(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1次粒子の平均粒子径が40〜350nmであり、結晶子径が20〜70nmであり、かつ結晶子径に対する平均粒子径の比が1〜5である銀微粒子と、脂肪族第一級アミンと、リン酸基を有する化合物とを含む、熱伝導性ペースト。
脂肪族第一級アミンが、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族第一級アミンである、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱伝導性ペースト。
脂肪族第一級アミンが、3−メトキシプロピルアミン及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪族第一級アミンである、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱伝導性ペースト。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、1次粒子の平均粒子径が40〜350nmであり、結晶子径が20〜70nmであり、かつ結晶子径に対する平均粒子径の比が1〜5である銀微粒子と、脂肪族第一級アミンと、リン酸基を有する化合物とを含む、熱伝導性ペーストである。本明細書において、1次粒子の平均粒子径が40〜350nmであり、結晶子径が20〜70nmであり、かつ結晶子径に対する平均粒子径の比が1〜5である銀微粒子は、特定の粒子特性を有する銀微粒子という。
【0014】
本明細書において、銀微粒子の平均粒子径は、日本電子社製FE−SEM(JSM7500F)により計測し、任意に選んだ粒子300個の直径の算術平均値を求め、その値をもって平均粒子径とした。また、本明細書において、結晶子径は、CuのKα線を線源とした粉末X線回折法による測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅を求め、Scherrerの式より計算した結果をいう。
【0015】
本発明に用いる銀微粒子は、1次粒子の平均粒子径が40〜350nmであり、好ましくは50〜200nmであり、より好ましくは60〜180nmである。なお、本発明に用いる銀微粒子は通常、略球状である。銀微粒子は、1次粒子の平均粒子径が40〜350nmであると、銀微粒子の凝集が抑制され、ペースト化した場合に保存安定性が得られやすく、また優れた熱伝導性を確保し得る、緻密性かつ表面平滑性に優れる銀微粒子の焼成膜が得られるため、熱伝導性ペーストの原料としても好適である。
【0016】
本発明に用いる銀微粒子は、結晶子径が20〜70nmであり、好ましくは20〜50nmである。銀微粒子は、結晶子径が20〜70nmであると、焼成時の体積収縮が抑制されるとともに、焼成後に形成される銀膜の緻密性や表面平滑性が確保され、優れた熱伝導性が得られるため、電子部品の接合部材等に用いられる熱伝導性ペーストの原料としても好適である。
【0017】
本発明に用いる銀微粒子は、1次粒子の結晶子径に対する1次粒子の平均粒子径の比(平均粒子径/結晶子径)が1〜5であり、好ましくは1.5〜4.5であり、より好ましくは2〜4の範囲である。銀微粒子は、1次粒子の結晶子径に対する1次粒子の平均粒子径の比(平均粒子径/結晶子径)が1〜5であると、300℃以下、好ましくは200℃以下の焼成温度、より好ましくは180℃未満、特に好ましくは120〜180℃の焼成温度で、得られる熱伝導膜(銀膜)の緻密性及び平滑性を確保しつつ、十分な熱伝導性を示す熱伝導性ペーストの原料用に好適である。
【0018】
本発明に用いる銀微粒子は、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて銀微粒子を析出させることにより製造することができる。反応させる温度は、20〜80℃であることが好ましい。
【0019】
はじめに、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合して、カルボン酸の銀塩を溶解させた溶液を得る。溶液中では、カルボン酸の銀塩に脂肪族第一級アミンが配位し、一種のアミン錯体を形成していると考えられる。
【0020】
カルボン酸の銀塩は、酢酸銀及びプロピオン酸銀からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボン酸の銀塩であることが好ましく、より好ましくは、酢酸銀である。これらは、単独で用いてもよく、又は2種を併用することもできる。
【0021】
カルボン酸の銀塩と混合する脂肪族第一級アミンは、鎖状脂肪族第一級アミンであっても、環状脂肪族第一級アミンであってもよい。カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物に含まれる脂肪族第一級アミンは、熱伝導性ペースト中に含まれる脂肪族第一級アミンと同一の種類の脂肪族第一級アミンであっても、異なる種類の脂肪族第一級アミンであってもよい。また、脂肪族第一級アミンは、モノアミン化合物であっても、ジアミン化合物等のポリアミン化合物であってもよい。脂肪族第一級アミンには、脂肪族炭化水素基が、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、で置換されたものも含む。脂肪族第一級アミンは、より好ましくは、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−アミノプロパノール及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。脂肪族第一級アミンは、さらに好ましくは2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。脂肪族第一級アミンは、さらに好ましくは3−メトキシプロピルアミン及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。脂肪族第一級アミンは、特に好ましくは3−メトキシプロピルアミンである。これらは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。
