(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ガラス再溶融温度は記載されていない。また、特許文献1に記載されたダイボンディング材ペーストは、ペースト中に含まれるガラスの結晶化温度263℃以上である、例えば350℃又は450℃で仮焼成することが記載されている、また、特許文献2には、半導体素子と基板の間に介在されたガラスペーストを、例えば350℃又は450℃のガラスペーストに含まれるガラスの再溶融温度以上に加熱して、半導体素子を基板に接合する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、ガラスペースト中に含まれるガラスの再溶融温度以上に加熱して半導体素子と基板を接合した場合、加熱により半導体素子がダメージを受ける場合がある。したがって、より低温の加熱による半導体素子と基板を接合する方法が望まれている。
【0007】
このように、加熱による半導体素子へのダメージの抑制や、高温の加熱によるエネルギーの浪費等を考慮して、より低温の加熱で被着体を接合できるガラスペーストの要求がある。被着体が、例えばパワーデバイス用の半導体素子である場合には、低温の加熱により被着体を接合できることが要求されるとともに、半導体モジュール等の接合体には高い耐熱性も要求される。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するために、比較的低温の加熱により、第一の被着体と第二の被着体とを接合することができ、接合後にも優れた耐熱性を有する接合体が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するために、ガラス転移温度(Tg)と、結晶化温度(Tc)と、再溶融温度(Tr)とを有する結晶化ガラスフリットを含有するガラスペーストを介在させて第一の被着体と第二の被着体とを接合し、結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満の温度で加熱することによって、第一の被着体と第二の被着体を接合することができることを見出した。本発明者らは、このようにして得られた第一の被着体と第二の被着体の接合体は、優れた耐熱性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
〔1〕本発明は、第一の被着体と第二の被着体とをガラスペーストを用いて接合する接合体の製造方法であって、ガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットと、(B)溶剤とを含み、(A)結晶化ガラスフリットが、ガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)と再溶融温度(Tr)とを有し、再溶融温度(Tr)が結晶化温度(Tc)を超える温度であり、結晶化温度(Tc)がガラス転移温度(Tg)を超える温度であり、第一の被着体及び/又は第二の被着体にガラスペーストを塗布する工程と、ガラスペーストを介在させて第一の被着体と第二の被着
体を接合する工程と、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程と、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体とを結晶化ガラスフリットのガラス転移温度以下に冷却して接合体を得る工程とを含む、接合体の製造方法に関する。
【0011】
〔2〕本発明は、ガラスペーストが、さらに(C)導電性粒子を含む、〔1〕に記載の接合体の製造方法に関する。
【0012】
〔3〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットの再溶融温度(Tr)が300℃以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の接合体の製造方法に関する。
【0013】
〔4〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)の差が30℃以上185℃以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0014】
〔5〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)が150℃以上350℃以下である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0015】
〔6〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)が110℃以上200℃未満である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0016】
〔7〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットが、Ag
2O及びV
2O
5を含む、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0017】
〔8〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットが、TeO
2、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、及びFe
2O
3からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含む、〔7〕に記載の接合体の製造方法に関する。
【0018】
〔9〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットが、結晶化ガラスフリットの全質量に対して、酸化物換算で、(A−1)Ag
2Oと(A−2)V
2O
5を合計量で80〜96質量%含み、(A−2)V
2O
5に対する(A−1)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/V
2O
5)が1.8〜3.2である、〔7〕又は〔8〕に記載の接合体の製造方法に関する。
【0019】
〔10〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットが、Ag
