特許第6677462号(P6677462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677462
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】水稲種子の温湯消毒法
(51)【国際特許分類】
   A01C 1/08 20060101AFI20200330BHJP
【FI】
   A01C1/08
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-161014(P2015-161014)
(22)【出願日】2015年8月18日
(65)【公開番号】特開2017-38535(P2017-38535A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100158702
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中岡 清典
(72)【発明者】
【氏名】金勝 一樹
(72)【発明者】
【氏名】大石 千理
(72)【発明者】
【氏名】村田 和優
【審査官】 小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−199976(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0024759(KR,A)
【文献】 特開2014−092311(JP,A)
【文献】 実開平07−006682(JP,U)
【文献】 特開2008−005800(JP,A)
【文献】 特開昭56−169523(JP,A)
【文献】 水稲種子の水分含量を低下させることによる温湯消毒時の高温耐性の向上,日本作物学会紀事,日本,2013年11月 5日,第82巻第4号,397-401
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 1/00− 1/08
A01F25/00−25/22
B02B 1/00− 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水稲種子の水分含量を低下させる乾燥処理工程と、
前記乾燥処理工程で水分含量が低下した水稲種子を水分検出手段が配設されてなる容器に保管する保管工程と、
前記保管工程で保管した後の水稲種子であって、水分含量が所定範囲内の水稲種子を温湯に浸漬して消毒する温湯処理工程と、を含み、
前記保管工程で保管した後の水稲種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬して消毒するに際しては、前記水分検出手段により前記容器に保管した水稲種子の水分含量を検出し、該水分含量が前記所定範囲内か否かを確認して、該水分含量が前記所定範囲を超える水稲種子については、加温乾燥により水分含量を前記所定範囲内に低下させ、前記加温乾燥により穀温が上昇した状態の水稲種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬することを特徴とする水稲種子の温湯消毒法。
【請求項2】
前記保管工程で保管した後の水稲種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬して消毒するに際しては、前記水分検出手段により前記容器に保管した水稲種子の水分含量を検出し、該水分含量が前記所定範囲内か否かを確認して、該水分含量が前記所定範囲内の水稲種子については、前記加温乾燥により水分含量を低下させることなく直ちに前記温湯処理工程で温湯に浸漬する請求項1記載の水稲種子の温湯消毒法。
【請求項3】
前記乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、前記温湯処理工程において、水分含量が7%以上10%以下の水稲種子を温湯に浸漬する請求項1又は2記載の水稲種子の温湯消毒法。
【請求項4】
前記乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させ、前記温湯処理工程において、水分含量が7%以上10%以下の水稲種子を温湯に浸漬する請求項1又は2記載の水稲種子の温湯消毒法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温耐性を高めた水稲種子(種籾)を効率よく温湯消毒する水稲種子の温湯消毒法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水稲種子(以下、「種子」という。)の温湯消毒法は周知である(例えば、特許文献1,2参照。)。
温湯消毒法は、温湯に種子を浸漬するだけの簡単な消毒法であり、農薬を使用しないクリーンな技術である。
【0003】
現在、温湯消毒法の処理条件は、種子を60℃の温湯に10分間浸漬することが一般的とされている。
そして、前記条件により温湯処理すれば、多くの品種において種子の高い発芽率が実現できるとともに、多くの病害虫に対し農薬とほぼ同等の防除効果を期待することができる。
【0004】
ところで、モチ米や酒米など、いくつかの品種では、種子の高温耐性が弱く、上記条件で温湯処理した場合、発芽率が極端に低下する問題がある。
また、ばか苗病やもみ枯細菌病については、上記処理条件では完全に防除できない問題がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、種子の水分含量(含水率)を低下させることで、温湯消毒時の高温耐性が高まることを報告した(非特許文献1参照。)。
