特許第6681835号(P6681835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681835
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】多孔質ポリイミド膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20200406BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20200406BHJP
   H01M 2/16 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
   C08J9/26 101
   C08J9/26CFG
   C08G73/10
   !H01M2/16 P
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-547435(P2016-547435)
(86)(22)【出願日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2015075366
(87)【国際公開番号】WO2016039299
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-184387(P2014-184387)
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】戸張 光治
(72)【発明者】
【氏名】川村 芳次
(72)【発明者】
【氏名】石川 薫
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2008/114798(JP,A1)
【文献】 特開昭62−177039(JP,A)
【文献】 特開2012−107144(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/043467(WO,A1)
【文献】 特開2012−167181(JP,A)
【文献】 特開平11−021369(JP,A)
【文献】 特開2011−060539(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084368(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/087958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08G 73/00−73/26
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有するワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、
前記未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬する浸漬工程と、
前記未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得る焼成工程と、
前記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、
を前記の順序で含み、
前記未焼成複合膜成膜工程において、基材上又は前記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に、前記ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃で乾燥することにより、前記未焼成複合膜を形成する多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項2】
前記下層膜は、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有し、前記微粒子の含有量が前記樹脂と前記微粒子との合計に対して65体積%超81体積%以下である下層膜用ワニスを用いて成膜した下層未焼成複合膜であり、
前記下層未焼成複合膜は、基材上に形成されたものであり、
前記未焼成複合膜成膜工程と前記浸漬工程との間に、前記未焼成複合膜又は前記未焼成複合膜と前記下層未焼成複合膜との積層膜を、前記基材から剥離することを含む請求項1に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項3】
更に、前記浸漬工程と前記焼成工程との間に、前記浸漬工程後の未焼成複合膜をプレスするプレス工程を含む請求項1又は2に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項4】
ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有するワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、
前記未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後の未焼成複合膜をプレスするプレス工程と、
前記未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得る焼成工程と、
前記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、
前記の順序でむ多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項5】
更に、前記浸漬工程と前記焼成工程との間に、前記浸漬工程後の未焼成複合膜を乾燥させる乾燥工程を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリイミド膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池のセパレータや燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として多孔質ポリイミドの研究がなされている。
【0003】
例えば、特定の混合溶剤をポリアミド酸溶液に用い多孔質化する方法、親水性ポリマーを含むポリアミド酸を加熱イミド化した後、親水性ポリマーを取り除き多孔質化する方法、シリカ粒子を含有するポリイミドからシリカを取り除き多孔質化する方法等が公知である(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−211136号公報
【特許文献2】特開2000−044719号公報
【特許文献3】特開2012−107144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中でも、シリカ粒子を含有するポリイミドからシリカを取り除き多孔質化する方法は均質で緻密な多孔質ポリイミド膜を製造できる有効な手段である。その製造方法において、ポリアミド酸とシリカ粒子とを含有するワニスを用いて、ポリアミド酸とシリカ粒子とを含有する未焼成複合膜を形成し、この未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得ることが必要とされる。
【0006】
