(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6681524
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20200406BHJP
C23C 16/54 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
C23C14/56 C
C23C16/54
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-506372(P2020-506372)
(86)(22)【出願日】2019年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2019042105
【審査請求日】2020年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2019-44883(P2019-44883)
(32)【優先日】2019年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】横山 礼寛
【審査官】
井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2019−502025(JP,A)
【文献】
特開2016−191126(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/059032(WO,A1)
【文献】
特開2014−234523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00−14/58
C23C16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材を走行させる基材走行手段とこの基材走行手段により走行されるシート状の基材が巻き掛けられるキャンローラとを有する真空雰囲気の形成が可能なメインチャンバと、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して蒸着する蒸着ユニットとを備える真空蒸着装置において、
メインチャンバ内に、蒸着ユニットが格納される蒸着室を区画する第1隔壁と、第1隔壁に連設されて蒸着ユニットの周方向両側に位置するキャンローラの外筒部分をキャンローラの外周面に一致する曲率で湾曲する第1間隙を介して覆う第2隔壁とを更に備え、第1間隙を境界として蒸着室とこの蒸着室に隣接するメインチャンバ内の隣接室とが互いに連通し、第2隔壁で蒸着室と隣接室との間のコンダクタンスが確定されるように構成し、
前記第2隔壁の少なくとも一方が、前記蒸着ユニットに対向するキャンローラの部分を遮蔽する遮蔽位置と蒸着ユニットから周方向に離間した退避位置との間でキャンローラの回転軸を回転中心として回動自在に構成されることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸着ユニットが、蒸着物質を収容する収容箱と蒸着物質の加熱を可能とする加熱手段とを備え、前記キャンローラに対峙する収容箱の蓋体が、キャンローラの母線方向長さと同等以上の2本の横辺を持つと共に上記曲率で湾曲され、この蓋体に、加熱手段による加熱で昇華または気化した蒸着粒子を放出する放出開口が開設され、
蓋体がキャンローラの外周面に上記曲率で湾曲した第2間隙を存して近接する蒸着位置と、蓋体がキャンローラの外周面から離間した離間位置との間で蒸着ユニットをキャンローラの径方向に進退させる移動手段を備え、
前記第2隔壁の退避位置にて蒸着ユニットを蒸着位置に進入させると、蓋体の各横辺が第1隔壁に夫々当接または近接して、第2間隙で区画される蒸着空間が第1間隙を境界として隣接室に連通することを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記第2隔壁の周方向の両端に、キャンローラの母線方向長さと同等以上の長さを持つ隔壁板が夫々取り付けられ、第2隔壁を遮蔽位置または退避位置に移動すると、いずれか一方の隔壁板とこの隔壁板と同等の長さを持つメインチャンバに固定の固定隔壁とが当接または近接して第1隔壁を構成するようにしたことを特徴とする請求項2記載の真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の基材を走行させる基材走行手段とこの基材走行手段により走行されるシート状の基材が巻き掛けられるキャンローラとを有する真空雰囲気の形成が可能なメインチャンバと、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して蒸着する蒸着ユニットとを備える真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の真空蒸着装置は例えば特許文献1で知られている。