特許第6675711号(P6675711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6675711粒子状セルロース複合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675711
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】粒子状セルロース複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20200323BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20200323BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C08B15/08
   D21H11/18
   D21H15/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-229650(P2016-229650)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-87256(P2018-87256A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】奥田 貴志
【審査官】 長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−132601(JP,A)
【文献】 特開2001−121811(JP,A)
【文献】 特開平11−181147(JP,A)
【文献】 宮川滉,微小フィブリル化セルロースの特徴とその用途,SEN-I GAKKAISHI (繊維と工業),1992年,Vol.48, No.10,p.566-569
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材又は非木材パルプから作製した2nm〜10μmの繊維幅を有するセルロースナノファイバーが複数結合し、平均円形度が0.7以上1.0未満の形状で、偽造防止に利用される少なくとも一つの機能性材料を含有した粒子状セルロース複合体であって、
前記粒子状セルロース複合体を構成する前記セルロースナノファイバーが、繊維質の物体との水素結合により、前記粒子状セルロース複合体が含有する前記機能性材料を前記繊維質の物体上に定着する特性を有することを特徴とする粒子状セルロース複合体
【請求項2】
前記粒子状セルロース複合体は、平均粒子径が0.1μm〜30μmであることを特徴とする請求項1記載の粒子状セルロース複合体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の粒子状セルロース複合体が含有する前記機能性材料が、
前記粒子状セルロース複合体を構成するセルロースナノファイバーと用紙との水素結合により、定着した用紙。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の粒子状セルロース複合体を製造する方法であって、
あらかじめ作製したセルロースナノファイバーを含有した懸濁液と、偽造防止に利用される少なくとも一つの機能性材料を所定の量混合する機能性材料混合工程と、
前記機能性材料が混合された懸濁液を噴霧乾燥法により粒子状に加工する粉体化工程を備えた粒子状セルロース複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機能性材料を接着剤を用いずに強固に付与することが可能な、セルロースを少なくとも一つ以上の機能性材料と混合して粒子状に加工した複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物や、視覚的に印象を与える装飾品、一般家庭で使用されている家電製品や事務用品、更には消臭、抗菌、芳香の作用を備えた紙おむつ、フィルター、ペットの排出シート等の各種衛生用品、食品添加剤、日常品等、様々な分野において、各種機能性材料が使用されている。
【0003】
これらの機能性材料については、当該材料の使用目的に合った条件下のみで効果を発する材料のことであり、磁性材料、赤外吸収材料、着色顔料、染料、蛍光発光材料、また各種悪臭成分を分解する機能を有する消臭剤等、公知の材料だけでも相当数が知られている。
【0004】
このような機能性材料を印刷物及び製品に付与するためには、接着剤(定着剤、バインダー、接着樹脂等)(以下「接着剤」という。)を用いて付与することが必要である。特に、付与される対象物が天然繊維、合成繊維又は化学繊維等の各種繊維質から成るものが多い。
【0005】
