【文献】
大畑昌輝,微粒子化・ガス交換・ICPMSを用いた気中極微量ガス状元素化合物の直接分析,日本分析化学会年会講演要旨集,2016年 8月31日,Vol.65th,Page.14 B1008
【文献】
大畑昌輝,微粒子化・ガス交換・ICPMSを用いた気中ガス状水銀の直接分析,環境化学討論会要旨集(CD−ROM),2018年 5月11日,Vol.27th,Page.ROMBUNNO.2C-04
【文献】
桧山和成,最新の有害ガス除去技術(19)−水銀除去技術−,化学装置,2005年 9月 1日,Vol.47 No.9,Page.100-104
【文献】
DOGAN S,Preconcentration on silver wool of volatile organo-mercury compounds in natural waters and air and the determination of mercury by flameless atomic absorption spectrometry,Int J Environ Anal Chem,1978年,Vol.5 No.2,Page.157-162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ガス状水銀又はスチビンをリアルタイムで容易かつ確実に測定することができるガス状水銀又はスチビンの測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るガス状水銀又はスチビンの測定方法は、試料ガス中に含まれるガス状水銀又はスチビンをリアルタイム測定するためのガス状水銀又はスチビンの測定方法であって、上記試料ガスから粒子を除去する工程と、上記除去工程後における試料ガスへの反応ガスの供給により上記ガス状水銀又はスチビンの固体状化合物を生成する工程と、上記試料ガスへの凝集用ガスの供給により上記化合物を含有する凝集物を生成する工程と、上記凝集物生成工程後における試料ガスの気体成分を置換ガスに置換する工程と、上記置換工程後に上記凝集物を分析する工程とを備える。
【0010】
当該ガス状水銀又はスチビンの測定方法は、上記除去工程によって試料ガスから粒子を除去するので、ガス状の測定対象物のみを容易かつ確実に測定することができる。当該ガス状水銀又はスチビンの測定方法は、測定対象物の凝集物を生成し、試料ガスの気体成分を置換ガスに置換した後、この凝集物を分析することで測定対象物をリアルタイムに(つまり継時的に)測定することができる。当該ガス状水銀又はスチビンの測定方法は、測定対象物を吸着剤等に吸着させる必要がないので、測定までの手続及び時間を短くすることができると共に、別途捕集効率等を測定する必要もないので、容易かつ確実に測定対象物を測定することができる。
【0011】
上記凝集用ガスとして、上記反応ガスと反応することで凝集用粒子を生成可能なガスを用いるとよい。このように、上記凝集用ガスとして、上記反応ガスと反応することで凝集用粒子を生成可能なガスを用いることによって、反応ガスと凝集用ガスとが反応して生成される凝集用粒子により上記化合物を凝集物に凝集させることができる。そのため、凝集用ガスと反応して凝集用粒子を生成するための他のガス等を用いる必要がなく、比較的簡単な構成でガス状の測定対象物を凝集物とすることができる。
【0012】
上記反応ガスがオゾンであり、上記凝集用ガスがアンモニアであるとよい。このように、上記反応ガスがオゾンであり、上記凝集用ガスがアンモニアであることによって、ガス状の測定対象物をオゾンによって酸化して固体状化合物とすることができる。また、オゾンとアンモニアとが反応することによって、凝集用粒子を生成することができる。そして、上述のように測定対象物が酸化して形成された化合物と凝集用粒子とが凝集して凝集物が生成され、この凝集物を測定することで、測定対象物をより的確に測定することができる。
【0013】
当該ガス状水銀又はスチビンの測定方法は、上記分析工程の測定値を測定対象物を含まないブランクガスの測定値に基づいて補正する補正工程をさらに備えるとよい。このように、上記分析工程の測定値を測定対象物を含まないブランクガスの測定値に基づいて補正する補正工程をさらに備えることによって、測定対象物の測定精度をさらに高めることができる。
