特許第6675535号(P6675535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6675535脳活動検出システム、脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法、そのような脳活動の解析方法による個人特性の評価方法及び個人の見え方の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675535
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】脳活動検出システム、脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法、そのような脳活動の解析方法による個人特性の評価方法及び個人の見え方の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0484 20060101AFI20200323BHJP
   A61B 5/0408 20060101ALI20200323BHJP
   A61B 5/0478 20060101ALI20200323BHJP
   A61B 5/04 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   A61B5/04 320M
   A61B5/04 300M
   A61B5/04ZDM
【請求項の数】26
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-193042(P2015-193042)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-64031(P2017-64031A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 直也
(72)【発明者】
【氏名】乾 幸二
(72)【発明者】
【氏名】竹島 康行
(72)【発明者】
【氏名】柿木 隆介
【審査官】 ▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0011857(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/158803(WO,A1)
【文献】 特開2012−085747(JP,A)
【文献】 特開昭61−154533(JP,A)
【文献】 特開2015−054221(JP,A)
【文献】 特開2013−011877(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0036275(US,A1)
【文献】 NUWER, R.M., et al.,IFCN standards for digital recording of clinical EEG,Recommendations for the Practice of Clinical Neurophysiology: Guidelines of the IFCN (2nd Ed, published 1999),1999年,chapter 1.3,URL,https://www.journals.elsevier.com/clinical-neurophysiology/view-for-free/guidelines-of-the-ifcn-2nd-ed-published-1999
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0476−5/484
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を解析するための脳活動検出システムであって、
複数の電極よりなる第1の電極群と、複数の電極よりなる第2の電極群の、少なくとも2つの電極群を備えるとともに、前記第1の電極群の各電極毎の第1の電位と、前記第2の電極群の各電極毎の第2の電位との差をそれぞれ算出する算出手段を備え
前記第1及び前記第2の電極群の少なくともいずれか一方は3以上の電極が直列に配置されている電極列よりなることを特徴とする脳活動検出システム。
【請求項2】
前記第1の電極群と前記第2の電極群は、両群ともに3以上の電極が直列に配置された電極列よりなることを特徴とする請求項1に記載の脳活動検出システム。
【請求項3】
前記電極列の電極は、前記電極列の全長の中心位置において線対称となる位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項4】
前記電極列の全長の中心位置から同中心位置にはない最も近い電極までの距離をSとした場合に、前記各電極は前記中心位置から前記S間隔で順に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の脳活動検出システム。
【請求項5】
前記電極列の電極間の距離は2〜4cmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項6】
前記電極列は、前記所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動の電流方向に交差するように配置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項7】
前記電極列は、前記所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動の電流方向に直交するように配置されることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項8】
前記第1の電極群と前記第2の電極群の中心は、被験者の頭部に沿って15cm以上離間させて被験者に装着されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項9】
前記所定の外的刺激は視覚刺激であり、当該の視覚刺激の刺激開始時又は刺激提示時の時間を脳活動と同期して記録することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項10】
前記第1の電極群のいずれかの電極の第1の電位と前記第2の電極群のいずれかの電極の第2の電位の電位差、前記第1の電極群のいずれか2つの電極の第1の電位及び第2の電位の電位差、前記第2の電極群のいずれか2つの電極の第1の電位及び第2の電位の電位差、の少なくともいずれか1つの電位差に基づいて脳活動を解析することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項11】
前記算出手段によって算出した電位差を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項12】
前記第1の電極群の中心は後頭結節の2cm下〜後頭結節の5cm上のいずれかの位置に配置され、前記第2の電極群の中心は頭頂〜頭頂の9cm前方のいずれかの位置に配置されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項13】
前記第1の電極群を備える第1の装着部を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項14】
前記第2の電極群を備える第の装着部を備えることを特徴とする請求項13に記載の脳活動検出システム。
【請求項15】
前記第1の装着部と第2の装着部との間は少なくとも1つのアーム構造により連結されていることを特徴とする請求項14に記載の脳活動検出システム。
【請求項16】
前記第1又は第2の装着部の少なくとも一方は、被験者の装用する眼鏡を支持体として頭部に装着させるようにしたことを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項17】
前記第1又は第2の装着部はそれぞれ別々に頭部に装着されることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項18】
前記第1及び第2の装着部の少なくともいずれかは柔軟な素材により構成され、基準電極及びグラウンド電極を備えることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の脳活動検出システム。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の脳活動検出システムを使用した個人の感覚特性の評価方法であって、前記外的刺激を複数の異なる刺激とし、それら異なる複数の刺激によって得られる脳活動を解析することを特徴とする個人の感覚特性の評価方法
【請求項20】
