(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682349
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】コークスの回収方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20200406BHJP
B03D 1/006 20060101ALI20200406BHJP
B03D 1/008 20060101ALI20200406BHJP
B03D 1/02 20060101ALI20200406BHJP
B03D 1/08 20060101ALI20200406BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20200406BHJP
B03D 101/02 20060101ALN20200406BHJP
B03D 101/04 20060101ALN20200406BHJP
B03D 103/04 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
B09B5/00 ZZAB
B03D1/006
B03D1/008
B03D1/02
B03D1/08 100
C22B34/12 101
B03D101:02
B03D101:04
B03D103:04
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-98303(P2016-98303)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-205690(P2017-205690A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 大祐
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昭
(72)【発明者】
【氏名】谷 誠一郎
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−050166(JP,A)
【文献】
特開平02−285038(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0148364(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第104841563(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0311170(US,A1)
【文献】
特開2005−095885(JP,A)
【文献】
実公昭35−026282(JP,Y1)
【文献】
特開2014−181153(JP,A)
【文献】
特開平03−115534(JP,A)
【文献】
特開2005−329310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
B09B 5/00
C01G 23/02
C22B 34/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークスを回収する方法であって、
塩化残渣に対して浮遊選鉱処理を行い、それによって、尾鉱、浮鉱、浮選後液を得る工
程と、
前記浮遊選鉱処理中での浮選液中の鉄濃度を取得し、該鉄濃度が予め定められた濃度以下となるように前記浮選液を交換する工程と、
前記浮鉱からコークスを回収する工程と、
を含み、
前記塩化残渣は、チタン鉱石とコークスと塩素ガスを反応させて気体又は液体状四塩化チタンを生成する際に生じる固体残渣であり、
前記固体残渣には、コークスと鉄とスカンジウムが含まれ、
前記浮遊選鉱処理では、
前記浮鉱中のコークスの品位を、前記固体残渣中のコークスの品位より高め、
前記浮選後液に分配される鉄の分配率を、前記尾鉱及び前記浮鉱に分配される鉄の分配率より高め、
前記尾鉱中のコークスと鉄以外の品位を、前記固体残渣中のコークスと鉄以外の品位より高める、
該方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記浮遊選鉱処理をpH2〜4で行う、該方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記浮遊選鉱処理をpH3.3〜3.8で行う、該方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記浮遊選鉱処理中での浮選液中の鉄濃度が10g/L以下となるように前記浮選液を交換する、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコークスの回収方法に関する。より具体的には、本発明は、チタン鉱石から四塩化チタンを回収した後の塩化残渣からコークスを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンはクロール法によりチタン鉱石から精製される。このクロール法では、チタン鉱石とコークスが流動床反応炉に投入され、塩素ガスが流動床反応炉の下部から吹入される。その結果、気体状の四塩化チタンが生成され、これを回収してマグネシウム等で還元し、最終的にはスポンジチタンが生成される。
【0003】
しかし、チタン鉱石の中には、チタン以外にも有用な物質が含まれている。特許文献1では、チタン鉱石から有用な金属を回収するための方法が開示されている。具体的には、チタン鉱石を塩素化し、得られた粗製塩素化炉の残渣をHCl浸出する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、塩化残渣の中から未反応のチタン鉱石やコークスを回収する方法を開示している。具体的には塩化残渣を水洗処理後、固形物と廃液に分離する旨、そして、固形物には未反応のチタン鉱石やコークスが含まれるのでこれを流動床反応炉に戻して再利用する旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−115534号明細書
