特許第6675712号(P6675712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6675712放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675712
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/04 20060101AFI20200323BHJP
   G01T 1/02 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   G01T1/04
   G01T1/02
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-564915(P2016-564915)
(86)(22)【出願日】2015年12月18日
(86)【国際出願番号】JP2015085521
(87)【国際公開番号】WO2016098888
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-257836(P2014-257836)
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】前山 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】福西 暢尚
(72)【発明者】
【氏名】石川 顕一
(72)【発明者】
【氏名】石田 康博
(72)【発明者】
【氏名】相田 卓三
(72)【発明者】
【氏名】深作 和明
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】門馬 壮一
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−209093(JP,A)
【文献】 特開2014−185969(JP,A)
【文献】 特許第5590526(JP,B2)
【文献】 特開2011−133598(JP,A)
【文献】 特表2011−503602(JP,A)
【文献】 特開2002−214354(JP,A)
【文献】 特開2015−017934(JP,A)
【文献】 特開2015−098523(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046136(WO,A1)
【文献】 林慎一郎,ポリマーゲル線量計を用いた3次元吸収線量の評価へ向けて,Jpn. J. Med. Phys.,2013年 9月30日,Vol. 32 No. 3,125-129,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjmp/32/3/_contents/-char/ja/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/04
G01T 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)、さらに放射線照射により重合可能なモノマーを含むことを特徴とする、放射線線量測定ゲル。
【請求項2】
有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)、さらに鉄(II)イオン若しくは鉄(III)イオン又はその両方を含むことを特徴とする、放射線線量測定ゲル。
【請求項3】
有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)、さらに放射線感受性色素を含むことを特徴とする、放射線線量測定ゲル。
【請求項4】
前記水溶性有機高分子(A)が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、請求項1乃至請求項3いずれか1項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項5】
前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項6】
前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン
酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項7】
二価以上の正電荷を有する化合物(D)を更に含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項8】
前記化合物(D)が第2族元素を含む化合物、遷移元素を含む化合物、両性元素を含む化合物、及びポリアミン類を含む化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物である、請求項7に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項9】
脱酸素剤を含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項10】
pH調整剤を含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計に関する。より詳しくは、本発明は、3次元線量分布の測定に用いられる放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの放射線治療として、ピンポイントで放射線治療を行う定位放射線治療(SRT:Stereotactic Radiation Therapy)や、同一照射野内の線量強度を変えて3次元的にがんの輪郭に沿って照射野を設定することが可能な強度変調粒子線治療(IMPT:Intensity Modulated Particle Therapy)といった高精度な治療も導入されつつあり、これらの治療法では標的の3次元的な各位置に対する微視的エネルギー付与量の積算値(すなわち線量分布)が精密に調整される。また、陽子線や重粒子線(炭素線、ネオン線等)といった線量集中性の高い荷電粒子線を利用する粒子線治療が実施されている。粒子線治療は、従来のX線治療に比べ放射線照射の照射位置および線量をより高精度に制御して腫瘍を治療することができる利点を有している。粒子線治療において求められるのは、生体組織中の病巣などの標的位置にて粒子線からのエネルギーを適正に放出させること、および、標的周囲の正常組織に対しては可能な限り影響を与えないこと、の両立である。これらを目的に、粒子線ビームの径方向の広がりや粒子線ビームのブラッグピークの位置が被照射体中の標的位置に対し位置合わせされる。