このものでは、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバ(メインチャンバ)内で、シート状の基材を基材走行手段の繰出ローラから連続的に繰り出し、この繰り出した基材を冷却用のキャンローラに巻き掛けながら、このキャンローラに対してその径方向に所定間隔を置いて設けた蒸着ユニットから蒸着物質を蒸着し、蒸着済みのシート状の基材を基材走行手段の巻取りローラで巻き取るようにしている。この場合、真空チャンバは、キャンローラの周囲に配置される仕切り板で2室に区画され、一方の室(蒸着室)に基材走行手段が、他方の室(隣接室)に蒸着ユニットが夫々配置されている。蒸着ユニットとしては、真空チャンバ内に固定配置されて蒸着物質を収容する坩堝と、坩堝内に収容した蒸着物質を加熱する抵抗加熱式、誘導加熱式、電子ビーム式などの加熱手段とを備えるものが利用され、加熱により坩堝内に収容した蒸着物質を昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着粒子をキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に付着、堆積させて蒸着(成膜)される。
【0003】
また、例えば所定速度で移動(走行)する、比較的幅広のシート状の基材や基板などの被蒸着物に蒸着する蒸着ユニットとして所謂ラインソースが一般に知られている(例えば特許文献2参照)。このものは、蒸着物質を収容する収容箱と、この収容箱内の蒸着物質を加熱する加熱手段とを備え、収容箱(上面)の蓋体には、筒状の放出開口が基材の幅方向に間隔を存して列設されている。このような蒸着ユニットでは、収容箱の加熱により昇華または気化した蒸着粒子が各放出開口から放出されるとき、所定の余弦則に従ってその放出開口からドーム状に拡がりながら被蒸着物に向けて飛散するが、各放出開口の開口径が小さいため、成膜レートを高めるには限界がある。そこで、収容箱の蓋体に、(各放出開口の開口径の総和より非常に大きい)大面積の放出開口を開設し、この放出開口から昇華または気化した蒸着粒子を放出させることで、成膜レートを高めることが考えられる。
【0004】
然しながら、このような大面積の放出開口を持つ蒸着ユニットを上記従来例の真空蒸着装置に単純に適用すると、蒸発ユニットの放出開口から放出された粒子が蒸着室内で拡がり飛散するため、蒸着室を汚染するばかりか、キャンローラの周囲に巻き掛けられた基材への蒸着効率が低下してしまう。しかも、放出された粒子が、仕切り板と冷却用キャンローラとの間の隙間から漏出して隣接室まで回り込み、隣接室をも汚染してしまう。この場合、仕切り板とキャンローラとの間の隙間や、キャンローラと真空チャンバの内壁面との隙間にて蒸着室と隣接室の密閉度(即ち、蒸着室と隣接室を結ぶ抵抗成分であるコンダクタンス値)を担保することになるが、仕切り板とキャンローラとの間の隙間は、キャンローラの回転によりシート状の基材が通過する空間でもあるため、一定以上の隙間を確保する必要があり、このような構成では、蒸着室と隣接室の密閉度を高める(言い換えると、蒸着室から漏出した粒子の隣接室への回り込みを防止できるように蒸着室と隣接室とを雰囲気分離する)ことは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−163693号公報
【特許文献2】特開2014−77193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して蒸着する際に、蒸着室と隣接室とを確実に雰囲気分離することができるようにした真空蒸着装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、シート状の基材を走行させる基材走行手段とこの基材走行手段により走行されるシート状の基材が巻き掛けられるキャンローラとを有する真空雰囲気の形成が可能なメインチャンバと、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して蒸着する蒸着ユニットとを備える本発明の真空蒸着装置は、メインチャンバ内に、蒸着ユニットが格納される蒸着室を区画する第1隔壁と、第1隔壁に連設されて蒸着ユニットの周方向両側に位置するキャンローラの外筒部分を
