特許第6682480号(P6682480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

特許6682480リチウム化合物の溶解方法および、炭酸リチウムの製造方法
<>
  • 特許6682480-リチウム化合物の溶解方法および、炭酸リチウムの製造方法 図000004
  • 特許6682480-リチウム化合物の溶解方法および、炭酸リチウムの製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682480
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】リチウム化合物の溶解方法および、炭酸リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 7/00 20060101AFI20200406BHJP
   C01D 7/07 20060101ALI20200406BHJP
   C01D 7/10 20060101ALI20200406BHJP
   C01D 15/08 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C01D7/00 M
   C01D7/07
   C01D7/10
   C01D15/08
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-150168(P2017-150168)
(22)【出願日】2017年8月2日
(65)【公開番号】特開2019-26531(P2019-26531A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2018年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】有吉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】富田 功
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−091999(JP,A)
【文献】 特開2009−057278(JP,A)
【文献】 特開平11−310414(JP,A)
【文献】 特開2011−011961(JP,A)
【文献】 特開2018−145473(JP,A)
【文献】 特開2016−194105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 7/00−7/42
C01D 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水もしくは酸性溶液にリチウム化合物を、5℃〜25℃の液温で接触させるとともに、前記リチウム化合物とは別に前記水もしくは酸性溶液に炭酸イオンを供給して、炭酸を生じさせ、pHが7〜10になるようにしながら、リチウム化合物を前記炭酸と反応させて炭酸水素リチウムを生成させ、
リチウム化合物が、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムのなかから選択される少なくとも一種であり、該リチウム化合物が水酸化リチウム及び/又は酸化リチウムを含む、リチウム化合物の溶解方法。
【請求項2】
水もしくは酸性溶液中の炭酸の飽和状態が維持されるように、炭酸イオンを供給する、請求項1に記載のリチウム化合物の溶解方法。
【請求項3】
前記水もしくは酸性溶液への炭酸イオンの供給を、炭酸ガスの吹込みにより行う、請求項1又は2に記載のリチウム化合物の溶解方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウム化合物の溶解方法を用いて、炭酸リチウムを製造する方法であって、
前記炭酸水素リチウムを生成させた後、当該炭酸水素リチウム溶液から炭酸を脱離させ、該炭酸水素リチウム溶液中のリチウムイオンを炭酸リチウムとして析出させる、炭酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
炭酸水素リチウムを生成させた後、前記炭酸水素リチウム溶液を加熱して、当該炭酸水素リチウム溶液から炭酸を炭酸ガスとして脱離させる、請求項に記載の炭酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
