特許第6679836号(P6679836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6679836淋菌を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーおよび当該プライマーを用いた淋菌の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6679836
(24)【登録日】2020年3月24日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】淋菌を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーおよび当該プライマーを用いた淋菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20200406BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20200406BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20200406BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20200406BHJP
   G01N 33/571 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C12Q1/689 ZZNA
   C12Q1/686 Z
   C12N15/09 Z
   C12Q1/02
   G01N33/571
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-79339(P2015-79339)
(22)【出願日】2015年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-198018(P2016-198018A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北森 有加
(72)【発明者】
【氏名】宇根 蔵人
(72)【発明者】
【氏名】俵田 隆哉
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−188181(JP,A)
【文献】 特開平02−203800(JP,A)
【文献】 特開平03−053900(JP,A)
【文献】 特表平11−507239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとからなる、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットであって、
第一のプライマーが、配列番号7から9から選択されるいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、かつ
第二のプライマーが、配列番号15から17から選択されるいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、または、
第一のプライマーが、配列番号8,10,11および12から選択されるいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、かつ
第二のプライマーが、配列番号15、18および19から選択されるいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、
前記プライマーセット。
【請求項2】
第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターがさらに付加されている、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
淋菌16S rRNAを検出するためのプローブであって、配列番号22から24のいずれかに記載の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドに、インターカレーター性蛍光色素を標識されてなる、プローブ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のプライマーセットで増幅した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を、請求項3に記載のプローブを用いて、淋菌16S rRNAを検出する方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のプライマーセットと、請求項3に記載のプローブとを含む、淋菌16S rRNA検出試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に存在する淋菌を迅速、高感度かつ特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプライマー、および当該プライマーを用いた淋菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)はナイセリア属に属するグラム陰性の双球菌であり、淋菌感染症の原因微生物である。淋菌感染症は、性感染症の中では性器クラミジア感染症と並んで、頻度の高い感染症である。主に性行為で感染し、男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎や尿道炎を引き起こす。また重症例では、男性における精巣上体炎、女性では骨盤内炎症性疾患を生じる。
【0003】
近年、性行動の多様化を反映して、咽頭や直腸感染など、性器外の感染例が増加している。性器での淋菌またはクラミジア陽性患者や性産業従業女性を対象に、咽頭での淋菌およびクラミジア検査を行なった結果、前記陽性患者の多くは、咽頭発赤や扁桃腫脹など他覚的所見が見られない無症候性感染者であった(非特許文献1)。そのため、前記患者が無自覚のうちに他者への感染源となる可能性が考えられる。さらに無症候性感染者のうち、女性の患者は、そのまま放置すると、子宮外妊娠、不妊症、分娩時の産道感染による新生児結膜炎など、重篤な合併症が生じる可能性がある。したがって、淋菌への感染が判明した場合、確実に治療することが必要であり、感染が疑われる患者や妊婦に対し、淋菌検査を実施することは非常に重要である。
【0004】
従来から臨床的に用いられている淋菌感染症の検出法には、尿道分泌物のグラム染色標本の検鏡、分離培養、核酸増幅などがあげられる。グラム染色標本の検鏡による検査は、迅速な検査法であるものの、他の雑菌が存在することで、淋菌の確認が困難となる問題点がある。分離培養による検査は、淋菌が熱、乾燥および温度変化に弱く、検体輸送中に菌が死滅しやすいこと、また雑菌が混入すると淋菌の確認が困難となること、操作が繁雑であること、結果に数日間を要するため迅速検査には向かないこと、等の問題点がある。
【0005】
一方、核酸増幅による検査は淋菌に特異的な遺伝子(DNAやRNA)を検出する方法であり、感度、特異性ともに前述した従来の検査と比較して極めて高く、また検体として、非侵襲的である尿検体を使用できるため、現在主流となりつつある。核酸増幅による淋菌検査法としては、PCR法を利用した方法(特許文献1)、SDA(Strand Displacement Amplification)法を利用した方法(特許文献2)、TMA(Transcription Mediated Amplification)法を利用した方法(特許文献3)、TRC(Transcription Reverse−transcription Concerted reaction)法を利用した方法(特許文献4)が開示されている。
【0006】
しかしながら増幅対象核酸が淋菌16S rRNAまたはその遺伝子の場合、他の菌種の16S rRNA(またはその遺伝子)との間で塩基配列の相同性が高いものが多数存在するため、淋菌16S rRNAまたはその遺伝子を高感度かつ特異的に検出するプライマーセットやプローブを設計することは極めて困難であった。特に比較的低温の一定温度(例えば、40から50℃)条件下でRNAの増幅が可能な増幅方法を利用する場合、オリゴヌクレオチドプローブが高次構造を形成しやすくなるため、当該プライマーセットやプローブの設計はさらに困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−533023号公報
