75℃とは、
図6に示すとおり、50℃〜70℃及び80℃における酵素活性と比較して75℃における酵素活性が高いことを意味する。
【0035】
酵素は、そのポリペプチド部分(モノマー)のSDS−PAGEで測定した分子量が約32kDaであることが好ましい。「約32kDa」とは、SDS−PAGEで分子量を測定した際に、当業者が、通常32kDaの位置にバンドがあると判断する範囲を含むことを意味する。「ポリペプチド部分」とは、実質的に糖鎖が結合していない状態のポリペプチドを意味する。
【0036】
酵素は、熱安定性に優れていることが好ましい。例えば、酵素は、40℃で30分間保持した後の活性(
meso−ジアミノピメリン酸を基質とする)と比較して、60℃で30分間保持した後の活性が、75%以上であることが好ましい。
【0037】
酵素は、pH安定性に優れていることが好ましい。例えば、酵素は、pH5.5〜9.5の緩衝液中で30分間保持した後の残存活性が、pH5.5の緩衝液中で30分間保持した後の残存活性と比較して90%以上であることが好ましい。また、酵素は、pH5.5〜13.0の緩衝液中で30分間保持した後の残存活性が、pH5.5の緩衝液中で30分間保持した後の残存活性と比較して80%以上であることが好ましい。
【0038】
酵素の由来は特に制限されない。例えば、酵素は、
Numidum属に属する微生物(例えば、
Numidum massiliense)に由来することが好ましい。
【0039】
酵素は、結晶状態であってもよい。結晶状態の酵素は、例えば、後述する実施例に従って得ることができる。結晶状の酵素は、高純度での精製、高密度でプロテアーゼ抵抗性の強い安定な保存、固定化への利用に有用である。
【0040】
上述の酵素は、任意の手法で得ることができる。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子をそのまま(又はアミノ酸残基に変異を加えた上で)利用し、宿主細胞を形質転換し、その培養物から上記活性を有するタンパク質を採取することによって取得することができる。また、酵素はそれを構成するポリペプチドを化学合成することによっても得ることができる。
【0041】
上述の酵素をコードするポリヌクレオチドの構造は特に制限されない。例えば、ポリヌクレオチドは、配列番号1の塩基配列との同一性が60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である塩基配列を有することが好ましい。
【0042】
塩基配列の相同性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツール(例えば、BLAST等)を用いて算出することができる。BLASTを用いる場合、各種パラメーターは初期条件で計算することができる。
【0043】
ポリヌクレオチドは、DNA、RNA、又はDNA−RNAハイブリッド等のいずれでもよい。ポリヌクレオチドは、単離されたものであることが好ましい。ポリヌクレオチドがDNAである場合、cDNAであってもよい。
【0044】
ポリヌクレオチドは、任意の手法で得ることができる。例えば、配列番号1の情報を基に化学的合成法(例えば、フォスフォアミダイト法による固相合成法)により製造、取得することができる。また、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって容易に調製することもできる。
【0045】
ベクターは、上記酵素をコードするポリヌクレオチドを組み込んでいることが好ましい。ベクターの種類は特に制限されず、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。
【0046】
ベクターは、ポリヌクレオチドが宿主において発現できる限りその構成は制限されない。ベクターは、ポリヌクレオチドの発現に必要な他の塩基配列が含んでいることが好ましい。他の塩基配列としては、例えば、プロモーター配列、リーダー配列、シグナル配列、エンハンサー配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。
【0047】
形質転換体は、上述の酵素をコードするポリヌクレオチドを含むことが好ましい。このような形質転換体は、上述のポリヌクレオチドを含むベクターを宿主に導入することで得ることができる。宿主細胞は、上記ポリヌクレオチドを発現して上記酵素を生産可能である限り、特に制限されない。具体的には、大腸菌、及び枯草菌等の原核細胞、酵母、カビ、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞等の真核細胞等を挙げることができる。ベクターを用いた宿主の形質転換は、常法(例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソームフェクション法)に従って行うことができる。
【0048】
上記形質転換体を培養することにより上記酵素を得ることができる。培養条件は、宿主の種類等に応じて適宜設定することができる。培養後、培養液又は菌体より酵素を回収することができる。酵素を菌体外に分泌する微生物を用いる場合は、例えば、培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析透析、各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて単離、精製を行うことにより酵素を得ることができる。このようにして上述の酵素を低コストで大量生産することができる。
