特許第6677095号(P6677095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6677095Sn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677095
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】Sn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/457 20060101AFI20200330BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   C04B35/457
   C23C14/34 A
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-122320(P2016-122320)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-145185(P2017-145185A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-227722(P2015-227722)
(32)【優先日】2015年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-25680(P2016-25680)
(32)【優先日】2016年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】小沢 誠
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 茂
(72)【発明者】
【氏名】安東 勲雄
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−038027(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/168224(WO,A1)
【文献】 特開2012−066968(JP,A)
【文献】 特開2007−277075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/457
C23C14/34
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
Snを、原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含有し、
Ge、BiおよびCeから選ばれた少なくとも1種を第1添加元素Mとし、かつ、Nb、Ta、WおよびMoから選ばれた少なくとも1種を第2添加元素Xとした場合、
第1添加元素Mを、全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で含有し、
第2添加元素Xを、全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で含有すると共に、
相対密度が90%以上かつ比抵抗が1Ω・cm以下であることを特徴とするSn−Zn−O系酸化物焼結体。
【請求項2】
CuKα線を使用したX線回折によるZnO相における(101)面のX線回折ピーク位置が36.25度〜36.31度、および、Zn2SnO4相における(311)面のX線回折ピーク位置が34.32度〜34.42度であることを特徴とする請求項1に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体。
【請求項3】
CuKα線を使用したX線回折によるZn2SnO4相における(311)面のX線回折ピーク位置が34.32度〜34.42度、および、SnO2相における(101)面のX線回折ピーク位置が33.86度〜33.91度であることを特徴とする請求項1に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法において、
ZnO粉末とSnO2粉末、Ge、BiおよびCeから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを含有する酸化物粉末、Nb、Ta、WおよびMoから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを含有する酸化物粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合して得られるスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉末を製造する造粒粉末製造工程と、
上記造粒粉末を加圧成形して成形体を得る成形体製造工程と、
焼成炉内の酸素濃度が70体積%以上の雰囲気において、1200℃以上1450℃以下かつ10時間以上30時間以内の条件で上記成形体を焼成して焼結体を得る焼結体製造工程、
を具備することを特徴とするSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、液晶表面素子、タッチパネル等に適用される透明導電膜を直流スパッタリング、高周波スパッタリングといったスパッタリング法で製造する際にスパッタリングターゲットとして使用されるSn−Zn−O系酸化物焼結体に係り、特に、焼結体の加工中における破損、および、スパッタリング成膜中におけるスパッタリングターゲットの破損やクラックの発生等を抑制できると共に、高密度で低抵抗のSn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有する透明導電膜は、太陽電池、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンスおよび無機エレクトロルミネッセンス等の表面素子や、タッチパネル用電極等に利用される他、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等の各種の防曇用透明発熱体としても利用されている。
【0003】
透明導電膜としては、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)、アルミニウムやガリウムをドーパントとして含む酸化亜鉛(ZnO)、および、錫をドーパントとして含む酸化インジウム(In23)等が知られている。特に、錫をドーパントとして含む酸化インジウム(In23)膜、すなわち、In−Sn−O系の膜はITO(Indium tin oxide)膜と称され、低抵抗の膜が容易に得られることから広く用いられている。
【0004】
上記透明導電膜の製造方法としては、直流スパッタリング、高周波スパッタリングといったスパッタリング法が良く用いられている。スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料の成膜や精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的に広範に利用されている。
【0005】
このスパッタリング法は、薄膜の原料としてスパッタリングターゲットを用いる。スパッタリングターゲットは、成膜したい薄膜を構成している金属元素を含む体であり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等の焼結体や、場合によっては単結晶が使用される。スパッタリング法では、一般にその内部に基板とスパッタリングターゲットを配置できるようになった真空チャンバーを有する装置を用い、基板とスパッタリングターゲットを配置した後、真空チャンバーを高真空にし、その後アルゴン等の希ガスを導入し、真空チャンバー内を約10Pa以下のガス圧とする。そして、基板を陽極とし、スパッタリングターゲットを陰極とし、両者の間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のスパッタリングターゲットに衝突させ、これによってはじきとばされるターゲットの成分粒子を基板上に堆積させて膜を形成するものである。