【0022】
カルボン酸の銀塩と混合する脂肪族第一級アミンの使用量は、生成する銀微粒子の後処理等プロセス上の要請や装置から決められるが、制御された粒子径の銀微粒子を得る点からは、カルボン酸の銀塩中のカルボン酸1当量に対して、脂肪族第一級アミン中のアミノ基が1当量以上であることが好ましい。また、過剰な脂肪族第一級アミンが存在したとしても安定した銀微粒子の製造は可能であるが環境へのアミンの放出量が増加してしまうため、脂肪族第一級アミン中のアミノ基が3.0当量以下であることが好ましく、より好ましくは2.0当量以下、特に好ましくは1.6当量以下である。特に、後続の工程で、還元剤によって銀微粒子を析出させた液をそのまま、熱伝導性ペーストとして使用する場合、過剰な脂肪族第一級アミンは加熱により気化する可能性があるため、カルボン酸の銀塩中のカルボン酸1当量に対して、脂肪族第一級アミン中のアミノ基が1当量以上である、好ましい使用量の範囲を採用することがとりわけ望ましい。
【0023】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、有機溶媒の非存在下又は存在下で行うことができる。有機溶媒の使用により、混合を容易にすることができる。有機溶媒としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。有機溶媒の使用量は、混合の利便性、後続の工程での銀微粒子の生産性の点から、任意の量とすることができる。
【0024】
カルボン酸塩の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、例えば、脂肪族第一級アミン、又は脂肪族第一級アミンと有機溶媒の混合物を撹拌しながら、カルボン酸の銀塩を添加して行う。添加終了後も、適宜、撹拌を続けることができる。その間、温度を、20〜80℃に維持することが好ましく、より好ましくは、20〜60℃である。
【0025】
その後、還元剤を添加して、銀微粒子を析出させる。還元剤としては、反応の制御の点から、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸及びヒドラジンからなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤であることが好ましく、より好ましくは、ギ酸である。これらは単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。
【0026】
還元剤の使用量は、通常、カルボン酸の銀塩に対して酸化還元当量以上であり、酸化還元当量が、0.5〜5倍であることが好ましく、より好ましくは1〜3倍である。カルボン酸の銀塩がモノカルボン酸の銀塩であり、還元剤としてギ酸を使用する場合、ギ酸のモル換算での使用量は、カルボン酸の銀塩1モルに対して、0.25〜2.5モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらに好ましくは0.5〜1.0モルである。
【0027】
還元剤の添加及びその後の反応においては、温度を20〜80℃に維持することが好ましい。反応温度は、より好ましくは、20〜70℃であり、さらに好ましくは20〜60℃である。反応温度が20〜80℃であると、銀微粒子の粒成長が十分であり、生産性も高く、また二次凝集も抑制される。還元剤の添加及びその後の反応に要する時間は、反応装置の規模に依存するが、通常、10分〜10時間である。なお、還元剤の添加及びその後の反応に際して、必要に応じて、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機溶媒を追加で添加することができる。
【0028】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物は、反応生成物を層分離させて、銀微粒子を含有する層を回収することができる。
【0029】
反応により析出した銀微粒子は、1次粒子の平均粒子径が40〜350nmであり、結晶子径が20〜70nmであり、1次粒子の結晶子径に対する1次粒子の平均粒子径の比(平均粒子径/結晶子径)が1〜5である。
【0030】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層は、そのまま熱伝導性ペーストに使用することができる。銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層は、未反応の脂肪族第一級アミン、カルボン酸の銀塩と還元剤とが反応して生じたカルボン酸、このカルボン酸と脂肪族第一級アミンが反応して生じた塩等が残存している。
【0031】