【特許文献2】特開2014−181153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、チタンの精製において、従来廃棄物としていた物を廃棄することなく有用な物質を回収できれば有益である。また、物質を回収する際には、その回収率を向上させること、及び/又は他の不純物の混入を低減できれば更に有益である。
【0007】
上記に鑑みて、本発明では、有用な物質(例えばコークス等)を、他の物質の混入(例えばFe)を低減させたうえで回収するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点に鑑みて鋭意研究を行った結果、Feを除去する工程の前に、浮選工程を実施すると良好な結果が得られることを、本発明者は見出した。こうした知見に基づき本発明は一側面において以下のように特定される。
(発明1)
コークスを回収する方法であって、
塩化残渣に対して浮遊選鉱処理を行い、それによって、尾鉱、浮鉱、浮選後液を得る工程と、
前記浮鉱からコークスを回収する工程と
を含み、
前記塩化残渣は、チタン鉱石とコークスと塩素ガスを反応させて気体又は液体状四塩化チタンを生成する際に生じる固体残渣である、
該方法。
(発明2)
発明1に記載の方法であって、浮遊選鉱処理をpH2〜4で行う、該方法。
(発明3)
発明1に記載の方法であって、浮遊選鉱処理をpH3.3〜3.8で行う、該方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、一側面において、塩化残渣に対して浮遊選鉱処理を行う。これにより、塩化残渣の各成分が尾鉱、浮鉱、浮選後液へと分配される。その際にコークスは主に浮鉱へ分配され、Feは主に浮選後液へ分配される。従って、コークスをより高い含有量で回収できる。また、コークス回収の際にFeを高効率で除去できる。
【0010】
本発明は、一側面において、所定のpH範囲で浮遊選鉱処理を行う。これにより、コークスの回収率及び/又はFeの除去率を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における方法のフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態における浮選の結果を表す。
【
図3】本発明の一実施形態における浮選のpH依存性を示す。
【
図4】本発明の一実施形態における浮選のFe濃度依存性を示す(コークスの回収)。
【
図5】クロール法についてのフロー図である(従来技術)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.塩化残渣
1−1.チタンの精製
従来、チタンは、チタン鉱石からクロール法により精製されるのが一般的である。
図5に流れの一部を示す。チタン鉱石とコークスを流動床反応炉に投入する。そして、流動床反応炉の下部から塩素ガスを吹入させる。チタン鉱石は塩素ガスと反応し、四塩化チタンを生じる。四塩化チタンは反応炉内の温度では気体状態にある。この気体状態の四塩化チタンが、次の冷却システムに送られ、冷却される。冷却された四塩化チタンは液体状になり、回収される。
【0013】
1−2.塩化残渣
気化した四塩化チタンが次の冷却システムに送られる際に、気流に乗って微粉状の不純物が一緒に冷却システムに送られる。該不純物には、チタン以外の塩化物(鉄、バナジウム、シリコン等)、未反応のチタン鉱石、未反応のコークス等が含まれる。こうした不純物は、冷却システムにおいて、固体の形状で回収される。本明細書では、この回収された物を塩化残渣と呼ぶ。
【0014】
1−3.塩化残渣の品位
上述した工程で得られた塩化残渣は、様々な元素を有しており、例えば、以下のような元素を含む可能性がある。
C(コークス)を10%〜50%
Feを3%〜5%
無論、上記以外の元素、及び/又は上記以外の含有量であっても、本発明を適用することは可能である。
【0015】
2.浮遊選鉱(浮選)
上記塩化残渣に対して、浮遊選鉱(浮選)を行うことにより、所望の物質を回収し、そして、望ましくない物質を排除することができる。より具体的には、浮遊選鉱を行うことにより、塩化残渣中の物質を、尾鉱、浮鉱、浮選後液へと振り分けることができる。そして、それぞれの画分から所望の物質を回収することができる。望ましくない物質については他の画分に分配されるため、回収率を高めることができる。
【0016】
2−1.浮遊選鉱の条件
上記回収及び排除のための浮遊選鉱の条件として、以下の条件を採用することができる。
パルプ濃度 200〜600(dry−g/L)
浮選時間 5〜30分
浮選pH 2以上(好ましくは、4以下、更に好ましくは3.8以下)
捕収剤 100〜300g/t(好ましくは200〜300g/t)
起泡剤 50〜200g/t(好ましくは100〜150g/t)
【0017】
捕収剤は、目的とする鉱物の表面に選択的に吸着することにより,その表面の疎水性を高める働きをする。具体的な物質としては、特に限定されないが、ケロシン等が挙げられる。捕収剤の量は、100〜300g/t(好ましくは200〜300g/t)である。100g/t未満だと、浮鉱が得られにくいため望ましくなく、300g/t超だと効果が頭打ちになるのでそれ以上添加しても意味が無い。
【0018】
起泡剤は、溶媒に溶けて溶液の泡を安定化する物質である。具体的な物質としては、特に限定されないが、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、パイン油等が挙げられる。起泡剤の量は、50〜200g/t(好ましくは100〜150g/t)である。50g/t未満だと、浮鉱が得られにくいため望ましくなく、200g/t超だと効果が頭打ちになるのでそれ以上添加しても意味が無い。
【0019】
2−2.浮遊選鉱のpHについて(pHとコークス回収の相関)