本発明者らの検討によれば、形成した未焼成複合膜をそのまま焼成すると、得られるポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生することが判明した。このようなカールは、微粒子を取り除いた後も残存し、これを取り除くことは困難である。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、未焼成複合膜を焼成して得たポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生することを抑制することができる多孔質ポリイミド膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、未焼成複合膜の成膜と未焼成複合膜の焼成との間に、未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の態様は、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有するワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、上記未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬する浸漬工程と、上記未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得る焼成工程と、上記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を上記の順序で含む多孔質ポリイミド膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、未焼成複合膜を焼成して得たポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生することを抑制することができる多孔質ポリイミド膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
<ワニスの製造>
本発明で用いるワニス(以下、「多孔質ポリイミド膜製造用ワニス」ともいう。)は、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有する。多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、上記微粒子の含有量は、多孔質ポリイミド膜の目的とする空孔率に応じて適宜調整すればよく、上記樹脂と上記微粒子との合計に対して、例えば、35体積%以上であり、50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、65体積%以上であることが更により好ましい。また、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの25℃における粘度は、550mPa・s以上であることが好ましい。
【0013】
上記微粒子の含有量が上記樹脂と上記微粒子との合計に対して65体積%以上であると、得られる多孔質ポリイミド膜の空孔率が下がりにくく、また、得られる未焼成複合膜の焼成時の収縮率が高くなりにくく、カールやシワの発生を抑制しやすい。
上記微粒子の含有量の上限は上記樹脂と上記微粒子との合計に対して、例えば、85体積%以下であり、80体積%以下であることが好ましい。上記微粒子の含有量の上限が上記範囲内であると、微粒子同士が凝集しにくく、また、表面にひび割れ等が生じにくいため、安定して電気特性の良好な多孔質ポリイミド膜を形成することができる。
なお、本明細書において、体積%及び体積比は、25℃における値である。
【0014】
また、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、微粒子とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂との合計の含有量は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニス中の固形分全体(後述の溶剤以外の各成分全体)に対し、例えば、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に99〜100質量%となるよう調整することが各種製造工程の安定性の点で更により好ましい。
【0015】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの25℃における粘度は、好ましくは550mPa・s以上であり、より好ましくは600mPa・s以上であり、更により好ましくは700mPa・s以上である。上記粘度の上限は、特に限定されないが、実用的な観点から、3000mPa・s以下であり、好ましくは2000mPa・s以下であり、より好ましくは1500mPa・s以下である。
なお、粘度は、E型粘度計により測定される。
【0016】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの調製は、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂を含み、微粒子を分散した溶液を製造することにより行う。より具体的には、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの調製は、例えば、微粒子を予め分散した溶剤とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂とを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した溶剤中でポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂を重合して行われる。上記微粒子は、ワニスに使用する溶剤に不溶であり、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されることなく使用することができる。
【0017】
[ポリアミド酸]
本発明で用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0018】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は単独あるいは二種以上混合して用いることもできる。
【0020】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0022】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0023】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0024】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1〜6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0025】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ペンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0026】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0027】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がいずれも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0028】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0029】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0030】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0031】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9−ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0032】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2〜15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0033】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0034】