熱伝導性ペーストは、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物中の銀微粒子を沈降させてデカンテーション等により上澄みを除去してから銀微粒子を取り出し、この銀微粒子を使用することもできる。その際、メタノールやエタノールなどのアルコール類を添加して銀微粒子の沈降を早めることもでき、必要に応じてエバポレーターによって残存するメタノールを留去して銀含有率を高めることもできる。ペースト粘度を調整するため、エバポレーターで留去する直前に、銀微粒子を含む層にジヒドロターピネオールやベンジルアルコール等の溶剤を加えておくこともできる。反応により析出した銀微粒子を含む層中の銀含有率は、好ましくは30〜95質量%であり、より好ましくは50〜92質量%である。
【0032】
反応により析出した銀微粒子を含む層に加えておく溶剤は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジヒドロターピネオール等のアルコール系溶剤;
テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール等のテルペンアルコール;
エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;
並びにエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;水等が挙げられる。
銀微粒子を含む層に加えておく溶剤は、単独で用いてもよく、又は2種類以上を併用することもできる。
銀微粒子を含む層に加えておく溶剤は、例えば、水酸基を有し沸点が180〜250℃のアルコール系溶剤であることが好ましく、中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、エチレングリコールモノフェニルエーテル等が好ましい。
銀微粒子を含む層に加えておく溶剤の含有量は、特に限定されないが、銀微粒子を含む層中に含まれる銀微粒子100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。
【0033】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物中又は反応により析出した銀微粒子を含む層中の銀微粒子の周囲には、脂肪族第一級アミンが配位し、一種のアミン錯体を形成していると考えられる。銀微粒子の周囲に存在するアミン類が、サブミクロン以下の粒径を有する銀微粒子同士の凝集を防いでいるが、一方で、銀微粒子に配位していると考えられるアミン類は、熱を加えた場合に、銀微粒子同士の融着を妨げ、熱伝導性の低下に繋がると考えられる。
【0034】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層をそのまま熱伝導性ペーストに使用する場合は、銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層中に含まれる銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部含むことが好ましい。銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層中の脂肪族第一級アミンは、銀微粒子100質量部に対して、より好ましくは1.5〜35質量部、さらに好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは2〜20質量部含む。銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層中の脂肪族第一級アミンの含有量が上記範囲であると、銀微粒子の周囲に脂肪族第一級アミンが配位し、銀微粒子同士の凝集を防ぐことができる。銀微粒子を含む反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層中の脂肪族第一級アミンは、例えば後述する実施例に示すように島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS-QP2010Plus)を用いて測定することができる。
【0035】
本発明の熱伝導性ペーストは、特定の粒子特性を有する銀微粒子と、脂肪族第一級アミンと、リン酸基を有する化合物とを含む。銀微粒子は、上記の方法によって得られた反応混合物又は反応により析出した銀微粒子を含む層から取り出した銀微粒子を使用してもよい。
【0036】
熱伝導性ペーストに含まれる脂肪族第一級アミンは、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物中に含まれる脂肪族第一級アミンと、同一の種類の脂肪族第一級アミンであっても、異なる種類の脂肪族第一級アミンであってもよい。また、脂肪族第一級アミンは、モノアミン化合物であっても、ジアミン化合物等のポリアミン化合物であってもよい。脂肪族第一級アミンには、脂肪族炭化水素基が、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、で置換されたものも含む。脂肪族第一級アミンは、より好ましくは、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−アミノプロパノール及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。脂肪族第一級アミンは、さらに好ましくは2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。脂肪族第一級アミンは、さらに好ましくは3−メトキシプロピルアミン及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。脂肪族第一級アミンは、特に好ましくは3−メトキシプロピルアミンである。これらは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。
