特許第6679852号(P6679852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6679852核酸の検出方法および当該方法を利用した試薬キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6679852
(24)【登録日】2020年3月24日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】核酸の検出方法および当該方法を利用した試薬キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20200406BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20200406BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20200406BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20200406BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20200406BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200406BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C12Q1/686 ZZNA
   C12Q1/70
   C12Q1/04
   C12N15/09 Z
   G01N33/50 P
   G01N33/53 M
   G01N33/543 521
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-148551(P2015-148551)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-23110(P2017-23110A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】野口 惇
(72)【発明者】
【氏名】牧野 友理子
(72)【発明者】
【氏名】三木 大輔
【審査官】 堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2004−0037342(KR,A)
【文献】 国際公開第2014/007289(WO,A1)
【文献】 特開2001−157598(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/032794(WO,A1)
【文献】 特開2013−247968(JP,A)
【文献】 特開2006−201062(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002354(WO,A1)
【文献】 特開2006−158283(JP,A)
【文献】 特表2012−523851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CCAplus/REGISTRY(STN)
12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)から(3)に示す工程を含む、エンベロープを有したウイルスの検出方法:
(1)エンベロープを有したウイルスを含む試料と、水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液とを接触させて、前記ウイルス由来の核酸を抽出する工程;
(2)前記ウイルス由来の核酸中の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するプライマー(第一のプライマー)、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するプライマー(第二のプライマー)、および核酸増幅酵素を含む溶液と、前記(1)の工程で抽出した核酸とを反応させて、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する工程;
(3)前記(2)の工程で増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な標識物質を結合したオリゴヌクレオチド(第一のプローブ)、および前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な固相に結合されたオリゴヌクレオチド(第二のプローブ)で前記増幅した核酸を捕捉することで、前記ウイルス由来の核酸を検出する工程;
であって、
エンベロープを有したウイルスがインフルエンザウイルスであり、
第一のプライマー、第二のプライマー、第一のプローブおよび第二のプローブが以下の(i)〜(iii)の何れかの組み合わせである、方法。
(i)インフルエンザウイルスがA型H1N1亜型ウイルスの場合、第一のプライマーが配列番号9に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーが配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプローブが配列番号1に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、かつ、第二のプローブが配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
(ii)インフルエンザウイルスがA型H3N2亜型ウイルスの場合、第一のプライマーが配列番号10に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーが配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプローブが配列番号2に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、かつ、第二のプローブが配列番号に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
