(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る画像処理装置の構成例を示す。画像処理装置1は、繰り返し演算により、入力された劣化画像から復元画像を得る装置であり、劣化過程が既知であるときに、当該劣化過程の逆過程を解くことで画像復元を図る。特に、逆過程が不良設定の場合(解が一意に定まらない場合)において、拘束条件を付加することで解を定める。劣化過程が適用される前の画像(求めたい復元画像の理想値)をH、観測される劣化画像をLとおく。また、2次元の画像座標(x,y)における画像Hの画素値をH(x,y)と表記し、他の画像についても同様の表記とする。劣化画像Lは、劣化過程を汎関数Dとすると式(1)で表される。
【0018】
例えば、劣化過程Dが間引きフィルタと再標本化による場合、式(2)のように定式化できる。ここで、fは間引きフィルタのインパルス応答、Kは間引きフィルタの覆う領域、s
x及びs
yは水平及び垂直方向の再標本化の間隔(画像Hの標本点間隔に対する倍率)、t
x及びt
yは再標本点の原点の座標(画像Hの原点に対する座標)である。
【0020】
なお、式(2)は離散化し、積分演算を総和演算に置き換えてもよい。例えば、劣化過程Dとして、Lanczos−3型の間引きフィルタの後、元の画像の2倍の再標本化間隔で再標本化する過程を想定する場合には、式(3)のように定式化可能である。
【0022】
図1に示す画像処理装置1は、初期画像設定部10と、メモリ(記憶部)11と、スイッチ12と、摂動発生部13と、加算部14と、評価部15と、メモリ(記憶部)16と、判定部17と、スイッチ18と、スイッチ19と、スイッチ20とを備え、繰り返し演算により、入力された劣化画像から復元画像を得る。なお、
図1ではメモリ11とメモリ16とを区別して記載しているが、実態は同一のメモリとし、それぞれの記憶領域をアドレスによって分割してもよい。
【0023】
初期画像設定部10、摂動発生部13、及び加算部14により復元候補画像生成部21を構成する。復元候補画像生成部21は、入力された劣化画像Lの復元画像の候補となる復元候補画像を複数生成し、評価部15に出力する。
【0024】
初期画像設定部10は、繰り返し演算による復元画像の求解を行う際の初期値たる初期画像H
0を、入力された劣化画像Lに基づいて式(4)のように設定し、スイッチ12に出力する。
【0026】
式(4)において、D
*は任意の汎関数である。極端な場合、定数cに対し、式(5)のようにD
*を定義してもよい。これは、初期画像設定部10が、初期画像H
0として全画素値がcの一様な画像を設定することを意味する。
【0028】
好ましくは、初期画像設定部10は、汎関数D
*として劣化過程Dの逆過程を近似する汎関数を用いて初期画像H
0を生成する。例えば、劣化過程Dが画像の解像度を削減する場合には、汎関数D
*は双3次補間などの内挿補間によって解像度を増加させる。例えば、劣化過程Dが解像度を水平及び垂直に1/2に削減するものである場合には、汎関数D
*は入力画像の解像度を水平及び垂直に2倍に内挿補間によって増大する。劣化過程Dが式(2)で表される場合、初期画像設定部10は、例えば式(6)により初期画像H
0を生成する。
【0030】
このとき関数gは、領域Jで定義される適当な補間関数であり、例えば式(7)のようなLanczos−3型のフィルタを用いることができる。
【0032】
メモリ11は、繰り返し演算処理における現時点(第n回のステップ)の1ステップ前(第n−1回のステップ)に得られた復元画像H
n-1を保持する。
【0033】
スイッチ12は、2入力1出力のスイッチであり、常時閉(Normally Closed)側の入力接点はスイッチ18の出力接点に接続される。スイッチ12の常時開(Normally Open)側の入力接点は、初期画像設定部10の出力に接続される。スイッチ12は、開始信号が入力されたときに動作し、常時開側の接点を閉じて常時閉側の接点を開き、初期画像設定部10の出力する初期画像H
0をメモリ11に書き込む。
【0034】
摂動発生部13は、繰り返し演算における第n−1回の復元画像から第n回の復元画像を得るべく、試行のための画素値変化パターンTを生成し、加算部14に出力する。摂動発生部13は、例えば、ある画素位置(例えば繰り返しの回数に応じて画像内を走査するよう動作する画素位置)の画素値を所定レベルだけ増加又は減少させる。画像座標(p,q)における画素値をレベルrだけ増加させる(rが負数のときは減少となる)場合には、画素値変化パターンTは、式(8)となる。
【0036】