【0037】
熱伝導性ペーストは、銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部含むことが好ましい。熱伝導性ペーストは、銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを、より好ましくは1.5〜35質量部、さらに好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは2〜20質量部含む。熱伝導性ペースト中の銀微粒子100質量部に対する脂肪族第一級アミンの含有量が1〜40質量部であると、銀微粒子の周囲に脂肪族第一級アミンが配位し、銀微粒子同士の凝集を防ぐことができる。一方で、熱伝導性ペースト中の銀微粒子に配位していると考えられるアミン類は、熱伝導性ペーストを熱処理した際に、銀微粒子同士の融着を妨げ、熱伝導性の低下に繋がると考えられる。熱伝導性ペースト中の脂肪族第一級アミンは、例えば後述する実施例に示すように島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS-QP2010Plus)を用いて測定することができる。
【0038】
本発明の熱伝導性ペーストは、特定の粒子特性を有する銀微粒子と脂肪族第一級アミンと共に、リン酸基を有する化合物を含む。
本発明の熱伝導性ペーストは、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物に、リン酸基を有する化合物を混合して得られる。
熱伝導性ペースト中に含まれるアミン類は、銀微粒子同士の凝集を防ぐ一方で、熱処理時には、銀微粒子同士の融着の妨げとなっている。
本発明の熱伝導性ペーストは、銀微粒子と脂肪族第一級アミンと共に、リン酸基を有する化合物を含むことによって、焼成時に銀微粒子に配位しているアミン類とリン酸基を有する化合物のリン酸基とが反応し、アミン類を銀微粒子の周囲から除くことができる。本発明の熱伝導性ペーストは、特定の銀微粒子、脂肪族第一級アミン、及びリン酸基を有する化合物を含むことによって、低温の焼成によって銀微粒子同士の融着を促進し、銀膜の緻密性及び平滑性を確保し、熱伝導性をより改善することができる。焼成温度は、300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは120〜150℃の低温側の焼成温度であることが好ましい。
【0039】
リン酸基を有する化合物は、リン酸基を有するものであれば特に限定されない。
リン酸基を有する化合物は、リン酸(次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸を含む)、ピロリン酸、ポリリン酸及びこれらのリン酸塩、並びにリン酸系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
リン酸(次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸を含む)、ピロリン酸及びこれらのリン酸塩としては、リン酸、ホスホン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム等を用いることができる。
ポリリン酸としては、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸等の環状の縮合リン酸、及びこのような鎖状、環状の縮合リン酸が結合したものを用いることができる。そして、これらの縮合リン酸の塩として、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を用いることができる。
【0041】
リン酸系界面活性剤としては、リン酸基を有する界面活性剤であれば特に限定されない。リン酸基を有する界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ジポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸アンモニウム、ジポリオキシエチレンオキシプロピレンラウリルエーテルリン酸アンモニウム、ジポリオキシプロピレンラウリルエーテルリン酸アンモニウム、ジポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、ジポリオキシエチレンオキシプロピレンラウリルエーテルリン酸、ジポリオキシプロピレンオレイルエーテルリン酸、ラウリルリン酸アンモニウム、オクチルエーテルリン酸アンモニウム、セチルエーテルリン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンオキシプロピレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルリン酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンオキシプロピレントリスチリルフェニルエーテルリン酸トリエタノールアミン、ポリオキシプロピレントリスチリルフェニルエーテルリン酸トリエタノールアミン等を用いることができる。
【0042】
リン酸基を有する界面活性剤としては、フォスファノール(登録商標)PE−510、PE−610、LB−400、EC−6103、RE−410、RS−410、RS−610、RS−710等(いずれも東邦化学工業社製)、Disperbyk(登録商標)−102、Disperbyk−106、Disperbyk−110、Disperbyk−111、Disperbyk−180等(いずれもビックケミー・ジャパン社製)等の市販されているものを用いることができる。