本発明で用いられるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0035】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0037】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0038】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。
ポリアミド酸は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
[ポリイミド]
本発明で用いるポリイミドは、本発明で用いるワニスに使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0040】
溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチルー1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0041】
本発明で用いられる、溶剤に溶解可能なポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させ、溶剤に溶解させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミドを溶媒に溶解したものでよい。式中、Arはアリール基を示す。
【化1】
【化2】
【0042】
本発明で用いるワニスは、予め微粒子が分散した溶剤とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂とを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した溶剤中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、更にイミド化してポリイミドとすることで製造できる。
【0043】
微粒子とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂とを焼成してポリイミド−微粒子複合膜とした場合において、微粒子の材質が後述の無機材料の場合は微粒子/ポリイミドの比率が、例えば、1〜7.5(質量比)、好ましくは2〜6(質量比)となるように、微粒子とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂とを混合するとよい。3〜5(質量比)とすることが、更に好ましい。微粒子の材質が後述の有機材料の場合は微粒子/ポリイミドの比率が1〜3.5(質量比)となるように、微粒子とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂とを混合するとよい。1.2〜3(質量比)とすることが、更に好ましい。また、ポリイミド−微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミドの体積比が、例えば、0.5〜5、好ましくは1.5〜4.5となるように微粒子とポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂とを混合するとよい。1.8〜3(体積比)とすることが更に好ましい。ポリイミド−微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミドの質量比又は体積比が上記下限値以上であれば、セパレータとして適切な密度の孔を得ることができ、上記上限値以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜することができる。
ポリイミドは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
[微粒子]
本発明で用いられる微粒子の材質は、ワニスに使用する溶剤に不溶で、後にポリイミド膜から除去可能なものであれば、特に限定されることなく公知のものが採用可能である。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。
【0045】
具体的に微粒子としては、例えば、コロイダルシリカが挙げられる。中でも単分散球状シリカ粒子を選択した場合は、均一な孔を形成できるために好ましい。
【0046】
また、本発明で用いられる微粒子は、真球率が高く、粒径分布指数の小さいものが好ましい。上記微粒子の粒径分布指数(d25/d75)の範囲は、例えば、1〜6である。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。上記粒径分布指数が1〜1.5であれば、多孔質膜の孔径を揃えやすい。上記粒径分布指数が1.5〜6、好ましくは2〜6であれば、膜内部に粒子を効率的に充填させやすく、得られる多孔質ポリイミド膜内部の各空孔が連通した通路を形成しやすい。使用する微粒子の平均粒径は、例えば、50〜5000nmであり、100〜2000nmであることが好ましく、300〜2000nmであることがより好ましく、500〜2000であることが更により好ましく、700〜2000nmであることが特に好ましい。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができるため、セパレータに印加される電界を均一化でき好ましい。
微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[溶剤]
本発明で用いられる溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示したものが挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、溶剤の含有量は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニス全体に対し、60質量%以上であること(即ち、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおける固形分濃度が40質量%以下となる量であること)が塗布性の点で好ましい。上記溶剤の含有量は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおける固形分濃度がより好ましくは20〜40質量%、更により好ましくは30〜39質量%、一層更により好ましくは33〜38質量%となる量である。
【0049】
[分散剤]
本発明では、ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と微粒子とを一層均一に混合でき、更には、成形又は成膜した前駆体膜中の微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質ポリイミドの表面に稠密な開口を設け、かつ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、フィルムの透気度が向上する。更に、分散剤を添加することにより、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの乾燥性が向上しやすくなり、また、形成された未焼成複合膜の基材等からの剥離性が向上しやすくなる。
