(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C23F 11/00-11/18, C23F 14/00-17/00, C25D 1/00-7/12, H05K 3/10-3/26, H05K 3/38
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の銅張積層板、および、銅張積層板の製造方法の一構成例について説明する。
[銅張積層板]
本実施形態の銅張積層板は、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、樹脂フィルムと対向する第1の面と、第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含むことができる。そして、銅層の第2の面には防錆処理が施されており、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角を45°以上80°以下とすることができる。
【0018】
本実施形態の銅張積層板の断面構成例を
図1に示す。
【0019】
図1は、本実施形態の銅張積層板の、樹脂フィルム及び銅層の積層方向と平行な面における断面構成を模式的に示した図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の銅張積層板10は、樹脂フィルム11、及び銅層12とを有することができる。
【0021】
そして、銅層12は、樹脂フィルム11と対向する第1の面12aと、第1の面12aとは反対側の第2の面12bとを有することができる。銅層12は第2の面12bが露出しているため、経時変化により錆が発生する恐れがある。このため、上述のように第2の面12bについて防錆処理を施しておくことができる。
【0022】
なお、
図1に示した銅張積層板10は、樹脂フィルム11と、銅層12とが直接積層した例を示しているが、係る形態に限定されるものではなく、例えば上述のように樹脂フィルム11と、銅層12との間に接着剤層を設けて3層基板とすることもできる。また、樹脂フィルム11と銅層12との間に金属シード層等を設けることもできる。
【0023】
図1に示した銅張積層板10においては、樹脂フィルム11の上面側にのみ銅層12を設けた例を示したが、係る形態に限定されるものではなく、下面側にも銅層等を配置することもできる。
【0024】
ところで、銅層12に配線加工を行い、所望の配線パターンを備えたフレキシブル配線板とするためには、サブトラクティブ法、セミアディティブ法いずれの場合でも、銅層12の第2の面12b上にフォトレジストを配置することとなる。しかしながら、銅層12の第2の面12bは上述のように防錆処理がなされているため、防錆剤の層が形成されている。このため、フォトレジストの剥離が生じやすいという問題があった。
【0025】
そこで、本発明の発明者らがフォトレジストの剥離を抑制する方法について検討を行ったところ、防錆処理された第2の面の純水に対する接触角を45°以上80°以下とすることで、フォトレジストの剥離を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
以下に本実施形態の銅張積層板の部材について詳述する。
【0028】
樹脂フィルム11の材料としては特に限定されるものではなく、任意の材料を用いることができる。樹脂フィルム11としては例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンテレナフタレート(PEN)等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、または液晶ポリマー系フィルム等を用いることができる。特にこれらの材料の中から、耐熱性、誘電体特性、電気絶縁性やフレキシブル配線板の製造工程やその後工程での耐薬品性、および用途等を考慮に入れて適宜選択できる。樹脂フィルム11としてはポリイミド系フィルムを好ましく用いることができ、ポリイミドフィルムをより好ましく用いることができる。
【0029】
樹脂フィルム11の厚さは用途等に応じて任意に選択することができ、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0031】
銅層12の構成は特に限定されないが、銅層12は例えば乾式めっき法により形成された銅薄膜層から構成することができる。また、銅層12は例えば乾式めっき法により形成された銅薄膜層と、湿式めっき法により形成された銅めっき層とから構成することもできる。
【0032】
銅層12の厚さは特に限定されるものではなく、例えば作製するフレキシブル配線板に供給する電流の大きさ等に応じて任意に選択することができるが、例えば0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。
【0033】
