特許第6678880号(P6678880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678880
(24)【登録日】2020年3月23日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】金属樹脂接合方法及び金属樹脂接合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20200406BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   B29C65/02
   B29C65/16
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-254742(P2016-254742)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-103548(P2018-103548A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2018年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(72)【発明者】
【氏名】和鹿 公則
(72)【発明者】
【氏名】川人 洋介
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−076437(JP,A)
【文献】 特開2014−046599(JP,A)
【文献】 特開2014−111392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
C25F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材と熱分解によってカルボキシル基を生成する樹脂材とを直接接合する方法であって、
還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって前記金属材に新生面を形成すると共に、前記カルボン酸によって前記新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得る第一工程と、
前記樹脂材と前記カルボン酸被覆金属材とを重ね合わせ、被接合界面を形成する第二工程と、
加熱手段によって前記被接合界面を前記樹脂材の熱分解温度以上に昇温することで前記被接合界面から水を除去し、前記樹脂材の分解によってカルボキシル基を生成すると共に、前記カルボン酸の除去により前記カルボン酸被覆金属材の表面に前記新生面を露出させる第三工程と、
前記被接合界面を前記ガラス転移温度未満に冷却し、前記カルボキシル基と前記新生面との結合により接合部を形成する第四工程と、を有すること、
を特徴とする金属樹脂接合方法。
【請求項2】
前記カルボン酸がシュウ酸又はギ酸であること、
を特徴とする請求項1に記載の金属樹脂接合方法。
【請求項3】
前記加熱手段にレーザ照射を用いること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の金属樹脂接合方法。
【請求項4】
前記金属材側から前記レーザ照射を施すこと、
を特徴とする請求項3に記載の金属樹脂接合方法。
【請求項5】
前記第四工程の直後に前記接合部を加圧すること、
を特徴とする請求項1〜4のうちのいずれかに記載の金属樹脂接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材と樹脂材とを接合する方法及び金属材と樹脂材とが接合された金属樹脂接合体に関し、より具体的には、接着剤やリベット締結等を用いることなく金属材と樹脂材とを強固に直接接合する方法及び強固な接合部を有する金属樹脂接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材と樹脂材との接合には、接着剤やリベット締結を用いるのが一般的である。接着剤を用いる場合は物理的吸着力や化学的吸着力により接合が達成され、リベット締結を用いる場合はリベットによる物理的な締結によって接合が達成される。
【0003】
しかしながら、接着剤を用いる場合、接着剤が濡れ広がるために接合領域が限定される精密な接合には不向きであることに加え、接合強度が被接合面の状態(表面粗さ等)に大きく影響されるという問題がある。更に、接着剤の硬化に必要な時間が生産性を律速すると共に、接着剤の状態維持や管理が難しい等の課題が存在する。
【0004】
また、リベット締結を用いる場合、締結部の大きさや重量によって部品が大型化・重量化することに加え、設計の自由度も低下することから、適用できる部品が限定されてしまう。
【0005】
これに対し、近年、レーザを用いて金属材と樹脂材を直接接合する技術が検討されている。例えば、特許文献1(特開2008−213156号公報)においては、レーザ光源を用いて金属材料と樹脂材料を合わせた状態で接合部の樹脂材料に気泡を発生させる温度まで加熱することにより金属材料と樹脂材料を接合する方法において、レーザ光源として、樹脂材料を溶融させる温度に加熱する樹脂溶融用レーザ光源と樹脂材料を分解させる温度に加熱する樹脂分解用レーザ光源を使用することを特徴とする金属樹脂接合方法、が提案されている。
【0006】
前記特許文献1に記載の金属樹脂接合方法では、接合部の樹脂材料に特定の大きさの気泡を発生させる温度まで加熱することにより金属材料と樹脂材料を接合する方法において、加熱源として樹脂溶融用レーザ光源と樹脂分解用レーザ光源を併用しているので、樹脂の加熱場所及び加熱温度の制御が極めて容易かつ効率的であり、結果として高い強度の金属樹脂接合部の均一な形成に大きく寄与することができる、としている。