炭酸水素リチウムを生成させた後、前記炭酸水素リチウム溶液を、50℃〜90℃の温度に加熱する、請求項に記載の炭酸リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記リチウム化合物が粗炭酸リチウムを含み、前記粗炭酸リチウムよりリチウム品位の高い炭酸リチウムを製造する、請求項のいずれか一項に記載の炭酸リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウム化合物の溶解方法および、それを用いる炭酸リチウムの製造方法に関するものであり、特には、リチウム化合物を有効に溶解させ、高品位の炭酸リチウムの製造に寄与することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、所定の電気・電子機器その他の廃棄物から金属を回収する湿式プロセス等では、炭酸リチウム等のリチウム化合物が得られることがあるが、そのリチウム化合物のリチウム品位が低い場合、リチウム品位を高めるため、リチウム化合物に対して精製処理を施す場合がある。
【0003】
この精製処理は具体的には、リチウム化合物に対してリパルプ洗浄を行うとともに、そこに炭酸ガスを吹き込み、次いで、固液分離によりリチウムが溶解した溶液から、不純物であるカルシウムやマグネシウム等を分離させる。その後、脱酸・濃縮を行った後、固液分離により、精製炭酸リチウムと濾液とに分離させる。これにより得られた精製炭酸リチウム中の溶解性不純物の品位が高い場合は、さらに洗浄を繰り返し行うこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、一般に炭酸リチウム等のリチウム化合物の水への溶解度は低いことから、精製処理におけるリパルプ洗浄で十分多くのリチウム化合物が溶解するとは言い難く、それにより、従来は、精製によるリチウム化合物のリチウム品位の向上については改善の余地があった。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池スクラップを焙焼して得られる電池粉末は、これまで、そこに含まれる種々の金属成分の多くを浸出させる酸浸出を行った後、溶媒抽出や中和等を施すことにより最終的に炭酸リチウムを得ていたが、電池粉末からリチウムのみを水等による溶解で予め回収することができれば、リチウムの回収プロセスの飛躍的な簡略化につながると考えられる。しかしながら、従来は、水に対するリチウム化合物の低い溶解度の故に、電池粉末に含まれるリチウム化合物を有効に溶解させることができなかった。
【0006】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的とするところは、リチウム化合物の水等への溶解を改善して、リチウム化合物を有効に溶解させることのできるリチウム化合物の溶解方法および、それを用いる炭酸リチウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は鋭意検討の結果、リチウム化合物と接触させる水もしくは酸性溶液に、リチウム化合物とは別に炭酸イオンを供給して炭酸を生じさせ、そしてその炭酸とリチウム化合物との反応により炭酸水素リチウムを生成させることで、リチウム化合物の溶解量が大きく増大することを見出した。なお、水もしくは酸性溶液への炭酸イオンの供給の時期は特に問わず、水もしくは酸性溶液中にリチウム化合物を添加する場合は、水もしくは酸性溶液とリチウム化合物との添加前、添加中及び/又は添加後のいずれであってもよい。
【0008】
このような知見の下、この発明のリチウム化合物の溶解方法は、水もしくは酸性溶液にリチウム化合物を、5℃〜25℃の液温で接触させるとともに、前記リチウム化合物とは別に前記水もしくは酸性溶液に炭酸イオンを供給して、炭酸を生じさせ、pHが7〜10になるようにしながら、リチウム化合物を前記炭酸と反応させて炭酸水素リチウムを生成させ、リチウム化合物が、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムのなかから選択される少なくとも一種であり、該リチウム化合物が水酸化リチウム及び/又は酸化リチウムを含むというものである。
【0009】
この発明のリチウム化合物の溶解方法では、水もしくは酸性溶液中の炭酸の飽和状態が維持されるように、炭酸イオンを供給することが好適である
【0010】
そしてまた、この発明のリチウム化合物の溶解方法では、前記水もしくは酸性溶液への炭酸イオンの供給を、炭酸ガスの吹込みにより行うことが好ましい
【0011】
この発明の炭酸リチウムの製造方法は、上記のいずれかのリチウム化合物の溶解方法を用いるものであって、前記炭酸水素リチウムを生成させた後、当該炭酸水素リチウム溶液から炭酸を脱離させ、該炭酸水素リチウム溶液中のリチウムイオンを炭酸リチウムとして析出させることにある。
【0012】
この発明の炭酸リチウムの製造方法では、炭酸水素リチウムを生成させた後、前記炭酸水素リチウム溶液を加熱して、当該炭酸水素リチウム溶液から炭酸を炭酸ガスとして脱離させることが好ましい。