キャンローラの外周面に一致する曲率で湾曲する第1間隙を介して覆う第2隔壁とを更に備え、第1間隙を境界として蒸着室とこの蒸着室に隣接するメインチャンバ内の隣接室とが互いに連通し、第2隔壁で蒸着室と隣接室との間のコンダクタンスが確定されるように構成し
、前記第2隔壁の少なくとも一方が、前記蒸着ユニットに対向するキャンローラの部分を遮蔽する遮蔽位置と蒸着ユニットから周方向に離間した退避位置との間でキャンローラの回転軸を回転中心として回動自在に構成されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、キャンローラの外筒部分を覆う第2隔壁を設けて、この第2隔壁で蒸着室と隣接室との間のコンダクタンスが確定されるように構成したため、例えば、予め実験的に求めた隣接室の圧力と蒸着室の圧力との間の圧力差や、キャンローラの回転によるシート状の基材の通過にとって不回避的な第1間隙の大きさから、第1間隙におけるコンダクタンス値が所定値になるように第2隔壁の周方向の長さを適宜設定すれば、蒸着室と隣接室とを確実に雰囲気分離することができる。
【0009】
また、本発明においては、前記蒸着ユニットが、蒸着物質を収容する収容箱と蒸着物質の加熱を可能とする加熱手段とを備え、前記キャンローラに対峙する収容箱の蓋体が、キャンローラの母線方向長さと同等以上の2本の横辺を持つと共に
上記曲率で湾曲され、この蓋体に、加熱手段による加熱で昇華または気化した蒸着粒子を放出する放出開口が開設され、蓋体がキャンローラの外周面に上記曲率で湾曲した第2間隙を存して近接する蒸着位置と、蓋体がキャンローラの外周面から離間した離間位置との間で蒸着ユニットをキャンローラの径方向に進退させる移動手段を備え
、前記第2隔壁の退避位置にて蒸着ユニットを蒸着位置に進入させると、蓋体の各横辺が第1隔壁に夫々当接または近接して、第2間隙で区画される蒸着空間が第1間隙を境界として隣接室に連通することが好ましい。
【0010】
これによれば、基材走行手段によりシート状の基材を走行させながら、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に蒸着する場合、蒸着ユニットを収容箱の蓋体が第2間隙を存して近接する蒸着位置に移動し、加熱手段により蒸着物質を加熱すると、その蓋体に形成した放出開口から昇華または気化した蒸着粒子が放出される。このとき、第2間隙で区画される蒸着空間は、第1間隙を境界として隣接室に連通し、上述したように、第2隔壁で隣接空間とのコンダクタンスが確定されているため、蒸着空間が隣接室から確実に雰囲気分離される。即ち、放出開口から、蒸着空間を経て第1間隙を通して隣接室に至る経路の密閉度が高められる。その結果、極めて高い成膜レートを得るために放出開口の開口面積を比較的大きく設定していても、放出開口から放出される蒸着粒子は、広範囲に拡がる前に第2間隙としての蒸着空間を経てシート状の基材の部分に付着、堆積するようになる一方で、放出開口から第2間隙に放出された蒸着粒子のうち基材への蒸着に寄与しないものは、例えば収容箱に戻るようになる。その結果、メインチャンバ内の隣接室に回り込んで、シート状の基材以外の部分(部品)に着膜するといったことが可及的に抑制され、ひいては、蒸着物質の無駄を防止することが可能になる。なお、蒸着空間を含む蒸着室と隣接室とが確実に雰囲気分離されていれば、成膜前または成膜後のシート状の基材表面に対して、隣接室にて例えば所定のガスを利用して前処理や後処理を行うような場合には、当該ガスが蒸着室に流入するといったことも防止できる。
【0011】