【0003】
実際の放射線治療計画では、生体組織中における3次元での各位置における線量の分布が最適化される。典型的な治療計画では、標的組織における線量分布(各位置への放射線による線量)を治療目的に合わせて変形させると同時に、周辺の正常組織への放射線の影響も抑えられ、リスク臓器(organ at risk)に対する影響も可能な限り小さくされる。このように複雑な形状の線量分布を作成するために、ビームが精密に制御され、多方向から照射されることもある。この制御には、被照射体に合わせて調整されるフィルター・コリメータ類(レンジシフター、マルチリーフコリメーター、ボーラス等)が装備される。そして、高度に制御された放射線治療を実現するためには、放射線照射装置や付属機器およびフィルター・コリメータ類等を含めた装置全体、ならびにそれら装置による照射処理において、高度な品質保証・品質管理(quality assurance and quality control,以下「QA/QC」と略記する)が必要となる。
【0004】
このような治療計画および各種装置のQA/QCのためには、様々な方向から様々な加速エネルギーで入射する多数の電離放射線によるエネルギー付与量を適切に積算して実測できる技術が必要である。エネルギー付与量を積算して線量を各位置において精密に測定することができれば、上記QA/QCの裏付けとなる3次元でのエネルギー付与量の分布(線量分布)を測定する事が可能となるためである。この目的では従来、電離箱線量計、半導体検出器、フィルムといった1次元または2次元での線量計が用いられている。これらの線量計では、粒子線を標的位置に位置合わせする領域のうち、1次元または2次元の座標に対する上記線量分布が実測される。近年はこれらの線量計に加え、化学線量計の測定原理を利用したゲルにより3次元の線量分布を測定することが可能なゲル線量計が注目されている。ゲル線量計を利用すれば、さらに、生体と等価とみなしうる材質である水の各位置において放射線により付与されるエネルギー量を正確に測定すること、つまり、生体等価物質や水等価物質における放射線の影響が測定できる、という利点もある。ゲル線量計では、それ自体を固体ファントムとして利用しつつ、3次元での線量分布を取得できるのである。
【0005】
3次元線量分布の測定が可能なゲル線量計としては、例えば、フリッケゲル線量計(特許文献1)やポリマーゲル線量計(特許文献2乃至特許文献4)などが報告されている。フリッケゲル線量計は、液体化学線量計として知られるフリッケ線量計の溶液(硫酸第一鉄を含む水溶液)を含むゲルであり、放射線照射に伴う2価から3価への鉄の酸化反応(着色)が、吸収線量に比例して増加することを利用している。一方、ポリマーゲル線量計は、モノマーをゲル中に分散させたものであり、放射線照射すると線量に比例してポリマーが生成することから、その生成量(白濁度)を求めることで線量を見積もることができる。生成したポリマーはゲル中を拡散しにくく、白濁が経時的に安定しており、且つ白濁部分が透明なゲルの中に浮かんでいるように見えるため視覚的にも優れているのが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−209093号公報
【特許文献2】特許第550526号公報
【特許文献3】特開2002−214354号公報
【特許文献4】特開2014−185969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のゲル線量計では、ゲル化のためにゼラチンやジュランガムなどの天然高分子(特許文献2及び特許文献3)、ヒドロキシプロピルセルロースやメチルセルロースなどの多糖類誘導体及びポリビニルアルコールなどの合成高分子(特許文献4)といったゲル化剤が用いられており、その中でも、ゼラチンが広く用いられている。
【0008】
ゼラチンを用いてゲル線量計を作製する場合、ゼラチンを加熱撹拌し、そして冷却する必要がある。しかし、凝固したゼラチンは25℃乃至30℃で溶解してしまい、これにより、例えば、ゲル中の白濁部分の破壊や変動が生じてしまう。また、温度変化を伴うゲル線量計の作製は再現性を高める事が難しく、高精度の線量計を作製するには高い技術を要するという問題もある。
【0009】
上述したゼラチンを用いたゲル線量計の問題に対し、特許文献1では、粘土微粒子を用いるゲル線量計が提案されている。このゲル線量計では、粘土微粒子のチクソトロピー性による固形化作用を利用して記録物質の拡散が抑制されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは加熱を必要とすることなく、室温で混合するだけで製造することができ、かつ耐熱性を有するゲルについて鋭意検討を重ねた結果、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)を含むゲルが、優れた耐熱性を有する放射線線量測定ゲルになることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、第1観点として、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)を含むことを特徴とする、放射線線量測定ゲルに関する。