【0014】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るガス状水銀又はスチビンの測定装置は、試料ガス中に含まれるガス状水銀又はスチビンをリアルタイム測定するためのガス状水銀又はスチビンの測定装置であって、上記試料ガスから粒子を除去するフィルターと、上記フィルターの下流側に設けられ、上記試料ガスが流動する流路と、上記ガス状水銀又はスチビンを固体状化合物にする反応ガスを上記流路に供給するための反応ガス供給路と、上記化合物を含有する凝集物を生成可能な凝集用ガスを上記流路に供給するための凝集用ガス供給路と、上記流路の下流側に設けられ、上記凝集物を含む試料ガスの気体成分を置換ガスに置換するガス置換装置と、上記ガス置換装置の下流側に設けられ、上記凝集物を分析する分析装置とを備える。
【0015】
当該ガス状水銀又はスチビンの測定装置は、試料ガスを上記フィルターに通すことでこの試料ガスから粒子を除去することができるので、ガス状の測定対象物のみを容易かつ確実に測定することができる。当該ガス状水銀又はスチビンの測定装置は、測定対象物の凝集物を生成し、試料ガスの気体成分を置換ガスに置換した後、この凝集物を分析することで測定対象物をリアルタイムに(つまり継時的に)測定することができる。当該ガス状水銀又はスチビンの測定装置は、測定対象物を吸着剤等に吸着させる必要がないので、上述のように容易かつ確実に測定対象物を測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のガス状水銀又はスチビンの測定方法及び測定装置は、ガス状水銀又はスチビンをリアルタイムで容易かつ確実に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0019】
[第一実施形態]
<ガス状水銀又はスチビンの測定装置>
図1のガス状水銀又はスチビンの測定装置(以下、単に「測定装置」ともいう)は、試料ガス中に含まれるガス状水銀又はスチビン(以下、「測定対象物」ともいう)をリアルタイム測定する装置である。当該測定装置は、フィルター1、凝集物生成装置2、ガス置換装置3及び分析装置4を備え、これらがこの順で上流側から下流側に連続して配設されている。また、当該測定装置は、フィルター1の上流側にポンプ5が配設されている。当該測定装置は、外部との気密性を保持できるよう構成されている。当該測定装置で測定可能な測定事項としては、例えばガス状水銀又はアンチモンの濃度、同位体比等が挙げられる。具体的には、当該測定装置は、ガス状水銀及びアンチモンに関する成分に由来する信号(分析装置4に質量分析装置、例えば高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を採用した場合は、水銀およびアンチモンの全ての同位体の信号)を得ることができ、この信号情報に基づいてガス状水銀及びアンチモンの濃度及び同位体比を測定することができる。
【0020】
(試料ガス)
試料ガスとしては、特に限定されるものではないが、例えば空気が用いられる。つまり、当該測定装置は、空気中に含まれるガス状水銀又はスチビンをリアルタイム測定可能な装置として構成されている。
【0021】
(ポンプ)
ポンプ5は、試料ガスをフィルター1を通過させた上、凝集物生成装置2に導入させる機能を有する。ポンプ5の種類としては、特に限定されるものではないが、例えばダイアフラムポンプが挙げられる。なお、本実施形態ではポンプ5はフィルター1の上流側に設けられているが、ポンプ5はフィルター1と凝集物生成装置2との間に設けられていてもよい。
【0022】
(フィルター)
フィルター1は、試料ガスから粒子を除去する。フィルター1は着脱可能に設けられている。当該測定装置は、フィルター1によって試料ガス中に含まれる粒子を除去することで、異物が凝集物生成装置2側に通過することを防止して試料ガス中に含まれるガス状水銀又はスチビンの濃度等を的確に測定することができる。また、空気中にはガス状水銀と共に粒子状水銀が存在しているが、今日ではこれらを別個に測定したいとの要求が高まっており、中でも空気中に含まれる水銀の大部分を占めるガス状水銀のみを測定したいとの要求が高まっている。この点に関し、当該測定装置は、試料ガスとして空気を用い、この空気をフィルター1に通して粒子状水銀を除去することによって、空気中に含まれるガス状水銀のみを測定することができる。さらに、当該測定装置は、例えばフィルター1を取り外し、かつ凝集物生成装置2の機能を停止した状態で試料ガスを装置内に導入することで、粒子状水銀のみを測定することも可能である。つまり、当該測定装置は、フィルター1が着脱可能に設けられることによって、ガス状水銀及び粒子状水銀を選択的に測定することができる。フィルター1としては、例えば試料ガス中に含まれる粒子状水銀を除去できる公知のフィルターを用いることができる。