【0050】
本発明で用いられる分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0051】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子に対し0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜0.5質量%であることが更により好ましい。
【0052】
<多孔質ポリイミド膜の製造方法>
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有するワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、上記未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬する浸漬工程と、上記未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得る焼成工程と、上記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を上記の順序で含む。
【0053】
[未焼成複合膜の製造(未焼成複合膜成膜工程)]
以下、本発明における未焼成複合膜の成膜方法について説明する。未焼成複合膜成膜工程においては、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する。その際、未焼成複合膜は、基材上に成膜してもよいし、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に成膜してもよい。未焼成複合膜は、例えば、基材上又は上記下層膜上に、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃、好ましくは常圧10〜100℃で乾燥することにより、形成することができる。
基材としては、例えば、PETフィルム、SUS基材、ガラス基材等が挙げられる。
【0054】
上記下層膜としては、例えば、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有し、上記微粒子の含有量が上記樹脂と上記微粒子との合計に対して65体積%超81体積%以下である下層膜用ワニスを用いて成膜した下層未焼成複合膜が挙げられる。下層未焼成複合膜は、基材上に形成されたものであってもよい。上記微粒子の含有量が65体積%超であると、粒子が均一に分散し、また、上記微粒子の含有量が81体積%以下であると、粒子同士が凝集することもなく分散するため、多孔質ポリイミド膜において孔を均一に形成することができる。また、上記微粒子の含有量が上記範囲内であれば、下層未焼成複合膜を基材上に形成する場合、上記基材に予め離型層を設けていなくても、成膜後の離型性を確保しやすい。
【0055】
なお、下層膜用ワニスに用いる微粒子と多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに用いる微粒子とは、同じであってもよいし、互いに異なってもよい。下層未焼成複合膜における孔をより稠密にするには、下層膜用ワニスに用いる微粒子は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに用いる微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、下層膜用ワニスに用いる微粒子は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに用いる微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。
【0056】
また、下層膜用ワニスに用いる微粒子は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに用いる微粒子よりも、平均粒径が小さいことが好ましく、特に、下層膜用ワニスに用いる微粒子の平均粒径が100〜1000nm(好ましくは100〜600nm)であり、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに用いる微粒子の平均粒径が300〜5000nm(より好ましくは500〜2000nm、更により好ましくは700〜2000nm)であることが好ましい。
【0057】
また、下層膜用ワニスは、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスよりも微粒子の含有量が多いことが好ましい。ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂、微粒子、溶剤、及び基材は、上記の通りである。下層未焼成複合膜は、例えば、基材上に、上記下層膜用ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃、好ましくは常圧10〜100℃で乾燥することにより、形成することができる。
【0058】
また、上記下層膜としては、例えば、セルロース系樹脂、不織布(例えば、ポリイミド製不織布等。繊維径は、例えば、約50nm〜約3000nmである。)等の繊維系材料からなる下層膜や、ポリイミドフィルムも挙げられる。
【0059】
更に、上記未焼成複合膜又は上記未焼成複合膜と上記下層膜との積層膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得る焼成工程に入る。上記未焼成複合膜又は上記下層未焼成複合膜を基材上に成膜した場合、そのまま焼成してもよいし、焼成工程に入る前に上記未焼成複合膜又は上記未焼成複合膜と上記下層未焼成複合膜との積層膜を基材から剥離してもよい。
【0060】
なお、積層膜における上記下層膜が、下層膜用ワニスを用いて成膜した下層未焼成複合膜であり、かつ、下層膜用ワニスの組成が、上記未焼成複合膜の成膜に用いられる多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの組成と同じである場合は、上記未焼成複合膜と上記下層膜との積層膜は実質1層(単層)となるが、本明細書においては積層膜という。
【0061】
未焼成複合膜又は未焼成複合膜と下層未焼成複合膜との積層膜を基材から剥離する場合、膜の剥離性を更に高めるために、予め離型層を設けた基材を使用することもできる。基材に予め離型層を設ける場合は、ワニスの塗布の前に、基材上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行う。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥した未焼成複合膜を基材から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存するため、焼成中の変色や電気特性への悪影響の原因ともなるので、極力取り除くことが好ましい。離型剤を取り除くことを目的として、基材より剥離した未焼成複合膜又は未焼成複合膜と下層未焼成複合膜との積層膜を、有機溶剤を用いて洗浄する洗浄工程を導入してもよい。
【0062】
一方、未焼成複合膜又は下層未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基材をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や上記洗浄工程を省くことができる。
【0063】
[水を含む溶剤への浸漬(浸漬工程)]