【0006】
そして、上記透明導電膜を製造するため、従来、ITO等の酸化インジウム系の材料が広範囲に用いられている。しかし、インジウム金属は、地球上で希少金属であることと毒性を有しているため環境や人体に対し悪影響が懸念されており、非インジウム系の材料が求められている。
【0007】
上記非インジウム系の材料としては、上述したようにアルミニウムやガリウムをドーパントとして含む酸化亜鉛(ZnO)系材料、および、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)系材料が知られている。そして、上記酸化亜鉛(ZnO)系材料の透明導電膜はスパッタリング法で工業的に製造されているが、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)に乏しい等の欠点を有する。他方、酸化錫(SnO2)系材料の透明導電膜は耐薬品性に優れているものの、高密度で耐久性のある酸化錫系焼結体ターゲットを製造し難いため、上記透明導電膜をスパッタリング法で製造することに困難が伴う欠点を有していた。
【0008】
そこで、これ等の欠点を改善する材料として、酸化亜鉛と酸化錫を主成分とする焼結体が提案されている。例えば、特許文献1には、SnO2相とZn2SnO4相とからなり、当該Zn2SnO4相の平均結晶粒径が1〜10μmの範囲である焼結体が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZn2SnO4相における(222)面、(400)面の積分強度をI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が標準(0.44)よりも大きい0.52以上とした焼結体が記載されている。更に、特許文献2には、上記特性を備えた焼結体を製造する方法として、当該焼結体製造工程を、焼成炉内に酸素を含む雰囲気中において800℃〜1400℃の条件で成形体を焼成する工程と、最高焼成温度での保持が終了してから焼成炉内をArガス等の不活性雰囲気にして冷却する工程とで構成する方法も記載されている。
【0010】
しかし、これ等の方法では、ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体において、機械的強度に耐える焼結体強度は得られるものの、十分な密度や導電性を得ることが難しく、量産現場でのスパッタリング成膜に必要とされる特性としては満足いくものではなかった。すなわち、常圧焼結法において、焼結体の高密度化や導電性という点に至っては課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−037161号公報(請求項13、請求項14参照)
【特許文献2】特開2013−036073号公報(請求項1、請求項3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような要請に着目してなされたもので、ZnおよびSnを主成分とし、機械的強度に加え、高密度で低抵抗のSn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法を提供することを課題とする。
【0013】
ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度かつ低抵抗といった両特性を備えることが困難な材料で、組成を変化させても高密度かつ導電性に優れた酸化物焼結体を作製することは困難である。焼結体密度において、配合比により多少の密度の上下はあるものの、導電性については、1×106Ω・cm以上と非常に高い比抵抗値を示し導電性に乏しい。
【0014】
ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体の作製においては、1100℃あたりからZn2SnO4という化合物が生成し始め、1450℃近辺からZnの揮発が著しくなる。Sn−Zn−O系酸化物焼結体の密度を上げるために高温で焼成するとZnの揮発が進むため、粒界拡散や粒同士の結合が弱まり、高密度の酸化物焼結体を得ることができない。
【0015】
一方、導電性については、Zn2SnO4、ZnO、SnO2が導電性に乏しい物質であることから、配合比を調整して化合物相やZnO、SnO2の量を調整したとしても、導電性を大幅に改善することはできない。その結果、ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体は、量産現場でのスパッタリング成膜に必要とされる特性である焼結体の高密度および高導電性を得ることができない。
【0016】
すなわち、本発明の課題とするところは、Znの揮発を抑制しつつ、粒界拡散を促進させ、粒同士の結合を強めた酸化物焼結体に、導電性を改善するための手段を施すことで、上述したように緻密で導電性に優れたZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者等は、焼結体の密度と導電性の両特性を両立する製造条件を探索すると共に、Zn2SnO4という化合物生成を開始する1100℃からZnの揮発が顕著になる1450℃の温度領域で、高密度および高導電性に優れたZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法について検討を行った。
【0018】
その結果、Snを原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含有する条件の下、Ge、BiおよびCeから選ばれる少なくとも1種(すなわち第1添加元素M)をドーパントとして添加することで、相対密度が90%の酸化物焼結体を得ることができた。しかし、密度は向上したものの、導電性は改善されなかったため、導電性改善のため、更に、Nb、Ta、W、Moのいずれかの添加元素(すなわち第2添加元素X)を加えることで、高密度を維持したまま導電性に優れた酸化物焼結体の製造が可能となった。尚、Snが原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.33以下の割合で含まれる場合、ウルツ鉱型結晶構造のZnO相とスピネル型結晶構造のZn2SnO4相が主成分となり、Snが原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.33を超え0.9以下の割合で含まれる場合、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相とルチル型結晶構造のSnO2相が主成分となる。また、適正な量の第1添加元素Mと第2添加元素Xが添加された場合、これ等第1添加元素Mと第2添加元素Xは、ZnO相中のZn、Zn2SnO4相中のZnまたはSn、SnO2相中のSnと置換して固溶するため、ウルツ鉱型結晶構造のZnO相、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相、および、ルチル型結晶構造のSnO2相以外の化合物相は形成されない。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0019】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
Snを、原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含有し、
Ge、BiおよびCeから選ばれた少なくとも1種を第1添加元素Mとし、かつ、Nb、Ta、WおよびMoから選ばれた少なくとも1種を第2添加元素Xとした場合、
第1添加元素Mを、全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で含有し、
