【実施例】
【0033】
以下、本発明による導電性ペーストの実施例について詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
アトマイズ法により製造された市販の銅粉(日本アトマイズ加工株式会社製のアトマイズ銅粉SF−Cu 5μm)を用意し、この(銀被覆前の)銅粉の粒度分布を求めたところ、銅粉の体積基準の累積10%粒子径(D
10)は2.26μm、累積50%粒子径(D
50)は5.20μm、累積90%粒子径(D
90)は9.32μmであった。なお、銅粉の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布装置(日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT−3300)により測定して、体積基準の累積10%粒子径(D
10)、累積50%粒子径(D
50)、累積90%粒子径(D
90)を求めた。
【0035】
また、炭酸アンモニウム2.6kgを純水450kgに溶解した溶液(溶液1)と、EDTA−4Na(43%)319kgと炭酸アンモニウム76kgを純水284kgに溶解した溶液に、銀16.904kgを含む硝酸銀水溶液92kgを加えて得られた溶液(溶液2)を用意した。
【0036】
次に、窒素雰囲気下において、上記の銅粉100kgを溶液1に加えて、攪拌しながら35℃まで昇温させた。この銅粉が分散した溶液に溶液2を加えて30分間攪拌した後、ろ過し、水洗し、乾燥して、銀により被覆された銅粉(銀被覆銅粉)を得た。なお、水洗は、ろ過により得られた固形分に純水をかけて、水洗後の液の電位が0.5mS/m以下になるまで行った。
【0037】
このようにして得られた銀被覆銅粉5.0gを、比重1.38の硝酸水溶液を体積比1:1になるように純水で薄めた硝酸水溶液40mLに溶かし、ヒーターで煮沸して銀被覆銅粉を完全に溶解した後、この水溶液に、比重1.18の塩酸水溶液を体積比1:1になるように純水で薄めた塩酸水溶液に少量ずつ添加して塩化銀を析出させ、沈殿が生じなくなるまで塩酸水溶液の添加を続けて、得られた塩化銀から重量法によりAgの含有量を求めたところ、銀被覆銅粉中のAg含有量は10.14質量%であった。
【0038】
また、この銀被覆銅粉0.1gをイソプロピルアルコール40mLに加えて、超音波ホモジナイザー(チップ先端直径20mm)により2分間分散させた後、銀被覆銅粉の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラックMT−3300 EXII)により測定した。その結果、銀被覆銅粉の体積基準の累積10%粒子径(D
10)は2.5μm、累積50%粒子径(D
50)は5.2μm、累積90%粒子径(D
90)は10.1μmであった。
【0039】
また、この銀被覆銅粉のBET比表面積をBET比表面積測定器(ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を使用してBET1点法により測定した。その結果、銀被覆銅粉のBET比表面積は0.31m
2/gであった。
【0040】
また、得られた銀被覆銅粉79.0重量部と、平均一次粒子径1μmの銀粉(DOWAエレクトロニクス株式会社製のAg−2−1C)8.8重量部と、化1に示すナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製のHP4710)6.5重量部と、溶剤としてブチルカルビトールアセテート(和光純薬工業株式会社製)5.3重量部と、硬化剤としてイミダゾール(四国化成工業株式会社製の2E4MZ)0.3重量部と、分散剤としてオレイン酸(和光純薬工業株式会社製)0.1重量部とを、自公転式真空攪拌脱泡装置(株式会社シンキー社製のあわとり練太郎)により混合(予備混練)した後、3本ロール(オットハーマン社製のEXAKT80S)により混練することにより、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを得た。
【0041】
次に、スクリーン印刷機(マイクロテック株式会社製のMT−320T)によりスキージ圧0.18MPaでアルミナ基板上に導電性ペーストを幅500μmで長さ37.5mmのライン状に印刷した後、大気循環式乾燥機により150℃で10分間加熱した後に200℃で30分間加熱して乾燥させるとともに硬化させて、導電膜を形成した。このようにして形成した導電膜について、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHK−5000)を使用して線幅を測定し、表面粗さ計(株式会社小坂研究所製のSE−30D)を使用して平均厚さを測定するとともに、デジタルマルチメーター(アドバンテスト株式会社製のデジタルマルチメーターR6551)を使用して、ライン状の導電膜の両端に端子を当てて導電膜の抵抗を測定し、体積抵抗率(初期の体積抵抗率)を算出したところ、85μΩ・cmであった。また、導電膜上にはんだ付けの際の熱と同程度の熱が加わるように380℃のはんだごてを導電膜に当てて10mm/秒の速度で移動させ、この加熱後の導電膜の抵抗を測定し、体積抵抗率(加熱後の体積抵抗率)を算出したところ、91μΩ・cmであり、初期の体積抵抗率に対する加熱後の体積抵抗率の変化率は107%であった。
【0042】
[実施例2]
実施例1と同様の銀粉50gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製のセレクトグラインドMJ−518)に入れて10秒間解砕した後、アジピン酸をエタノールに溶解して得られた10質量%のアジピン酸エタノール溶液0.35gを加えて20秒間解砕して、アジピン酸が被着した銀粉を作製した。このアジピン酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.006質量%(銀に対して0.07質量%)のアジピン酸が含まれるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0043】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は79μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は86μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は108%であった。
【0044】
[実施例3]
混合(予備混練)前に0.006質量%のアジピン酸(銀に対して0.07質量%のアジピン酸)を添加した以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0045】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は81μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は87μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は108%であった。
【0046】
[実施例4]
アジピン酸に代えてアゼライン酸を使用して得られた10質量%のアゼライン酸エタノール溶液0.35gを加えた以外は、実施例2と同様の方法により、アゼライン酸が被着した銀粉を作製した。このアゼライン酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.006質量%(銀に対して0.07質量%)のアゼライン酸が含まれるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0047】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は71μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は79μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は110%であった。
【0048】
[実施例5]
アジピン酸に代えてフタル酸を使用して得られた10質量%のフタル酸エタノール溶液0.35gを加えた以外は、実施例2と同様の方法により、フタル酸が被着した銀粉を作製した。このフタル酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.006質量%(銀に対して0.07質量%)のフタル酸が含まれるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0049】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は95μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は98μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は103%であった。
【0050】
[実施例6]
アジピン酸に代えて無水フタル酸を使用して得られた10質量%の無水フタル酸エタノール溶液0.35gを加えた以外は、実施例2と同様の方法により、無水フタル酸が被着した銀粉を作製した。この無水フタル酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.006質量%(銀に対して0.07質量%)の無水フタル酸が含まれるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0051】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は87μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は92μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は106%であった。