2O及びTeO
2を含む、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0020】
〔11〕本発明は、(A)結晶化ガラスフリットが、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、B
2O
3及びFe
2O
3からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含む、〔10〕に記載の接合体の製造方法に関する。
【0021】
〔12〕本発明は、第一の被着体が基板であり、第二の被着体が半導体チップである、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0022】
〔13〕本発明は、第一の被着体が基板であり、第二の被着体が蓋体である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【0023】
〔14〕本発明は、第一の被着体が基板又は半導体チップであり、第二の被着体が蓋体である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の接合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ガラスペーストに含まれる(A)結晶化ガラスフリットが、ガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)と再溶融温度(Tr)とを有し、ガラスペーストを介在させた第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程によって、比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度で、第一の被着体と第二の被着体とを接合することができる。第一の被着体と第二の被着体との接合後には、耐熱性の優れた接合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、第一の被着体と第二の被着体とをガラスペーストを用いて接合する接合体の製造方法に関する。ガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットと、(B)溶剤とを含む。(A)結晶化ガラスフリットは、ガラス転移温度(Tg)と、結晶化温度(Tc)と、再溶融温度(Tr)とを有する。再溶融温度(Tr)は結晶化温度(Tc)を超える温度である。結晶化温度(Tc)はガラス転移温度(Tg)を超える温度である。本発明の製造方法は、第一の被着体及び/又は第二の被着体にガラスペーストを塗布する工程を含む。本発明の製造方法は、ガラスペーストを介在させて第一の被着体と第二の被着
体を接合する工程を含む。本発明の製造方法は、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程を含む。本発明の製造方法は、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体とを結晶化ガラスフリットのガラス転移温度以下に冷却して接合体を得る工程を含む。
【0027】
[(A)結晶化ガラスフリット]
本発明において、ガラスペーストに含まれる(A)結晶化ガラスフリットは、体積基準の平均粒子径(メジアン径)が、好ましくは1〜200μmの粉末ガラスである。結晶化ガラスフリットの平均粒子径は、より好ましくは3〜180μm、さらに好ましくは3〜160μm、特に好ましくは5〜150μmである。(A)結晶化ガラスフリットは、次のようにして得ることができる。すなわち、原料を磁性るつぼに入れ、熔融炉(オーブン)内で加熱溶融してガラス融液を得る。次に、このガラス融液をステンレス製のローラー間に流し入れて、シート状に成形する。得られたシート状ガラスを、乳鉢で粉砕し、例えば100メッシュ及び200メッシュの試験ふるいでふるい分級する。以上のようにして、(A)結晶化ガラスフリットを得ることができる。試験ふるいのメッシュの大きさは特に限定されない。細かいメッシュの試験ふるいを用いてふるい分級することによって、より平均粒子径(メジアン径)の小さい結晶化ガラスフリットを得ることができる。結晶化ガラスフリットの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装社製、MICROTRAC HRA9320−X100)を用いて測定することができる。結晶化ガラスフリットの平均粒子径は、体積累積分布D50(メジアン径)をいう。
【0028】
結晶化ガラスは、分子配列がランダムな非晶質ガラス中に、規則正しく分子が配列する構造(結晶)が含まれるものをいう。本明細書において、結晶化ガラスフリットは、示差走査熱量計で測定したDSCチャートにおいて、ガラス転移温度(Tg)を超える温度域で、結晶化温度(Tc)を示す少なくとも一つ以上の発熱ピークを有するものをいう。さらに、本発明において、ガラスペーストに含まれる(A)結晶化ガラスフリットは、示差走査熱量計で測定したDSCチャートにおいて、結晶化温度(Tc)を超える温度域で、再溶融温度(Tr)を示す少なくとも一つ以上の吸熱ピークを有する。
【0029】
(A)結晶化ガラスフリットの再溶融温度(Tr)は、示差走査熱量計で測定したDSCチャートにおいて、結晶化温度(Tc)を超える温度域に示される少なくとも一つの吸熱ピークの温度をいう。(A)結晶化ガラスフリットの再溶融温度(Tr)は、接合体が使用される温度領域よりも高いことが好ましい。示差走査熱量計で測定した(A)結晶化ガラスフリットのDSCチャートにおいて、結晶化温度(Tc)を超える温度域に複数の吸熱ピークがある場合には、その最も低い吸熱ピークが、接合体が使用される温度領域よりも高いことが好ましい。炭化ケイ素及び窒化ガリウムなどの半導体チップは従来のシリコンチップよりも高温で動作が可能なため、(A)結晶化ガラスフリットの再溶融温度(Tr)が300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましい。また、本発明の製造方法において、第一の被着体及び第二の被着体の間に介在するガラスペーストは、ガラスペースト中に含まれる(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満で加熱される。そのため、結晶化した分子配列が再度溶融することなく、第一の被着体と第二の被着体を接合することができる。その結果、第一の被着体及び第二の被着体の間に介在するガラスペーストは、一部に規則正しく分子が配列する結晶を含んだままのガラスフリットを含むため、接合体の耐熱性を向上することができる。