第2添加元素Xを、全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で含有すると共に、
相対密度が90%以上かつ比抵抗が1Ω・cm以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
CuKα線を使用したX線回折によるZnO相における(101)面のX線回折ピーク位置が36.25度〜36.31度、および、Zn2SnO4相における(311)面のX線回折ピーク位置が34.32度〜34.42度であることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
CuKα線を使用したX線回折によるZn2SnO4相における(311)面のX線回折ピーク位置が34.32度〜34.42度、および、SnO2相における(101)面のX線回折ピーク位置が33.86度〜33.91度であることを特徴とするものである。
【0021】
次に、本発明に係る第4の発明は、
第1の発明〜第3の発明のいずれかに記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法において、
ZnO粉末とSnO2粉末、Ge、BiおよびCeから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを含有する酸化物粉末、Nb、Ta、WおよびMoから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを含有する酸化物粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合して得られるスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉末を製造する造粒粉末製造工程と、
上記造粒粉末を加圧成形して成形体を得る成形体製造工程と、
焼成炉内の酸素濃度が70体積%以上の雰囲気において、1200℃以上1450℃以下かつ10時間以上30時間以内の条件で上記成形体を焼成して焼結体を得る焼結体製造工程、
を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体においては、Snを原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含有する条件を満たせば、どのような配合比でも、常圧焼結法により量産性に優れた高密度かつ低抵抗のSn−Zn−O系酸化物焼結体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
まず、Snを原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含み、Ge、BiおよびCeから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で含み、かつ、Nb、Ta、WおよびMoから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で含有する原料粉末を調製し、該原料粉末を造粒して得た造粒粉末を成形して成形体を製造すると共に、酸素濃度が70体積%以上の焼成炉内雰囲気において、1200℃以上1450℃以下かつ10時間以上30時間以内の条件で上記成形体を焼成することにより、相対密度が90%以上でかつ比抵抗が1Ω・cm以下である本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造することが可能となる。
【0025】
以下、本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0026】
[添加元素]
Snを原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含有する条件の下、第1添加元素Mおよび第2添加元素Xを要件としているのは、第1添加元素Mだけの場合、密度は向上するものの低抵抗の特性を得られない。他方、第2添加元素Xだけの場合は、低抵抗になるものの高密度が得られない。
【0027】
すなわち、第1添加元素Mおよび第2添加元素Xを加えることで、高密度かつ低抵抗のSn−Zn−O系酸化物焼結体を得ることが可能となる。
【0028】
(第1添加元素M)
酸化物焼結体の緻密化には、Ge、BiおよびCeから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを添加することで、高密度化の効果を得ることが可能となる。上記第1添加元素Mが、粒界拡散を促進し、粒同士のネック成長を手助けして、粒同士の結合を強固とし、緻密化に寄与していると思われる。ここで、第1添加元素をMとし、第1添加元素Mの全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)を0.0001以上0.04以下としているのは、上記原子数比M/(Sn+Zn+M+X)が0.0001未満の場合、高密度化の効果が表れないからである(比較例9参照)。一方、上記原子数比M/(Sn+Zn+M+X)が0.04を超えた場合、後述する第2添加元素Xを添加しても酸化物焼結体の導電性は高まらない(比較例10参照)。更に、別の化合物、例えば、Zn2Ge38、ZnTa26等の化合物を生成する等、成膜した際に所望とする膜特性が得られなくなる。
【0029】
このように第1添加元素Mを加えただけでは、酸化物焼結体の密度は向上するものの、導電性は改善されない。
【0030】
(第2添加元素)
Snを原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合で含有する条件の下、上記第1添加元素Mを加えたSn−Zn−O系酸化物焼結体は上述したように密度は向上するものの導電性に課題が残る。
【0031】
そこで、Nb、Ta、WおよびMoから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを添加する。第2添加元素Xの添加により酸化物焼結体の高密度を維持したまま、導電性が改善される。尚、第2添加元素Xは、Nb、Ta、W、Mo等5価以上の元素である。
【0032】
添加する量は、第2添加元素Xの全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)を0.0001以上0.1以下にすることを要する。上記原子数比X/(Sn+Zn+M+X)が0.0001未満の場合、導電性は高まらない(比較例7参照)。一方、上記原子数比X/(Sn+Zn+M+X)が0.1を超えた場合、別の化合物相、例えば、Nb25、Ta25、WO3、MoO3、ZnTa26、ZnWO4、ZnMoO4等の化合物相を生成するため導電性を悪化させることになる(比較例8参照)。
【0033】
(X線回折ピーク)
本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体において、原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.1以上0.33以下では、上述したようにウルツ鉱型結晶構造のZnO相とスピネル型結晶構造のZn2SnO4相が主成分となり、原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.33を超え0.9以下ではスピネル型結晶構造のZn2SnO4相とルチル型結晶構造のSnO2相が主成分となる。また、適正な量の第1添加元素Mと第2添加元素Xは、ZnO相中のZn、Zn2SnO4相中のZnまたはSn、SnO2相中のSnと置換して固溶するので、ウルツ鉱型結晶構造のZnO相、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相、および、ルチル型結晶構造のSnO2相以外の別な化合物相は形成されない。
【0034】