(iii) インフルエンザウイルスがB型インフルエンザウイルスの場合、第一のプライマーが配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーが配列番号14に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプローブが配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、かつ、第二のプローブが配列番号に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
【請求項2】
(1)の工程でエンベロープを有したウイルスを含む試料と接触させる水溶性有機溶媒を含む溶液が、ジメチルスルホキシドを含む溶液である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
(1)の工程でエンベロープを有したウイルスを含む試料と接触させる水溶性有機溶媒を含む溶液が、さらに一種類以上の界面活性剤を含む溶液である、請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
(3)の工程における固相がメンブレンであり、(2)の工程で増幅した核酸の捕捉を展開液を用いたクロマトグラフィーにより行なう、請求項1から3のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
展開液が非イオン界面活性剤を少なくとも含む、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
以下の(A)から(D)に示す試薬を含む、エンベロープを有したウイルスの検出試薬キット:
(A)ジメチルスルホキシドおよび一種類以上の界面活性剤を少なくとも含む、エンベロープを有したウイルス由来の核酸を抽出する試薬;
(B)前記ウイルス由来の核酸における特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するプライマー(第一のプライマー)と、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するプライマー(第二のプライマー)と、核酸増幅酵素を少なくとも含む、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する試薬;
(C)前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド(第一のプローブ)を結合したメンブレン;
(D)前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な標識物質を結合したオリゴヌクレオチド(第二のプローブ);
であって、エンベロープを有したウイルスがインフルエンザウイルスであり、
第一のプライマー、第二のプライマー、第一のプローブおよび第二のプローブが以下の(i)〜(iii)の何れかの組み合わせである、キット。
(i)インフルエンザウイルスがA型H1N1亜型ウイルスの場合、第一のプライマーが配列番号9に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーが配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプローブが配列番号1に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、かつ、第二のプローブが配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
(ii)インフルエンザウイルスがA型H3N2亜型ウイルスの場合、第一のプライマーが配列番号10に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーが配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプローブが配列番号2に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、かつ、第二のプローブが配列番号に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
(iii) インフルエンザウイルスがB型インフルエンザウイルスの場合、第一のプライマーが配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーが配列番号14に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプローブが配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、かつ、第二のプローブが配列番号に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる標的核酸の検出方法および当該方法を利用した試薬キットに関する。より詳しくは、試料中に含まれるウイルス由来の標的核酸を検出する方法および試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
環境中または試料中に含まれるウイルスの検査は、公衆衛生や臨床検査の分野で日常的に実施される。臨床検査分野では従来より、試料中に含まれるウイルスの検査方法として、当該ウイルス由来のタンパクと特異的に結合可能な抗体を用いたイムノクロマト法による検査が実施されている。イムノクロマト法による検査は簡便かつ迅速に行なうことができるが、検出感度が低く、偽陰性が問題となっていた。
【0003】
