(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野に繊維強化複合素材が用いられはじめている。繊維強化複合素材は、繊維と支持材とを組み合わせて製造される複合素材であり、単一素材と比較して、軽量かつ高強度という優れた素材的特性を有するため、航空機や自動車等の部品として注目を集めている。繊維強化複合素材は、例えばCMC(Ceramic Matrix Composites)やFRP(Fiber Reinforced Plastics)等があり、使用される環境や目的等により適宜使い分けられる。
【0003】
このような繊維強化複合素材は、繊維方向の力に対する強度が特に高く、その特性を活かすために切削等の加工は行わずに、曲げ加工により部品形状等を成形することが多い。そのため曲げ加工により目的の三次元設計形状を成形するための平板の素材形状を数値計算によりシミュレートして予測している。
【0004】
特許文献1は、織物の組織図から織上がり後の織物の表面効果をシミュレーションする方法について開示している。特許文献2は、経糸と緯糸との織り形状をうねり係数で表し、この織布の変形を空間に対する連続関数として表した擬似連続体モデルを用いた平織膜素材解析システムについて開示している。特許文献3は、部品の外表面を表す形状データを取得するステップと、外表面の点のセットの各点について、前記点と対象表面への前記点の投影との間の距離を決定するステップと、決定された距離に応じて三次元織りプリフォームの構造を決定するステップと、を含む設計方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−292976号公報
【特許文献2】特開2004−009543号公報
【特許文献3】特開2015−506007号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Hertzmann, D. Zorin, Illustrating smooth surfaces, in:Proceedings of the 27th annual conference on Computer graphics and interactivetechniques, 2002.
【非特許文献2】K. Hormann, G. Greiner, Mips: An efficient gobal parameterizationmethod, in: P. P. L. Schumaker (Ed.), Composites Part A: Applied Science andManufacturing: Saint-Malo 1999, Vanderbilt University Press, 2000.
【非特許文献3】P. V. Sander, J. Snyder, S. J. Gortler, H. Hoppe, Texture mappingprogressive meshes, in: Proceedings of ACM SIGGRAPH, ACM, 2001.
【非特許文献4】M. Desbrun, M. Meyer, P. Alliez, Intrinsic parameterizations ofsurface meshes, in: Computer Graphics Forum, Vol. 21(3), 2002.
【非特許文献5】B. Levy, S. Petitjean, N. Ray, J. Maillot, Least squares conformalmaps for automatic texture atlas generation, in: ACM SIGGRAPH conferenceproceedings, 2002.
【非特許文献6】M. Nieser, U. Reitebuch, K. Polthier, Cube cover - parameterizationof 3d volumes, in: Computer Graphics Forum, Vol. 30, 2011.
【非特許文献7】Y. Li, Y. Liu, W. Xu, W. Wang, B. Cuo, All-hex meshing usingsingularity-restricted field, in: ACM Transactions on Graphics - Proceddings ofACM SIGGRAPH Asia 2012, Vol. 31(6), 2012.