結晶構造は、上記酸化物焼結体の一部を粉砕した粉末をX線回折分析し、得られた回折ピークを解析することで知ることができる。例えば、CuKα線を用いたX線回折分析において、ウルツ鉱型ZnO(101)面における標準の回折ピーク位置は、ICDDリファレンスコード00−036−1451によれば36.253度である。スピネル型結晶構造のZn2SnO4(311)面における標準の回折ピーク位置は、ICDDリファレンスコード00−041−1470によれば34.291度であり、ルチル型SnO2(101)面における標準の回折ピーク位置は、ICDDリファレンスコード00−041−1445によれば33.893度である。
【0035】
ところで、回折ピークの位置は、添加元素の種類、量、焼結温度、雰囲気、保持時間等の影響を受けて、結晶中における添加元素の置換位置、酸素欠損および内部応力等から、結晶構造が膨張、収縮または歪む等して変化する。
【0036】
そして、本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体において、CuKα線を用いたX線回折分によるZnO(101)面の回折ピーク位置は、標準の回折ピーク位置36.253度を含む36.25度〜36.31度であることが好ましい。また、Zn2SnO4(311)面の上記回折ピーク位置は、標準の回折ピーク位置34.291度よりも高角度側の34.32度〜34.42度であることが好ましく、SnO2(101)面の回折ピーク位置は、標準の回折ピーク位置33.893度を含む33.86度〜33.91度であることが好ましい。この範囲を外れると、ZnO、Zn2SnO4およびSnO2結晶の膨張、収縮または歪が大きくなって、酸化物焼結体の割れ、焼結密度の低下、導電性の低下を引き起こす場合がある。
【0037】
このように、適正な量の第1添加元素Mと第2添加元素Xを添加することにより、高密度かつ導電性に優れたSn−Zn−O系酸化物焼結体を得ることが可能となる。
【0038】
[成形体の焼成条件]
(炉内雰囲気)
焼結炉内における酸素濃度が70体積%以上の雰囲気中において、成形体を焼成することが好ましい。これは、ZnO、SnO2やZn2SnO4化合物の拡散を促進させ、焼結性を向上させると共に導電性を向上させる効果があるためである。高温域では、ZnOやZn2SnO4の揮発を抑制する効果もある。
【0039】
一方、焼結炉内における酸素濃度が70体積%未満の場合、ZnO、SnO2やZn2SnO4化合物の拡散が衰退する。更に、高温域では、Zn成分の揮発が促進し緻密な焼結体を作製することができない(比較例3参照)。
【0040】
(焼結温度)
1200℃以上1450℃以下とすることが好ましい。焼結温度が1200℃未満の場合(比較例4参照)、温度が低過ぎて、ZnO、SnO2、Zn2SnO4化合物における焼結の粒界拡散が進まない。一方、1450℃を超えた場合(比較例5参照)、粒界拡散が促進されて焼結は進むが、たとえ、酸素濃度が70体積%以上の炉内で焼成しても、Zn成分の揮発を抑制することができず、焼結体内部に空孔を大きく残してしまうことになる。
【0041】
(保持時間)
10時間以上30時間以内とすることが好ましい。10時間を下回ると、焼結が不完全なため、歪や反りの大きい焼結体になると共に、粒界拡散が進まず、焼結が進まない。この結果、緻密な焼結体を作製することができない(比較例6参照)。一方、30時間を上回る場合、特に時間の効果が得られないため、作業効率の悪化やコスト高の結果を招く。
【0042】
このような条件で得られたZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体は導電性も改善されていることから、DCスパッタリングでの成膜が可能となる。また、特別な製造方法を用いていないため、円筒形ターゲットにも応用が可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明に係る技術的範囲が下記実施例の記載内容に限定されることはなく、本発明に適合する範囲で変更を加えて実施することも当然のことながら可能である。
【0044】
[実施例1]
平均粒径10μm以下のSnO2粉と、平均粒径10μm以下のZnO粉と、第1添加元素Mとして平均粒径20μm以下のBi23粉、および、第2添加元素Xとして平均粒径20μm以下のTa25粉を用意した。
【0045】
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.5となるようにSnO2粉とZnO粉を調合し、第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+Ta)が0.001、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Bi+Ta)が0.001となるように、Bi23粉とTa25粉を調合した。
【0046】
そして、調合された原料粉末と純水、有機バインダー、分散剤を原料粉末濃度が60質量%となるように混合タンクにて混合した。
【0047】
次に、硬質ZrO2ボールが投入されたビーズミル装置(アシザワ・ファインテック株式会社製、LMZ型)を用いて、原料粉末の平均粒径が1μm以下となるまで湿式粉砕を行った後、10時間以上混合撹拌してスラリーを得た。尚、原料粉末の平均粒径の測定にはレーザー回折式粒度分布測定装置(島津作所製、SALD-2200)を用いた。
【0048】
次に、得られたスラリーをスプレードライヤー装置(大川原化工機株式会社製、ODL-20型)にて噴霧および乾燥し造粒粉を得た。
【0049】
次に、得られた造粒粉末をゴム型へ充填し、冷間静水圧プレスで294MPa(3ton/cm2)の圧力をかけて成形し、得られた直径約250mmの成形体を常圧焼成炉に投入し、700℃まで焼結炉内に空気(酸素濃度21体積%)を導入した。焼成炉内の温度が700℃になったことを確認した後、酸素濃度が80体積%となるように酸素を導入し、1400℃まで昇温させ、かつ、1400℃で15時間保持した。
【0050】
保持時間が終了した後は酸素導入を止め、冷却を行い、実施例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0051】
次に、実施例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を平面研削盤とグライディングセンターを用いて、直径200mm、厚み5mmへ加工を施した。
【0052】
この加工体の密度をアルキメデス法で測定したところ、相対密度は99.7%であった。また、比抵抗を4探針法で測定したところ、0.003Ω・cmであった。
【0053】
次に、この加工体の一部を切断し、乳鉢粉砕により粉末にした。この粉末についてCuKα線を使用したX線回折装置[X’Pert-PRO(PANalytical社製)]で分析した結果、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピークは34.39度であり、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.89度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。
【0054】