【0023】
(凝集物生成装置)
凝集物生成装置2は、凝集物を生成する装置であり、
図2に示すように、流路11と、反応ガス供給路12と、凝集用ガス供給路13と、反応器14とを主として有する。
【0024】
流路11は、フィルター1の下流側に設けられる導管によって形成されている。流路11の上流側の端部はフィルター1と接続され、下流側の端部は反応器14に接続されている。流路11は、試料ガスが流動可能に構成されている。流路11を形成する導管の形成材料としては、種々のものが採用可能であり、例えばガラス管、テフロン(登録商標)等が用いられる。
【0025】
反応ガス供給路12は、流路11に接続される導管によって形成されている。反応ガス供給路12は、ガス状水銀又はスチビンを固体状化合物にする反応ガスを流路11に供給可能に構成されている。反応ガス供給路12は、上述のように一端が流路11に接続される一方、他端が反応ガス供給装置15に接続されている。これにより、反応ガス供給路12は、反応ガス供給装置15から反応ガスを流路11に供給することができる。また、反応ガス供給路12には、反応ガスの流量を測定する流量計16aが配設されている。この流量計16aは、反応ガスの流量を調整可能に構成されてもよい。上記反応ガスとしては、例えばオゾンが用いられる。なお、反応ガス供給路12を形成する導管の形成材料としては、特に限定されないが、例えば流路11を形成する導管と同様の材料が用いられる。
【0026】
反応ガス供給装置15としては、反応ガスを貯留する例えばガスボンベ等の反応ガス貯留装置を採用可能である。また、反応ガス供給装置15としては、反応ガスを発生する反応ガス発生装置から構成することも可能であり、例えば酸素と低圧水銀ランプとを用いてオゾンを発生させるオゾン発生装置から構成することも可能である。反応ガス供給装置15は、反応ガスの供給量を調節可能に構成されていてもよい。
【0027】
凝集用ガス供給路13は、流路11に接続される導管によって形成されている。凝集用ガス供給路13は、上記化合物(固体状化合物)を含有する凝集物を生成可能な凝集用ガスを流路11に供給可能に構成されている。凝集用ガス供給路13は、一端が反応ガス供給路12よりも下流側で流路11に接続される一方、他端が凝集用ガス供給装置17に接続されている。これにより、凝集用ガス供給路13は、凝集用ガス供給装置17から凝集用ガスを流路11に供給することができる。また、凝集用ガス供給路13には、凝集用ガスの流量を測定する流量計16bが配設されている。この流量計16bは、凝集用ガスの流量を調整可能に構成されてもよい。上記凝集用ガスとしては、上記反応ガスと反応することで凝集用粒子を生成可能なガスを用いることができ、このようなガスとして、例えばアンモニアが用いられる。凝集用ガス供給路13を形成する導管の形成材料としては、特に限定されないが、例えば流路11を形成する導管と同様の材料が用いられる。
【0028】
凝集用ガス供給装置17としては、凝集用ガスを貯留する例えばガスボンベ等の凝集用ガス貯留装置を採用可能である。また、凝集用ガス供給装置17としては、凝集用ガスを発生する凝集用ガス発生装置から構成することも可能である。凝集用ガス供給装置17は、凝集用ガスの供給量を調節可能に構成されていてもよい。
【0029】
反応器14は、試料ガス中の測定対象物、反応ガス及び凝集用ガスを反応させる筒体である。反応器14は、反応ガス供給路12及び凝集用ガス供給路13の下流側に配設されている。具体的には、反応器14の上流側の端部は上述のように流路11に接続されており、反応器14の下流側の端部はガス置換装置3に接続されている。反応器14は、内部の温度を上昇可能な加熱手段、内部の湿度を上昇可能な加湿手段、紫外線照射手段等を有するものを採用可能である。また、反応器14の形成材料としては、特に限定されないが、流路11を形成する導管と同様の材料が用いられる。反応器14の内部の形状としては、特に限定されないが、例えば円柱状又は多角柱状とすることができる。反応器14の平均内径としては、特に限定されないが、例えば4mm以上100mm以下が好ましい。また、反応器14の内部の長さは、特に限定されないが、例えば30mm以上1000mm以下が好ましい。反応器14は、このような平均径及び長さに形成されることによって、測定対象物、反応ガス及び凝集用ガスを反応させて、一定以上の粒径の凝集粒子(凝集物)を容易かつ確実に生成することができる。