第2観点として、前記水溶性有機高分子(A)が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、第1観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第3観点として、前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第1観点又は第2観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第4観点として、前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第1観点乃至第3観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第5観点として、二価以上の正電荷を有する化合物(D)を更に含む、第1観点乃至第4観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第6観点として、前記化合物(D)が第2族元素を含む化合物、遷移元素を含む化合物、両性元素を含む化合物、及びポリアミン類を含む化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物である、第5観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第7観点として、放射線照射により重合可能なモノマーを含む、第1観点乃至第6観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第8観点として、鉄(II)イオン若しくは鉄(III)イオン又はその両方を含む、第1観点乃至第6観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第9観点として、放射線感受性色素を含む、第1観点乃至第6観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第10観点として、脱酸素剤を含む、第1観点乃至第9観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第11観点として、pH調整剤を含む、第1観点乃至第10観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第12観点として、第1観点乃至第11観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の放射線線量測定ゲルは、従来のゲル線量計で広く使用されているゼラチンなどと比べて、優れた耐熱性を有する。
【0013】
また、本発明の放射線線量測定ゲルは、工業的に入手容易な原料を用いて、加熱を必要とすることなく、室温で混合するだけで製造することができるため、一定品質のゲルを容易に製造することができ、またインジェクタブルなゲルとして、放射線線量計における放射線線量の計測材料に使用することができる。
【0014】
さらに、本発明の放射線線量測定ゲルは充分な強度を有する。例えば、典型的には容器等の支持体がなくてもゲルの形状を保持できる程度のかたさ(「弾性率」)や強度(「破断応力」)を有する、いわば自己支持性を有する。したがって、本発明の放射線線量測定ゲルはガラスやプラスチック容器だけでなく、酸素透過性の低いプラスチックラップを用いたフレキシブルなゲル線量計の作製に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2における放射線線量計の照射試験の結果を示す図である。
図2】実施例3における放射線線量計の耐熱性試験(実施例1のサンプルの20℃における耐熱性)の結果を示す写真である。
図3】実施例3における放射線線量計の耐熱性試験(実施例1のサンプルの30℃における耐熱性)の結果を示す写真である。
図4】実施例3における放射線線量計の耐熱性試験(実施例1のサンプルの60℃における耐熱性)の結果を示す写真である。
図5】実施例3における放射線線量計の耐熱性試験(比較例1のサンプルの20℃における耐熱性)の結果を示す写真である。
図6】実施例3における放射線線量計の耐熱性試験(比較例1のサンプルの30℃における耐熱性)の結果を示す写真である。
図7】実施例3における放射線線量計の耐熱性試験(比較例1のサンプルの60℃における耐熱性)の結果を示す写真である。
図8】実施例6における放射線線量計の照射試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<放射線線量測定ゲル>
本発明の放射線線量測定ゲルの成分として、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、前記ケイ酸塩の分散剤(C)、並びに必要に応じて二価以上の正電荷を有する化合物(D)が挙げられるが、上記成分の他に、本発明の所期の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の成分を任意に配合してもよい。
【0017】
[成分(A):有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子]
有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)としては、例えば、カルボキシル基、スルホニル基、ホスホニル基などの有機酸基の塩構造又はアニオン構造を有する水溶性有機高分子が挙げられる。
【0018】
そのような水溶性有機高分子としては、例えば、カルボキシル基を有するものとして、ポリ(メタ)アクリル酸の塩、カルボキシビニルポリマーの塩、カルボキシメチルセルロースの塩;スルホニル基を有するものとして、ポリスチレンスルホン酸の塩;ホスホニル基を有するものとして、ポリビニルホスホン酸塩等が挙げられる。その中でも、ポリアクリル酸の塩が好ましい。なお、本発明では、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方をいう。
【0019】
また、有機酸基の塩構造を有するものとしては、例えば、上記有機酸基のナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、及びリチウム塩などが挙げられる。
一方、アニオン構造を有するものとしては、例えば、有機酸基又は有機酸の塩からカチオンが解離した構造を有するものが挙げられる。
【0020】