この結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.1となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、ウルツ鉱型ZnO相およびスピネル型結晶構造のZn2SnO4相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。ZnO(101)面の回折ピーク位置は36.28度、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.34度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は93.0%であり、比抵抗値は0.57Ω・cmであった。この結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.3となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、ウルツ鉱型ZnO相およびスピネル型結晶構造のZn2SnO4相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。ZnO(101)面の回折ピーク位置は36.26度、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.41度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は94.2%であり、比抵抗値は0.042Ω・cmであった。この結果を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.7となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.36度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.87度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は99.7%であり、比抵抗値は0.006Ω・cmであった。この結果を表1に示す。
【0058】
[実施例5]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.9となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.40度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.90度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は92.7%であり、比抵抗値は0.89Ω・cmであった。この結果を表1に示す。
【0059】
[実施例6]
第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.0001の割合となるように調合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.33度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.87度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は98.5%であり、比抵抗値は0.085Ω・cmであった。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例7]
酸素濃度を100体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.42度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.90度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は99.6%であり、比抵抗値は0.013Ω・cmであった。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例8]
第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.1となるよう調合し、保持時間を10時間、酸素濃度を70体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.37度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.87度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は94.6%であり、比抵抗値は0.023Ω・cmであった。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例9]
第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.0001となるよう調合し、焼結温度を1450℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.35度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.91度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は97.3%であり、比抵抗値は0.08Ω・cmであった。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例10]
第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.04となるよう調合し、焼結温度を1200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。実施例1と同様、粉末のX線回折分析をしたところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.36度で、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.88度であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。また、相対密度は96.4%であり、比抵抗値は0.11Ω・cmであった。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
[実施例13、15、参考例11、12、14、16、17
第1添加元素Mとして、SiO2粉(参考例11)、TiO2粉(参考例12)、GeO2粉(実施例13)、In23粉(参考例14)、CeO2粉(実施例15)、Al23粉(参考例16)、Ga23粉(参考例17)を用い、第1添加元素Mの原子数比M/(Sn+Zn+M+Ta)を0.04とし、第2添加元素Xとして実施例1と同じTa25粉を用い、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+M+Ta)を0.1となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例13、15と参考例11、12、14、16、17に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0066】
そして、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.32度、33.87度(参考例11)、34.36度、33.90度(参考例12)、34.40度、33.86度(実施例13)、34.32度、33.88度(参考例14)、34.34度、33.91度(実施例15)、34.35度、33.86度(参考例16)、および、34.38度、33.91度(参考例17)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表2に示す。
【0067】
また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ94.5%、0.08Ω・cm(参考例11)、95.1%、0.21Ω・cm(参考例12)、97.0%、0.011Ω・cm(実施例13)、96.1%、0・048Ω・cm(参考例14)、94.8%、0.013Ω・cm(実施例15)、94.6%、0.18Ω・cm(参考例16)、および、95.3%、0.48Ω・cm(参考例17)であった。結果を表2に示す。