【特許文献2】特開平11−225781号公報
【特許文献3】特表平11−507239号公報
【特許文献4】特開2013−188181号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本性感染症学会、性感染症 診断・治療 ガイドライン、37(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、試料中に存在する淋菌を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプライマー、および当該プライマーを用いた淋菌の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の第一の態様は、
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとからなる、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットであって、
第一のプライマーが、配列番号13に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであり、
第二のプライマーが、配列番号20に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである、
前記プライマーセットである。
【0012】
また本発明の第二の態様は、
第一のプライマーが、配列番号27に記載の塩基配列中、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、
第二のプライマーが、配列番号28に記載の塩基配列中、少なくとも連続する14塩基からなるオリゴヌクレオチドである、
前記第一の態様に記載のプライマーセットである。
【0013】
また本発明の第三の態様は、
第一のプライマーが、配列番号7から12のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
第二のプライマーが、配列番号15から19のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、
前記第二の態様に記載のプライマーセットである。
【0014】
また本発明の第四の態様は、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターがさらに付加されている、前記第一から第三の態様のいずれかに記載のプライマーセットである。
【0015】
さらに本発明の第五の態様は、前記第一から第四の態様のいずれかに記載のプライマーセットで増幅した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を、前記核酸の一部とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズ可能なインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを用いて、淋菌16S rRNAを検出する方法である。
【0016】
また本発明の第六の態様は、インターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドが、配列番号25に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである、前記第五の態様に記載の方法である。
【0017】
また本発明の第七の態様は、インターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドが配列番号22から24のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記第六の態様に記載の方法である。
【0018】
さらに本発明の第八の態様は、前記第一から第四の態様のいずれかに記載のプライマーセットと、配列番号25に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識した核酸プローブとを含む、淋菌16S rRNA検出試薬である。
【0019】
また本発明の第九の態様は、インターカレーター性蛍光色素を標識した核酸プローブを構成するオリゴヌクレオチドが配列番号22から24のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記第八の態様に記載の試薬である。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明中において試料とは、食品、飲料水、環境水、糞便および嘔吐物、鼻腔、咽頭および尿道、子宮頸管等のぬぐい液、うがい液、血液、尿、その他の分泌液、体液、組織洗浄液などがあげられる。
【0022】
本発明において特定塩基配列とは、淋菌16S rRNAのうち、第一のプライマーとの相同領域の5’末端から第二のプライマーとの相補領域の3’末端までの塩基配列のことをいう。すなわち本発明では前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が増幅されることになる。
【0023】
本発明におけるストリンジェントな条件の例として、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件や、本明細書の実施例に記載の核酸増幅条件があげられる。すなわち、前述したストリンジェントな条件下で、前記塩基配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイゼーション可能であれば、塩基配列の置換、欠失、付加、修飾があってもよい。プライマーの長さは任意に設定できるが、好ましくは10塩基から50塩基までの範囲である。
【0024】
本発明は、
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーとして、配列番号13に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の66番目から95番目までの塩基配列の相補配列)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとして、配列番号20に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の179番目から226番目までの塩基配列)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、
それぞれ用いることを特徴としている。
【0025】
配列番号13に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの一例として、配列番号13に記載の塩基配列の相補配列である配列番号27に記載の塩基配列中、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号7(GenBank No.NR_103917の75番目から94番目までの塩基配列)、配列番号8(GenBank No.NR_103917の66番目から85番目までの塩基配列)、配列番号9(GenBank No.NR_103917の79番目から95番目までの塩基配列)、配列番号10(GenBank No.NR_103917の68番目から82番目までの塩基配列)、配列番号11(GenBank No.NR_103917の68番目から88番目までの塩基配列)および配列番号12(GenBank No.NR_103917の68番目から91番目までの塩基配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0026】
配列番号20に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの一例として、配列番号20に記載の塩基配列の相補配列である配列番号28に記載の塩基配列中、少なくとも連続する14塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号15(GenBank No.NR_103917の179番目から196番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号16(GenBank No.NR_103917の207番目から226番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号17(GenBank No.NR_103917の183番目から196番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号18(GenBank No.NR_103917の179番目から203番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号19(GenBank No.NR_103917の182番目から205番目までの塩基配列の相補配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0027】
