(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載のタンパク質付着防止剤中に含まれる含フッ素重合体が水酸基を有し、前記架橋剤が多官能イソシアネート化合物である、請求項6に記載の塗布液。
デバイス基材上に、請求項6または7に記載の塗布液を塗布する塗布工程と、前記塗布液に由来する溶媒を除去し、前記デバイス基材上に被覆層が形成された細胞培養容器を得る乾燥工程と、を含む、細胞培養容器の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「含フッ素重合体」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
重合体の「ガラス転移温度(Tg)」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したゴム状態からガラス状態へ変化する温度を意味する。
「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体に由来する部分を意味する。炭素−炭素不飽和二重結合を有する単量体の付加重合により生じる、該単量体に由来する単位は、該不飽和二重結合が開裂して生じた2価の単位である。また、ある単位の構造を重合体形成後に化学的に変換したものも単位という。なお、以下、場合により、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。
「生体親和性基」とは、タンパク質が重合体に吸着および細胞が重合体に接着して動かなくなることを抑制する性質を有する基を意味する。
「セグメント」とは、2以上の単位が連なって形成された分子鎖を意味する。
「生体適合性」とは、タンパク質が吸着しない、または細胞が接着しない性質を意味する。
「医療用デバイス」とは、治療、診断、解剖学または生物学的な検査等の医療用として用いられるデバイスであり、人体等の生体内に挿入あるいは接触させる、または生体から取り出した媒体(血液等)と接触する如何なるデバイスも含むものとする。
【0029】
「細胞」とは、生体を構成する最も基本的な単位であり、細胞膜の内部に細胞質と各種の細胞小器官をもつものを意味する。DNAを内包する核は、細胞内部に含まれても含まれなくてもよい。
動物由来の細胞には、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。
生体を構成する体細胞には、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞等が含まれる。
体細胞には、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が含まれる。
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞または生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
癌細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞であり、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、HT−29、AE−1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が含まれる。
【0030】
本明細書においては、式(1)で表される基を基(1)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0031】
[タンパク質付着防止剤]
本発明のタンパク質付着防止剤は、医療用デバイス等の表面に、フィブリノーゲン、免疫グロブリンG(IgG)、インスリン、ヒストンおよび炭酸脱水酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種のタンパク質の吸着を防止する被覆層を形成するための剤である。該タンパク質の吸着を防止することで、該タンパク質にさらに細胞が接着することを抑制できる。
本発明のタンパク質付着防止剤は、生体親和性基を有する単位を有し、かつ後述の割合Pが0.1〜4.
5である含フッ素重合体からなる。
【0032】
(含フッ素重合体)
本発明における含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体(A)」とも記す。)は、生体親和性基を有する単位を有し、フッ素原子含有率が5〜60質量%であり、かつ下式で表される割合Pが0.1〜4.
5である含フッ素重合体である。含フッ素重合体(A)は、例えば、医療用デバイスのタンパク質付着防止のために使用することができる。具体的には、含フッ素重合体(A)で形成された被覆層を備える医療用デバイスとすることで、該医療用デバイスへのタンパク質の付着を防止することができる。
(割合P)=[(含フッ素重合体(A)の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体(A)のフッ素原子含有率(質量%))
]
【0033】
<生体親和性基>
生体親和性基としては、タンパク質の吸着防止効果が高い被覆層を形成しやすい点から、下記の基(1)、基(2)および基(3)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。生体親和性基としては、タンパク質の吸着防止効果が得られやすい点から、基(1)のみ、または、基(2)および基(3)のいずれか一方もしくは両方が好ましく、基(1)、基(2)または基(3)のいずれか1つが特に好ましい。含フッ素重合体(A)は基(1)〜(3)を含むと生体適合性に優れる。
【0035】
ただし、前記式中、nは1〜10の整数であり、mは基(1)が含フッ素重合体(A)において側鎖に含まれる場合は1〜100の整数であり、主鎖に含まれる場合は5〜300であり、R
1〜R
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、aは1〜5の整数であり、bは1〜5の整数であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、X
−は下記の基(3−1)または下記の基(3−2)であり、cは1〜20の整数であり、dは1〜5の整数である。
【0037】
基(1):
基(1)は、血液中等で運動性が高く、被覆層の表面に吸着しようとするタンパク質が吸着しにくい。
【0038】
基(1)は、含フッ素重合体(A)の主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよい。
【0039】
基(1)におけるnは、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数が特に好ましい。
基(1)は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。タンパク質の吸着抑制効果がより高い点から、基(1)は直鎖状であることが好ましい。
【0040】
基(1)におけるmは、基(1)が含フッ素重合体(A)の側鎖に含まれる場合、耐水性に優れる点から、1〜40が好ましく、1〜20が特に好ましい。
基(1)におけるmは、基(1)が含フッ素重合体(A)の主鎖に含まれる場合、耐水性に優れる点から、5〜300が好ましく、10〜200が特に好ましい。
【0041】
mが2以上の場合、基(1)の(C
nH
2nO)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、2種以上の場合、その並び方はランダム、ブロック、交互のいずれであってもよい。nが3以上の場合、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよい。
含フッ素重合体(A)が基(1)を有する場合、含フッ素重合体(A)が有する基(1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0042】
基(2):
基(2)は、血液中のリン脂質に対して強い親和性を持つ一方、血漿タンパク質に対する相互作用力は弱い。そのため、基(2)を有する含フッ素重合体(A)を用いることで、例えば、血液中では被覆層上にリン脂質が優先して吸着し、該リン脂質が自己組織化して吸着層が形成されると考えられる。その結果、表面が血管内皮表面に類似した構造となるために、フィブリノーゲン等のタンパク質の吸着が抑制される。
基(2)は、含フッ素重合体(A)の側鎖に含まれることが好ましい。
【0043】
基(2)におけるR
1〜R
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、原料の入手容易性の点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
基(2)におけるaは、1〜5の整数であり、原料の入手容易性の点から、2〜5の整数が好ましく、2が特に好ましい。
基(2)におけるbは1〜5の整数であり、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜4の整数が好ましく、2が特に好ましい。
含フッ素重合体(A)が基(2)を有する場合、含フッ素重合体(A)が有する基(2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0044】
基(3):
基(3)を有する含フッ素重合体(A)を用いることで、基(2)を有する含フッ素重合体(A)を用いる場合と同様の理由からタンパク質の吸着が抑制される。
基(3)は、含フッ素重合体(A)の側鎖に含まれることが好ましい。
【0045】
基(3)におけるR
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、タンパク質が吸着しにくい点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0046】
基(3)におけるcは、1〜20の整数であり、含フッ素重合体(A)が柔軟性に優れる点から、1〜15の整数が好ましく、1〜10の整数がより好ましく、2が特に好ましい。
基(3)におけるdは、1〜5の整数であり、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜4の整数が好ましく、1が特に好ましい。
【0047】
含フッ素重合体(A)が基(3)を有する場合、含フッ素重合体(A)が有する基(3)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
また、含フッ素重合体(A)が基(3)を有する場合、タンパク質が吸着しにくい点から、含フッ素重合体(A)は、X
−が基(3−1)である基(3)を有するか、またはX
−が基(3−2)である基(3)を有するかのいずれかであることが好ましい。
【0048】
<含フッ素重合体(A)の物性>
含フッ素重合体(A)の割合Pは、0.1〜4.
5である。割合Pが前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を形成できる。割合Pが前記上限値以下であれば、耐水性に優れた被覆層を形成でき、血液中等に含フッ素重合体(A)が溶出しにくくなる。
割合Pは、0.2〜4.