前記外的刺激は複数の異なる空間周波数であり、被験者固有の見え方の特性を異なる空間周波数に対する脳活動を解析することにより算出することを特徴とする請求項19に記載の個人の見え方の評価方法。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれかに記載の脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法であって、所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を、所定の2カ所の位置における第1の電位と第2の電位とを測定し、それらの電位差に基づいて与えた前記外的刺激又は内的刺激に応じた電流の流れる方向(以下、電流方向)として取得し、前記第1及び第2の電位と電流方向によって脳活動を解析することを特徴とする脳活動の解析方法。
【請求項22】
前記取得した電流方向を解析することにより、前記所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動の計測信頼度を算出することを特徴とする請求項21に記載の脳活動の解析方法。
【請求項23】
請求項1〜18のいずれかに記載の脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法であって、前記第1の電極群の2以上の電極毎に得られた測定電位に基づいて前記第1の電極群の適正な位置を推定することを特徴とする脳活動の解析方法。
【請求項24】
請求項1〜1のいずれかに記載の脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法であって、前記第の電極群の2以上の電極毎に得られた測定電位に基づいて前記第の電極群の適正な位置を推定することを特徴とする脳活動の解析方法。
【請求項25】
請求項2124のいずれかに記載の脳活動の解析方法であって、前記外的刺激を異なる複数の刺激とし、それら異なる複数の刺激によって得られる脳活動を解析することを特徴とする個人の感覚特性の評価方法。
【請求項26】
前記外的刺激は複数の異なる空間周波数であり、被験者固有の見え方の特性を異なる空間周波数に対する脳活動を解析することにより算出することを特徴とする請求項25に記載の個人の見え方の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を評価するための脳活動検出システム、脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法、そのような脳活動の解析方法による個人特性の評価方法及び個人の見え方の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脳活動の計測、計測された脳からの情報の利用は、研究機関の研究室や医療の現場において専門の教育を受けた研究者や技師等の専門の技術者等により行われてきたが、近年、脳から得られる情報を産業的に活用することが求められるようになっている。その場合に課題になるのは、産業的に成り立つコストの装置で、専門の技術者等でなくても、測定目的とする脳活動を簡単な手順・操作で正しく計測し、その結果の解釈が専門の技術者等でなくてもできるようにすることである。そのため、測定目的とする脳活動を、簡易な装置構成で、簡単かつ確実に計測・解析することのできる脳活動検出システムと脳活動の解析方法が求められている。
脳活動を計測する計測手法として、大型装置としては、fMRI(機能的磁気共鳴画像法:Functional magnetic resonance imaging)、PET(陽電子放射断層撮影:Positron Emission Tomography)、脳磁計(Magnetoencephalograph:MEG)等がある。これらは分析力は高いものの磁気シールドルーム等の特殊な実験室環境を必要とし、装置価格、装置維持価格も高価である。
一方、中型〜小型装置としては、fNIRS(機能的近赤外分光法:Functional near infrared spectroscopy)、脳波計(Electroencephalogram:EEG)がある。これらは上記の大型装置ほどの分析はできないものの、通常の環境でも計測可能で携帯して持ち運ぶこともできるものもあり、量産化、小型化、簡易化も見込めることから産業的な応用が期待されている。中でも脳波を測定する脳波計は、脳の神経活動に伴う電流変化(電位差の変化)をミリ秒単位で計測できることから、感覚特性の記録に向いており、産業上の応用可能性が高い。産業上の応用を目的とした脳波計、脳波計測技術に関する提案を特許文献1〜2に挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−538701号公報
【特許文献2】特開2013−122710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ユーザーの電気活動を記録する1つのセンサと基準電極を持つ脳波計測装置が開示されている。この脳波計測装置では、前頭前野からの電気活動をユーザーの額に装着した電極とユーザーの耳に装着した基準電極とで記録するようにしている。
また、特許文献2には、ユーザーの前頭葉に対応する第1の電極とユーザーの後頭葉に対応する第2の電極とユーザーの耳の下部に装着する基準電極の3つの電極を持つ脳波計測装置が開示されている。
脳波は時間に伴って変化する脳の自発的電気活動を頭皮上の電極から記録されたものである。2つの電極の電位差を記録することにより、同相信号(交流雑音)を低減し、位相信号(脳波)を検出する。この電位差は数十マイクロボルトの小さいものであるため、差動増幅器で数万倍に増幅して記録する必要がある。電位差を算出する際、電極を耳朶等に装着して基準電極とし、頭皮上の電極との電位差を記録するのが、基準電極導出、頭皮上の2つの電極間の電位差を記録するのが双極導出である。上記特許文献1及び特許文献2では基準電極導出となっている。
脳波は生きている限り絶え間なく自発的に出現している自発脳波と、光や音などの外的刺激もしくは刺激に対する注意等の内的刺激により誘発される誘発脳波がある。自発脳波は、睡眠のステージ判定やてんかんの発作に伴う突発波など診断等に用いられている。しかし、自発脳波の判読は訓練された専門家でないと難しいだけでなく、産業上の活用という観点では得られる情報が限られている。近年の研究で自発脳波の中にも有用な脳からの情報が含まれていることが報告されつつあるものの、通常、自発脳波の波形から何を意味するのかを判読することは難しい。そのため、脳波を産業上で利用していくためには、脳波を何らかの手段によって意味づけ、ラベル化することが必要になる。また、脳活動に伴う電流の変化を磁場の変化として計測する脳磁界(脳磁場)においても、計測した脳磁界を何らかの手段によって意味づけ、ラベル化することが必要である。
誘発脳波は、脳波を意味づけ、ラベル化して解釈するための有力な手段である。誘発脳波は自発脳波に比べて著しく小さく、自発脳波に重畳して記録されるため、記録した脳波波形そのものから誘発脳波を判読することは難しい。そこで、誘発脳波の記録では、誘発脳波と自発脳波が重畳している脳波波形から、誘発脳波を計算的に取り出すということが行われ、代表的方法として例えば加算平均法がある。加算平均法では、外的刺激又は内的刺激を何度も被験者に提示し、例えば刺激開始タイミングを脳波の記録と同期させて記録し、その刺激開始タイミングの前後ある一定区間の脳波波形を切り出し、ベースライン処理等を行ったのち、平均波形を算出する。このような平均化処理の結果、刺激開始タイミングと同期していない自発脳波は、平均化により消失し、刺激開始タイミングと同期する脳活動、すなわち誘発脳波が記録される。誘発脳磁界についても、誘発脳波と同様の手法で記録することが可能である。
誘発脳波(脳磁界)は、ある程度の数(数万個)の平行に並んだニューロンの電気的活動が一斉に起こった場合に記録できるとされている。ほぼ同じ位置に並んだ2つのニューロンで逆向きの電気的活動が起きた場合には、頭皮上の電極では相殺されて記録されない。頭皮上の電極で記録されるのは、逆向きとなる活動が電気的に相殺された上で、残された、ある方向を向いて平行に並んだある程度の数のニューロン集合の電気的活動である。頭皮上の電極で脳波として記録されるこの電気的活動は、等価電流双極子(equivalent current dipole)という概念でモデル化することでよく説明することができる。等価電流双極子は、複数の神経活動が集合的に形成した電場を最もよく説明(近似)する電流の流れを、電気的活動の発生する位置、電流の方向、電流の強さで説明するものである。これらは、ある方向を向いて平行に並んだある程度の数のニューロン集合の位置、方向、活動の大きさにそれぞれ対応する。ある脳活動を単一の等価電流双極子で説明するのが単信号源解析、複数の等価電流双極子で説明するのが多信号源解析である。