【0007】
また、特許文献2(特開2016−016429号公報)においては、金属部材と樹脂部材とを接合する接合方法であって:凹凸部を有し、水酸基または反応性官能基が導入された第一接合予定表面を備える金属部材を用意すること;前記導入された水酸基または反応性官能基に対して反応性を有する官能基が導入された第二接合予定表面を備える樹脂部材を用意すること;前記金属部材の第一接合予定表面と前記樹脂部材の第二接合予定表面とを当接させること;前記金属部材の第一接合予定表面にレーザ光を照射することで、前記第一接合予定表面を加熱し、該熱により前記樹脂部材の第二接合予定表面を軟化または溶融させて前記金属部材の前記凹凸部に係合させるとともに、前記水酸基または反応性官能基と前記官能基とを反応させて、前記金属材料と前記樹脂部材とを接合すること;を含む、レーザを用いた部材の接合方法、が提案されている。
【0008】
前記特許文献2に記載の接合方法では、金属材料と樹脂部材とを、金属材料の凹凸部を利用した機械的結合に加えて、各部材に導入した官能基による化学的結合により、直接的にかつ強固に接合することができる、としている。
【0009】
更に、特許文献3(国際公開第2014/034340号)においては、金属部材の表面にレーザ光透過性の熱可塑性樹脂からなる樹脂部材を接触させ、前記樹脂部材側から加圧下にレーザ光を照射してこの樹脂部材における金属部材との接触面側を溶融させ、これら金属部材と樹脂部材との間を接合させて金属−樹脂複合体を製造する際に用いられる金属・樹脂複合体製造用金属部材であり、前記金属部材が、その表面にオーバーハング率5〜40%の凹凸面を有すると共に、この凹凸面上に光吸収率(波長800nm)60%以上の光吸収皮膜を有することを特徴とする金属・樹脂複合体製造用金属部材、が提案されている。
【0010】
前記特許文献3に記載の金属・樹脂複合体製造用金属部材では、金属基材の凹凸面の表面粗さを規定することにより、溶融した樹脂が固化した際に十分に凹部面に保持され、接合界面の低い接合強度及び気密性確保を解消することができ、接合強度及び気密性に優れた金属・樹脂複合体を製造することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−213156号公報
【特許文献2】特開2016−016429号公報
【特許文献3】国際公開第2014/034340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、前記特許文献1〜3に記載の金属樹脂接合方法で得られる接合部は比較的良好な継手特性を有するが、信頼性が重要視される構造部材等に適用する場合、より高い継手強度が求められる。
【0013】
また、前記特許文献2の接合方法では金属部材が凹凸部を有する必要があることに加えて、水酸基又は反応性官能基が導入された金属部材と、当該水酸基又は反応性官能基に対して反応性を有する官能基が導入された樹脂部材と、の接合に限られる。また、前記特許文献3の金属・樹脂複合体製造用金属部材では金属部材の表面をオーバーハング率5〜40%の凹凸面とし、当該凹凸面上に光吸収率(波長800nm)60%以上の光吸収皮膜を有する必要があり、接合可能な組み合わせが限られることに加えて、接合プロセスが煩雑である。
【0014】
更に、前記特許文献1〜3に記載の接合方法では、基本的にレーザ光が透過可能な樹脂のみを被接合材とすることができ、例えば、CFRP等の着色樹脂を接合することができない。
【0015】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、種々の金属材と樹脂材とを直接接合する簡便な方法及び強固な接合部を有する金属樹脂接合体を提供することにあり、より具体的には、従来公知の接合方法では実現できない程度に高い接合強度を有する金属樹脂接合体を得るための接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記目的を達成すべく、金属材と樹脂材の接合方法について鋭意研究を重ねた結果、金属材の新生面と熱分解によって生成する樹脂材由来のカルボキシル基とを化学結合させること等が効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
即ち、本発明は、
金属材と樹脂材とを直接接合する方法であって、
還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって前記金属材に新生面を形成すると共に、前記カルボン酸によって前記新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得る第一工程と、
前記樹脂材と前記カルボン酸被覆金属材とを重ね合わせ、被接合界面を形成する第二工程と、
加熱手段によって前記被接合界面を前記樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで前記被接合界面から水を除去し、前記樹脂材の分解によってカルボキシル基を生成すると共に、前記カルボン酸の除去により前記カルボン酸被覆金属材の表面に前記新生面を露出させる第三工程と、
前記被接合界面を前記ガラス転移温度未満に冷却し、前記カルボキシル基と前記新生面との結合により接合部を形成する第四工程と、を有すること、
を特徴とする金属樹脂接合方法、を提供する。
【0018】