5が好ましい。
なお、割合Pは、実施例に記載の方法で測定できる。また、含フッ素重合体(A)の製造に使用する単量体、および開始剤の仕込み量から算出することもできる。
【0049】
含フッ素重合体(A)のフッ素原子含有率は、5〜60質量%である。該フッ素原子含有率は5〜55質量%が好ましく、5〜50質量%が特に好ましい。フッ素原子含有率が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。フッ素原子含有率が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
なお、フッ素原子含有率(質量%)は、下式で求められる。
(フッ素原子含有率)=[19×N
F/M
A]×100
N
F:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位のフッ素原子数と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
M
A:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
【0050】
具体例として、テトラフルオロエチレン(TFE)単位50モル%とエチレン(E)単位50モル%とを有する含フッ素重合体のフッ素原子含有率について以下に説明する。
該含フッ素重合体の場合、TFE単位のフッ素原子数(4個)と、全単位に対するTFE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は2であり、E単位のフッ素原子数(0個)と、全単位に対するE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は0であるため、N
Fは2となる。また、TFE単位を構成する全ての原子の原子量の合計(100)と、全単位に対するTFE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は50であり、E単位を構成する全ての原子の原子量の合計(28)と、全単位に対するE単位のモル比率(0.5)とを乗じた値は14であるため、M
Aは64となる。したがって、該含フッ素重合体のフッ素原子含有率は59.4質量%となる。
なお、フッ素原子含有率は、実施例に記載の方法で測定できる。また、含フッ素重合体(A)の製造に使用する単量体、および開始剤の仕込み量から算出することもできる。
【0051】
含フッ素重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、2,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜800,000が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の数平均分子量が前記下限値以上であれば、耐久性に優れる。含フッ素重合体(A)の数平均分子量が前記上限値以下であれば、加工性に優れる。
【0052】
含フッ素重合体(A)の質量平均分子量(Mw)は、2,000〜2,000,000が好ましく、2,000〜1,000,000が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、耐久性に優れる。含フッ素重合体(A)の質量平均分子量が前記上限値以下であれば、加工性に優れる。
【0053】
含フッ素重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜10が好ましく、1.1〜5が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の分子量分布が前記範囲内であれば、耐水性に優れ、かつタンパク質が吸着しにくい。
【0054】
含フッ素重合体(A)は市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、以下のものが挙げられる。
3M社製、ノベック シリーズ:
FC−4430(ノニオン性、ペルフルオロブタンスルホン酸基含有、表面張力:21mN/m)、
FC−4432(ノニオン性、ペルフルオロブタンスルホン酸基含有、表面張力:21mN/m)等。
AGCセイミケミカル社製、サーフロン シリーズ:
S−241(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有、表面張力:16.2mN/m)、
S−242(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有エチレンオキシド付加物、表面張力:22.9mN/m)、
S−243(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有エチレンオキシド付加物、表面張力:23.2mN/m)、
S−420(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有エチレンオキシド付加物、表面張力:23.1mN/m)、
S−611(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有重合物、表面張力:18.4mN/m)、
S−651(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有重合物、表面張力:23.0mN/m)、
S−650(ノニオン性、炭素数が1〜6のペルフルオロアルキル基含有重合物)等。
DIC社製、メガファック シリーズ:
F−444(ノニオン性、ペルフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、表面張力:16.8mN/m)等。
旭硝子社製、アサヒガード シリーズ:
E100等。
【0055】
<好ましい含フッ素重合体(A)>
含フッ素重合体(A)としては、耐水性に優れ、被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を簡便に形成できる点から、後述の含フッ素重合体(A1)〜(A3)が好ましい。含フッ素重合体(A1)および(A2)は生体親和性基を側鎖のみに有する含フッ素重合体(A)であり、含フッ素重合体(A3)は生体親和性基を、少なくとも主鎖に有する含フッ素重合体(A)である。
【0056】
≪含フッ素重合体(A1)≫
含フッ素重合体(A1)は、下記の単量体(m1)に由来する単位(以下、単位(m1)とも記す。)と、単量体(m2)に由来する単位(以下、単位(m2)とも記す。)および単量体(m3)に由来する単位(以下、単位(m3)とも記す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を有する含フッ素重合体である。
単量体(m1):下式(m1)で表される単量体、
単量体(m2):下式(m2)で表される単量体、
単量体(m3):下式(m3)で表される単量体。
【0058】
ただし、前記式中、R
6は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、eは0〜3の整数であり、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、R
f1は炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基であり、R
9は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、Q
1は−C(=O)−O−または−C(=O)−NH−であり、R
1〜R
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、aは1〜5の整数であり、bは1〜5の整数であり、R
10は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、Q
2は−C(=O)−O−または−C(=O)−NH−であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、X
−は基(3−1)または基(3−2)であり、cは1〜20の整数であり、dは1〜5の整数である。
【0059】
単量体(m1):
式(m1)中、R
6は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
eは、含フッ素重合体(A1)の柔軟性に優れる点から、1〜3の整数が好ましく、1または2が特に好ましい。
R
7およびR
8は、耐水性に優れる点から、フッ素原子が好ましい。
R
f1のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。R
f1としては、原料が入手容易な点から、炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0060】
単量体(m1)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCOO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CF
3、
CH
2=CR
6COO(CH
2)
eCF
2CF
2CF
3、
CH
2=CR
6COO(CH
2)
eCF
2CF(CF
3)
2、
CH
2=CR
6COOCH(CF
3)
2、
CH
2=CR
6COOC(CF
3)
3等。
【0061】
単量体(m1)としては、耐水性に優れる点から、CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、CH
2=CHCOO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、またはCH
2=CCH
3COOCH
2CF
3が特に好ましい。
単位(m1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0062】
単量体(m2):
単量体(m2)は、基(2)を有する単量体である。
式(m2)中、R
9は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
Q
1は−C(=O)−O−または−C(=O)−NH−であり、タンパク質が吸着しにくい点から、−C(=O)−O−が好ましい。
R
1〜R
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、タンパク質が吸着しにくい点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
aは、1〜5の整数であり、含フッ素重合体(A1)の柔軟性に優れる点から、1〜4の整数が好ましく、2が特に好ましい。
bは1〜5の整数であり、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜4の整数が好ましく、2が特に好ましい。
【0063】
単量体(m2)の具体例としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられる。
含フッ素重合体(A1)が単位(m2)を有する場合、単位(m2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0064】
単量体(m3):