本発明のプライマーセットは、RT−PCR法等、当業者が通常用いる核酸増幅法を利用した、淋菌16S rRNAの特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットとして有用である。なお第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターをさらに付加させると、前記プロモーターに対応したRNAポリメラーゼを用いて、RNAポリメラーゼのプロモーターを付加した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が合成されるため、これら核酸からNASBA法、TMA法、TRC法といった一定温度でRNAを増幅する方法を用いて、RNAを増幅させることができる点で好ましい。プライマーの5’末端側に付加するプロモーターは、RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼ(例えば、分子生物学の分野で汎用される、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼ)に対応したプロモーターを用いればよい。また前記プロモーターに、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域をさらに付加してもよい。RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いたときの、プライマーの5’末端側に付加するプロモーター(T7プロモーター)の具体例として、配列番号26に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0028】
本発明のプライマーセットを用いて増幅した淋菌16S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸の検出は、従来から知られた核酸検出方法を利用することができる。具体的には、
(A)電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、
(B)検出可能な標識で標識された核酸プローブによるハイブリダイゼーション法、
(C)当該増幅産物の塩基配列の一部とハイブリダイズすることで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識プローブを用いた方法、
などがあげられる。前記(C)の蛍光色素標識プローブの一例として、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識プローブや、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブがあげられる。
【0029】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブの一例として、淋菌16S rRNAの特定塩基配列または当該特定塩基配列の相補配列を含む核酸の一部とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの3’末端側、5’末端側、リン酸ジエステル部もしくは塩基部分に、適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブがある。前記プローブは淋菌16S rRNAの特定塩基配列(または当該特定塩基配列の相補配列)と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることで蛍光特性が変化するプローブである。標識するインターカレーター性蛍光色素に特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン等の汎用されている蛍光色素、およびこれらの誘導体の中から、蛍光強度や蛍光特性を考慮して、適宜選定すればよい。なお3’末端側に蛍光色素を標識する場合を除き、オリゴヌクレオチドの3’末端側は当該末端側からの核酸伸長反応を防止する意味で、グリコール酸などの適当な修飾がされているとよい。
【0030】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドの好ましい例として、配列番号25に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の126番目から145番目までの塩基配列)またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号22(GenBank No.NR_103917の130番目から145番目までの塩基配列の相補配列、ただし136番目の塩基はN)、配列番号23(GenBank No.NR_103917の130番目から145番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号24(GenBank No.NR_103917の126番目から145番目までの塩基配列の相補配列、ただし136番目の塩基はN)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0031】
本発明のプライマーセットを用いて淋菌16S rRNAを検出するには、例えば以下の(1)から(6)に示す工程により実施すればよい。
(1)配列番号20に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第二のプライマーが淋菌16S rRNAにハイブリダイズし、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成し、前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)該1本鎖DNAに、配列番号13に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第一のプライマーがハイブリダイズし(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターが付加される)、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生産する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)配列番号25またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを用いて、前記RNA転写産物量を経時的に測定する工程、
前記(1)の工程で用いるRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、前記(2)の工程で用いるRNase H活性を有する酵素、および前記(3)の工程で用いるDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、それぞれ別個あるいは種々の組合せで添加することもできるが、前記活性を併せ持つレトロウイルス由来の逆転写酵素を使用することもできる。該逆転写酵素は特に限定されないが、分子生物学の分野で汎用される、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素、MMLV(Molony Murine Leukemia Virus)逆転写酵素、RAV(Rous Associated Virus)逆転写酵素、HIV(Human Immunodeficiency Virus)逆転写酵素などが使用できる。
【0032】