繊維を用いた代表的な物品としては紙がある。この紙に対して加工や機能性材料を付与することが偽造防止技術となる。この偽造防止技術の一つとして、用紙の粗密や薄厚によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆるすき入れ技術が存在する。このすき入れ技術は、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で真偽判別が可能な技術であり、また、知名度も抜群に高いことから、古くから存在する古典的な技術であるにもかかわらず、今なお世界中の銀行券で用いられている。
【0006】
すき入れ技術は、用紙製造工程において付与することから、実際には抄紙機のような非常に大掛かりな製造装置が必要となり、偽造を防止するための技術としては、有用な技術として活用されている。このように、すき入れ技術に限らず、用紙に施される偽造防止技術は、やはり製造に多大な投資を要することとなるため、同様に有用性が高いとして、数多くの偽造防止技術が開発されてきている。
【0007】
用紙自体に形成した偽造防止技術としては、様々な機能性材料、例えば、磁性粉体、蛍光材料、赤外吸収材料等を抄紙機上で付与する技術が開示されている。例えば、本出願人は、可視光域では用紙の分光反射率とほぼ同値であるが、紫外域又は近赤外域のある特定波長域では用紙の分光反射率と異なる分光反射率を有する物質をノズル方式により、また、機械読み取りに適した材料(例として、紫外線吸収材料、赤外線吸収材料、蛍光発光材料等)をスプレー方式により抄紙機上で噴霧する技術を開発している。
【0008】
ただし、これらの機能性を付与する技術は、機能性材料さえ入手できてしまえば、大量生産を求めなければ、数枚の用紙を簡易な装置を用いて製造することができてしまうという問題があった。そこで機能性材料を別に付与するのではなく、繊維自体に付与・加工する偽造防止技術が有効であった。
【0009】
その繊維に付与された偽造防止技術の一つとして、本出願人は、芒硝によりセルロース系繊維に褐色系又は紫色系等の中間色の染料を定着し、ポリアミン縮合体を成分としたフィックス剤による処理を行い、抄紙機で形成した着色繊維シートを抄紙段階で通常紙料に混入して抄造する複写防止用着色繊維混抄紙を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、本出願人は、近年注目視されているナノファイバーを用い、繊維の微細性を利用した技術があり、懸濁液化したナノファイバーをインキとして湿紙及び乾紙を問わず用紙に印刷(付与)することで、ナノファイバーの光透過性が高いことを利用した印刷による透かし技術について開示している(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
特許文献1及び2に記載の技術も、多大なる投資をしなければ製造ができない用紙製造技術を利用した偽造防止技術であり、いずれも用紙を構成している繊維を加工した技術である。この繊維を加工する技術として、水系分散性に優れ、様々な用途に使用可能となるため、木材パルプを粉砕処理した微小セルロース粒子に適量のカチオン性樹脂を混合した懸濁液をスプレードライヤーにより噴霧乾燥して造粒したセルロース微粒子集合体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
このスプレードライヤー方式による噴霧乾燥は、様々な技術分野で活用されており、材料を粒子化するための方法として公知の技術である。前述した特許文献3記載の技術以外においても、例えば、磁性カラートナー、磁性カラーインク等の有色磁性材料の原料として使用される磁性粉体に対して、明るい白色又は所望の色を備えさせるため、磁性粉体、無機顔料、有機溶媒及び表面処理剤を混合してスラリー化し、そのスラリーをスプレードライヤー方式により噴霧乾燥することで、磁性粉体の周囲に無機顔料が付着した着色磁性粉体が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
また、他の機能性材料として消臭剤を使用した物品がある。例えば、液透過性表面シートと、液不透過性シートと、これらの間に介在された吸収体と、液不透過性シートに対して吸収体と反対の側に配置された消臭シートとを備えた使い捨ておむつであって、消臭シートは、前身頃及び後身頃のうち少なくとも後処理テープを有する身頃に配置され、かつ、それが配置される身頃よりも小さい面積を有し、少なくとも一部が吸収体と重なるように配置されていることを特徴とする使い捨ておむつがある(例えば、特許文献5参照)。
【0014】
この使い捨ておむつにおける消臭シートは、臭気を物理吸着可能な立体構造、層状構造あるいは多孔質構造を有するものが好適であり、活性炭、酸化亜鉛等の消臭剤粒子を接着樹脂によりシート基材に接着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平08−144195号公報
【特許文献2】特許第5652797号公報
【特許文献3】特開2013−173861号公報
【特許文献4】特許第5604694号公報
