【文献】
井上翼,超紡績性CNTアレイからの乾式紡績によるCNT紡績糸,繊維機械学会誌,2013年 4月,Vol.66,No.4,第233−237頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
開放部を通じて外部と連通する内部空間を有し、内面の少なくとも一部をCNTフォレストの成長基面とし、前記CNTフォレストから複数のCNTを連続的に引き出す紡績に用いられる開口基板であって、
複数の部品が分割可能に組み立てられた組立体であり、複数の前記部品を分割することにより、前記内面の少なくとも一部が露出する
ことを特徴とする開口基板。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.CNTフォレスト
図1は、本発明の一実施形態に係るCNTフォレストが内面に形成された円筒状の開口基板の構造を概略的に示す模式図であり、(a)は開口基板を斜め横方向から見た斜視図であり、(b)は開放部側から見た正面図であり、(c)は(a)のA−A’の方向の断面を開口基板の側面側から見た断面図である。
【0039】
本実施形態に係るCNTフォレストの一例は、
図1(a)〜(c)に示されるように、開放部41を通じて外部と連通する内部空間42を有する開口基板40における内面43を成長基面44として形成されたCNTフォレスト45であって、開放部41側の端46に紡ぎ出し可能部47を有している。
【0040】
CNTフォレストの一例は、
図2に示されるように、複数のCNTが一定の方向に配向するように配置された構造を有する部分を備える。この部分における複数のCNTの直径を測定し、それらの分布を求めると、
図3に示されるように、CNTの直径は、その多くが20〜50nmの範囲内となる。
【0041】
本明細書において、「紡ぎ出し可能部」とは、CNTフォレストの紡ぎ出し可能な構成を備えた部分をいう。成長基面から1012個/m2以上1012個/m2以下の範囲内の密度で成長してなるCNTとすることにより、その部分からのCNTフォレストの紡ぎ出しが可能な紡ぎ出し可能部とすることができる。
【0042】
図1(b)に示されるように、本実施形態に係るCNTフォレスト45は、開放部41側の端全体に形成された構成となっている。このように、開放部41側の端46の全体を紡ぎ出し可能部47とすることで、CNTが紡ぎ出されているCNTフォレストの紡ぎ出し位置により構成される仮想的な線である紡績ラインを、閉じた線とすることが可能となる。紡績ラインが閉じた線となることで、CNT交絡体により、筒状の構造体、線状の構造体、同軸状の積層構造体、ロープなどを容易に形成することができる。
【0043】
本実施形態のCNTフォレスト45は、内部空間42を有する開口基板40の内面43を成長基面44をとして形成されたものであるから、一つの平面を成長基面とした場合と比較して、空間を有効利用して広い面積に形成することができる。
【0044】
CNTフォレストを製造する方法は限定されず、固相触媒法および気相触媒法のいずれにより形成されたものであってもよいが、内部空間42を備える開口基板40の内面43に効率よく触媒を付与するためには、気相触媒法を用いることが好ましい。
【0045】
2.CNTフォレストの開口基板
本発明の一実施形態に係るCNTフォレストの開口基板について図面を参照しながら説明する。
図4は、
図1に示される円筒状の開口基板とは別の例を概略的に示す模式図であり、(a)は紡錘半球状の開口基板の斜視図であり、(b)は四角筒状の開口基板の斜視図であり、(c)は
図1とは異なる円筒状の開口基板の斜視図である。
【0046】
CNTフォレスト形成用の開口基板は、
図4(a)に示した紡錘半球状の開口基板50のように、内部空間52の内径が連続的に変化し、両端の開放部51Aと51Bの大きさが異なるものとしてもよい。また、
図4(b)に示した四角柱の開口基板60のように、内部空間62が複数の平面により構成されたものとしてもよい。
【0047】
開口基板を構成する材料としては、例えば、シリコン、石英、ガラス、金属などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、開口基板は、容易に変形しない性質を備えたものに限らず、弾性変形可能な可とう性のあるシートや、金属箔などの変形可能なシートを用いて構成することもできる。
【0048】
図1および
図4(a)(b)に示される開口基板40、50および60は、その両端に開放部41、51A、51Bおよび61が一つずつ形成されている。しかし、
図4(c)に示した開口基板70のように、筒の両端の開放部71Aのみではなく、側面の開放部71Bをも備える構成としてもよい。
【0049】
本明細書において「開放部」とは、開口基板の内部空間内に気体を導入および/または排出することができる部分をいう。開口基板が備える開放部の数は、一つまたは二つ以上のいずれでもよい。一つの開放部のみを有する開口基板の開放部の場合、同じ開放部から気体の導入および排出がなされる。これに対して、二つ以上の開放部を有する開口基板を用いれば、気体の供給に用いられる開放部と気体の排出に用いられる開放部とを別のものとすることができる。このため、CNTフォレストの炭素源となる気体の円滑な流れを形成することが可能となる。気体の円滑な流れは、CNTフォレストの成長に良い影響を与える。したがって、少なくとも二つの開放部を有する開口基板を用いることが好ましい。
【0050】
少なくとも二つの開放部を備えた開口基板の形状を筒状とすることにより、炭素源となる気体の流れをより円滑なものとすることができる。開口基板の内部空間全体における気体の流れを均一化することにより、内面の成長基面におけるCNTフォレストの成長を均一化することができる。
【0051】
本明細書においいて「筒状」とは、細長くて中が空洞になっているものをいい、
図4(a)に示す内径が変化するもの、
図4(b)に示す多角筒状のもの、
図4(c)に示す両端以外の側面にも開放部を備えたもののいずれも含む。
【0052】
開口基板の形状を多角筒状とする場合、生産性の観点から、
図4(b)に示した四角筒状が好ましい。四角筒状とした場合、その内面の成長基面が4つの平面から構成され、隣り合う平面によって角が形成される。この角の部分に形成されたCNTフォレストは、平面に形成されたCNTフォレストとは異なる性質を有する可能性がある。このため、CNTを紡ぎ出す際、内面を構成する平面ごとに個別にCNTを紡ぎ出すこととしてもよい。