【0049】
一実施形態において酵素は熱安定性に優れる。そこで、単離、精製工程において熱処理を併用することが有用かつ便利である。培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。これに対して熱安定性に優れる酵素は変性を生じないことから、遠心分離等により宿主由来の夾雑タンパク質と容易に分離できる。熱処理の条件は、特に限定するものではないが、例えば約50〜65℃で10〜30分間の処理とすることができる。培養液をそのまま、若しくは粗抽出液の熱処理を行なうことにより、他のタンパク質が失活させ、効率的に目的の酵素を得ることができる。
【0050】
上述の酵素を利用することにより、D−アミノ酸を合成することができる。D−アミノ酸の合成は、例えば、基質である2−オキソ酸のアミノ化により行うことができる。NADPH(又はNADH)とアンモニアの存在下で、酵素を基質となる2−オキソ酸と反応させ、当該酵素の触媒反応で生成するD−アミノ酸を回収することができる。D−アミノ酸の回収は任意の手法(例えば、イオン交換樹脂を用いた方法)で行うことができる。同様に、上述の酵素を用いて、D−アミノ酸から2−オキソ酸を製造することができる。
【0051】
D−アラニンは、2−オキソプロパン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−アラニンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Asp95Ser、Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnといった変異を有さない酵素を用いることが好ましい。
【0052】
D−バリンは、2−オキソ−3−メチルブタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−バリンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換を有する酵素を用いることが好ましい。
【0053】
D−ロイシンは、2−オキソ−4−メチルペンタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−ロイシンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換を有する酵素を用いることが好ましい。
【0054】
D−イソロイシンは、2−オキソ−3−メチルペンタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−イソロイシンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換を有する酵素を用いることが好ましい。
【0055】
D−メチオニンは、2−オキソ−4−(メチルチオ)ブタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−メチオニンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換を有する酵素を用いることが好ましい。
【0056】
D−フェニルアラニンは、2−オキソ−3−フェニルプロパン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−フェニルアラニンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0057】
D−アスパラギン酸は、2−オキソブタン二酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−アスパラギン酸の製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Asp95Ser、Met155Leu、及びVal159Glyの置換を有さない酵素を用いることが好ましい。
【0058】
D−グルタミン酸は、2−オキソグルタル酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−グルタミン酸の製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Asp95Ser、Met155Leu、及びVal159Glyの置換を有さない酵素を用いることが好ましい。
【0059】
D−2−アミノ酪酸は、2−オキソブタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−2−アミノ酪酸の製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素を用いることが好ましい。
【0060】
D−2−アミノオクタン酸は、2−オキソオクタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−2−アミノオクタン酸の製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0061】