浮遊選鉱のpHは2以上とするのが好ましい。この理由は、Feが浮選後液に溶解しやすくなるためである。また、pHは4以下とするのが更に好ましい。この理由は、pH4超だとFe水酸化物が沈殿しやすくなるためである(つまり、浮選後液への分配が起こりにくくなる)。また、pHは、3.3〜3.8にするのが更に好ましい。この理由として、コークスの回収率が向上するためである。別の側面において、pHは、2〜3.8にすることが更に好ましい。これは、Feの除去率が高まるためである。
【0020】
2−3.浮遊選鉱液中のFe濃度について(Fe濃度とコークスの回収)
また、浮選後液には、上記塩化残渣中のFeが溶解してくる。従って、浮選工程中Fe濃度が上昇する。浮選工程中の浮選液におけるFe濃度は、10g/L以下に制御することが好ましい。これにより、Feの除去が著しく向上する。例えば、Feの除去率90%以上を達成できる。また、別の側面からは、浮選工程中の浮選液におけるFe濃度は、22g/L以下(更に好ましくは、10g/L以下である)に制御することが好ましい。この範囲であれば、コークスの回収率60%以上を達成することができる。より一層好ましくは、5g/L以下である。これにより、コークスの回収率90%以上を達成できる。Fe濃度を一定の濃度以下に制御するためには、浮選液中のFe濃度をモニターし、定期的に浮選液を交換することが望ましい。
【0021】
3.浮遊選鉱処理後
3−1.尾鉱
浮選工程を経ると、泡にトラップされなかった固形物は、底に沈殿する。この沈殿を尾鉱と呼ぶ。上記浮選工程を経て得られた尾鉱は、塩化残渣と比べて、Feやコークスが大幅に除去されている。従って、後に行われるFe除去工程の負荷を軽減させることができる。それにより、有用な物質を高効率で回収できる
【0022】
3−2.浮遊精鉱(浮鉱)
浮選工程を経ると、泡にトラップされた固形物が得られる。このトラップされた固形物を浮遊精鉱(浮鉱)と呼ぶ。上記浮選工程を経て得られた浮鉱は、塩化残渣由来のコークスが主に分配されている。そして、コークス以外の成分が大幅に除去されている。従って、再利用するためのコークスの品質が大幅に向上する。結果として、品位90%以上を達成することができる。得られた浮鉱は、チタン精製に再利用したり、又は製品として販売したりすることができる。あるいは、更なる精製工程にかけて、コークスの品位を高めてもよい。
【0023】
3−3.浮選後液
浮選工程を経ると、浮選後液には、上記塩化残渣由来の特定の成分が溶解する。例えば、塩化残渣中のFeは、浮選後液に溶解することができる。塩化残渣から浮選後液に分配されたFeの割合(分配率)について、90%以上を達成できる。換言すれば、尾鉱や浮鉱にはFeは殆ど分配されない。Feは、塩化残渣から有用な物質(例えばコークス等)を回収する際に、除去対象となる物質である。従って、その後のFeを除去する工程の負荷を軽減することができる。
【実施例】
【0024】
上述した実施形態について、さらに具体的な実施例を説明する。
【0025】
塩化残渣、尾鉱、浮鉱等における品位は、アルカリ融解−ICP発光分光分析法により測定した。また、溶液中の各元素の構成量については、ICP発光分光分析法により測定した。
【0026】
4.実施例1(コークスの回収、Fe除去)
4−1.塩化残渣
塩化残渣は、チタン製錬において揮発した四塩化チタンを回収するための炉において、固形物として、大気で徐冷後に回収されたダストである。該塩化残渣は、東邦チタニウム(株)から入手した。そして、次の浮選工程にかける前に、塩化残渣の品位を測定した(
図2)。
【0027】
4−2.浮選条件
品位を測定した塩化残渣に対して、以下の条件で浮選を行った。
パルプ濃度 261dry−g/L (23%)
浮選時間 15分
浮選pH 3〜4
浮選液温度 常温
捕収剤 100g/t(ケロシン)
起泡剤 200g/t(パイン油)
空気吹込量 1.3〜1.7L/min・L
【0028】
浮選後得られた、尾鉱、浮鉱、及び浮選後液について、構成成分を測定した。その結果を
図2に示す。浮選工程前の塩化残渣においては、Fe、C及びその他のレアアースが含まれていた。そして、浮選工程後、Feの大半は浮選後液に分配された(分配率96%)。そして、C(コークス)の大半は浮鉱へ分配された(分配率70%)。ここで、C(コークス)を浮鉱から回収することにより、Fe等の余分な成分を除去できる。
【0029】
5.実施例2(コークスの回収、Fe除去とpH依存性)
実施例1と同様の条件で浮選工程を実施した。ただし、pHを2、3.5、及び4に変えて行った。結果を
図3に示す。
図3では、浮選液のpH(横軸)と、コークス回収率及びFe除去率(縦軸)の関係を示す。なお、コークス回収率は、塩化残渣中のコークスの含有量で、浮鉱中のコークス含有量を割った値である。一方で、Fe除去率は、浮選後液中のFe含有量を塩化残渣中のFe含有量で割った値である。
【0030】
図3を参照すると、pH4でFeの除去率は96.4%であった。また、pH3.5にするとFeの除去率は98.3%であり、更に高い値となった。また、pH3.5の場合と同様に、pH2でも高い値となった。また、pH4でコークスの回収率は約50%程度であった。しかし、pH3.5では70%超となっており、更に高い値となっていいた。このようにFeの除去及びコークスの回収においてはpH依存性があることが示された。特に、pH約3.3〜約3.8の範囲では、Feの除去及びコークスの回収において特に良好な値を達成できることが分かった。
【0031】
6.実施例3(コークスの回収、Fe除去と、Fe濃度依存性)
実施例1と同様の条件で浮選工程を実施した。ただし、浮選液中のFe濃度をモニターし、一定濃度になった場合には浮選液を交換した。具体的には、Fe濃度が5g/Lになった時点で交換する場合と、10g/Lになった時点で交換する場合と、22g/Lになった時点で交換する場合との3つのパターンで実施した。
【0032】
結果を
図4に示す。浮選液のFe濃度が低くなるにつれて、Feの除去率が高まることが示された。特に、Feを10g/L以下にすると上昇する傾向が示された。また、コークスの回収率についても、Feが22g/L以下の範囲であれば、コークスの回収率60%を達成できることが示された。特に、Fe濃度10g/L以下でFeの除去率が90%超となった。また、Fe濃度5g/L以下でコークスの回収率が90%を超えた。