この場合、炭酸水素リチウムを生成させた後、前記炭酸水素リチウム溶液を、50℃〜90℃の温度に加熱することが好ましい。
【0013】
この発明の炭酸リチウムの製造方法では、前記リチウム化合物が粗炭酸リチウムを含み、前記粗炭酸リチウムよりリチウム品位の高い炭酸リチウムを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、リチウム化合物とは別に水もしくは酸性溶液に炭酸イオンを供給して炭酸を生じさせ、リチウム化合物を前記炭酸と反応させて炭酸水素リチウムを生成させることにより、リチウム化合物の溶解度が増加することから、リチウム化合物を有効に溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一の実施形態に係るリチウムの溶解方法を示すフロー図である。
図2】実施例の所定の各温度における液中のリチウム濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るリチウムの溶解方法は、水もしくは酸性溶液にリチウム化合物を接触させるとともに、前記リチウム化合物とは別に前記水もしくは酸性溶液に炭酸イオンを供給して、炭酸を生じさせ、リチウム化合物を前記炭酸と反応させて炭酸水素リチウムを生成させるものである。
【0017】
(リチウム化合物)
この発明では、様々な固体のリチウム化合物を対象とすることができる。たとえば、典型的には、リチウムイオン二次電池スクラップから有価金属を回収する際に得られる炭酸リチウムその他のリチウム化合物等がある。
【0018】
リチウムイオン二次電池スクラップから有価金属を回収するには一般に、リチウムイオン二次電池スクラップを焙焼して有害な電解液を除去し、その後に破砕、篩別を順に行い、次いで、篩別の篩下に得られる電池粉末を酸浸出液に添加して浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、銅、アルミニウム等を液中に溶解させる。そしてその後、浸出後液に溶解している各金属元素のうち、鉄、銅及びアルミニウム等を順次に又は同時に除去し、コバルト、マンガン及びニッケル等の有価金属を回収する。具体的には、浸出後液に対し、分離させる金属に応じた複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を施し、さらには、各段階で得られたそれぞれの溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化その他の処理を施す。それにより、リチウムイオンを含むリチウム含有溶液が得られる。このようにして得られたリチウム含有溶液に対しては、炭酸塩の添加や炭酸ガスの吹込み等により炭酸化を行うことにより、リチウム品位が比較的低い炭酸リチウムである粗炭酸リチウムが得られる。この粗炭酸リチウムを含むリチウム化合物を対象とすることができる。
【0019】
また、上記の電池粉末には、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよび酸化リチウムのうちの少なくとも一種が含まれることがある。このような電池粉末からリチウムを溶解させるため、かかる電池粉末中のリチウム化合物を対象とすることができる。
【0020】
上記のようなリチウム化合物を対象とすることは、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用されて電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたリチウムイオン二次電池スクラップに含まれる金属を再利用することにつながり、資源の有効活用の観点から好ましい。
【0021】
(リチウム化合物の溶解)
上述したようなリチウム化合物を溶解させるには、当該リチウム化合物を水もしくは酸性溶液に接触させるとともに、前記リチウム化合物とは別に前記水もしくは酸性溶液に炭酸イオンを供給して、炭酸を生じさせ、リチウム化合物を前記炭酸と反応させて炭酸水素リチウムを生成させる。
【0022】
リチウム化合物が、たとえば、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムのなかから選択される少なくとも一種を含むものである場合、これを水もしくは酸性溶液中に、炭酸ガスの吹き込みや炭酸塩の添加等による炭酸イオンの供給とともに添加すると、炭酸リチウムについては、まずH2O+CO2→H2CO3の反応により炭酸が生じ、次いで、Li2CO3+H2CO3→2LiHoCO3の想定反応式の下で、炭酸水素リチウムが生じると考えられる。それにより、水もしくは酸性溶液への炭酸リチウムの溶解が促進される。また水酸化リチウムや酸化リチウムについては、2LiOH→Li2O+H2O及びLi2O+H2CO3+CO2→2LiHCO3、Li2O+CO2→Li2CO3及びLi2CO3+H2CO3→2LiHCO3の反応で炭酸水素リチウムが生じると推測される。したがって、これらの水酸化リチウムや酸化リチウムも容易に溶解させることができる。