レベルrは正負の値を織り交ぜて与えることが好ましい。織り交ぜ方としては、画素値変化パターンT内に正負(例えば、+1と−1)を混在させたり、繰り返しの回数nに応じて画素値変化パターンTの各画素の符号を反転したりする方法がある。
【0037】
加算部14は、式(9)に示すように、第n−1回の復元画像H
n-1に画素値変化パターンTを加え、第n回のステップにおける復元候補画像G
nを生成し、評価部15及びスイッチ18に出力する。なお、本明細書において添え字nは、繰り返し演算における第n回のステップを意味するものとする。
【0039】
評価部15は、劣化画像Lを参照しつつ、復元候補画像G
nの尤もらしさを評価して評価値w
nを生成し、判定部17及びスイッチ19に出力する。本実施形態では、評価値w
nは値が小さいほど評価が高いとする。詳細については後述する。
【0040】
メモリ16は、第n−1回のステップまでに計算された評価値u
n-1が記憶される。なお、メモリ16は開始信号が入力されたときにはその記憶内容を初期化する。例えば、メモリ16は開始信号が入力されたときにはその記憶内容をu
0=∞とするか、評価値が記憶されていないことが分かるような記憶内容とする。
【0041】
判定部17は、メモリ16に記憶された第n−1回のステップまでに計算された評価値u
n-1と、第n回のステップで評価部15により計算された復元候補画像G
nの評価値w
nとに基づいて、復元候補画像G
nを復元画像H
nとして受け入れるか否かを判定し、判定結果q
nをスイッチ18及びスイッチ19に出力する。判定結果q
nの値は、例えば、受け入れる場合にはq
n=1、受け入れない場合にはq
n=0とする。判定部17の判定方法は、例えば、評価値u
n-1と評価値w
nの大小を比較し、式(10)のように判定する。
【0043】
スイッチ18は、2入力1出力のスイッチであり、常時閉側の入力にはメモリ11の出力が接続され、第n−1回のステップにおける復元画像H
n-1が入力される。また、常時開側の入力には加算部14の出力が接続され、第n回のステップにおける復元候補画像G
nが入力される。スイッチ18は、判定部17の判定結果q
n=1のときに接点が動作し、常時開側が閉じ、常時閉側が開く。このように動作することで、第n回のステップにおいてメモリ11には、復元画像H
nが式(11)のように設定される。
【0045】
すなわち、メモリ11は、判定結果q
n=1のときにその記憶内容を復元候補画像G
nで書き換え、判定結果q
n=0のときには前の記憶内容を維持する。なお、スイッチ12及びスイッチ18は、3入力1出力のスイッチ1個として実装してもよい。あるいは、スイッチ18を設けず、メモリ11に書き込みのトリガ入力を設け、またメモリ11のデータ入力には加算部14の出力を常時入力しておき、判定結果q
n=1のときにメモリ11にトリガ入力を与えて、メモリ11の記憶内容を更新するよう構成してもよい。
【0046】
スイッチ19は、2入力1出力のスイッチであり、常時閉側の入力には、メモリ16の出力が接続され、第n−1回のステップにおける評価値u
n-1が入力される。また、常時開側の入力には評価部15の出力が接続され、第n回のステップにおける評価値w
nが入力される。スイッチ19は、判定部17の判定結果q
n=1のときに接点が動作し、常時開側が閉じ、常時閉側が開く。このように動作することで、第n回のステップにおいてメモリ16には、評価値u
nが式(12)のように設定される。
【0048】
すなわち、メモリ16は、判定結果q
n=1のときにその記憶内容を評価値w
nの値で書き換え、判定結果q
n=0のときには前の記憶内容を維持する。なお、スイッチ19を設けず、メモリ16に書き込みのトリガ入力を設け、またメモリ16のデータ入力には評価部15の出力を常時入力しておき、判定結果q
n=1のときにメモリ16にトリガ入力を与えて、メモリ16の記憶内容を更新するよう構成してもよい。
【0049】
以上の動作により、繰り返しの回数nが増加するにつれ、メモリ11に記憶される復元画像H
nが劣化を補正される方向で更新される。
【0050】
スイッチ20は、終了信号が与えられたときに閉じ、当該時点における復元画像H
Nを外部に出力する。終了信号は、繰り返しの回数nが所定の回数(例えば、N回)に達したときに発生してもよい。また、評価値u
nが所定の閾値以下となった場合や、評価値u
nの変化(例えば、u
n−u
n-1)の大きさが閾値以下となった場合など、評価値u
nが所定の条件を満たした際に発生してもよい。さらに、終了信号は、繰り返しの回数nと、評価値u
nの両方に対する所定の条件式に基づいて発生するものであってもよい。
【0051】
つぎに、評価部15について詳細に説明する。
図2に、評価部15の構成例を示す。
図2に示す評価部15は、劣化過程模擬部151と、誤差評価部152と、変動評価部153と、結合部154とを備える。