【0030】
(A)結晶化ガラスフリットは、結晶化温度(Tc)が150℃以上350℃以下であることが好ましい。(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量計で測定したDSCチャートにおいて、ガラス転移温度(Tg)を超えて再溶融温度(Tr)未満の温度域に存在する発熱ピークの温度をいう。示差走査熱量計で測定した(A)結晶化ガラスフリットのDSCチャートにおいて、ガラス転移温度(Tg)を超えて再溶融温度(Tr)未満の温度域に、複数の発熱ピークが存在する場合には、発熱量(J/g)の絶対値の数値が15J/g以上、好ましくは20J/g以上、より好ましくは30J/g以上である発熱ピークが少なくとも一つ150℃以上350℃以下に存在することが好ましく、180℃以上340℃以下に存在することがより好ましく、200℃以上340℃以下に存在することがさらに好ましい。(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)が150℃以上350℃以下であると、再溶融温度(Tr)と結晶化温度(Tc)に温度差があることになる。そのため、結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱することによって、(A)結晶化ガラスフリット中に析出した結晶を溶融させることなく、第一の被着体と第二の被着体を接合した接合体を形成することができる。また、比較的低い温度による加熱で接合体を形成することができる。この結果、接合体の耐熱性を向上することができる。
【0031】
(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)と再溶融温度(Tr)との差は、特に限定されないが、好ましくは50〜200℃であり、より好ましくは60〜190℃であり、さらに好ましくは70〜185℃である。(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)と再溶融温度(Tr)との差が50〜200℃であると、(A)結晶化ガラスフリットを含むガラスペーストにおいて、比較的低い温度による加熱で接合体を形成することができ、加熱による被着体へのダメージを低減することができる。
【0032】
(A)結晶化ガラスフリットは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上200℃未満であることが好ましい。(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)は、より好ましくは120℃以上180℃以下、さらに好ましくは150℃以上180℃以下である。(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)が110℃以上200℃未満であると、結晶化温度(Tc)との温度差が比較的小さく、結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する温度を比較的低い温度に設定することができる。そのため、加熱時の被着体へのダメージを抑制することができる。
【0033】
(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)との差は、好ましくは30〜70℃であり、より好ましくは35〜65℃であり、さらに好ましくは40〜60℃であり、特に好ましくは45〜55℃である。(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)との差が30〜70℃であると、(A)結晶化ガラスフリット中に規則正しく分子が配列する構造(結晶)が多数含まれる。そのため、(A)結晶化ガラスフリットを含むガラスペーストは、比較的低い温度で第一の被着体と第二の被着体を接合して接合体を形成することができる。この結果、得られた接合体の耐熱性を向上することができる。示差走査熱量計で測定した(A)結晶化ガラスフリットのDSCチャートにおいて、ガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)との間には、吸熱ピークが存在しないことが好ましい。ガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)との間には、吸熱ピークが存在しないと、得られた接合体の耐熱性を向上することができる。
【0034】
(A)結晶化ガラスフリットは、Ag
2O及びV
2O
5を含むことが好ましい。(A)結晶化ガラスフリットは、さらにTeO
2、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、及びFe
2O
3からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むことが好ましい。
【0035】
(A)結晶化ガラスフリットは、(A)結晶化ガラスフリットの全体量に対して、酸化物換算で、(A−1)Ag
2Oと(A−2)V
2O
5を合計量で80〜96質量%含み、(A−2)V
2O
5に対する(A−1)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/V
2O
5)が1.8〜3.2であることが好ましい。本明細書中、(A)結晶化ガラスフリットに含まれる各成分は、特に断りがない限り、酸化物換算組成の(A)結晶化ガラスフリット全質量に対する質量%で表示するものとする。
【0036】
(A)結晶化ガラスフリットは、(A)結晶化ガラスフリットの全質量に対する、(A−1)Ag
2Oと(A−2)V
2O
5の合計量が、82〜95質量%であることがより好ましい。また、(A)結晶化ガラスフリットは、(A−2)V
2O
5に対する(A−1)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/V
2O