ところで、ある外的刺激又は内的刺激を与え、その刺激に対応する脳活動、つまり所定の刺激に対するターゲットとする脳活動を得た場合に、単一の脳活動であっても、個人により微妙に異なった脳活動の位置と電流方向で記録されることがある。これは、個人により脳の形状(左右半球の大きさの個人差)や、溝の向き(例えば視覚では鳥距溝の向き)が異なること等に由来する。MRI(核磁気共鳴画像:magnetic resonance imaging)などを計測して脳の構造画像を得ることにより、脳の形状、溝の位置、溝の方向が分かれば、等価電流双極子をMRI画像に重ねることである程度の精度で計測された脳活動 についての個人差の解釈を行う事ができる。しかし、産業上の応用を目的とした簡易的装置での脳計測時には、被験者の脳の形状、溝の位置、溝の向きがどのようになっているかは、計測者からは分からない。計測目的とする脳活動部位に対して、本当に正しい位置に電極を配置できたかどうかは分からず、通常は、電極位置には、装着誤差が含まれてしまう。例えば、特許文献1の脳波計測装置では、前頭前野の活動を計測するためにユーザーの額に電極を装着して使われるが、電極の装着位置が計測対象である前頭前野の活動に対して正しい位置に装着されたかどうかは不明である。特許文献2でも、ユーザーの前頭葉に対応する第1の電極とユーザーの後頭葉に対応する第2の電極を装着するが、第1の電極が計測対象とする前頭葉の活動を記録するための正しい位置に、第2の電極が計測対象とする後頭葉の活動を記録するための正しい位置に装着されたかどうかは不明である。そのため、特許文献1〜2では、ある計測結果が得られたとしても、どの程度正しく計測された結果であるのかが不明であるという問題がある。
さらに、記録された脳活動は、重畳する僅かな背景脳活動により見かけ上異なった活動に計測されることもある。重畳する脳活動を解析するためには、通常、多数の電極で脳活動を記録し複数の脳活動に分離する多信号源解析等が有効であるが、簡易的な装置構成(少ない電極数)の脳波計で記録されたデータを多信号源解析等で解析することは困難である。例えば、特許文献1〜2の記載の脳波計測装置で記録した結果にはどの程度計測対象とする脳活動以外の活動が重畳した計測結果になっているのか不明である。
以上のように産業上の応用を目的とした簡易的な脳活動計測装置 には、装着時の電極の装着誤差による問題、重畳する脳活動による問題がある。どちらの問題も、本来計測目標とする脳活動の活動位置に対して頭皮上の電極が相対的にずれた位置になるため、頭皮上の電極で記録された脳波は、本来あるべき測定結果からずれることになる。産業上の応用を目的とする場合、ある計測結果が信頼性の高い計測結果なのか、誤差の多い計測結果なのかということが重要であるが、計測結果から計測値の信頼性に関する情報が取得できていない。産業的に成り立つコストの範囲内でどのような構成の装置で計測し、どのように解析するかという課題となるが、必要とされる解決手段は明確になっていない。また、産業上、脳活動を活用するためには、被験者個人の特性を算出することが重要になるが、簡易的な装置構成でどのようにして有用な被験者の個人特性を計測するのかという課題がある。
本発明はこのような従来技術の問題に着目してなされたものである。その目的は、所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を評価し、また、その評価結果を使用して脳活動の解析し、かつ個人特性を評価し個人の見え方を評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段では、所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を解析するための脳活動検出システムであって、複数の電極よりなる第1の電極群と、複数の電極よりなる第2の電極群の、少なくとも2つの電極群を備え、前記第1及び前記第2の電極群の少なくともいずれか一方は3以上の電極が直列に配置されている電極列よりなるようにした。
この構成は、解析対象とする所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を複数の電極よりなる第1の電極群と、複数の電極よりなる第2の電極群の、少なくとも2つの電極群により記録し解析するものである。
本発明を説明するために、まず、脳波の特性について記載する。脳波は、2つの電極の電位差を記録するものである。脳波の計測結果は等価電流双極子による脳活動の位置と電流方向で良く説明することができる。仮に解析対象とする脳活動の位置と電流方向が正確に分かっているとすると、脳活動位置を通る電流方向の直線上に第1の電極と第2の電極を配置した場合にその電位差が大きく記録される。2つの電極は、脳活動位置を挟んで配置した場合に極性が反転し電位差は大きくなるが、頭皮上に当接させるという電極の特性上、必ずしも解析対象とする脳活動の位置を2つの電極で挟めるとは限らず、その場合には第1の電極を脳活動付近に、第2の電極をできるだけ遠くの位置に当接することにより大きな電位差として脳波を記録する。
ここで、仮に解析対象とする脳活動の位置と電流方向が正確に分かっている場合には、その計測は第1の電極と第2の電極による1つの電極ペアで行うことができる。しかしながら実際には、被験者によって脳の形状(左右半球の大きさの個人差)や、溝の向き(例えば視覚では鳥距溝の向き)が異なっている。脳活動検出システムの電極を被験者に当接する際には、その被験者における脳活動の位置が正確にどの位置になるのかが分からないため、解析対象とする脳活動は2つの電極では正確に計測することができない。また、計測した結果が正しいものであるかどうかは分からない。そこで、本発明では、解析対象とする脳活動を複数の電極よりなる第1の電極群と、複数の電極よりなる第2の電極群の、少なくとも2つの電極群により記録する構成としている。解析対象とする脳活動を2つの電極ではなく、2つの電極群で計測するようにすることで、解析対象とする脳活動の活動位置が正確に分からなくても、ある程度の位置精度で2つの電極群のいずれかの電極1つずつを、解析対象とする脳活動の位置に対してある程度の位置精度で頭皮上に当接することができる。これにより、解析対象とする脳活動の活動位置が正確に分からなくても、より正しい計測結果を得ることができるようになる。更に、本発明では、前記第1及び第2の電極群の少なくともいずれか一方の電極群は3以上の電極が直列に配置されている電極列よりなるようにしている。3以上の電極を直列に配置した電極列とすることにより、解析対象とする脳活動の位置に対して、電極群の中で最も近い距離の電極、中間の距離の電極、遠い距離の電極が生まれることとなるため、電極群(電極列)に対して脳活動の位置がどの辺りにあるのかが検出できるようになる。また、直列とすることにより方向性の検出も有利になる。
【0006】
ここに、「直列」とは、方向性を持って並んでいることを意味し、厳密に直線状でなくても、方向性を持っていれば直列に含める。また、一直線状の場合だけでなく頭部形状に沿って湾曲して配列される場合も含める。尚、2つの電極であれば単に隣接するだけであるが、電極の並びに方向性が生まれるためここでは直列の概念に含める。
ここに、「外的刺激」とは五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚)を通じて感得できる刺激であればよく、これらは単独でも異なる五感のうちから2以上を複合的に与えるものであってもよい。視覚刺激としては、例えば、写真、動画、図形の形状変化や色・輝度・コントラストの変化を単独あるいは複合的に含む画像等が挙げられる。より具体的には、例えば空間周波数を変化させた刺激画像を被験者に目視させること等が挙げられる。刺激提示のタイミングは、記録する脳活動(脳波等) と同期を得ることが好ましく、モニター画面に画像等が提示されたタイミングを脳波計等のアンプ又は、脳波等の記録プログラムに入力するなどすることが好ましい。
ここに、「内的刺激」とは、刺激に対する注意や想起等の内的な刺激のことである。
ここに、「誘発される脳活動」とは、外的刺激又は内的刺激により生じる脳活動のことである。より具体的には誘発電位、定常状態誘発電位、誘発磁界、定常状態誘発磁界等であり、P300、N400、LPP(後期陽性電位)等の事象関連電位(磁界)も含む。また、脳活動の大きさやリズム(周波数)の変化など、変化も誘発される脳活動に含まれる。ここで、電極の種類、構造は計測対象とする脳活動により選択することが可能である。電極として電位を計測する素子を選択した場合には脳波(脳電図)が記録でき、磁界を計測する素子を選択した場合には脳磁図が記録できる。脳波を記録するための電極には、接触抵抗を下げる必要があるパッシブ電極と、接触抵抗がある程度高くても計測可能なアクティブ電極等があり、導電性を得るために導電性のペーストを用いる方式と、生理食塩水などを含むゲルやフェルト、導電性高分子等を用いるペーストレス方式の場合等がある。本発明では、電極の種類については、装置構成に合わせて適宜選択することが可能である。
ここに、「解析」とは、計測された脳活動(脳波等)の波形を数値化して、所定の外的刺激又は内的刺激に対応する評価値を算出することである。また、脳活動の位置情報の推定、電流方向の推定等をしたりすることである。数値化は、刺激提示のタイミングから解析対象とする脳活動の生じる時間(潜時)や、脳活動の大きさ、周波数解析等により算出するパワー値や位相、複数の電極間で記録された波形の相関係数などにより算出されることが好ましい。
【0007】
また、第2の手段として第1の手段に加え、前記第1の電極群と前記第2の電極群は、両群ともに3以上の電極が直列に配置された電極列よりなるようにした。
このような構成では、解析対象とする脳活動の位置と方向を、2つの直列に配置された電極列により記録できることとなり、解析対象とする脳活動の活動位置や電流方向が正確に分からなくても、より正しい計測結果を得ることができる脳活動検出システムとなる。