【0053】
開口基板の形状を円筒状とする場合、多角筒状とは異なり角のない滑らかな内面を成長基面としてCNTフォレストが形成される。このため、開口基板を円筒状とすることにより、内面に形成されるCNTフォレストが成長する際の条件の均一性が向上する。したがって、炭素源となる気体の供給や、CNTフォレストが成長する成長基面の形状の均一性を高くするためには、円筒状とすることが好ましい。
【0054】
二つ以上の開放部を有する開口基板は、
図1および
図4(a)〜(c)に示した開口基板40、50、60、70のように、開放部が筒の両端に形成されている双開口基板とすることが好ましい。双開口基板とすることにより、CNTの炭素源となる気体が筒に沿って流れ、気体の供給および排出がより円滑になるから、CNTフォレストの成長が良好になる。なお、「双開口基板」は、筒の両端に開放部が形成されたものであればよく、
図4(c)に示す開口基板のように、両端以外の側面にも開放部が形成されたもの含む。
【0055】
2−1.分割可能な開口基板
開口基板は、その内面にCNTフォレストが形成されるものである。このため、分割可能に構成することにより、CNTフォレストを紡ぎ出した後の洗浄が容易になる。すなわち、開口基板の部品を分割することにより、開口基板の内面の少なくとも一部が露出することから、内面を容易に洗浄することができる。以下に、分割可能に構成された開口基板の例を示す。
【0056】
図5〜
図10は、本発明の実施形態に係る分割可能な開口基板が分解された状態を斜め上方向から見た斜視図である。これらの図では、
図1(a)〜(c)に示した円筒状の開口基板を分割可能な構成とした例について説明するが、
図4(a)〜(c)に示した開口基板も同様に分割可能な構成とすることができる。
【0057】
図5は、同一形状の二つの半円筒を組み合わせてなる、分割可能な円筒形の開口基板を示している。同図に示す開口基板80のように、同一形状の部品80A、80Bを組み合わせた構成とすれば、分割可能な開口基板の部品として、単一形状の部品80A、80Bのみを製造することができる。このため、異なる部品を組み合わせた開口基板に比較して、安いコストで製造することができる。
【0058】
分割可能な開口基板は、
図6に示している円筒状の開口基板81のように、異なる形状の二つの半円筒の部品81A、81Bを組み合わせて構成することもできる。
図5および
図6に示した開口基板80および81はいずれも、二つの部品が組み立てられていることにより開放部が形成されている。
【0059】
図7は、
図5の開口基板が組み立てられた状態が固定部品により固定された状態を斜め上方向から見た斜視図である。同図に示す開口基板82は、開口基板80を構成する部品80A、80Bを開口基板80の外面側から拘束する固定部品83を用いて固定し、組立体である開口基板82とするものである。
図7に示す構成によれば、分割可能な開口基板82が組み立てられた状態すなわち組立体を容易に形成、保持することができる。
【0060】
図8〜
図10は、組み立てられた状態における複数の部品の位置が隣り合う部品の嵌め合い構造によって決められる実施形態の一例を示している。これらの図に示された開口基板は、二つの半円筒形の部品を組み合わせて組立体とするものである。
【0061】
図8に示す開口基板84は、部品84Aおよび部品84Bの各接合面に、凹部85Aおよび凸部85Bが形成されている。凹部85Aと凸部85Bとを嵌め合わせることにより、部品84Aと部品84Bとの相対的な位置関係が固定されて、組立体としての開口基板84となる。このように、開口基板84は、部品84Aの凹部85Aと、部品84Aと隣り合う部品84Bの凸部85Bとの嵌め合い構造によって、部品84Aと部品84Bとの相対的な位置関係が固定されて、組立体としての開口基板84となる。
【0062】
図9に示す開口基板86は、部品86Aおよび部品86Bそれぞれの各接合面自体が凹部86A1および凸部86B1となっている。すなわち、凹部86A1および凸部86B1により、開口基板86の内面の一部が構成されている。このため、部品86Aおよび部品86Bそれぞれの各接合面自体を嵌め合わせることにより、組立体としての開口基板86となる。この開口基板86のように各接合面自体が嵌り合う構造とすることにより、簡単かつ精度良く位置決めをすることができる。
【0063】
図10に示開口基板87は、二つの半円筒の部品87Aと部品87Bを組み合わせて組立体とするものである。部品87Aおよび部品87Bのそれぞれの各接合面自体が、中央が低い谷形状部87A1および中央が高い山形状部87B1として形成されている。このように谷形状と山形状の嵌め合い構造とすれば、部品を嵌め合わせる際に位置が多少ずれても、容易かつ円滑に所定の位置に移動させることができるから、組み立てが容易である。なお、
図10では、各接合面に谷形状部または山形状部を一つ備えた例を示しているが、谷形状部および山形状部が複数された構成としてもよい。
【0064】
3.CNTフォレストの製造装置
本発明の一実施形態に係るCNTフォレストの製造装置を、図面を参照しながら説明する。
図11は、本発明の一実施形態に係るCNTフォレストの製造方法に使用される製造装置の構成を概略的に示す図である。
【0065】
図11に示されるように、この製造装置10は、電気炉12を備えている。この電気炉12は、所定方向A(原料ガスが流れる方向)に沿って延在する略円筒形状を呈している。電気炉12の内側には、カーボンナノチューブの成長室としての反応容器管14が通されている。反応容器管14は、例えば石英といった耐熱材からなる略円筒形の部材であり、電気炉12よりも細い外径を有し、所定方向Aに沿って延在している。
図11では、反応容器管14内に開口基板28が設置されている。
【0066】
電気炉12は、ヒータ16および熱電対18を備える。ヒータ16は、反応容器管14の所定方向Aのある一定の領域(換言すれば、略円筒形状の反応容器管14の軸方向の一定の領域であり、以下「加熱領域」ともいう。)を囲むように配設されており、反応容器管14の加熱領域における管内雰囲気の温度を上昇させるための熱を発生する。熱電対18は、電気炉12の内側において反応容器管14の加熱領域の近傍に配置され、反応容器管14の加熱領域における管内雰囲気の温度に関連する温度を表す電気信号を出力可能である。ヒータ16および熱電対18は、制御装置20と電気的に接続されている。