5)が、好ましくは1.8〜3.2、より好ましくは1.95〜2.7、さらに好ましくは1.95〜2.6、特に好ましくは2.0〜2.5である。(A)結晶化ガラスフリットに含まれる成分(A−1)と成分(A−2)の合計量が80〜96質量%であり、(A−2)V
2O
5に対する(A−1)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/V
2O
5)が1.8〜3.2である場合には、再溶融温度(Tr)が350℃を超えて450℃以下と比較的低温の(A)結晶化ガラスフリットが得られる。
【0037】
(A)結晶化ガラスフリットは、さらに(A−3)TeO
2、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、及びFe
2O
3からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含んでいてもよい。
【0038】
(A)結晶化ガラスフリットは、TeO
2、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、及びFe
2O
3からなる群より選ばれる2種以上の酸化物を含んでいてもよい。
【0039】
(A)結晶化ガラスフリットは、Ag
2O及びTeO
2を含むことが好ましい。
【0040】
(A)結晶化ガラスフリットは、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、B
2O
3及びFe
2O
3からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含んでいてもよい。
【0041】
(A)結晶化ガラスフリットは、MoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、B
2O
3及びFe
2O
3からなる群より選ばれる2種以上の酸化物を含んでいてもよい。
【0042】
(A)結晶化ガラスフリットは、(A)結晶化ガラスフリットの全体量に対して、酸化物換算で、(A−1’)Ag
2Oを好ましくは0〜55質量%、より好ましくは1〜55質量%含む。また、(A)結晶化ガラスフリットは、(A)結晶化ガラスフリットの全体量に対して、酸化物換算で(A−2’)TeO
2を好ましくは0〜60質量%、より好ましくは1〜60質量%含む。(A)結晶化ガラスフリット中、(A)結晶化ガラスフリットの全体量に対して、(A−1’)Ag
2O及び(A−2’)TeO
2の合計量は、より好しくは50〜100質量%、さらに好ましくは65〜100質量%、特に好ましくは75〜100質量%である。(A)結晶化ガラスフリットに含まれる成分(A−1’)Ag
2Oと成分(A−2’)TeO
2の合計量が50〜100質量%であると、再溶融温度(Tr)が350℃を超えて450℃以下というように、再溶融温度(Tr)が比較的低温の(A)結晶化ガラスフリットが得られる。
【0043】
(A)結晶化ガラスフリットは、(A−2’)TeO
2に対する(A−1’)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/TeO
2)が、好ましくは0.15〜9.00である。Ag
2O−TeO
2系ガラスはガラス化範囲が広い。すなわち、(A−2’)TeO
2に対する(A−1’)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/TeO
2)が0.15〜9.00の範囲であると、ガラスを得ることができる。(A−2’)TeO
2に対する(A−1’)Ag
2Oの質量比(Ag
2O/TeO
2)を適切に設定するか、又はMoO
3、MnO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MgO、Nb
2O
5、BaO、Al
2O
3、SnO、B
2O
3及びFe
2O
3からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を添加することにより、再溶融温度(Tr)が350℃を超えて450℃以下である(A)結晶化ガラスフリットが得られる。
【0044】
[(B)溶剤]
本発明の方法に用いるガラスペーストは、(B)溶剤を含む。(B)溶剤としては、アルコール類(例えばテルピネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール等)、エステル類(例えばヒドロキシ基含有エステル類、2,2,4―トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート、ブチルカルビトールアセテート等)、パラフィン混合物(例えばCondea社製のLinpar)、多価アルコール類(例えば2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0045】
溶剤には、導電性ペーストを塗布に適する粘度に調整するために、溶剤以外に、樹脂、バインダー又はフィラー等の1種又は2種以上を添加してもよい。
【0046】
[(C)導電性粒子]
本発明の方法に用いるガラスペーストは、(C)導電性粒子を含むことが好ましい。(C)導電性粒子は、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及び銀(Ag)と卑金属(例えば、Cu及びNi等)との銀合金等を用いることができる。中でも、導電性粒子が銀(Ag)であることが好ましい。
【0047】
導電性粒子の形状、平均粒子径は、特に限定されず、当該分野で公知のものを使用することができる。導電性粒子の平均粒子径が、好ましくは0.01〜40μmであり、より好ましく0.05〜30μmであり、さらに好ましくは0.1〜20μmである。導電性粒子の平均粒子径が0.01〜40μmの範囲内であると、ペースト中の導電性粒子の分散性が良好であり、焼結時の焼結性が良好である。なお、導電性粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置(例えば日機装社製、MICROTRAC HRA9320−X100)を用いて測定した体積累積分布のD50(メジアン径)をいう。導電性粒子の形状は、球形、フレーク状若しくは鱗片状、又は多角形状を有しているものであってもよい。
【0048】
導電性粒子として、銀粒子を用いる場合には、ナノレベルの大きさの銀粒子や、細孔に樹脂を充填させた銀粒子を用いてもよい。