【0068】
[実施例20、22、参考例18、19、21、23、24
第1添加元素Mとして、SiO2粉(参考例18)、TiO2粉(参考例19)、GeO2粉(実施例20)、In23粉(参考例21)、CeO2粉(実施例22)、Al23粉(参考例23)、Ga23粉(参考例24)を用い、第1添加元素Mの原子数比M/(Sn+Zn+M+Ta)を0.0001とし、第2添加元素Xとして実施例1と同じTa25粉を用い、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+M+Ta)を0.1となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例20、22と参考例18、19、21、23、24に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0069】
そして、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.33度、33.89度(参考例18)、34.32度、33.90度(参考例19)、34.41度、33.88度(実施例20)、34.39度、33.87度(参考例21)、34.42度、33.89度(実施例22)、34.37度、33.89度(参考例23)、および、34.38度、33.88度(参考例24)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表2に示す。
【0070】
また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ93.3%、0.011Ω・cm(参考例18)、96.1%、0.07Ω・cm(参考例19)、95.0%、0.021Ω・cm(実施例20)、94.6%、0・053Ω・cm(考例21)、96.1%、0.08Ω・cm(実施例22)、95.2%、0.14Ω・cm(参考例23)、および、96.0%、0.066Ω・cm(参考例24)であった。結果を表2に示す。
【0071】
[実施例27、29、参考例25、26、28、30、31
第1添加元素Mとして、SiO2粉(参考例25)、TiO2粉(参考例26)、GeO2粉(実施例27)、In23粉(参考例28)、CeO2粉(実施例29)、Al23粉(参考例30)、Ga23粉(参考例31)を用い、第1添加元素Mの原子数比M/(Sn+Zn+M+Ta)を0.04とし、第2添加元素Xとして実施例1と同じTa25粉を用い、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+M+Ta)を0.0001となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例27、29と参考例25、26、28、30、31に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0072】
そして、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.32度、33.91度(参考例25)、34.37度、33.86度(参考例26)、34.42度、33.91度(実施例27)、34.34度、33.88度(参考例28)、34.40度、33.91度(実施例29)、34.34度、33.86度(参考例30)、および、34.38度、33.90度(参考例31)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表2に示す。
【0073】
また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ97.6%、0.092Ω・cm(参考例25)、97.9%、0.0082Ω・cm(参考例26)、97.9%、0.0033Ω・cm(実施例27)、97.5%、0・0032Ω・cm(参考例28)、98.7%、0.009Ω・cm(実施例29)、97.0%、0.0054Ω・cm(参考例30)、および、99.1%、0.009Ω・cm(参考例31)であった。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例34、36、参考例32、33、35、37、38
第1添加元素Mとして、SiO2粉(参考例32)、TiO2粉(参考例33)、GeO2粉(実施例34)、In23粉(参考例35)、CeO2粉(実施例36)、Al23粉(参考例37)、Ga23粉(参考例38)を用い、第1添加元素Mの原子数比M/(Sn+Zn+M+Ta)を0.0001とし、第2添加元素Xとして実施例1と同じTa25粉を用い、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+M+Ta)を0.0001となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例34、36と参考例32、33、35、37、38に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0075】
そして、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.36度、33.91度(参考例32)、34.35度、33.87度(参考例33)、34.42度、33.87度(実施例34)、34.42度、33.86度(参考例35)、34.41度、33.90度(実施例36)、34.32度、33.87度(参考例37)、および、34.40度、33.88度(参考例38)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表2に示す。
【0076】
また、各参考例と実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ98.0%、0.013Ω・cm(参考例32)、97.5%、0.0021Ω・cm(参考例33)、97.8%、0.012Ω・cm(実施例34)、97.9%、0・027Ω・cm(参考例35)、98.0%、0.0053Ω・cm(実施例36)、98.5%、0.0066Ω・cm(参考例37)、98.8%、0.0084Ω・cm(参考例38)であった。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
[実施例39〜41]
第1添加元素Mとして実施例1と同じBi23粉を用い、第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+X)を0.04とし、第2添加元素Xとして、Nb25粉(実施例39)、WO3粉(実施例40)、MoO3粉(実施例41)を用い、第2添加元素Xの原子数比X/(Sn+Zn+Bi+X)を0.1となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例39〜41に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0079】
そして、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.40度、33.89度(実施例39)、34.35度、33.90度(実施例40)、および、34.39度、33.86度(実施例41)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表3に示す。
【0080】
また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ97.7%、0.029Ω・cm(実施例39)、95.9%、0.069Ω・cm(実施例40)、および、96.9%、0.19Ω・cm(実施例41)であった。結果を表3に示す。
【0081】
[実施例42〜44]