本発明の金属樹脂接合方法は、金属材の新生面と熱分解によって生成する樹脂材由来のカルボキシル基とを化学結合させることで、強固な接合を達成するものであり、金属材表面の凹凸を利用して金属材と樹脂材を機械的に接合する方法や、反応性を有する官能基同士を結合させて接合を達成する方法とはその接合原理が全く異なる。なお、本願明細書において「新生面」とは、金属材の最表面が除去されて活性化した状態を意味し、例えば、酸化皮膜が除去されて金属材が露出した状態や、酸化皮膜の最表面が除去・清浄された状態を含むものである。
【0019】
本発明の金属樹脂接合方法では、金属材の新生面と樹脂材由来のカルボキシル基とを化学結合させるため、例えば、反応性を有する官能基同士を結合する場合と比較して、結合サイトの数を飛躍的に増加させることができ、極めて強固な金属樹脂接合部を形成することができる。
【0020】
本発明の金属樹脂接合方法は、金属材の新生面と樹脂材由来のカルボキシル基との化学結合を簡便に達成するため、還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって金属材に新生面を形成すると共に、当該カルボン酸によって新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得る第一工程と、樹脂材とカルボン酸被覆金属材とを重ね合わせ、被接合界面を形成する第二工程と、加熱手段によって被接合界面を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで当該被接合界面から水を除去し、樹脂材の分解によってカルボキシル基を生成すると共に、カルボン酸の除去によりカルボン酸被覆金属材の表面に新生面を露出させる第三工程と、被接合界面をガラス転移温度未満に冷却し、カルボキシル基と新生面との結合により接合部を形成する第四工程と、を有している。
【0021】
本発明の金属樹脂接合方法の第一工程では、金属材に対して還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理を適当に施すことで当該金属材の表面が還元され、新生面が形成される。また、同時に当該新生面はカルボン酸によって被覆され、カルボン酸被覆金属材を得ることができる。つまり、カルボン酸被覆金属材においては、新生面がカルボン酸によって被覆されて保護されており、酸化や腐食等の進行が抑制された状態となっている。
【0022】
次に、本発明の金属樹脂接合方法の第二工程で、樹脂材とカルボン酸被覆金属材とを重ね合わせて被接合界面を形成し、第三工程で加熱手段によって被接合界面を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで当該被接合界面から水を除去し、樹脂材の分解によってカルボキシル基を生成すると共に、カルボン酸の除去によりカルボン酸被覆金属材の表面に新生面を露出させることで、接合に必要な結合サイトが準備される。
【0023】
なお、第二工程において、「樹脂材とカルボン酸被覆金属材とを重ね合わせて被接合界面を形成する」とは、樹脂材とカルボン酸被覆金属材との平面同士を当接させる態様(一般的な重ね接合)や、カルボン酸被覆金属材の平面に樹脂材の端面を当接させる態様(T字接合)等を含むものである。
【0024】
ここで、水酸基は本発明の金属樹脂接合方法の接合プロセスに直接寄与せず、カルボン酸による新生面の被覆や新生面とカルボキシル基との結合を阻害する場合もあるため、被接合界面の昇温によって水は除去される。また、接合界面から水を除去することで、低温環境下における継手特性の低下を効果的に抑制することができる。
【0025】
次に、本発明の金属樹脂接合方法の第四工程で、被接合界面は樹脂材のガラス転移温度未満に冷却され、当該冷却過程においてカルボキシル基と新生面とが化学結合することにより、接合部が形成される。つまり、本発明の金属樹脂接合方法においては、接合は昇温過程ではなく冷却過程における新生面の再安定化によって達成される。
【0026】
本発明の金属樹脂接合方法においては、前記カルボン酸がシュウ酸又はギ酸であること、が好ましい。シュウ酸又はギ酸を用いて金属材を電解処理することで、上述の接合メカニズムにおける新生面の形成、当該新生面への被覆及び脱離が円滑に進行し、極めて強固な接合部を円滑に形成させることができる。なお、カルボン酸はそれぞれ単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。また、カルボン酸を含む混合溶液を使用してもよい。シュウ酸及びギ酸以外には、例えば、リン酸やクエン酸水素二アンモニウム等を用いることができる。
【0027】
また、本発明の金属樹脂接合方法においては、前記加熱手段にレーザ照射を用いること、が好ましい。本発明の効果を損なわない限りにおいて加熱手段は特に制限されず、従来公知の種々の加熱手段を用いることができるが、レーザ照射を用いることで簡便かつ的確に被接合界面を昇温することができる。
【0028】
また、本発明の金属樹脂接合方法においては、前記金属材側から前記レーザ照射を施すこと、が好ましい。樹脂材側からレーザ照射を施す場合は樹脂材にレーザ光透過性等が要求され、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の着色樹脂は被接合材として用いることができない。これに対し、金属材側からレーザ照射することにより、被接合界面を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで、樹脂の種類に依らず被接合材として用いることができる。また、金属材側から加熱することにより、樹脂材側に空間を設けることができ、当該樹脂材表面からの加圧(詳細は後述)が容易となる。