【0049】
[(D)金属酸化物]
本発明の方法に用いるガラスペーストは、さらに(D)金属酸化物を含んでいてもよい。金属酸化物は、SnO、ZnO、In
2O
3及びCuOからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物が挙げられる。この金属酸化物は、ガラスフリットに含まれている酸化物ではない。
【0050】
ガラスペーストは、SnO、ZnO、In
2O
3及びCuOからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含むことによって、より接着強度を高めることができる。ガラスペーストが所定の金属酸化物を含むことにより、例えば300〜350℃の環境下においても接着強度を維持した接合体を得ることができる。
【0051】
[その他の添加剤]
本発明の方法に用いるガラスペーストは、その他の添加剤として、可塑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、安定剤、及び密着促進剤などから選択したものを、必要に応じてさらに配合することができる。これらのうち、可塑剤としては、フタル酸エステル類、グリコール酸エステル類、リン酸エステル類、セバシン酸エステル類、アジピン酸エステル類、及びクエン酸エステル類等から選択したものを用いることができる。
【0052】
[ガラスペースト]
本発明の方法に用いるガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットと、(B)溶剤とを含む。ガラスペースト中の(A)結晶化ガラスフリットの配合は特に限定されない。(A)結晶化ガラスフリットは、ガラスペースト100質量%中、好ましくは50〜99質量%、より好ましくは65〜95質量%、さらに好ましくは75〜95質量%含む。ガラスペースト中の(B)溶剤の配合は特に限定されない。(B)溶剤は、ガラスペースト100質量%中、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%含む。
【0053】
ガラスペースト中の(A)結晶化ガラスフリットの配合が50〜99質量%であると、(B)溶剤中が(A)結晶化ガラスフリットが略均一に分散されたガラスペーストを得ることができる。ガラスペースト中の(A)結晶化ガラスフリットの配合が50〜99質量%であると、第一の被
着体及び/又は第二の被着体に略均等にガラスペーストを塗布することができる。また、ガラスペースト中の(A)結晶化ガラスフリットの配合が前記配合範囲であると、本発明の方法によって、比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度で、第一の被着体と第二の被着体とを接合することができ、接合後には接着強度が維持され、耐熱性の優れた接合体を得ることができる。
【0054】
本発明の方法に用いるガラスペースト中に(C)導電性粒子を含む場合には、ガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットを5〜35質量%、(B)溶剤を5〜12質量%、及び(C)導電性粒子を60〜90質量%含むことが好ましい。各成分の質量%は、ガラスペーストの全質量100質量%に対する各成分の含有量である。
【0055】
本発明の方法に用いるガラスペーストが、(A)結晶化ガラスフリットを5〜35質量%、(B)溶剤を5〜12質量%、及び(C)導電性粒子を60〜90質量%を含むことが好ましい。この場合には、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程によって、比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度で、所定のガラスペーストを用いて、第一の被着体と第二の被着体とを接合することができる。また、第一の被着体と第二の被着体との接合後には接着強度が維持され、耐熱性の優れた接合体を得ることができる。また、本発明の方法に用いる(C)導電性粒子を含むガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程における比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度でも、溶融したガラスペースト中に導電性粒子が拡散して析出する。そのため、所定のガラスペーストを用いることにより、優れた導電性を有する焼成膜を形成し、第一の被着体と第二の被着体を電気的に接続した接合体を得ることができる。
【0056】
本発明の方法に用いるガラスペーストは、(D)金属酸化物を含む場合には、好ましくは(A)結晶化ガラスフリットを5〜35質量%、(B)溶剤を5〜10質量%、(C)導電性粒子を60〜85質量%、さらに(D)金属酸化物を0〜5質量%含む。また、本発明の方法に用いるガラスペーストは、より好ましくは(A)結晶化ガラスフリットを5〜35質量%、(B)溶剤を5〜10質量%、(C)導電性粒子を60〜85質量%、さらに(D)金属酸化物を0.1〜5質量%含むものであってもよい。各成分の質量%は、導電性ペーストの全質量100質量%に対する各成分の含有量である。
【0057】
ガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットを5〜35質量%、(B)溶剤を5〜10質量%、(C)導電性粒子を60〜85質量%、さらに(D)金属酸化物を0〜5質量%含むことが好ましい。この場合には、ガラスペーストを介在させた第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱することによって、比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度で、第一の被着体と第二の被着体とを強固に接合することができる。また、第一の被着体と第二の被着体との接合後には接着強度が維持され、耐熱性の優れた接合体を得ることができる。また、本発明の方法に用いる(D)金属酸化物を含むガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程における比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度でも、溶融したガラスペースト中に導電性粒子が拡散して析出する。そのため、所定のガラスペーストを用いることにより、優れた導電性を有する焼成膜を形成し、第一の被着体と第二の被着体を電気的に接続した接合体を得ることができる。
