【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の第一の態様は、
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとからなる、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットであって、
第一のプライマーが、配列番号13に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであり、
第二のプライマーが、配列番号20に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである、
前記プライマーセットである。
【0012】
また本発明の第二の態様は、
第一のプライマーが、配列番号27に記載の塩基配列中、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、
第二のプライマーが、配列番号28に記載の塩基配列中、少なくとも連続する14塩基からなるオリゴヌクレオチドである、
前記第一の態様に記載のプライマーセットである。
【0013】
また本発明の第三の態様は、
第一のプライマーが、配列番号7から12のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
第二のプライマーが、配列番号15から19のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、
前記第二の態様に記載のプライマーセットである。
【0014】
また本発明の第四の態様は、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターがさらに付加されている、前記第一から第三の態様のいずれかに記載のプライマーセットである。
【0015】
さらに本発明の第五の態様は、前記第一から第四の態様のいずれかに記載のプライマーセットで増幅した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を、前記核酸の一部とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズ可能なインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを用いて、淋菌16S rRNAを検出する方法である。
【0016】
また本発明の第六の態様は、インターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドが、配列番号25に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである、前記第五の態様に記載の方法である。
【0017】
また本発明の第七の態様は、インターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドが配列番号22から24のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記第六の態様に記載の方法である。
【0018】
さらに本発明の第八の態様は、前記第一から第四の態様のいずれかに記載のプライマーセットと、配列番号25に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識した核酸プローブとを含む、淋菌16S rRNA検出試薬である。
【0019】
また本発明の第九の態様は、インターカレーター性蛍光色素を標識した核酸プローブを構成するオリゴヌクレオチドが配列番号22から24のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記第八の態様に記載の試薬である。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明中において試料とは、食品、飲料水、環境水、糞便および嘔吐物、鼻腔、咽頭および尿道、子宮頸管等のぬぐい液、うがい液、血液、尿、その他の分泌液、体液、組織洗浄液などがあげられる。
【0022】
本発明において特定塩基配列とは、淋菌16S rRNAのうち、第一のプライマーとの相同領域の5’末端から第二のプライマーとの相補領域の3’末端までの塩基配列のことをいう。すなわち本発明では前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が増幅されることになる。
【0023】
本発明におけるストリンジェントな条件の例として、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件や、本明細書の実施例に記載の核酸増幅条件があげられる。すなわち、前述したストリンジェントな条件下で、前記塩基配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイゼーション可能であれば、塩基配列の置換、欠失、付加、修飾があってもよい。プライマーの長さは任意に設定できるが、好ましくは10塩基から50塩基までの範囲である。
【0024】
本発明は、
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーとして、配列番号13に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の66番目から95番目までの塩基配列の相補配列)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、
試料中に含まれる淋菌16S rRNAの特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとして、配列番号20に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の179番目から226番目までの塩基配列)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、
それぞれ用いることを特徴としている。
【0025】
配列番号13に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの一例として、配列番号13に記載の塩基配列の相補配列である配列番号27に記載の塩基配列中、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号7(GenBank No.NR_103917の75番目から94番目までの塩基配列)、配列番号8(GenBank No.NR_103917の66番目から85番目までの塩基配列)、配列番号9(GenBank No.NR_103917の79番目から95番目までの塩基配列)、配列番号10(GenBank No.NR_103917の68番目から82番目までの塩基配列)、配列番号11(GenBank No.NR_103917の68番目から88番目までの塩基配列)および配列番号12(GenBank No.NR_103917の68番目から91番目までの塩基配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0026】
配列番号20に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの一例として、配列番号20に記載の塩基配列の相補配列である配列番号28に記載の塩基配列中、少なくとも連続する14塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号15(GenBank No.NR_103917の179番目から196番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号16(GenBank No.NR_103917の207番目から226番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号17(GenBank No.NR_103917の183番目から196番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号18(GenBank No.NR_103917の179番目から203番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号19(GenBank No.NR_103917の182番目から205番目までの塩基配列の相補配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0027】
本発明のプライマーセットは、RT−PCR法等、当業者が通常用いる核酸増幅法を利用した、淋菌16S rRNAの特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットとして有用である。なお第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターをさらに付加させると、前記プロモーターに対応したRNAポリメラーゼを用いて、RNAポリメラーゼのプロモーターを付加した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が合成されるため、これら核酸からNASBA法、TMA法、TRC法といった一定温度でRNAを増幅する方法を用いて、RNAを増幅させることができる点で好ましい。プライマーの5’末端側に付加するプロモーターは、RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼ(例えば、分子生物学の分野で汎用される、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼ)に対応したプロモーターを用いればよい。また前記プロモーターに、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域をさらに付加してもよい。RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いたときの、プライマーの5’末端側に付加するプロモーター(T7プロモーター)の具体例として、配列番号26に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0028】