【非特許文献8】J. Nocedal, S. J. Wright, Numerical Optimization, 2nd Edition,Springer Series in Operations Research, Springer Science+Business Media, LLC,2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図18は、繊維強化複合素材の製造工程の一例について示す図である。この図に示されるように、製造工程では、まず部品等の三次元のモデル形状を繊維方向と共に決定し(S61)、シミュレーション等によりモデル形状に曲げ成形される素材形状を算出する(S62)。次に、算出された素材形状を繊維素材に適用し(S63)、曲げ加工等により変形することにより製品形状とする(S64)。最後に、モデル形状と製品形状を比較し、評価する。ステップS61のような、三次元のモデル形状を成形するための素材形状を算出するシミュレーションは、モデル形状の表面及び裏面の二次元織繊維素材についてそれぞれ二次元でシミュレートし、シミュレートされた表面及び裏面を対応させて平板形状を予測することが多い。
【0008】
しかしながら、三次元織繊維素材は、
図19に示されるように、X糸11及びY糸12からなる平織繊維の薄板を重ね、複数の薄板をZ糸13で縛ることにより形成されているため、三次元織繊維素材は異なる繊維の方向を有し、異方構造特性を示す。
図20は、変形された三次元織繊維素材の断面を示すCT(Computed Tomography)画像を示す図である。この画像の繊維素材は、中心点81とする円弧に沿って変形されている。白く表されている部分は、X糸及びY糸が交差する部分であり、Z糸13の方向に移動しているのが分かる。もしこの素材が等方性であれば、Z糸13は中心点81から延びる放射状の線82に一致しているはずである。しかしながら、Z糸13は変形の方向とは異なり傾いている。このようにX糸及びY糸は、Z糸により平織繊維とは異なる変形特性を示す。したがって、二次元織繊維素材のシミュレーションでは三次元織繊維素材の変形を正確にシミュレートすることは難しい。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、三次元織繊維素材の変形をより正確にシミュレートする素材形状のシミュレーション装置及びシミュレーション方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本開示の素材形状シミュレーション装置は、X方向に延びるX糸、及びY方向に延びるY糸からなる二次元織物を、Z方向に延びるZ糸により複数重ね合された三次元織繊維素材のモデル形状の三次元メッシュに対してモデル形状配向ベクトル場を生成する配向ベクトル場生成部と、前記モデル形状配向ベクトル場から、前記モデル形状の変形前の素材形状の配向ベクトル場である素材形状配向ベクトル場を算出する勾配ベクトルを探索するパラメータ化部と、前記モデル形状配向ベクトル場と前記素材形状配向ベクトル場との間で、体積が保存される条件、及び前記X糸及び前記Y糸がそれぞれ伸縮しないとする条件を適用し、前記モデル形状配向ベクトル場を更新する配向ベクトル更新部と、を備える素材形状シミュレーション装置である。
【0011】
また、本開示の素材形状シミュレーション方法は、X方向に延びるX糸、及びY方向に延びるY糸からなる二次元織物を、Z方向に延びるZ糸により複数重ね合された三次元織繊維素材のモデル形状の三次元メッシュに対してモデル形状配向ベクトル場を生成し、前記モデル形状配向ベクトル場から、前記モデル形状の変形前の素材形状の配向ベクトル場である素材形状配向ベクトル場を算出する勾配ベクトルを探索し、前記モデル形状配向ベクトル場と前記素材形状配向ベクトル場との間で体積が保存される条件、及び前記X糸及び前記Y糸が伸縮しないとする条件を適用し、前記モデル形状配向ベクトル場を更新する、素材形状シミュレーション方法である。
【0012】