なお、銅層の厚さは、係る銅張積層板を用いてフレキシブル配線板の配線加工をする際の方法により選択することが好ましい。具体的には例えば、サブトラクティブ法により銅張積層板の配線加工をする場合には、銅層の厚さは5μm以上12μm以下であることがより好ましい。また、セミアディティブ法により銅張積層板の配線加工をする場合には、銅層の厚さは0.1μm以上4μm以下であることがより好ましい。
【0034】
そして、銅層12の第2の面12bについては防錆処理を施しておくことができる。
【0035】
防錆処理は、例えば銅層12の第2の面12bに対して、防錆剤を塗布等により供給することにより実施できる。なお、防錆剤を塗布等することで、銅層12の第2の面12bに防錆剤層を形成することができる。
【0036】
この際用いる防錆剤としては特に限定されるものではないが、有機防錆剤を用いることが好ましい。これは有機防錆剤を用いた場合、銅と結合、吸着して強固な防錆剤層が形成され、銅層12の第2の面12bを防錆処理した際に、第2の面12bの接触角を特に調整し易くなるためである。
【0037】
有機防錆剤の中でもアゾール類をより好ましく用いることができる。またアゾール類を含め、複数の防錆剤成分を混合させて用いてもよい。
【0038】
アゾール類の具体例としては、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等が挙げられるが、ベンゾトリアゾールをより好ましく用いることができる。
【0039】
防錆剤は例えば水溶液にして銅張積層板10に対して塗布するか、銅張積層板10を防錆剤の水溶液中に浸漬することで、銅層12の第2の面12bを防錆処理することができ、防錆効果を発揮することができる。なお、防錆剤として有機防錆剤を用いた場合、有機防錆剤は水への溶解度が小さいため、アルコールを添加した水溶液とするのが好ましい。添加するアルコールとしては、メチルアルコールまたはエチルアルコールを主成分とするものが好適である。
【0040】
ここで、本発明の発明者らの検討によれば、銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角を所定の範囲とすることで、銅層12の第2の面12b上にフォトレジストを配置した際に、フォトレジストが剥離することを抑制することができる。そして、本発明の発明者らの検討によれば、銅層12の第2の面12bを防錆処理する際に、第2の面12bに供給する防錆剤の濃度等を選択することにより第2の面12bの純水に対する接触角を選択することが可能である。
【0041】
例えば有機防錆剤を用いて銅層を防錆処理する場合、用いた有機防錆剤の量(濃度)が増えるに従い、銅層を被覆した防錆剤層の膜厚が増加する傾向にある。有機防錆剤は水の溶解度が小さいことから分かる通り疎水性を示すため、防錆剤層の膜厚が増加するに従い純水に対する接触角は高くなる。反対に、防錆処理を施した銅層の純水に対する接触角が低くなれば防錆剤層の膜厚が薄い、もしくはほとんど存在しないことを示す。
【0042】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、防錆処理を施した銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は、45°以上80°以下であることが好ましく、45°以上70°以下であることがより好ましい。
【0043】
これは、防錆処理を施した銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角が45°以上の場合、十分な防錆効果を示すためである。
【0044】
ただし、銅層12の第2の面12bに形成された防錆剤層は、銅張積層板を基板として例えばフレキシブル配線板を作製する工程において、フォトレジストを塗布、露光、現像した後のフォトレジストのパターンと銅層の密着性を低下させる要因となる。このため、防錆剤層の膜厚が厚くなりすぎるとフォトレジストのパターンが剥がれてしまう現象が発生することがある。そして、本発明の発明者らの検討によれば、防錆処理した銅層12の第2の面12bにおける純水に対する接触角を上述のように80°以下とすることで、フォトレジストのパターンが銅層12から剥離することを抑制できるため、好ましい。
【0045】
銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は、防錆処理を施した銅層12の第2の面12bのうち、任意に選択した2点以上の複数点で測定することが好ましく、複数点で測定した場合に、その最小値と最大値とが、上述の範囲に入っていることが好ましい。
【0046】
なお、防錆剤の量(濃度)に応じて、銅層12に付着した防錆剤の付着量も増減することになるが、付着量により防錆剤層の不均一性を検知することは困難である。このため、従来は、銅層が部分的に発錆したり、銅層に塗布、露光、現像したフォトレジストのパターンが部分的に剥がれる現象が生じるまでは、防錆剤層の不均一性を判断できなかった。これに対して、純水に対する接触角は、比較的狭い領域の情報まで見ることができる。このため、防錆剤層の不均一性まで検知することができ、付着量よりも防錆処理の効果を判断するには有効である。