【0030】
反応器14では、測定対象物がガス状水銀である場合、ガス状水銀がオゾンによって酸化させることで化合物として酸化水銀(I)又は酸化水銀(II)のナノ粒子が生成される。一方、反応器14では、測定対象物がスチビンである場合、スチビンがオゾンによって酸化されることで化合物として酸化アンチモン(Sb
2O
3)のナノ粒子が生成される。また、反応器14では、オゾンとアンモニアとが反応することで、凝集用粒子として硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)が生成される。そして、反応器14では、この凝集用粒子とナノ粒子(化合物)とが凝集して凝集物が生成され、その後この凝集物(凝集粒子)を含む試料ガスが反応器14の下流側から排出される。
【0031】
(ガス置換装置)
ガス置換装置3は、流路11の下流側に設けられており、具体的には反応器14の下流側の端部と接続されている。ガス置換装置3は、反応器14から排出された上記凝集物を含む試料ガスの気体成分を置換ガスに置換する。ガス置換装置3は、多孔性隔壁によって区画される内側流路と外側流路とを有する(図示省略)。この多孔性隔壁は、平均孔径0.001μm以上0.8μm以下の多数の孔を有している。
【0032】
ガス置換装置3は、試料ガスを内側流路に導入するとともに、置換ガスを外側流路に導入可能に構成されている。具体的には、上記置換ガスは、上記内側流路における試料ガスの流動方向の逆方向に流動するよう、外側流路に導入される。その結果、ガス置換装置3の内側流路に導入された試料ガスの気体成分は、多孔性隔壁に形成された複数の孔から外側流路に排出される。一方、試料ガス中の凝集物は、上記気体成分と比較して拡散速度が非常に遅く、また多孔性隔壁によって外側流路への流出が妨げられる。よって、この凝集物と置換ガスとが分析装置4へ導出される。なお、上記置換ガスとしては、分析装置4による分析に適したものである限り特に限定されないが、例えばアルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N
2)、ヘリウムガス(He)等が挙げられ、特にアルゴンガスが好適に用いられる。なお、このガス置換装置3としては、特許第4315348号公報に所載のものを用いることが可能である。
【0033】
(分析装置)
分析装置4は、ガス置換装置3の下流側に設けられ、ガス置換装置3から排出された凝集物、詳細には凝集物に含まれる測定対象物に関する成分(ガス状水銀についてはHg成分、スチビンについてはSb成分)を分析する。この分析装置4としては、従来公知の分析装置を採用可能である。この分析装置4としては、例えば高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いることが可能であり、その他、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、マイクロ波誘導プラズマ質量分析装置(MIP−MS)、マイクロ波誘導プラズマ発光分光分析装置(MIP−AES)等を用いることも可能である。
【0034】
上記高周波誘導結合プラズマ質量分析装置にあっては、例えば高周波によって置換ガスのアルゴン原子同士の衝突が起こり、高エネルギーのアルゴンプラズマが生成される。そして、凝集粒子に含まれる測定対象物に関する成分は、アルゴンプラズマ内で分解され原子化され、イオン化される。その後、イオン化された測定対象物に関する成分(イオン化された測定対象物の全ての同位体)は、分析装置4内の質量分析器に送られ、その質量数に応じて分析され、その信号強度により上記成分の量が測定される。そして、この成分の量に基づいて、試料ガス中に含まれる測定対象物の濃度等が算出される。
【0035】
<ガス状水銀又はスチビンの測定方法>
次に、
図3,4を参照して、当該ガス状水銀又はスチビンの測定方法(以下、単に「測定方法」ともいう)について説明する。当該測定方法は、試料ガス中に含まれるガス状水銀又はスチビンをリアルタイム測定するための測定方法である。当該測定方法は、
図1の当該測定装置を用いて行うことができるため、以下では当該測定装置を用いて行う場合について説明する。
【0036】