【0067】
所定方向Aにおける反応容器管14の一端には、ガス供給装置22が接続されている。ガス供給装置22は、原料ガス供給部30、気相触媒供給部31、気相助触媒供給部32および補助ガス供給部33を備える。ガス供給装置22は制御装置20と電気的に接続され、ガス供給装置22が備える各供給部とも電気的に接続されている。
【0068】
原料ガス供給部30は、CNTフォレストを構成するCNTの原料となる炭素化合物を含む原料ガス(例えばアセチレンなどの炭化水素ガス)を反応容器管14の内部へ供給することができる。原料ガス供給部30からの原料ガスの供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0069】
気相触媒供給部31は、気相触媒を反応容器管14の内部へ供給することができる。気相触媒については後述する。気相触媒供給部31からの気相触媒の供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0070】
気相助触媒供給部32は、気相助触媒を反応容器管14の内部へ供給することができる。気相助触媒については後述する。気相助触媒供給部32からの気相助触媒の供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0071】
補助ガス供給部33は、上記の原料ガス、気相触媒および気相助触媒以外のガス、例えばアルゴンなどの不活性ガス(本明細書においてかかるガスを「補助ガス」と総称する。)を反応容器管14の内部へ供給することができる。補助ガス供給部33からの補助ガスの供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0072】
所定方向Aにおける反応容器管14の他端には、圧力調整バルブ23および排気装置24が接続されている。圧力調整バルブ23は、バルブの開閉の程度を変動させることにより、反応容器管14内のガスの圧力を調整することができる。排気装置24は、反応容器管14の内部を真空排気する。排気装置24の具体的種類は特に限定されず、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、メカニカルブースター、ターボ分子ポンプ、クライオポンプなどを単独でまたはこれらを組み合わせて用いることができる。圧力調整バルブ23および排気装置24は、制御装置20に電気的に接続される。また、反応容器管14の内部には、その内部圧力を計測するための圧力計13が設けられている。圧力計13は、制御装置20に電気的に接続され、反応容器管14の内部の圧力を表す電気信号を制御装置20に出力することができる。
【0073】
制御装置20は、上記のように、ヒータ16、熱電対18、ガス供給装置22、圧力計13、圧力調整バルブ23および排気装置24と電気的接続され、これらの装置等から出力された電気信号を入力したり、その入力した電気信号に基づいてこれらの装置等の動作を制御したりする。以下、制御装置20の具体的な動作について例示する。
【0074】
制御装置20は、熱電対18から出力された反応容器管14の内部温度に関する電気信号を入力し、その電気信号に基づいて決定されたヒータ16の動作に係る制御信号をヒータ16に対して出力することができる。制御装置からの制御信号を入力したヒータ16は、その制御信号に基づいて、発生熱量を増減させる動作を行い、反応容器管14の加熱領域の内部温度を変化させる。
【0075】
制御装置20は、圧力計13から出力された反応容器管14の加熱領域の内部圧力に関する電気信号を入力し、その電気信号に基づいて決定された圧力調整バルブ23および排気装置24の動作に係る制御信号を圧力調整バルブ23および排気装置24に対して出力することができる。制御装置からの制御信号を入力した圧力調整バルブ23および排気装置24は、その制御信号に基づいて、圧力調整バルブ23の開き具合を変更したり、排気装置24の排気能力を変更させたりするなどの動作を行う。
【0076】
制御装置20は、あらかじめ設定されたタイムテーブルに従って、各装置等の動作を制御するための制御信号を各装置に対して出力することができる。例えば、ガス供給装置22が備える原料ガス供給部30、気相触媒供給部31、気相助触媒供給部32および補助ガス供給部33のそれぞれからのガスの供給の開始および停止ならびに供給流量を決定する制御信号をガス供給装置22に出力することができる。その制御信号を入力したガス供給装置22は、その制御信号に従って、各供給部を動作させて、原料ガスなどの各ガスを反応容器管14内への供給を開始したり停止したりする。
【0077】
4.CNTフォレストの製造方法
本発明の一実施形態に係るCNTフォレストの製造方法を、図面を参照しながら説明する。
本発明のCNTフォレストの製造方法は、上述した開口基板の成長基面にCNTフォレストを形成する成長工程を備えている。その一実施形態として、この成長工程が、
図12に示されるように、第一および第二の二つのステップを備えたものが挙げられる。
【0078】
(1)第一ステップ
第一ステップは、気相触媒を含む雰囲気内に開口基板を存在させるステップである。その一実施形態として、例えば、ケイ素の酸化物を含む材料からなる面である成長基面をその表面の少なくとも一部として備える開口基板を、気相触媒を含む雰囲気内に存在させる工程が挙げられる。
【0079】
開口基板の具体的な構成は限定されない。その形状は、開放部を通じて外部と連通する内部空間を有するものであればよく、球形、楕円球形、四角筒や円筒のような簡単な形状であってもよいし、複雑な凹凸が設けられた3次元形状を有していてもよい。また、開口基板の全面が成長基面であってもよいし、開口基板の表面の一部だけが成長基面であって他の部分は成長基面ではない、いわゆるパターニングされた状態であってもよい。
【0080】