単量体(m3)は、基(3)を有する単量体である。
式(m3)中、R
10は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
Q
2は、−C(=O)−O−または−C(=O)−NH−であり、含フッ素重合体(A1)のタンパク質が吸着しにくい点から、−C(=O)−O−が好ましい。
R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、原料が入手容易な点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
X
−は、基(3−1)または基(3−2)が好ましい。
cは、1〜20の整数であり、原料が入手容易な点から、1〜15の整数が好ましく、1〜10の整数がより好ましく、2が特に好ましい。
dは、1〜5の整数であり、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜4の整数が好ましく、1が特に好ましい。
【0065】
単量体(m3)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、
N−アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−プロピルスルホキシベタイン、
N−メタクリロイルアミノプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−プロピルスルホキシベタイン等。
【0066】
単量体(m3)としては、タンパク質が吸着しにくい点から、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、またはN−アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインが好ましい。
含フッ素重合体(A1)が単位(m3)を有する場合、単位(m3)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0067】
含フッ素重合体(A1)においては、タンパク質が吸着しにくい点から、生体親和性基を有する単位として、単位(m2)または単位(m3)のいずれか1つを有していることが特に好ましい。
なお、含フッ素重合体(A1)は、単位(m1)、単位(m2)および単位(m3)をすべて有していてもよい。
【0068】
含フッ素重合体(A1)は、単位(m1)と、単位(m2)および単位(m3)から選ばれる1種以上とに加えて、単位(m1)、単位(m2)および単位(m3)以外の他の単量体に由来する単位を有していてもよい。
【0069】
他の単量体としては、耐水性に優れる点から、下記の単量体(m7)が好ましい。
単量体(m7):下式(m7)で表される単量体。
【0071】
ただし、R
19は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、Q
6は−C
6H
4−または−C(=O)O−(CH
2)
ρ−(ただし、ρは1〜100の整数である。)であり、R
19およびR
20は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。ηは1〜3の整数であり、η+θは3である。)
【0072】
式(m7)中、R
19は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
Q
6は、入手容易性の点から、−C(=O)O−(CH
2)
2−が好ましい。
R
20およびR
21は、入手容易性の点から、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、炭素数1〜2のアルキル基が特に好ましい。
ηは、基板密着性の点から、2または3が好ましい。
【0073】
単量体(m7)の具体例としては、例えば、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
単量体(m7)としては、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、または3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
含フッ素重合体(A1)が単量体(m7)に由来する単位(m7)を有する場合、単位(m7)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0074】
また、単量体(m7)以外の他の単量体としては、例えば、含フッ素重合体(A1)における他の単量体で挙げた化合物が挙げられる。
単量体(m7)以外の他の単量体としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−(メタ)アクリロイルペピリジン、N,N−ジメチルアミノオキシドエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノオキシドエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートの3,5−ジメチルピラゾール付加体、3−イソシアネートプロピル(メタ)アクリレート、4−イソシアネートブチル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノグリシジルエーテル(メタ)アクリレート等を用いてもよい。
【0075】
含フッ素重合体(A1)の全単位に対する単位(m1)の割合は、95〜5モル%が好ましく、90〜10モル%が特に好ましい。単位(m1)の割合が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m1)の割合が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
【0076】
含フッ素重合体(A1)の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合は、5〜95モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。前記単位の割合が前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい。前記単位の割合が前記上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0077】
含フッ素重合体(A1)の全単位に対する単位(m2)と単位(m3)との合計の割合は、5〜95モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。単位(m2)と単位(m3)との合計の割合が前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい。単位(m2)と単位(m3)との合計の割合が前記上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0078】
含フッ素重合体(A1)が単位(m7)を有する場合、含フッ素重合体(A1)の全単位に対する単位(m7)の割合は、0.1〜10モル%が好ましく、0.5〜10モル%が特に好ましい。単位(m7)の割合が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m7)の割合が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
【0079】
含フッ素重合体(A1)は、公知の方法を用いて、重合溶媒中で単量体の重合反応を行うことにより得られる。
重合溶媒としては、特に限定されず、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アルコール類(メタノール、2−プロピルアルコール等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、グリコールエーテル類(エチレングリコール、プロピレングリコール、またはジプロピレングリコールのエチルエーテルまたはメチルエーテル等)およびその誘導体、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類(パークロロエチレン、トリクロロ−1,1,1−エタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等)、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ブチロアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
【0080】
含フッ素重合体(A1)を得る重合反応における反応液中のすべての単量体の合計濃度は、5〜60質量%が好ましく、10〜40質量%が特に好ましい。
【0081】
含フッ素共重合体(A1)を得る重合反応においては、重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては、過酸化物(ベンジルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、スクシニルパーオキシド、tert−ブチルパーピバレート等)、アゾ化合物等が挙げられる。
重合開始剤としては、2,2’−アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)、1、1’−アゾビス(2シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、1、1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチルアゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などが好ましく、2,2’−アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2イル)プロパン]、または4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)が特に好ましい。
重合開始剤の使用量は、単量体の合計量100質量部に対して0.1〜1.5質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。
【0082】
含フッ素重合体(A1)の重合度(分子量)を調節するために、重合反応において連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることにより、重合溶媒中の単量体の濃度の合計を高められる効果もある。
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン(tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタン等)、アミノエタンチオール、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、3,3’−ジチオ−ジプロピオン酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸n−ブチル、チオグリコール酸メトキシブチル、チオグリコール酸エチル、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、四塩化炭素等が挙げられる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体の合計量100質量部に対して0〜2質量部が好ましく、0.1〜1.5質量部がより好ましい。