【0029】
更に、本発明の金属樹脂接合方法においては、前記第四工程の直後に前記接合部を加圧すること、が好ましい。本発明の金属樹脂接合方法によって得られる接合部は十分に高い強度を有しているが、加圧工程を加えることで、品質のばらつきを小さくすることができる。当該加圧により、例えば、加熱工程において接合部の樹脂中に導入される気泡を当該接合部外に移動させることができ、より信頼性の高い接合部を得ることができる。更に、当該加圧によって軟化した樹脂材が金属材の熱影響部の範囲を超えて広がることから、金属材と樹脂材との接合界面を拡大することができる。
【0030】
なお、被接合界面において、溶融した樹脂材が僅かにでも存在する場合、当該溶融樹脂材が加圧によって被接合界面に濡れ広がることで、溶融温度よりも低い部位についても接合が達成される。加圧は1.40〜1.85MPaとすることが好ましく、1.70〜1.85MPaとすることがより好ましい。加圧を0.25MPa以上とすることで、気泡の低減(移動)に効果があり、1.85MPa以下とすることで、接合部における樹脂材が薄くなり過ぎることを抑制することができる。
【0031】
また、本発明は、
樹脂材と金属材との重ね接合部材であって、
前記樹脂材と前記金属材とは直接接合されており、
接合部の引張試験において前記金属材が伸長すること、
を特徴とする金属樹脂接合体、も提供する。
【0032】
本発明の金属樹脂接合体は、本発明の金属樹脂接合方法によって製造することができ、金属材と樹脂材は直接接合されており、接着剤やリベット締結によって接合されたものではない。また、本願発明における「引張試験」とは、樹脂−金属接合特性評価試験方法の国際規格であるISO19095に基づくものである。これまでの規格による試験では接合部分より弱い樹脂部分が先に破断してしまい、接合特性の定量化が困難であったが、ISO19095では、試験片形状の最適化や補助治具の使用により、樹脂部分の破壊を防ぐことができるため、接合界面の強度を測定することができる。
【0033】
従来公知の接合方法を用いて樹脂材と金属材とを直接接合する場合、接合界面の強度が十分ではなく、接合部の引張試験において金属材が伸長することはない。これに対し、本発明の金属樹脂接合方法で得られる接合界面の強度は高く、引張試験において金属材が伸長する程度に高い接合強度を有する。
【0034】
また、本発明の金属樹脂接合体においては、接合部の引張試験において前記金属材が破断すること、が好ましい。本発明の金属樹脂接合体は接合界面の強度が極めて高いことから、金属材と樹脂材との組み合わせによっては、金属材が伸長後に破断に至る程度の極めて高い接合強度を有する。
【0035】
また、本発明の金属樹脂接合体においては、前記金属材が鋼材であること、が好ましい。金属材を鋼とすることで安価かつ強固な金属樹脂接合体を実現することができる。なお、本発明の金属樹脂接合体では、金属材が鋼であっても、引張試験において当該鋼が伸長する程に強固な接合界面を有しており、場合によっては当該鋼が破断に至る程に接合部の信頼性が高い。
【0036】
更に、本発明の金属樹脂接合体においては、前記樹脂材が前記金属材に折り返されて固定されるヘミング加工部を有し、前記ヘミング加工部において前記樹脂材と前記金属材とが直接接合されていること、が好ましい。
【0037】
樹脂材と金属材とを直接接合した接合部は、せん断応力に対しては高強度を有するが、剥離方向へ応力が印加されると比較的破断しやすい。これに対し、樹脂材と金属材との接合部を樹脂材が金属材に折り返されて固定されるヘミング加工部とすることで、当該接合部に対して剥離方向への応力印加を効果的に抑制することができる。その結果、金属樹脂接合体の使用環境下において、接合部には主としてせん断応力が印加されることになり、金属樹脂接合体に高い信頼性を付与することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の金属樹脂接合方法及び金属樹脂接合体によれば、種々の金属材と樹脂材とを直接接合する簡便な方法及び強固な接合部を有する金属樹脂接合体を提供することができ、より具体的には、従来公知の接合方法では実現できない程度に高い接合強度を有する金属樹脂接合体を得るための接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の金属樹脂接合方法の工程図である。
図2】本発明の金属樹脂接合体の一例を示す概略断面図である。
図3】金属材と樹脂材とを重ね合わせた状態を示す模式図である。
図4】実施例1で得られた実施金属樹脂接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図5】実施例2で得られた実施金属樹脂接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図6】実施例3で得られた実施金属樹脂接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図7】実施例3で得られた実施金属樹脂接合体試験片のせん断試験後の概観写真である。
図8】実施例4で得られた実施金属樹脂接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図9】実施例4で得られた実施金属樹脂接合体試験片のせん断試験後の概観写真である。
図10】実施例5及び6で得られた実施金属樹脂接合体のせん断引張強度を示すグラフである。