【0058】
本発明の方法に用いるガラスペーストは、(C)導電性粒子を含む場合には、(A)結晶化ガラスフリットと(C)導電性粒子の質量比((A)結晶化ガラスフリット:(C)導電性粒子)が、好ましくは50:50〜2:98、より好ましくは40:60〜10:90、さらに好ましくは35:65〜15:85、特に好ましくは30:70〜20:80である。(A)結晶化ガラスフリットと(C)導電性粒子の質量比((A)結晶化ガラスフリット:(C)導電性粒子)が、50:50〜2:98である場合には、ガラスペーストを、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱することによって、比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度で第一の被着体と第二の被着体を接合することができる。そのため、第一の被着体と第二の被着体との接合後には接着強度が維持され、耐熱性の優れた接合体を得ることができる。
【0059】
次に、本発明の方法に用いるガラスペーストの製造方法について説明する。
【0060】
[ガラスペーストの製造方法]
本発明の方法に用いるガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットと、(B)溶剤とを混合する工程を有する。ガラスペーストが、(C)導電性粒子、(D)金属酸化物、場合によりその他の添加剤及び/又は添加粒子を含む場合には、例えば(B)溶剤に対して、(A)結晶化ガラスフリットを添加し、場合により、(C)導電性粒子、(D)金属酸化物、並びにその他の添加剤及び/又は添加粒子を、添加し、混合し、分散することにより製造することができる。
【0061】
混合は、例えばプラネタリーミキサーで行うことができる。また、分散は、三本ロールミルによって行うことができる。混合及び分散は、これらの方法に限定されるものではなく、公知の様々な方法を使用することができる。
【0062】
[第一の被着体及び/又は第二の被着体]
本発明の方法によって接合される第一の被着体及び/又は第二の被着体は、例えば、基板、半導体チップ、蓋体、放熱部材等が挙げられる。
【0063】
本発明の方法によって得られる接合体は、例えば、第一の被着体が基板であり、かつ第二の被着体が半導体チップである接合体、第一の被着体が基板であり、第二の被着体が蓋体である接合体、第一の被着体が基板又は半導体チップであり、第二の被着体が放熱部材である接合体が挙げられる。
【0064】
第一の被着体が基板であり、かつ第二の被着体が半導体チップである接合体としては、例えば半導体装置が挙げられる。基板としては、アルミナ、窒化アルミ、及び窒化ケイ素などから選択されるセラミックからなる基板、並びにアルミニウム及び銅などから選択される金属からなる基板が挙げられる。半導体チップとしては、Si、SiC、GaN、及びGaAsなどから選択される半導体チップが挙げられる。
【0065】
第一の被着体が基板であり、第二の被着体が蓋体である接合体としては、半導体パッケージ、及びSWAデバイスのような電子部品パッケージ、MEMSデバイス、並びに高周波モジュールなどが挙げられる。基板又は蓋体としては、それぞれ例えば、金属、ガラス、又はセラミックからなるものが挙げられる。
【0066】
第一の被着体が基板又は半導体チップであり、第二の被着体が放熱部材である接合体としては、放熱部材を備えた半導体装置等が挙げられる。基板としては、アルミナ、窒化アルミ、及び窒化ケイ素などから選択されるセラミックからなる基板、アルミニウム及び銅などから選択される金属からなる基板が挙げられる。半導体チップとしては、Si、SiC、GaN、又はGaAsなどからなる半導体チップが挙げられる。放熱部材としては、アルミニウム、及び銅などから選択される金属製の放熱器を挙げられる。
【0067】
[接合体の製造方法]
本発明の接合体の製造方法は、(A)結晶化ガラスフリットと、(B)溶剤とを含み、(A)結晶化ガラスフリットが、ガラス転移温度(Tg)と、結晶化温度(Tc)と、再溶融温度(Tr)とを有し、再溶融温度(Tr)が結晶化温度(Tc)を超える温度であり、結晶化温度(Tc)がガラス転移温度(Tg)を超える温度であるガラスペーストを用いる。本発明の接合体の製造方法は、第一の被着体及び/又は第二の被着体にガラスペーストを塗布する工程を含む。本発明の接合体の製造方法は、ガラスペーストを介在させて第一の被着体と第二の被着体を接合する工程を含む。本発明の接合体の製造方法は、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程を含む。ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を結晶化ガラスフリットのガラス転移温度以下に冷却して接合体を得る工程を含む。
【0068】
本発明の接合体の製造方法は、ガラスペーストに含まれる(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱するため、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を、比較的低温で接合することができる。また、第一の被着体及び/又は第二の被着体の加熱によるダメージを低減することができる。また、本発明の製造方法において、ガラスペーストは、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満で加熱されるため、(A)結晶化ガラスフリット中の結晶化した分子配列が再度溶融することなく、第一の被着体と第二の被着体を接合することができる。また、ガラスペーストは、一部に規則正しく分子が配列する結晶を含んだままのガラスフリットを含むため、接合後に接着強度を維持することができ、接合体の耐熱性を向上することができる。本発明の製造方法によって得られた接合体は、例えば300℃の比較的高温の環境下におかれた場合であっても、接合強度を維持することができ、耐熱性を向上することができる。
【0069】