【0006】
種子の高温耐性が高まれば、本来、高温耐性が弱い品種でも発芽率を低下させることなく温湯消毒することが可能となる。
また、種子の高温耐性が高まれば、従来よりも高温で温湯処理できるために、ばか苗病やもみ枯細菌病に対する防除効果が向上する。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のものは、実験室レベルの研究に止まるものであり、実用化するには種子を効率よく温湯消毒する手法について更に検討する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−9612号公報
【特許文献2】特開2008−29245号公報
【非特許文献1】「水稲種子の水分含量を低下させることによる温湯消毒時の高温耐性の向上」、日本作物学会紀事第82巻第4号、2013年10月5日、p.397−401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、種子の高温耐性を高めるとともに効率よく温湯消毒することができる水稲種子の温湯消毒法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の水稲種子の温湯消毒法は、
水稲種子の水分含量を低下させる乾燥処理工程と、
前記乾燥処理工程で水分含量が低下した水稲種子を水分検出手段が配設されてなる容器に保管する保管工程と、
前記保管工程で保管した後の水稲種子であって、水分含量が所定範囲内の水稲種子を温湯に浸漬して消毒する温湯処理工程と、を含み、
前記保管工程で保管した後の水稲種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬して消毒するに際しては、前記水分検出手段により前記容器に保管した水稲種子の水分含量を検出し、該水分含量が前記所定範囲内か否かを確認して、該水分含量が前記所定範囲を超える水稲種子については、加温乾燥により水分含量を前記所定範囲内に低下させ、前記加温乾燥により穀温が上昇した状態の水稲種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬することを特徴とする。
【0011】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、
前記保管工程で保管した後の水稲種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬して消毒するに際しては、前記水分検出手段により前記容器に保管した水稲種子の水分含量を検出し、該水分含量が前記所定範囲内か否かを確認して、該水分含量が前記所定範囲内の水稲種子については、前記加温乾燥により水分含量を低下させることなく直ちに前記温湯処理工程で温湯に浸漬することが好ましい。
【0013】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、
前記乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を4%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、前記温湯処理工程において、水分含量が4%以上11%以下の水稲種子を温湯に浸漬することが好ましい。
【0014】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、
前記乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、前記温湯処理工程において、水分含量が7%以上10%以下の水稲種子を温湯に浸漬することが好ましい。
【0015】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、
前記乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させ、前記温湯処理工程において、水分含量が7%以上10%以下の水稲種子を温湯に浸漬することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水稲種子の温湯消毒法によれば、保管工程で保管した後の水稲種子を温湯処理工程で温湯に浸漬して消毒するに際しては、容器に配設された水分検出手段により前記容器に保管した水稲種子の水分含量を検出し、該水分含量が前記所定範囲内か否かを確認して、該水分含量が所定範囲を超える水稲種子については、加温乾燥により水分含量を前記所定範囲内に低下させて温湯処理工程で温湯に浸漬するので、温湯消毒時における水稲種子の高温耐性が高まり、モチ米や酒米など、元来、水稲種子の高温耐性が弱い品種でも発芽率を低下させることなく温湯消毒することが可能となる。
また、本発明の水稲種子の温湯消毒法によれば、温湯消毒時における水稲種子の高温耐性が高まるため、従来よりも高温の温湯に浸漬することが可能となり、ばか苗病やもみ枯細菌病等に対する防除効果が向上する。
【0017】
本発明の水稲種子の温湯消毒法によれば、保管工程で保管した水稲種子のうち、水分含量が所定範囲を超える水稲種子については、加温乾燥により穀温が上昇した状態の水稲種子を温湯処理工程で温湯に浸漬するので、加温乾燥により水稲種子の水分含量を低下させる際の余熱効果により効率よく温湯消毒することができる。