一方、試料中に含まれるウイルスを高感度に検出する方法として、当該ウイルス由来の核酸をPCR法、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、TMA(Transcription−Mediated Amplification)法、TRC(Transcription−Reverse transcription Concerted reaction)法等により特異的に増幅し、当該増幅した核酸を検出する方法が知られている。しかしながら本方法は、前述したイムノクロマト法を利用した方法と比較し、迅速性の点で劣っていた。さらに本方法は、ウイルス由来の核酸を抽出するための特殊な装置(遠心分離機等)や当該抽出した核酸を増幅するための専用装置(サーマルサイクラー等)を必要とするため、小規模な診療所での実施は困難であった。
【0004】
前記課題を解決すべく、Colony direct PCR(非特許文献1)や非特許文献2に記載の方法のように、核酸を抽出し精製する操作をせずに当該核酸を増幅し検出する方法も知られている。しかしながらこれらの方法は検出感度の面で不十分であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Frothingham,R.et al,Biotechniques,11,40−44(1991)
【非特許文献2】松村武史、東京大学学位論文、報告番号122590(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、試料中に含まれるウイルス由来の核酸を増幅することで、当該ウイルスを検出する方法であって、特別な装置を用いることなく、簡便、迅速、高感度かつ特異的に当該ウイルスを検出可能な方法および当該方法を利用した試薬キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明の第一の態様は、以下の(1)から(3)に示す工程を含む、エンベロープを有したウイルスの検出方法である。
(1)エンベロープを有したウイルスを含む試料と、水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液とを接触させて、前記ウイルス由来の核酸を抽出する工程
(2)前記ウイルス由来の核酸中の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するプライマー、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するプライマー、および核酸増幅酵素を含む溶液と、前記(1)の工程で抽出した核酸とを反応させて、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する工程
(3)前記(2)の工程で増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な標識物質を結合したオリゴヌクレオチド、および前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な固相に結合されたオリゴヌクレオチドで前記増幅した核酸を捕捉することで、前記ウイルス由来の核酸を検出する工程
また本発明の第二の態様は、(1)の工程でエンベロープを有したウイルスを含む試料と接触させる水溶性有機溶媒を含む溶液が、ジメチルスルホキシドを含む溶液である、前記第一の態様に記載の検出方法である。
【0009】
また本発明の第三の態様は、(1)の工程でエンベロープを有したウイルスを含む試料と接触させる水溶性有機溶媒を含む溶液が、さらに一種類以上の界面活性剤を含む溶液である、前記第二の態様に記載の検出方法である。
【0010】
また本発明の第四の態様は、(3)の工程における固相がメンブレンであり、(2)の工程で増幅した核酸の捕捉を展開液を用いたクロマトグラフィーにより行なう、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の検出方法である。
【0011】
また本発明の第五の態様は、展開液が非イオン界面活性剤を少なくとも含む、前記第四の態様に記載の検出方法である。
【0012】
また本発明の第六の態様は、エンベロープを有したウイルスがインフルエンザウイルスである、前記第一から第五の態様のいずれかに記載の検出方法である。
【0013】
さらに本発明の第七の態様は、以下の(A)から(E)に示す試薬を含む、エンベロープを有したウイルスの検出試薬キットである。
(A)ジメチルスルホキシドおよび一種類以上の界面活性剤を少なくとも含む、エンベロープを有したウイルス由来の核酸を抽出する試薬
(B)前記ウイルス由来の核酸における特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するプライマーと、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するプライマーと、核酸増幅酵素を少なくとも含む、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する試薬
(C)前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを結合したメンブレン
(D)前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な標識物質を結合したオリゴヌクレオチド
(E)非イオン界面活性剤を少なくとも含むクロマトグラフィー用展開液
また本発明の第八の態様は、前記(E)が、前記(A)と前記(B)との混合物である、前記第七の態様に記載の試薬キットである。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明においてエンベロープを有したウイルスとは、ウイルスカプシドが主に脂質から構成されるエンベロープにより覆われたウイルスのことをいい、一例として、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、エイズウイルス(HIV)があげられる。中でもインフルエンザウイルスは、本発明の検出方法における検出対象ウイルスとして好ましい。