浸漬工程においては、上記未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬する。未焼成複合膜中には、通常、その製造に用いた製造用溶剤が残存している。製造用溶剤が残存したままで未焼成複合膜を焼成すると、膜中の製造用溶剤の分布にムラが発生しやすく、結果として、ポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生しやすくなる。一方、未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬すると、未焼成複合膜中に残存する製造用溶剤が上記水を含む溶剤中に溶け出し、未焼成複合膜中に残存する製造用溶剤の量が減少する。その結果、膜中の製造用溶剤の分布にムラが発生しにくくなり、ポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生することが抑制されやすくなる。
【0064】
水を含む溶剤とは、例えば、水を5質量%以上含む溶剤をいう。水を含む溶剤は、水を主成分として含む溶剤であることが好ましく、水を50質量%以上含む溶剤であることがより好ましく、水を70質量%以上含む溶剤であることが更に好ましく、水を90質量%以上含む溶剤であることが特に好ましく、100質量%水であってもよい。水を含む溶剤に含まれる水以外の溶剤としては、水溶性の有機溶剤が挙げられ、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド等の窒素含有極性溶媒やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。前記水溶性の有機溶剤の割合は、水を含む溶剤全体に対し、例えば0〜95質量%であり、1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。
【0065】
浸漬時間としては、特に限定されないが、1〜10分が好ましく、3〜5分がより好ましい。浸漬時間が上記範囲内であると、ポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生することがより抑制されやすくなる。
【0066】
浸漬温度としては、特に限定されないが、例えば5〜60℃であり、15〜35℃が好ましく、23〜30℃がより好ましい。浸漬温度が上記範囲内であると、ポリイミド−微粒子複合膜にカールが発生することがより抑制されやすくなる。
【0067】
未焼成複合膜成膜工程において基材上に未焼成複合膜を成膜した場合、浸漬工程では、上記基材から上記未焼成複合膜を剥離して水を含む溶剤に浸漬してもよいし、上記基材上に成膜された未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬してもよい。上記浸漬工程後に未焼成複合膜を基材から剥離しやすいことから、浸漬工程では、上記基材から上記未焼成複合膜を剥離して水を含む溶剤に浸漬することが好ましい。
【0068】
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、更に、上記浸漬工程と後述する焼成工程との間に、浸漬工程後の未焼成複合膜から上記水を含む溶剤を除去する工程を含むことが好ましい。上記水を含む溶剤を除去する方法としては、例えば、後述のプレス工程又は乾燥工程が挙げられる。プレス工程による上記水を含む溶剤の除去は、シワ(ムラやうねり)の発生が抑制されやすい点で好ましい。
【0069】
[浸漬工程後の未焼成複合膜のプレス(プレス工程)]
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、更に、上記浸漬工程と上記焼成工程との間に、上記浸漬工程後の未焼成複合膜をプレスするプレス工程を含んでもよい。浸漬工程後の未焼成複合膜をプレスすることにより、この未焼成複合膜を焼成して得たポリイミド−微粒子複合膜においては、シワ(ムラやうねり)の発生が抑制されやすくなる。
【0070】
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法がプレス工程を含む場合、上記未焼成複合膜成膜工程では、基材に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布して上記基材上に未焼成複合膜を成膜し、上記浸漬工程では、上記基材から上記未焼成複合膜を剥離して水を含む溶剤に浸漬してもよいし、上記未焼成複合膜成膜工程では、基材に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布して上記基材上に未焼成複合膜を成膜し、上記浸漬工程では、上記基材上に成膜された未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬してもよい。上記浸漬工程後に未焼成複合膜を基材から剥離しやすいことから、上記未焼成複合膜成膜工程では、基材に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布して上記基材上に未焼成複合膜を成膜し、上記浸漬工程では、上記基材から上記未焼成複合膜を剥離して水を含む溶剤に浸漬することが好ましい。
【0071】
プレスの方法としては、特に限定されず、例えば、吸水ロール等のロールを浸漬工程後の未焼成複合膜に接触又は挟み込む方法、浸漬工程後の未焼成複合膜の両主表面にフィルムを圧着する方法、浸漬工程後の未焼成複合膜をロールでプレスする方法等が挙げられる。プレス時の圧力としては、特に限定されず、例えば、0.1〜10kg/cmであり、1〜8kg/cmであることが好ましい。また、プレス時の温度としては、特に限定されず、例えば、10〜120℃であり、20〜100℃であることが好ましい。上記フィルムとしては、例えば、PETフィルム等が挙げられる。ロールによるプレスで用いられるロールとしては、特に限定されず、従来公知のロールを用いることができるが、吸水ロールを用いてもよい。
【0072】
より具体的には、上記未焼成複合膜成膜工程では、基材に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布して上記基材上に未焼成複合膜を成膜し、上記浸漬工程では、上記基材から上記未焼成複合膜を剥離して水を含む溶剤に浸漬した場合、上記基材から剥離した上記未焼成複合膜の両主表面にフィルムを圧着することで、プレスを行うことができる。また、上記未焼成複合膜成膜工程では、基材に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布して上記基材上に未焼成複合膜を成膜し、上記浸漬工程では、上記基材上に成膜された未焼成複合膜を水を含む溶剤に浸漬した場合、上記基材が接する主表面とは反対側の主表面にフィルムを新たに密着させ、上記基材と新たに密着させた上記フィルムとを未焼成複合膜の両主表面に圧着することで、プレスを行うことができる。
【0073】
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法が後述の乾燥工程を含む場合、プレス工程における未焼成複合膜のプレスと、乾燥工程における乾燥とを同時に行ってもよい。例えば、プレス時の温度を乾燥工程における乾燥温度と同様に設定したり、吸水ロールを用いてプレスを行ったりすることで、プレス工程における未焼成複合膜のプレスと、乾燥工程における乾燥とを同時に行うことができる。
【0074】
[浸漬工程後の未焼成複合膜の乾燥(乾燥工程)]
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、更に、上記浸漬工程と上記焼成工程との間に、上記浸漬工程後の未焼成複合膜を乾燥させる乾燥工程を含んでもよい。浸漬工程後の未焼成複合膜を乾燥させることにより、この未焼成複合膜を焼成して得たポリイミド−微粒子複合膜においては、カールやシワ(ムラやうねり)の発生が抑制されやすくなる。
【0075】