D−2−アミノヘプタン酸は、2−オキソヘプタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−2−アミノヘプタン酸の製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0062】
D−ノルロイシンは、2−オキソヘキサン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−ノルロイシンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0063】
D−ノルバリンは、2−オキソペンタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−ノルバリンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0064】
D−セリンは、2−オキソ−3−ヒドロキシプロピオン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−セリンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0065】
D−スレオニンは、2−3−ヒドロキシブタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−スレオニンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0066】
D−システインは、2−オキソ−3−スルファニルプロパン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−システインの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0067】
D−アスパラギンは、2−オキソ−3−カルバモイルプロパン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−アスパラギンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0068】
D−グルタミンは、2−オキソ−4−カルバモイルブタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−グルタミンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0069】
D−トリプトファンは、2−オキソ−3−(1H−インドール−3−イル)プロパン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−トリプトファンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0070】
D−リジンは、2−オキソ−6−アミノカプロン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−リジンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0071】
D−アルギニンは、2−オキソ−5−グアニジノペンタン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−アルギニンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0072】
D−チロシンは、2−オキソ−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−チロシンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【0073】
D−ヒスチジンは、2−オキソ−3−(4−イミダゾリル)プロピオン酸に上述の酵素を作用させることにより得ることができる。一実施形態において、D−ヒスチジンの製造には、配列番号2又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、Thr174Ile、Arg184Met、及びHis230Asnの置換を有する酵素、又はThr174Ile、Arg184Met、His230Asn、Met155Leu、及びVal159Glyの置換(又は、更にAsp95Serの置換)を有する酵素を用いることが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0075】
[実施例1 D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子のクローニングと発現ベクターの作製]
D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子は、公知の遺伝子クローニング技術を用いて取得することができる。例えば、GenBank等の公知のデータベースを検索することによって取得可能な配列情報を基に遺伝子を合成して取得できる。
【0076】
GENEWIZ社から配列番号1の塩基配列を有する
N. massiliense由来のD型アミノ酸脱水素酵素をコードするDNAを取得した。これを制限酵素
NdeIと
EcoRIで切断し、アガロースゲル電気流動で分離後、ゲルから抽出及び精製を行った。制限酵素処理後のDNA断片を、タンパク質発現用プラスミドのpET−21a(+)(ノバジェン社製)の制限酵素部位(