リン酸基を有する界面活性剤は、酸価が50〜140mgKOH/gの範囲であり、かつ、アミン価がほぼ0〜100mgKOH/gの範囲である界面活性剤であることが好ましい。
【0043】
リン酸基を有する化合物としては、式(I):
(式中、mは1〜10である。)で表される化合物を用いることができる。リン酸基を有する化合物として式(I)で表される化合物を用いる場合、式(I)で表される化合物とともにアミンが含まれている混合物の形態でもよい。その際、アミンの含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲である。
【0044】
本発明の熱伝導性ペーストに用いるリン酸基を有する化合物としては、リン酸、ホスホン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、リン酸基を有する界面活性剤及び式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。リン酸基を有する界面活性剤は、酸価が90〜140mgKOH/gの範囲にあるものであることが好ましい。
【0045】
本発明の熱伝導性ペーストは、特定の粒子特性を有する銀微粒子を100質量部と、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部と、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部含むことが好ましい。本発明の熱伝導性ペーストは、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物に、リン酸基を有する化合物を混合して得られるものであって、反応混合物が、銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部含み、この反応混合物に、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部混合して得られるものであることが好ましい。熱伝導性ペーストに含まれるリン酸基を有する化合物は、銀微粒子を100質量部と、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部に対して、より好ましくは0.001〜1.5質量部、さらに好ましくは0.001〜1.0質量部である。本発明の熱伝導性ペーストは、銀微粒子100質量部及び脂肪族第一級アミン1〜40質量部に対して、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部含むことによって、焼成時に銀微粒子同士の融着の妨げとなっていた銀微粒子に配位しているアミン類を銀微粒子の周囲から除き、低温域の焼成によって銀微粒子同士の融着を促進し、銀膜の緻密性及び平滑性を確保し、熱伝導性をより改善することができる。熱伝導性ペースト中のリン酸基を有する化合物の含有量が、0.001質量部未満であると、リン酸基を有する化合物の含有量が少なすぎて、銀微粒子に配位しているアミン類を銀微粒子の周囲から十分に除くことができず、熱伝導性又は比抵抗が低下する場合がある。一方、熱伝導性ペースト中のリン酸基を有する化合物の含有量が、2質量部を超えると、表面に配位しているアミン類を除いた銀微粒子の表面にリン酸基を有する化合物が付着し、却って銀微粒子同士の融着を妨げる場合がある。
【0046】
本発明の熱伝導性ペーストは、特定の粒子特性を有する銀微粒子と、脂肪族第一級アミンと、リン酸基を有する化合物とを含み、さらにバインダ樹脂を含むことができる。本発明の熱伝導性ペーストは、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合し、次いで還元剤を添加し、反応させて得られる銀微粒子を含む反応混合物に、リン酸基を有する化合物を混合して得られ、さらにバインダ樹脂を含むことができる。熱伝導性ペースト中のバインダ樹脂の含有量は、銀微粒子100質量部に対して、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは2〜12質量部、さらに好ましくは3〜10質量部である。熱伝導性ペースト中にバインダ樹脂を含有することにより、基材への印刷性や密着性を向上させることができる。
【0047】
本発明において用いるバインダ樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
熱硬化性樹脂としては、加熱により硬化するものであれば特に制限するものではなく、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等が用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、加熱により軟化するものであれば特に制限するものではなく、当該分野において公知のものを使用することができる。例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等を用いることができる。これらのバインダ樹脂は、単独で用いてもよく、又は2種類以上を併用することもできる。
【0048】
熱伝導性ペーストに熱硬化性樹脂を含む場合には、硬化剤をさらに含んでいてもよい。硬化剤は、熱硬化性樹脂を硬化させるものであれば、特に限定されず、例えば、カチオン重合開始剤、アミン系硬化剤、酸無水物硬化剤、フェノール系硬化剤などを使用することができるが、銀粒子同士の融着が進行し、良好な導電性が得られる点から、カチオン重合開始剤が特に好ましい。これらは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。