【特許文献5】特開2010−125127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1記載の技術は、用紙自体に施された技術であることから多大なる投資をしなければ製造が困難な技術であるとともに、染料を繊維と一体化させるために定着剤を要していた。また、肉眼での真偽判別要素であり、機械による読み取り技術ではなく、更には、開発されてから既に20年余りの年月が経過していることから、繊維を利用した新たな偽造防止技術の開発が求められていた。
【0017】
また、繊維を微小化することで、様々な分野において有効活用される技術として、ナノファイバーが近年注目されており、その中でも特許文献2記載の技術は、ナノファイバーを用いた偽造防止技術としての先駆けである。ただし、特許文献2の技術は、繊維を印刷方式により付与するという画期的な技術ではあるものの、繊維をナノファイバー化できてしまえば、比較的容易に実施可能となり、偽造防止効果の更なる向上を望まれている。
【0018】
そこで、繊維を微細加工する他の技術として、本出願人が着目した技術がスプレードライヤーによる噴霧乾燥である。この技術の噴霧乾燥を利用することで、前述した特許文献2の技術のように、粒子化された微小繊維を、製紙工程での付与に限らず、印刷工程においても付与可能となる。
【0019】
この噴霧乾燥の技術は、前述したように、様々な分野で既に活用されているが、特許文献3に記載の技術では、同じ製紙製造分野において、水系分散性を向上させることを目的とした技術であり、偽造防止技術として活用することができなかった。
【0020】
また、特許文献4に記載の技術は、磁性という、ある種の機能性材料ではあるが、トナーやインクの色彩の向上を目的とした技術であり、やはり偽造防止技術としての機能性を求めたものではなかった。
【0021】
なお、特許文献5に記載の技術では、前述したように、機能性材料として消臭剤粒子を使用しているが、シート基材に接着させるためには、接着樹脂により接着させなければならない。この接着樹脂には、ウレタン系樹脂が好適とのことであるが、ウレタン系樹脂を製造するには、有機ジイソシアネート化合物と高分子ジオール化合物とを反応させてウレタンプレポリマーを合成し、更に鎖伸長剤、反応停止剤を反応させる必要がある。このように、消臭剤粒子を接着させるためには、接着樹脂を要するとともに、その接着樹脂を製造するには、別の工程及び材料を要するという問題があった。
【0022】
仮に、紙おむつやペット等の排出シートに対して消臭剤を付与する場合に、接着剤を使用せずに、噴霧、滴下又は転写により行うこともあるが、いずれも付着はしていても、強固な定着はできていないため、実際に使用される時までに取れてしまっている機能性材料も発生し、所望の機能を発揮しないこともあった。
【0023】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、単純に機能性材料を各種繊維から成る用紙等の物品に付与するものではなく、紙の原材料である繊維に機能性材料を少なくとも一つ以上混合させることで、接着剤を用いずとも様々な繊維質の物品と親和性の高い粒子状のセルロース複合体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、木材又は非木材パルプから作製した2nm〜10μmの繊維幅を有するセルロースナノファイバーが複数結合し、平均円形度が0.7以上1.0未満の形状で、少なくとも一つの機能性材料を含有した粒子状セルロース複合体である。
【0025】
また、本発明の粒子状セルロース複合体は、平均粒子径が0.1μm〜30μmであることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、本発明の粒子状セルロース複合体を含有する用紙であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、あらかじめ作製したセルロースナノファイバーを含有した懸濁液と、少なくとも一つの機能性材料を所定の量混合する機能性材料混合工程と、機能性材料が混合された懸濁液を噴霧乾燥法により粒子状に加工する粉体化工程を備えた粒子状セルロース複合体の製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の粒子状セルロース複合体の製造方法は、接着剤を必要とせずに、様々な機能性材料とセルロースナノファイバーを一体化させることができる。
【0029】
本発明の粒子状セルロース複合体は、水酸基を多く持つセルロースが主体材料のため親水性が高いことから、水への分散性が良く、天然繊維や化学繊維から構成される様々な物品との親和性が高い。
【0030】
また、本発明の粒子状セルロース複合体は、複数のセルロースナノファイバーが水素結合した集合体であることから、水等に浸漬しても再解繊しない。
【0031】
また、本発明の粒子状セルロース複合体は、球形状であることから、粉体としての流動性が良く、用紙へ付与した場合に、繊維との識別が容易である。
【0032】