また、第3の手段として第1〜第2のいずれかの手段に加え、前記電極列の電極は、前記電極列の全長の中心位置において線対称となる位置に配置されているようにした。
このような構成では、電極列の電極が中心位置から線対称になっていることにより、解析対象とする脳活動の位置や方向のずれを解析しやすい脳活動検出システムとなる。この時、電極列の電極の中心位置は、標準的な被験者における解析対象とする脳活動の位置を通る電流方向の直線上に重なるように、計測対象の被験者の頭皮上に当接されることが好ましい。例えば実施の形態1や実施の形態2では電極列はこのように配置されている。
また、第4の手段として第3の手段に加え、前記電極列の全長の中心位置から同中心位置にはない最も近い電極までの距離をSとした場合に、前記各電極は前記中心位置から前記S間隔で順に配置されているようにした。
このような構成では、電極列の各電極は前記中心位置から前記S間隔で順に配置されていることにより、解析対象とする脳活動の位置に対して、電極列の各電極の位置のずれが等しい確率で発生することとなり、解析対象とする脳活動の位置や方向のずれを解析しやすい脳活動検出システムとなる。例えば実施の形態1や実施の形態2では電極列はこのように配置されている。
また、第5の手段として第1〜第4のいずれかの手段に加え、前記電極列の電極間の距離は2〜4cmであるようにした。
このような構成では、電極列が近接して配置されていることになるため、解析対象とする脳活動の僅かな位置のずれや変化、僅かな電流方向のずれや変化を解析することができる脳活動検出システムとなる。
また、第6の手段として第1〜第5のいずれかの手段に加え、前記電極列は、前記所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動の電流方向に交差するように配置されるようにした。
このような構成では、第1の電極群と第2の電極群とをそれぞれ離間させて電極先端が頭部に当接するように頭部の第1の位置と第2の位置に装着し、その際に第1の電極群の電極列を電流方向と交差するように配置して脳に所定の外的刺激を与え、脳活動として発現するその外的刺激又は内的刺激に応じた電流方向を解析することとなる。このようにすれば、電流方向と電極列が交差していることで、解析対象とする脳活動の電流方向のずれや変化をより鋭敏に解析することができる脳活動検出システムとなり、被験者固有の電流方向をより正確に推定することができる。
また、第7の手段として第1〜第6のいずれかの手段に加え、前記電極列は、前記所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動の電流方向に直交するように配置されるようにした。
このような構成では、電極群の電極列を解析対象とする脳活動の電流方向に直交に配置することで、電極列の各電極間で大きな変化が計測されるようになり、このようにすれば、電流方向と電極列が交差していることで、解析対象とする脳活動の電流方向のずれや変化を最も鋭敏に解析することができる脳活動検出システムとなる。
ここで、「直交方向」とは電極列を配置した際に直交と認められる方向であるため、上記のように電極列が直線状でなくともよいことから考えても厳密に90度である必要はない。
また、第8の手段として第1〜第7のいずれかの手段に加え、前記第1の電極群と前記第2の電極群の中心は、被験者の頭部に沿って15cm以上離間させて被験者に装着されるようにした。
このような構成では、第1の電極群と第2の電極群とで大きな脳活動の差 を計測できるようになるため、効率的に解析対象の脳活動を解析できる脳波検出システムとすることができる。ここで、一般的な大人の場合、鼻根点から後頭結節までの頭部に沿った距離は36〜40cm程度である。頭部に沿って15cm以上離間させるということは、鼻根点から後頭結節までのおおよそ40%程度離間させることを意味する。2つの電極群の中心は、あまりに離れていても解析対象とする脳活動以外が含まれやすくなってしまうため、鼻根点から後頭結節までのおおよそ40〜60%程度の距離、すなわち、15cm〜24cm程度離れていることが最も好ましい。
また、第9の手段として第1〜第8のいずれかの手段に加え、前記所定の外的刺激は視覚刺激であり、当該の視覚刺激の刺激開始時又は刺激提示時の時間を脳活動と同期して記録するようにした。
このような構成では、脳活動が視覚刺激により誘発され、その脳活動の解析をすることとなる。視覚刺激の刺激開始時又は視覚刺激時の時間を脳活動と同期して記録することにより、脳活動の時系列データの加算平均波形等を算出することができ、自発脳活動を低減し、誘発脳活動を取得することができる。そのため脳活動の意味づけ、ラベル化が容易になる。
【0008】
また、第10の手段として第1〜第9のいずれかの手段に加え、前記第1の電極群のいずれかの電極の第1の電位と前記第2の電極群のいずれかの電極の第2の電位の電位差、前記第1の電極群のいずれか2つの電極の第1の電位及び第2の電位の電位差、前記第2の電極群のいずれか2つの電極の第1の電位及び第2の電位の電位差、の少なくともいずれか1つの電位差に基づいて脳活動を解析するようにした。
このような構成では、少なくともいずれか1つの電位差に基づいて脳活動を解析するようにしたことにより、第1の電位を記録した電極と第2の電位を記録した電極の座標の差分(ベクトル情報)が、電位差の情報と合わせて得られるため、解析対象の脳活動の位置や電流方向のずれや変化の解析が容易になる。また、第1の電位と第2の電位に共通して混入したノイズを取り除くことができる。
また、第11の手段として第1〜第10のいずれかの手段に加え、前記第1の電極群の各電極毎の第1の電位と、前記第2の電極群の各電極毎の第2の電位との差をそれぞれ算出する算出手段と、を備えるようにした。
このような構成では、第1の電極群と第2の電極群とをそれぞれ離間させて電極先端が頭部に当接するように頭部の第1の位置と第2の位置(異なる位置)に装着する。そして少なくとも第1の位置で複数の第1の電位(この段階では第1の電位の候補と考えることができる)を取得し、それらの数値と第2の位置で得られた第2の電位の電位差を算出する手段を備える脳活動検出システムとなる。つまり、頭部の2カ所にそれぞれ配置した電極群の電極と、他方の電極群の電極との間でいくつもの電位差を取ることができるため、それらのデータから脳活動を解析できるということである。第1の電位を記録した電極と第2の電位を記録した電極の座標の差分(ベクトル情報)が、電位差の情報と合わせて得られるため、解析対象の脳活動の位置や電流方向のずれや変化の解析が容易になり、解析対象の脳活動の位置や電流方向をより正確に解析できる脳活動検出システムとなる。
また、第12の手段として第10〜第11のいずれかの手段に加え、前記算出手段によって算出した電位差を表示する表示手段を備えるようにした。
このような構成では、目視によって算出結果を確認できるため、容易に解析をすることができる。
また、第13の手段として第1〜第12のいずれかの手段に加え、前記第1の電極群の中心は後頭結節の2cm下〜後頭結節の5cm上のいずれかの位置に配置され、前記第2の電極群の中心は頭頂〜頭頂の9cm前方のいずれかの位置に配置されるようにした。
このような構成では、第1の電極群の中心を後頭葉の視覚野付近の正中線上に、第2の電極群の中心を、頭頂〜頭頂よりやや前頭部の正中線上に配置することにより、視覚野〜頭頂における脳活動の解析に適した電極配置となる。また、脳の左右半球の活動のバランス等の解析も行うことができるようになる。ここで、第1の電極群の中心を後頭結節の2cm下〜後頭結節の5cm上のいずれかの位置に配置することは、第1の電極群の中心が1次視覚野近傍になり視覚情報の解析をするために好ましい。また、第2の電極群の中心を頭頂〜頭頂の9cm前方のいずれかの位置に配置されるようにすることは、視覚情報の解析をする第2の電極群の位置として好ましい。頭頂よりも後ろの場合には、第1の電極群の電極との間で十分に大きな電位差が得られにくく、頭頂の9cm前方よりも前の場合には、前頭筋や表情筋等の筋電位や、瞬きによるノイズが混入しやすいためである。
【0009】
また、第14の手段として第1〜第13のいずれかの手段に加え、前記第1の電極群を備える第1の装着部を備えるようにした。
このような構成では、第1の電極群が1つの装着部にまとまっていることにより、電極群を被験者の頭皮上に当接する際の操作が簡易化できることになる。また、電極群を装着部に備えるようにすることにより、脳活動検出システムのヘッドセットの部品点数を減らすことができるため好ましい。
また、第15の手段として第14の手段に加え、前記第2の電極群を備える第2の装着部を備えるようにした。
このような構成では、第2の電極群が1つの装着部にまとまっていることにより、電極群を被験者の頭皮上に当接する際の操作が簡易化できることになる。また、電極群を装着部に備えるようにすることにより、脳活動検出システムのヘッドセットの部品点数を減らすことができるため好ましい。
また、第16の手段として第15の手段に加え、前記第1の装着部と第2の装着部との間は少なくとも1つのアーム構造により連結されているようにした。