当該測定方法は、試料ガスから粒子を除去する工程(除去工程)(ステップS01)と、上記除去工程後における試料ガスへの反応ガスの供給により上記ガス状水銀又はスチビンの固体状化合物を生成する工程(化合物生成工程)(ステップS02)と、上記試料ガスへの凝集用ガスの供給により上記化合物を含有する凝集物を生成する工程(凝集物生成工程)(ステップS03)と、上記凝集物生成工程後における試料ガスの気体成分を置換ガスに置換する工程(置換工程)(ステップS04)と、上記置換工程後に上記凝集物を分析する工程(分析工程)(ステップS05)とを備える。
【0037】
(除去工程)
ステップS01は、フィルター1を用いて行われる。ステップS01では、試料ガスをフィルター1に通すことで、試料ガス中に含まれる粒子を除去する。
【0038】
(化合物生成工程)
ステップS02は、凝集物生成装置2によって行われる。ステップS02では、試料ガスに反応ガスを加えることでガス状水銀又はスチビンを固体状のナノ粒子とする。上記反応ガスとしては、オゾンを用いることが好ましい。
【0039】
ステップS02では、まず試料ガスが流路11に導入されると、反応ガス供給路12から流路11に反応ガスを供給する。そして、ステップS02では、試料ガスがガス状水銀を含む場合、反応器14内でガス状水銀をオゾンによって酸化することで酸化水銀(I)又は酸化水銀(II)のナノ粒子を生成し、試料ガスがスチビンを含む場合、反応器14内でスチビンをオゾンによって酸化することで酸化アンチモン(Sb
2O
3)のナノ粒子を生成する。
【0040】
(凝集物生成工程)
ステップS03は、凝集物生成装置2によって行われる。ステップS03は、
図4に示すように、凝集用粒子生成工程(ステップS11)と、凝集工程(ステップS12)とを有する。
【0041】
(凝集用粒子生成工程)
ステップS11では、凝集用ガス供給路13から流路11に凝集用ガスを供給する。ステップS11では、凝集用ガスとして、反応ガスと反応することで凝集用粒子を生成可能なガスを用いる。ステップS11では、この凝集用ガスと反応ガスとを反応させて凝集用粒子を生成させる。上記凝集用ガスとしては、アンモニアが好ましい。当該測定方法は、上記凝集用ガスとして、上記反応ガスと反応することで凝集用粒子を生成可能なガスを用いることによって、反応ガスと凝集用ガスとが反応して生成される凝集用粒子により上記化合物を凝集物に凝集させることができる。そのため、凝集用ガスと反応して凝集用粒子を生成するための他のガス等を用いる必要がなく、比較的簡単な構成でガス状の測定対象物を凝集物とすることができる。
【0042】
(凝集工程)
ステップS12では、反応器14内で上記凝集用粒子と上記ナノ粒子とを凝集することで、一定以上の粒径を有する凝集物を生成させる。この凝集物の粒径は、供給する反応ガスや凝集用ガスの濃度や、反応器14内の流速等によって制御可能である。上記凝集物の平均粒径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.05μmがより好ましい。一方、上記凝集物の平均粒径の上限としては、10μmが好ましい。
【0043】
なお、ステップS02、ステップS11及びステップS12は、通常同時進行で行われる。つまり、反応器14内においてナノ粒子の生成、凝集粒子の生成及び凝集物の生成が同時進行で行われる。また、ステップS02及びステップS11は、常温で行うことも可能であるが、反応器14内の加熱、加湿、紫外線照射等により各反応速度を制御することも可能である。
【0044】
なお、当該製造方法にあっては、上述のように反応ガスとしてオゾンを用い、凝集用ガスとしてアンモニアを用いることが特に好ましい。当該測定方法は、上記反応ガスがオゾンであり、上記凝集用ガスがアンモニアであることによって、ガス状の測定対象物をオゾンによって酸化して固体状化合物とすることができる。また、オゾンとアンモニアとが反応することによって、凝集用粒子を生成することができる。そして、上述のように測定対象物が酸化して形成された化合物と凝集用粒子とが凝集して凝集物が生成されるので、この凝集物を後述の分析工程によって測定することで、測定対象物をより的確に測定することができる。
【0045】
(置換工程)
ステップS04は、ガス置換装置3によって行われる。ステップS04では、置換ガスとして例えばアルゴンガスを用い、試料ガスの気体成分をこの置換ガスに置換する。
【0046】
(分析工程)
ステップS05は、分析装置4によって行われる。ステップS05では、上記凝集物に含まれる測定対象物に関する成分(ガス状水銀についてはHg成分、スチビンについてはSb成分)を分析し、この成分の量に基づいて試料ガス中に含まれる測定対象物の濃度、同位体比等を算出する。
【0047】
<利点>