【0052】
[実施例7]
銀被覆銅粉および銀粉の量をそれぞれ43.9重量部とした以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0053】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は56μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は55μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は99%であった。
【0054】
[実施例8]
アジピン酸エタノール溶液の量を0.21gとした以外は、実施例2と同様の方法により、アジピン酸が被着した銀粉を作製した。このアジピン酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.018質量%(銀に対して0.04質量%)のアジピン酸が含まれるようにした以外は、実施例7と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0055】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は36μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は36μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は100%であった。
【0056】
[実施例9]
アジピン酸エタノール溶液の量を0.35gとした以外は、実施例2と同様の方法により、アジピン酸が被着した銀粉を作製した。このアジピン酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.031質量%(銀に対して0.07質量%)のアジピン酸が含まれるようにした以外は、実施例7と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0057】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は37μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は38μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は103%であった。
【0058】
[実施例10]
アジピン酸エタノール溶液の量を0.49gとした以外は、実施例2と同様の方法により、アジピン酸が被着した銀粉を作製した。このアジピン酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.043質量%(銀に対して0.10質量%)のアジピン酸が含まれるようにした以外は、実施例7と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0059】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は41μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は42μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は103%であった。
【0060】
[実施例11]
アジピン酸エタノール溶液の量を0.63gとした以外は、実施例2と同様の方法により、アジピン酸が被着した銀粉を作製した。このアジピン酸が被着した銀粉を使用して、導電性ペースト中に0.055質量%(銀に対して0.13質量%)のアジピン酸が含まれるようにした以外は、実施例7と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0061】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は43μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は45μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は105%であった。
【0062】
[比較例1]
導電性ペースト1中のナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂に代えて化2に示すビスフェノールF型エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製のEP4901E)を使用し、銀被覆銅粉の量を79.9重量部とし、銀粉の量を8.9重量部とした以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で88.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0063】
【化2】
【0064】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は68μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は142μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は210%であった。
【0065】
[比較例2]
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂に代えて、化2に示すビスフェノールF型エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製のEP4901E)を使用し、銀被覆銅粉の量を79.9重量部とし、銀粉の量を8.9重量部とした以外は、実施例2と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で88.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0066】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は49μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は103μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は211%であった。
【0067】
[比較例3]
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂に代えて、化3に示すビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製のJER828)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0068】
【化3】
【0069】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は235μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は510μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は217%であった。
【0070】
[比較例4]
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂に代えて、化4に示すビフェニル骨格のエポキシ樹脂(日本化薬株式会社製のNC−3000−H)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0071】
【化4】
【0072】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は185μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は866μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は468%であった。
【0073】
[比較例5]
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂に代えて、化5に示すシクロペンタジエン骨格のエポキシ樹脂(日本化薬株式会社製のXD−1000)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、(銀被覆銅粉と銀粉を合計で87.8質量%含む)導電性ペーストを作製した。
【0074】
【化5】
【0075】
このようにして得られた導電性ペーストを使用して、実施例1と同様の方法により、導電膜を形成し、初期と加熱後の体積抵抗率を算出し、加熱による体積抵抗率の変化率を求めたところ、初期の体積抵抗率は183μΩ・cm、加熱後の体積抵抗率は275μΩ・cmであり、体積抵抗率の変化率は150%であった。
【0076】
これらの実施例および比較例の結果を表1〜表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1〜表2からわかるように、実施例1〜11の導電性ペーストを導電膜の形成に使用すると、比較例1〜5の導電性ペーストを用いた場合と比べて、導電膜をはんだ付けの温度に加熱しても、導電膜の体積抵抗率の上昇を防止することができる。
また、実施例2〜4のようにアジピン酸やアゼライン酸などの示性式がHOOC−(CH
2)
n−COOH(n=1〜8)のジカルボン酸を含む導電性ペーストを導電膜の形成に使用すると、実施例1のようにジカルボン酸を含まない導電性ペーストを用いた場合や、実施例5〜6のようにフタル酸や無水フタル酸などの示性式がHOOC−(CH
2)
n−COOH(n=1〜8)ではないジカルボン酸を含む導電性ペーストを用いた場合と比べて、導電膜の加熱後の体積抵抗率を低くすることができる。