このような構成では、第1の装着部と第2の装着部を一体化した脳波検出システムとすることができる。この時、第1の装着部又は、第2の装着部の少なくともいずれか一方には、各電極の電位を増幅したデータを結合する回路部と、結合したデータをPC等に送信する無線部を含むことが好ましい。その際に、第1の装着部と第2の装着部の情報を結合するために、アーム構造には、データ伝達のための伝達手段、例えば配線があることが好ましい。
また、第17の手段として第14〜第16のいずれかの手段に加え、前記第1又は第2の装着部の少なくとも一方は、被験者の装用する眼鏡を支持体として頭部に装着させるようにした。
眼鏡は耳と鼻で支持させる人の頭部にしっかりと支持されるものであるので、支持体として流用するのに便利である。また、特に眼鏡のレンズを通して外的刺激を与える場合においては、視覚的な刺激を与えると同時に併せて第1又は第2の装着部の少なくとも一方を支持させることとなるため、頭部への第1又は(及び)第2の装着部の装着に便利である。特に、第1又は第2の装着部のいずれかを後頭葉に位置させる場合には、眼鏡の耳かけ部を支持体とできるため好ましい。
また、第18の手段として第14〜第17のいずれかの手段に加え、前記第1又は第2の装着部はそれぞれ別々に頭部に装着されるようにした。
これによって、2つの装着部が互いに大きく規制されることなく自由に頭部に装着されることとなるため装着可能パターンが多くなる。
また、第19の手段として第14〜第18のいずれかの手段に加え、前記第1及び第2の装着部の少なくともいずれかは柔軟な素材により構成され、基準電極及びグラウンド電極を備えるようにした。
このような構成では、装着部を柔軟な素材で構成することにより、頭部形状の異なる被験者に対しても装着しやすいヘッドセットの脳活動検出システムとなる。また、基準電極及びグラウンド電極を備えることにより、装着部に備えられている電極と基準電極との間の電位差を差動増幅器で増幅することにより、それぞれの電極の電位のノイズを低減して記録できる。基準電極及びグラウンド電極を装着部に備えることにより、装置構成を簡易化し、ヘッドセットの部品点数を減らすことが可能となる。この時、直流成分や低周波数をカットするアナログフィルター等のフィルター、AD 変換も装着部の少なくともいずれかに備えることが好ましい。ここで、柔軟な素材とは、シリコン、ゴム、布、柔らかい樹脂素材等を用いることが好ましいが、素材がこれらに限定されることはない。
【0010】
また、第20の手段として第1〜第19のいずれかの手段の脳活動検出システムを使用した個人の感覚特性の評価方法であって、前記外的刺激を複数の異なる刺激とし、それら複数の異なる刺激によって得られる脳活動を解析するようにした。
ある単一の刺激を与えて得られる脳活動では個人差があることから例えば、反応が小さい場合に、本当に反応が小さいのか、それとも、脳波記録上の理由(解析対象の脳活動の信号源位置に対して電極位置がずれている、たまたま脳形状が記録されにくい溝の向きであった等)であるのかが分からないという問題がある。そのため、このように単一の刺激ではなく、複数の異なる刺激を同一個人に与えることで、その刺激間での脳反応の傾向を解析することで個人の感覚特性を記録することができることとなる。ここで、複数の異なる刺激とは、ある外的刺激を段階的に変化させてものであることが好ましい。例えば、視覚刺激であれば、刺激画像の輝度、大きさ、色、コントラスト、動きなどを段階的に変化させた複数の視覚刺激を提示するなどが好ましい。例えば、聴覚刺激であれば、刺激音の大きさ、高さ、長さ、音の変化量などを段階的に変化させた複数の聴覚刺激を提示するなどが好ましい。例えば、体性感覚刺激であれば、刺激強度や刺激持続時間、刺激部位などを段階的に変化させた複数の刺激を提示するなどが好ましい。同一の刺激であっても、刺激提示の周波数を変化させることで異なる刺激とすることができるため好ましい。例えば、10Hz、30Hz、50Hz、100Hzで刺激を点滅させるなどすることにより同一種類の刺激で異なる刺激とすることができる。ここで、刺激は、単一のモダリティー(視覚、聴覚、体性感覚、味覚等)での提示に限定される必要はなく、複数のモダリティーを組み合わせることも含む。
また、第21の手段として第20の手段に加えた個人の見え方の評価方法であって、前記外的刺激は複数の異なる空間周波数であり、被験者固有の見え方の特性を異なる空間周波数に対する脳活動を解析することにより算出するようにした。
このような構成では、異なる空間周波数に対する脳活動の傾向を解析することで、特に被験者固有の見え方の特性を評価することができる。
【0011】
また、第22の手段として、第1〜第19のいずれかの手段の脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法であって、所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動を、所定の2カ所の位置における第1の電位と第2の電位とを測定し、それらの電位差に基づいて与えた前記外的刺激又は内的刺激に応じた電流の流れる方向(以下、電流方向)として取得し、前記第1及び第2の電位と電流方向によって脳活動を解析するようにした。
このような構成では、頭皮上の2カ所の位置に当接した第1の電極と第2の電極における第1の電位と第2の電位の電位差から解析対象とする脳活動の電流方向を推定することで、より詳細な脳活動の解析を行うことができる。電位差から解析対象とする脳活動の電流方向の推定は、例えば、複数の電極ペアの電位差を、電極の位置情報の差(ベクトル情報)と合わせて算出しておき、各電極ペアの電位差の傾向とベクトル情報から、解析対象とする脳活動の電流方向を推定することができる。
また、第23の手段として、第22の手段に加え、前記取得した電流方向を解析することにより、前記所定の外的刺激又は内的刺激により誘発される脳活動の計測信頼度を算出するようにした。
解析対象とする脳活動に、解析対象とする脳活動以外の活動が重畳すると電流方向が変化することとなる。また、解析対象とする脳活動に、解析対象とする脳活動以外のノイズ等が重畳した場合にも、電流方向が変化することとなる。そのため、電流方向の変化を解析することにより、ある解析対象とする脳活動の計測結果がどの程度信頼できるのか、すなわち、別の脳活動がどの程度重畳しているのか、脳活動以外のノイズがどの程度重畳しているのか等の脳活動の計測信頼度を算出することができる。
また、第24の手段として、第1〜第19のいずれかの手段の脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法であって、前記第1の電極群の2以上の電極毎に得られた測定電位に基づいて前記第1の電極群の適正な位置を補正するようにした。
また、第25の手段として、第1〜第19のいずれかの手段の脳活動検出システムを使用した脳活動の解析方法であって、前記第2の電極群の2以上の電極毎に得られた測定電位に基づいて前記第2の電極群の適正な位置を補正するようにした。
このような構成であれば、解析の結果として実際に電極の配置された位置ではない箇所が最も電位が高くなると推定した場合に、第1の電極群又は第2の電極群の位置を適正に補正することにより、第1又は第2の位置としてより確からしい位置を推定することができる。その結果より正確に被験者固有の電流方向を推定することができる。
【0012】
また、第26の手段として、個人の感覚特性の評価方法であって、第22〜第25のいずれかの手段に加え、前記外的刺激を異なる複数の刺激とし、それら異なる複数の刺激によって得られる脳活動を解析するようにした。
このような構成では、第22〜第25のいずれかの手段を適用して個人の感覚特性を評価することにより、より個人の感覚特性を正確に評価し、個人の評価結果として産業上で利用できる。
また、第27の手段として、第26の手段に加え、前記外的刺激は複数の異なる空間周波数であり、被験者固有の見え方の特性を異なる空間周波数に対する脳活動を解析することにより算出するようにした。
このような構成では、被験者固有の見え方の特性をより正確に評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
上記発明では、簡易的な構成の脳活動検出システムでありながら、装着時のヘッドセットの装着誤差及び解析対象とする脳活動の個人差に対応でき、簡易的でありながらも比較的正確な測定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1において脳の電位を取得するために使用するバックパーツの(a)は平面図、(b)は側面図。
図2】実施の形態1において脳の電位を取得するために使用するフロントパーツの斜視図。
図3図1のバックパーツを眼鏡に装着した状態の斜視図。
図4】実施の形態1の電気的構成を説明するブロック図。
図5】実施の形態2において脳の電位を取得するために使用する第1のヘッドバンドの(a)は平面図、(b)は側面図。
図6】実施の形態2において脳の電位を取得するために使用する第2のヘッドバンドの平面図。
図7図5の第1のヘッドバンド及び図6の第2のヘッドバンドの使用方法を説明するための説明図。
図8】実施の形態2の電極の分解斜視図。