図11】電解処理を施したA1050アルミニウム板表面のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しながら本発明の樹脂金属接合方法及び樹脂金属接合体の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0041】
(1)金属樹脂接合方法
図1は、本発明の金属樹脂接合方法の工程図である。本発明の金属樹脂接合方法は、金属材と樹脂材とを直接接合する方法であって、還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって金属材に新生面を形成すると共に、カルボン酸によって新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得る第一工程(S01)と、樹脂材とカルボン酸被覆金属材とを重ね合わせ、被接合界面を形成する第二工程(S02)と、加熱手段によって被接合界面を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで被接合界面から水を除去し、樹脂材の分解によってカルボキシル基を生成すると共に、カルボン酸の除去によりカルボン酸被覆金属材の表面に新生面を露出させる第三工程(S03)と、被接合界面をガラス転移温度未満に冷却し、カルボキシル基と新生面との結合により接合部を形成する第四工程(S04)と、を有している。以下、各工程について詳述する。
【0042】
(1−1)第一工程(S01:カルボン酸被覆工程)
第一工程(S01)は、還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって金属材に新生面を形成すると共に、カルボン酸によって新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得るための工程である。
【0043】
カルボン酸を用いた電解処理によって金属材に新生面を形成すると共に、接合に直接寄与する新生面をカルボン酸によって被覆することで保護することで、第四工程(S04)で新生面を活用できるカルボン酸被覆金属材を得るための工程である。
【0044】
第一工程(S01)で用いる還元性を有するカルボン酸は、シュウ酸又はギ酸であること、が好ましい。シュウ酸又はギ酸を用いて金属材を電解処理することで、新生面の形成、新生面への被覆及び脱離が円滑に進行し、極めて強固な接合部を円滑に形成させることができる。なお、カルボン酸はそれぞれ単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。ここで、シュウ酸とギ酸を混合する場合、シュウ酸とギ酸を1:2とすることが好ましい。鋼材に対してシュウ酸とギ酸の混合電解液を使用する場合、シュウ酸鉄は溶解度が小さく(熱水で0.026質量%)、鋼材の表面に析出して鋼材の溶解を抑制する保護被膜として作用する。これに対し、鋼材の表面はギ酸鉄として溶解することから、表面の過剰な溶解を抑制しつつ良好な新生面を形成することができる。また、カルボン酸を含む混合溶液を使用してもよい。シュウ酸及びギ酸以外には、例えば、リン酸やクエン酸水素二アンモニウム等を用いることができる。
【0045】
なお、シュウ酸等を用いてアルミニウムに対して電解処理を施す手法は、一般的にアルマイト処理(陽極酸化処理)として知られている。当該アルマイト処理(陽極酸化処理)はアルミニウム材表面への酸化皮膜の形成が目的であることに対し、第一工程(S01)の目的は新生面の形成及び当該新生面の保護であり、電解処理条件が大きく異なる。例えば、アルマイト処理でシュウ酸を用いる場合、2%〜3%のシュウ酸濃度にて20分〜30分の電解処理を施すのに対し、第一工程(S01)でシュウ酸を用いる場合、10%のシュウ酸濃度にてより短時間の処理を施すことが好ましい。
【0046】
金属材としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の金属材を用いることができ、例えば、各種鋼材、亜鉛めっき鋼材、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を用いることができる。
【0047】
(1−2)第二工程(S02:被接合界面形成工程)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で得たカルボン酸被覆金属材と樹脂材とを重ね合わせ、被接合界面を形成するための工程である。
【0048】
ここで、カルボン酸被覆金属材と樹脂材とは、平面同士を当接させて一般的な重ね合わせの状態としてもよく、例えば、カルボン酸被覆金属材の平面に樹脂材の端面を当接させ、所謂T字継手の状態としてもよい。
【0049】
なお、樹脂材としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の樹脂材を用いることができ、例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、PET(Polyethylene Terephthalate)、及び種々の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等を用いることができる。
【0050】
(1−3)第三工程(S03:昇温工程)
第三工程(S03)は、第二工程(S02)で形成させた被接合界面を、加熱手段によって樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで被接合界面から水を除去し、樹脂材の分解によってカルボキシル基を生成すると共に、カルボン酸の除去によりカルボン酸被覆金属材の表面に新生面を露出させるための工程である。