前述した態様において、RNAポリメラーゼのプロモーターを第一のプライマーの5’末端側に付加した場合は、前記(1)の工程を実施する前に、淋菌16S rRNAのうち特定塩基配列の5’末端部位があらかじめ切断されていると好ましい。特定塩基配列の5’末端部位で切断されることで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、前記cDNAの3’末端を伸長することにより効率的に合成することができ、結果としてRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成することができる。前記切断方法の好ましい例として、淋菌16S rRNA内の特定塩基配列の5’末端部位(当該特定塩基配列内で5’末端を含む部分配列)に重複して5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、切断用オリゴヌクレオチドとする)を添加することによって形成されたRNA−DNAハイブリッドのRNA部分をRNase H活性を有する酵素などにより切断する方法があげられる。なお当該切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は、伸長反応を防止するために適当な修飾(例えばアミノ化)がされていると好ましい。
【0033】
前記切断用オリゴヌクレオチドの好ましい例として、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の52番目から87番目までの塩基配列)とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号2(GenBank No.NR_103917の61番目から84番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号3(GenBank No.NR_103917の52番目から75番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号4(GenBank No.NR_103917の65番目から87番目までの塩基配列の相補配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0034】
前述した態様による淋菌16S rRNA検出方法における反応温度は、使用する各酵素の耐熱性や活性、ならびにプライマー/プローブのTm等に依存するが、使用する酵素がAMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼであり、プライマー/プローブの長さが14から25塩基の範囲である場合は、35から65℃の範囲で反応温度を設定すればよく、40から50℃の範囲で設定するとより好ましい。
【0035】
前述した態様による淋菌16S rRNA検出方法は、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了することが可能である。
【0036】
前述した態様による淋菌16S rRNA検出方法は、前述した第一のプライマー、第二のプライマー、およびインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む淋菌16S rRNA試薬に試料を添加し、経時的に蛍光検出可能な温調ブロックに載置することで、自動的に淋菌16S rRNAを増幅し検出することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のプライマーセットは淋菌16S rRNAに特異的な配列(特定塩基配列)およびその相補配列の一部にそれぞれハイブリダイズすることより、淋菌16S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を特異的に増幅させることができる。
【0038】
本発明のプライマーセットを用いた淋菌16S rRNA検出法は、試料中に含まれる淋菌を高感度に検出することができ、さらに従来技術と比較して迅速である、という特徴を有している。そのため、検査結果を早急に医師に提示することが可能となり、感染拡大防止や、適切な薬剤の投与による耐性菌の発生防止に寄与するものと考えられる。
【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0040】
実施例1 インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの調製
下記(A)から(D)に示す、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ(以下、INAFプローブと記載する)を特開2000−316587号公報で開示の方法に基づき作製した。
(A)配列番号21に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の216番目から232番目までの塩基配列の相補配列)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から7番目のグアニンと8番目のアデニンとの間に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したINAFプローブ。
(B)配列番号22に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の130番目から145番目までの塩基配列の相補配列、ただし136番目の塩基はN)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から4番目のチミンと5番目のアデニンとの間に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したINAFプローブ。
(C)配列番号23に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の130番目から145番目までの塩基配列の相補配列)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から4番目のチミンと5番目のアデニンとの間に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したINAFプローブ。
(D)配列番号24に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の126番目から145番目までの塩基配列の相補配列、ただし136番目の塩基はN)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から4番目のチミンと5番目のアデニンとの間に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したINAFプローブ。
【0041】
実施例2 淋菌16S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの評価(その1)
表1に示す、第一のプライマー、第二のプライマー、切断用オリゴヌクレオチドおよびINAFプローブの組み合わせ(以下、オリゴヌクレオチドの組み合わせと記載する)を用いて、以下に示す方法で淋菌16S rRNAの検出を試みた。
(1)淋菌(ATCC No.19424)のRNA抽出物から淋菌16S rRNA遺伝子をクローニングし、インビトロ転写後、転写産物を精製することで、淋菌16S rRNAを調製した(以下、標準RNAと記載する)。なお標準RNAの定量は、260nmにおける吸光度を基に実施した。
(2)(1)で調製した標準RNAを、RNA希釈液(1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTTを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0))を用いて、10コピー/5μLとなるよう希釈し、これをRNA試料として用いた。
(3)以下の組成からなる反応液20μLを市販の0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。
【0042】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.6)
17mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1mM DTT
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