【0047】
そして、上述のように銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角が45°以上80°以下とすることで、銅層12の第2の面に防錆剤の層を均一に形成した状態とすることができる。このため、銅層12の発錆をより確実に防止する観点からも銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は45°以上80°以下を満たすことが好ましい。
【0048】
銅層12は第2の面12bのみではなく、側面部分、例えば側面12cについても同様に防錆処理を施しておくことができる。
【0049】
特に銅層12は、樹脂フィルム11等に覆われていない、露出した面について防錆処理が施されていることが好ましい。なお、銅層12の第2の面12bの防錆処理を施す際に側面12c等についてもあわせて防錆処理することができる。このため、側面12c等についても第2の面12bと同様の純水に対する接触角を有することができる。
【0050】
本実施形態の銅張積層板においては、上述した樹脂フィルム11、及び銅層12以外にも他の層を含むことができる。
【0051】
既述のように銅張積層板としては、3層基板と2層基板とが知られている。3層基板の場合、樹脂フィルムと銅層との間に接着剤層を設けることができる。また、2層基板の銅張積層板の製造方法としては、キャスティング法、ラミネート法、メタライズ法等の各種方法が知られている。各製造方法により必要な層や任意の層をさらに設けることもできる。例えばメタライズ法により銅張積層板を製造する場合、樹脂フィルム11と銅層12との間に、金属シード層を設けることもできる。
【0052】
金属シード層は、樹脂フィルムと銅層との密着性や、フレキシブル配線板の絶縁信頼性の向上に寄与する。このような金属シード層として、ニッケル、またはニッケルにクロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト、およびタングステンの中から選択される1種以上の元素を添加したニッケル合金を使用することが好ましい。これらの中でも、ニッケル−クロム合金が好ましく、クロムの含有量が15質量%以上25質量%以下であるニッケル−クロム合金であることがより好ましい。このようなニッケル−クロム合金は、高い絶縁信頼性を有し、かつ、容易に配線加工することができる。
【0053】
金属シード層の膜厚は、該金属シード層を形成する金属または合金の種類や組成、フレキシブル配線板での配線加工の容易さ、配線に要求される密着性や絶縁信頼性等に応じて適宜選択されるものであり特に限定されない。金属シード層の膜厚は例えば3nm以上50nm以下とすることが好ましい。金属シード層の膜厚が3nm未満の場合、配線部以外の銅層をエッチングなどで除去して配線加工する際、エッチング液が樹脂フィルムと銅層との間に染み込みやすくなり、配線が浮き上がってしまう問題が生じるおそれがあるからである。一方、金属シード層の膜厚が50nmを超えると、エッチングで最終的に配線パターンを形成する際、金属シード層が完全に除去されずに残存し、配線間の絶縁不良を発生させるおそれがあるためである。
【0054】
以上に本実施形態の銅張積層板について説明したが、銅層12の第2の面12bについて防錆処理が施されているため、銅層に錆が生じることを防止することができる。また、銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角が所定の範囲にあるため、銅層12の第2の面12bにフォトレジストパターンを配置し、フレキシブル配線板に加工する際等でも、フォトレジストのパターンが剥がれることを抑制できる。
[銅張積層板の製造方法]
次に、本実施形態の銅張積層板の製造方法について説明する。
【0055】
本実施形態の銅張積層板の製造方法は、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成され、樹脂フィルムと対向する第1の面と、第1の面とは反対側の面である第2の面とを有する銅層とを含む銅張積層板の、第2の面を防錆処理する防錆処理工程を有することができる。そして、防錆処理工程においては、第2の面の純水に対する接触角が45°以上80°以下となるように防錆処理を実施することができる。
【0056】
なお、本実施形態の銅張積層板の製造方法により、上述の銅張積層板を好適に製造することができる。このため、銅張積層板において既述の事項については一部説明を省略する。
【0057】
本実施形態の銅張積層板の製造方法は上述のように、樹脂フィルム11上に銅層12を形成した銅張積層板10に関して、銅層12の第2の面12bを防錆処理する防錆処理工程を有することができる。防錆処理工程は防錆剤を、銅層12の第2の面12bに対して供給することにより実施することができる。