ところで、加熱手段によって蒸着物質を加熱するとき、その当初、収容箱内での蒸着物質の蒸着量が安定しない場合がある。このような状態でシート状の基材に蒸着すると、例えば膜厚が不均一になる等の不具合が生じる。本発明では、前記第2隔壁の少なくとも一方が前記蓋体の放出開口が臨むキャンローラの部分を遮蔽する遮蔽位置と、蒸着ユニットから周方向に離間した退避位置との間で回動自在に構成されているため、シート状の基材への蒸着開始に先立って、蒸着ユニットを離間位置に移動し、加熱手段により収容箱内の蒸着物質を加熱することができる。このとき、収容箱内で蒸着物質が昇華または気化し、加熱手段の加熱量に応じて次第にその蒸着量が安定するが、それまでの間、収容箱内で昇華または気化した蒸着粒子の一部は蓋体の放出開口からシート状の基材に向けて放出されてしまうので、収容箱内での蒸着物質の蒸着量が安定するまでの間、第2隔壁を遮蔽位置に移動させておけば、第2隔壁がシート状の基材の部分への蒸着を防止するシャッターとしての役割も果たす。このようにメインチャンバ(隣接室)と蒸着空間とを雰囲気分離する第2隔壁をシャッターとして兼用することで、部品点数を減らせるだけでなく、メインチャンバに別途シャッターを設けるものと比較してメインチャンバの容積も小さくでき、有利である。なお、第2隔壁をシャッターとして用いる場合、蒸着粒子が付着すると、その凝固潜熱で第2隔壁が加熱され、この加熱されたシャッターからの輻射熱でキャンローラやこれに巻き掛けられたシート状の基材が加熱されて損傷する虞がある。このため、例えば、第2隔壁に冷媒を循環させる冷媒循環路を形成し、第2隔壁を遮蔽位置に移動させた後、当該第2隔壁を冷却できるように構成することが好ましい。
【0012】
更に、本発明においては、前記第2隔壁の周方向両端に、キャンローラの母線方向長さと同等以上の長さを持つ隔壁板が夫々取り付けられ、第2隔壁を遮蔽位置または退避位置に移動すると、いずれか一方の隔壁板とこの隔壁板と同等の長さを持つメインチャンバに固定の固定隔壁とが当接または近接して第1隔壁を構成するようにしておけば、更に部品点数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の真空蒸着装置を蒸着ユニットの退避位置で模式的に示す断面図。
【
図2】本発明の実施形態の真空蒸着装置を蒸着ユニットの蒸着位置で模式的に示す断面図。
【
図4】加熱手段を一体に組み付けた蒸着ユニットの収容箱を示す斜視図。
【
図6】第2隔壁を移動させる機構をその遮蔽位置で示す部分分解斜視図。
【
図7】第2隔壁を移動させる機構をその退避位置で示す部分分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、キャンローラの周囲に2個の蒸着ユニットを設けてシート状の基材Swに蒸着(成膜)する場合を例に本発明の真空蒸着装置の実施形態を説明する。以下においては、キャンローラの軸線方向が水平方向に一致する姿勢で当該キャンローラがメインチャンバ内に収容されているものとし、軸線方向をX軸方向、同一の水平面内でX軸に直交する方向をY軸方向、X軸及びY軸に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、また、「上」「下」といった方向は
図1を基準とする。
【0015】
図1〜
図3を参照して、本実施形態の真空蒸着装置CMは、メインチャンバ1を備える。メインチャンバ1には、図示省略のターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ等で構成される真空ポンプが接続されて、真空雰囲気の形成(例えば、10
−5Pa)が可能になっている。メインチャンバ1の下面中央には、
図1に示す断面視にて半正六角形の輪郭を持つ、下方に突出する突出部11が形成されている。X軸方向にのびる突出部11の各平坦面12には、後述のキャンローラ2を臨む取付開口13が形成され、取付開口13を介して後述の蒸着ユニットVuが着脱自在に装着できるようになっている。
【0016】
メインチャンバ1内の上部空間には、図外の繰出ローラから移送されるシート状の基材Swをキャンローラ2へと案内し、キャンローラ2を周回したシート状の基材Swを図外の巻取ローラへと移送するために、本実施形態の基材走行手段の構成要素としての複数個のガイドローラGrが配置されている。なお、特に図示して説明しないが、メインチャンバ1には、上流側チャンバと下流側チャンバとが連設され、上流側チャンバにはシート状の基材Swが巻回され、一定の速度でこのシート状の基材Swを繰り出す基材走行手段の繰出ローラが設けられ、下流側チャンバにはメインチャンバ1にてキャンローラ2の周囲を周回することで成膜された成膜済みのシート状の基材Swを巻き取る基材走行手段の巻取ローラが設けられている。シート状の基材Swを繰り出して巻き取るまでの機構としては、公知のものが利用できるため、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0017】