【0018】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、保管工程で保管した水稲種子のうち、水分含量が所定範囲を超える水稲種子については、加温乾燥により穀温が上昇した状態の水稲種子を温湯処理工程で温湯に浸漬し、水分含量が所定範囲内の水稲種子については、加温乾燥により水分含量を低下させることなく直ちに温湯処理工程で温湯に浸漬することで、前記保管工程で保管した水稲種子の水分含量に応じた処理により、効率的かつ効果的に温湯消毒することができる。
【0019】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、乾燥処理工程で水分含量が低下した水稲種子を、保管工程で水分検出手段が配設されてなる容器に保管し、前記水分検出手段が前記容器に保管された水稲種子の水分含量を検出するので、前記容器内に保管された水稲種子の水分含量を常時監視することが可能となり、必要時に効率よく温湯消毒することができる。
【0020】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、乾燥処理工程で水分含量が低下した水稲種子を、保管工程で複数の容器に小分けして保管することとすれば、必要時に必要量の水稲種子を、該水稲種子の水分含量に応じた処理により、効率的かつ効果的に温湯消毒することができる。
また、本発明の水稲種子の温湯消毒法は、乾燥処理工程で水分含量が低下した水稲種子を保管工程で複数の容器に小分けして保管することで、前記保管工程で保管した水稲種子のうち水分含量が所定範囲を超える水稲種子について加温乾燥により水分含量を前記所定範囲内に低下させるに際し、小型の乾燥機を使用することが可能となる。
【0021】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を4%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、温湯処理工程において、水分含量が4%以上11%以下の水稲種子を温湯に浸漬することとすれば、保管工程で保管した水稲種子のうち、水分含量が11%を超える水稲種子についてのみ、加温乾燥により水分含量を4%以上11%以下の範囲内に低下させればよく、効率的に温湯消毒することができる。
【0022】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、温湯処理工程において、水分含量が7%以上10%以下の水稲種子を温湯に浸漬することとすれば、保管工程で保管した水稲種子のうち、水分含量が10%を超える水稲種子についてのみ、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させればよく、効率的に温湯消毒することができる。
【0023】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、乾燥処理工程において、水稲種子の水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させ、温湯処理工程において、水分含量が7%以上10%以下の水稲種子を温湯に浸漬することとすれば、保管工程で保管した水稲種子のうち、保管中に吸湿して水分含量が10%を超えることとなった水稲種子についてのみ、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させればよく、効率的に温湯消毒することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態における水稲種子の温湯消毒法のフロー図。
図2】「日本晴」(品種名)の種子の発芽率を示すグラフ。
図3】「こしひかり」(品種名)の種子の発芽率を示すグラフ。
図4】水稲種子の水分含量と発芽率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態における水稲種子の温湯消毒法のフロー図を示す。
本発明の実施の形態における水稲種子の温湯消毒法は、収穫後の種子を乾燥機により乾燥し、前記種子の水分含量(含水率)を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させる乾燥処理工程と、前記水分含量が低下した種子について厚さ選別、比重選別、脱ぼう等の調製作業を行う調製工程と、前記水分含量が低下し調製した種子を水分計が配設された保管タンクに保管する保管工程と、前記保管タンクに保管した後の種子であって、水分含量が7%以上10%以下の範囲内の種子を温湯に浸漬して消毒する温湯処理工程と、温湯処理後の種子を冷水に浸漬する冷水処理工程と、冷水処理後の種子を脱水する脱水工程と、脱水後の種子を乾燥させる仕上乾燥工程と、仕上乾燥後の種子を袋詰めする袋詰め工程を備える。
【0026】
本発明の実施の形態において、前記保管タンクに保管した後の種子を温湯消毒するに際しては、前記保管タンクに配設された水分計により前記保管タンクに保管中の種子の水分含量を検出し、該検出結果に基づいて前記種子の水分含量が7%以上10%以下の範囲内にあるか否かを確認する。
そして、前記水分含量が10%を超える種子については、40〜50℃の熱風による加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させ、前記加温乾燥により穀温の上昇した種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬する。
他方、前記水分含量が7%以上10%以下の範囲内にある種子については、前記加温乾燥により水分含量を低下させることなく直ちに前記温湯処理工程で温湯に浸漬する。
【0027】
ここで、収穫後の種子は、日本国内における検査基準の関係上、水分含量を14.5%以下に低下させる必要がある。