【0058】
防錆処理工程において、銅層12の第2の面12bに防錆剤を供給する方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により防錆処理工程を実施できる。例えば防錆剤を水溶液にして銅張積層板10に対して塗布する方法や、銅張積層板10を防錆剤の水溶液中に浸漬することで銅張積層板を防錆剤の溶液に浸漬する方法により、銅層12の第2の面12bに防錆剤を供給することができる。
【0059】
防錆処理工程において用いる防錆剤は特に限定されないが、例えば有機防錆剤を用いることが好ましい。これは有機防錆剤を用いた場合、銅と結合、吸着して強固な防錆剤層が形成され、銅層12の第2の面12bを防錆処理した際に、第2の面12bの接触角を特に調整し易くなるためである。
【0060】
有機防錆剤の中でもアゾール類をより好ましく用いることができる。またアゾール類を含め、複数の防錆剤成分を混合させて用いてもよい。
【0061】
アゾール類の具体例としては、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等が挙げられるが、ベンゾトリアゾールをより好ましく用いることができる。
【0062】
なお、防錆剤として有機防錆剤を用いた場合、有機防錆剤は水への溶解度が小さいため、アルコールを添加した水溶液とするのが好ましい。すなわち、有機防錆剤はアルコールを含んでいることが好ましい。添加するアルコールとしては、メチルアルコールまたはエチルアルコールを主成分とするものが好適である。
【0063】
ここで、本発明の発明者らの検討によれば、銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角を所定の範囲とすることで、銅層12の第2の面12b上にフォトレジストを配置した際に、フォトレジストが剥離することを抑制することができる。
【0064】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は、銅層12の第2の面12bを防錆処理する際に第2の面12bに供給する防錆剤の濃度等を選択することで選択することが可能である。
【0065】
例えば有機防錆剤を用いて銅層を防錆処理する場合、用いた有機防錆剤の量(濃度)が増えるに従い、銅層を被覆した防錆剤層の膜厚が増加する傾向にある。有機防錆剤は水の溶解度が小さいことから分かる通り疎水性を示すため、防錆剤層の膜厚が増加するに従い純水に対する接触角は高くなる。
【0066】
そして、フォトレジストを配置した場合に剥離の発生を抑制するため、防錆処理後の銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は、45°以上80°以下であることが好ましく、45°以上70°以下であることがより好ましい。
【0067】
これは、本発明の発明者らの検討によれば、銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角が45°以上の場合、十分な防錆効果を示すためである。
【0068】
ただし、銅層12の第2の面12bに形成された防錆剤層は銅張積層板を基板としてフレキシブル配線板を作製する工程において、フォトレジストを塗布、露光、現像した後のフォトレジストのパターンと銅層の密着性を低下させる要因となる。このため、防錆剤層の膜厚が厚くなりすぎると、フォトレジストを現像した後、例えばフォトレジストを用いた各種処理を実施している間にフォトレジストのパターンが剥がれてしまう現象が発生することがある。そして、本発明の発明者らの検討によれば、防錆処理した銅層12の第2の面12bにおける純水に対する接触角が80°以下では、フォトレジストのパターンが銅層から剥離することを抑制できるため、好ましい。
【0069】
なお、銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は、防錆処理工程を実施した後、銅層12の第2の面12bのうち、任意に選択した2点以上の複数点で測定することが好ましい。複数点で測定した場合に、その最小値と最大値とが、上述の範囲に入っていることが好ましい。
【0070】
そして、上述のように銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角が45°以上80°以下とすることで、銅層12の第2の面に防錆剤の層を均一に形成した状態とすることができる。このため、銅層12の発錆をより確実に防止する観点からも銅層12の第2の面12bの純水に対する接触角は45°以上80°以下を満たすことが好ましい。
【0071】
また、防錆処理工程において、銅層12の第2の面12bのみではなく、側面部分、例えば側面12cについても同様に防錆処理を施しておくことができる。
【0072】