【0016】
本発明においてウイルスを含む試料とは、単にウイルスを水、生理食塩水や緩衝液に溶解したものや、ウイルスを含んだ生体試料そのものや、前記生体試料を含んだ濾紙、スワブ等があげられる。前記生体試料の一例として、血液、糞便、尿、痰、リンパ液、血漿、射精液、肺吸引物、脳脊髄液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、うがい液、唾液、涙液があげられる。またウイルスを含んだ土壌の表面もしくはウイルスを含んだ環境水を拭った濾紙またはスワブ等も、本発明におけるウイルスを含む試料に含まれる。
【0017】
本発明ではエンベロープを有したウイルス由来の核酸を抽出する際に、水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液と接触させる。水溶性有機溶媒は、任意の条件下で水への溶解度を有する有機溶媒であり、一例として、エタノール、メタノール、アセトン、フェノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)が例示できる。中でもDMSOを水溶性有機溶媒として用いると、得られたウイルス由来の核酸を含む溶液をそのまま後述の核酸増幅工程で用いることができる点で好ましい。なお水溶性有機溶媒の含量は、使用する溶媒の溶解度を考慮し、適宜設定すればよい。
【0018】
なおエンベロープを有したウイルス由来の核酸抽出で用いる、水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液に、酵素や、マグネシウム塩、カリウム塩等の塩類や、トレハロース等の糖類や、グリセロール等の糖アルコールや、核酸成分や、界面活性剤等をさらに含んでもよい。中でも界面活性剤は、ウイルス核酸の抽出を促進させる効果を有している点で好ましい。本発明の抽出試薬にさらに含ませる界面活性剤の一例として、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤や、CHAPS等の両イオン界面活性剤や、n−Dodecyl−β−D−maltoside、n−Octyl−β−D−glucoside、Span 20(商品名)、MEGA−8(商品名)、Tween 20(商品名)、Tween 40(商品名)、Tween 60(商品名)、Tween 80(商品名)等の非イオン界面活性剤があげられる。中でもSDS、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムおよびタウロウルソデオキシコール酸ナトリウムは、ウイルス由来核酸の抽出を促進させる効果を有し、かつウイルス由来核酸を抽出した溶液の持ち込みによる、後述の核酸増幅工程への影響が少ない点で好ましい。なお水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液に添加する界面活性剤は一種類でもよいし、複数種類を組み合わせてもよい。添加する界面活性剤の組み合わせの一例として、陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムと、非イオン界面活性剤であるTween 80(商品名)との組み合わせが例示できる。
【0019】
エンベロープを有したウイルスを含む試料と、水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液との接触時間は、接触時間はウイルスを含む試料の性状、試料中のウイルス濃度、抽出試薬に含まれる成分等を考慮し、適宜決定すればよいが、多くの場合接触後4分以内で十分に前記ウイルス由来の核酸を抽出でき、接触後すぐに後述の核酸増幅工程へ供することもできる。
【0020】
本発明では、前述した方法で試料中に含まれるウイルス由来の核酸を抽出した後、当該核酸中の特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅させる。本発明において特定塩基配列とは、検出対象となるウイルス由来核酸のうち、前記ウイルス由来核酸の一部と相同的な配列を有するプライマー(以下、第一のプライマーとも表記する)との相同領域の5’末端から、前記ウイルス由来核酸の一部と相補的な配列を有するプライマー(以下、第二のプライマーとも表記する)との相補領域の3’末端までの塩基配列のことをいう。すなわち本発明では前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が増幅される。
【0021】
本発明で特定塩基配列または特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅させるには、前述した二種類のプライマーおよび核酸増幅酵素とを含む試薬と、前述した方法で抽出した核酸を含む試料とを一定の温度条件下で反応させればよい。核酸増幅酵素は、利用する核酸増幅法(例えば、PCR法、非対称PCR法、RT−PCR法、NASBA法、TMA法、TRC法)に適した酵素を適宜用いればよい。なおNASBA法、TMA法、TRC法といった一定温度でRNAを増幅する方法を用いて、特定塩基配列または特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅させる場合は、前述した二種類のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターをさらに付加させると好ましい。前記プライマーに付加させるプロモーターは、前記核酸の増幅に用いるRNAポリメラーゼ(例えば、分子生物学の分野で汎用される、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼ)に対応したプロモーターを用いればよい。また前記プロモーターに、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域をさらに付加してもよい。前記核酸の増幅に用いるRNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いたときの、プライマーの5’末端側に付加するプロモーター(T7プロモーター)の具体例として、配列番号8に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0022】