【0051】
加熱手段は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加熱手段を用いることができる。より具体的には、被接合界面の温度を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することができればよく、レーザ照射、アーク加熱、抵抗加熱及び誘導加熱等を用いることができる。ここで、加熱の簡便性等の観点から、レーザ照射を用いることが好ましい。
【0052】
また、加熱手段としてレーザ照射を用いる場合、金属材側から当該レーザ照射を施すこと、が好ましい。樹脂材側からレーザ照射を施す場合は樹脂材にレーザ光透過性等が要求され、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の着色樹脂は被接合材として用いることができない。これに対し、金属材側からレーザ照射することにより、被接合界面を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで、樹脂の種類に依らず被接合材として用いることができる。また、金属材側から加熱することにより、樹脂材側に空間を設けることができ、当該樹脂材表面からの加圧が容易となる。
【0053】
また、被接合界面を樹脂材のガラス転移温度以上に昇温することで、当該接合界面から水を除去することができる。例えば、接着剤を用いて得られた接合界面のように、接合界面に水が存在する場合は使用環境が氷点下になると継手特性が大幅に低下する。これに対し、本発明の金属樹脂接合方法では接合界面から水を除去することができるため、当該継手特性の低下を効果的に抑制することができる。
【0054】
また、被接合界面の昇温によって樹脂材が分解し、当該樹脂材由来のカルボキシル基が生成される。一方で、カルボン酸被覆金属材においては新生面を被覆(保護)していたカルボン酸が除去され、活性な新生面が露出する。
【0055】
なお、被接合界面の温度上昇が小さな場合は、新生面の露出やカルボキシル基の生成が不十分になり、接合界面の強度を十分に高くすることができず、被接合界面の温度上昇が過剰な場合は、接合界面からの樹脂の剥離や熱影響による樹脂の強度低下が生じることになる。よって、例えば、加熱手段にレーザ照射を用いる場合、レーザ出力、走査速度及び焦点距離等のプロセスパラメータを制御することにより、適当な加熱条件を選択することが好ましい。
【0056】
(1−4)第四工程(S04:接合工程)
第四工程(S04)は、被接合界面をガラス転移温度未満に冷却し、カルボキシル基と新生面との結合により接合部を形成するための工程である。つまり、本発明の金属樹脂接合方法において、実際に接合が達成されるのは第四工程(S04)であり、第一工程(S01)〜第三工程(S03)は第四工程(S04)の準備工程となる。
【0057】
第四工程(S04)では、金属材の最表面に形成された新生面と、樹脂材由来のカルボキシル基が化学結合することで、極めて強固な金属樹脂直接接合が達成される。反応性を有する官能基同士を結合させる従来の接合方法と比較して、本発明の金属樹脂接合方法では結合サイトの数が大幅に増加するため、接合強度を飛躍的に高めることができる。
【0058】
なお、第四工程(S04)の直後に接合部を加圧すること、が好ましい。接合部形成直後の加圧は、単純に金属材及び樹脂材の両側から圧力を印加すればよい。本発明の金属樹脂接合方法によって得られる接合部は十分に高い強度を有しているが、加圧工程を加えることで、品質のばらつきを小さくすることができる。当該加圧により、例えば、加熱工程において接合部の樹脂中に導入される気泡を当該接合部外に移動させることができ、より信頼性の高い接合部を得ることができる。更に、当該加圧によって軟化した樹脂材が金属材の熱影響部の範囲を超えて広がることから、金属材と樹脂材との接合界面を拡大することができる。
【0059】
なお、被接合界面において、溶融した樹脂材が僅かにでも存在する場合、当該溶融樹脂材が加圧によって被接合界面に濡れ広がることで、溶融温度よりも低い部位についても接合が達成される。加圧は1.40〜1.85MPaとすることが好ましく、1.70〜1.85MPaとすることがより好ましい。加圧を0.25MPa以上とすることで、気泡の低減(移動)に効果があり、1.85MPa以下とすることで、接合部における樹脂材が薄くなり過ぎることを抑制することができる。
【0060】
(2)金属樹脂接合体
図2は、本発明の金属樹脂接合体の一例を示す概略断面図である。金属樹脂接合体2の形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の形状とすることができるが、図2においては本発明の金属樹脂接合体に好適に用いることができる、ヘミング加工部を有する接合体を示している。ヘミング加工部では樹脂材4が金属材6に折り返されて固定されるヘミング加工部を有し、当該ヘミング加工部において樹脂材4と金属材6とが接合部8において直接接合されている。
【0061】
本発明の金属樹脂接合体2は、樹脂材4と金属材6との重ね接合部材であって、樹脂材4と金属材6とは直接接合されており、接合部8を含む引張試験片を用いた引張試験において金属材6が伸長すること、を特徴とする金属樹脂接合体である。金属樹脂接合体2は、樹脂材4と金属材6とが直接接合されたものであり、接合部8に接着剤やリベット等は使用されていない。金属樹脂接合体2は、上述の本発明の金属樹脂接合方法によって好適に製造することができる。