NdeI及び
EcoRI)にライゲーション反応により組み込み、D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を保持する発現ベクターを構築した。当該発現ベクターは、T7プロモーター、リポソーム結合部位の下流、T7ターミネーターの上流に
N. massiliense由来のD型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を組み込むように構築した。このD型アミノ酸脱水素酵素遺伝子の塩基配列(配列番号1)を
図1に示す。また、配列番号1の塩基配列がコードするアミノ酸配列(配列番号2)を
図2に示す。
【0077】
なお、この発現ベクターには、ヒスチジン-タグが含まれていない。また、他の発現ベクターにD型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を挿入する際には、D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子に終止コドン(本実施例ではTAAを利用)を加えて、塩基配列以降のヒスチジン-タグを翻訳させないように塩基配列をデザインすることもできる。
【0078】
[実施例2 D型アミノ酸脱水素酵素の合成]
上記実施例1で得られた発現ベクターを利用して、
E. coli BL21(DE3)株を形質転換した。これを、抗生物質アンピシリン(最終濃度 100mg/L)を含むLB培地(500 mL)に接種し、A
600=0.6程度になるまで37℃で振とう培養し、その後、イソプロピル−β−D(−)−ガラクトピラノシド(和光純薬社製)を最終濃度で0.1 mMとなるように加え、37℃でさらに6時間振とう培養した。
【0079】
培養液中の菌体を遠心分離によって集め、この菌体を50 mMリン酸緩衝液(pH7.2)を用いて懸濁し、氷冷下で超音波破砕した。超音波破砕後に遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。粗酵素液を、50℃で30分間熱処理し、その処理酵素液を、TOYOPEARL SuperQ−650陰イオン交換クロマトグラフィー(東ソー社製)、TOYOPEARL Butyl−650M疎水性クロマトグラフィー(東ソー社製)、Superdex200ゲルろ過クロマトグラフィー(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて精製した。得られたD型アミノ酸脱水素酵素のタンパク質量をブラッドフォード法により測定した。
【0080】
図3に、粗酵素液、熱処理酵素液、及び各種クロマトグラフィー後に得られた活性画分と分子量マーカーをSDS−PAGEに供した結果を示す。
図1のレーン6より、32 kDaの位置にタンパク質のシングルバンドを確認することができ、良好な精製結果を得ることができた。
【0081】
[実施例3 D型アミノ酸脱水素酵素の補酵素依存性の確認]
上記実施例2で取得したD型アミノ酸脱水素酵素について、補酵素依存性を評価した。前記酵素の補酵素依存性は、酵素の触媒反応に起因した活性染色法により評価した。
【0082】
より詳細には、適量の酵素溶液を、ディスクゲル電気泳動に供した。泳動後のゲルを、200 mM リン酸種緩衝液(pH8.0)、10 mM
meso−ジアミノピメリン酸、0.1 mM 2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2
H−テトラゾリウム塩化物 (INT)(同仁化学社製)、 0.04 mM 1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチル硫酸塩(PMS)(同仁化学社製)及び1.25 mMの各種補酵素を含む反応液に浸して、50℃で30分間保温した。この反応液中の2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2
H−テトラゾリウム塩化物が還元されて、水溶性ホルマザンを生じる。反応式を以下に示す。尚、下記の反応式では、D型アミノ酸脱水素酵素を「
meso−DAPDH」と表記する。
【0083】
【化1】
【0084】
図4に、精製された酵素をタンパク質染色及び活性染色に供した結果を示す。
図4の各レーンより、酵素に起因したシングルバンドが確認された。また、レーン2、3より、本酵素はNAD
+とNADP
+の両補酵素を利用することが確認された。
【0085】
[実施例4 D型アミノ酸脱水素酵素の触媒反応における最適pHの確認]
実施例2で得られたD型アミノ酸脱水素酵素について、最適pHを評価した。前記酵素の活性は、酵素の触媒反応で生成するNADPHを波長340 nmの吸光度の増大を測定することに定量し、これを指標として、酵素活性を求めることにより測定した。
【0086】
より詳細には、適量の酵素溶液を、10 mM
meso−ジアミノピメリン酸、1.25 mM NADP
+を含む200 mMの各種緩衝液中で混合することにより反応液を調製した。続いて、この反応液中のNADP
+からNADPHへの変化に伴う340 nmの吸光度の増大を反応温度50℃で測定することにより活性測定を行った。
【0087】
吸光度は、紫外可視分光光度計UV-1800(SHIMADZU社製)により測定した。得られた吸光度変化と下記式を利用して、使用した酵素のタンパク質量と酵素希釈率から酵素の比活性を算出した。