成長基面は、例えば、ケイ素の酸化物を含む材料からなる面であり、第二ステップにおいて成長基面上にCNTフォレストは形成される。成長基面を構成する材料はケイ素の酸化物を含んでいる限りその詳細は限定されない。成長基面を構成する材料の具体的な一例として、石英(SiO2)が挙げられる。成長基面を構成する材料の他の例として、SiOx(x≦2)が挙げられ、これは酸素を含有する雰囲気でケイ素をスパッタリングすることによって得ることができる。さらに別の例として、ケイ素を含む複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物を構成するケイ素および酸素以外の元素として、Fe、Ni、Alなどが例示される。さらにまた別の例として、ケイ素の酸化物に窒素、ホウ素などの非金属元素が添加された化合物が挙げられる。
【0081】
成長基面を構成する材料は開口基板を構成する材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。具体例を示せば、開口基板を構成する材料が石英からなり成長基面を構成する材料も石英からなる場合や、開口基板を構成する材料はケイ素を主体とするシリコン基板からなり成長基面を構成する材料はその酸化膜からなる場合が例示される。
【0082】
第一ステップでは、気相触媒を含む雰囲気内に上記の成長基面を備える開口基板を存在させる。本実施形態に係る気相触媒の例として、鉄族元素(すなわち、鉄、コバルトおよびニッケルの少なくとも一種)のハロゲン化物(本明細書において「鉄族元素ハロゲン化物」ともいう。)が挙げられる。かかる鉄族元素ハロゲン化物をさらに具体的に例示すれば、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化ニッケル、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、臭化鉄、臭化コバルト、臭化ニッケル、ヨウ化鉄、ヨウ化コバルト、ヨウ化ニッケルなどが挙げられる。鉄族元素ハロゲン化物は、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)のように、鉄族元素のイオンの価数に応じて異なる化合物が存在する場合もある、気相触媒は一種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。
【0083】
気相触媒の反応容器管の内部への供給方法は限定されない。前述の製造装置10のように、気相触媒供給部31から供給してもよいし、反応容器管14の加熱領域の内部に気相触媒を与える気相以外の物理状態(典型的には固相状態)にある材料(本明細書において「触媒源」ともいう。)を設置し、反応容器管14の加熱領域の内部を加熱することおよび/または負圧することにより触媒源から気相触媒を生成して、気相触媒を反応容器管14の加熱領域の内部に存在させてもよい。触媒源を用いて気相触媒を生成する場合の具体例を示せば、反応容器管14の加熱領域の内部に触媒源として塩化鉄(II)の無水物を配置し、反応容器管14の加熱領域の内部を加熱するとともに負圧して塩化鉄(II)の無水物を昇華させると、塩化鉄(II)の蒸気からなる気相触媒を反応容器管14内に存在させることができる。
【0084】
第一ステップにおける反応容器管14内、具体的には開口基板が設置されている部分の雰囲気の圧力は特に限定されない。大気圧(1.0×10
5Pa程度)であってもよいし、負圧であってもよいし、陽圧であってもよい。第二ステップにおいて反応容器管14内は負圧雰囲気とする場合には、第一ステップにおいても雰囲気を負圧としておいて、ステップ間の遷移時間を短縮することが好ましい。第一ステップにおいて反応容器管14内を負圧雰囲気とする場合において、雰囲気の具体的な全圧は特に限定されない。一例を挙げれば、10
−2Pa以上10
4Pa以下とすることが挙げられる。
【0085】
第一ステップにおける反応容器管14内雰囲気の温度は特に限定されない。常温(約25℃)であってもよいし、加熱されていてもよいし、冷却されていてもよい。後述するように第二ステップにおいて反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気は加熱されていることが好ましいことから、第一ステップにおいてもその領域の雰囲気を加熱しておいて、ステップ間の遷移時間を短縮することが好ましい。第一ステップにおいて反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を加熱する場合において、加熱領域の温度は特に限定されない。一例を挙げれば8×10
2K以上1.3×10
3K以下であり、9×10
2K以上1.2×10
3K以下とすることが好ましい一例として挙げられる。
【0086】
触媒源として塩化鉄(II)の無水物を用いる場合には、前述のように、第一ステップにおいても反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を加熱して、触媒源が昇華する条件を満たすことが好ましい。なお、塩化鉄(II)の昇華温度は大気圧(1.0×10
5Pa程度)において950Kであるが、反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を負圧とすることにより、昇華温度を低下させることができる。
【0087】
触媒源として塩化鉄(II)の無水物を用い、気相触媒供給部31から塩化鉄(II)の蒸気を気相触媒の一部として供給してもよい。この場合には、気相触媒供給部31内に配置した塩化鉄(II)の無水物を加熱して塩化鉄(II)を昇華させ、発生した塩化鉄(II)の蒸気を、開口基板28が設置された反応容器管14内へと導くことにより、第一ステップを完了させることができる。
【0088】
(第二ステップ)
第二ステップでは、第一ステップにより実現された気相触媒を含む雰囲気に原料ガスおよび気相助触媒を存在させることにより、開口基板の成長基面上に複数のカーボンナノチューブを成長させ、前記成長基面上に前記複数のカーボンナノチューブからなるCNTフォレストを得るステップである。
【0089】
原料ガスの種類は特に限定されないが、通常、炭化水素系材料が用いられ、アセチレンが具体例として挙げられる。原料ガスを反応容器管14の内部の雰囲気に存在させる方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、原料ガス供給部30から原料ガスを供給することにより存在させてもよいし、原料ガスを生成させることが可能な材料を反応容器管14の内部にあらかじめ存在させ、その材料から原料ガスを生成して反応容器管14の内部に拡散させることによって第二ステップを開始してもよい。原料ガス供給部30から原料ガスを供給する場合には、流量調整機器を用いて、反応容器管14の内部への原料ガスの供給流量を制御することが好ましい。通常、供給流量はsccm単位で表され、1sccmとは、273K、1.01×10