【0062】
また、上述のとおり、本願発明における「引張試験」とは、樹脂−金属接合特性評価試験方法の国際規格であるISO19095に基づくものである。これまでの規格による試験では接合部分より弱い樹脂部分が先に破断してしまい、接合特性の定量化が困難であったが、ISO19095では、試験片形状の最適化や補助治具の使用により、樹脂部分の破壊を防ぐことができるため、接合界面の強度を測定することができる。
【0063】
従来公知の接合方法を用いて樹脂材と金属材とを直接接合する場合、接合界面の強度が十分ではなく、接合部の引張試験において金属材が伸長することはない。これに対し、接合部8における接合界面の強度は高く、引張試験において金属材6が伸長する程度の高い接合強度を有する。
【0064】
金属材6としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の金属材を用いることができ、例えば、各種鋼材、亜鉛めっき鋼材、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を用いることができる。
【0065】
また、樹脂材4としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の樹脂材を用いることができ、例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、PET(Polyethylene Terephthalate)、及び種々の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等を用いることができる。
【0066】
また、金属樹脂接合体2においては、接合部8の引張試験において樹脂材4が破断すること、が好ましい。金属樹脂接合体2は接合界面の強度が極めて高いことから、金属材6と樹脂材4との組み合わせによっては、金属材6が伸長後に破断に至る程度の極めて高い接合強度を有する。
【0067】
また、金属樹脂接合体2においては、金属材6が鋼材であること、が好ましい。金属材6を鋼とすることで安価かつ強固な金属樹脂接合体2を実現することができる。なお、金属樹脂接合体2では、金属材6が鋼であっても、引張試験において当該鋼が伸長する程に強固な接合界面を有しており、場合によっては当該鋼が破断に至る程に接合部8の信頼性が高い。
【0068】
樹脂材4と金属材6とを直接接合した接合部8はせん断応力に対しては高強度を有するが、剥離方向へ応力が印加されると比較的破断しやすい。これに対し、樹脂材4と金属材6との接合部8を樹脂材4が金属材6に折り返されて固定されるヘミング加工部とすることで、接合部8に対して剥離方向への応力印加を効果的に抑制することができる。その結果、金属樹脂接合体2の使用環境下において、接合部8には主としてせん断応力が印加されることになり、金属樹脂接合体2に高い信頼性を付与することができる。
【0069】
ここで、接合部8に印加される応力をせん断応力に限定するという観点からは、円筒状の金属材6の内径面と、円筒状又は円柱状の樹脂材4の外径面と、を接合した金属樹脂接合体2とすることが好ましい。なお、円筒状の樹脂材4の内径面と、円筒状又は円柱状の金属材6の外径面と、を接合してもよい。
【0070】
また、接合工程に加圧を有する場合、金属材6と樹脂材4との接合界面は熱影響部の外側にまで広がっている。従来の金属材と樹脂材の直接接合体においては、接合されている領域は熱影響部の内側であるが、加圧によってより広い面積で接合が達成されるため、高い接合強度及び信頼性を実現することができる。
【0071】
金属樹脂接合体2の接合部8においては、接合領域に存在する気泡の最大直径が0.1mm未満であること、が好ましい。気泡の最大直径が0.1mm未満であることから、当該気泡は継手特性に殆ど影響を及ぼすことがなく、金属樹脂接合体2は極めて良好な機械的特性を有している。また、目視では接合部の気泡を明瞭に確認することができないことから、接合部に欠陥が存在することによるイメージの低下を抑制することができる。
【0072】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0073】
≪実施例1≫
金属材としてA5052アルミニウム合金板(80mm×25mm×1mm)、樹脂材としてガラス繊維強化プラスチック(東洋紡社製GFPA T402,マトリックス樹脂:PA6,ガラス繊維:60体積%)板(100mm×25mm×2mm)を用い、レーザ照射による重ね接合を行った。なお、レーザ照射にはレーザライン社製の半導体レーザ(LDF4000−40)を用い、出力:850W、ビームサイズ:30mm×3mm、走査速度:4mm/秒とした。
【0074】
接合の予備処理として、シュウ酸濃度10%の電解液を用い、電解時間を1分〜10分としてA5052合金板にシュウ酸電解処理を施した(第一工程)。次に、シュウ酸電解処理後のA5052合金板とガラス繊維強化プラスチック板を図3に示す状態に重ね合わせて被接合界面を形成し(第二工程)、A5052合金板側からレーザ照射を行って被接合界面の温度をガラス繊維強化プラスチックにおける樹脂マトリックスのガラス転移温度以上に昇温した後(第三工程)、空冷によって当該ガラス転移温度未満に冷却した(第四工程)。
【0075】
異なる電解時間で得られた実施金属樹脂接合体のせん断引張強度を図4に示す。なお、比較として電解処理なしで得られた比較金属樹脂接合体のせん断引張強度も示している。せん断引張試験はISO19095に基づいて実施した。