当該測定装置は、試料ガスをフィルター1に通すことでこの試料ガスから粒子を除去することができるので、ガス状の測定対象物のみを容易かつ確実に測定することができる。当該測定装置は、測定対象物の凝集物を生成し、試料ガスの気体成分を置換ガスに置換した後、この凝集物を分析することでリアルタイムに(つまり継時的に)測定対象物を測定することができる。当該測定装置は、測定対象物を吸着剤等に吸着させる必要がないので、上述のように容易かつ確実に測定対象物を測定することができる。
【0048】
当該測定方法は、上記除去工程によって試料ガスから粒子を除去するので、ガス状の測定対象物のみを容易かつ確実に測定することができる。当該測定方法は、測定対象物の凝集物を生成し、試料ガスの気体成分を置換ガスに置換した後、この凝集物を分析することでリアルタイムに(つまり継時的に)測定対象物を測定することができる。当該測定方法は、測定対象物を吸着剤等に吸着させる必要がないので、測定までの手続及び時間を短くすることができると共に、別途捕集効率等を測定する必要もないので、容易かつ確実に測定対象物を測定することができる。
【0049】
[第二実施形態]
<ガス状水銀又はスチビンの測定装置>
第二実施形態における当該測定装置は、
図1の当該測定装置の構成に加え、
図1の当該測定装置のフィルター1(以下「粒子除去用フィルター1」ともいう)と交換可能に配設されるガス状水銀及びスチビン吸着用フィルター(以下、単に「吸着用フィルター」ともいう)と、演算装置(図示省略)とを備える。上記吸着用フィルターとしては、例えば粒子除去用フィルター1に活性炭チューブを接続したものを用いることができる。つまり、上記吸着用フィルターは、ガス状水銀及びスチビンを吸着する機能に加え、粒子を除去する機能を有する。
【0050】
<ガス状水銀又はスチビンの測定方法>
第二実施形態における当該測定方法は、
図5に示すように、ブランクガス測定工程(ステップS21)と、ガス状水銀又はスチビン測定工程(ステップS22)と、補正工程(ステップS23)とを備える。ステップS23では、例えば後述するように、ガス状水銀又はスチビンに関する成分に由来する信号の補正、ガス状水銀又はスチビンの濃度の決定等を行う。当該測定方法は、例えば第二実施形態における当該測定装置を用いて行うことができる。
【0051】
(ブランクガス測定工程)
ステップS21は、例えば上記吸着用フィルターを配設した状態で行われる。ステップS21では、例えば上記吸着用フィルターに空気を通すことで、測定対象物を含まないブランクガスを凝集物生成装置2に導入する。そして、ステップS21では、このブランクガスに対して、ステップS02〜ステップS04と同様に反応ガス、凝集用ガス及び置換ガスを供給した後、S05と同様の測定を行う。なお、ステップS21は、予め測定対象物を含まないブランクガス(例えば高純度窒素ガス)を用いる場合であれば、必ずしも上記吸着用フィルターを配設した状態で行われる必要はない。
【0052】
(ガス状水銀又はスチビン測定工程)
ステップS22では、上述のステップS01〜ステップS05と同様の手順で試料ガス中に含まれるガス状水銀又はスチビンを測定する。なお、当該測定方法にあっては、ステップS21及びステップS22の順序は特に限定されるものではなく、ステップS22の後にステップS21を行うことも可能である。また、当該測定方法にあっては、後述のように、ステップS21の後にステップS23を行い、その後にステップS22を行うことも可能である。
【0053】
(補正工程)
ステップS23は、上記演算装置によって行われる。ステップS23では、ステップS22の測定値をステップS21の測定値に基づいて補正する。ステップS23では、例えばステップS21で得られた信号の平均値をステップS22で得られた信号の平均値から差し引くことで、ステップS22の測定値を補正し、ガス状水銀又はスチビンの濃度の決定を行うことができる。また、ステップS23では、ステップS21で得られた信号を基にガス状水銀又はスチビンの濃度の決定を行った後に、ステップS22で得られた信号を基にガス状水銀又はスチビンの濃度の決定を行い、S22で得られた濃度値からS21で得られた濃度値を差し引くことで、ガス状水銀又はスチビンの濃度を得るようにしてもよい。
【0054】
<利点>