第1添加元素Mとして実施例1と同じBi23粉を用い、第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+X)を0.0001とし、第2添加元素Xとして、Nb25粉(実施例42)、WO3粉(実施例43)、MoO3粉(実施例44)を用い、第2添加元素Xの原子数比X/(Sn+Zn+Bi+X)を0.1となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例42〜44に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0082】
そして、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.32度、33.89度(実施例42)、34.34度、33.87度(実施例43)、および、34.39度、33.90度(実施例44)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表3に示す。
【0083】
また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ94.8%、0.021Ω・cm(実施例42)、96.6%、0.0096Ω・cm(実施例43)、および、95.6%、0.0092Ω・cm(実施例44)であった。結果を表3に示す。
【0084】
[実施例45〜47]
第1添加元素Mとして実施例1と同じBi23粉を用い、第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+X)を0.04とし、第2添加元素Xとして、Nb25粉(実施例45)、WO3粉(実施例46)、MoO3粉(実施例47)を用い、第2添加元素Xの原子数比X/(Sn+Zn+Bi+X)を0.0001となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例45〜47に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0085】
そして、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.36度、33.86度(実施例45)、34.42度、33.88度(実施例46)、および、34.34度、33.90度(実施例47)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表3に示す。
【0086】
また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ98.1%、0.022Ω・cm(実施例45)、97.6%、0.0066Ω・cm(実施例46)、および、97.7%、0.0077Ω・cm(実施例47)であった。結果を表3に示す。
【0087】
[実施例48〜50]
第1添加元素Mとして実施例1と同じBi23粉を用い、第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+X)を0.0001とし、第2添加元素Xとして、Nb25粉(実施例48)、WO3粉(実施例49)、MoO3粉(実施例50)を用い、第2添加元素Xの原子数比X/(Sn+Zn+Bi+X)を0.0001となる割合で調合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例48〜50に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0088】
そして、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のX線回折分析は、いずれもスピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の回折ピークのみが測定され、その他の別な化合物相の回折ピークは測定されなかった。また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体のZn2SnO4(311)面とSnO2(101)面の回折ピーク位置は、それぞれ34.35度、33.88度(実施例48)、34.41度、33.87度(実施例49)、および、34.33度、33.88度(実施例50)であり、適正な回折ピーク位置であることが確認された。結果を表3に示す。
【0089】
また、各実施例に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度と比抵抗値は、それぞれ95.5%、0.0099Ω・cm(実施例48)、97.3%、0.0074Ω・cm(実施例49)、および、97.4%、0.009Ω・cm(実施例50)であった。結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
[比較例1]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.05となる割合で調合したこと以外は実施例1同様にして比較例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0092】
比較例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体について、実施例1と同様、X線回折分析したところ、ウルツ鉱型ZnO相およびスピネル型結晶構造のZn2SnO4相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、ZnO(101)面の回折ピーク位置は36.24度、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.33度であり、ZnO(101)面の回折ピーク位置が適正な位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は88.0%、比抵抗値は500Ω・cmであり、相対密度90%以上かつ比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0093】
[比較例2]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.95となる割合で調合したこと以外は実施例1同様にして比較例2に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0094】
比較例2に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体について、実施例1と同様、X線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.33度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.92度であり、SnO2(101)面の回折ピーク位置が適正な位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は86.0%、比抵抗値は700Ω・cmであり、相対密度90%以上かつ比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0095】
[比較例3]
1400℃での焼結時に、炉内酸素濃度を68体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0096】
比較例3に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.39度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.93度であり、SnO2(101)面の回折ピーク位置が適正な位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は87.3%、比抵抗値は53000Ω・cmであり、相対密度90%以上かつ比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0097】