【0049】
熱伝導性ペースト中の硬化剤の含有量は、硬化剤の種類やバインダ樹脂との組合せによって大きく変わるため、特には制限されないが、例えば熱伝導性ペースト中のバインダ樹脂がエステル結合を含有するエポキシ樹脂で、硬化剤がカチオン重合開始剤の場合、バインダ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは2.5〜8質量部とすることができる。
【0050】
本発明の熱伝導性ペーストは、その他に、チタンカップリング剤(例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタナート等のチタン酸エステル)、シランカップリング剤、難燃剤、レベリング剤、チキソトロピック剤、消泡剤、イオン捕捉剤等を含有することができる。
【0051】
本発明の熱伝導性ペーストの製造方法は、(1)カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンを混合する工程、(2)還元剤を添加して、反応温度20〜80℃で反応させる工程、(3)反応生成物を層分離させて、銀微粒子を含有する層を回収する工程、(4)回収した銀微粒子を含む層に、リン酸基を有する化合物を混合する工程を含む。
【0052】
本発明の熱伝導性ペーストの製造方法は、(1)〜(4)工程において、有機溶媒を存在させてもよい。なお、ここで有機溶媒は、還元剤の添加及びその後の反応に際して、必要に応じて、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機溶媒をいう。
【0053】
(1)〜(4)工程を有する方法によって、銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部含む熱伝導性ペーストを得ることが好ましい。(3)工程において、反応生成物を層分離させた銀微粒子を含有する層は、未反応の脂肪族第一級アミン、カルボン酸の銀塩と還元剤とが反応して生じたカルボン酸、このカルボン酸と脂肪族第一級アミンが反応して生じた塩等が残存している。この回収した銀微粒子を含む層には、銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは1.5〜35質量部、さらに好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは2〜20質量部含む。銀微粒子を含む層中の脂肪族第一級アミンは、例えば後述する実施例に示すように島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS-QP2010Plus)を用いて測定することができる。
熱伝導性ペースト中の銀微粒子100質量部に対する脂肪族第一級アミンの含有量が1〜40質量部であると、銀微粒子の周囲に脂肪族第一級アミンが配位し、銀微粒子同士の凝集を防ぐことができる。
【0054】
(4)工程において、回収した銀微粒子を含む層には、この層に含まれる銀微粒子100質量部に対して、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部混合し、銀微粒子100質量部に対して、脂肪族第一級アミンを1〜40質量部、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部含む熱伝導性ペーストを得ることが好ましい。リン酸基を有する化合物は、銀微粒子100質量部に対して、より好ましくは0.001〜1.5質量部、さらに好ましくは0.001〜1.0質量部である。(1)〜(4)工程によって得られる熱伝導性ペーストは、リン酸基を有する化合物を0.001〜2質量部含むことによって、焼成時に銀微粒子同士の融着の妨げとなっていた銀微粒子に配位しているアミン類を銀微粒子の周囲から除き、低温域の焼成によって銀微粒子同士の融着を促進し、銀膜の緻密性及び平滑性を確保し、熱伝導性をより改善することができる。
【0055】
本発明の熱伝導性ペーストの製造方法は、得られる熱伝導性ペーストがバインダ樹脂や、硬化剤等のその他の添加剤を含む場合には、リン酸基を有する化合物を混合する工程と同時、又は、その前若しくは後にバインダ樹脂、硬化触媒等を混合する工程を含むことができる。
【0056】
本発明の熱伝導性ペースト及びその製造方法により得られた熱伝導性ペーストを用いて、基材等に、スクリーン印刷等の従来公知の方法で印刷又は塗布した後、焼成することにより熱伝導性膜(銀膜)を形成することができる。焼成温度は、好ましくは、60〜300℃であり、より好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは120〜200℃、特に好ましくは120〜180℃である。また、配合された銀微粒子が、1次粒子の平均粒子径が40〜350nm、結晶子径が20〜70nm、かつ結晶子径に対する平均粒子径の比が1〜5であり、このように平均粒子径が小さい銀微粒子が配合された場合であっても、熱伝導性ペースト中の銀微粒子の凝集を抑制しつつ、焼成時には、銀微粒子同士の融着を促進して、焼結性が向上し、十分な高導電性を有しつつ、優れた熱伝導性を有する接合部材の形成への要求にも応え得るものである。
【0057】