特に銅層12は、樹脂フィルム11等に覆われていない、露出した面について防錆処理が施されていることが好ましい。なお、銅層12の第2の面12bの防錆処理を施す際に側面12c等についてもあわせて防錆処理することができる。このため、側面12c等についても第2の面12bと同様の純水に対する接触角を有することができる。
【0073】
防錆処理工程において、銅層12の第2の面12bに防錆剤を供給した後、必要に応じて水洗を行い、過剰な防錆剤を除去することもできる。なお、水洗を実施した場合には水切り、乾燥を併せて実施することが好ましい。
【0074】
また、本実施形態の銅張積層板の製造方法は、上述の防錆処理工程以外にも任意の工程を有することができる。
【0075】
具体的には例えば樹脂フィルム11上に銅層12を配置した上記防錆処理工程に供する前の銅張積層板を製造する工程を有することができる。メタライズ法により銅張積層板を製造する場合、以下の工程を有することができる。
【0076】
樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に乾式めっき法にて金属シード層を成膜する金属シード層形成工程。
【0077】
乾式めっき法にて金属シード層上に銅薄膜層を形成する銅薄膜層形成工程。
【0078】
電気めっき法および/または無電解めっき法にて銅めっき層を形成する銅めっき層形成工程。
【0079】
以下、各工程について具体的に説明する。
【0080】
まず金属シード層形成工程について説明する。
【0081】
金属シード層は既述のように、樹脂フィルム11と銅層12との密着性や、フレキシブル配線板の絶縁信頼性の向上に寄与する。
【0082】
金属シード層の材料として好適に用いることができる材料、及び金属シード層の好適な膜厚については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0083】
金属シード層は例えば樹脂フィルム上に乾式めっき法により成膜することができる。乾式めっき法としては蒸着法や、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0084】
なお、金属シード層を設けずに、樹脂フィルム上に直接銅薄膜層や、場合によってはさらに銅めっき層を形成することもできる。この場合には、金属シード層形成工程は省略することができる。
【0085】
次に銅薄膜層形成工程について説明する。なお、本工程で形成する銅薄膜層と、後述する銅めっき層とで、銅層を構成することができる。また、銅層の厚さによっては本工程で形成する銅薄膜層から銅層を構成することもできる。
【0086】
乾式めっき法により形成する銅薄膜層の膜厚は0.01μm以上1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0087】
銅薄膜層の厚さが0.01μm未満の場合、後述する銅めっき層を電気めっき法により成膜(厚付け)する際や、セミアディティブ法により配線加工する際の電気めっきをする際に、給電が不十分となり銅層の積層が不均一になったり、生産性が低下する場合がある。一方、乾式めっき法による成膜速度は後述する電気めっき法や無電解めっき法による成膜速度に比べて遅いため、乾式めっき法により1μmを超えて成膜しようとすると、生産性が低下する。このため、上述のように銅薄膜層の膜厚は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0088】
次に、銅めっき層形成工程について説明する。
【0089】
上述のように、形成する銅層の厚さが厚い場合、銅層を乾式めっき法のみで成膜しようとすると生産性が低下するという問題がある。このため、例えば銅層の膜厚を1μm以上とするなど銅層を厚付けする場合には、銅層の一部である銅薄膜層を乾式めっき法で成膜した後、電気めっき法もしくは無電解めっき法、またはこれら両者を組み合わせた方法で銅めっき層を成膜することが好ましい。
【0090】
銅めっき層形成工程において銅めっき層を成膜する条件は特に限定されるものではなく、電気めっき法および/または無電解めっき法により常法により成膜することができる。
【0091】
なお、銅層の厚さが1μm未満の場合には、銅めっき層形成工程を実施せずに、銅薄膜層形成工程のみにより銅層を形成することもできる。この場合、銅層は銅薄膜層のみにより構成されることとなる。
【0092】
最終的な銅層の膜厚は特に限定されるものではないが、例えば0.1μm以上20μm以下とするのが好ましい。またこの最終的な銅層の膜厚は、フレキシブル配線板の配線加工方法により決まる面もあり、サブトラクティブ法によって配線加工する場合には5μm以上12μm以下とすることが好ましい。また、セミアディティブ法によって配線加工する場合には0.1μm以上4μm以下とすることが好ましい。
【0093】
なお、ここでいう最終的な銅層の膜厚とは、銅層が銅薄膜層のみからなる場合には、該銅薄膜層の厚さを意味する。また、銅層が銅薄膜層と、銅めっき層とから構成される場合には、銅薄膜層と、銅めっき層との厚さの合計を意味する。
【0094】