[比較例4]
焼結温度を1170℃としたこと以外は、実施例1と同様にして比較例4に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0098】
比較例4に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.29度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.88度であり、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置が適正な位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は82.2%、比抵抗値は61000Ω・cmであり、相対密度90%以上かつ比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0099】
[比較例5]
焼結温度を1500℃としたこと以外は、実施例1と同様にして比較例5に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0100】
比較例5に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.34度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.95度であり、SnO2(101)面の回折ピーク位置が適正な位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は88.6%、比抵抗値は6Ω・cmであり、相対密度90%以上かつ比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0101】
[比較例6]
1400℃での焼結の保持時間を8時間としたこと以外は、実施例1と同様にして比較例6に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0102】
比較例6に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.33度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.83度であり、SnO2(101)面の回折ピーク位置が適正な位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は80.6%、比抵抗値は800000Ω・cmであり、相対密度90%以上かつ比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0103】
[比較例7]
第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.00009となる割合で調合したこと以外は、実施例1と同様にして比較例7に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0104】
比較例7に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.30度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.84度であり、Zn2SnO4(311)面とSnO2(101)面は共に適正な回折ピークの位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は98.3%、比抵抗値は120Ω・cmであり、相対密度90%以上の特性は達成できたが、比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0105】
[比較例8]
第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.15となる割合で調合したこと以外は、実施例1と同様にして比較例8に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0106】
そして、比較例8に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.37度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.88度であり、適正な回折ピークの位置であったが、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の他に、Ta25相の回折ピークが測定された。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は94.4%、比抵抗値は86Ω・cmであり、相対密度90%以上の特性は達成できたが、比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0107】
[比較例9]
第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.00009となる割合で調合したこと以外は、実施例1と同様にして比較例9に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0108】
比較例9に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相のみの回折ピークが測定され、別な化合物相の回折ピークは測定されなかったが、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.26度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.85度であり、Zn2SnO4(311)面とSnO2(101)面は共に適正な回折ピークの位置から外れていた。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は86.7%、比抵抗値は0.13Ω・cmであり、比抵抗1Ω・cm以下の特性は達成できたが、相対密度90%以上の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0109】
[比較例10]
第1添加元素Mの原子数比Bi/(Sn+Zn+Bi+Ta)を0.05となる割合で調合したこと以外は、実施例1と同様にして比較例10に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0110】
そして、比較例10に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体についてX線回折分析したところ、Zn2SnO4(311)面の回折ピーク位置は34.36度、SnO2(101)面の回折ピーク位置は33.89度であり、適正な回折ピークの位置であったが、スピネル型結晶構造のZn2SnO4相およびルチル型結晶構造のSnO2相の他に、同定できない別の化合物相の回折ピークが測定された。また、相対密度と比抵抗値を測定したところ、相対密度は97.2%、比抵抗値は4700Ω・cmであり、相対密度90%以上の特性は達成できたが、比抵抗1Ω・cm以下の特性を達成できないことが確認された。結果を表4に示す。
【0111】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、機械的強度に加えて高密度かつ低抵抗といった特性を備えているため、太陽電池やタッチパネル等の透明電極を形成するためのスパッタリングターゲットとして利用される産業上の利用可能性を有している。