【0083】
重合反応における反応温度は、室温から反応液の沸点までの範囲が好ましい。重合開始剤を効率良く使う観点からは、重合開始剤の半減期温度以上が好ましく、30〜90℃がより好ましく、40〜80℃がより好ましい。
【0084】
≪含フッ素重合体(A2)≫
含フッ素重合体(A2)は、下記の単量体(m1)に由来する単位(m1)と単量体(m4)に由来する単位(以下、単位(m4)とも記す。)とを有する含フッ素重合体である。
単量体(m1):前記式(m1)で表される単量体、
単量体(m4):下式(m4)で表される単量体。
【0086】
ただし、式中、R
11は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、Q
3は−COO−または−COO(CH
2)
h−NHCOO−(ただし、hは1〜4の整数である。)であり、R
12は水素原子または−(CH
2)
i−R
13(ただし、R
13は炭素数1〜8のアルコキシ基、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基またはシアノ基であり、iは1〜25の整数である。)であり、fは1〜10の整数であり、gは1〜100の整数である。
【0087】
単量体(m1):
単量体(m1)の好ましい範囲や例示は、含フッ素重合体(A1)で説明したものと同様である。
単位(m1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0088】
単量体(m4):
単量体(m4)は、基(1)を有する単量体である。
式(m4)中、R
11は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
Q
3は、−COO−が好ましい。
R
12は、水素原子が好ましい。
【0089】
gが2以上の場合、複数存在する(C
fH
2fO)の種類が同じであっても異なっていてもよい。異なる場合には、その並び方はランダム、ブロック、交互(例えば(CH
2CH
2O−CH
2CH
2CH
2CH
2O)等)のいずれであってもよい。fが3以上の場合には、直鎖構造でも分岐構造でもよい。(C
fH
2fO)としては(CH
2O)、(CH
2CH
2O)、(CH
2CH
2CH
2O)、(CH(CH
3)CH
2O)、(CH
2CH
2CH
2CH
2O)等が挙げられる。
fは、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数が特に好ましい。
gは、排除体積効果が高く、タンパク質が吸着しにくい点から、1〜50の整数が好ましく、1〜30の整数がより好ましく、1〜20の整数が特に好ましい。
【0090】
iは、含フッ素重合体(A2)の柔軟性に優れる点から、1〜4の整数が好ましく、1または2が特に好ましい。
R
13は、タンパク質が吸着しにくい点から、アルコキシ基が好ましい。
【0091】
単量体(m4)としては、下式(m41)で表される単量体(m41)が好ましい。
【0093】
単量体(m4)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
9−H、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
4−H、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
5−H、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
9−CH
3、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
9−H、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
4−H、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
5−H、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
9−CH
3、
CH
2=CH−COO−(CH
2O)−(C
2H
4O)
g1−CH
2−OH、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
g2−(C
4H
8O)
g3−H、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
g2−(C
4H
8O)
g3−H、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
g2−(C
4H
8O)
g3−CH
3、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
g2−(C
4H
8O)
g3−CH
3等。
上式において、g1は1〜20の整数であり、g2およびg3は、それぞれ独立に、1〜50の整数である。
【0094】
単量体(m4)としては、タンパク質が吸着しにくい点から、以下の化合物が好ましい。
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
9−H、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
4−H、
CH
2=CH−COO−(C
2H
4O)
5−H、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
9−CH
3、
CH
2=CH−COO−(CH
2O)−(C
2H
4O)
g1−CH
2−OH、
CH
2=C(CH
3)−COO−(C
2H
4O)
g2−(C
4H
8O)
g3−H。
【0095】
含フッ素重合体(A2)は、単量体(m1)および単量体(m4)以外の他の単量体に由来する単位を有していてもよい。
他の単量体としては、耐水性に優れる点から、下式(m5)で表される単量体(m5)が好ましい。
CH
2=CR
14−COO−Q
4−R
15 ・・・(m5)
【0096】
ただし、R
14は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、R
15は炭素数1〜8のアルコキシ基、水素原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、Q
4は単結合、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜12のポリフルオロアルキレン基または−CF
2−(OCF
2CF
2)
y−OCF
2−(ただし、yは1〜6の整数である。)である。
【0097】
式(m5)中、R
14は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
xは、含フッ素重合体(A2)の柔軟性に優れる点から、1〜15の整数が好ましく、2〜15の整数が特に好ましい。
Q
4のアルキレン基およびポリフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。Q
4は、含フッ素重合体(A2)の柔軟性に優れる点から、炭素数1〜12のアルキレン基が好ましく、メチレン基、イソブチレン基が特に好ましい。
R
15は耐水性に優れる点から、水素原子が好ましい。
【0098】
単量体(m5)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH
2=CH−COO−(CH
2)
4−H、
CH
2=CH−COO−(CH
2)
6−H、
CH
2=CH−COO−(CH
2)
8−H、
CH
2=CH−COO−(CH
2)
16−H、
CH
2=CH−COO−CH
2CH(C
2H
5)CH
2CH
2CH
2CH
3等。
単量体(m5)としては、CH
2=CH−COO−(CH
2)
4−H、CH
2=CH−COO(CH
2)
8−H、またはCH
2=CH−COO−(CH
2)
16−Hが好ましく、CH
2=CH−COO−(CH
2)
8−H、またはCH
2=CH−COO−(CH
2)
16−Hが特に好ましい。
【0099】
含フッ素重合体(A2)は、耐水性に優れる点から、単量体(m7)に由来する単位(m7)を有することも好ましい。単量体(m7)の好ましい態様は、含フッ素重合体(A1)の場合と同じである。
また、単量体(m5)および単量体(m7)以外の他の単量体としては、例えば、含フッ素重合体(A1)において単量体(m7)以外の他の単量体として挙げた化合物と同じ化合物が挙げられる。
【0100】
含フッ素重合体(A2)が単位(m5)を有する場合、単位(m5)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
含フッ素重合体(A2)が単位(m1)および単位(m4)に加えて単位(m5)を有する場合、CH
2=CHCOO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3単位と、CH
2=CH−COO−(CH
2O)−(C
2H
4O)
g1−CH
2−OH(g1=1〜20)単位と、CH
2=CH−COO−(CH
2)
16−H単位とを有する含フッ素重合体が特に好ましい。
【0101】
含フッ素重合体(A2)の全単位に対する単位(m1)の割合は、95〜5モル%が好ましく、90〜10モル%が特に好ましい。単位(m1)の割合が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m1)の割合が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
【0102】
含フッ素重合体(A2)の全単位に対する単位(m4)の割合は、5〜95モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。単位(m4)の割合が前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい。単位(m4)の割合が前記上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0103】
含フッ素重合体(A2)が単位(m5)を有する場合、単位(m1)と単位(m4)との合計に対する単位(m5)の割合は、5〜95モル%が好ましく、10〜90モル%が特に好ましい。単位(m5)の割合が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m5)の割合が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
【0104】
含フッ素重合体(A2)が単位(m7)を有する場合、含フッ素重合体(A2)の全単位に対する単位(m7)の割合は、0.1〜10モル%が好ましく、0.5〜10モル%が特に好ましい。単位(m7)の割合が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m7)の割合が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