【0076】
電解処理なしで得られた比較金属樹脂接合体と比べて、実施金属樹脂接合体の強度は明らかに高くなっている(比較金属樹脂接合体の約2倍)。なお、電解処理時間を1分〜5分とした実施金属樹脂接合体の全てにおいて、A5052合金板での破断が確認された。
【0077】
≪実施例2≫
電解処理時間を2分とし、レーザ出力を650W〜1000Wの範囲で変化させたこと以外は実施例1と同様にして、実施金属樹脂接合体を得た。実施例1と同様にして評価したせん断引張強度を図5に示す。
【0078】
全ての実施金属樹脂接合体で強固な接合部が形成されているが、レーザ出力によってせん断引張強度が異なっており、レーザ出力を700W〜900Wとすることで極めて高いせん断引張強度が得られている。650Wでは入熱不足により、1000Wでは入熱過剰に起因する接合界面からの樹脂の剥離及び樹脂の強度低下により、せん断引張強度が低下したと考えられる。
【0079】
≪実施例3≫
金属材としてSPCC鋼板(80mm×25mm×1mm)、樹脂材として炭素繊維強化プラスチック(東レ株式会社製 トレカTLP1040,マトリックス樹脂:PA6,強化繊維:炭素繊維)板(100mm×25mm×2mm)を用い、電解処理時間を2分とし、レーザ出力を425W〜505Wとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施金属樹脂接合体を得た。実施例1と同様にして評価したせん断引張強度を図6に示す。
【0080】
せん断引張強度はレーザ出力によって変化しているが、金属材としてSPCC鋼板を用いた場合においても、SPCC鋼板が破断及び/又は伸長する程度に高い接合強度を有する接合体が得られていることが分かる。
【0081】
実施金属樹脂接合体に関し、せん断引張試験後の代表的な試験片の概観写真を図7に示す。SPCC鋼板が伸長し、破断に至っていることが確認できる。なお、接合部は健全な状態を保っている。
【0082】
≪実施例4≫
金属材として合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA,80mm×25mm×0.8mm)を用い、電解処理時間を2分とし、レーザ出力を350Wとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施金属樹脂接合体を得た。実施例1と同様にして評価したせん断引張強度を図8に示す。なお、比較として電解処理なしで得られた比較金属樹脂接合体のせん断引張強度も示している。
【0083】
せん断引張強度は電解処理の有無によって明確に異なっており、電解処理を施した実施金属樹脂接合体はより高いせん断強度を有していることが分かる。
【0084】
実施金属樹脂接合体に関し、せん断引張試験後の代表的な試験片の概観写真を図9に示す。合金化溶融亜鉛めっき鋼板が伸長し、破断に至っていることが確認できる。なお、接合部は健全な状態を保っている。
【0085】
≪実施例5≫
蒸留水180gに対してシュウ酸10g及びギ酸10gを混合して得られた電解液を用い、種々のパワー密度(W/mm)でレーザ照射を行ったこと以外は実施例1と同様にして、実施金属樹脂接合体を得た。なお、用いたレーザビームの面積は26mm×3mmである。実施例1と同様にして評価したせん断引張強度を図10に示す。なお、比較として、実施例1で得られたせん断引張り強度についても、横軸をパワー密度として図10に示している。
【0086】
≪実施例6≫
ギ酸濃度10%の電解液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施金属樹脂接合体を得た。実施例1と同様にして評価したせん断引張強度を図10に示す。
【0087】
図10において、用いた電解液の種類に依らず、6000N前後の極めて高いせん断引張り強度を有する金属樹脂接合体が得られる最適な接合条件が存在する。一方で、当該接合条件の範囲が電解液によって異なっており、シュウ酸とギ酸の混合溶液を電解液とすることで、より広い接合条件範囲で高いせん断引張強度が得られることが分かる。
【0088】
また、シュウ酸電解液とギ酸電解液で比較した場合、シュウ酸電解液を用いた場合はより低いパワー密度で高いせん断引張強度が得られている。シュウ酸電解液を用いた場合は電解処理面が薄い赤色を呈し、レーザ光の吸収効率が高くなることが原因であると考えられる。当該結果は、用いるレーザのパワー密度を低くしたい場合、シュウ酸電解液を用いることが好ましいことを示している。
【0089】
シュウ酸電解液を用いた電解処理が金属材表面に及ぼす影響を確認するため、シュウ酸濃度10%の電解液を用いて2分間の電解処理を施したA1050アルミニウム板表面のXPSスペクトルを図11に示す。比較として、当該電解処理を施していないA1050アルミニウム板表面の結果も示している。なお、測定にはPHI社製のQuantera SXMを用い、励起X線:monochromatic Al K1,2線(1486.6eV)、X 線径200μm、光電子脱出角度:45°(試料表面に対する検出器の傾き)とした。
【0090】
電解処理を施した場合、未処理の場合と比較してCOO結合及びC=O結合の増加が顕著に認められる。当該結果は、A1050アルミニウム板の表面がシュウ酸によって被覆(保護)されていることを示している。
【符号の説明】
【0091】
2・・・金属樹脂接合体、
4・・・樹脂材、
6・・・金属材、
8・・・接合部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11