当該測定装置は、粒子除去用フィルター1と上記吸着用フィルターとを交換可能に構成されているので、上記吸着用フィルターを用いることで測定対象物を含まないブランクガスを測定することができる。また、当該測定装置は、粒子除去用フィルター1を用いることで測定対象物を測定することができる。そのため、当該測定装置は、上記演算装置を用いて測定対象物の測定値をブランクガスの測定値に基づいて補正することで、測定対象物の測定精度をさらに高めることができる。
【0055】
当該測定方法は、上記分析工程の測定値を測定対象物を含まないブランクガスの測定値に基づいて補正する補正工程を備えるので、測定対象物の測定精度をさらに高めることができる。
【0056】
[その他の実施形態]
なお、本発明のガス状水銀又はスチビンの測定方法及び測定装置は、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0057】
例えば、上記実施形態においては、凝集用ガスが反応ガスと反応して凝集用粒子を生成するものについて説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0058】
凝集用ガス供給路及び反応ガス供給路の位置関係は特に限定されるものではなく、凝集用ガス供給路が反応ガス供給路よりも上流側で流路に接続されてもよく、凝集用ガス供給路及び反応ガス供給路が試料ガスの流れ方向における同位置において流路と接続されてもよい。
【0059】
上記凝集用ガスとして、複数のガスを採用し、この複数のガスが凝集用粒子を生成し、上記化合物と凝集するものを採用することも可能である。
【0060】
反応ガスとしては、測定対象物の化学的性質に基づいて選択することができ、例えば測定対象物と、酸化、還元、中和、加水分解等の化学反応を起こすものが使用可能である。
【0061】
上記凝集物生成装置は、必ずしも反応器を有していなくてもよく、流路において凝集物を生成することも可能である。
【0062】
また、当該測定装置は、ポンプを設けることは必ずしも必要ではない。当該測定装置は、例えばガス置換装置の下流側等にアスピレータを有する構成を採用することも可能である。なお、このアスピレータには、ガス置換装置に接続される置換ガス供給装置とは別に置換ガス供給装置が接続される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0064】
[実施例1]
上述の第一実施形態の測定装置を用い、大気中におけるスチビンを測定し、アンチモンの同位体毎の濃度を測定した。反応ガスとしてオゾンガス、凝集用ガスとしてアンモニアガスを用い、オゾンガスの導入量とアンモニアガスの導入量とはいずれも試料ガス200ml/分に対して25ml/分とした。ガス置換装置としては((株)ジェイ・サイエンス・ラボ製の気体試料導入装置GE−A21型)を使用した。置換ガスとしてアルゴンガスを用い、アルゴンガスの導入量は2500ml/分とした。分析装置としては高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のXシリーズ2型)を使用した。この実施例における測定結果を
図6,7に示す(質量数121のアンチモンの濃度を
図6に、質量数123のアンチモンの濃度を
図7に示す)。
【0065】
[実施例2]
実施例1と同様の測定装置を用い、水銀を含まないブランクガス(高純度窒素ガス)について200秒連続して測定した。続いて、このブランクガスの測定に連続して、大気中におけるガス状水銀濃度を400秒連続して測定した(つまり、前半200秒は水銀を含まないブランクガスについて測定し、200秒以降は試料ガス中に含まれるガス状水銀を測定した)。この実施例2における測定結果を
図8に示す。
【0066】
<評価結果>
実施例1では、スチビンに含まれるアンチモン(Sb)は凝集物生成装置によって凝集物となり、これにより次のガス置換装置で殆ど除去されることなく分析装置に導入されていると考えられる。これにより、実施例1では、アルゴンプラズマによってイオン化されたSbが質量分析計で計測されることでSbの同位体毎の信号が得られ、その信号強度からSbの同位体毎の濃度が得られている。
【0067】
また、実施例2では、ガス状水銀の濃度が実施例1と同様に得られていることが分かる。さらに、実施例2では、ブランクガスについても水銀濃度が一定程度測定されている。これは、オゾン発生装置(反応ガス供給装置)に由来するごく微量のガス状水銀による汚染、アンモニアガス中にごく微量に存在するガス状水銀等のためと考えられる。このことから、当該測定装置にあっては、得られたガス状水銀の濃度をブランクガスで測定された濃度に基づいて補正することでさらに正確な濃度が得られることが分かる。