【0088】
【数1】
ΔA340:340 nmにおける1分間あたりの吸光度変化量
D:酵素希釈率
6.22:340 nmにおけるNADPHのミリモル分子吸光係数 (L・mmol
-1・cm
-1)
C:タンパク濃度 (mg/mL)
d:光路長 (1cm)
【0089】
測定結果を
図5に示す。この結果から、
meso−ジアミノピメリン酸の脱アミノ反応における最適活性pHは10.5であることが示された。
【0090】
[実施例5 D型アミノ酸脱水素酵素の触媒反応における最適温度の確認]
所定温度(50、55、60、65、70、75、又は80℃)で加温した反応溶液に1.25 mM NADP
+を添加し、直ちに吸光度の増大を測定した以外は実施例4と同様にして吸光度を測定し、相対活性を算出した。
図6に、測定結果を示す。この結果から至適活性温度は、約75℃であることが確認された。
【0091】
[実施例6 D型アミノ酸脱水素酵素の熱安定性の確認]
実施例2で精製したD型アミノ酸脱水素酵素を、10 mMリン酸緩衝液(pH 7.2)中で、様々な温度条件(40、45、50、55、60、65、又は70℃)下で30分間熱処理し、氷中に5分間静置後の残存活性を確認した。酵素活性は、実施例4に記載の方法で、
meso−ジアミノピメリン酸を基質として利用した場合のNADPHの生成に起因した340nmにおける吸光度の増大により評価した。40℃での処理における活性を100%として、その他の温度での処理後の残存活性を相対活性として算出した。
【0092】
図7に、測定結果を示す。この結果から、当該酵素は60℃熱処理後、約76%の残存活性を保持することが確認された。
【0093】
[実施例7 D型アミノ酸脱水素酵素のpH安定性の確認]
実施例2で精製したD型アミノ酸脱水素酵素を、100 mMの各緩衝液(pH 4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.3、12.0、12.3、又は13.0)中で、50℃で30分間熱処理し、氷中に5分間静置後の残存活性を確認した。酵素活性は、実施例4に記載の方法で、
meso−ジアミノピメリン酸を基質として利用した場合のNADPHの生成に起因した340nmにおける吸光度の増大により評価した。pH 5.5での処理における活性を100%として、その他のpHでの処理後の残存活性を相対活性として算出した。
【0094】
図8に測定結果を示す。
図8に示すように、D型アミノ酸脱水素酵素は、pH 5.5から9.5での処理後、約90%以上の残存活性を保持していた。
【0095】
[実施例8 D型アミノ酸脱水素酵素の速度論的解析]
実施例2で得られたD型アミノ酸脱水素酵素について、
meso−ジアミノピメリン酸を基質に、NADP
+またはNAD
+を補酵素に用いて活性の測定を行い、速度論的解析を行った。
【0096】
反応速度パラメーターである代謝回転数(k
cat)、ミカエリ定数(K
m)値及び触媒効率(k
cat/K
m)は、Igor Pro ver. 3.14(WaveMetrics社製)を用いて、異なる基質・補酵素濃度におけるD型アミノ酸脱水素酵素の触媒反応の初速度を、生成したNAD(P)Hの時間に対するプロットから決定した後、ミカエリス・メンテン式に基づいて決定した。酵素活性は、実施例4に記載の方法で、
meso−ジアミノピメリン酸を基質として利用した場合のNAD(P)Hの生成に起因した340 nmにおける吸光度の増大により評価した。
【0097】
表2に、前記精製酵素の速度論的解析結果を示す。表2に示すように、D型アミノ酸脱水素酵素は、NAD
+よりもNADP
+を補酵素に利用した方が、触媒効率が高くなることが示された。
【0098】
【表2】
meso−ジアミノピメリン酸に対するk
cat、K
m、k
cat/K
mについては、NADP
+を補酵素に用いて決定した。
【0099】
[実施例9 D型アミノ酸脱水素酵素の結晶化]
精製したD型アミノ酸脱水素酵素(濃度17.80 mg/mL)溶液と、1.0 M 1,6−ヘキサンジオール、0.1 M 酢酸ナトリウム三水和物(pH 4.6)、0.01 M 塩化コバルト(II)六水和物から成る結晶化溶液を同量ずつ(各々0.5 μL)混合した。96穴プレート(ハンプトン・リサーチ社)を使用して、上記の結晶化溶液50 μLを母液とし、シッティングドロップ法での蒸気拡散を用いて、20℃にて静置した。1日後に結晶が析出し、3日後には測定可能な大きさ(1.5×1.0×1.0 mm程度)の結晶に成長した(
図9)。
【0100】
[実施例10 D型アミノ酸脱水素酵素の結晶構造解析]
D型アミノ酸脱水素酵素の結晶は、常温測定ではX線損傷により結晶が劣化し、徐々に分解能が下がるため、低温条件下での測定を行った。結晶を、30%のグリセロールを含む結晶化溶液に移した後、90Kの窒素ガスを吹き付け、急速冷却した。X線回折装置 MX300HE detector(Raynonix社製)を用いて、1.42Å分解能のX線回折データを収集し、結晶学的パラメーターを決定した。空間群は
P212121、格子定数は、
a=128.83Å、
b=129.80Å、
c=136.34Å、
α=90°、
β=90°、
γ=90°となった。非対称単位に6つの分子が含まれると仮定すれば、結晶の水分含有率は57.7%となった。
【0101】