また、上記水溶性有機高分子(A)は分岐および化学架橋構造を持たない直鎖型構造が好ましく、有機酸基を有する高分子の完全中和物又は部分中和物のいずれも使用できる。本発明では、水溶性有機高分子(A)は、有機酸基を有する高分子の完全中和物若しくは部分中和物又はそれらの混合物であってもよい。
【0021】
上記水溶性有機高分子(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算で、好ましくは100万以上1000万以下であり、より好ましくは250万以上500万以下である。
【0022】
本発明における水溶性有機高分子(A)としては、完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩が好ましく、完全中和又は部分中和の直鎖型ポリアクリル酸塩がより好ましく、重量平均分子量250万以上500万以下の完全中和又は部分中和の直鎖型ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましい。
【0023】
上記水溶性有機高分子(A)の含有量は、放射線線量測定ゲル100質量%中に0.001質量%乃至20質量%、好ましくは0.01質量%乃至10質量%である。
【0024】
[成分(B):ケイ酸塩]
ケイ酸塩(B)としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母等の水膨潤性ケイ酸塩粒子が挙げられ、水又は含水液体を分散媒としたコロイドを形成するものが好ましい。なお、スメクタイトとは、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、及びスチブンサイト等の膨潤性を有する粘土鉱物の総称である。
【0025】
ケイ酸塩粒子の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状、無定形等が挙げられ、例えば直径5nm乃至1000nmの円盤状又は板状のものが好ましい。
【0026】
ケイ酸塩の好ましい具体的としては、層状ケイ酸塩が挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、ロックウッド・アディティブズ社製のラポナイトXLG(合成ヘクトライト)、XLS(合成ヘクトライト、分散剤としてピロリン酸ナトリウム含有)、XL21(ナトリウム・マグネシウム・フルオロシリケート)、RD(合成ヘクトライト)、RDS(合成ヘクトライト、分散剤として無機ポリリン酸塩含有)、及びS482(合成ヘクトライト、分散剤含有);コープケミカル株式会社製のルーセンタイトSWN(合成スメクタイト)及びSWF(合成スメクタイト)、ミクロマイカ(合成雲母)、及びソマシフ(合成雲母);クニミネ工業株式会社製のクニピア(モンモリロナイト)、スメクトンSA(合成サポナイト);株式会社ホージュン製のベンゲル(天然ベントナイト精製品)等が挙げられる。
【0027】
上記ケイ酸塩(B)の含有量は、放射線線量測定ゲル100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.1質量%乃至10質量%である。
【0028】
[成分(C):ケイ酸塩の分散剤]
ケイ酸塩の分散剤(C)として、ケイ酸塩の分散性の向上や、層状ケイ酸塩を層剥離させる目的で使用される分散剤又は解膠剤を使用することができる。例えば、リン酸塩系分散剤、カルボン酸塩系分散剤、アルカリとして作用するもの、有機解膠剤を使用することができる。
【0029】
例えば、リン酸塩系分散剤として、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム;カルボン酸塩系分散剤として、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体;アルカリとして作用するものとして、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン;多価カチオンと反応し不溶性塩又は錯塩を形成するものとして、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム;有機解膠剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、リグニン、スルホン酸ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、リン酸塩系分散剤としてピロリン酸ナトリウム、カルボン酸塩系分散剤として重量平均分子量1000以上2万以下の低重合ポリアクリル酸ナトリウム、有機解膠剤としてポリエチレングリコール(PEG900等)である。
【0030】
低重合ポリアクリル酸ナトリウムはケイ酸塩粒子と相互作用して粒子表面にカルボキシアニオン由来の負電荷を生じさせ、電荷の反発によりケイ酸塩を分散させる等の機構により分散剤として作用することが知られている。
【0031】
上記分散剤(C)の含有量は、放射線線量測定ゲル100質量%中に0.001質量%乃至20質量%、好ましくは0.01質量%乃至10質量%である。
なお、本発明では、分散剤を含有するケイ酸塩を使用する場合は、分散剤をさらに添加しても、添加しなくてもよい。
【0032】
[成分(D):二価以上の正電荷を有する化合物]
二価以上の正電荷を有する化合物(D)としては、例えば、第2族元素を含む化合物、遷移元素を含む化合物、両性元素を含む化合物、及びポリアミン類を含む化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0033】
例えば、第2族元素を含む化合物として、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムの化合物;遷移元素を含む化合物として、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウムの化合物;両性元素を含む化合物として、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ、鉛の化合物;ポリアミン類を含む化合物として、エチレンジアミン、フェニレンジアミン、ヒドラジン、プトレスシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミンの化合物等が挙げられる。