また、温湯消毒時の種子の水分含量は、後述する実験結果から、高温耐性を高める上で4%以上11%以下とすることが好ましく、さらには7%以上10%以下とすることがより好ましい。
【0028】
本発明の実施の形態において、水分計は必ずしも保管タンクに配設されていなくてもよく、保管タンクに保管中の種子、又は保管タンクに保管した後の種子であって温湯消毒前の種子について、別途水分計により水分含量を計測することとしてもよい。また、本発明の実施の形態において、加温乾燥は熱風によるものに限らない。
【0029】
本発明の実施の形態によれば、保管工程で保管タンクに保管中の種子の水分含量を検出し、該検出結果に基づいて前記種子の水分含量が7%以上10%以下の範囲内にあるか否かを確認し、前記水分含量が10%を超える種子については、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させて温湯処理工程で温湯に浸漬するので、温湯消毒時における種子の高温耐性が高まり、モチ米や酒米などの種子の高温耐性が弱い品種でも発芽率を低下させることなく温湯消毒することが可能となる。
また、本発明の実施の形態によれば、温湯消毒時における種子の高温耐性が高まるため、従来よりも高温の温湯に浸漬することが可能となり、ばか苗病やもみ枯細菌病等に対する防除効果が向上する。
【0030】
本発明の実施の形態によれば、乾燥処理工程において種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させるので、温湯消毒に際し、種子の水分含量が10%を超える場合についてのみ、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させればよく、効率的に温湯消毒することができる。
【0031】
本発明の実施の形態によれば、乾燥処理工程において種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、温湯消毒に際し、種子の水分含量が10%を超える場合について、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させるので、気密度の高くない保管タンクを使用することができコストを低減することができる。
【0032】
本発明の実施の形態によれば、保管タンクに保管した種子のうち、水分含量が10%を超える種子については、加温乾燥により穀温が上昇した状態の種子を温湯処理工程で温湯に浸漬するので、前記加温乾燥により水分含量を低下させる際の余熱効果により種子の周囲において温湯が冷やされることがなく、短時間のうちに温湯が種子に作用するため効率よく温湯消毒することができる。
【0033】
本発明の実施の形態によれば、保管タンクに保管した種子のうち、水分含量が10%を超える種子については、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させて温湯処理工程で温湯に浸漬し、水分含量が7%以上10%以下の範囲内にある種子については、加温乾燥により水分含量を低下させることなく直ちに温湯処理工程で温湯に浸漬するので、前記保管タンクに保管した種子の水分含量に応じた処理により、効率的かつ効果的に温湯消毒することができる。
【0034】
本発明の実施の形態によれば、乾燥処理工程において水分含量が低下した種子を、保管工程において水分計が配設された保管タンクに保管するので、前記保管タンクに保管中の種子の水分含量を常時監視することが可能となり、必要時に効率よく温湯消毒することができる。
【0035】
本発明の実施の形態によれば、乾燥処理工程において水分含量が低下した種子を、保管工程において複数の保管タンクに小分けして保管することができるので、必要時に必要量の種子を、該種子の水分含量に応じた処理により、効率的かつ効果的に温湯消毒することができる。
また、本発明の実施の形態において、乾燥処理工程で水分含量が低下した種子を、保管工程で複数の保管タンクに小分けして保管することとすれば、水分含量が10%を超える種子について、加温乾燥により水分含量を低下させるに際し、小型の乾燥機を使用することが可能となる。
【0036】
本発明の実施の形態において、乾燥処理工程は、収穫後の種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、温湯処理工程は、水分含量が7%以上10%以下の範囲内の種子を温湯に浸漬することとしたが、乾燥処理工程は、種子の水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させることとしてもよい。
本発明の実施の形態において、保管タンクの気密度が高くない場合、前記保管タンクに保管中の種子が大気から吸湿することがあるが、乾燥処理工程が、種子の水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させ、温湯処理工程が、水分含量7%以上10%以下の種子を温湯に浸漬することとすれば、保管工程で保管タンクに保管した種子のうち、保管中に吸湿して水分含量が10%を超えることとなった種子についてのみ、加温乾燥により水分含量を7%以上10%以下の範囲内に低下させればよく、効率よく温湯消毒することができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態において、乾燥処理工程で水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させた種子であって保管工程で保管タンクに保管した種子の水分含量が7%未満となることは、通常の作業フローの範囲内では想定できないが、万が一、前記種子の水分含量が7%未満となった場合には、吸水・吸湿処理により種子の水分含量を7%以上10%以下の範囲内にした後に温湯処理を行えばよい。