キャンローラ2は回転軸21を備え、回転軸21がメインチャンバ1内でX軸方向(軸線方向)に間隔を置いて配置される2個の軸受装置Bmで軸支され、メインチャンバ1外に配置されるモータM1により所定の回転速度で回転駆動されるようになっている。軸受装置Bmは、特に詳細に図示していないが、枠体に径方向内側の内軸受と径方向外側の外軸受とを一体に組み付けたものであり、内軸受が回転軸21を軸支すると共に、外軸受が後述の第2隔壁の回動アームを回動自在に支持するようになっている。なお、キャンローラ2には、公知の方法でシート状の基材Swを加熱または冷却する機構を内蔵するようにしてもよい。
【0018】
各蒸着ユニットVuは、同一の構造を有し、取付開口13を囲うようにしてメインチャンバ1の平坦面12にその外側から夫々装着される格納チャンバ30を備える。本実施形態では、鉛直方向に位置する一方の平坦面12(
図1中、中央)と、水平面に対して傾斜した他方の平坦面12(
図1中、左側)とに2個の蒸着ユニットVuが夫々装着されたものを例に説明するが、これに限定されるものではなく、例えば、全ての平坦面12に蒸着ユニットVuを装着し、または、鉛直方向に位置する平坦面12にのみ蒸着ユニットVuを装着することもできる。この場合、蒸着ユニットVuが装着されない取付開口13には、これを塞ぐ蓋体(
図1及び
図2では、これを省略している)が装着される。鉛直方向に位置する平坦面12に装着されるものを例に説明すると、格納チャンバ30には、蒸着物質Vmが収納される収容箱3と収容箱3に一体に組み付けられて蒸着物質Vmを加熱する加熱手段4とが設けられる。蒸着物質Vmとしては、シート状の基材Swに形成しようとする薄膜に応じて金属材料や有機材料が用いられる。
【0019】
図4及び
図5も参照して、収容箱3は、例えばステンレス製であり、上面(キャンローラ2との対峙面)を開口した外容器31と、上面を除く外容器31の内壁面を覆うように、板状部材32a,32bを格子状に組み付けてなる外容器31に固定の支持枠32と、支持枠32の内側に配置されて蒸着物質Vmが収納される内容器33と、外容器31と内容器33との上面の開口を覆う蓋体34とから構成されている。外容器31と内容器33とは、
図1に示す断面視にて互いに相似な有底直方体状の輪郭を有し、外容器31と内容器33のX軸方向長さは、キャンローラ2の母線(X軸方向)長さと同等以上に設定されている(
図3参照)。外容器31と内容器33とのY軸方向長さ(幅)は、シート状の基材Swの横幅(具体的には、基材Swに対するX軸方向の蒸着範囲)や蒸着レート等を考慮して適宜設定される。
【0020】
また、支持枠32の所定位置には、その内方に向けて突出する複数本の支持ピンとしてのボルト35が立設され、外容器31の内側に内容器33を挿入すると、各ボルト35の頭部のみで内容器33が支持されるようにしている。キャンローラ2の外周面に対峙する蓋体34は、夫々が互いに平行な2本の横辺34aと縦辺34bからなる板材をキャンローラ2の外周面に一致する曲率で湾曲させて構成され、その中央には、内容器33の上面の開口に合致する単一の放出開口34cが開設されている。放出開口34cの内縁部が内容器33の上端に固定され、内容器33と蓋体34とが一体化されている。そして、
図4に仮想線で示す蓋体34が一体の内容器33を外容器31にその上面開口側から挿入すると、この外容器31の上面の開口が蓋体34で閉塞される。
【0021】
加熱手段4は、複数本のシースヒータ41で構成されている。各シースヒータ41は、支持枠32に固定され、図外の電源装置から通電できるようになっている。ここで、キャンローラ2に内蔵した冷却機構によってシート状の基材Swを冷却しながら、蒸着するような場合、放射冷却により蓋体34が冷却されることで、内容器33に上下方向の温度勾配が生じる虞がある。このため、各シースヒータ41に通電する経路を内容器33の上下方向で複数のブロックに分け、ブロック毎に通電電流を変えるように構成してもよい。そして、真空雰囲気中で蒸着物質Vmが収納された内容器33を外容器31に挿入した状態で加熱手段4の各シースヒータ41で加熱すると、蒸着物質Vmが内容器33内で昇華または気化し、この昇華または気化した蒸着粒子が放出開口34cから放出される。
【0022】