本発明では、前述した方法で試料中に含まれるウイルス由来の核酸中の特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅させた後、前記核酸を、前記核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な二種類のオリゴヌクレオチド(一方は標識物質が結合され、他方は固相に結合されている)で捕捉することで、前記ウイルス由来の核酸を検出する(以下、標識物質を結合させるオリゴヌクレオチドを第一のプローブ、固相に結合されたオリゴヌクレオチドを第二のプローブとも表記する)。本発明におけるストリンジェントな条件の例として、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムが存在する条件や、本明細書の実施例に記載の核酸捕捉条件があげられる。すなわち、前述したストリンジェントな条件下で、前記塩基配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイズ可能であれば、前記二種類のプローブの塩基配列は必ずしも前記核酸との完全な相補配列である必要はなく、当該塩基配列に置換、欠失、付加または修飾があってもよい。
【0023】
本発明において第一のプローブに結合させる標識物質は、増幅した核酸が第一のプローブおよび第二のプローブに捕捉され、前記固相に第一のプローブが一定量集まることで検出可能な物質であればよく、着色高分子粒子、金コロイド粒子、色素、蛍光物質が例示できる。特に可視光を吸収または反射する物質を標識物質として用いると、前記標識物質が一定量集まることで目視での検出が可能となるため好ましい。第一のプローブと標識物質との結合は、前記プローブの態様により適宜選択でき、例えば、共有結合、静電気力による結合、抗原−抗体反応、リガンド−レセプター結合、ビオチン−アビジン結合、ヌクレオチド間のハイブリダイズ、またはそれらの組み合わせがあげられる。
【0024】
本発明において第二のプローブに結合させる固相は、前述の核酸増幅工程で増幅した核酸を含む溶液に対して分離可能な状態である物質であり、かつ前記プローブと直接または間接的に担持できれば物質であれば特に限定はないが、ニトロセルロースやナイロンといった多孔質メンブレンを固相として用いると、展開液を用いたクロマトグラフィーにより、増幅した核酸を第一のプローブおよび第二のプローブに捕捉できるため好ましい。なお第二のプローブと固相との結合を強固にするために、前記固相に適当な加工や官能基、結合因子の導入を行なってもよい。第二のプローブと固相との結合は、前記プローブの態様により適宜選択でき、例えば、共有結合、静電気力による結合、抗原−抗体反応、リガンド−レセプター結合、ビオチン−アビジン結合、ヌクレオチド間のハイブリダイズ、またはそれらの組み合わせがあげられる。固相の形状はとくに限定はなく反応液と充分に接触する形状であればよく、一例として薄膜状、立方体、球状があげられる。また反応容器の内壁の一部を兼ねる形状としてもよい。
【0025】
本発明においてクロマトグラフィーとは、毛細管現象で溶液を一定方向へ移動、展開させる方法で、薄膜クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、キャピラリークロマトグラフィーなどが例示でき、展開用吸水性基材、展開液、展開層を併せもつキット型のものやディップスティック型のものが例示できる。展開液を用いたクロマトグラフィーによって、増幅した核酸を第一のプローブおよび第二のプローブに捕捉させる場合、前記展開液に非イオン界面活性剤を含ませるとよい。展開液に非イオン界面活性剤を添加することでクロマトグラフィーによる分離が促進されるからである。非イオン界面活性剤としては、当業者が通常用いる非イオン界面活性剤の中から適宜選択することができ、Tween 20、Tween 60、Tween 80、Triton X−100(以上、商品名)が例示できる。中でもTween 20が、展開液に添加する非イオン界面活性剤として好ましい。
【0026】
本発明の検出試薬キットは、前述したウイルス由来の核酸を抽出する工程、前記核酸中の特定核酸配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する工程、および前記増幅した核酸を検出する工程が実施できる成分を含んでいればよく、その一態様として、
ジメチルスルホキシドおよび一種類以上の界面活性剤を少なくとも含む、エンベロープを有したウイルス由来の核酸を抽出する試薬と、
前記ウイルス由来の核酸における特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するプライマー(第一のプライマー)と、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するプライマー(第二のプライマー)と、核酸増幅酵素を少なくとも含む、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する試薬と、
前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド(第二のプローブ)を結合したメンブレン、
前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な標識物質を結合したオリゴヌクレオチド(第一のプローブ)と、
非イオン界面活性剤を少なくとも含むクロマトグラフィー用展開液と、