また、本発明の粒子状セルロース複合体は、天然繊維から作製したセルロースナノファイバーを使用することから、環境配慮型のものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】粒子状セルロース複合体の図
図2】粒子状セルロース複合体の電子顕微鏡写真
図3】粒子状セルロース複合体の製造方法による繊維形態の図
図4】粒子状セルロース複合体の製造工程のフロー図
図5】粒子状セルロース複合体の電子顕微鏡写真
図6】粒子状セルロース複合体の粒度分布図
図7】粒子状セルロース複合体の面積円形度分布図
図8】粒子状セルロース複合体の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0035】
図1は、本発明の第1の実施の形態における粒子状セルロース複合体(以下「複合体」という。)(1)の一例を示す模式図である。複合体(1)は、1本以上のセルロースナノファイバー(2)と1個以上の機能性材料(3)で構成され、形状は球形である。
【0036】
複合体(1)におけるセルロースナノファイバー(2)は、お互いに水素結合により一体化したものである。また、機能性材料(3)は、セルロースナノファイバー(2)により抱き込まれており、一体化している。
【0037】
この複合体(1)は、粒子径(体積基準)がおおむね0.1μm〜30μmであり、面積円形度は、0.7〜1.0である。アスペクト比は0.3〜1.0の分布である。ただし粒子径については、使用する機能性材料の大きさに委ねられるところであり、セルロースナノファイバーの繊維幅が、後述するように2nm〜10μmであることから、大きな機能性材料では、一体化することができなくなってしまう。また、下限については、本明細書中では、顔料を用いていることから0.1μm程度となっているが、機能性材料の種別により、もっと小さな粒子径となることも可能であり、0.1μmに限らず、機能性材料を含有可能であれば、特に下限についての制限はない。
【0038】
ここで、面積円形度とは、投影された物体と同じ面積を持つ円の円周と物体の周囲長の2乗との比率のことで、真円は1であり、円から遠ざかると値が小さくなる。アスペクト比とは、粒子の長軸径に対する短軸径の比のことで、アスペクト比=短軸径/長軸径の算出式である。アスペクト比の値は0〜1であり、真円が1となり、細長いほど値が低くなる。
【0039】
複合体(1)は、乾燥した粉体であり、室温23℃、相対湿度50%の室内で4時間以上調湿した複合体(1)の水分含有率は、約10%以下である。この水分は、複合体(1)のセルロースが吸湿したものである。
【0040】
図2(a)は、複合体(1)を走査型電子顕微鏡で観察した全体写真図である。図2(b)は、図2(a)の一個の複合体(1)を走査型電子顕微鏡で観察した拡大写真図である。図2(a)を観察すると、一部には球形になっていない繊維形状のままの繊維が観察できるが、ほとんどが球形(粒子状)の塊となっていることを確認できる。前述したように、本発明における複合体(1)は、球形(粒子状)の塊の方のことである。図2(b)は、粒子状セルロース複合体(1)の拡大写真図であり、細かい繊維が糸毬状態で一体化している様子が観察できる。
【0041】
次に、この複合体(1)がどのように作製されているのかについて、図3を用いて説明する。
【0042】
図3は、複合体(1)の製造方法による繊維形態を示した模式図である。図3(a)は、植物由来の天然繊維(4)1本を示している。図3(a)の天然繊維を、図3(b)に示すセルロースナノファイバー(2)に解繊し、図3(c)に示すように、セルロースナノファイバー(2)、水及び1種類以上の機能性材料(3)を混合した複合材料懸濁液(5)を作製後、公知のスプレードライ装置による噴霧乾燥法を用いて加工することにより、加工前は、セルロースナノファイバー(2)自体が個々に存在していたのに対して、加工後では、図3(d)に示すように、数本のセルロースナノファイバー(5)が糸毬状の塊になり、機能性材料(3)を巻き込んだ粒子状セルロース複合体(1)となる。なお、天然繊維(4)をセルロースナノファイバー(2)に解繊する方法は後述する。
【0043】
複合体(1)におけるセルロースナノファイバー(2)は、主としてセルロースから成る繊維であり、天然繊維(4)を繊維幅が2nm〜10μm、好ましくは、2nm〜1μmに解繊したものである。天然繊維(4)は、各種木材を原料とするLBKP、NBKP、SP、LUKP、NUKP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等、更に稲わら、麦わら、アバカ、木綿、ケナフ、みつまた、竹、バガス、麻等の非木材繊維を蒸解処理、必要に応じて漂白処理、精選処理等により作製した非木材パルプのことであり、これらの繊維を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。天然繊維(4)の繊維長、繊維幅等の繊維形態は特に限定するものではない。