【0023】
よって、リチウム化合物を溶解させるに当っては、リチウム化合物を水もしくは酸性溶液に添加する前、添加している間、及び、添加した後のうちの少なくとも一つの時期に、水もしくは酸性溶液に炭酸イオンを供給することが肝要である。
炭酸イオンの供給方法としては、水もしくは酸性溶液に、炭酸ガスを吹き込んだり、炭酸塩や炭酸水(炭酸溶存溶液)を添加したりすること等が挙げられるが、なかでも、炭酸ガスの吹き込みは、不純物の混入が抑えられるうえ、液量増加を抑制出来ることから、リチウム濃度の希釈が起こらない点で好ましい。なお、炭酸塩を添加する場合における炭酸塩の具体例としては、炭酸ナトリウム等を挙げることができ、この場合の炭酸塩の添加量は、たとえば1.0〜2.0倍モル当量、好ましくは1.0〜1.2倍モル当量とすることができる。
【0024】
上述した反応式により炭酸水素リチウムを有効に生じさせるとの観点から、水もしくは酸性溶液中の炭酸の飽和状態が維持されるように、炭酸イオンを供給することが好適である。それにより、炭酸水素リチウムの生成が促進されて、より多くのリチウム化合物を効果的に溶解させることができる。
【0025】
ここで用いる水もしくは酸性溶液は、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、イオン交換水、純水、超純水等や、それに硫酸等の酸を添加したものとすることができる。
酸を添加した酸性溶液とする場合、リチウム化合物を溶解して得られる炭酸水素リチウム溶液のpHが7〜10となるように酸の添加量を調整することが好適である。炭酸水素リチウム溶液のpHが7未満になると、リチウム化合物とともに電池粉末等に含まれ得るコバルト等の金属が溶けだすおそれがあり、pHが10を超えると、同様に含まれ得るアルミニウムが溶けだすおそれがあるからである。なお酸の添加の時期は、リチウムの溶解前、溶解中および/または溶解後のいずれであってもよい。
【0026】
リチウム化合物と水もしくは酸性溶液との接触方法としては、撒布や浸漬、通液等といった様々な方法があるが、反応効率の観点から、水中にリチウム化合物を浸漬させて撹拌する方法が好ましい。
【0027】
リチウム化合物と水もしくは酸性溶液との接触時の液温は、5℃〜25℃とすることが好ましい。接触時の水もしくは酸性溶液の液温をこの程度の比較的低い温度とすることにより、温度が低いほど溶解度が大きい炭酸水素リチウムを液中により効果的に生成することができる。水もしくは酸性溶液のリチウム濃度を、所定の液温における炭酸水素リチウムの溶解度にできる限り近づくようにリチウム化合物を溶解させることが好適である。
なおここで、パルプ濃度は、50g/L〜500g/Lとすることができる。このパルプ濃度は、リチウム化合物と接触させる水もしくは酸性溶液の量(L)に対するリチウム化合物の乾燥重量(g)の比を意味する。
【0028】
リチウム化合物の溶解により、水もしくは酸性溶液へのリチウムの溶解率は、30%〜70%であることが好ましく、または45%〜75%であることが好ましい。
炭酸水素リチウム溶液のリチウム濃度は、7.0g/L〜10.0g/Lであることが好ましく、特に8.0g/L〜9.0g/Lあることがより一層好ましい。なお、炭酸水素リチウム溶液には、ナトリウムが0mg/L〜1000mg/L、アルミニウムが0mg/L〜500mg/Lで含まれることがある。
【0029】
リチウム化合物を含む電池粉末を水もしくは酸性溶液に接触させた場合、当該電池粉末のうち、水もしくは酸性溶液に溶けずに残った残渣は、固液分離により取り出した後、これに対して、公知の方法にて、酸浸出、溶媒抽出、電解採取その他の処理を施して、そこに含まれる各種金属を回収することができる。ここでは、当該残渣についての詳細な説明は省略する。
【0030】
(炭酸リチウムの製造)
上述したリチウム化合物の溶解の後、それにより得られた炭酸水素リチウム溶液から炭酸を脱離させ、炭酸水素リチウム溶液中のリチウムイオンを炭酸リチウムとして析出させるリチウム析出工程を行うことができる。
ここでは、炭酸水素リチウム溶液を、好ましくは50℃〜90℃の温度に加熱して濃縮し、炭酸水素リチウム溶液から炭酸を炭酸ガスとして脱離させることができる。炭酸水素リチウムは温度の上昇に伴い、溶解度が低下するという新たな知見の下、このリチウム析出工程では、加熱により、炭酸水素リチウムの生成によって炭酸水素リチウム溶液に十分に溶解しているリチウムを、炭酸リチウムとして効果的に析出させることができる。