【0052】
劣化過程模擬部151は、復元候補画像G
nに劣化を加えて劣化模擬画像E
nを生成し、誤差評価部152に出力する。劣化模擬画像E
nは、劣化過程Dを適用して式(13)で表される。
【0054】
劣化過程Dが解像度を水平及び垂直に1/2に削減するものである場合には、劣化過程模擬部151は、例えば式(14)により劣化模擬画像E
nを生成する。
【0056】
誤差評価部152は、第n回のステップにおける劣化模擬画像E
nと劣化画像Lとの誤差e
nを評価し、結合部154に出力する。誤差e
nは、例えば、画素値の差分の絶対値和や、式(15)で表される画素値の差分の二乗和とする。
【0058】
変動評価部153は、画素配列の2主軸(水平軸及び垂直軸)とは異なる2軸(以下、2副軸と称する。)上において測る非等方性のノルムを用いた正則化項を算出し、結合部154に出力する。非等方性のノルムをL1近似の全変動ノルムとし、2副軸を2主軸とそれぞれ45度をなす2軸(画像の水平軸を基準の0度として方位45度及び135度の2軸)とした場合、正則化項v
nは式(16)で表される。ここで、R
xは復元候補画像G
nの水平方向の画素数であり、R
yは復元候補画像G
nの垂直方向の画素数である。
【0060】
結合部154は、誤差評価部152から入力された誤差e
nと、変動評価部153から入力された正則化項v
nとを結合し、評価値w
nとして出力する。結合部24は、例えば式(17)に示すように誤差e
nと正則化項v
nの線形結合により評価値w
nを得る。なお、λは正の実定数である。この場合、評価値w
nは値が小さいほど評価が高いことを意味する。
【0062】
以上、画像処理装置1について説明したが、画像処理装置1として機能させるためにコンピュータを好適に用いることができる。そのようなコンピュータは、画像処理装置1の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。なお、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録可能である。
【0063】
上述したように、本発明では2副軸において測る非等方性のノルムにより定義される正則化項v
nを用いて復元候補画像G
nを評価する。そのため、画素が2次元の正方又は長方の格子状に配列した劣化画像の画像復元において、画素配列の2主軸と平行でない画像エッジにおいて顕著となる階段状の劣化を選択的に抑え、画質を向上させることが可能となる。
【0064】
図3に劣化画像と復元画像の例を示す。復元画像については本発明を含む複数の手法による結果を示す。
図3(a)は劣化画像の例である。ここでの復元とは、
図3(a)の16×16画素の劣化画像から、解像度を2×2倍にした32×32画素の画像を得ることとする。
【0065】
例えば、双3次補間内挿によってアップサンプリングした場合には、
図3(b)に示すようにぼやけの強いものとなる。また、最近傍補間によってアップサンプリングした場合には、
図3(c)に示すように矩形の画素構造の顕わなものとなる。なお、本発明における初期画像設定部10は、例えば、
図3(b)や
図3(c)のような画像を初期画像H
0として設定してもよい。
図3(d)乃至
図3(f)の復元の初期画像H
0には
図3(c)の最近傍補間の結果を用いた。
【0066】
図3(d)は、L1近似ではなく厳密な定義による全変動ノルムを用いた復元画像であり、エッジの精細感が改善している。
図3(e)は、L1近似の全変動ノルムを用いた復元画像である。L1ノルムの評価にあたっては、画像の水平軸及び垂直軸と平行な2軸で演算している。
図3(e)の復元結果は、
図3(c)の最近傍補間のアップサンプリング結果と同様、矩形の画素構造の顕わなものである。そして
図3(f)は、本発明による復元結果である。このように、
図3(f)に示す復元画像は、
図3(d)に示す厳密な全変動ノルムによる復元結果にも似た精細な復元結果が得られていることが分かる。
【0067】
また、等方性の全変動ノルムではL2ノルムの演算において画素位置毎に乗算(2乗)の演算が必要であったところ、本発明で用いる2副軸において測る非等方性のノルムでは絶対値演算に置換され、演算量の削減が可能となる。
【0068】
また、2副軸を2主軸とのなす角がそれぞれ45度の2軸とすることにより、非等方性のノルムが、斜め方向に隣接する2画素間の差の絶対値を2対計算してその総和を求めることで求められるため、演算量が少なくかつハードウェアやソフトウェアでの実装が容易となる。
【0069】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。