図9】ある視覚刺激を与えた際の等磁場線図中の信号源と電流の向きを模式的に表示した説明図。
図10】10−10法における電極位置においてある視覚刺激による脳活動の電流方向と脳波の記録電極位置を説明する説明図。
図11】10−10法における電極位置において実施例1の電極配置位置を説明する説明図。
図12】10−10法における電極位置において実施例1の電極配置位置とOzを起点とする電流方向を説明する説明図。
図13】実施例1において条件を変えて電位差を測定した結果を示すグラフ。サブグラフは、ある刺激条件における電極群1の電極と電極群2の各電極との差分波形のパワー値を示す。
図14】実施例1において被験者BとCの見え方の個人特性を説明するグラフ。
図15】実施例2において被験者DとEの同じ刺激における電流方向の違いを模式的に表示した説明図。
図16】10−10法における電極位置において実施例2の電極配置位置を説明する説明図。
図17】実施例2において被験者Dの電極群1と電極群2の差分波形の聴覚誘発電位を示すグラフ。
図18】実施例2において被験者DのF10、T10、P10のそれぞれを基準とした電極群1の各電極の振幅と潜時の関係を示すグラフ。
図19】10−10法における電極位置において被験者Dの電流方向を説明する説明図。
図20】実施例2において被験者Eの電極群1と電極群2の差分波形の聴覚誘発電位を示すグラフ。
図21】実施例2において被験者EのF10、T10、P10のそれぞれを基準とした電極群1の各電極の振幅と潜時の関係を示すグラフ。
図22】10−10法における電極位置において被験者Eの電流方向を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面に基づいて説明する。
<実施の形態1>
図1図4に基づいて実施の形態1の脳活動検出システムについて説明する。脳活動検出システムは電極が取り付けられた被験者の頭部に装着するパーツと脳波記録解析手段としての記録解析コンピュータ及び外的刺激の提示システムから構成されている。外的刺激の提示システムは、例えば、視覚刺激を提示するシステムの場合では、刺激表示プログラムの内蔵されたコンピュータ、刺激が表示されるモニター、刺激タイミングと脳波記録波形の同期を得る手段よりなっている。同期を得る手段としては、例えば、刺激表示プログラムより記録解析コンピュータに刺激タイミングの時間情報を入力して、脳波波形と同期させて記録する方法、刺激が表示されるモニター画面の角等を刺激表示に合わせて光らせ、その光をフォトトランジスタ等で電気情報に変換し、その電気情報を記録解析コンピュータもしくは脳波計のアンプ等に入力して脳波波形と同期して記録する方法などがある。本実施の形態1の脳活動検出システムでは被験者の頭部に装着するパーツ(ヘッドセット)に大きな特徴がある。まずこれらパーツについて説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、被験者の頭部に装着して脳の電位を取得するために使用する第1の装着部としてのバックパーツ11は、シリコンゴム製の本体12を有している。本体12は弾性かつ可撓性があり折り曲げたり捻ったりすることが可能である。本体12は扁平な板状の側面形状とされ、平面(正面)視において横長に形成され、左右端寄りにおいて窄んだ苞状の外形とされている。図3に示すように、本体12の左右端部には眼鏡21のツル22の先端が差し込まれる通路13が形成されており、端面に開口部14が露出されている。本体12の左右方向の中央下部位置には正規分布曲線状にカットされた凹部15が形成されている。
本体12の内側面には5つの電極17が配設されている。各電極17は本体12の上下方向かつ左右方向において中央位置に均等な間隔(2.5cm間隔)で左右方向に直線状となるように配置されている。各電極17はそれぞれ4本の接触端子18を備えている。本体12の左右端部寄りの内側面にはそれぞれグラウンド電極19とリファレンス電極20が配設されている。
図3に示すように、バックパーツ11の使用に際しては、眼鏡21の左右のツル22の先端を本体12の両端の開口部14に対して電極17が眼鏡21のレンズ24側を向くように挿入するものとする。そして被験者はバックパーツ11の本体12が後頭部に沿って概ね密着するように眼鏡21を装用する。この状態でバックパーツ11の5つの電極17は水平方向に配置され、接触端子18の先端が後頭部に当接する。凹部15はバックパーツ11のを最適な後頭部位置に配置させる際の位置決めに使用する。例えば、後頭結節を被験者が指で指し示し、凹部15がその指の先端に添うようにバックパーツ11の位置を決定する。このようにすることで、後頭結節から一定距離の正中線上の位置に電極群17の中心を装着することができる。尚、凹部15は位置決めのためのものであるから、凸部として形成したり、目視で確認できる線を入れたりするなど、同様の機能で代替させることができる。
【0016】
図2に示すように、脳の電位を取得するために使用する第2の装着部としてのフロントパーツ31は、ポリカーボネート製の本体32を有している。本体32は非可撓性の硬質体であり、本体32は扁平な長尺板体を一般的な人の頭部外形に対応させて湾曲させた部材である。本体32の両端の頭部当接部33は頭部への安定性考慮して二股に分かれて向かい合うように配置されており、頭部に接する3カ所の位置に当接用のゴム片34が配設されている。本体32は外力によって変形させる(撓ませる)ことで発生する内部応力に基づいて元の形状に復帰する付勢力が発生する。本体32の内側面にはバックパーツ11と同じ5つの電極17が配設されている。各電極17は本体32の上下方向かつ左右方向において中央位置に均等な間隔(3.0cm間隔)で左右方向に直線状となるように配置されている。各電極の根元部は弾性ゴムのスペーサー部となっており、各電極の先端は頭皮表面に追従しやすくなっている。
フロントパーツ31の使用に際しては、まず頭部の間隔よりも若干狭い両頭部当接部33の間隔を外方に拡開させるようにする。そして、本体32の5つの電極17が頭頂部に当接しかつ鼻と脊椎を結ぶ線分に直交するように頭部に装着する。その際に本体32が原形に復帰しようとする応力が付勢力となって頭部を挟む力を発生させるためフロントパーツ31は頭部に保持される。本実施の形態1では頭部当接部33をこめかみ付近に配置させて挟むようにする。
【0017】
本実施の形態1に使用する脳活動検出システムは図4に示すような電気的構成とされている。
上記のバックパーツ11及びフロントパーツ31内の電極17、グラウンド電極19及びリファレンス電極20は増幅器36を介して本体12内に配設されたインターフェース35に接続され、インターフェース35を介して解析コンピュータ41に取得した脳活動としての電位データ(電圧データ)を出力する。増幅器36は、差分増幅器であり、頭部電極17とリファレンス電極20の電位差を算出、増幅、内蔵されたフィルター回路によってノイズを低減する機能を有する。本実施の形態1では本体12では各電極17毎に増幅器36が配設され、共通する本体12内のインターフェース35によって電位データが出力される。図1図3に示すように、バックパーツ11とフロントパーツ31は1本の柔軟なアーム37により接続され、アーム37の中を通る電気的な線によりフロントパーツの電極17からの情報はバックパーツのインターフェースに送られる。
解析コンピュータ41はCPU(中央処理装置)42や記憶装置43及びその周辺装置によって構成されている。CPU42は記憶装置に保存されているプログラムに基づいて演算処理を行う。記憶装置43にはCPU42の動作を制御するためのプログラム、複数のプログラムに共通して適用できる機能を管理するOA処理プログラム(例えば、日本語入力機能や印刷機能等)等の基本プログラムが格納されている。更に、電位データを取り込むプログラム、電位差を算出するプログラム、電流方向を推定するプログラム、計測データの信頼度を算出するプログラム等が格納されている。CPU42には入力装置44(マウス、キーボード等)、及びモニター45が接続されている。
このような構成の脳活動検出システムによって、被験者にバックパーツ11及びフロントパーツ31を装着させ、ある外的刺激を与えることで取得した電位データに基づいてその結果をモニター45に表示させて解析することができる。以下の実施例1において実施の形態1のシステムを使用した具体的な解析方法を説明する。
【0018】
上記のように構成することで、実施の形態1では次のような効果が奏される。
(1)バックパーツ11及びフロントパーツ31は別体で構成されるため、それぞれ独立して被験者の頭部に装着することができる。特にフロントパーツ31は両側の頭部当接部33が頭部を挟んで保持するため挟む位置を変えることで様々な位置に配置することが可能である。
(2)バックパーツ11は眼鏡を利用して後頭部に装着するようにしているため、特別な固定手段を必要としない。
【0019】
<実施の形態2>
図5図8に基づいて実施の形態2の脳活動検出システムについて説明する。システムにおいて解析コンピュータ41を使用する点は実施の形態1と同じであるため、実施の形態2では特に被験者の頭部に装着するパーツについてのみ説明する。