5Paの環境下に換算した気体についての毎分1mlの流量を意味する。反応容器管14の内部に供給される気体の流量は、
図11に示されるような構成の製造装置の場合には、反応容器管14の内径、圧力計13において測定される圧力などに基づいて設定される。圧力計13の圧力が1×10
2Pa以上1×10
3Pa以内の場合における、アセチレンを含有する原料ガスの好ましい供給流量として10sccm以上1000sccm以下が例示され、この場合には20sccm以上500sccm以下とすることがより好ましく、50sccm以上300sccm以下とすることが特に好ましい。
【0090】
本明細書において、「気相助触媒」とは、前述の気相触媒法により製造されるCNTフォレストの成長速度を高める機能(以下、「成長促進機能」ともいう。)を有し、好ましい一形態では、さらに製造されたCNTフォレストの紡績性を向上させる機能(以下、「紡績性向上機能」ともいう。)を有する成分を意味する。成長促進機能の詳細は特に限定されない。一例として、CNTフォレストの成長に係る反応の活性化エネルギーを低下させることが挙げられる。また、紡績性向上機能の詳細も特に限定されない。一例として、CNTフォレストから得られるCNT交絡体の紡績長さを長くすることが挙げられる。
【0091】
気相助触媒の具体的な成分は、上記の成長促進機能および好ましくはさらに紡績性向上機能を果たす限り特に限定されず、具体的な一例としてアセトンが挙げられる。気相助触媒としてのアセトンは、気相触媒法によりCNTフォレストが成長する際の反応の活性化エネルギーを低下させることができるとともに、得られたCNTフォレストの紡績性に係る特性の中でも、紡績した際の紡績長さについて良好な影響を及ぼすことができる。これらの機能の詳細については実施例において説明する。
【0092】
第二ステップにおいて気相助触媒を反応容器管14内雰囲気に存在させる方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、気相助触媒供給部32から気相助触媒を供給することにより存在させてもよいし、気相助触媒を生成させることが可能な材料を反応容器管14内にあらかじめ存在させ、その材料から加熱、減圧などの手段によって気相助触媒を生成して、気相助触媒を反応容器管14内に拡散させてもよい。
【0093】
気相助触媒供給部32から気相助触媒を供給する場合には、流量調整機器を用いて、反応容器管14の内部への気相助触媒の供給流量を制御することが好ましい。圧力計13の圧力が1×10
2Pa以上1×10
3Pa以内の場合における、気相除触媒の一例であるアセトンの好ましい供給流量として10sccm以上1000sccm以下が例示され、この場合には20sccm以上500sccm以下とすることがより好ましく、50sccm以上300sccm以下とすることが特に好ましい。原料ガス(具体例としてアセチレン)および気相助触媒(具体例としてアセトン)をそれぞれ原料ガス供給部30および気相助触媒供給部32から供給する場合には、原料ガスの供給流量(単位:sccm)に対する気相助触媒の供給流量(単位:sccm)の比率(気相助触媒/原料ガス)を、150%以下とすることが好ましく、5%以上120%以下とすることがより好ましく、10%以上100%以下とすることが特に好ましい。かかる比率とすることにより、CNTフォレストの成長速度をより安定的に高めることができる。
【0094】
このように、気相助触媒としてのアセトンが有する成長促進機能の程度は、原料ガスとの量的な関係に依存して変動すること、および気相助触媒としてのアセトンを含有させた効果は反応初期の方が相対的に顕著に確認されることから、気相助触媒としてのアセトンは、原料ガスが触媒と相互作用してCNTフォレストを成長させる過程における比較的初期の段階でより強く関与している可能性がある。
【0095】
第二ステップにおいて、反応容器管14内雰囲気に原料ガスを存在させるタイミングと気相助触媒を存在させるタイミングとは特に限定されない。いずれかが先であってもよいし、同時であってもよい。ただし、気相助触媒を先または同時に存在させる場合は、従来気相触媒法によるCNTフォレストの製造法とは異なり、原料ガスと気相触媒との相互作用に基づくCNTフォレストの成長が気相助触媒の導入より前には開始されるのを防ぐことができるので、気相助触媒を含有させたことの利益を十分に得ることができる。それゆえ、気相助触媒は、原料ガスよりも先または原料ガスと同時に反応容器管14内雰囲気に存在するように設定することが好ましい。
【0096】
第二ステップにおける反応容器管14内雰囲気には、例えば全圧を所定範囲に調整することを目的として、補助ガスを存在させてもよい。補助ガスとして、CNTフォレストの生成に与える影響が相対的に低いガス、具体的にはアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスが例示される。反応容器管14内雰囲気に補助ガスを存在させる方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、補助ガス供給部33を供給装置が備え、その補助ガス供給部33から反応容器管14内雰囲気内に補助ガスを供給することが簡便であり、制御性に優れ、好ましい。
【0097】
第二ステップにおける反応容器管14内雰囲気の全圧は特に限定されない。大気圧(1.0×10
5Pa程度)であってもよいし、負圧であってもよいし、陽圧であってもよい。反応容器管14内雰囲気に存在する物質の組成(分圧比)などを考慮して適宜設定すればよい。反応容器管14内の加熱領域の内部の雰囲気を負圧とする場合の圧力範囲の具体例を示せば、1×10
1Pa以上1×10
4Pa以下であり、2×10
1Pa以上5×10
3Pa以下とすることが好ましく、5×10
1Pa以上2×10
3Pa以下とすることがより好ましく、1×10
2Pa以上1×10
3Pa以下とすることが特に好ましい。
【0098】