以上のように、各ボルト35の頭部で内容器33を支持する構造を採用すれば、伝熱による熱損失が小さくなって効率よく内容器33を加熱することができる。この場合、外容器31の内面を例えば電解研磨による鏡面仕上げをしておけば、各シースヒータ41で内容器33を加熱するときに、外容器31の内面が熱を反射するリフレクターとしての役割を果たし、輻射熱が加わってより一層効率よく内容器33を加熱することができる。収容箱3の内容器33に対する蒸着物質Vmの充填率は、例えば、蒸着物質Vmの種類や、収容箱3に充填された蒸着物質Vmの全てを昇華または気化させるまでの間における内容器33の内圧の変動に伴う蒸着レートの変化量を考慮して、20〜40%の範囲で適宜設定される。
【0023】
格納チャンバ30の外壁面には、移動手段としてのエアシリンダ5が設けられ、その外壁面を貫通してその内部にのびるエアシリンダ5の駆動軸51が収容箱3に連結されている。エアシリンダ5によって、蒸着ユニットVuの収容箱3は、
図1に示す、蓋体34がキャンローラ2の外周面から離間した離間位置と、
図2に示す、蓋体34がキャンローラ2の外周面に上記曲率で湾曲した間隙(以下、これを「第2間隙Gp2」とする)を存して近接する蒸着位置との間で移動自在となり、第2間隙Gp2が、蓋体34とこれに対峙するキャンローラ2の部分とで区画される蒸着空間となる。メインチャンバ1内には、キャンローラ2の周囲に位置させて、メインチャンバ1の内側壁に固定されたX軸方向にのびる固定隔壁6a,6b,6c,6dが夫々設けられ、固定隔壁6a,6b,6c,6dによって、格納チャンバ30に通じる、蒸着ユニットVuが格納される蒸着室Vsがメインチャンバ1内に夫々区画される。この場合、特に図示して説明しないが、メインチャンバ1と別に蒸着室Vs内を真空排気できるように構成することが望ましい。メインチャンバ1内には更に、キャンローラ2の外筒部分を上記曲率で湾曲する間隙(以下、これを「第1間隙Gp1」とする)を介して覆う第2隔壁7a,7bが夫々設けられ(
図2参照)、第1間隙Gp1を境界として蒸着室Vsとこの蒸着室Vsに隣接するメインチャンバ1内の隣接室As(例えば、シート状の基材Swの搬送空間)とが互いに連通し、第2隔壁7a,7bで蒸着室Vsと隣接室Asとの間のコンダクタンス値が確定されるように構成している。
【0024】
図6及び
図7も参照して、第2隔壁7a,7bは、例えばステンレス製の板材を上記曲率で湾曲させて構成され、X軸方向に間隔を置いて配置される各軸受装置Bmの外軸受(図示せず)で回動自在に夫々支持される各回動アーム71,72の先端間に夫々架設されている。各軸受装置Bmの外周面には、歯73a,73bが所定ピッチで夫々形成され、各歯73a,73bには、図外のモータで駆動されるラック74a,74bが噛み合っている。モータによりラック74a,74bをY軸方向に移動させると、第2隔壁7a,7bが、キャンローラ2の外周面に沿って相反する方向に回動する。この場合、各回動アーム71,72の互いに向かい合う面にはザグリ加工が施され、第1間隙部S1を存してザグリ加工面71a,71bを重ねることで、両第2隔壁7a,7bがキャンローラ2の周囲で第1間隙Gp1を保持したまま夫々移動できるようにしている。これにより、第2隔壁7a,7bが、蓋体34の放出開口34cが臨むキャンローラ2の部分を遮蔽する遮蔽位置と蒸着ユニットVuから周方向に離間した退避位置との間でキャンローラ2の回転軸21を回転中心として回動自在となる。この場合、第2隔壁7a,7bの遮蔽位置及び退避位置を含む第2隔壁7a,7bの回動経路にて、各第2隔壁7a,7bのX軸方向(軸線方向)の端面とこれに対峙するメインチャンバ1の内壁面との間に第2間隙部S2が形成されると共に、各第2隔壁7a,7bの外周面とメインチャンバ1の内壁面との間に第3間隙部S3が形成されるようにメインチャンバ1の内壁面が形成されている。
【0025】
図1に示す、蒸着ユニットVuが離間位置、第2隔壁7a,7bが遮蔽位置に夫々あるとき、蒸着室Vsと隣接室Asとは、第1間隙部S1〜第3間隙部S3のみを通じて連通するが(
図7参照)、装置の構成上不回避的な第2間隙部S2及び第3間隙部S3の大きさや、予め実験的に求められる隣接室Asの圧力と蒸着室Vsの圧力との間の圧力差から、第1間隙部S1におけるコンダクタンス値が所定値になるように、例えばザグリ加工面71a,71bの面積を適宜設定すれば、蒸着室Vsと隣接室Asとを確実に雰囲気分離できる。一方、