図5(a)及び(b)に示すように、被験者の頭部に装着して脳の電位を取得するために使用する第1の装着部としての第1のヘッドバンド51は、シリコンゴム製の本体52を有している。本体52は弾性かつ可撓性があり折り曲げたり捻ったりすることが可能である。本体52は扁平な板状の側面形状とされ、平面(正面)視において横長に形成されたベルト状の外形とされている。本体52の左右方向の中央下部位置には正規分布曲線状にカットされた凹部55が形成されている。図5(a)及び(b)において本体52の向かって右端部寄りとなる内側面と、向かって左端部寄りとなる外側面には面ファスナーとして接合される貼着面56a、56bが形成されている。本体52の左右端部から本体52の全長の1/4となる位置となる外側面には面ファスナーとして接合される貼着面57が形成されている。
本体52の内側面には3つの電極58が配設されている。各電極58は本体52の上下方向かつ左右方向において中央位置に均等な間隔(7.5cm間隔)で左右方向に直線状となるように配置されている。図8に示すように、各電極58は収納筒59とフェルト等の素材からなる電極本体60から構成されている。収納筒59は有底の筒体で導電性のよい金属(例えば、Ag−AgCl電極)を底部に持ち、筐体部は樹脂等で形成されている。収納筒59は内部底位置に図示しない増幅器が配設されている。電極本体60はフェルト等の含水可能な材質で構成されており収納筒59に収納された状態で上半身が収納筒59から突出させられる。電極本体60の形状は、図8では先端を平坦にしてあるが、先端が山形であったり、半球形状であるなどしてもよい。使用時においては電極本体60は生理食塩水を充填されていわゆる湿式の電極として構成される。本体52の一部には収納筒59と電気的に接続されたケーブル61が延出されており、その先端にクリップ式のグラウンド電極61及びリファレンス電極62が配設されている。
図7に示すように、第1のヘッドバンド51の使用に際しては、頭部外周を鉢巻きのように巻いて本体52の両端に形成した面ファスナー(貼着面56a、56b)によって固定する。その際に3つの電極58が側頭部に当接状態で配置されるように凹部55を位置決めに使用する。
【0020】
図6に示すように、脳の電位を取得するために使用する第2の装着部としての第2のヘッドバンド71は、第1のヘッドバンド51と同じ材質のシリコンゴム製の本体72を有している。本体72は扁平な板状の側面形状とされ、平面(正面)視において横長に形成されたベルト状の外形とされている。本体72の左右端部寄りの内側面には面ファスナーとして接合される貼着面73が形成されている。本体72の内側面には第1のヘッドバンド51と同じ3つの電極58が配設されている。各電極58は本体52の上下方向かつ左右方向において中央位置に均等な間隔(7.0cm間隔)で左右方向に直線状となるように配置されている。
図7に示すように、第2のヘッドバンド71を先に装着した第1のヘッドバンド51に対して交差させるように装着する。第1のヘッドバンド51の3つの電極58を側頭部側に配置させると本体52の外周に露出する2つの貼着面57は180度対向して鼻と脊椎方向に配置されることとなる。第2のヘッドバンド71を頭頂部を通過させて、その貼着面73を第1のヘッドバンド51側の貼着面57に貼着させる。そして、第2のヘッドバンド71の3つの電極58が頭頂部〜前頭部にかけて配置されるようにする。第1のヘッドバンド51と第2ヘッドバンド71は、直径5mmのフレキシブルなコード74で接続されており、このフレキシブルなコード74内には、ヘッドバンド71の各電極58と接続されている配線が通っている。そして、ヘッドバンド51にある回路部にヘッドバンド51及びヘッドバンド71の各電極58で計測された電位が集約される。集約された情報はインターフェースを通じて、解析コンピュータ41に伝送される。
このような構成の脳活動検出システムによって、被験者に第1のヘッドバンド51及び第2のヘッドバンド71を装着させ、ある外的刺激を与えることで取得した電位データに基づいてその結果をモニター45に表示させて解析することができる。以下の実施例2において実施の形態2のシステムを使用した具体的な解析方法を説明する。
【0021】
上記のように構成することで、実施の形態2では次のような効果が奏される。
(1)第1のヘッドバンド51及び第2のヘッドバンド71は別体で構成されており、それぞれ独立して被験者の頭部に装着することができる。特にフロントパーツ31は水平方向に会同させて自在に電極58の当接位置を変更することが可能である。
【0022】
<実施例1>
実施例1は、実施の形態1のシステムを使用した外的刺激を視覚(見え方)として個人の感覚特性を計測し、解析した事例である。
図9は、後頭葉の低次視覚野に単一の脳活動が得られるように工夫した視覚刺激を306チャンネル脳磁計(MEG)で計測した等磁場線図に等価電流双極子の信号源位置(脳活動の位置)と電流方向を重ね書きした図である。この図は、頭部を後ろから見たもので、信号源位置は実際には脳内に存在するが、頭皮上に投影して描画してあるものである。脳磁計(MEG)と脳波を測定する脳波計(EEG)は、脳活動の神経活動に伴う電流変化を、それぞれ磁場変化(磁界変化)と電位差の変化で記録するものである。脳磁図は磁気シールドルームと高価な装置という特殊な計測環境を必要とするが、脳活動の分析力が高い。そこで、脳磁図で計測ターゲットとする脳活動とその脳活動が得られる刺激条件を前もって設定検討しておき、脳波計測ではその刺激条件を用いて計測するようにする。
脳磁計(MEG)で計測した脳磁図のデータは信号源解析等により、等価電流双極子を算出し、脳活動の信号源位置と電流方向を求めることができる。例えば、図9の等磁場線図の脳活動の場合、信号源位置は、鳥距溝周辺やや上側の1次視覚野(ブロードマンエリア17野)で、電流方向は、ほぼ垂直方向の下から上向きで、ほんの僅かに左に傾くベクトルとして求めることができる。ほんの僅かに傾いているのは、図9を計測した時の被験者の脳形状がそのようになっていたか、僅かな左向きの脳活動が重畳したかが考えられるが、ここでは、電流方向が垂直方向の下から上向きとなっていることが大切である。
本実施例1では、図9に示したような、1次視覚野に脳活動の信号源があり、下から上向きに電流が流れる視覚刺激をターゲットとして、簡易的な脳波計(EEG)計測システム(つまり実施の形態1のシステム)で、個人の見え方の感覚特性を記録するようにする。
【0023】
ここで、脳波計(EEG)の重要な特徴を説明する。脳波計で記録する脳電図は、2つの電極間の電位差を記録するものである。ターゲットとする脳活動が単一で信号源位置とその電流方向が明らかである場合、その脳活動の信号源位置を電流方向に挟む2点の電位差が最も大きくなる。
図10は、脳波の電極配置の位置の代表的な手法である10−10法の電極位置を示したものである。また、図10では図9の脳活動を脳波で計測する場合の電極位置を重ねて図示したものである。10−10法は、国際10−20電極法に対してさらに密に電極を配置するために考案されたものである。鼻根部(ナジオン:図10ではNz)と後頭結節(イニオン:図10ではIz)を基準として、各電極の位置を決定する。図10は上方が鼻根部、下方が後頭結節、左側が左耳、右側が右耳となるように、頭部を真上から投影してあるものである。
ここで、前述の実施の形態1及び実施の形態2では、各装着部に配置されている電極群を等間隔としている。厳密には10−10法では、各個人の頭の大きさに対して正しい割合の位置に電極を当接することで各電極の位置が決定される。前述の実施の形態1及び2では、装置を簡易化するために標準的な頭部形状の被験者に合わせた電極距離の装置としている。そのため、被験者の頭の大きさや形状が標準的な被験者と異なる場合には、実施の形態1及び実施の形態2の装置の電極は10−10法の位置から若干ずれることになるが、以下の説明では標準的な被験者に対する電極位置として説明する。本発明において、10−10法の位置に対して若干ずれることは、本発明の解析方法では信号源位置を補正し、電流方向のずれを検出するため、解析対象とする脳活動の解析において問題はない。本発明の解析方法を用いることにより、厳密に正しい割合の位置に電極を配置しなくても、おおよそ正しい位置に電極群を等距離となるように配置することで、測定目的に対して比較的正しい計測値を得ることができることになる。
前述のように図9の脳活動を信号源解析をすると、信号源位置は鳥距溝周辺の1次視覚野で、電流方向は、垂直方向の下から上向きとなっていることが分かる。このことより、図9の脳活動を脳波計を用いて計測する場合においては、図10においてOz付近とFz付近の電位差が最も大きくなると予め算出することができる。ここで、2点間、例えば、OzとFz間の電位差を計測するためには、OzとFzにそれぞれ電極を配置し、例えばFzを基準電極としてOz−Fzの電位差を記録しても良い。もしくは、右耳(A2)等に基準電極を配置し、Oz−A2の電位差、Fz−A2の電位差を記録した後、ぞれぞれの電位差の差分を(Oz−A2)−(Fz−A2)として記録しても良い。数式からわかるようにどちらの記録方法であっても同じになる。より質の高い脳波を記録するためには、基準電極に大きな電位変化が無い状態であることが好ましいため、本実施例では、A2を基準とした計測としている。
【0024】