本発明の製造方法において、第一の被着体及び/又は第二の被着体にガラスペーストを塗布する工程において、塗布の方法は、特に限定されない。ガラスペーストを塗布する方法としては、例えばディスペンスや印刷による方法が挙げられる。また、塗布する方法は、ディスペンスや印刷による方法に限られず、従来公知の様々な方法によって、ガラスペーストを塗布することができる。
【0070】
本発明の製造方法において、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程は、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満の温度であれば特に限定されない。(A)結晶化ガラスフリットの再溶融温度(Tr)が350℃を超えて450℃以下である場合には、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体は、450℃未満の温度で加熱される。また、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)が150℃以上350℃以下である場合には、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体は、150℃以上の温度で加熱される。
【0071】
本発明の製造方法において、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を結晶化ガラスフリットのガラス転移温度以下に冷却して接合体を得る工程は、好ましくは(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)未満の温度に冷却し、より好ましくは(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)以下の温度に冷却する。(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)が150℃以上350℃以下である場合には、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体は、少なくとも350℃未満の温度に冷却されることが好ましい。(A)結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)が110℃以上200℃未満である場合には、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体は、少なくとも200℃未満の温度に冷却されることが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
以下、まず(A)結晶化ガラスフリットについて説明する。(A)結晶化ガラスフリットは、以下の例に限定されるものではない。
【0074】
[結晶化ガラスフリット1〜7]
表1は、結晶化ガラスフリット1〜7の各成分の配合を示す。結晶化ガラスフリット1は、本発明の実施例の製造方法に用いた。結晶化ガラスフリット1は、(A−1)Ag
2O、(A−2)V
2O
5、(A−3)MoO
3、及び(A−4)CuOから実質的に成る。結晶化ガラスフリット7は、比較例の製造方法に用いた。結晶化ガラスフリット7は、(a−1)Ag
2O、(a−2)V
2O
5、及び(a−3)TeO
2から実質的に成る。結晶化ガラスフリット2〜6は、Ag
2OとTeO
2を各配合で含み、V
2O
5を含まない。表1中の結晶化ガラスフリットの各成分の数値の単位は、質量%である。
【0075】
[結晶化ガラスフリット8〜51]
表2〜7は、結晶化ガラスフリット8〜51の各成分の配合を示す。結晶化ガラスフリット8〜51は、(A−1)Ag
2O、及び(A−2)V
2O
5を含み、さらにTeO
2、MoO
3、ZnO、CuO、TiO
2、MnO
2、MgO、Nb
2O
5、Fe
2O
3、BaO、及びP
2O
5から選択される少なくとも1種を表2〜7に示すように含む。表2〜7中の結晶化ガラスフリットの各成分の数値の単位は、質量%である。
【0076】
(A)結晶化ガラスフリット1〜51の製造方法は、以下の通りである。
【0077】
(A)結晶化ガラスフリット1〜51の原料は、酸化物の粉末を計量し、混合して、るつぼ(例えば、磁性るつぼ:Fisher Brand製、high temperature porcelain、サイズ10mL)に投入した。るつぼに投入した結晶化ガラスフリットの原料は、このるつぼごとオーブン(オーブン:JELENKO製、JEL-BURN JM、MODEL:335300)に入れた。結晶化ガラスフリットの原料は、オーブン内で表1〜7のそれぞれにMelt Temp.(℃)で示された溶融温度(Melt temperature)まで昇温し、溶融温度を維持して十分に溶融させた。次に、熔融した結晶化ガラスフリットの原料は、るつぼごとオーブンから取り出し、溶融した結晶化ガラスフリットの原料を均一に撹拌した。その後、熔融した結晶化ガラスフリットの原料は、室温にて回転するステンレス製の直径1.86インチ(inch)の2本ロール上に載置し、2本のロールをモータ(BODUNE.D,C.MOTOR 115V)で回転させた。このとき、溶融した結晶化ガラスフリットの原料は、混練されながら、室温で急冷され、板状のガラスを形成した。最後に板状のガラスを、乳鉢で粉砕した。
【0078】
各結晶化ガラスフリット1〜51を、示差走査熱量計を用いて、以下の条件でDSC曲線を測定した。ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、及び再溶融温度(Tr)は、示差走査熱量測定によるDSC曲線から測定した。各結晶化ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、及び再溶融温度(Tr)を、表1〜7に示す。
図1は、結晶化ガラスフリット1のDSC曲線を示す。
図2は、結晶化ガラスフリット7のDSC曲線を示す。
【0079】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
SHIMADZU社製の示差走査熱量計DSC−50を用いて、結晶化ガラスフリットを昇温速度15℃/minで3780℃まで昇温し、約50℃〜約370℃の温度領域のDSC曲線を測定した。ガラス転移温度(Tg)は、DSC曲線の最初の変曲点の温度とした。
【0080】
〔結晶化温度(Tc)〕