を含む検出試薬キットがあげられる。なお前記態様のうち、第一のプローブは前記展開液に添加してもよいし、前記メンブレンに塗布してもよい。また前記抽出試薬と前記核酸増幅試薬との混合液中に非イオン界面活性剤を含んでいれば当該混合液をそのまま展開液として用いてもよく、前記混合液に非イオン界面活性剤を含んでいなければ、核酸増幅反応後クロマトグラフィーを行なう前に前記混合液に非イオン界面活性剤を添加して展開液を調製してもよく、前記混合液をメンブレンの一端にスポットした後、非イオン界面活性剤を含む新たな展開液を用いてクロマトグラフィーを行なってもよい。
【0027】
本発明の試薬キットを用いて、異なるウイルスまたは同一ウイルスの異なる型(例えばインフルエンザウイルスであればA型/B型)を分けて検出したい場合は、少なくとも第二のプローブの配列を各ウイルスまたは各型特異的に捕捉可能(すなわち、ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能)な配列に設計し、当該第二のプローブのメンブレンへの結合位置をそれぞれ異なる位置とすればよい。なお第一のプローブの配列を各ウイルスまたは各型特異的に捕捉可能(すなわち、ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能)な配列とすると特異性向上の点で好ましく、当該第一のプローブへ結合する標識物質をウイルスまたは型ごとに異なる物質(例えば異なる色素)とすると、各ウイルスまたは各型の存否の識別が容易となる点で好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のエンベロープを有したウイルスの検出方法は、(1)前記ウイルスを含む試料と水溶性有機溶媒を少なくとも含む溶液とを接触させて前記ウイルス由来の核酸を抽出する工程と、(2)前記ウイルス由来の核酸中の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するプライマー、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するプライマーおよび核酸増幅酵素を含む溶液と、前記(1)の工程で抽出した核酸とを反応させて前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅する工程と、(3)前記(2)の工程で増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な標識物質を結合したオリゴヌクレオチドおよび前記増幅した核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な固相に結合されたオリゴヌクレオチドで前記増幅した核酸を捕捉することで前記ウイルス由来の核酸を目視で検出する工程を含む方法であり、本発明の方法および当該方法を利用した検出試薬キットにより、高い特異性と検出感度を有し、かつ特別な装置を用いることなく、試料中に含まれるエンベロープを有したウイルスを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の検出方法でA型H3N2亜型インフルエンザウイルスを検出した結果を示す図(クロマトストリップ)である。
図2】本発明の検出方法でB型インフルエンザウイルスを検出した結果を示す図(クロマトストリップ)である。
【実施例】
【0030】
以下、エンベロープを有したウイルスとしてインフルエンザウイルスを用いたときの実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0031】
実施例1 標識物質を結合したオリゴヌクレオチド(第一のプローブ)の調製
標識物質として、直径500nmのラテックス粒子Estapor(メルク製)を使用し、以下に示す方法で、当該標識物質をインフルエンザウイルスRNAまたは内部標準核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイス可能なオリゴヌクレオチド(第一のプローブ)に結合させた。
(1)ラテックス粒子1.4×1010個に対し、3’末端側をアミノ基で修飾した配列番号1から4に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれ150ng添加し、30分室温で静置した。なお配列番号1はA型H1N1亜型インフルエンザウイルスRNAを捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列であり、配列番号2はA型H3N2亜型インフルエンザウイルスRNAを捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列であり、配列番号3はB型インフルエンザウイルスRNAを捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列であり、配列番号4は内部標準核酸を捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列である。
(2)さらに水溶性カルボジイミドを終濃度10mg/mLとなるよう添加し、室温で2時間反応させ、ラテックス粒子を当該オリゴヌクレオチドに結合させた。
(3)遠心により得られた沈殿(標識物質を結合した第一のプローブ)は、Tween 20およびSDSを含む溶液により洗浄し、バッファー(0.5mM EDTA、1M NaCl、および0.05% Tween 20を含む10mM Tris−HCl(pH7.4))中に保存した。
【0032】
実施例2 オリゴヌクレオチドを結合した固相(第二のプローブ)の調製
固相として、ニトロセルロースメンブレンHF120(メルク製)を台紙(メルク製)に結合させたものを使用し、以下に示す方法で当該メンブレンにインフルエンザウイルスRNAまたは内部標準核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイス可能なオリゴヌクレオチド(第二のプローブ)を結合させた。