第二ステップにおける反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気の温度は、気相触媒および気相助触媒が存在する雰囲気において原料ガスを用いてCNTフォレストを形成することができる限り、特に限定されない。前述の塩化鉄(II)のような触媒源を加熱して気相触媒を得る場合には、反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気の温度は気相触媒が形成される温度以上に設定される。
【0099】
第二ステップ中の成長基面の温度は8×10
2K以上に加熱されていることが好ましい。成長基面の温度が8×10
2K以上である場合には、気相触媒および気相助触媒と原料ガスとの相互作用が成長基面上で生じやすく、成長基面上にCNTフォレストが成長しやすい。この相互作用をより生じやすくさせる観点から、第二ステップ中の成長基面の温度は9×10
2K以上に加熱されていることが好ましい。第二ステップ中の成長基面の温度の上限は特に限定されないが、過度に高い場合には、成長基面を構成する材料や開口基板を構成する材料(これらは同一である場合もある。)が固体としての安定性を欠く場合もあるため、これらの材料の融点や昇華温度を考慮して上限を設定することが好ましい。反応容器管の負荷を考慮すれば、上限温度は1.5×10
3K程度までとすることが好ましい。
【0100】
5.紡績源部材
かかる本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTフォレストは紡績性に優れる。具体的には、CNTフォレストの端部が有する紡ぎ出し可能部をつまんで、これをCNTフォレストから離間する向きに引き出す(紡績する)ことによって、互いに交絡した複数のCNTを備える構造体(CNT交絡体)を得ることができる。
図13は、CNTフォレストからCNT交絡体が形成されている状態を示す画像であり、
図14は、CNT交絡体の一部分を拡大した画像である。
図13に示されるように、CNTフォレストを構成するCNTが連続的に引き出されてCNT交絡体は形成される。また、
図14に示されるように、CNT交絡体を構成するCNTは、CNTフォレストから引き出される方向(紡績方向)に配向しつつ、互いに絡み合って連結体を形成している。本明細書において、CNTフォレストを備える部材であって、CNT交絡体を形成することが可能な部材を「紡績源部材」ともいう。
【0101】
紡績源部材となりうるCNTフォレストは、CNT交絡体を形成することができるCNTフォレストであればよいが、形状的には好ましい態様を例示すれば、例えば、CNTフォレストの成長高さ(CNTフォレストが形成された状態における高さ)が高いものが挙げられる。すなわち、CNTフォレストの成長高さが十分高い場合には、CNTの交絡の程度が高くなり、連続的に紡ぎ出すことが容易となる。このCNTフォレストからのCNT交絡体の形成しやすさ(紡績性)は、CNTフォレストから形成したCNT交絡体の紡績方向長さ(CNTフォレストからCNTを引き出した方向の長さ)により評価することができる。紡績方向長さが長く途切れずに形成できるCNTフォレストが好ましい。(CNTフォレストが途切れずにすべて紡ぎ出されて消費される場合が最も好ましい。)
【0102】
本実施形態に係る気相助触媒を用いた製造方法により製造されたCNTフォレストは、従来技術に係る製造方法、すなわち気相助触媒を用いない気相触媒法により製造されたCNTフォレストに比べて、紡績性が良好なCNTフォレスト成長高さ範囲が広い。すなわち、気相助触媒を用いた製造方法によれば、従来よりも長いCNTからなるCNTフォレストや、従来よりも短いCNTからなるCNTフォレストの紡績性が良好になる。つまり、本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTフォレストを紡績源部材とすることにより、従来法に係るCNTフォレストを用いた場合には製造することができなかった長さのCNTからなるCNT交絡体をより安定的に製造することができる。
【0103】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTフォレストが紡績性に優れることについて以下に具体的に説明する。原料ガスとしてアセトン、触媒源として塩化鉄(II)の無水物を用いる気相触媒法で製造されるCNTフォレストを用いてCNT交絡体を形成する場合には、良好な紡績性(具体例として紡績長さが1cm以上であることが挙げられる。)が得られるCNTフォレストの成長高さ、すなわちCNTの長さの範囲はある所定の範囲に限定される。その上限および下限は、製造条件により変動するが、成長高さの範囲(上限高さ−下限高さ)としておおむね0.5mm程度である。これに対し、上記の気相触媒法において気相助触媒としてアセトンを用いる方法により製造されたCNTフォレストの場合には、上記の紡績性が良好となるCNTフォレストの成長高さの範囲は、気相助触媒を用いない場合に比べて、下限および上限の双方が広がって、2倍以上、つまり1mm以上となることができ、好ましい一形態では3倍程度またはそれ以上、つまり1.5mm程度またはそれ以上に到達する。
【0104】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTフォレストが紡績性に優れることについて別の観点から説明すれば、本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTフォレストは、好ましい一形態では、CNTフォレストの成長高さが2mm以上であっても、紡績長さが1cm以上となる紡績が安定的に可能である。
【0105】
このような紡績性に優れるCNTフォレストは、気相触媒法においては気相助触媒を用いることでより容易に製造することができる。固相触媒法の場合には、CNTフォレストの製造過程が気相触媒法の場合と異なり、このため得られるCNTフォレストの基本構造も気相触媒法の場合と異なる可能性があるが、本発明の製造方法を適用することを妨げる事情はない。
【0106】
紡績性が良好となるCNTフォレストの成長高さの範囲の上限が高くなることは、そのCNTフォレストから得られるCNT交絡体の特性を向上させる観点から好ましい。すなわち、成長高さの値が大きいCNTフォレストから得られたCNT交絡体は、CNT交絡体を構成するCNTの長軸方向長さの値が相対的に大きいため、CNT間の相互作用の程度が大きくなりやすい。それゆえ、CNT交絡体が糸状の形状を有していたり、ウェブ状の形状を有していたりする場合における、機械的特性(たとえば引張り強さ)、電気的特性(たとえば体積導電率)、熱的特性(たとえば熱伝導率)などが向上しやすい。