結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量計(SHIMADZU社製のDSC−50)にて、昇温速度15℃/minで370℃まで昇温した条件によって示されるDSC曲線において、発熱の熱量15J/g以上の少なくとも1つの発熱ピークのピークトップによって示される温度とした。発熱ピークが複数ある場合には、最初の発熱ピークのピークトップの温度(℃)をTc1とし、2番目の発熱ピークのピークトップの温度(℃)をTc2とし、3番目の発熱ピークのピークトップの温度(℃)をTc3とし、4番目の発熱ピークのピークトップの温度(℃)をTc4とした。また、各ピークの大きさは、発熱量(J/g)の数値で示した。
【0081】
〔再溶融温度(Tr)〕
再溶融温度(Tr)は、示差走査熱量計(SHIMADZU社製のDSC−50)にて、昇温速度15℃/minで370℃まで昇温した条件によって示されるDSC曲線において、最も温度の低い吸熱ピークのピークトップによって示される温度とした。吸熱ピークが複数ある場合には、最初の吸熱ピークのピークトップの温度(℃)をTr1とし、2番目の吸熱ピークのピークトップの温度(℃)を、Tr2とした。また、各ピークの大きさは、吸熱量(J/g)の数値で示した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
実施例に用いる結晶化ガラスフリット1の結晶化温度(Tc)は、Tc1(発熱量が46.7J/g)の温度231.9℃とした。また、比較例に用いる結晶化ガラスフリット
7の結晶化温度は、Tc1(発熱量が27.1J/g)の温度185.4℃とした。
【0090】
次に、結晶化ガラスフリット1及び7と、以下の原料を用いて、実施例の製造方法に用いるガラスペースト1、及び比較例の製造方法に用いるガラスペースト2を作製した。
【0091】
<ガラスペーストの材料>
ガラスペーストの材料は、下記の通りである。表8に、実施例及び比較例に用いるガラスペースト1及び2の配合を示す。
【0092】
・導電性粒子:Ag、球状、BET値0.6m
2/g、平均粒径D50:6.4μm、6g(ガラスペースト100質量%に対して71.59質量%)、商品名:EA−0001(メタロー社製)、導電性粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置(例えば日機装社製、MICROTRAC HRA9320−X100)を用いて測定した体積累積分布のD50(メジアン径)である。
・溶剤:テルピネオール:0.88g(ALDRICH社製 品番:Terpineol、導電性ペースト100質量%に対して10.48質量%)
・結晶化ガラスフリット1及び7:各結晶化ガラスフリットは、1種類のガラスフリットを乳鉢にて粉砕し、325メッシュのふるいを用いて、ふるい分級したものを用いた。結晶化ガラスフリットのふるい分級した平均粒子径(D50)は、約13μm〜約20μmである。
【0093】
【表8】
【0094】
<ガラスペーストの製造方法>
表8に示す組成のガラスペーストの材料を三本ロールミルにて混練し、ガラスペーストを作製した。
【0095】
(実施例)
第一の被着体は、基板として縦20mm×横20mm×厚さ1mmのアルミナ板を用いた。第二の被着体は、縦5mm×横5mm×厚さ330μmのSiチップを用いた。
【0096】
第一の被着体である基板上にガラスペースト1を2.5μLディスペンスし、第二の被着体であるSiチップをガラスペースト上に搭載し、第一の被着体であるアルミナ板と第二の被着体であるSiチップを接合した。スペーサーを用いて、第一の被着体と第二の被着体の間に介在させたガラスペースト1の厚さが30μmとなるように、Siチップ上から負荷をかけた。ガラスペースト1を介在させたアルミナ板とSiチップを、370℃で15分間加熱した。加熱温度370℃は、ガラスペースト1に含まれる結晶化ガラスフリット1の結晶化温度(Tc1)231.9℃以上再溶融温度(Tr1)412.7℃未満の温度である。その後、ガラスペースト1を介在させて接合したアルミナ板とSiチップとを結晶化ガラスフリットのガラス転移温度以下である25℃以下に冷却し、試験用の接合体1〜5を得た。
【0097】
(比較例)
ガラスペースト2を用いたこと以外は、実施例と同様にして試験用の接合体1〜5を得た。加熱温度370℃は、ガラスペースト2に含まれる結晶化ガラスフリット7の結晶化温度(Tc1)185.4℃以上であり、再溶融温度(Tr1)313.2℃以上である。比較例の製造方法によって得られた試験用の接合体1〜5は、ガラスペーストを介在させて接合した第一の被着体と第二の被着体を(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程を満たしていない。
【0098】
〔せん断試験(接着強度)〕
実施例及び比較例の試験用の接合体1〜2を常温25℃の環境に設置し、30秒後、アイコーエンジニアリング社製卓上強度試験機1605HTPにより、せん断速度12mm/分で、せん断強度試験を行い、せん断強度(Kgf/mm
2)を測定した。
【0099】
また、試験用の接合体3〜5を300℃の環境に設置し、30秒後、アイコーエンジニアリング社製卓上強度試験機1605HTPにより、せん断速度12mm/分で、せん断強度試験を行い、せん断強度(Kgf/mm
2)を測定した。結果を表9及び
図3に示す。
【0100】
【表9】
【0101】
図3及び表9に示すように、常温25℃の環境に設置した実施例の製造方法により得られた接合体1〜2は、比較例の接合体1〜2と同等又は優れたせん断強度を示した。また、
図3及び表9に示すように、300℃の環境に設置した実施例の製造方法により得られた接合体3〜5は、比較例の製造方法により得られた接合体3〜5よりもいずれも優れたせん断強度を示した。この結果から、本発明の製造方法によって得られた接合体1〜5は、ガラスペーストを介在させた第一の被着体と第二の被着体を、(A)結晶化ガラスフリットの結晶化温度(Tc)以上再溶融温度(Tr)未満に加熱する工程によって、比較的低い温度、例えば450℃以下の加熱温度で、第一の被着体と第二の被着体とを接合することができ、接合後には、優れた耐熱性を示すことが確認できた。特に、本発明の製造方法によって得られた接合体3〜5は、300℃の比較的高温の環境下におかれた場合において、特に優れた耐熱性を示すことが確認できた。