【0034】
これら化合物は、二価以上の正電荷を有する酸化物や水酸化物、又は塩であり、さらにポリアミン類では、フリー体でも良い。
塩を構成する酸としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、リン酸、二リン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ケイ酸、アルミン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、及びp−トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0035】
二価以上の正電荷を有する化合物(D)としては、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムの塩酸塩、硫酸塩、二リン酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩であり、より好ましくは、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、二リン酸カルシウム及びケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0036】
本発明の放射線線量測定ゲルが成分(D)を含む場合、上記化合物(D)の含有量は、放射線線量測定ゲル100質量%中に0.001質量%乃至50質量%、好ましくは0.01質量%乃至20質量%である。
【0037】
上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)の好ましい組合せとしては、放射線線量測定ゲル100質量%中、成分(A)として重量平均分子量250万以上500万以下の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、成分(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.1質量%乃至10質量%、及び成分(C)としてピロリン酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量1000以上2万以下の低重合ポリアクリル酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%からなる組合せが挙げられる。
【0038】
また、本発明の放射線線量測定ゲルが成分(D)を含む場合、上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、前記ケイ酸塩の分散剤(C)、及び上記化合物(D)の好ましい組合せとしては、放射線線量測定ゲル100質量%中、成分(A)として重量平均分子量250万以上500万以下の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、成分(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.1質量%乃至10質量%、成分(C)としてピロリン酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量1000以上2万以下の低重合ポリアクリル酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、及び成分(D)として塩化マグネシウム又は塩化カルシウム又は硫酸マグネシウム0.01質量%乃至20質量%からなる組合せが挙げられる。
【0039】
[放射線照射により重合可能なモノマー]
本発明の放射線線量測定ゲルは放射線照射により重合可能なモノマーを含むことができ、これにより、本発明の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計はポリマーゲル線量計として機能する。
【0040】
上記放射線照射により重合可能なモノマーとしては、放射線の作用により重合可能な炭素−炭素不飽和結合を有するものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−メトキシメチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、N−ビニル−ピロリドン、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、メタクリロイル−L−アラニンメチルエステル、及びアクリロイル−L−プロリンメチルエステルなどが挙げられる。
【0041】
また、放射線照射後に生成したポリマーがゲル中を拡散・移動しないようにするために、架橋構造を有するポリマーを形成することが好ましく、1分子中に不飽和結合を2つ以上有するモノマー(以下、本明細書では、「多官能性モノマー」とも記載する)が少なくとも1種類含まれることが好ましい。このような多官能性モノマーとしては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ジアリルアクリルアミド、N,N’−ジアクリロイルイミド、トリアリルホルマール、ジアリルナフタリン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、各種ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、各種ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、各種ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物などが挙げられる。エチレングリコールの単位数は、1,2,3,4,9,14,23のものがあり、その中でも、溶解性の観点から、単位数が9以上の水溶性のものが好ましい。上述のモノマーの中には、水に溶解し難いものもあるが、ゲル中に均一に分散していて、放射線照射前のゲル全体が透明であればよい。さらに均一分散性を高めるためには、アルコールなどの有機溶剤を5%以下であれば添加してもよい。