また、本開示の三次元織繊維部品製造方法は、上述の素材形状シミュレーション方法により素材形状を算出し、前記算出された前記素材形状の三次元織繊維素材を作成し、前記三次元織繊維素材を変形して三次元織繊維部品を成形する三次元織繊維部品製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、三次元織繊維素材の変形をより正確にシミュレートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の実施形態に係る素材形状シミュレーション装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図2】素材形状シミュレーション装置の計算処理部の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】素材形状シミュレーション装置によるシミュレーション処理の概要について示すフローチャートである。
【
図4】シミュレーション処理におけるモデル形状と素材形状上の座標の関係について概略的に示す図である。
【
図5】曲面において繊維方向ベクトルが、境界条件が設定された端部分から伝搬する様子を示す図である。
【
図6】配向ベクトル場の分布の例について示す図である。
【
図7】
図6の分布におけるパラメータ化の例について示す図である。
【
図8】配向ベクトル場の分布の例について示す図である。
【
図9】
図8の分布におけるパラメータ化の例について示す図である。
【
図10】配向ベクトルの更新処理について説明するため図である。
【
図11】二次元の場合に、パラメータ化の処理と配向ベクトルの更新処理の最初の繰り返し処理の結果を示す図である。
【
図12】二次元の場合に、パラメータ化の処理と配向ベクトルの更新処理の7回目の繰り返し処理の結果を示す図である。
【
図13】二次元の場合に、パラメータ化の処理と配向ベクトルの更新処理の20回目の繰り返し処理の結果を示す図である。
【
図14】二次元の場合に、パラメータ化の処理と配向ベクトルの更新処理の87回目の繰り返し処理の結果を示す図である。
【
図15】機械部品の例について、モデル形状をシミュレートした結果を示す図である。
【
図16】
図15の機械部品の例について、素材形状をシミュレートした結果を示す図である。
【
図17】変形エネルギー関数の重みパラメータの違いによる誤差の違いについて示す表である。
【
図18】繊維強化複合素材の製造プロセスの一例について示す図である。
【
図19】三次元織繊維素材の織構造を模式的に示す図である。
【
図20】変形された三次元織繊維素材の断面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。以下の説明において、同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
(1) 本実施の形態による素材形状シミュレーション装置の構成
図1は本実施形態に係る素材形状シミュレーション装置100のハードウェア構成を示す図である。この図に示されるように、素材形状シミュレーション装置100は、CPU(Central Processing Unit)201、RAM(Random Access Memory)等の揮発性記憶部202、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性記憶部203、キーボードやマウス等の入力装置500、及び液晶表示画面等を有する表示装置400から構成されていてもよい。ここでCPU201、揮発性記憶部202及び不揮発性記憶部203は、ソフトウェアにより動作する計算処理部200を構成している。なお、素材形状シミュレーション装置100は、
図1のようなハードウェア構成のコンピュータ装置がネットワーク接続されたコンピュータシステムにより構成されていてもよい。
【0017】
図2は、素材形状シミュレーション装置100の計算処理部200の機能構成を示すブロック図である。この図に示されるように、素材形状シミュレーション装置100の計算処理部200は、X方向に延びるX糸、及びY方向に延びるY糸からなる二次元織物を、Z方向に延びるZ糸により複数重ね合された三次元織繊維素材のモデル形状の三次元メッシュに対してモデル形状配向ベクトル場を生成する配向ベクトル場生成部210と、モデル形状配向ベクトル場から、モデル形状の変形前の素材形状の配向ベクトル場である素材形状配向ベクトル場を算出する勾配ベクトルを探索するパラメータ化部220と、モデル形状配向ベクトル場と素材形状配向ベクトル場との間で、体積が保存される条件、及びX糸及びY糸がそれぞれ伸縮しないとする条件を適用し、モデル形状配向ベクトル場を更新する配向ベクトル更新部230と、モデル形状の歪みエネルギーを最小化することによりモデル形状配向ベクトル場を更に更新する非線形最適化部240とを備えている。ここで、本実施の形態においては、非線形最適化部240を備えていることとしたが、非線形最適化部240を備えていない構成であってもよい。