【0044】
セルロースナノファイバー(2)の繊維長は、特に限定するものではないが、繊維長は短いほうがよい。繊維長が長い場合は噴霧乾燥による加工を行っても糸毬状態の塊にならずに、そのままの繊維状の形態を維持し、機能性材料(3)を巻き込むことができない。このことから、セルロースナノファイバー(2)の繊維長は、500μm未満が好ましい。
【0045】
ここで解繊とは、セルロースを主成分とする天然繊維(4)をミクロ又はナノフィブリル数本単位まで解きほぐすことである。通常、植物由来の天然繊維(4)は、セルロース分子30〜50本から成り、繊維幅が約2nm〜5nmのセルロースナノフィブリルの集合体である。セルロースミクロフィブリルは無数の水素結合により強固に結合されているが、物理的又は化学的な処理を施すことで、繊維形状のままセルロースミクロ又はナノフィブリル数本単位に解きほぐすことが可能である。
【0046】
天然繊維(4)からセルロースナノファイバー(2)に解繊する方法として、物理的方法では、グラインダーやリファイナー、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー(対向噴流衝突法)等による機械的力で解繊する方法や、乾式ボールミルによる機械的粉砕に有機溶媒を添加することで微粒化処理する方法等がある。また、化学的方法では、硫酸処理によりセルロース繊維の非結晶部分を除く方法や酸化処理により結晶性セルロースナノフィブリル表面のみにカルボキシル基を導入して分子鎖反発により高分散させる方法等がある。これらの方法は、全て公知であり、本発明においてセルロースナノファイバー(2)の作製は、これらの公知の手法で行うことができる。
【0047】
複合体(1)における機能性材料(3)とは、セルロース以外の材料であり、無機材料、有機材料のことである。セルロース以外の材料と一体化させることで、セルロースが有さない機能や効果を有することができる。機能性材料(3)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上の機能性材料(3)を混合して用いてもよい。
【0048】
偽造防止に係る機能性材料(3)として、例えば、製紙用てん料、着色顔料、白色顔料、無機顔料、有機顔料、体質顔料、パール顔料、蛍光顔料、無色蛍光顔料、蓄光材料、磁性材料、赤外透過材料、赤外吸収材料、導電性材料、樹脂ビーズ顔料、着色染料、蛍光染料、紫外線遮蔽材料がある。したがって、本発明における機能性材料は、使用用途に合わせて所定の機能を発揮する偽造防止に係る材料であれば特に限定されない。
【0049】
機能性材料(3)の大きさは、複合体(1)の粒子径よりも小さいことが好ましい。例えば、複合体(1)の粒子径(体積基準)が0.1μm〜30μmの分布であることから、30μm未満の大きさが好ましい。また、機能性材料(3)の形状は特に限定するものではなく、粒子形状、棒状、針状、紡錘形状、薄板形状等のどのような形状でもよい。
【0050】
本発明における複合体(1)は、図3(c)の状態で公知技術であるスプレードライ装置による噴霧乾燥法で形成するものである。
【0051】
一般的に、スプレードライ装置による噴霧乾燥法とは、溶液、スラリー等の液体原料を瞬時に乾燥し、粒子にすることができる乾燥方法のことである。液体原料を乾燥室内で微粒化装置により噴霧し、微粒化して表面積を増やし、連続して熱風と接触させることによって短時間で乾燥する方法である。液体原料の溶媒の表面張力の影響で球形の粒子を形成させることができる。球形の乾燥した粒子が得られることから、流動性の良い粒子となる。噴霧する方式には、主にロータリーアトマイザー方式とノズル方式があるが、本発明の複合体(1)を作製するためには、30μm以下の粒子径の造粒に適しているノズル方式がより望ましい。
【0052】
(作製方法)
次に、本発明の複合体(1)の製造方法について、図4の製造工程のフロー図に基づき説明する。
【0053】
まず、Step1として、天然繊維(4)をセルロースナノファイバー(2)化するために、所定の量の天然繊維(4)と所定の量の水を混合した繊維懸濁液を作製する。この工程における天然繊維(4)と水との割合については、天然繊維(4)の固形分濃度として、0.1%〜4%程度である。
【0054】
次にStep2として、Step1で作製した繊維懸濁液を用いて、セルロースナノファイバー(2)を作製する。具体的な作製方法は前述したとおり、物理的方法又は化学的方法により解繊すれば良い。
【0055】
次にStep3として、Step2で作製したセルロースナノファイバー(2)と水、更には使用する所定の機能性材料(3)を混合した複合材料懸濁液(5)を作製する。ここでのそれぞれの配合割合については、セルロースナノファイバー(2)の固形分濃度は、0.1%〜4%程度が好ましく、機能性材料(3)は、セルロースナノファイバー(2)の固形分重量に対して、0.01%〜50%の範囲である。
【0056】