(1)配列番号5から7に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド50μMを塗布機を用いて、メンブレンに塗布した。なお配列番号5はA型(H1N1亜型およびH3N2亜型)インフルエンザウイルスRNAを捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列であり、配列番号6はB型インフルエンザウイルスRNAを捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列であり、配列番号7は内部標準核酸を捕捉可能なオリゴヌクレオチドの配列である。
(2)UVを2分間照射後、37℃で2時間乾燥することで、前記オリゴヌクレオチドをメンブレンに結合させた。
【0033】
実施例3 本発明の検出方法によるインフルエンザウイルスの検出
本発明の検出方法を用いて、試料中に含まれるインフルエンザウイルスの検出を試みた。
(1)A型H3N2亜型インフルエンザウイルス(A/Texas/50/2012、ZeptoMetrix製)を、注射用水を用いて5×10TCID50/mL、5×10−1TCID50/mLおよび5×10−2TCID50/mLとなるよう希釈することで、各濃度のA型インフルエンザウイルス試料を調製し、B型インフルエンザウイルス(B/Massachusetts/2/2012、ZeptoMetrix製)を、注射用水を用いて5×10TCID50/mLおよび5×10TCID50/mLとなるよう希釈することで、各濃度のB型インフルエンザウイルス試料を調製した。
(2)FLOQスワブ(シン・コーポレイション製)を用いて咽頭部分を擦過し、これを注射水100μLに懸濁することで咽頭ぬぐい液を調製した。
(3)(1)で調製した各ウイルス試料11μLに、(2)で調製した咽頭ぬぐい液0.75μLおよび以下の組成からなるウイルス抽出液3.25μLを添加し、撹拌した。
【0034】
ウイルス抽出液の組成:濃度は試料および咽頭ぬぐい液添加後(15μL中)の最終濃度
21.2mM 塩化マグネシウム
102.7mM 塩化カリウム
1.15% グリセロール
11.5% ジメチルスルホキシド
0.01% ドデシル硫酸ナトリウム
(4)以下の組成からなる反応液10μLを0.5mL容量PCR用チューブ(GeneAmp Thin−Walled Reaction Tubes、ライフテクノロジーズ製)に分注した。なお第一のプライマーおよび第二のプライマーは、それぞれ表1に示す配列からなるオリゴヌクレオチドおよび濃度とし、第一のプライマーの5’末端側にはT7プロモーター配列(配列番号8)を付加した。また表1に示す第一および第二のプライマーのうち、内部標準核酸およびA型H1N1亜型インフルエンザウイルスRNAを増幅するためのプライマーは配列番号9および12に記載の配列からなるプライマーであり、A型H3N2亜型インフルエンザウイルスを増幅するためのプライマーは配列番号10および13に記載の配列からなるプライマーであり、B型インフルエンザウイルスを増幅するためのプライマーは配列番号11および14に記載の配列からなるプライマーである。
【0035】
反応液の組成:濃度はウイルス抽出液および開始液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl(pH8.6)
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各2.6mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.06mM ITP
90mM トレハロース
6.4U AMV逆転写酵素
142U T7 RNAポリメラーゼ
10コピー 内部標準(配列番号15)
第一のプライマー(濃度および配列は表1参照)
第二のプライマー(濃度および配列は表1参照)
【0036】
【表1】
(5)上記反応液を46℃で4分間保温後、直ちに前記(3)のウイルス抽出液15μL、および以下の組成からなる開始液5μLを添加し、反応温度46℃で核酸増幅反応を開始した。
【0037】
開始液の組成:濃度はウイルス抽出液および開始液添加後(30μL中)の最終濃度
21.2mM 塩化マグネシウム
102.7mM 塩化カリウム
1.2% グリセロール
11.5% ジメチルスルホキシド
0.5% Tween 20
(6)開始液添加時から8分後、実施例1で作製した第一のプローブを含む溶液を添加し、さらに実施例2で作製した第二のプローブを結合した固相をPCRチューブに入れ、クロマトグラフィーを2分間実施した。
【0038】
ウイルス試料としてA型H3N2亜型インフルエンザウイルスを用いたときの結果を図1に、B型インフルエンザウイルスを用いたときの結果を図2に示す。A型H3N2亜型インフルエンザウイルスは5×10−1から5×10−2TCID50/mLまで、B型インフルエンザウイルスは5×10TCID50/mLまで、それぞれ検出しており、A型/B型インフルエンザウイルスを簡便、迅速かつ高感度に検出していることがわかる。またA型H3N2亜型インフルエンザウイルスを試料として用いたときは配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(第二のプローブ)を固定化した位置と内部標準の位置(配列番号7に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを固定化した位置)のみに(図1)、B型インフルエンザウイルスを試料として用いたときは配列番号6に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(第二のプローブ)を固定化した位置と内部標準の位置(配列番号7に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを固定化した位置)のみに(図2)、それぞれバンドが確認されたことから、本発明の検出方法により、インフルエンザウイルスの型判別も行なえることがわかる。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]