[実施例11 D型アミノ酸脱水素酵素の立体構造決定]
得られたX線回折強度データと、実施例10で取得したD型アミノ酸脱水素酵素の三次元構造座標を用いて、プログラムPHASERによる分子置換法を行った。
Symbiobacterium thermophilum由来の
meso−DAPDHの三次元構造座標をサーチモデルとして分子置換法の計算を行った。50.0Åから1.42Å分解能までの構造因子を用いた計算の結果、1種類の有意な解が得られた。
【0102】
得られたその構造モデルを、プログラムREFMAC5の中の制限精密化の方法により、30.0Åから1.42Å分解能までのX線回折データを用いて精密化した結果、298アミノ酸残基からなる
meso−DAPDHのうち、A、B両分子においてVal4−Val302のアミノ酸残基を同定した。またタンパク質以外の原子として、2,609個の水分子を同定した。精密化の最終段階で、R因子は13.7%、Free−R因子は18.3%であった。更に各原子間の結合距離および結合角の理想状態からの二乗平均平方根誤差は、それぞれ0.03Åおよび2.66度であった。
【0103】
以上の解析により、三次元構造座標が得られた。得られた構造座標から、D型アミノ酸脱水素酵素の会合状態は六量体であることが確認された(
図10)。
【0104】
[実施例12 変異型D型アミノ酸脱水素酵素の合成]
N. massiliense由来のD型アミノ酸脱水素酵素のアミノ酸配列に対して、3種類の変異(Thr174Ile、Arg184Met、His230Asn)が導入されたポリペプチドをコードするDNAを合成により取得した。これを制限酵素
NdeIと
EcoRIで切断し、アガロースゲル電気流動で分離後、ゲルから抽出及び精製を行った。制限酵素処理後のDNA断片を、タンパク質発現用プラスミドのpET−21a(+)(ノバジェン社製)の制限酵素部位(
NdeI及び
EcoRI)にライゲーション反応により組み込み、3変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を保持する発現ベクターを構築した。当該発現ベクターは、T7プロモーター、リポソーム結合部位の下流、且つ、T7ターミネーターの上流に上記3変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を組み込むように構築した。この3変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子の塩基配列(配列番号7)を
図12に示す。また、配列番号7の塩基配列がコードするアミノ酸配列(配列番号8)を
図13に示す。
【0105】
上記発現ベクターには、ヒスチジン-タグが含まれていない。また、他の発現ベクターにD型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を挿入する際には、D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子に終止コドン(本実施例ではTAAを利用)を加えて、塩基配列以降のヒスチジン-タグを翻訳させないように塩基配列をデザインすることもできる。
【0106】
N. massiliense由来のD型アミノ酸脱水素酵素のアミノ酸配列に対して、6種類の変異(Asp95Ser、Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、His230Asn)が導入されたポリペプチドをコードするDNAを合成により取得した。さらに、上記と同様の手法により、6変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子を保持する発現ベクターを構築した。この6変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子の塩基配列(配列番号9)を
図14に示す。また、配列番号9の塩基配列がコードするアミノ酸配列(配列番号10)を
図15に示す。
【0107】
N. massiliense由来のD型アミノ酸脱水素酵素に対して、5種類の変異(Met155Leu、Val159Gly、Thr174Ile、Arg184Met、His230Asn)が導入された変異酵素の遺伝子を作製するため、上記で作製した6変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素/pET−21a(+)を鋳型に利用して、タカラバイオ社製の「PrimeSTAR Max DNA Polymerase」を使用し、PCRにより当該発現ベクターを作製した。PCRは、製造業者の指示に従って実行した。PCR反応液は、以下のプライマーを各0.3μM、上記の鋳型DNAを50 ng含んで調製した。
【0108】
5’−CGGTCGACAGTTACGACATTCACGGCGAAC−3’
(配列番号11)
5’−GTTCGCCGTGAATGTCGTAACTGTCGACCG−3’
(配列番号12)
【0109】
PCR後、反応液に
DpnIを2μL加えて37℃で1時間処理し、処理後の溶液を用いて、