【0105】
含フッ素重合体(A2)は、単量体(m1)、(m4)、(m5)および(m7)を用いる以外は、含フッ素重合体(A1)と同様の方法で製造できる。
【0106】
≪含フッ素重合体(A3)≫
含フッ素重合体(A3)は、下式(m6)で表される単量体(m6)に由来する単位(以下、単位(m6)とも記す。)を含むセグメント(I)と、下式(6)で表される構造(以下、構造(6)と記す。)を有する高分子アゾ開始剤に由来する分子鎖を含むセグメント(II)と、を有するブロック共重合体である。構造(6)の分子鎖は、生体親和性基である基(1)を有する単位で形成されている。このように、含フッ素重合体(A3)は、基(1)を主鎖に有する。
【0108】
ただし、前記式中、R
16は水素原子、塩素原子およびメチル基であり、Q
5は単結合または2価の有機基であり、R
17は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基であり、αは5〜300の整数であり、βは1〜20の整数である。
【0109】
セグメント(I):
セグメント(I)は、単位(m6)を含む分子鎖からなるセグメントである。
式(m6)中、R
16は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子であり、原料の入手容易な点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0110】
Q
5は、合成の容易さ、含フッ素重合体(A3)の物性の点から、以下の基が挙げられる。
−O−、−S−、−NH−、−SO
2−、−PO
2−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、−N(O)=N−、−OCO−、−COO−、−COS−、−CONH−、−COCH
2−、−CH
2CH
2−、−CH
2−、−CH
2NH−、−CO−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−CO−、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基、アルケニレン基、アルキレンオキシ基、2価の4〜7員環の置換基、2価の6員環の芳香族炭化水素基、2価の4〜6員環の脂環式炭化水素基、2価の5または6員環の複素環基、これらの縮合環、2価の連結基の組み合わせから構成される基等。
【0111】
2価の有機基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトシキ基、オクチルオキシ基、メトキシエトキシ基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等)、アミド基(アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、カルバモイル基(N,N−ジメチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2−カルボキシエチル基、ベンジル基等)、アリール基(フェニル基、トルイル基等)、複素環基(ピリジル基、イミダゾリル基、フラニル基等)、アルケニル基(ビニル基、1−プロペニル基等)、アルコシアシルオキシ基(アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、アルコシキカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、重合性基(ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、スリリル基、桂皮酸残基等)などが挙げられる。
【0112】
Q
5としては、単結合、−O−、−(CH
2CH
2O)
γ−(ただし、γは1〜10の整数である。)、−COO−、6員環芳香族炭化水素基、直鎖状または分岐状のアルキレン基、水素原子の一部が水酸基に置換された直鎖状または分岐状のアルキレン基、これら2価の連結基の組み合わせから構成される基などが好ましく、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、または−COOY
1−が特に好ましい。Y
1としては、−(CH
2)
δ−、−(CH
2)
δ−CH(OH)−(CH
2)
ε−、−(CH
2)
δ−NR
18−SO
2−等が挙げられ、−(CH
2)
δ−が特に好ましい。ただし、δは1〜5の整数であり、εは1〜5の整数であり、R
18は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
Q
5が−(CH
2CH
2O)
γ−である場合、含フッ素重合体(A3)は主鎖と側鎖の両方に生体親和性基を有する。
【0113】
R
17は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基である。耐水性に優れる点から、R
17は炭素数3〜6のポリフルオロアルキル基が好ましく、炭素数4または6のポリフルオロアルキル基が特に好ましい。R
17は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、R
17のポリフルオロアルキル基は、耐水性に優れる点から、ペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0114】
単量体(m6)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH
2=CH−COO(CH
2)
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CH−COO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCOO(CH
2)
3(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CHCOO(CH
2)
3(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CH(OH)CH
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CH(OH)CH
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
3(CF
2)
3CF
3、
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
3(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CH(OH)CH
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CH(OH)CH
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHC
6H
4(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CHC
6H
4(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CH
2N(CH
3)SO
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CH
2N(CH
3)SO
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CH
2N(CH
3)SO
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CH
2N(CH
3)SO
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CH
2N(C
2H
5)SO
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CHCOOCH
2CH
2N(C
2H
5)SO
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CH
2N(C
2H
5)SO
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=C(CH
3)COOCH
2CH
2N(C
2H
5)SO
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCOO(CH
2)
2N(CH
2CH
2CH
3)SO
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=CHCOO(CH
2)
2N(CH
2CH
2CH
3)SO
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2N(CH
2CH
2CH
3)SO
2(CF
2)
3CF
3、
CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2N(CH
2CH
2CH
3)SO
2(CF
2)
5CF
3、
CH
2=CHCONHCH
2C
4F
9、
CH
2=CHCONHCH
2C
5F
11、
CH
2=CHCONHCH
2C
6F
13、
CH
2=CHCONHCH
2CH
2OCOC
4F
9、
CH
2=CHCONHCH
2CH
2OCOC
5F
11、
CH
2=CHCONHCH
2CH
2OCOC
6F
13、
CH
2=CHCOOCH(CF
3)
2、
CH
2=C(CH
3)COOCH(CF
3)
2等。
【0115】
含フッ素重合体(A3)の全単位に対する、単位(m6)の割合は、1〜99モル%が好ましく、1〜90モル%が特に好ましい。単位(m6)の割合が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m6)の割合が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。
【0116】
セグメント(I)(100質量%)中の単位(m6)の割合は、5〜100質量%が好ましく、10〜100質量%が特に好ましい。前記単位(m6)の割合が前記範囲の下限値以上であれば、セグメント(I)を構成する単量体の重合が容易になる。
【0117】
セグメント(II):
セグメント(II)は、構造(6)を有する高分子アゾ開始剤に由来する分子鎖からなるセグメントである。
式(6)のαは、5〜300の整数であり、タンパク質が吸着しにくい点から、10〜200の整数が好ましく、20〜100の整数が特に好ましい。
βは、1〜20の整数であり、重合しやすい点から、2〜20の整数が好ましく、5〜15の整数が特に好ましい。
【0118】
構造(6)を有する高分子アゾ開始剤としては、例えば、和光純薬工業社製のVPEシリーズ(VPE−0201、VPE−0401、VPE−0601)等が挙げられる。
【0119】