本発明の熱伝導性ペーストは、半導体装置のダイアタッチ材としての応用に特に好適である。ダイアタッチ材としては、鉛はんだが汎用されているが、鉛の有害性のため、各国での鉛の使用制限がより厳しくなっている。本発明の熱伝導性ペーストを用いて得られるダイアタッチ材は、鉛はんだの熱伝導率(一般に、35〜65W/mK)と同等又はそれ以上の熱伝導率を示し、かつ導電性も良好なため、鉛はんだの代替となる高導電性及び高熱伝導性ダイアタッチ材になり得るものである。
【0058】
本発明の熱伝導性ペーストは、半導体装置のバンプとしての応用においても、好適である。本発明の熱伝導性ペーストは、バンプやダイアタッチ材等の電子部品における接合部材として好適である。本発明の熱伝導性ペーストを部品の接合に使用した半導体装置は、優れた熱伝導性を有する。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔銀微粒子(A1)を含有するペースト〕
(1)反応容器に3−メトキシプロピルアミン4kg(45mol)を入れ、撹拌しながら反応温度を40℃以下に保持しつつ、酢酸銀5kg(30mol)を添加すると、酢酸銀は微黄色澄明な溶液となって溶解し、混合物を得た。
(2)混合物に、還元剤として95重量%のギ酸0.7kg(15mol)をゆっくり滴下し、その間、反応温度を30〜40℃に保持すると、ギ酸の添加とともに銀微粒子が生成していき、微黄色澄明な溶液が次第に黒色へと変化した。ギ酸を全量滴下して反応を終了させて、反応混合物を得た。
(3)その後、得られた反応混合物に撹拌しながらメタノールを添加し、その後25℃で静置すると二層に分かれた。上層は黄色澄明な液であり、下層には黒色の銀微粒子(A1)が沈降した。上層の液をデカンテーションで除去し、さらにメタノール添加と静置、そしてデカンテーションを繰り返して銀微粒子を含有する層を回収した。銀微粒子を含有する層に、ジヒドロターピネオール0.3kgを加えて混合し、エバポレーターによって残存するメタノールを留去して、銀微粒子を含む銀含有率90質量%のペーストを得た。得られたペースト中の3−メトキシプロピルアミンは、ペースト中の銀微粒子100質量部に対して、2質量部であった。
【0061】
銀微粒子を含有するペースト中の脂肪族第一級アミンの含有量は、分析試料をパイロライザー(PY-3030D)内にて250℃でガス化させ、島津製作所製ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010Plus)にスプリット法で注入し、測定することができる。測定条件の詳細は、以下の通りである。
開始温度:40℃
開始温度での保持時間:3分
昇温速度:15℃/分
終了温度:300℃
終了温度での保持時間:10分
カラムの種類: ULTRA ALLOY - 5 (フロンティア・ラボ社製)
キャリアガス:ヘリウムガス
キャリアガス流量(カラム流量):1.78 ml / 分
【0062】
〔銀微粒子(A2)を含有するペースト〕
(1)反応容器にトルエン1.5kgを入れ、1,2−ジアミノシクロヘキサン0.9kg(8.0mol)を添加した後、撹拌しながら、反応温度を45℃以下に保持しつつ、酢酸銀2.5kg(15.0mol)を添加し、混合物を得た。
(2)反応系である混合物がほぼ均一になったことを確認した後、撹拌しながら、ギ酸0.5kg(10.5mol)を少量ずつ添加した。その間、反応温度を40〜45℃に保持し、反応混合物を得た。
(3)その後、得られた反応混合物に撹拌しながらメタノールを添加し、その後25℃で静置すると二層に分かれた。上層は黄色澄明な液であり、下層には黒色の銀微粒子(A2)が沈降した。上層の液をデカンテーションで除去し、さらにメタノール添加と静置、そしてデカンテーションを繰り返して銀微粒子を含有する層を回収した。銀微粒子を含有する層に、ジヒドロターピネオール0.15kgを加えて混合し、エバポレーターによって残存するメタノールを留去して、銀微粒子を含む銀含有率90質量%のペーストを得た。得られたペースト中の1,2−ジアミノシクロヘキサンは、ペースト中の銀微粒子100質量部に対して、2質量部であった。
【0063】
〔銀微粒子(A3)を含有するペースト〕
脂肪族第一級アミンとして3−メトキシプロピルアミンの代わりに2−メトキシエチルアミンを使用した以外は上記銀微粒子(A1)を含有するペーストの作製方法と同様にして、銀微粒子(A3)を含有するペーストを作製した。ペースト中の銀含有率は90質量%であった。得られたペースト中の2−メトキシエチルアミンは、ペースト中の銀微粒子100質量部に対して、2質量部であった。
【0064】
〔銀微粒子(A4)を含有するペースト〕
脂肪族第一級アミンとして3−メトキシプロピルアミンの代わりに3−エトキシプロピルアミンを使用した以外は上記銀微粒子(A1)を含有するペーストの作製方法と同様にして、銀微粒子(A4)を含有するペーストを作製した。ペースト中の銀含有率は90質量%であった。得られたペースト中の3−エトキシプロピルアミンは、ペースト中の銀微粒子100質量部に対して、2質量部であった。
【0065】
〔銀微粒子(A5)を含有するペースト〕
溶剤としてジヒドロターピネオールの代わりにジエチレングリコールモノフェニルエーテルを使用した以外は上記銀微粒子(A1)を含有するペーストの作製方法と同様にして、銀微粒子(A5)を含有するペーストを作製した。ペースト中の銀含有率は90質量%であった。得られたペースト中の3−メトキシプロピルアミンは、ペースト中の銀微粒子100質量部に対して、2質量部であった。
【0066】
〔銀微粒子(A6)を含有するペースト〕
溶剤としてジヒドロターピネオールの代わりにエチレングリコールモノフェニルエーテルを使用した以外は上記銀微粒子(A1)を含有するペーストの作製方法と同様にして、銀微粒子(A5)を含有するペーストを作製した。ペースト中の銀含有率は90質量%であった。得られたペースト中の3−メトキシプロピルアミンは、ペースト中の銀微粒子100質量部に対して、2質量部であった。