図1に示す状態から、第2隔壁7a,7bを退避位置に移動させた状態では、蒸着室Vsと隣接室Asとが、第1間隙部S1〜第3間隙部S3に加えて第2間隙Gp2を通じて互いに連通するが、上記同様、隣接室Asの圧力と蒸着室Vsの圧力との間の圧力差や、キャンローラ2の回転によるシート状の基材Swの通過にとって不回避的な第1間隙Gp1の大きさから、この第1間隙Gp1におけるコンダクタンス値が所定値になるように、第2隔壁7a,7bの周方向の長さを適宜設定すれば、蒸着室Vsと隣接室Asとを確実に雰囲気分離できる。そして、
図2に示す、蒸着ユニットVuが蒸着位置、第2隔壁7a,7bが退避位置に夫々移動させても、蒸着空間としての第2間隙Gp2は、隣接室Asと互いに雰囲気分離された状態を維持する。なお、特に図示して説明しないが、第2隔壁7a,7b内に、冷媒を循環させる冷媒循環路を形成し、第2隔壁7a,7bを遮蔽位置に移動させた後、軸受装置Bmを介して冷媒循環路に冷媒を循環させて第2隔壁7a,7bを所定温度に冷却できるように構成することができる。
【0026】
また、第2隔壁7a,7bの周方向の端面には、キャンローラ2の母線方向長さと同等以上の長さを持つ隔壁板75a,75b,75c,75dが夫々取り付けられている。
図1に示す第2隔壁7a,7bの遮蔽位置では、各隔壁板75a,75b,75c,75dが固定隔壁6a,6b,6cの径方向内端面に夫々当接する一方で、第2隔壁7a,7bを互いに相反する方向に回動させた、
図2に示す第2隔壁7a,7bの退避位置では、一方の第2隔壁7aの隔壁板75bが固定隔壁6aに、他方の第2隔壁7bの隔壁板75cが固定隔壁6cに夫々当接する。そして、第2隔壁7a,7bの退避位置にて蒸着ユニットVuの収容箱3を蒸着位置に進入させると、蓋体34の各横辺34a,34aが、各第2隔壁7a,7bの各隔壁板75a,75dに夫々当接し、キャンローラ2の周囲において第1間隙Gp1と第2間隙Gp2とが互いに連通するようになっている(
図2参照)。この場合、各隔壁板75a,75b,75c,75dと固定隔壁6a,6b,6cとで本実施形態の第1隔壁が構成される。
【0027】
上記真空蒸着装置CMにて、基材走行手段によりシート状の基材Swを走行させながら、キャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に蒸着する場合、先ず、蒸着ユニットVuの収容箱3を離間位置に、各第2隔壁7a,7bを遮蔽位置に夫々移動させる。この状態で加熱手段4により蒸着物質Vmを加熱する。すると、収容箱3内で蒸着物質Vmが昇華または気化し、加熱手段4の加熱量に応じて次第にその蒸着量が安定するが、それまでの間、収容箱3内で昇華または気化した蒸着粒子の一部が蓋体34の放出開口34cからシート状の基材Swに向けて放出され、第2隔壁7a,7bに夫々付着する。次に、収容箱3内での蒸着物質Vmの蒸着量が安定すると、各第2隔壁7a,7bを退避位置に夫々移動させ、その後、蒸着ユニットVuの収容箱3を蒸着位置に移動する。これにより、蒸着空間がメインチャンバ1内に形成され、基材走行手段によりシート状の基材Swを走行させると、キャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に、放出開口34cから放出される蒸着粒子が付着、堆積して連続的に蒸着される。
【0028】
本実施形態によれば、常時、蒸着室Vsと隣接室Asとを確実に雰囲気分離することができる。そして、
図2に示す、蒸着ユニットVuが蒸着位置、第2隔壁7a,7bが退避位置にあるときには、放出開口34cから、蒸着空間としての第2間隙Gp2を経て第1間隙Gp1を通して隣接室Asに至る経路の密閉度が高められる。その結果、極めて高い成膜レートを得るために放出開口34cの開口面積を比較的大きく設定していても、放出開口34cから放出される蒸着粒子は、広範囲に拡がる前に第2間隙Gp2を経てシート状の基材Swの部分に付着、堆積するようになる一方で、放出開口34cから第2間隙Gp2に放出された蒸着粒子のうち基材Swへの蒸着に寄与しないものは、内容器33に戻るようになる。これにより、隣接室Asを含むメインチャンバ1内に回り込んで、シート状の基材Sw以外の部分(部品)に着膜するといったことが可及的に抑制され、ひいては、蒸着物質Vmの無駄を防止することが可能になる。