【0107】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTフォレストを備える紡績源部材が上記のように紡績性に優れる理由は定かではない。CNTフォレストからCNTの引き出し(紡績)が連続的に進行している場合には、引き出されたCNT同士が適切に交絡するとともに、引き出されたCNTが、そのCNTについて引き出し方向で引き出された向きと反対側の最近位に存在するCNT(以下、「最近位CNT」ともいう。)とも適切に相互作用することにより、最近位CNTの引き出しが行われている。したがって、CNTフォレストから紡績されたCNT交絡体の紡績長さが長くなるためには、引き出されるCNTとすでに引き出されたCNTとの相互作用および引き出されるCNTと最近位CNTとの相互作用のバランスが適切であることが必要とされる。これらの相互作用のバランスが適切となるようなCNTフォレストを形成することに、紡績助触媒が関与している可能性もある。
【0108】
6.構造体
紡績源部材から得られるCNT交絡体は、様々な形状を有することができる。具体的な一例として線状の形状が挙げられ、他の一例としてウェブ状の形状が挙げられる。線状のCNT交絡体は、繊維と同等に取り扱うことができるうえ、電気配線としても用いることができる。また、ウェブ状のCNT交絡体は、そのままで不織布と同様に取り扱うことができる。
【0109】
CNT交絡体の紡績方向長さは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。一般的には、紡績長さが2mm以上であれば、コンタクト部、電極など部品レベルへのCNT交絡体の適用が可能となる。また、ウェブ状のCNT交絡体は、紡績源部材からの紡績方法を変更することによって、これを構成するCNTの配向の程度を任意に制御することができる。したがって、紡績源部材からの紡績方法を変更することによって、機械的特性や電気的特性が異なるCNT交絡体を製造することが可能である。
【0110】
CNT交絡体は、その交絡の程度を小さくすれば、線状の場合には細くなり、ウェブ状の場合には薄くなる。その程度が進めば、CNT交絡体を目視で確認すること困難となり、このときそのCNT交絡体は透明繊維、透明配線、透明ウェブ(透明なシート状部材)として使用されうる。
【0111】
本実施形態の紡績源部材は、上記のように紡績性が良好であるから、ウェブ状の構造体を得ることができる。本明細書において「ウェブ状」とは複雑に繊維の絡み合いにより形成された蜘蛛の巣状、織布状または不織布状のものをいう。
【0112】
例えば、開口基板28として筒状のものを用いると、ウェブ状の構造体として、内側面および外側面を有する筒状の構造体が得られる。この筒状のウェブ状の構造体を切り開けば、シート状の構造体が得られる。
【0113】
また、CNTを撚り掛けにより集束すれば、線状の構造体としての撚糸が得られ、撚り掛けなしに集束すれば、線状の構造体としての無撚糸が得られる。これらの撚糸または不撚糸をその一部に用いてロープを作製することもできる。CNTを撚り掛けにより集束する場合、開口基板の側を回転させても、線状の構造体を集束した糸の側を回転させてもよい。
【0114】
7.構造体の製造方法
本発明の一実施形態に係る構造体の製造方法を説明する。以下では、構造体のうち、内側面および外側面を有するウェブ状の構造体および線状の構造体の製造方法について説明する。
【0115】
7−1.ウェブ状の構造体の製造方法
本実施形態に係る内側面および外側面を有するウェブ状の構造体は、筒状の開口基板の内面に形成されたCNTフォレストの開放部側の端全体に形成された紡ぎ出し可能部を紡ぎ出すことにより製造できる。
【0116】
図15は、
図1(c)に示す円筒状の開口基板に形成されたCNTフォレストからCNTが紡ぎ出されて集束される態様を模式的に示しており、(a)は最初の段階を示す断面図であり、(b)は紡ぎ出しが進行した段階を示す断面図である。
【0117】
図15(a)に示すように、CNTフォレスト45の端46全体の紡ぎ出し可能部47を引き出すことにより、内側面90Aおよび外側面90Bを有するウェブ状の構造体90が得られる。紡ぎ出し可能部47を円筒状の開口基板40の中心軸Cと平行な方向に引き出す工程により、容易に内側面90Aおよび外側面90Bを有する筒状の構造体を製造することができる。
【0118】
図15(b)に示すように、紡ぎ出しの進行に伴って、CNTフォレスト45が消費されて、端46が開口基板40の開放部41から内側へ移動する。このため、紡ぎ出しを中断した後に再開する場合、端46は開口基板40の内側に位置する。
【0119】
7−2.線状の構造体の製造方法
本実施形態に係る線状の構造体の製造方法は、
図16に示すように、紡績工程および集集束工程を備える。
図17(a)〜(b)および
図18(a)〜(c)は、
図1(a)〜(c)に示す円筒状の開口基板に形成されたCNTフォレストからCNTが紡ぎ出される態様を模式的に示した図である。
【0120】
図17(a)は最初の段階を示す断面図であり、(b)は紡ぎ出しが進行した段階を示す断面図である。
図18(a)〜(c)は、円筒状の開口基板に形成されたCNTフォレストからCNTが紡ぎ出される態様を模式的に示す、(a)斜視図、(b)正面図および(c)断面図である。なお、
図18(a)〜(c)においては、便宜上、CNTフォレスト45における端46の紡ぎ出し可能部47から紡ぎ出されるCNT交絡体を複数の線を用いて模式的に示しているが、CNT交絡体は端46の全体から筒状のものとして紡ぎ出される。
図18(a)では、開口基板40の内面43に形成されたCNTフォレスト45のうち、端46の紡ぎ出し可能部47のみを示している。
【0121】
(紡績工程)
線状の構造体の製造法においては、CNTフォレスト45の紡ぎ出し可能部47から紡ぎ出されたCNT交絡体は、