【0067】
銀微粒子を含有するペースト中の銀微粒子(A1)、(A2)、(A3)、(A4)、(A5)及び(A6)について、1次粒子の平均粒子径、結晶子径、結晶子径に対する平均粒子径の比(平均粒子径/結晶子径)の粒子特性について、測定・評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
銀微粒子の粒子特性の測定・評価は、次のようにして行った。
【0070】
1次粒子の平均粒子径:日本電子社製FE−SEM(JSM7500F)により計測し、任意に選んだ粒子300個の直径の算術平均値を求め、その値をもって平均粒子径とした。
【0071】
結晶子径:マックサイエンス社製X線回折測定装置(M18XHF22)による測定によって、CuのKα線を線源とした面指数(1,1,1)面ピークの半値幅を求め、Scherrerの式より結晶子径を計算した。
【0072】
(実施例1〜6、12)
(1)〜(3)の工程によって得られる銀微粒子(A1)を含むペースト(銀含有率90質量%)に、(4)リン酸基を有する化合物として、リン酸水素アンモニウム、リン酸、リン酸系の界面活性剤(Disperbyk180又はDisperbyk111)を表2に示す各配合で加え、実施例1〜6、12の熱伝導性ペーストを得た。表2中、各配合の単位は「質量部」である。
【0073】
リン酸系の界面活性剤としてのDisperbyk111は、NMRでの解析により、式(I):
(式中、mは1〜10である。)で表される化合物であった。リン酸系の界面活性剤としてのDisperbyk180は、式(I)で表される化合物とアミンとの混合物であった。
【0074】
(実施例7〜11)
上記のとおり、(1)〜(3)の工程によって得られる、銀微粒子(A2)を含むペースト(銀含有率90質量%)、銀微粒子(A3)を含むペースト(銀含有率90質量%)、銀微粒子(A4)を含むペースト(銀含有率90質量%)、銀微粒子(A5)を含むペースト(銀含有率90質量%)、又は銀微粒子(A6)を含むペースト(銀含有率90質量%)の各々に、(4)リン酸基を有する化合物として、リン酸水素アンモニウムを表2に示す各配合で加え、実施例7〜11の熱伝導性ペーストを得た。表2中、各配合の単位は「質量部」である。
【0075】
(比較例1〜4)
比較例1は、銀微粒子(A1)を含むペースト(銀含有率90質量%)を、熱伝導性ペーストとした。また、比較例2、3、4は、銀微粒子(A1)を含むペースト(銀含有率90質量%)に、リン酸基を有する化合物の代わりに、それぞれ「酢酸」、「アミノ基を有し、リン酸基を有していない界面活性剤」又は「リン元素を有し、リン酸を有していない化合物」を表2に示す各配合で添加した。比較例1〜4の熱伝導性ペーストの各配合を表2に示す。
【0076】
〔電気抵抗率(比抵抗)/熱伝導率/膜厚〕
熱伝導性ペーストを、スライドガラス上に、幅0.5cm・長さ5.0cm・厚み100μmとなるように塗布し、送風乾燥機にて、室温(25℃)から3℃/分の昇温速度で加熱を開始し、120℃に到達したところで、その温度を維持しながらさらに1時間の加熱を行って、スライドガラス上に銀膜を形成した。その後、東京精密社製表面粗さ形状測定機(サーフコム300B)にて、得られた銀膜の膜厚を測定し、次いで東陽テクニカ社製マルチメーター(2001型(メモリー128K))を用いて四端子法にて電気抵抗の測定を行った。電気抵抗率(比抵抗)は、得られた加熱硬化後の膜厚、電気抵抗から求めた。
電気抵抗率(比抵抗)の評価は、10μΩ・cm未満の場合は○、10μΩ・cm以上の場合は×とした。
【0077】
〔熱伝導率〕
熱伝導性ペーストを、スライドガラス上に、塗布厚み1〜2mmとなるように塗布し、そのままの状態で送風乾燥機にて、室温(25℃)から3℃/分の昇温速度で加熱を開始し、120℃に到達したところで、その温度を維持しながらさらに1時間の加熱を行った。加熱終了後、室温(25℃)まで十分に冷却し、スライドガラス上に形成された銀膜をスライドガラスから剥がした。こうして得られた銀膜について、レーザーフラッシュ法(NETZSCH社製 Xe フラッシュアナライザー)を用いて熱伝導率を測定し、熱伝導率の値を得た。一般的に鉛はんだの熱伝導率は、35〜65W/m・Kである。
熱伝導率の評価は、65W/m・K以上の場合は○、65W/m・K未満の場合は×とした。
【0078】
各実施例及び比較例の熱伝導性ペーストについて、電気抵抗率(比抵抗)の評価と熱伝導率の評価を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示すように、実施例1〜12の熱伝導性ペーストは、特定の粒子特性を有する銀微粒子と、脂肪族第一級アミンと、リン酸基を有する化合物とを含むことにより、120℃の比較的低温の焼成温度で、電気抵抗率(比抵抗)が9.5μΩ・cm以下、熱伝導率が80W/m・K以上の、高導電性及び高熱伝導性の銀膜を形成することができた。
本発明の熱伝導性ペーストは、特定の粒子特性を有する銀微粒子と、脂肪族第一級アミンと、リン酸基を有する化合物とを含むことによって、焼成時に銀微粒子に配位しているアミン類が銀微粒子の周囲から取り除かれ、120℃の比較的低温の焼成によって銀微粒子同士の焼結が促進され、熱伝導性が改善された。
【0081】
一方、比較例1〜4の熱伝導性ペーストは、120℃の比較的低温の焼成温度で、電気抵抗率(比抵抗)が50μΩ・cm以上、熱伝導率が15W/m・K以下の銀膜が形成され、導電性及び熱伝導性の改善は認められなかった。