【0018】
図3は、素材形状シミュレーション装置100によるシミュレーション処理の概要について示すフローチャートである。この図に示されるように、まず、配向ベクトル場生成部210により、モデル形状の各メッシュである四面体要素における繊維方向ベクトルを決定し、初期配向ベクトルを作成する(ステップS11)。次に、パラメータ化部220が、モデル形状から素材形状への写像fを探索する(ステップS12)。この際にテーラー展開等のパラメータ化を行って写像fを探索することとしてもよい。次に、配向ベクトル更新部230により、パラメータ化で得られた素材形状を所定の条件を用いてモデル空間に更新する(ステップS13)。ステップS12及びステップS13を繰り返す。最後に、非線形最適化部240により、繊維束方向の歪み及び体積歪みのエネルギーを最小化する最適化を行う(ステップS20)。非線形最適化部240を備えていない場合には、パラメータ化処理と配向ベクトル更新処理の繰り返しにより処理を終了する。各処理ブロックの処理について詳しく説明する。
【0019】
(2) 配向ベクトル場生成部の処理
図4は、シミュレーション処理におけるモデル形状と素材形状上の座標の関係について概略的に示す図である。この図に示されるようにモデル空間(x,y,z)のメッシュ頂点p
iが、マッピング関数fにより、素材空間(X,Y,Z)の頂点f(p
i)にマップされるとすると、配向ベクトルは、マッピング関数fの理想勾配ベクトルとして知られている。マッピング関数fを式(1)のように記載すると、マッピング関数fの勾配ベクトルは、式(2)のように記載される。
【数1】
それぞれの繰り返し処理において、理想勾配ベクトルは評価され、それらを配向ベクトルと呼ぶ。3つの配向ベクトルの組は、それぞれ四面体に割り当てられ、パラメータ化処理の間、配向ベクトル場は、ガイダンス場として使用される。
【0020】
これらの配向ベクトルは、明示的変形則を通じて繊維方向に直接関係している。これを示すために、マッピング関数f及びf
-1のヤコビ行列として式(3)のように記載される。
【数2】
これらのヤコビ行列は以下の式(4)の自明な関係を有する。
【数3】
【0021】
三次元織繊維素材は、互いに直行する繊維糸により形成されているため、素材空間のX、Y及びZ糸は、XYZ空間の基本方向に平行に配向している。更に、素材空間の繊維糸は伸縮しないことを考慮すると、この空間のX、Y及びZ糸は、それぞれ以下の式(5)のように表される。
【数4】
モデル空間の繊維方向をF
dx、F
dy、F
dy、と設定し、それらは、F
x、F
y、F
yにヤコビ行列J
f-1を適用することにより、以下の式(6)のように明示的に表される。
【数5】
式(3)に式(2)及び(6)を代入し、以下の式(7)が導かれる。
【数6】
式(7)は、配向ベクトルとモデル空間の繊維方向との関係を示している。これらのベクトルは、これらのベクトルの組は式(7)を用いて互いに変形可能である。
【0022】
配向ベクトル場生成部210による各メッシュにモデル形状配向ベクトル場を形成する処理について説明する。繊維方向ベクトルは、モデル形状の曲面の境界で与えられる。これらの繊維方向ベクトルは、曲面のタンジェント空間で定義され、境界面の三角形面の部分で特定される。初期配向ベクトル場を生成するために、モデル形状のそれぞれの四面体に対して繊維方向ベクトルを計算し、式(7)を用いてモデル形状配向ベクトル場に変形する。以下のステップ1及び2を用いて、特定の繊維方向に基づいて繊維方向場を計算する。
ステップ1.モデル形状の境界の曲面の繊維方向ベクトルを伝搬させる。
ステップ2.モデル形状の内側に繊維方向ベクトルを伝搬させる。
なお、繊維方向ベクトルの伝搬についてはこれら以外の方法を用いることとしてもよい。ベクトルは、隣接する三角形又は四面体を横切って、それらの平均を取ることを繰り返すことにより伝搬される。この際に非特許文献1のヘルツマンの方法を用いることとしてもよい。
【0023】
ステップ1において、滑らかなベクトル場を得るために、隣接する三角形のベクトルの変化の大域的最小化を行う必要があり、これは非線形問題となる。ここで非線形問題を解くこととしてもよいが、本実施形態においては隣接する三角形のベクトルの角度の差分の平均値により局所最小化を繰り返すこととしている。