本実施例1では、図9の脳波を計測ターゲットとするため、バックパーツ11(電極群1)の真ん中の電極17をOzに接地させる。そして、フロントパーツ31(電極群2)の真ん中の電極17をFzに接地させる。すなわち、ターゲットとする脳活動の電流方向に対して、垂直に電極17群をそれぞれ配置する。このようにすると、ターゲットとする信号源位置が、配置した電極位置に対してずれていたり、電流方向が多少斜めになっている場合などであっても、誤差を加味して計測することが可能である。電極配置は概ね図11のようになる。
本実施例1では、視覚刺激として、空間周波数を低空間周波数(条件1)から高空間周波数(条件4)まで変化させた刺激画像を、10秒間ずつ6Hzで点滅させ、その時の定常状態視覚誘発電位を計測した。空間周波数とは画像の周期構造の細かさを表す数値であり、低空間周波数は画像が粗く高空間周波数は画像が精密になる。
解析は、フロントパーツ31のそれぞれの電極17と、バックパーツ11のそれぞれの電極17の差分波形をそれぞれ求めた後、各刺激について、8秒間の脳波を切り出して、FFT(高速フーリエ変換)を行い、パワー値を算出した。例えば、Ozとフロントパーツ31の電極17群との差分のイメージを図12に示す。被験者Aについて、そのようにして得られたのが、図13である。尚、これらの一連の計算は、解析コンピュータ内の脳波記録解析プログラムにより、記録後自動的に実施される。
【0025】
以下、図13の解説をする。図13はバックパーツ11の電極17群(PO7、O1、Oz、O2、PO8)のそれぞれと、電極群2との差分波形のパワー値を示したものであり、パワー値が高値であるほど、脳活動が大きいことを示している。例えば、条件2において、PO7、O1、Oz、O2、PO8とフロントパーツ31の電極17群との差分波形のパワー値を見ると、Ozとの差分が最も大きく、中でも、Oz−Fz、Oz−F2が大きいことが分かる。このことより、電流方向は、測定ターゲット通り上向きになっていること、信号源の位置は、電極17のOzの位置よりも若干右側にあることが推察される。図12には、Ozを起点として、前頭部の5電極との間に生じるベクトル(電流方向)を示した。
ここで、条件2と条件3は、Oz−Fz、又はOz−F2で最も強い反応が出ているが、条件4では、Oz−F1が最も強くなっており、電流方向が変化していることから条件4では、条件2及び条件3に対して別の脳反応が重畳して記録されていることが判別できる。すなわち、条件4の評価値は条件2、3に比べると信頼性が低いと判断できる。そこで、例えば、条件3と条件4において、Oz−F1の評価値の差が0.6であることから、条件4のOz−Fzのパワー値は、3.2ではなく、2.7〜2.8が真値に近いと推察することができ、計測値の信頼度は(2.7〜2.8)÷3.2として85%程度と求めることができる。尚、この信頼度の求め方は、一例として簡易的に記したものである。
このように、計測値の信頼度をバックパーツ11とフロントパーツ31のそれぞれの電極17群の差分より推察される電流方向の変化より求めることができ、評価値と合わせて出力し、データ使用時に信頼度を考慮することで、様々な要因による測定誤差を減らして、ユーザーの特性を取得することができるようになる。
また、ユーザーの個人特性の評価結果は、図14のようになる。被験者Bは、低空間周波数に対する感度が高く、被験者Cは高空間周波数に対する感度が高い特性であると分析できる。尚、図14では、空間周波数の条件を8種類に増やして評価している。
【0026】
<実施例2>
実施例2は、実施の形態2のシステムを使用した外的刺激を聴覚として、その個人の感覚特性を計測し、解析した事例である。
図15には、純音1000Hzを刺激として提示した時の聴覚誘発磁界の右側頭葉に計測された信号源位置と信号源方向を示している。被験者D、被験者Eは、大きく計測結果の電流方向が異なる2人の被験者の例である。このように、全く同じ外的刺激に対する脳反応であっても電流方向は大きく異なって記録されるため、簡易的な脳波計(EEG)計測システムでの評価時には、信号源の位置や電流方向を解釈できるようにすることが大切である。
本実施例2では、7.5cmずつ離した3個の電極で構成される第1のヘッドバンド51の電極58群と7.0cmずつ離した3個の電極で構成される第2のヘッドバンド71の電極58群を持つ実施の形態2のシステムを用いている。
本実施例2での電極の配置は、脳磁図の結果より、第1のヘッドバンド51の電極58群の中心をFz、第2のヘッドバンド71の電極58群の中心をT10に配置し、電極群の配置は正中線に対して平行とした。電極配置は概ね図16のようになる。
【0027】
まず、被験者Dの聴覚誘発電位の計測結果を図17に示す。このようにCz−P10の差分波形(図17における太線の波形)より得られる聴覚誘発電位が最も大きな脳反応として得られており、概ね電流方向としては、Cz−P10になっていることが分かる。より細かく見るため、聴覚誘発電位の振幅と潜時をまとめたのが、図18である。振幅の単位はμV(マイクロボルト)、潜時の単位はms(ミリ秒)である。その結果、電極群2のどの電極を起点とした場合であってもCz>Fz>Fpzの振幅となっている。このことから、電流はCzに向かって流れていることが解釈できる。ここで、潜時(刺激を与えてから実際に脳に反応が起こるまでの時間の遅れ)は、第2のヘッドバンド71側の電極58群についてみると、
F10基準:85-87ms
T10基準:87-88ms
P10基準:75-78ms
となっており、P10基準のみが速いことから、P10付近を出発点として電流が流れていることが分かる。電流方向を推定すると図19の矢印の方向となる。
【0028】
次に被験者Eの計測結果を図20に示す。また被験者Dと同様に聴覚誘発電位の振幅と潜時をまとめた表を図21に示す。
まず、電流の終点については、電極群2のどの電極を始点とした場合であっても振幅よりFz>>Cz>Fpzであることから、Fz付近で、ややCz寄りであるということが分かる。電流の始点については、潜時から
F10基準:77-83ms
T10基準:75-76ms
P10基準:74ms
である。F10基準は遅く、P10が最も速いがT10基準との差は僅かである。そのためT10とP10の間でP10寄りであることがわかる。これらから解析すると、推定された電流方向は図22の矢印の方向となる。
【0029】
これら実施例1や実施例2のように、電極群をターゲットとする脳活動で想定される電流方向に対して垂直に配置することで、実施例1のように定常状態の誘発電位を用いる場合であっても、実施例2のようにtransient型の誘発電位を用いる場合であっても、信号源の位置と電流方向を計測結果より解釈することができる。
実施例2は、刺激が1種類の事例であったが、実施例1と同様に、刺激を複数とした場合の脳活動を解析することで、被験者個人の感覚特性を評価することができる。例えば、本実施例2では、提示する聴覚刺激の音の高さや大きさ、提示タイミングの周波数などを段階的に変化させた複数の刺激を提示することで、被験者個人の聞こえ方の特性や注意力などを評価することができる。また、電流方向の変化を解析することで、ターゲットとする脳活動に対する計測値の信頼性の情報を合わせて得ることが可能である。
【0030】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施の形態1では、眼鏡にバックパーツ11を取り付けるようにしていたが、これは実施の形態2の第1のヘッドバンド51のようなベルト状の形態としてもよい。
・上記実施の形態1及び実施の形態2のヘッドセットを含む脳波計測システムは一例であり、本発明が限定されることはない。例えば、中心となる回路部から蛸足状にアームが延び、その先端に電極が1つずつあるような形状であっても、各アームが2つの電極群に分けられ、かつ少なくともいずれか一方の電極群が3以上の電極が直列に配置されるようにアームを配置した場合には本発明の構成に含まれる。
・上記実施の形態1では5つの電極17とし、実施の形態2では3つの電極58としたが、数をもっと増やしても、あるいは2つで構成してもよい。
・直列に配置する電極として例えば実施の形態1のバックパーツ11だけを直列に複数の電極を配設するようにし、フロントパーツ31の電極17を2つで構成するようにしてもよい。
・実施の形態2の第1のヘッドバンド51にはクリップ式のグラウンド電極61及びファレンス電極62を配設したが、当接型の電極であってもよい。
・上記実施例では、視覚刺激と頂角刺激を用いたが、他の五感を刺激するものや、異なる種類の刺激を組み合わせるようにしてもよい。
・電極として磁場計測の素子を採用することで、脳活動を脳波ではなく脳磁場として計測するようにしてもよい。その場合であっても解析対象とする脳活動は、外的刺激又は内的刺激が同じであれば、ほぼ同一となるため本発明を適用できる。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
図1
図2
図3
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図6
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図22