含フッ素重合体(A3)の全単位に対する、構造(6)の分子鎖における各単位の合計割合は、1〜50モル%が好ましく、1〜40モル%が特に好ましい。前記単位の割合が前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい。前記割合が前記上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0120】
含フッ素重合体(A3)は、単量体(m6)と、構造(6)を有する高分子アゾ開始剤とを用いる以外は、含フッ素重合体(A1)と同様の方法で製造できる。含フッ素重合体(A3)を得る際の重合反応には、重合開始剤として、構造(6)を有する高分子アゾ開始剤に加えて、含フッ素重合体(A1)の場合に挙げた重合開始剤を併用してもよい。
【0121】
本発明では、含フッ素重合体(A)として、含フッ素重合体(A1)〜(A3)のうちのいずれか1つのみを使用してもよく、含フッ素重合体(A1)〜(A3)からなる群から選ばれる2つ以上を併用してもよい。
なお、含フッ素重合体(A)は、前記した含フッ素重合体(A1)〜(A3)には限定されない。
【0122】
[塗布液]
(溶媒)
本発明の塗布液は、含フッ素重合体(A)に加えて、溶媒(以下、「溶媒(B)」とも記す。)を含む。本発明のタンパク質付着防止剤が常温(20〜25℃)で液体の場合には、そのまま塗布することが可能であるが、塗布液を湿式塗布することで、タンパク質付着防止剤から形成されてなる被覆層を容易に形成することができる。
本発明の塗布液は、例えば、医療用デバイスのタンパク質付着防止のために使用することができる。具体的には、本発明の塗布液を用いて形成された被覆層を備える医療用デバイスとすることで、該医療用デバイスへのタンパク質の付着を防止することができる。
【0123】
塗布液を塗布する際には、塗布液に含フッ素重合体(A)および溶媒(B)以外の成分、例えば、レベリング剤、架橋剤等を含ませて塗布してもよい。塗布液に架橋剤を含ませない場合は、被覆層は含フッ素重合体(A)のみから形成される層となる。また、塗布液に架橋剤を含ませる場合は、被覆層は含フッ素重合体(A)と架橋剤とから形成される層となる。
【0124】
溶媒(B)としては、非含フッ素溶媒、含フッ素溶媒などが挙げられ、非含フッ素溶媒としては、アルコール系溶媒、含ハロゲン系溶媒等が挙げられる。例えば、エタノール、メタノール、アセトン、クロロホルム、アサヒクリンAK225(旭硝子社製)、AC6000(旭硝子社製)等が挙げられる。溶媒(B)としては、デバイス等を溶解しない種類を選択することが好ましい。デバイスの材質としてポリスチレンを使用する場合、エタノール、メタノール、アサヒクリンAK225(旭硝子社製)、AC6000(旭硝子社製)等が好ましい。
【0125】
本発明の塗布液中の含フッ素重合体(A)の濃度は、0.0001〜10質量%が好ましく、0.0005〜5質量%が特に好ましい。含フッ素重合体(A)の濃度が前記範囲であれば、均一に塗布することができ、均一な被覆層が形成できる。
【0126】
(他の成分)
本発明の塗布液は、必要に応じて、含フッ素重合体(A)および溶媒(B)以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、例えば、レベリング剤、架橋剤等が挙げられる。
【0127】
デバイスを長期間使用する場合には、含フッ素重合体(A)を架橋する架橋剤を塗布液に添加し、被覆層中の架橋度合いを調整することで、優れた生体適合性がより長期にわたって持続する、優れた耐久性を有する被覆層を形成できる。具体的には、含フッ素重合体(A)が水酸基を有する場合は、該水酸基と反応する架橋剤を添加することで、優れた耐久性を有する被覆層を形成できる。特に、水酸基を有する単位を含む含フッ素重合体(例えば、R
12が水素原子である単位(m4)を含む含フッ素重合体(A2))を用いる場合に、該水酸基と反応する架橋剤を添加することが好ましい。
【0128】
水酸基と反応する架橋剤としては、多官能イソシアネート化合物が挙げられる。多官能イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、HDI系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。HDI系ポリイソシアネートには、2液型用としてビウレットタイプ、イソシアヌレートタイプ、アダクトタイプ、2官能型等が挙げられ、硬化開始温度に閾値があるブロック型も挙げられる。HDI系ポリイソシアネートは、市販品を使用することができ、デュラネート(旭化成社製)等が挙げられる。
使用する多官能イソシアネート化合物は、反応温度、デバイスの材質によって適宜選択できる。例えば、デバイスの材質としてポリスチレンを使用する場合、アサヒクリンAK225(旭硝子社製)、AC6000(旭硝子社製)等に溶解でき、かつポリスチレンの熱変形温度である80℃以下でも硬化反応が進行する、ビウレットタイプ、イソシアヌレートタイプなどが好ましい。
【0129】
被覆層中の架橋度合いは、含フッ素重合体(A)中の水酸基量と添加する架橋剤の量、反応率によって決まり、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調節できる。
架橋剤の使用量は、含フッ素重合体(A)の100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。架橋剤の使用量が前記範囲の下限値以上であれば、耐久性に優れた被覆層を形成しやすい。架橋剤の使用量が前記範囲の上限値以下であれば、生体適合性に優れた被覆層を形成しやすい。
【0130】
以上説明した、本発明のタンパク質付着防止剤および塗布液は、生体親和性基を有し、割合Pが特定の範囲に制御された含フッ素重合体(A)を含むため、耐水性に優れ、被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を簡便に形成できる。
【0131】
本発明のタンパク質付着防止剤および塗布液の用途としては、医療用デバイスが特に有効である。
なお、本発明のタンパク質付着防止剤および塗布液は、船舶、橋梁、海上タンク、港湾施設、海底基地、海底油田掘削設備等の海洋構造物に対して用いてもよい。該海洋構造物に対して本発明のタンパク質付着防止剤を用いることで、該海洋構造物にタンパク質が吸着することが抑制される。その結果、貝類(フジツボ等)、海藻類(アオノリ、アオサ等)等の水生生物が接着することが抑制される。
【0132】
[医療用デバイス]
本発明の医療用デバイスは、デバイス基材と、前記デバイス基材上に本発明のタンパク質付着防止剤から形成されてなる被覆層と、を備える。
医療用デバイスの具体例としては、例えば、医薬品、医薬部外品、医療用器具等が挙げられる。医療用器具としては、特に限定されず、細胞培養容器、細胞培養シート、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、包装材等が挙げられる。なかでも、細胞培養容器が好ましい。
【0133】
本発明の医療用デバイスの具体例としては、例えば、
図1および
図2に例示した医療用デバイス1が挙げられる。医療用デバイス1は、細胞培養容器の一つであるシャーレである。
医療用デバイス1は、デバイス基材2と、デバイス基材2上に形成された被覆層3、とを備える。デバイス基材2は、平面視形状が円形状の底面部4と、底面部4の周縁から全周にわたって立ち上がる側面部5とを備え、上方が開放された容器形状になっている。被覆層3は、デバイス基材2における内面上、すなわち底面部4の上面上と側面部5の内面上に、本発明のタンパク質付着防止剤によって形成されている。
【0134】
本発明の医療用デバイスにおけるデバイス基材を形成する材料は、特に限定されず、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂、ガラス等が挙げられる。なかでも、本発明は、デバイス基材を形成する材料がガラスである場合に特に有効である。
【0135】
被覆層としては、含フッ素重合体(A)のみから形成される層、または含フッ素重合体(A)と架橋剤とから形成される層が挙げられる。
被覆層の厚さは、1nm〜1mmが好ましく、5nm〜800μmが特に好ましい。被覆層の厚さが前記下限値以上であれば、タンパク質が吸着しにくい。被覆層の厚さが前記上限値以下であれば、被覆層がデバイス基材の表面に密着しやすい。
【0136】
被覆層とデバイス基材との密着性を向上させるために、デバイス基材と被覆層の間に接着層を設けてもよい。接着層を形成する接着剤としては、被覆層とデバイス基材の双方に対して充分な接着力を発揮するものを適宜使用でき、例えば、フッ素樹脂用接着剤であるシアノアクリレート系接着剤、シリコーン変性アクリル接着剤、エポキシ変性シリコーン接着剤等が挙げられる。
【0137】
具体例としては、例えば、デバイス基材を形成する材料としてポリスチレンを使用する場合、シアノアクリレート系接着剤を使用する。この場合、接着剤層のデバイス基材側では、シアノアクリレート系接着剤中のシアノアクリレートモノマーが、空気中またはデバイス基材の表面の水分と反応して硬化する。被覆層中には含フッ素重合体(A)由来の生体親和性基が存在するため、被覆層中およびその周辺部に水分が存在する。そのため、接着剤層の被覆層側でも、シアノアクリレートモノマーがそれらの水分と反応して硬化する。接着層により被覆層とデバイス基材との密着性を向上できる。
【0138】
(医療用デバイスの製造方法)
本発明の医療用デバイスの製造方法としては、例えば、下記の塗布工程と、乾燥工程とを含む方法が挙げられる。
塗布工程:デバイス基材上に本発明の塗布液を塗布する工程。
乾燥工程:前記塗布液に由来する溶媒を除去し、前記デバイス基材上に被覆層が形成された医療用デバイスを得る工程。
【0139】
<塗布工程>
塗布液の塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコーター、アプリケーター、スピンコーター等の塗装装置を用いて行う方法が挙げられる。
【0140】
<乾燥工程>
デバイス基材上に塗布した塗布液に由来する溶媒を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、風乾、加熱による乾燥等の公知の乾燥方法を用いることができる。
乾燥温度は、30〜200℃が好ましく、30〜150℃がより好ましい。
【0141】
なお、本発明の医療用デバイスの製造方法は、前記した方法には限定されず、本発明のタンパク質付着防止剤が常温(20〜25℃)で液体の場合には、該タンパク質付着防止剤をそのままデバイス基材上に塗布して被覆層を形成してもよい。この場合には、デバイス基材の表面との密着性を向上させるために、タンパク質付着防止剤を加熱してもよい。
【0142】
以上説明した、本発明の医療用デバイスは、本発明のタンパク質付着防止剤から形成されてなる被覆層をデバイス表面に有するため、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れている。
【実施例】
【0143】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1〜3、6、7、9〜14、16〜21、および23〜30は実施例であり、例4、5、8、15、および22は比較例である。
[共重合組成]
得られた含フッ素重合体の20mgをクロロホルムに溶かし、
1H−NMRにより共重合組成を求めた。
【0144】
[フッ素原子含有率]
フッ素原子含有率は、