図5には、ステップ1における、曲面において繊維方向ベクトルが、境界条件が設定された端部分から伝搬する様子が示されている。この図に示されるように、まず、境界部分の繊維方向ベクトルを設定し(ステップS31)、伝搬させることにより(ステップS32)、繊維方向ベクトル場を生成する(ステップS33)。ステップ2においても、同様に隣接する四面体の平均極座標値を用いることにより、滑らかなベクトル場を得ることができる。上述の手法により、各メッシュに繊維方向ベクトルを配置させることができる。得られた繊維方向ベクトルに対して、式(7)を適用してモデル形状配向ベクトルに変形する。
【0024】
(3) パラメータ化部の処理
パラメータ化に関し、三次元曲面を二次元ユークリッド空間に対応させる方法については非特許文献2〜5に記載されている。本実施の形態では、非特許文献6及び7に似た方法で、3マニホールドを三次元ユークリッド空間に対応させたガイダンスベクトル場を用いることとしている。
【0025】
エッジの配向ベクトルの組を以下の式(8)とし、マッピングされた頂点の座標(p
i,p
j)は、以下の式(9)で表される。
【数7】
マッピングの条件は、以下の式(10)で表される。
【数8】
式(10)が満たされるとき、勾配ベクトルは特定配向ベクトルと一致する。ここで、すべてのエッジに対して式(10)の二乗誤差を合計する以下の最小化関数の式(11)を作成する。
【数9】
【0026】
(∇X)
Eij、(∇Y)
Eij、(∇Z)
Eijは、すべての四面体T
kに対して配向ベクトル(∇X)
Tk、(∇Y)
Tk、(∇Z)
Tkの平均を取得することにより計算されることとしてもよい。この式(11)をそれぞれ最小化する。この際、この式の最小化は、線形問題であり共役勾配法を適用することとしてもよい。これにより、モデル形状から素材形状にマッピングする勾配ベクトルを求めることができる。
【0027】
図6〜9は、モデル形状配向ベクトル場を用いた二次元パラメータ化の例について示す図である。
図6及び8は、モデル形状配向ベクトル場の分布を示し、
図7及び9は、それぞれ
図6及び8に対応するパラメータ化の結果を等値線による表示で示す図である。この結果において、必ずしも式(10)が満たされるものではなく、マッピングの勾配ベクトルから計算された繊維方向ベクトルは、望まれる結果とは異なり、変形エネルギー値は高くなる。次節の配向ベクトル更新部の処理では、このパラメータ化の結果に基づいて配向ベクトル場を改良する。
【0028】
(4) 配向ベクトル更新部の処理
配向ベクトル更新部230の処理では、配向ベクトル場を勾配フィールドに基づいて更新する。
図10は、配向ベクトルの更新処理について説明するため図である。この図に示されるように、辺が繊維方向で形成された六面体の変形を考え、局所変形を説明するために連続体変形量を用いる。
図19に示されるように、X糸及びY糸の交差部においては、X糸及びY糸の互いに対するずれ移動よりも、Z糸の傾き及び延びが容易に発生する。つまりX/Y糸とZ糸との剪断歪み、及びZ糸の歪みは、X糸とY糸との歪みより容易に発生する。したがって、X糸とY糸との歪みは発生せず、X/Y糸とZ糸との剪断歪みのみが発生すると仮定することができる。モデル空間のXY繊維方向変形のノルムを、素材空間のXY繊維方向変形のノルムに近似し、Z糸の伸縮は体積変化が強いられた結果と考えられるため、体積保存を考慮する。したがって、以下の式(12)を適用する。
【数10】
ここで、式(5)及び(7)を式(12)に適用すると以下の式(13)の条件を得ることができる。
【数11】
【0029】
配向ベクトルの更新のための式(13)を得るために、パラメータ化部の処理により得られた勾配ベクトル(∇X)
f、(∇Y)
f、及び(∇Z)
fを使用している。特に、配向ベクトル∇X、∇Y及び∇Zの方向として、勾配ベクトル(∇X)
f、(∇Y)
f、及び(∇Z)
fの方向を採用し、勾配ベクトルのノルムを決定するために、式(13)を用いている。マッピングの勾配は、式(7)を用いて、繊維方向に変形することが可能なため、パラメータ化において得られた繊維方向を用い、繊維素材の実際の変形現象に反映するためベクトルのノルムを調整することができる。本実施の形態においては、上述の式(12)又は(13)を適用することとしたが、これらの式に限らず、X糸とY糸との歪みが発生せず、X/Y糸とZ糸との剪断歪みのみが発生する仮定を意味する式を適用することができる。
【0030】
図11〜14は、二次元の場合に、パラメータ化の処理及び配向ベクトルの更新処理の繰り返し処理の適用結果を示す図である。
図11は、最初の繰り返し処理の結果であり、