図18(a)の開口基板40の中心軸Cの方向に引き出されて、集束点Pで集束されて線状の構造体となる。開口基板40のような対称性の高い開口基板を用いる場合、CNTフォレスト45の端46のどの部分の紡ぎ出し可能部47からも、均等な条件で紡ぎ出すことができるから、紡績性が優れたものとなる。CNTフォレストの消費量は、たとえば、CNTフォレスト45が消費された長さを用いて評価することができる。開口基板40のように円筒形の開口基板の場合、集束点Pを中心軸C上とすれば、均等な条件で紡ぎ出すことができる。集束点Pを開口基板40の中心軸C上とすることにより、CNTフォレスト45が最も少なく消費される部分の消費量が最も多く消費される部分の消費量の80〜100%の範囲となる「均等な条件」で紡績工程を行うことが可能になる。ただし、均等な条件で紡ぎ出すためには、集束点Pは、必ずしも中心軸C上とする必要はない。また、集束点Pを任意な場所として、紡ぎ出す際の条件を均等としないで線状の構造体を製造することとしてもよい。構造体が紡錘状となるように引っ張ることにより、良好な線状の構造体を得ることができる。
【0122】
(集束工程、撚り掛け工程)
集束工程は、紡績工程において紡績されたCNTを集束して線状の構造体にする工程である。集束工程において線状の構造体とする際、CNTを撚り掛けすれば撚糸が得られ、CNTを撚り掛けしなければ無撚糸が得られる。
以下では、集束工程がCNTを撚り掛けして撚糸とする撚り掛け工程である場合について説明する。
【0123】
図21は、CNTが形成された平面基板から引き出されたCNTを撚り掛けにより集束させる、従来の方法を模式的に示す模式図である。同図に示されるように、CNTフォレスト105が形成された平面基板上から引き出されたCNTを撚り掛けにより集束すると、CNTフォレスト105の両側が中心よりも早く消費されてしまう。これは、線状の構造体である撚糸110が集束点Pにおいて撚り掛けされると、端106の両側106A、106C付近から紡ぎ出される外糸107A、107C(点線で示す)が、中心106B付近から紡ぎ出される中糸107B(実線で示す)の周りを取り囲む構造となって、中糸107Bよりも多く消費されてしまうことによる。すなわち、撚糸110の単位長さあたりに用いられる長さが、直線状の中糸107Bよりも中糸を取り囲む外糸107A、107Cの方が長くなることから、
図21に示すように、CNTフォレスト105の両側から先に消費されて、中心付近のCNTフォレストが基板上に残ってしまう。
【0124】
これに対して、本実施形態の構造体の製造方法は、撚り掛け工程において、円筒状の開口基板40の内面に形成されたCNTフォレストから紡績されたCNTを撚り掛けするものである。このため、CNTを引き出す方向を調整することにより、基板上の特定の領域から引き出された構造体が中糸または外糸となることを防止して、CNTフォレストを均等に消費することができる。
【0125】
例えば、撚り掛け工程を行う集束点Pを、開口基板40の中心軸C上またはその付近とすれば、撚り掛けされる位置とCNTが紡ぎ出される位置との相対的な位置関係を均しくすることができる。したがって、開口基板上の特定の領域から引き出されたCNT交絡体がもっぱら中糸または外糸となることを防止し、CNTフォレストを均等に消費することが可能になる。ここで、「均等に消費される位置」とは、CNTフォレストが最も少なく消費される部分の消費量が最も多く消費される部分の消費量の80〜100%の範囲となる位置をいう。
【0126】
8.複合構造体
CNT交絡体は、CNTのみからなっていてもよいし、他の材料との複合構造体であってもよい。前述のように、CNT交絡体は複数のCNTが互いに絡み合ってなる構造を有することから、この絡み合った複数のCNTの間には、不織布を構成する複数の繊維と同様に、空隙が存在する。この空隙部に、粉体(金属微粒子、シリカ等の無機系粒子や、エチレン系重合体等の有機系粒子が例示される。)を導入したり、液体を含浸させたりすることによって、容易に複合構造体を形成することができる。
【0127】
また、CNT交絡体を構成するCNTの表面が改質されていてもよい。CNTは外側面がグラフェンから構成されるため、CNT交絡体はそのままでは疎水性であるが、CNT交絡体を構成するCNTの表面に対して親水化処理を行うことによって、CNT交絡体を親水化することができる。そのような親水化の手段の一例として、めっき処理が挙げられる。この場合には、得られたCNT交絡体は、CNTとめっき金属との複合構造体となる。
【0128】
複合構造体は、構造体よりなる構造体層を少なくとも一部に備えた積層構造とすることができる。例えば、円筒状の構造体の内側面にコアとなる線状部材を配置して、CNTを集束すれば同軸状の積層構造を備えた複合構造体が得られる。また、複合構造体をその一部に備えたロープとすれは、ロープに複合体の性質を付与することができる。
【0129】
複合構造体は、CNT交絡体を備える構造体を骨格構造として備えたものであってもよい。本明細書において、「構造体を骨格構造として備える」とは、複数の材料が複合してなる複合構造体をかたちづくる中心として構造体を備えた構造をいう。例えば、複合構造体を構成する複数の材料のうちで、構造体が最大体積または最大質量を占めるものは、「構造体を骨格構造として備える」に該当する。
【0130】
9.複合構造体の製造方法
本発明の一実施形態に係る複合構造体の製造方法を説明する。
本実施形態に係る複合構造体の製造方法は、
図19に示すように、紡績工程および複合工程を備える。
【0131】
(紡績工程)
紡績工程は、上述した、構造体の製造方法における紡績工程と同様である。筒状の構造体とするときには、
図15に示されるように開口基板の中心軸Cと平行な方向に引き出して紡績し、線状の構造体とするときには、
図17〜
図18に示されるように開口基板の中心軸Cの方向に引き出して紡績する。
【0132】
(複合工程)
複合工程は、紡績工程において得られたウェブ状の構造体と他の材料とを複合する工程である。紡績工程において得られたウェブ状の構造体は、内側面および外側面を有する。ウェブ状の構造体の内側面に粉体(金属微粒子、シリカ等の無機系粒子や、エチレン系重合体等の有機系粒子が例示される。)を導入したり、液体を含浸させたりすることによって、容易に複合構造体を形成することができる。内側面に複合材料を添加することにより、従来よりも多量の複合材料を複合化することができる。また、添加された複合材料がウェブ状の構造体に取り囲まれることにより、安定な複合構造が形成される。