0.16μM 切断用オリゴヌクレオチド(3’末端の水酸基をアミノ基で修飾)
1.0μM 第一のプライマー(各配列番号記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端側にT7プロモータ(配列番号26)を付加したもの)
1.0μM 第二のプライマー
25nM INAFプローブ(実施例1で調製したもの)
6U リボヌクレアーゼインヒビター
13% DMSO
(4)上記の反応液を46℃で5分間保温後、予め46℃で2分間保温した、以下の組成からなる酵素液を5μLを添加した。
【0043】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
23% グリセロール
400mM トレハロース
33.3mM 塩化カリウム
5.1から6.4U AMV逆転写酵素
71から142U T7 RNAポリメラーゼ
0.025mg/mL 牛血清アルブミン
(5)引き続きPCRチューブを直接検出可能な温調機能付き蛍光分光光度計に供し、46℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長500nm−蛍光波長545nm)を経時的に30分間測定した。
【0044】
反応液の蛍光強度比(酵素液を添加してから30分後の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度値で割った値)をまとめた結果を表1に示す。今回検討した全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせで蛍光強度比が1.2以上を示したことから、これらのオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いることで10コピー/testの淋菌16S rRNAの検出が可能であることを確認した。なかでもA4の組み合わせ(第一のプライマー:配列番号8、第二のプライマー:配列番号15、切断用オリゴヌクレオチド:配列番号3、INAFプローブ:配列番号22)が最も蛍光強度比が高かった。
【0045】
【表1】
実施例3 淋菌16S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの評価(その2)
表2に示す、オリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、以下に示す方法で淋菌16S rRNAの検出を試みた。なお今回検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせは、実施例2で検討したA4の組み合わせからINAFプローブを変更している。
(1)実施例2(1)で調製した標準RNAを、RNA希釈液(1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTTを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0))を用いて、1000コピー/2μL、300コピー/2μL、100コピー/2μLとなるよう希釈し、これをRNA試料として用いた。(2)髄膜炎菌(ATCC No.700532)をTRCR核酸精製キット(東ソー製)を用いて核酸抽出し、得られた核酸抽出物を10cfu/2μLとなるよう希釈することで陰性コントロールを調製した。
(3)以下の組成からなる反応液20μLを市販の0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料または前記陰性コントロール2μLおよびRNA希釈液3μLを添加した。
【0046】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.6)
17mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1mM DTT
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
0.16μM 切断用オリゴヌクレオチド(3’末端の水酸基をアミノ基で修飾)
1.0μM 第一のプライマー(各配列番号記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端側にT7プロモータ(配列番号26)を付加したもの)
1.0μM 第二のプライマー
40nM INAFプローブ(実施例1で調製したもの)
10.9から13.0% DMSO
(4)上記の反応液を46℃で5分間保温後、予め46℃で2分間保温した、以下の組成からなる酵素液を5μLを添加した。
【0047】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
2から23% グリセロール
300mM トレハロース
33.3mM 塩化カリウム
5.1から6.4U AMV逆転写酵素
71から142U T7 RNAポリメラーゼ
0.025mg/mL 牛血清アルブミン
(5)引き続きPCRチューブを直接検出可能な温調機能付き蛍光分光光度計に供し、46℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長500nm−蛍光波長545nm)を経時的に20分間測定した。
【0048】
酵素液を添加した時点を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表2に示す。今回検討した全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせで100コピー/testの淋菌RNA試料を20分以内に検出した。なお検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせのいずれも陰性コントロール(髄膜炎菌核酸抽出物)は検出しなかった。
【0049】
【表2】
実施例4 淋菌16S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの評価(その3)
オリゴヌクレオチドの組み合わせとして表3に示す組み合わせを用い、RNA試料として、うがい液に淋菌をスパイクした試料の核酸抽出物(TRCR核酸精製キット(東ソー製)で核酸抽出し、10cfu(スパイクした淋菌)/2μLとなるよう希釈)を用いた他は、実施例3と同様な方法で淋菌16S rRNAの検出を試みた。
【0050】
結果を表3に示す。今回検討した全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせでうがい液にスパイクした淋菌を検出することができた。特に、C2(第一のプライマー:配列番号8、第二のプライマー:配列番号18、切断用オリゴヌクレオチド:配列番号3、INAFプローブ:配列番号23)、C3(第一のプライマー:配列番号8、第二のプライマー:配列番号19、切断用オリゴヌクレオチド:配列番号3、INAFプローブ:配列番号23)、C8(第一のプライマー:配列番号11、第二のプライマー:配列番号18、切断用オリゴヌクレオチド:配列番号3、INAFプローブ:配列番号23)およびC9(第一のプライマー:配列番号11、第二のプライマー:配列番号19、切断用オリゴヌクレオチド:配列番号3、INAFプローブ:配列番号23)の組み合わせは迅速に検出していた。
【0051】
【表3】
実施例4 淋菌16S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの評価(その4)
オリゴヌクレオチドの組み合わせとして表4に示す組み合わせを用いた他は実施例2と同様な方法で淋菌16S rRNAの検出を試みた。なお表4中、D1(第一のプライマー:配列番号6、第二のプライマー:配列番号14、切断用オリゴヌクレオチド:配列番号1、INAFプローブ:配列番号21)は特開2013−188181号公報で開示の組み合わせ、D2はC9の組み合わせからINAFプローブを変更したものである。
【0052】
結果を表4に示す。C9およびD2の組み合わせは、特開2013−188181号公報で開示のオリゴヌクレオチドの組み合わせ(D1)と比較し、迅速に淋菌16S rRNAを検出していることがわかる。なお検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせのいずれも陰性コントロール(髄膜炎菌核酸抽出物)は検出しなかった。
【0053】
【表4】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]