浸漬工程後の未焼成複合膜から上記水を含む溶剤を除去して、上記未焼成複合膜を乾燥させる方法としては、特に限定されず、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。乾燥温度としては、特に限定されず、例えば、20〜120℃であり、20〜100℃であることが好ましい。
【0076】
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法が前述のプレス工程を含む場合、上記製造方法においては、浸漬工程とプレス工程との間に乾燥工程が存在してもよいし、プレス工程と焼成工程との間に乾燥工程が存在してもよいし、乾燥工程における乾燥と、プレス工程における未焼成複合膜のプレスとを同時に行ってもよい。例えば、乾燥工程における乾燥温度をプレス時の温度と同様に設定したり、吸水ロールを用いてプレスを行ったりすることで、乾燥工程における乾燥と、プレス工程における未焼成複合膜のプレスとを同時に行うことができる。
【0077】
[ポリイミド−微粒子複合膜の製造(焼成工程)]
上記未焼成複合膜に加熱による後処理(焼成)を行ってポリイミドと微粒子とからなる複合膜(ポリイミド−微粒子複合膜)とする。上記未焼成複合膜成膜工程において、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に上記未焼成複合膜を成膜した場合には、焼成工程において、上記未焼成複合膜とともに上記下層膜も焼成する。焼成工程における焼成温度は、未焼成複合膜及び下層膜の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、例えば、120〜450℃であり、120〜400℃であることが好ましく、120〜375℃であることがより好ましく、更に好ましくは150〜350℃である。また、微粒子に、有機材料を使用するときは、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0078】
焼成条件は、例えば、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。基材上に未焼成複合膜を成膜し、上記基材から上記未焼成複合膜を一旦剥離する場合は、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0079】
できあがったポリイミド−微粒子複合膜の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均膜厚が好ましいかは、ポリイミド−微粒子複合膜又は多孔質ポリイミド膜の用途によって異なるが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることが更に好ましい。
【0080】
[ポリイミド−微粒子複合膜の多孔化(微粒子除去工程)]
ポリイミド−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、多孔質ポリイミド膜を再現性よく製造することができる。
【0081】
微粒子の材質として、例えば、シリカを採用した場合、ポリイミド−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水等により処理して、シリカを溶解除去することが可能である。
【0082】
また、微粒子の材質として、有機材料を選択することもできる。有機材料としては、ポリイミドよりも低温で分解するものであれば、特に限定されることなく使用できる。例えば、線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーからなる樹脂微粒子を挙げることができる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断され、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。いずれも、低分子量体、あるいは、COまで分解することによって、ポリイミド膜から消失する。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミドの焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃未満であれば、ポリイミドに熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0083】
本発明に係る製造方法で作製した多孔質ポリイミド膜の全体の膜厚は特に限定されるものではないが、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることが更に好ましく、10μm以上30μm以下が特に好ましい。上記の膜厚は、ポリイミド−微粒子複合膜の測定時と同様、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。
【0084】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスから作成される層の厚さは、例えば、3μm以上500μm以下であり、好ましくは4.3μm以上500μm以下であり、より好ましくは4.5μm以上99.7μm以下であり、更により好ましくは5μm以上29.7μm以下である。上記未焼成複合膜成膜工程において、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に上記未焼成複合膜を成膜する場合、下層膜から形成される層の厚さは、例えば、0.3μm以上40μm以下であり、好ましくは0.3μm以上5μm以下であり、より好ましくは0.4μm以上4μm以下であり、更により好ましくは0.5μm以上3μm以下である。各層の厚さは、多孔質ポリイミド膜断面の複数箇所を、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察して平均して算出することができる。
【0085】
[ポリイミド除去工程]
本発明に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、ポリイミド−微粒子複合膜のポリイミド部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去するポリイミド除去工程を含んでもよい。微粒子除去工程前に、ポリイミド−微粒子複合膜のポリイミド部分の少なくとも一部を除去することにより、続く微粒子除去工程で微粒子が取り除かれ空孔が形成された場合に、上記ポリイミド部分の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質ポリイミド膜の開孔率を向上させることが可能となる。また、微粒子除去工程後に多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去することにより、上記多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質ポリイミド膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0086】
上記のポリイミド部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0087】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0088】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01〜20質量%である。
【0089】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを芳香族ポリイミドフィルムの表面に30〜100m/sの速度で照射することでポリイミドフィルム表面を処理する方法等が使用できる。