E. coli DH5αを形質転換した。形質転換細胞を、抗生物質アンピシリン(最終濃度 100mg/L)を含むLB寒天培地プレート上に塗布し、37℃で16時間培養した。生成したコロニーを採取し、アンピシリンを含むLB培地で一晩震とう培養した。遠心分離により、培養液から菌体を回収後、5変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素/pET−21a(+)をAccuPrep Plasmid Mini Extraction Kit(BIONEER)を利用して、製造元のプロトコールに従って回収した。この5変異導入型D型アミノ酸脱水素酵素遺伝子の塩基配列(配列番号13)を
図16に示す。また、配列番号13の塩基配列がコードするアミノ酸配列(配列番号14)を
図17に示す。
【0110】
上記で得られた各種の発現ベクターまたはD型アミノ酸脱水素酵素/pET−21a(+)を利用して、
E. coli BL21(DE3)株をそれぞれ形質転換した。これらを、アンピシリンを含むOvernight Express Instant LB 培地(Merck Millipore社製)250 mLに接種し、37℃で16時間振とう培養した。
【0111】
培養液中の菌体を遠心分離によってそれぞれ回収し、各菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.2)を用いて懸濁し、氷冷下で超音波破砕した。超音波破砕後に遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。粗酵素液を、50℃で30分間熱処理し、その処理酵素液を、TOYOPEARL SuperQ−650陰イオン交換クロマトグラフィー(東ソー社製)、TOYOPEARL Butyl−650M疎水性クロマトグラフィー(東ソー社製)、Superdex200ゲルろ過クロマトグラフィー(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて精製した。得られた各種の精製酵素のタンパク質量をブラッドフォード法により測定した。
【0112】
[実施例13 D型アミノ酸脱水素酵素の光学活性の確認]
上記実施例2で取得したD型アミノ酸脱水素酵素について、光学活性を評価した。なお酵素の光学活性は、酵素の触媒反応に起因した活性染色法により評価した。より詳細には、適量の酵素溶液を、ディスクゲル電気泳動に供した。泳動後のゲルを、200 mM リン酸種緩衝液(pH8.0)、10 mM D−アラニンまたはL-アラニン、0.1 mM 2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2
H−テトラゾリウム塩化物 (INT)(同仁化学社製)、 0.04 mM 1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチル硫酸塩(PMS)(同仁化学社製)及び1.25 mMのNADP
+を含む反応液に浸して、50℃で30分間保温した。この反応液中の2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2
H−テトラゾリウム塩化物が還元されて、水溶性ホルマザンを生じる。反応式を以下に示す。尚、下記の反応式では、D型アミノ酸脱水素酵素を「
meso−DAPDH」と表記する。
【0113】
【化2】
【0114】
図18に、精製されたD型アミノ酸脱水素酵素をタンパク質染色及び活性染色に供した結果を示す。
図18のレーン1と2より、酵素に起因したシングルバンドが確認された。また、レーン2より、本酵素はD−アミノ酸に選択的に作用することが確認された。また、D型アミノ酸脱水素酵素は可逆的にD−アミノ酸の脱アミノ反応を触媒する。従って、D型アミノ酸脱水素酵素は、2−オキソ酸のアミノ化により、L−アミノ酸ではなくD−アミノ酸を合成することが確認された。
【0115】
[実施例14 各種酵素のD-アミノ酸合成活性の確認]
実施例2及び12で得られた各種酵素のD-アミノ酸合成活性の測定を行い、各種変異導入が、D-アミノ酸の合成活性に及ぼす影響を検討した。前記酵素の活性は、酵素の触媒反応で減少するNADPHまたはNADHを波長340 nmの吸光度の減少を測定することに定量し、これを指標として、酵素活性を求めることにより測定した。より詳細には、適量の酵素溶液を、5 mM 2−オキソ酸、0.1 mM NAD(P)H、200 mM 塩化アンモニウムを含む200 mMのグリシン−KOH緩衝液(pH9.5)中で混合することにより反応液を調製した。続いて、この反応液中のNAD(P)HからNAD(P)
+への変化に伴う340 nmの吸光度の減少を反応温度50℃で測定することにより活性測定を行った。吸光度は、紫外可視分光光度計 UV−1800(SHIMADZU社製)により測定した。得られた吸光度変化と実施例4で使用した式と同じ式を利用して酵素活性を測定し、また使用した酵素のタンパク質量と酵素希釈率から酵素の比活性を算出した。表3に、各種酵素のD-アミノ酸合成活性をそれぞれ示す。
【0116】
【表3】
【0117】
表1の結果から、変異導入前のD型アミノ酸脱水素酵素は、種々の2−オキソ酸を基質に利用して、分岐鎖D-アミノ酸や含硫D-アミノ酸、酸性D-アミノ酸、芳香族D-アミノ酸等の様々な種類のD-アミノ酸を合成することが確認された。またD型アミノ酸脱水素酵素に対して変異を導入することで、分岐鎖D-アミノ酸や含硫D-アミノ酸を合成する活性を30倍程度まで上昇させることが確認された。更に、変異導入前の酵素では活性が検出されなかったNADH依存的なD-アミノ酸の合成活性の新たな発現が確認された。