図12は7回目の繰り返し処理の結果であり、
図13は20回目の繰り返し処理の結果であり、
図14は87回目の繰り返し処理の結果である。実線は、素材空間のマッピングされた座標線を示し、モデル空間での繊維方向に対応する。
図11に示される最初の繰り返し処理の結果において、X糸の伸びは大きく、ほとんど剪断歪みは起こらない。このように
図11のような最初の繰り返し結果は、実際の変形現象とは異なっている。
図12〜14の繰り返し結果に示されるように、繰り返し処理の進行につれて、X糸の伸びは減少し、X糸及びY糸の剪断歪みは増加する。したがって、X糸とY糸との歪みは発生せず、X/Y糸とZ糸との剪断歪みのみが発生すると仮定することにより、モデル形状及び素材形状の各糸特にZ糸の配向をより正確にシミュレートすることができる。
【0031】
(5) 非線形最適化部の処理
上述のパラメータ化処理及び配向ベクトルの更新のための処理の繰り返しは、間接的にエネルギー関数を最小化し、モデル形状と素材形状との間の対応を粗く見積もることができる。この非線形最適化部240の処理は、素材形状をより正確に見積もるために用いることができ、直接的に変形エネルギー関数を最小化する処理である。三次元織繊維素材の変形モードを考慮した変形エネルギー関数は以下の式(14)で表される。
【数12】
ここで、E
X、E
Y及びE
Zは、それぞれX、Y及びZの歪みエネルギーであり、E
volは、体積歪みエネルギーである。ここでそれぞれのエネルギーの計算において、連続体を仮定し、ヤング率を用いた計算とすることができる。w
X、w
Y、w
Z及びw
volはそれぞれ重みパラメータであり、三次元織繊維素材の実験的な変形結果に基づいて定めることができる。この式は、変形エネルギーを評価するために使用され、パラメータ化処理と配向ベクトルの更新処理の繰り返しの終了条件のために使用することとしてもよい。しかしながら、所定回数や結果に変化が現れる等の別の終了条件を適用し、変形エネルギー関数を使用しなくてもよい。非線形最適化の処理を行うことにより、モデル形状の歪みエネルギーを緩和させることができるため、より正確にモデル形状の各糸特にZ糸の配向をシミュレートすることができる。
【0032】
この非線形関数を最小化するために、例えば、初期解をx
0とした場合のk番目の繰り返しを、以下の式(15)のように表した線形探索法等を用いることができる。
【数13】
ここで、p
k、α
kは、k番目の繰り返しにおける探索方向及びステップサイズである。ここで探索方向Pを決定するために、変形エネルギーEの勾配方向を用いることができる。また、ステップサイズα
kを求めるために非特許文献8を用いることができる。
【0033】
図15及び16は、本実施形態に係る素材形状シミュレーション装置を用いて機械部品の形状の変形をシミュレートした結果を示す図である。
図15はモデル形状であり、
図16は、素材形状である。この図に示されるように、モデル形状において指定した繊維の配向が、厚さを考慮して素材形状をシミュレートしていることが分かる。
図17は、重みパラメータの違いによる、実物とシミュレーション結果のZ糸の角度の誤差を示す表である。この表においては、3番目の例が誤差を最も小さく抑えている。この表に示されるように、重みパラメータw
Zは、重みパラメータw
X又はw
Yの100分の1以下、より好ましくは200分の1以下に定めるのがよい。また、重みパラメータw
volは、重みパラメータw
X又はw
Yの5分の1以下、より好ましくは10分の1以下に定めるのがよい。このように定めることにより、定量的にもより正確にシミュレートすることができる。
【0034】
(6) 本実施の形態の効果
本実施の形態に係る素材形状シミュレーション装置100は、X方向に延びるX糸、及びY方向に延びるY糸からなる二次元織物を、Z方向に延びるZ糸により複数重ね合された三次元織繊維素材のモデル形状の三次元メッシュに対してモデル形状配向ベクトル場を生成する配向ベクトル場生成部210と、モデル形状配向ベクトル場から、モデル形状の変形前の素材形状の配向ベクトル場である素材形状配向ベクトル場を算出する勾配ベクトルを探索するパラメータ化部220と、モデル形状配向ベクトル場と素材形状配向ベクトル場との間で、体積が保存される条件、及びX糸及びY糸がそれぞれ伸縮しないとする条件を適用し、モデル形状配向ベクトル場を更新する配向ベクトル更新部230と、を備えるため、三次元織繊維素材の変形をより正確にシミュレートし、素材形状を算出することができる。