なお、蒸着空間を含む蒸着室Vsと隣接室Asとが雰囲気分離されるため、成膜前または成膜後のシート状の基材Sw表面に対して、隣接室Asにて例えば所定のガスを利用して前処理や後処理を行うような場合には、当該ガスが蒸着室Vsに流入するといったことも防止できる。また、第2隔壁7a,7bがシート状の基材Swの部分への蒸着を防止するシャッターとしての役割も果たす。このようにメインチャンバ1内の隣接室Asと蒸着室Vsとを雰囲気分離する第2隔壁7a,7bをシャッターとして兼用することで、部品点数を減らせるだけでなく、メインチャンバ1に別途シャッターを設けるものと比較してメインチャンバ1の容積も小さくでき、有利である。更に、各隔壁板75a,75b,75c,75dと固定隔壁6a,6b,6cとで第1隔壁を構成するようにしたため、更に部品点数を減らせることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、蒸着ユニットVuが収容箱3を内包する格納チャンバ30を備え、メインチャンバ1に着脱自在に装着されるものを例に説明したが、これに限定されものではなく、格納チャンバを省略して収容箱3をメインチャンバ1内に直接設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では、2個の第2隔壁7a,7bが、キャンローラ2の外周面に沿って回動自在なものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、メインチャンバ1に単一の蒸着ユニットVuの収容箱3を設けるような場合、収容箱3の周方向の一方に位置する第2隔壁を固定配置することもできる。
【0030】
更に、上記実施形態では、蒸着ユニットVuの収容箱3をキャンローラ2の外周面に対して進退させる移動手段として、格納チャンバ30の外壁面に設けたエアシリンダ5を例に説明したが、これに限定されるものではなく、モータなどの他の駆動源を用いることができ、また、蒸着ユニットVuの収容箱3を進退させるとき、その移動をガイドする公知のガイド機構を格納チャンバ30内に設けるようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、第2隔壁7a,7b及び収容箱3を移動させたとき、各隔壁板75a,75b,75c,75dが固定隔壁6a,6b,6cの径方向内端面に夫々当接し、蓋体34の各横辺34a,34aが各隔壁板75a,75dに夫々当接するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、放出開口34cから第2間隙Gp2に放出された蒸着粒子がメインチャンバ1に漏れ出ない範囲の間隙をもって近接するように構成することもできる。この場合、第2隔壁の回動範囲を適宜制限するストッパを設けておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0032】
CM…真空蒸着装置、Gr…ガイドローラ(基材走行手段)、Sw…シート状の基材、Vu…蒸着ユニット、1…メインチャンバ、2…キャンローラ、3…収容箱、34…収容箱の蓋体、34a…横辺、34c…放出開口、4…加熱手段、5…エアシリンダ(移動手段)、7a,7b…第2隔壁、75a,75b,75c,75d…隔壁板(第1隔壁)、6a,6b,6c…固定隔壁(第1隔壁)、As…隣接室、Gp1…第1間隙(蒸着空間)、Gp2…第2間隙、S1…第1間隙部、S2…第2間隙部、S3…第3間隙部。
【要約】
キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して蒸着する際に、蒸着ユニットが設けられる蒸着室と、これに隣接するメインチャンバ内の隣接室とを確実に雰囲気分離することができるようにした真空蒸着装置を提供する。
基材走行手段とキャンローラ2とを有するメインチャンバ1と、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に対して蒸着する蒸着ユニットVuとを備える。メインチャンバ内に、蒸着ユニットが格納される蒸着室を区画する第1隔壁75と、第1隔壁に連設されて蒸着ユニットの周方向両側に位置するキャンローラの外筒部分を上記曲率で湾曲する第1間隙Gp1を介して覆う第2隔壁7a,7bとを更に備え、第1間隙を境界として蒸着室Vsとこの蒸着室に隣接するメインチャンバ内の隣接室Asとが互いに連通し、第2隔壁で蒸着室と隣接室との間のコンダクタンスが確定されるように構成した。