ここまで説明した銅めっき層形成工程まで実施した後、上述の防錆処理工程を実施することで、防錆処理が施された銅張積層板を作製することができる。
【0095】
次に、銅めっき層形成工程において電気めっき法により銅めっき層を形成し、連続して防錆処理工程を実施する場合の装置の構成例について、
図2を用いて説明する。
【0096】
図2は電気めっき・防錆処理装置の概略側面図を示している。
【0097】
図2の電気めっき・防錆処理装置20は、図示しない前段の乾式めっき法にて少なくとも片面に銅薄膜層を含む金属導電体層が成膜された樹脂フィルム(以降、金属化樹脂フィルムFとする)に対して、ロールツーロール方式で搬送しながら電気めっきを行っている。そして、厚膜化された銅層を有する銅張積層板Sを作製するものである。
【0098】
具体的には、ロール状に巻回された金属化樹脂フィルムFが巻き出される巻出しロール21と、ローラーで搬送される金属化樹脂フィルムFに銅層を厚膜化する電気めっき部22と、電気めっき部22で付着しためっき液を除去するめっき液の除去部23とを有する。そして、めっき液の除去部23の後、電気めっき部22によって厚膜化された銅層を有する銅張積層板Sに防錆
剤の塗布、乾燥等を施す後処理部24と
、防錆処理等が施された銅張積層板Sをロール状に巻き取る巻取りロール25とで構成される。
【0099】
各部分について説明する。
図2に示した電気めっき・防錆処理装置20においては、電気めっき部22は、図示しないめっき液が張り込まれためっき槽内に4枚の互いに平行なアノード221(陽極)がめっき液に浸漬するように設けられている。また、アノード221に金属化樹脂フィルムFが連続的に対向できるように5つのローラー222が液面下と液面上とに交互に配置されている。そして、これらアノード221と液面上のローラー222とに図示しない給電装置によって電力の供給が行われる。なお、めっき槽内は図示しない仕切り板によって2枚のアノード221と1つのローラー222とを各々有する2つの槽に区切られている。なおアノード221やローラー222の数は所望の銅層の膜厚など必要に応じて増減させればよい。まためっき液は公知のものを用いればよく、例えば硫酸銅水溶液中に塩素イオンやブライトナーと呼ばれる添加剤等を含有させたものを使用することができる。
【0100】
めっき液の除去部23は、各々金属化樹脂フィルムFに銅層が厚付けされた銅張積層板Sを上下から挟んで搬送する2つのローラー対231と、それらの間に位置する洗浄水の吹き付け装置232とから構成される。めっき液の除去部23を銅張積層板Sが通過することで、銅張積層板Sに付着しためっき液を洗浄して除去できるようになっている。
【0101】
後処理部24は銅層が厚付けされた銅張積層板Sの表面に防錆剤の被膜を形成する部分であり、防錆剤の塗布、水洗、水切り、及び乾燥の順に処理され、最終的に巻取りロール25にて銅張積層板Sはロール状に巻き取られる。
【0102】
防錆剤の塗布は、例えば
図2に示したように、銅張積層板Sの下方から防錆剤の吹付装置241により防錆剤を吹き上げる吹上法の他、スプレーノズル法、シャワーリング法、ミスト法、電着法など公知の方法を利用することができる。あるいは、銅張積層板S全体を容器に張り込まれた防錆剤水溶液に浸漬させてもよい。
【0103】
防錆剤の塗布後、水洗手段242により銅張積層板Sを水洗し、水切り手段243により水洗で用いた水を切り、乾燥手段244により銅張積層板Sを乾燥させることができる。
【0104】
防錆剤塗布後の水洗は銅層に付着もしくは吸着しない過剰な防錆剤が銅層表面に残留しないようにする目的で実施することができる。また、水切り及び乾燥は水分の除去が不十分なままで銅張積層板Sが巻取りロール25でロール状に巻き取られると、乾燥の過程で防錆剤が再凝集して部分的に濃化することがあるので、これを抑える目的で実施できる。
【0105】
上述した水洗手段242、水切り手段243、乾燥手段244については特に限定されるものではなく、任意の手段により実施することができる。例えば、乾燥は公知の方法を用いて行えばよいが、銅張積層板が出入りするスリットとガスの供給口と排出口を配置したボックス内にガスの供給口から加熱した空気を供給して乾燥させたり、炉を用いて乾燥したりすればよい。
【0106】
後処理部24で好適に用いることができる防錆剤については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0107】
また、後処理部24で用いる防錆剤の濃度や、水洗、水切り、乾燥等の条件は特に限定されるものではなく、防錆処理された銅層の純水に対する接触角が、所定の範囲内となるように適宜設定すればよい。
【0108】
ここでは、メタライズ法を用いて、樹脂フィルムの少なくとも一方の面に金属シード層とその表面に銅層をそれぞれ乾式めっきにより成膜し、さらにその表面に銅層を電気めっきにより厚付けして作製された銅張積層板に対する防錆処理に適用されたものを示した。しかし、既述のように本発明は上述の方法、及び上述の方法により得られた銅張積層板に限定されるものではない。