【0042】
放射線照射により重合可能なモノマーの含有量は、放射線線量測定ゲル100質量%中に好ましくは2質量%乃至15質量%、より好ましくは3質量%乃至8質量%である。
【0043】
[鉄イオン]
本発明の放射線線量測定ゲルは鉄イオンを含むことができる。鉄イオンとしては、鉄(II)イオン又は鉄(III)イオンが挙げられる。また、本発明の放射線線量測定ゲルは、鉄(II)イオン又は鉄(III)イオンの一方だけではなく、鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンの両方を含むことができる。
【0044】
<鉄(II)イオン>
本発明の放射線線量測定ゲルが鉄(II)イオンを含む場合、本発明の放射線線量測定ゲルは、放射線照射により、鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化されることによって生じる発色を利用したゲルであってもよい。これにより、本発明の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計は、例えばフリッケゲル線量計として機能する。
【0045】
本発明の放射線線量測定ゲルは鉄(II)イオンを生じる化合物を含むことにより、鉄(II)イオンを含むことができる。そのような鉄(II)イオンを生じる化合物としては、水溶液としたときに鉄(II)イオンを生じることができる化合物であれば特に限定されず、例えば、アンモニウム鉄(II)や硫酸第一鉄(II)などが挙げられる。
【0046】
<鉄(III)イオン>
本発明の放射線線量測定ゲルが鉄(III)イオンを含む場合、本発明の放射線線量測定ゲルは、放射線照射により、鉄(III)イオンが鉄(II)イオンに還元されることによって生じる発色を利用したゲルであってもよい。これにより、本発明の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計は、例えばTBGゲル線量計(ターンブルブルー線量計)として機能する。
【0047】
本発明の放射線線量測定ゲルは鉄(III)イオンを生じる化合物を含むことにより、鉄(III)イオンを含むことができる。そのような鉄(III)イオンを生じる化合物としては、水溶液としたときに鉄(III)イオンを生じることができる化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム及び塩化(III)・六水和物などが挙げられる。
【0048】
上記鉄(II)イオンの含有量は、放射線線量測定ゲル中に好ましくは0.05mM乃至5mM、より好ましくは0.1mM乃至2mMである。
【0049】
上記鉄(III)イオンの含有量は、放射線線量測定ゲル中に好ましくは0.1mM乃至5mM、より好ましくは0.45mM乃至2mMである。
【0050】
[放射線感受性色素]
本発明の放射線線量測定ゲルは放射線感受性色素を含むことができる。そのような放射線感受性色素としては、放射線に感応して色彩が変化(変色、発色)する化合物であれば特に限定されず、例えば、ロイコクリスタルバイオレット、ロイコマラカイトグリーン、ビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、トリス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)メタンなどのトリアリールメタン類などのトリフェニルメタン類またはトリアリールメタン類;ロイコクリスタルバイオレットラクトン、ロイコマラカイトグリーンラクトンなどのトリフェニルメタンフタリド類;3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノベンゾ−α−フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオランなどのフルオラン類;3,7−ビスジメチルアミノ−10−(4’−アミノベンゾイル)フェノチアジン、p−ニトロベンジルロイコメチレンブル−、ベンゾイルロイコメチレンブルーなどのフェノチアジン類;3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドル−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドル−3−イル)フタリドなどのインドリルフタリド類;N−(2,3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−フェニルロイコオーラミンなどのロイコオーラミン類;ローダミンBラクトンなどのローダミンラクトン類;ローダミンB−o−クロロアミノラクタム、ローダミンBアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタムなどのローダミンラクタム類;2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3’−ジメチルインドリンなどのインドリン類;4,4−ビス(ジメチルアミノフェニル)ベンズヒドリルベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミンなどのジフェニルメタン類;3−メチルスピロジナフトピラン、3−エチルスピロジナフトピラン、3,3−ジクロロスピロジナフトピラン、3−ベンジルスピロジナフトピランなどのナフトピラン類;3−プロピルスピロベンゾピラン、3,6−ビス(ジメチルアミノ)フルオレン−9−スピロ−3’−(6’−ジメチルアミノフタリド)、3−ジエチルアミノ−6−ジメチルアミノフルオレン−9−スピロ−3’−(6’−ジメチルアミノフタリド)などのスピロ化合物類;3−インドリル−3−アミノフェニルアザフタリドなどのアザフタリド類;クロメノインドール;アミノジヒドロフェナジンなどのフェナジン類;トリアゼン類;ナフトラクタム類;ジアセチレン類;アゾメチン類などが挙げられる。
これらの中でも、トリフェニルメタン類またはトリアリールメタン類が好ましく、特にロイコクリスタルバイオレットが最も好ましい。