【0090】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後のいずれのポリイミド除去工程にも適用可能であるので好ましい。
【0091】
一方、微粒子除去工程後に行うポリイミド除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質ポリイミド膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質ポリイミド膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質ポリイミド膜が台紙フィルムから引きはがされる。
【0092】
[多孔質ポリイミド膜の用途]
本発明に係る製造方法で作製した多孔質ポリイミド膜は、リチウムイオン電池のセパレータや燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として使用することが可能である。上記多孔質ポリイミド膜は、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池用セパレータとして使用することが可能であるが、リチウムイオン二次電池用多孔質セパレータとして使用することが特に好ましい。特に、リチウムイオン電池のセパレータとして使用する場合、上記未焼成複合膜成膜工程において、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に上記未焼成複合膜を成膜し、上記下層膜として、上記下層膜製造用ワニスを用いて成膜したものを用い、上記下層膜側の面をリチウムイオン電池の負極面側とすることにより、電池性能を向上させることができる。
【0093】
<二次電池>
本発明における二次電池は、負極と正極との間に、電解液と本発明に係る製造方法で作製した多孔質ポリイミド膜からなるセパレータとが配置されることを特徴とする。
【0094】
本発明の二次電池の種類や構成は、何ら限定されるものではない。正極とセパレータと負極とが順に上記条件を満たすように積層された電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となった構成であれば、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の公知の二次電池に、特に限定されることなく使用することができる。
【0095】
本発明における二次電池の負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造をとることができる。例えば、負極活物質として、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化カドミウムを、ニッケル水素電池の場合は水素吸蔵合金を、それぞれ用いることができる。また、リチウムイオン二次電池の場合は、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が採用できる。このような、活物質として、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。
【0096】
負極を構成する導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0097】
また、正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造とすることができる。例えば、正極活物質としては、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化ニッケルを、ニッケル水素電池の場合は水酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルを、それぞれ用いることができる。他方、リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0098】
電解液としては、例えば、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池の場合には、水酸化カリウム水溶液が使用される。リチウムイオン二次電池の電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成とされる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0099】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明に係る製造方法で作製した多孔質ポリイミド膜からなるセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
実施例及び比較例では、以下に示すテトラカルボン酸二無水物、ジアミン、有機溶剤、分散剤及び微粒子を用いた。
・ポリアミド酸溶液:テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物)とジアミン(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)との反応物(反応溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・微粒子
シリカ1:平均粒径300nmのシリカ
シリカ2:平均粒径700nmのシリカ
【0102】
[ワニスの調製]
(1)第一のワニス(下層膜用ワニス)
ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸換算:15質量部)に対し、シリカ1(85質量部)と、N,N−ジメチルアセトアミド及びγ−ブチロラクトンの各有機溶剤とを添加し(その際、ワニス中の有機溶剤比(N,N−ジメチルアセトアミド:γ−ブチロラクトン)が90:10(質量比)となるように、有機溶剤の添加量を調整した。)、各成分を混合、撹拌して、ポリアミド酸と微粒子との体積比を22:78(質量比は15:85)とした第一のワニスを調製した。
【0103】
(2)第二のワニス(多孔質ポリイミド膜製造用ワニス)
ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸換算:19.6質量部)とシリカ2(80質量部)と分散剤(0.4質量部)とを混合し、必要に応じてN,N−ジメチルアセトアミド及びγ−ブチロラクトンの各有機溶剤を追加で添加し(その際、ワニス中の有機溶剤比(N,N−ジメチルアセトアミド:γ−ブチロラクトン)が90:10(質量比)となるように、有機溶剤の添加量を調整した。)、35質量%の固形分濃度を有する第二のワニスを調製した。
【0104】
[未焼成複合膜(単層)の成膜]
上記の第二のワニスをPETフィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、70℃で5分間プリベークして、膜厚約25μmの未焼成複合膜(単層)を形成した。
【0105】
[未焼成複合膜(二層)の成膜]
上記の第一のワニスをPETフィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、70℃で1分間プリベークして、膜厚約3μmの下層未焼成複合膜を成膜した。続いて、そのうえに第二のワニスを、アプリケーターを用い成膜した。70℃で5分間プリベークして、膜厚25μmの未焼成複合膜を形成した。
【0106】
[実施例1]