【0109】
既述のように、銅張積層板としては、3層基板や、キャスティング法、ラミネート法等で作製された2層基板の銅張積層板も知られており、これらの銅張積層板に対して既述のように防錆処理工程を実施し、銅張積層板とすることもできる。
【0110】
なお、3層基板とは、樹脂フィルムと銅箔とを接着剤を介して貼り合せた銅張積層板をいう。また、キャスティング法とは、銅箔に樹脂フィルムの原料となるワニスを塗布し樹脂フィルム層を形成する方法を、ラミネート法は、ポリイミドフィルムに熱可塑性のポリイミド系接着剤を塗布して銅箔と加熱圧着させる方法をいう。もちろん銅箔を用いて銅張積層板を作製する場合には、本実施形態の銅層は銅箔を意味することは言うまでもない。
【0111】
以上、本実施形態の銅張積層板、及び銅張積層板の製造方法について説明した。本実施形態の銅張積層板、及び銅張積層板の製造方法によれば、銅層の第2の面について純水に対する接触角が所望の範囲となるように防錆処理を施している。このため、銅層に錆が生じることを防止した銅層配線板とすることができる。また、フォトレジストパターンを配置し、フレキシブル配線板に加工する際等においても、フォトレジストのパターンが剥がれることを抑制できる銅張積層板とすることができる。
【実施例】
【0112】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
まず、以下の実施例、比較例において作製した銅張積層板の評価方法について説明する。
(純水に対する接触角)
銅張積層板の銅層の第2の面について、自動接触角計DM−301(協和界面科学株式会社製)を用いて、滴下した純水量1.0μl、温度25℃の条件で、銅層表面と純水による水滴のなす角を5点測定し、最小値と最大値により評価した。
(長期保管試験)
作製した銅張積層板を室温にて500時間保管し、銅層の表面の錆発生の有無を肉眼にて確認した。
(フォトレジストのパターンの剥がれ試験)
銅張積層板に液状フォトレジストを塗布し、
図3に示すパターンを有するマスクを介して紫外線照射して露光した。次に現像を行いフォトレジストのパターンを形成した。この現像の際に、銅層からのフォトレジストのパターンの剥がれの有無を確認した。
[実施例1]
厚み38μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名カプトン(登録商標))の表面に、金属シード層としてスパッタリング法にて膜厚10nmのニッケル−20質量%クロム合金膜を成膜した(金属シード層形成工程)。
【0114】
次に、金属シード層の表面にさらにスパッタリング法にて膜厚100nmの銅薄膜層を積層した(銅薄膜層形成工程)。樹脂フィルム上に銅薄膜層を形成した金属化樹脂フィルムFは、ロール状に巻回した。
【0115】
作製した金属化樹脂フィルムFを、
図2に示すような電気めっき・防錆処理装置を用いて、巻出しロール21から巻出し、連続的に搬送しながら、電気めっき部22で処理して銅めっき層を形成し(銅めっき層形成工程)、銅層が厚膜化された銅張積層板Sを得た。
【0116】
そして、めっき液の除去部23で銅張積層板Sに付着しためっき液を除去し
た。さらに後処理部24で有機防錆剤
を塗布
し、水洗、水切り、加熱した空気による乾燥
(防錆処理工程)を行ってから巻取りロール25で巻取った。
【0117】
電気めっき部22では、硫酸を100g/L、硫酸銅を180g/L含み、塩素含有量50質量ppmのめっき液を用い、これに銅めっき皮膜の平滑性等を確保する目的で添加剤を添加した。この電気めっき部22に、金属化樹脂フィルムFを3m/min.の搬送速度で導入することにより、金属化樹脂フィルムFの銅層を8μmまで厚膜化した。
【0118】
後処理部24の有機防錆剤の水溶液としては、ベンゾトリアゾールが0.4質量%、メチルアルコールが1.0質量%となるように添加、調整した水溶液を用いた。
【0119】
めっき液の除去部23で洗浄水の吹き付け装置232から吹き付ける洗浄水、及び後処理部24で水洗する際に水洗手段242から吹き付ける洗浄液には純水を用いた。
【0120】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が59°、最大値が61°であった。
【0121】
また、銅張積層板の長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。さらにフォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したが、フォトレジストパターンの剥がれも生じないことを確認できた。
[実施例2]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.2質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