【0051】
放射線感受性色素の含有量は、放射線線量測定ゲル中に好ましくは0.5mM乃至5mM、より好ましくは1mM乃至2mMである。
【0052】
また、本発明の放射線線量測定ゲルは放射線照射による重合反応を促進して放射線感受性を高めるために、アスコルビン酸やテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)などの脱酸素剤や、グルコノ−δ−ラクトン、過塩素酸、硫酸や食塩などのpH調整剤を含むことが好ましい。また、本発明の放射線線量測定ゲルは放射線照射後の残存モノマーによる重合を抑制するために、ハイドロキノン等のフリーラジカル捕捉剤や、グアイアズレン等の紫外線吸収剤などを含んでもよい。さらに、本発明の放射線線量測定ゲルは、必要に応じて、着色剤などを含んでもよい。
【0053】
[放射線線量測定ゲルの製造方法]
放射線線量測定ゲルの製造方法は特に限定されるものではないが、成分(A)乃至成分(C)のうちの2成分の混合物若しくはその水溶液又は含水溶液と、残りの1成分若しくはその水溶液又は含水溶液とを混合することによってゲル化させることができる。また、各成分の混合物に対して、水又は含水溶液を添加することによってもゲル化が可能である。
【0054】
また、成分(D)は、ゲル化の際に成分(A)乃至(C)と別途混合する方法や、予め成分(A)乃至(C)と混合させる方法の外に、成分(A)乃至(C)及び必要に応じて成分(D)を含むゲルを、成分(D)の水溶液に浸漬させる方法により、添加させることもできる。これらの処理方法はそれぞれの操作を組み合わせて行うこともできる。
上記成分(D)の水溶液の濃度としては、通常0.1質量%乃至50質量%であり、好ましくは1質量%乃至30質量%であり、より好ましくは5質量%乃至20質量%である。
【0055】
さらに、成分(A)乃至成分(D)以外のその他の成分、例えば、放射線照射により重合可能なモノマー、鉄イオン又は放射線感受性色素などを含む放射線線量測定ゲルは、上述した放射線線量測定ゲルの製造方法において、成分(A)乃至成分(D)にその他の成分を加えることにより製造することができる。その他の成分を含む放射線線量測定ゲルは、例えば、成分(A)乃至成分(C)のうちの2成分の混合物若しくはその水溶液又は含水溶液、及び/又は、残りの1成分若しくはその水溶液又は含水溶液に、その他の成分を加え、両者を混合することによって製造することができる。
【0056】
成分(A)乃至(C)並びに必要に応じて添加する成分(D)及びその他の成分を混合する方法としては、機械式又は手動による撹拌の他、超音波処理を用いることができるが、特に機械式撹拌が好ましい。機械式撹拌には、例えば、マグネチックスターラー、プロペラ式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、振とう機、ボルテックスミキサー、ボールミル、ニーダー、超音波発振器等を使用することができる。そのなかでも、好ましくは自転・公転式ミキサーによる混合である。
【0057】
混合する際の温度は、水溶液又は水分散液の凝固点乃至沸点、好ましくは−5℃乃至100℃であり、より好ましくは0℃乃至50℃である。
【0058】
混合直後は強度が弱くゾル状であるが、静置することでゲル化する。静置時間は2時間乃至100時間が好ましい。静置温度は−5℃乃至100℃であり、好ましくは0℃乃至50℃である。また、混合直後のゲル化する前に型に流し込んだり、押出成型したりすることにより、任意形状の放射線線量測定ゲルを作製することができる。
【0059】
<放射線線量計>
本発明の放射線線量測定ゲルは放射線線量の計測材料に適するため、当該放射線線量測定ゲルを容器に充填して放射線線量計、例えばファントムとすることができる。容器はMRIに感応せず、放射線を透過し、耐溶剤性、気密性等を有していれば特に限定されず、その材質はガラス、アクリル樹脂、ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが好ましい。容器が透明であれば、MRIのみならず、白濁度の3次元計測が可能な光学CTを使用することで、3次元線量分布を測定できる。また、容器に充填した後、窒素ガス等で置換してもよい。
【実施例】
【0060】
次に実施例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[製造例1:ケイ酸塩水分散液の製造]
ラポナイトXLG(ロックウッド・アディティブズ社製)6部、低重合ポリアクリル酸ナトリウム35%水溶液(平均分子量15000:シグマアルドリッチ社製)1.7部、水92.3部を混合し、均一な水分散液になるまで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0062】
[製造例2:高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液の製造]
高重合ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製:重合度22000乃至70000)2部、水98部を混合し、均一な水溶液になるまで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0063】
[実施例1:放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計(VIPET(Normoxic N-vinylpyrrolidone based polymer)ゲル線量計)の製造]
N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)8gを水132gに加え、40℃乃至45℃で加熱撹拌した。製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22g、次いでN−ビニル−2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)16g、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(東京化成工業株式会社製)353μLを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を25mL比色管に充填後24時間室温で静置し、照射試験用の目的物を得た。