【0031】
炭酸水素リチウム溶液の加熱温度が50℃未満では、炭酸が有効に脱離しないことが懸念されるので、この加熱温度は50℃以上とすることが好適である。一方、当該加熱温度が90℃を超えると、沸騰による不具合が生じる可能性があるので、90℃を上限とすることができる。この観点より、炭酸水素リチウム溶液の加熱温度は、70℃〜80℃とすることがより一層好ましい。
【0032】
あるいは、炭酸水素リチウム溶液に、メタノールやエタノール等を添加して、そのような非水溶媒による炭酸の脱離を行うことも可能である。なかでも、メタノールやエタノールは安価であることから非水溶媒として用いることが好ましい。ここで添加方法として具体的には、炭酸水素リチウム溶液に対して非水溶媒を混合攪拌することを挙げることができる。
【0033】
(炭酸リチウムの精製)
以上のようにして得られた炭酸リチウムのリチウム品位が、目標とする品位より低い場合、必要に応じて、高品位の炭酸リチウムを得るため、炭酸リチウムの精製を行うことができる。なおここで、炭酸リチウムの目標とするリチウム品位は、たとえば16%以上、好ましくは17%以上とすることができる。但し、このリチウム精製工程は必ずしも必要ではない。
【0034】
炭酸リチウムの精製は具体的には、炭酸水素リチウム溶液からの炭酸の脱離により得られた炭酸リチウムに対してリパルプ洗浄を行うとともに、そこに炭酸ガスを吹き込んで、液中に炭酸を溶解させ、次いで、固液分離により、炭酸水素リチウム液と、カルシウムやマグネシウムなどを分離させる。その後、脱酸・濃縮を行った後、固液分離により、精製炭酸リチウムと濾液とに分離させる。この精製炭酸リチウム中の不純物品位が高い場合は、さらに洗浄を行うことができる。
【実施例】
【0035】
次に、この発明のリチウム化合物の溶解方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0036】
(試験例1)
乾燥質量が30gの試薬グレードの炭酸リチウムを、300mLの純水に添加してスラリー化した。このスラリーを、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃のそれぞれの温度に昇温し、各温度到達時に、想定反応式:Li2CO3+H2CO3→2LiHoCO3に対し、大過剰の炭酸ガスを吹き込んだ。炭酸ガスを吹き込んだ後、スラリーに対して固液分離を行い、濾液の量と液中のリチウム濃度を測定した。その結果を表1及び図2に示す。また、炭酸ガスを吹き込まなかったことを除いて同様に試験を行い、リチウム濃度を測定した。その結果も図2に「炭酸Li」としてプロットしている。なおここで、リチウム濃度は、濾液に対して高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)による定量分析を行って測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
40℃で得られたリチウム濃度が7.0g/Lの濾液を、60℃で2時間にわたって攪拌しながら加熱し、炭酸を脱離させた。その後、固液分離を行い、液量を測定したところ、揮発による液量の低下はほぼ無く、低下した液量は、生じた析出物へ付着した水分のみであった。炭酸を脱離させた後の濾液中のリチウム濃度は5.0g/Lであり、炭酸脱離の前後で液中からのリチウムの減少量は0.65gであった。析出物について乾燥後にX線回折法(XRD)により同定したところ、炭酸リチウムであることが判明し、そのリチウム量は0.48gであった。
【0039】
(試験例2)
試験例1と同様の30gの炭酸リチウムを純水に溶かすに当たり、炭酸ガスを供給する場合と炭酸ガスを供給しない場合のそれぞれについて、純水の液温を変化させた複数の試験を行った。その結果を表2に示す。表2に示す溶解率は、純水へのリチウムの溶解率を意味し、浸出後の残渣重量から算出したものである。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すところから、炭酸ガスを供給することにより、リチウムの溶解率が大幅に増加することが明らかであり、この傾向は特に液温が低い場合に顕著になることが解かる。
【0042】
以上より、この発明によれば、炭酸リチウムを有効に溶解させることができるとともに、比較的高品位の炭酸リチウムが得られることが解った。また、炭酸溶解する際は凝固が起こらない範囲でできる限り低温とし、また炭酸脱離時はできる限り高温とすることにより、さらにリチウムの回収率を向上できることが解った。
図1
図2