【0122】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が56°、最大値が59°であった。
【0123】
また銅張積層板の長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。さらにフォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したが、フォトレジストパターンの剥がれも生じないことを確認できた。
[実施例3]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.05質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
【0124】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が47°、最大値が52°であった。
【0125】
また銅張積層板を長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。さらにフォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したが、フォトレジストパターンの剥がれも生じないことを確認できた。
[実施例4]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.6質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
【0126】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が65°、最大値が68°であった。
【0127】
また銅張積層板を長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。さらにフォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したが、フォトレジストパターンの剥がれも生じないことを確認できた。
[比較例1]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.9質量%とした以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
【0128】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が85°、最大値が89°であった。
【0129】
また銅張積層板を長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。
【0130】
しかし、フォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したところ、
図4に示すようにフォトレジストパターンの剥がれが確認された。
[比較例2]
防錆処理工程で用いた有機防錆剤の水溶液中のベンゾトリアゾールの量を0.6質量%とし、防錆処理工程において加熱した空気による乾燥を行わなかった以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
【0131】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角を測定すると最小値が66°、最大値が84°と他の実施例、比較例よりも大きなばらつきを示した。
【0132】
また銅張積層板を長期保管試験を実施したが、発錆しないことが確認できた。
【0133】
しかし、フォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したところ、一部にフォトレジストパターンの剥がれが確認された。
[比較例3]
有機防錆剤の塗布、及び
有機防錆剤の塗布後の水洗を行わなかった点以外は、実施例1と同一の条件で銅張積層板を作製した。
【0134】
得られた銅張積層板の銅層の純水に対する接触角は最小値が39°、最大値が40°であった。
【0135】
また銅張積層板の長期保管試験を実施したところ、発錆による変色が肉眼でも確認できた。
【0136】
しかし、フォトレジストのパターンの剥がれ試験を実施したところ、フォトレジストパターンの剥がれは確認されなかった。
【0137】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0138】
【表1】
以上より、銅層の第2の表面の純水に対する接触角がすべて45°以上80°以下の範囲内にある実施例1〜実施例4は、銅張積層板の発錆は認められず、またフォトレジストのパターンの剥がれも認められなかった。
【0139】
一方銅層表面の純水に対する接触角が45°未満の値を示した比較例3では発錆による変色が、少なくとも1点以上の測定点で80°を超える値を示した比較例1及び比較例2ではフォトレジストのパターンの剥がれの発生がそれぞれ確認された。