【0064】
[実施例2:放射線線量計の照射試験]
実施例1で得られた放射線線量計の各サンプルには、ラジオフレックス 250CG(理学電気株式会社)を用いてX線(250kV,4mA)を照射した。具体的には、各サンプルに、線量率1Gy/分で2、5、7、10Gyだけ照射した。照射後の各サンプルは、1.5T MRI(Intera Achieva Nova Dual, Philips社製)によるMRI測定によって分析した。分析のためのパルス磁界は、Mixed turbo spin echo pulse sequenceを印加し、各サンプルのT緩和時間を取得して、R(つまり1/T)を算出した。図1に示した結果から線量に比例してRが増加することを確認することができた。なお、線量に対するRの増加率は0.078[Gy−1−1]であった。
【0065】
[比較例1:ゼラチンゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計の製造]
N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)4g、ゼラチン(シグマアルドリッチ社製)7g、N−ビニル−2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)8g、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(東京化成工業株式会社製)177μLを水81gに加え、45℃乃至50℃で加熱し、均一になるまで撹拌した。得られた混合物を25mL比色管に充填し、静置した状態で氷水により3時間冷却した。
【0066】
[実施例3:放射線線量計の耐熱性試験]
実施例1および比較例1の手順により、試験サンプルをそれぞれ4つ作製した。それぞれのサンプルを20℃、30℃、40℃及び60℃の温度で30分間水浴し、サンプルの傾斜による観察によりゲル溶解の有無を確認した。その結果を表1並びに図2乃至図7に示す。なお、表1において、「○」はゲルが溶解しなかった場合を、一方、「×」はゲルが溶解した場合を表す。また、図2乃至図4は、それぞれ20℃、30℃及び60℃の温度で30分間水浴した後の実施例1のサンプルの写真であり、一方、図5乃至図7はそれぞれ20℃、30℃及び60℃の温度で30分間水浴した後の比較例1のサンプルの写真である。
【0067】
【表1】
【0068】
表1及び図2乃至図7の結果より、比較例1のサンプルでは30℃以上でゲルが溶解した。一方、実施例1のサンプルでは全ての温度でゲルが溶解せず、ゲル状態を維持した。すなわち、本発明の放射線線量測定ゲルは、従来のゲル線量計で広く使用されているゼラチンと比べて、耐熱性を有することが明らかである。
【0069】
[実施例4:放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計(LCV(Leuco Crystal Violet)ゲル線量計)の製造]
ロイコクリスタルバイオレット(東京化成工業株式会社製)37.4mg及びトリトンX−100(シグマアルドリッチ社製)259mgを水68gに加え、室温で10分間撹拌後、トリクロロ酢酸(東京化成工業株式会社製)を混合溶液のpHが4になるまで少量ずつ加え、室温で10分間撹拌した。製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液16gを加え均一になるまで撹拌後、製造例1で製造したケイ酸塩水分散液16gを加え10分間撹拌した。得られた混合物を25mL比色管に充填後24時間冷暗所で静置し、照射試験用の目的物を得た。
【0070】
[実施例5:放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計(フリッケゲル線量計)の製造]
くえん酸一水和物(純正化学株式会社製)200mgを水84gに加え、室温で5分間撹拌後、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(関東化学株式会社製)4.0mgを加え、室温で5分間撹拌した。製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液8.0gを加え均一になるまで撹拌後、製造例1で製造したケイ酸塩水分散液8.0gを加え、10分間撹拌した。さらに反応混合物にキシレノールオレンジ2.0mgを加え、10分間撹拌した。得られた混合物をPET容器に充填後22時間冷暗所で静置し、照射試験用の目的物を得た。
【0071】
[実施例6:実施例4で製造された放射線線量計(LCVゲル線量計)の照射試験]
ラジオフレックス 250CG(理化学電気株式会社)を用いてX線(250kV,4mA)を1Gy/分で20Gyと30Gyをサンプルに照射し着色を確認した。その結果を図8に示す。図8におけるサンプルの左側は20Gyと30Gy照射されており、図8におけるサンプルの右側半分は未照射領域である。放射線照射により青色に着色することが確認できた。さらに、目視では20Gyと30Gy照射領域において青色の濃淡が確認され、線量増加に従った着色を確認した。
【0072】
[実施例7:実施例5で製造された放射線線量計(フリッケゲル線量計)の照射試験]
ラジオフレックス 250CG(理化学電気株式会社)を用いてX線(250kV,4mA)を1Gy/分で40Gyを、遮蔽版を用いてサンプル右側半分に放射線が当たらないようにサンプルに照射した。サンプル左右部分のコントラストの違いから着色の変化を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の放射線線量測定ゲルは、工業的に入手容易な原料を用いて、加熱を必要とすることなく、室温で混合するだけで製造することができ、また優れた耐熱性や自己支持性を有するため、種々のゲル線量計に応用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8