1H−NMR、イオンクロマト、および元素分析により測定した。
【0145】
[ガラス転移温度(Tg)]
含フッ素重合体のガラス転移温度は、DSC(TAインスツメント社製)で10℃/分の速度で、−30℃〜200℃まで昇降温させて測定した。降温時の2サイクル目のゴム状態からガラス状態へ変化する温度をガラス転移温度とした。
【0146】
[分子量]
含フッ素重合体の数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)および分子量分布(質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPC装置(HLC8220、東ソー社製)を用いて測定した。
【0147】
[割合P]
割合Pは下式により算出した。含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%)は、
1H−NMR(JEOL社 AL300)、イオンクロマト(Dionex DX500)、および元素分析(パーキンエルマー社 2400・CHSN)により測定した。
(割合P)=[(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(フッ素原子含有率(質量%))
]
【0148】
[評価方法]
(耐水溶性)
各例で使用した含フッ素重合体の10mgと、水の1gとをサンプル管に秤取し、室温で1時間撹拌した後に、目視にて耐水溶性を確認した。評価は以下の基準で行った。
<評価基準>
○(良好):含フッ素重合体が残存していた。
×(不良):含フッ素重合体が完全に溶解し、残存していなかった。
【0149】
(タンパク質非吸着性)
<タンパク質非吸着性試験>
(1)発色液、およびタンパク質溶液の準備
発色液は、ペルオキシダーゼ発色液(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)、KPL社製)50mLとTMB Peroxidase Substrate(KPL社製)50mLとを混合したものを使用した。
タンパク質溶液として、タンパク質(POD−goat anti mouse IgG、Biorad社製)を、リン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)で16,000倍に希釈したものを使用した。
(2)タンパク質吸着
各ウェル表面に被覆層を形成した24ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、タンパク質溶液の2mLを分注し(1ウェル毎に2mLを使用)、室温で1時間放置した。
ブランクとして、タンパク質溶液を96ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、2μL分注(1ウェル毎に2μLを使用)した。
(3)ウェル洗浄
次いで、24ウェルマイクロプレートを、界面活性剤(Tween20、和光純薬社製)を0.05質量%含ませたリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)の4mLで4回洗浄した(1ウェル毎に4mLを使用)。
(4)発色液分注
次いで、洗浄を終えた24ウェルマイクロプレートに、発色液の2mLを分注し(1ウェル毎に2mLを使用)、7分間発色反応を行った。2N硫酸の1mLを加えることで(1ウェル毎に1mLを使用)発色反応を停止させた。
ブランクは、96ウェルマイクロプレートに、発色液の100μLを分注し(1ウェル毎に100μLを使用)、7分間発色反応を行い、2N硫酸の50μLを加えることで(1ウェル毎に50μLを使用)発色反応を停止させた。
(5)吸光度測定準備
次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルから150μLの液を取り、96ウェルマイクロプレートに移した。
(6)吸光度測定およびタンパク質吸着率Q
吸光度は、MTP−810Lab(コロナ電気社製)により、450nmの吸光度を測定した。ここで、ブランクの吸光度(N=3)の平均値をA
0とした。24ウェルマイクロプレートから96ウェルマイクロプレートに移動させた液の吸光度をA
1とした。
タンパク質吸着率Q
1を下式により求め、タンパク質吸着率Qはその平均値とした。
Q
1=A
1/{A
0×(100/ブランクのたんぱく質溶液の分注量)}×100
=A
1/{A
0×(100/2μL)}×100 [%]
【0150】
(細胞非接着性)
<TIG−3細胞を用いた細胞培養試験>
10%FBS/MEM(MEM Life−Technologies社、Code#11095−098)を用いて、TIG−3細胞(ヒューマンサイエンス財団研究資源バンク、CellNumber;JCRB0506)の1.5×10
4cells/mLの細胞懸濁液を調製した。
各ウェル表面に被覆層を形成したポリスチレン製マイクロプレート(ウェル数:24)に、前記細胞懸濁液を1mL/ウェルとなるように添加した。4日間培養後、顕微鏡を用いて細胞接着の有無を確認した。また、培地の10分の1量のアラマーブルー液(invitorogen社製、商品名alamarBlue Code DAL1100)を培養液に添加し、4時間培養した。その後、励起波長530nm、検出波長590nmで蛍光測定を行い、接着して残っている細胞の生理活性を定量した。また、非接着細胞をリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)で洗浄除去した後、メタノール固定を行い、接着して残っている細胞のみをギムザ染色液(関東化学社製、Code#17596−23)で染色した。
細胞非接着性の評価は以下の基準で行った。
評価基準:
○(良好):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しておらず、かつギムザ染色でも接着細胞が確認されない。
×(不良):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しているか、または、ギムザ染色で接着細胞が確認される。
【0151】
<HepG2細胞を用いた細胞培養試験(長期培養)
10%FBS/DMEM(DMEM Life−Technologies社製、商品名Code#11885−092)を用いて、HepG2細胞(ヒューマンサイエンス財団研究資源バンク、CellNumber;JCRB1054)の5×10
3cells/mLの細胞懸濁液を調製した。
各ウェル表面に被覆層を形成したポリスチレン製マイクロプレートに、前記細胞懸濁液を1mL/ウェルとなるように添加した。14日間培養後、顕微鏡を用いて細胞接着の有無を確認した。また、非接着細胞をリン酸緩衝溶液(D−PBS、Sigma社製)で洗浄除去し、接着して残っている細胞のみをギムザ染色液(関東化学社製Code#17596−23)で染色した。
細胞非接着性の評価は以下の基準で行った。
評価基準:
○(良好):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しておらず、かつギムザ染色でも接着細胞が確認されない。
×(不良):位相差顕微鏡による観察で、細胞が接着・進展しているか、または、ギムザ染色で接着細胞が確認される。
【0152】
(被覆層の耐久性)
(1)マイクロプレートのウェル表面に形成した被覆層の耐久性
後述の各例で、ウェル表面に被覆層を形成した24ウェルのマイクロプレートを37℃の水に1週間浸漬させた後、60℃で2時間加熱して乾燥させた。その後、前記したタンパク質非吸着性試験を行ってタンパク質吸着率Qを測定し、被覆層の耐久性を以下の基準で評価した。なお、タンパク質吸着率Qの上昇率は、以下の式より算出した。
タンパク質吸着率Qの上昇率(%)=(37℃の水に1週間浸漬させた後のタンパク質吸着率(%)÷初期のタンパク質吸着率(%)−1)×100
評価基準:
○(良好):初期と比べて浸漬後のタンパク質吸着率Qの上昇率が5%未満。
△(可):初期と比べて浸漬後のタンパク質吸着率Qの上昇率が5%以上20%未満。
×(不良):初期と比べて浸漬後のタンパク質吸着率Qの上昇率が20%以上。
【0153】
(2)ガラスシャーレの表面に形成した被覆層の耐久性
後述の各例で、表面に被覆層を形成したガラスシャーレに水を6mL入れ、40℃のオーブン内で24時間静置させた。次いで、水を除去した後、該ガラスシャーレをオーブンにより100℃で1時間加熱して乾燥させた。その後、前記したタンパク質非吸着性試験を行ってタンパク質吸着率Qを測定し、被覆層の耐久性を以下の基準で評価した。なお、基材密着率Zは、以下の式より算出した。
基材密着率Z=水を入れて40℃で24時間静置させた後のタンパク質吸着率(%)÷初期のタンパク質吸着率(%)
基材密着率の値が小さいほど、被複層の耐久性が優れている。
【0154】
[原料]
含フッ素重合体の製造に用いた原料の略号を以下に示す。
(単量体)
C6FMA:CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、
C6FA:CH
2=CHCOO(CH
2)
2(CF
2)
5CF
3、
C1FMA:CH
2=C(CH
3)COOCH
2CF
3。
CBA:N−アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、
CBMA:N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン。
MPC:2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン。
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(CH
2=CHCOOCH
2CH(C
2H
5)CH
2CH
2CH
2CH
3)。
PEG9A:ポリエチレングリコールモノアクリレート(EO数平均9)(CH2=CHCOO(C
2H
4O)
9H)。
OMA:オクチルメタクリレート(CH
2=C(CH
3)COO(CH
2)
8H)。
PEG4.5A:ポリエチレングリコールモノアクリレート(EO数平均4.5)(CH
2=CHCOO(C
2H
4O)
4.5H)。
PEPEGA:CH
2=CHCOO(C
2H
4O)
10(C
3H
6O)
20(C
2H
4O)
10H。
MPEG9MA:CH
2=C(CH
3)COO(C
2H
4O)
9CH
3。
PEBMA:CH
2=C(CH
3)COO[(C
2H
4O)
10(C
4H
8O)
5]H。
DAEMA:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート。
IMADP:2−イソシアネートエチルメタクリレートの3,5−ジメチルピラゾール付加体(下式(7)で表される化合物)。
KBM−503:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(製品名「KBM−503」、信越シリコーン社製)。
【0155】
【化16】
【0156】
(重合開始剤)
AIBN:2,2’−アゾイソブチロニトリル、
VPE:商品名「VPE−0201」(構造(6)を有する高分子アゾ開始剤、和光純薬工業社製)。
【0157】
(重合溶媒)
EtOH:エタノール、
MP:1−メトキシ−2−プロパノール。
【0158】
[製造例1]