【0038】
本発明の実施の形態において、乾燥処理工程は、収穫後の種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させ、温湯処理工程は、水分含量が7%以上10%以下の範囲内の種子を温湯に浸漬することとしたが、温湯処理工程は、水分含量が7%以上11%以下の範囲内の種子を温湯に浸漬することとしても、種子の高温耐性を高めることができる。
【0039】
本発明の実施の形態において、乾燥処理工程は、収穫後の種子の水分含量を7%以上14.5%以下の範囲内に低下させることとしたが、種子の水分含量を4%以上14.5%以下の範囲内に低下させることとしてもよい。また、その場合、温湯処理工程は、水分含量が4%以上11%以下の範囲内の種子を温湯に浸漬することが好ましく、水分含量が4%以上10%以下の範囲内の種子を温湯に浸漬することがより好ましい。
【0040】
本発明の実施の形態における水稲種子の温湯消毒法は、収穫後の種子の水分含量を低下させる乾燥処理工程と、前記水分含量が低下した種子を保管タンクに保管する保管工程と、前記保管タンクに保管した後の種子であって、水分含量が所定範囲内の種子を温湯に浸漬して消毒する温湯処理工程と、を含み、前記保管工程で保管した種子の水分含量を検出し、該検出結果に基づいて前記種子の水分含量が所定範囲内にあるか確認し、前記水分含量が所定範囲を超える種子については、加温乾燥により水分含量を前記所定範囲内に低下させ、前記加温乾燥により穀温の上昇した種子を前記温湯処理工程で温湯に浸漬し、前記水分含量が前記所定範囲内にある種子については、前記加温乾燥により水分含量を低下させることなく直ちに前記温湯処理工程で温湯に浸漬するものであればよく、他の工程については適宜変更可能である。
【0041】
<水稲種子の水分含量と高温耐性の関係>
水稲種子の水分含量と温湯消毒時の高温耐性の関係について説明する。
実験では、水稲種子(種籾)として、温湯消毒時の高温耐性が弱いとされる品種名「日本晴」(粳米、日本国産)、温湯消毒時の高温耐性が強いとされる品種名「こしひかり」(日本国産)及び「ひとめぼれ」(日本国産)を用いた。また、種子を温湯に浸漬する時間は、すべての実験で10分間とした。
【0042】
図2は、「日本晴」(品種名)の種子の発芽率を示すグラフであって、シリカゲルの存在下において50℃の熱風で乾燥処理された種子を、67℃の温湯に10分間浸漬して温湯処理した場合の発芽率のグラフを示す。
図2において、横軸は乾燥処理時間であり、乾燥処理時間が長くなるほど種子の水分含量は低下する。また、縦軸は発芽率である。さらに、棒グラフ中の数値は水分含量を示す。
【0043】
図2から、温湯処理に際し種子を乾燥処理しない場合(水分含量13.71%)、種子の発芽率は70%以下であり非常に低いことが分かる。
また、温湯処理に際し種子を乾燥処理して水分含量を低下させた場合(水分含量7.59%〜4.26%)は、いずれも種子を乾燥処理しない場合と比較して種子の発芽率が上昇していることが分かる。
【0044】
図3は、「こしひかり」(品種名)の種子の発芽率を示すグラフであって、40℃の熱風で乾燥処理された種子を、70℃の温湯に10分間浸漬して温湯処理した場合の発芽率のグラフを示す。
図3において、横軸は乾燥の処理時間であり、乾燥処理時間が長くなるほど種子の水分含量は低下する。また、縦軸は発芽率である。さらに、棒グラフ中の数値は水分含量を示す。
【0045】
図3からも、温湯処理に際し種子を乾燥処理しない場合(水分含量12.06%)、種子の発芽率は70%以下であり非常に低いことが分かる。
また、温湯処理に際し種子を乾燥処理して水分含量を低下させた場合(水分含量8.81%〜5.95%)は、いずれも種子を乾燥処理しない場合と比較して種子の発芽率が上昇していることが分かる。
【0046】
図2及び図3の結果から、温湯処理を行う前に種子の水分含量を低下させることで、高温耐性が高まることが確認できた。
【0047】
図4は、「日本晴」(品種名)、「ひとめぼれ」(品種名)、「こしひかり」(品種名)の各種子を40℃又は50℃の熱風で乾燥処理した後、67℃又は70℃の温湯に10分間浸漬して温湯処理した場合における、前記各種子の水分含量と発芽率の関係のグラフを示す。
図4において、横軸は水分含量であり、縦軸は発芽率である。また、図4において、水分含量12%以上のデータは、温湯処理に際し乾燥処理していない種子についてのものである。
【0048】
図4から、いずれの品種の種子においても、温湯処理に際し種子を乾燥処理をして水分含量を低下させた場合、種子を乾燥処理していない場合と比較して、種子の発芽率が上昇していることが分かる。
また、種子の水分含量がある程度の値より低くなると、種子の発芽率が若干低下する傾向があることが分かる。
【0049】
図4の結果から、温湯処理する前に、種子の水分含量を4%以上11%以下の範囲内に低下させることが高温耐性を高める上で好ましく、さらには7%以上10%以下の範囲内とすることが高温耐性を高める上でより好ましいことが確認できた。
【0050】
なお、本発明は、上記実施の形態に限るものでなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の水稲種子の温湯消毒法は、種子の高温耐性を高めるとともに効率よく温湯消毒することができるため、極めて実用的である。
図1
図2
図3
図4