本発明のプライマーセットを用いて増幅した淋菌16S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸の検出は、従来から知られた核酸検出方法を利用することができる。具体的には、
(A)電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、
(B)検出可能な標識で標識された核酸プローブによるハイブリダイゼーション法、
(C)当該増幅産物の塩基配列の一部とハイブリダイズすることで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識プローブを用いた方法、
などがあげられる。前記(C)の蛍光色素標識プローブの一例として、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識プローブや、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブがあげられる。
【0029】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブの一例として、淋菌16S rRNAの特定塩基配列または当該特定塩基配列の相補配列を含む核酸の一部とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの3’末端側、5’末端側、リン酸ジエステル部もしくは塩基部分に、適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブがある。前記プローブは淋菌16S rRNAの特定塩基配列(または当該特定塩基配列の相補配列)と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることで蛍光特性が変化するプローブである。標識するインターカレーター性蛍光色素に特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン等の汎用されている蛍光色素、およびこれらの誘導体の中から、蛍光強度や蛍光特性を考慮して、適宜選定すればよい。なお3’末端側に蛍光色素を標識する場合を除き、オリゴヌクレオチドの3’末端側は当該末端側からの核酸伸長反応を防止する意味で、グリコール酸などの適当な修飾がされているとよい。
【0030】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドの好ましい例として、配列番号25に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の126番目から145番目までの塩基配列)またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号22(GenBank No.NR_103917の130番目から145番目までの塩基配列の相補配列、ただし136番目の塩基はN)、配列番号23(GenBank No.NR_103917の130番目から145番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号24(GenBank No.NR_103917の126番目から145番目までの塩基配列の相補配列、ただし136番目の塩基はN)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0031】
本発明のプライマーセットを用いて淋菌16S rRNAを検出するには、例えば以下の(1)から(6)に示す工程により実施すればよい。
(1)配列番号20に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第二のプライマーが淋菌16S rRNAにハイブリダイズし、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成し、前記RNAとのRNA−DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)該1本鎖DNAに、配列番号13に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第一のプライマーがハイブリダイズし(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターが付加される)、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生産する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)配列番号25またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブを用いて、前記RNA転写産物量を経時的に測定する工程、
前記(1)の工程で用いるRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、前記(2)の工程で用いるRNase H活性を有する酵素、および前記(3)の工程で用いるDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、それぞれ別個あるいは種々の組合せで添加することもできるが、前記活性を併せ持つレトロウイルス由来の逆転写酵素を使用することもできる。該逆転写酵素は特に限定されないが、分子生物学の分野で汎用される、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素、MMLV(Molony Murine Leukemia Virus)逆転写酵素、RAV(Rous Associated Virus)逆転写酵素、HIV(Human Immunodeficiency Virus)逆転写酵素などが使用できる。
【0032】
前述した態様において、RNAポリメラーゼのプロモーターを第一のプライマーの5’末端側に付加した場合は、前記(1)の工程を実施する前に、淋菌16S rRNAのうち特定塩基配列の5’末端部位があらかじめ切断されていると好ましい。特定塩基配列の5’末端部位で切断されることで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、前記cDNAの3’末端を伸長することにより効率的に合成することができ、結果としてRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成することができる。前記切断方法の好ましい例として、淋菌16S rRNA内の特定塩基配列の5’末端部位(当該特定塩基配列内で5’末端を含む部分配列)に重複して5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、切断用オリゴヌクレオチドとする)を添加することによって形成されたRNA−DNAハイブリッドのRNA部分をRNase H活性を有する酵素などにより切断する方法があげられる。なお当該切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は、伸長反応を防止するために適当な修飾(例えばアミノ化)がされていると好ましい。
【0033】
前記切断用オリゴヌクレオチドの好ましい例として、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.NR_103917の52番目から87番目までの塩基配列)とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号2(GenBank No.NR_103917の61番目から84番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号3(GenBank No.NR_103917の52番目から75番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号4(GenBank No.NR_103917の65番目から87番目までの塩基配列の相補配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0034】
前述した態様による淋菌16S rRNA検出方法における反応温度は、使用する各酵素の耐熱性や活性、ならびにプライマー/プローブのTm等に依存するが、使用する酵素がAMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼであり、プライマー/プローブの長さが14から25塩基の範囲である場合は、35から65℃の範囲で反応温度を設定すればよく、40から50℃の範囲で設定するとより好ましい。
【0035】
前述した態様による淋菌16S rRNA検出方法は、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了することが可能である。
【0036】
前述した態様による淋菌16S rRNA検出方法は、前述した第一のプライマー、第二のプライマー、およびインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む淋菌16S rRNA試薬に試料を添加し、経時的に蛍光検出可能な温調ブロックに載置することで、自動的に淋菌16S rRNAを増幅し検出することができる。