上記PETフィルムから上記(二層)の未焼成複合膜を剥離した後、500gの水に3分間浸漬した。その後、2本のロール間に未焼成複合膜を通して、未焼成複合膜をプレスした。その際、ロール抑え圧は3.0kg/cm、ロール温度は室温、未焼成複合膜の移動速度は0.5m/minであった。プレス後の未焼成複合膜に対し320℃で15分間熱処理(焼成)を施し、イミド化を完結させて、ポリイミド−微粒子複合膜を得た。このポリイミド−微粒子複合膜を10質量%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去して、多孔質ポリイミド膜を得た。アルカリ性のエッチング液に、この多孔質ポリイミド膜を20秒間浸漬してポリイミド表面の一部を除去することで、ケミカルエッチング(以下、「CE」という場合がある。)を行った。なお、上記エッチング液の作製は、TMAHの2.38質量%水溶液をメタノール50質量%水溶液で1.04%となるように希釈することで行った。
【0107】
[実施例2]
実施例1において、500gの水に3分間浸漬後に、未焼成複合膜をプレスせず、約1時間自然乾燥させた未焼成複合膜を直接イミド化させた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド−微粒子複合膜及び多孔質ポリイミド膜の取得、並びにケミカルエッチングを行った。
【0108】
[実施例3]
実施例1において、ロール温度を80℃に設定した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド−微粒子複合膜及び多孔質ポリイミド膜の取得、並びにケミカルエッチングを行った。なお、実施例3では、(単層)の未焼成複合膜の評価も同様に行った。
【0109】
[比較例1]
実施例1において、PETフィルムから剥離した未焼成複合膜に対し、水に3分間浸漬させる工程及びプレス工程を行うことなく、直接イミド化させ、ケミカルエッチングの時間を20秒から80秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド−微粒子複合膜及び多孔質ポリイミド膜の取得、並びにケミカルエッチングを行った。
【0110】
[比較例2]
実施例1において、PETフィルムから剥離した未焼成複合膜に対し、水に3分間浸漬させる工程を行うことなく、直接2本のロール間に通して未焼成複合膜をプレスし、ケミカルエッチングの時間を20秒から80秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド−微粒子複合膜及び多孔質ポリイミド膜の取得、並びにケミカルエッチングを行った。
【0111】
[比較例3]
実施例1において、PETフィルムから剥離した未焼成複合膜に対し、水に3分間浸漬させる工程及びプレス工程を行うことなく、直接24時間自然乾燥させ、自然乾燥させた未焼成複合膜を直接イミド化させ、ケミカルエッチングの時間を20秒から80秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド−微粒子複合膜及び多孔質ポリイミド膜の取得、並びにケミカルエッチングを行った。
【0112】
[実施例4]
上記PETフィルムから上記(二層)の未焼成複合膜を剥離した後、500gの水を含む溶剤(質量比がイソプロパノール:水=10:90)に3分間浸漬した。その後、2本のロール間に未焼成複合膜を通して、未焼成複合膜をプレスした。その際、ロール抑え圧は3.0kg/cm、ロール温度は80℃、未焼成複合膜の移動速度は0.5m/minであった。プレス後の未焼成複合膜に対し320℃で15分間熱処理(焼成)を施し、イミド化を完結させて、ポリイミド−微粒子複合膜を得た。このポリイミド−微粒子複合膜を10質量%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去して、多孔質ポリイミド膜を得た。実施例1と同様に、ケミカルエッチングを行った。
【0113】
[実施例5]
上記PETフィルムから上記(二層)の未焼成複合膜を剥離した後、500gの水を含む溶剤(質量比がN,N−ジメチルアセトアミド:水=10:90)に3分間浸漬した。その後、2本のロール間に未焼成複合膜を通して、未焼成複合膜をプレスした。その際、ロール抑え圧は3.0kg/cm、ロール温度は80℃、未焼成複合膜の移動速度は0.5m/minであった。プレス後の未焼成複合膜に対し320℃で15分間熱処理(焼成)を施し、イミド化を完結させて、ポリイミド−微粒子複合膜を得た。このポリイミド−微粒子複合膜を10質量%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去して、多孔質ポリイミド膜を得た。実施例1と同様に、ケミカルエッチングを行った。
【0114】
[評価]
上記で得られたポリイミド−微粒子複合膜及び多孔質ポリイミド膜の膜特性を評価した。結果を表1に示す。表中、「単層」は、「未焼成複合膜(単層)の成膜」で得た未焼成複合膜(単層)を出発材料として膜特性を評価した結果を示し、「二層」は、「未焼成複合膜(二層)の成膜」で得た積層膜を出発材料として膜特性を評価した結果を示す。
【0115】
(焼成後におけるカール発生の有無)
得られたポリイミド−微粒子複合膜を目視で観察して、焼成後におけるカール発生の有無を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:カールの発生が全く観察されなかった。
○:膜の端部が部分的にカールしていた。
×:膜の端部の全体がカールしていた。
【0116】
(焼成後におけるシワ(ムラ、うねり)発生の有無)
得られたポリイミド−微粒子複合膜を目視で観察して、焼成後におけるシワ(ムラ、うねり)発生の有無を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:シワ(ムラ、うねり)が全く観察されなかった。
○:シワ(ムラ、うねり)が部分的に観察された。
×:シワ(ムラ、うねり)が全面で観察された。
【0117】
(透気度)
ケミカルエッチング前の多孔質ポリイミド膜及びケミカルエッチング後の多孔質ポリイミド膜の各々を5cm角に切り出して、透気度測定用のサンプルとした。ガーレー式デンソメーター(東洋精機製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mlの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。各例ともケミカルエッチング後は透気度が改善した。ケミカルエッチング後の値を表1に示す。
【0118】
(引張強度)
ケミカルエッチング後の多孔質ポリイミド膜の引張強度を測定した。即ち、多孔質ポリイミド膜を1cm×5cmの大きさに切り出して短冊状のサンプルを得た。このサンプルの破断時の応力(MPa)を、RTC−1210A TENSILON(ORIENTEC社製)を用いて測定した。
【0119】
【表1】
【0120】
表1から明らかな通り、実施例では、未焼成複合膜を水に浸漬しており、未焼成複合膜の焼成により得られたポリイミド−微粒子複合膜におけるカールの発生が抑制されていた。これに対し、比較例では、未焼成複合膜を水に浸漬しておらず、未焼成複合膜の焼成により得られたポリイミド−微粒子複合膜におけるカールの発生が抑制されていなかった。
【0121】
実施例1〜2と実施例3との対比から明らかな通り、水に浸漬した未焼成複合膜を加熱乾燥することで、乾燥なし又は自然乾燥の場合よりも未焼成複合膜の焼成により得られたポリイミド−微粒子複合膜におけるカール及びシワ(ムラやうねり)の発生が抑制されやすくなることが確認された。なお、実施例1と実施例2との対比では、未焼成複合膜の焼成により得られたポリイミド−微粒子複合膜におけるシワ(ムラやうねり)はいずれも部分的に発生していたが、未焼成複合膜をプレスした実施例1の方が抑制されており、透気度や引張強度の値も良好であった。
実施例3と実施例4〜5との対比から明らかな通り、水を含む溶剤として、水に水溶性の有機溶剤を混合させた場合、多孔質ポリイミド膜の透気度が改善することが確認できた。