最後に、Step4として、Step3で作製した複合材料懸濁液(5)を公知の噴霧乾燥法により粒子状にする。
【0057】
作製できた複合体(1)は、ほとんどが繊維により形成されていることから、天然繊維を用いた用紙や、化学繊維を用いた製品等への親和性が強固であり、接着剤を特に用いなくても機能性材料を付与することが可能となる。
【0058】
前述したように、本発明における機能性材料としては、偽造防止に係る使用用途に合わせて所定の機能を発揮する材料は全て含まれる。このような作製方法を用いることで作製した複合体は、各種繊維との水素結合による強固な定着を利用し、紙、不織布等において有効であり、機能性材料を強固に定着させることができる。

【0059】
以下、本発明における複合体(1)について、実施例を用いて詳細に説明するが、以下の実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的な範疇であれば、適宜、変更が可能なことは言うまでもない。
【実施例】
【0060】
天然繊維(4)には、木材繊維であるLBKPを使用し、天然繊維(4)と水とを混合した固形分濃度2%の繊維懸濁液をグラインダー装置を使用して、繊維幅が約2nm〜1μmのセルロースナノファイバー(2)を作製した。グラインダー装置には、スーパーマスコロイダー、増幸産業(株)製を使用し、本装置で6回パス処理した。グラインダー装置で使用した砥石は、軟質原料用標準砥石(型式:MKE、46メッシュ)を使用した。作製したセルロースナノファイバー(2)は水懸濁液の状態であり、固形分濃度は2%である。セルロースナノファイバー(2)の平均繊維長は約200μm、繊維幅は18nm〜0.3μmの分布であった。
【0061】
作製したセルロースナノファイバー(2)の水懸濁液(固形分濃度2%)に、機能性材料(3)として、酸化鉄系顔料である褐色顔料と無色蛍光顔料の2種類を添加し、複合材料懸濁液(5)を作製した。添加率は、セルロースナノファイバー(2)の固形分重量に対して、褐色顔料は0.5%添加し、無色蛍光顔料は5%添加した。添加後に約10分撹拌し、むらが無くなったことを確認して撹拌を終了した。褐色顔料の平均粒子径は、0.5μmであり、無色蛍光顔料の平均粒子径は1.5μmである。
【0062】
次に、2種類の機能性材料(3)を添加したセルロースナノファイバー(2)の複合材料懸濁液(5)をスプレードライ装置により噴霧乾燥を行った。スプレードライ装置には、株式会社プリス製の型番TR160であるターニング式スプレードライヤーを使用した。噴霧方式は、二流体ノズル方式とし、90型ノズルを2本使用した。噴霧乾燥の条件である原料供給量は約2.8kg/h、乾燥空気の入口温度は150℃、出口温度は75℃、噴霧空気圧は0.5MPaとした。
【0063】
図5に、噴霧乾燥により得られた粒子状セルロース複合体(1)の電子顕微鏡写真図を示す。図5(a)は、複合体(1)の1個の写真であり、図5(b)は、図5(a)の一部分を拡大した写真である。図5(b)に示すように、複合体(1)の一部分に機能性材料(3)である蛍光顔料が付着し、セルロースナノファイバー(2)と一体化している様子が観察される。
【0064】
図6に、噴霧乾燥により得られた複合体(1)の体積基準の粒度分布図を示す。約3μm〜約30μmの粒子径分布であり、粒子径(体積基準)D50は13.0μmであった。D50とはメディアン径とも呼び、粒子径を2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径、又は値のことを言う。
【0065】
図7に、噴霧乾燥により得られた複合体(1)の面積円形度分布図を示す。面積円形度は、約0.6〜0.99の分布であった。面積円形度D50は、0.88であった。
【0066】
また、噴霧乾燥により得られた複合体(1)のアスペクト比は0.3〜1.0の分布であり、アスペクト比D50は0.76であった。
【0067】
次に、噴霧乾燥により得られた複合体(1)を目視で観察を行ったところ、褐色顔料の色で着色されていることを確認できた。また、紫外光ランプを照射したところ、緑色に蛍光発光することが確認できた。
【0068】
最後に、複合体(1)の堅ろう性を評価するために、6か月間にわたって水に浸漬した。図8は、浸漬した複合体(1)を取り出し、自然乾燥した電子顕微鏡写真である。6か月間にわたって水に浸漬をしても、球形を維持しており、元のセルロースナノファイバー(2)に戻ることはなかった。したがって、一度、複合体(1)を作製すると、繊維の塊ではあるものの、水に浸漬しても、各セルロースナノファイバー(2)に分離することがなく、強固に結合するため、様々な工程において使用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 粒子状セルロース複合体
2 セルロースナノファイバー
3 機能性材料
4 天然繊維
5 複合材料懸濁液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8