MPCの0.886g(3.0mmol)とC6FMAの3.025g(7.0mmol)とを300mLの3つ口フラスコに秤取し、重合開始剤としてAIBNの0.391gと、重合溶媒としてエタノール(EtOH)の15.6gを加えた。C6FMAとMPCとの仕込みモル比をC6FMA/MPC=70/30、反応液中の単量体の合計濃度を20質量%、開始剤濃度を1質量%とした。
フラスコ内を充分にアルゴン置換した後に密封し、16時間75℃に加温することにより重合反応を行った。反応液を氷冷した後、ジエチルエーテルに滴下することにより、重合体を沈殿させた。得られた重合体を充分にジエチルエーテルで洗浄した後、減圧乾燥して、白色粉末状の含フッ素重合体(A−1)を得た。
得られた含フッ素重合体(A−1)の共重合組成を、
1H−NMRにて測定したところ、C6FMA単位/MPC単位=44/56(モル比)であった。
【0159】
[製造例2〜15]
単量体の種類、仕込み比、および重合溶媒の種類を表1に示すとおりに変更した以外は、製造例1と同様にして各重合体を得た。
製造例1〜15の単量体の仕込み比、重合開始剤の添加量、重合溶媒の種類、ならびに得られた含フッ素重合体の種類、共重合体組成およびフッ素原子含有率を表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
[製造例16]
C6FMAの5g(11.6mmol)を300mLの3つ口フラスコに秤取し、重合開始剤としてVPEの0.7g、重合溶媒としてMPの13.3gを加えた。反応液中の単量体の合計濃度を30質量%、C6FMAとVPEとの仕込みモル比をC6FMA/VPE=97/3とした。
フラスコ内を充分にアルゴン置換した後に密封し、16時間75℃に加温することにより重合反応を行った。反応液を氷冷した後、ジエチルエーテルに滴下することにより重合体を沈殿させた。得られた重合体を充分にジエチルエーテルで洗浄した後、減圧乾燥して、白色粉末状の含フッ素重合体(A−12)を得た。
【0162】
[製造例17〜19]
単量体の種類、単量体と重合開始剤の仕込み比を表2に示すように変更した以外は、製造例16と同様にして各重合体を得た。
製造例16〜19の単量体と、重合開始剤の種類および仕込み比、重合溶媒の種類、ならびに得られた含フッ素重合体の種類、共重合体組成およびフッ素原子含有率を表2に示す。なお、表2中の「NA」は、ガラス転移温度が検出されなかったことを意味する。
【0163】
【表2】
【0164】
[製造例20]
100mLの耐圧ガラス瓶に、2−EHAの40g、PEG9Aの40g、V−601(油溶性アゾ重合開始剤、和光純薬社製)の0.66g、およびm−キシレンヘキサフルオリド(セントラル硝子社製、以下、「m−XHF」と記す。)の49.8gを仕込み、密閉させた後、70℃で16時間加熱した。この反応液に、C6FAの20g、m−XHFの40g、およびV−601の0.48gを仕込み、密閉させた後、70℃で16時間加熱し、含フッ素重合体(A−16)を得た。含フッ素重合体(A−16)の共重合組成を測定した結果、PEG9A単位とC6FA単位と2−EHA単位とを、モル比24:14:62(質量比40:20:40)で有する含フッ素重合体であることを確認した。分子量の測定を行った結果、含フッ素重合体(A−16)の数平均分子量(Mn)は17,000、質量平均分子量(Mw)は40,000および分子量分布(質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.3であった。
【0165】
[製造例21]
100mL耐圧ガラス瓶に、OMAの15g、PEG4.5Aの35g、V−601の0.41g、およびm−XHFの31.3gを仕込み、密閉させた後、70℃で16時間加熱した。この反応液に、C6FMAの50g、m−XHFの100g、およびV−601の1.2gを仕込み、密閉させた後、70℃で16時間加熱し、含フッ素重合体(A−17)を得た。
含フッ素重合体(A−17)の共重合組成を測定した結果、PEG4.5A単位とC6FMA単位とOMA単位とを、モル比40:36:24(質量比35:50:15)で有する含フッ素重合体であることを確認した。
【0166】
[製造例22]
100mL耐圧ガラス瓶に、PEPEGAの80g、V−601の0.66g、およびm−XHFの49.8gを仕込み、密閉させた後、70℃で16時間加熱した。この反応液に、C6FAの20g、m−XHFの40g、およびV−601の0.48gを仕込み、密閉させた後、70℃で16時間加熱し、含フッ素重合体(A−18)を得た。含フッ素重合体(A−18)の共重合組成を測定した結果、PEPEGA単位とC6FA単位とを、モル比44:56(質量比80:20)で有する含フッ素重合体であることを確認した。
【0167】
[製造例23]
C6FMAの10.8g(54質量部)、MPEG9MAの5.2g(26質量部)、PEBMAの3.2g(16質量部)、DAEMAの0.4g(2質量部)、IMADPの0.4g(2質量部)、重合溶媒としてアセトンの59.8g、および重合開始剤として4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の0.2g(1質量部)を仕込み、窒素雰囲気下で振とうしつつ、65℃で20時間重合を行い、淡黄色溶液(含フッ素共重合体(A−19)を含む重合体溶液)を得た。
含フッ素重合体(A−19)の共重合組成を測定した結果、C6FMA単位とPEBMA単位とMPEG9MA単位とDAEMA単位とIMADP単位とを、モル比59:24:8:6:4(質量比54:26:16:2:2)で有する含フッ素重合体であることを確認した。
【0168】
[例1]
製造例1で得た含フッ素重合体(A−1)を、その濃度が0.05質量%となるようにエタノールに溶解させ、塗布液を調製した。該塗布液を24ウェルのマイクロプレートに2.2mL分注し、3日間放置して溶媒を揮発させ、ウェル表面に被覆層を形成した。
【0169】
[例2〜19]
含フッ素重合体(A−1)の代わりに、表3に示す重合体を用いた以外は、例1と同様にして塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして、24ウェルのマイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。
【0170】
[例20〜23]
含フッ素重合体(A−1)の代わりに、表3に記載の含フッ素重合体を用いた以外は、例1と同様にして塗布液を調製した。また、該塗布液を用いて、例1と同様にして、24ウェルのマイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。
【0171】
[例24〜26]
製造例20で得た含フッ素重合体(A−16)を、その濃度が0.05質量%となるようにAC6000(旭硝子社製)に溶解させた溶液に、架橋剤を添加して塗布液を調製した。架橋剤としては、前記溶液の28gに対して、例24ではヘキサメチレンジイソシアネートの0.1mg、例25ではイソホロンジイソシアネートの0.13mg、および例26ではTLA−100(旭化成社製)の0.1mgを添加した。該塗布液を用いて、例1と同様にして、24ウェルのマイクロプレートのウェル表面に被覆層を形成した。
【0172】
各例の塗布液に含まれる含フッ素重合体の種類、フッ素原子含有率、および割合P、ならびに耐水溶性およびタンパク質非接着性の評価結果を表3に示す。
【0173】
【表3】
【0174】
表3に示すように、生体親和性基を有する単位を有し、割合Pが0.1〜4.
5である含フッ素重合体(A)を含む塗布液を用いた、例1〜3、6、7、9〜14、16〜21、および23では、タンパク質が表面に吸着しにくく、細胞が表面に接着しにくく、生体適合性に優れていた。また、含フッ素重合体が水に溶解しにくく、耐水溶性に優れていた。
一方、割合Pが4.
5超である重合体を用いた、例4、8、15、および22では、重合体が水に溶解しやすく、耐水性が不充分であった。また、割合Pが0.
1未満である重合体を用いた例5では、タンパク質が表面に吸着し、さらに細胞が表面に接着し、生体適合性が不充分であった。
また、含フッ素重合体(A)と架橋剤とを併用した塗布液を用いた、例24〜26では、架橋剤を併用していない例1、20、および23に比べて、37℃の水に1週間浸漬させた後においても、タンパク質吸着率Qの上昇率が小さく抑えられており、耐久性が優れていた。
【0175】
[製造例24]
MPCの1.48g(5.0mmol)とC6FMAの1.73g(4.0mmol)とKBM−503(トリメトキシシリルプロピルメタクリレート)の0.25g(1.0mmol)とを、300mLの3つ口フラスコに秤取し、重合開始剤としてAIBNの0.346gと、重合溶媒としてエタノール(EtOH)の13.8gを加えた。MPCとC6FMAとKBM−503の仕込みモル比を、MPC/C6FMA/KBM−503=50/40/10、反応液中の単量体の合計濃度を20質量%、および開始剤濃度を1質量%とした。
フラスコ内を充分にアルゴン置換した後に密封し、16時間75℃に加温することにより重合反応を行った。反応液を氷冷した後、ジエチルエーテルに滴下することにより重合体を沈殿させた。得られた重合体を充分にジエチルエーテルで洗浄した後、減圧乾燥して、白色粉末状の含フッ素重合体(A−20)を得た。
得られた含フッ素重合体(A−20)の共重合組成を、
1H−NMRにて測定したところ、MPC単位/C6FMA単位/KBM−503単位=50/40/10(モル比)であった。
【0176】
[製造例25〜27]
単量体の仕込み比を表4に示すように変更した以外は、製造例24と同様にして各重合体を得た。
【0177】
【表4】
【0178】
[例27]
含フッ素重合体(A−20)の0.5gを20mLバイアルに秤取し、0.1質量%硝酸水溶液の0.078gと、加水分解溶媒としてエタノール(EtOH)の9.42gとを加え、反応液中の含フッ素重合体(A−20)の濃度を5質量%とした。これは、含フッ素重合体(A−20)の1ユニット当たりの分子量を共重合の際の実測モル比から、MPC分子量×0.5+C6FMA分子量×0.4+KBM−503分子量×0.1=345.34として、トリメトキシシリル基に対する水の添加量を3モル等量としたものである。
バイアルを室温にて20時間ミックスローターで撹拌し、含フッ素重合体(A−20)の濃度を0.05質量%となるようにエタノール(EtOH)で希釈して塗布液とした。該塗布液の3.3mLを、直径35mmのガラスシャーレに塗布した。塗布後、ホットプレートにより、120℃で2時間縮合を行うことで被覆層を形成した。
【0179】
[例28〜30]
含フッ素重合体(A−20)の代わりに、表5に示す重合体を用いた以外は、例1と同様にして、ガラスシャーレの表面に被覆層を形成した。
各例の塗布液に含まれる含フッ素重合体の種類、フッ素原子含有率、および割合P、ならびに各評価結果を表5に示す。
【0180】
【表5】
【0181】
表5に示すように、生体親和性基を有する単位を有し、割合Pが0.1〜4.
5である、含フッ素重合体(A)を含む塗布液を用いた例27〜30では、タンパク質が表面に吸着しにくく、細胞が表面に接着しにくく、生体適合性に優れていた。また、単位(m7)を有する含フッ素重合体(A)を含む塗布液を用いた例27〜29では、単位(m7)を有しない含フッ素重合体(A)を含む塗布液を用いた例30に比べて、耐水溶性により優れていた。