(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性金属酸化物は、インジウム(In)、スズ(Sn)、および亜鉛(Zn)からなる群から選定された少なくとも一つの金属の酸化物を有する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の導電膜付き基板。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
(本発明による導電膜付き基板)
本発明では、
基材と、
該基材の上部に配置された導電性金属酸化物の膜と、
を有し、
前記膜は、上面視、第1の領域および第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と同じ材料で構成され、前記第1の領域よりも電気抵抗が高く、
前記第2の領域は、複数の微細クラックで取り囲まれた複数のセル状区画で構成された部分を有し、
該部分において、各微細クラックは、1nm〜50nmの幅を有し、各セル状区画は、10μm未満の最大寸法を有することを特徴とする導電膜付き基板が提供される。
【0017】
前述のように、従来の導電膜付き基板では、基材と導電性金属酸化物の膜との間の屈折率の差異等の影響により、しばしば、導電性金属酸化物の膜のパターンが外側から視認される場合が認められる。そして、導電膜付き基板を備える装置において、そのような骨見え現象が生じると、装置の見栄えが悪くなり、装置の美感が損なわれてしまうという問題がある。
【0018】
これに対して、本発明による導電膜付き基板では、導電性金属酸化物の膜は、基材上に、従来のような「パターン状」には配置されていないという特徴がある。すなわち、本発明による導電膜付き基板では、基材の上に、導電性金属酸化物の膜が存在する領域と、導電性金属酸化物の膜が存在しない領域とが形成、配置される従来の構成の代わりに、必要な領域にわたって、導電性金属酸化物の膜が「連続的に」存在するような態様で、基材の上に、導電性金属酸化物の膜が配置される。
【0019】
この場合、上面視、導電性金属酸化物の膜が形成された部分には、実質的に屈折率の異なる領域が存在しないため、前述のような骨見えの問題が有意に解消または抑制される。
【0020】
なお、本発明による導電膜付き基板では、このような導電性金属酸化物の膜の「連続的」配置を可能にするため、基材上に、導電性金属酸化物の膜の第1の領域と、第2の領域とを配置する。ここで第2の領域は、第1の領域と実質的に同じ材料で構成されているものの、第1の領域よりも電気抵抗が高いという特徴を有する。
【0021】
また、本発明による導電膜付き基板では、第1の領域と第2の領域の間で、このような電気抵抗差を発現させるため、第2の領域は、
(i)複数の微細クラックで取り囲まれた複数のセル状区画で構成された部分を有し、
(ii)該部分において、各微細クラックは、1nm〜50nmの幅を有し、各セル状区画は、10μm未満の最大寸法を有する
ように形成される。
【0022】
このような特徴的な部分(以下、「微細構造部分」と称する)を有する第2の領域では、複数の微細クラックの存在により、そのような微細クラックが存在しない場合(第1の領域)に比べて、電気抵抗を有意に高めることができる。
【0023】
なお、本願において、「微細クラック」とは、肉眼では視認することが困難であるクラックを意味する。
【0024】
以上のような特徴的な構成により、本発明による導電膜付き基板では、従来のような骨見えの問題を有意に解消または抑制することができる。
【0025】
また、本発明では、そのような効果を得るために、インデックスマッチング層および屈折率調整層などの新たな層を設けたりする必要がなく、より簡便な構成で、骨見えの問題に対処できる。このため、比較的簡単な製造プロセスで、導電膜付き基板を提供することが可能となる。
【0026】
なお、以降の記載では、本発明による導電膜付き基板に形成された導電性金属酸化物の膜の第1の領域と第2の領域の配置態様を、「パターン」とも称する。しかしながら、この「パターン」は、連続膜内での、いわば第1の領域と第2の領域によって構成される「模様」を意味し、従来のような、導電性金属酸化物の膜の存在部分/非存在部分によるパターンを意味するものではないことに留意する必要がある。
【0027】
(本発明の一実施形態による導電膜付き基板)
次に、
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態による導電膜付き基板について説明する。
図1には、本発明の一実施形態による導電膜付き基板(以下、「第1の導電膜付き基板」と称する)の断面構成を概略的に示す。また、
図2には、
図1に示した第1の導電膜付き基板の模式的な上面図を示す。
【0028】
図1に示すように、この第1の導電膜付き基板100は、第1および第2の表面112、114を有する基材110と、基材110の第1の表面112に設置された導電性金属酸化物の膜(以下、「導電膜」と称する)120とを有する。
【0029】
図2に示すように、第1の導電膜付き基板100において、導電膜120は、上面視、第1の領域122と第2の領域124とを有するパターンとして構成される。ただし、第1の領域122または第2の領域124のいずれかは、極めて狭小の領域であるため、通常、両領域122、124の界面は、肉眼で確認することはできない。すなわち、
図2は、説明の明確化のため、各領域122、124の境界が誇張して示されている。
【0030】
なお、
図2の例では、導電膜120は、上面視、第1の領域122同士の間に、第2の領域124が微細な直線パターンとして配置された構成を有する。各第2の領域124の幅は、例えば、5μm〜150μmの範囲である。
【0031】
しかしながら、これは単なる一例であって、第1の領域122および第2の領域124は、いかなるパターンを構成するように配置されても良い。例えば、導電膜120は、上面視、第2の領域124同士の間に、第1の領域122が微細な直線パターンとして配置された構成を有しても良い。あるいは、導電膜120は、第1の領域122または第2の領域124の格子状パターンを有しても良い。あるいは、導電膜120は、第2の領域124が第1の領域122内に、島状(ドット状)に配置されたパターン、あるいはその逆のパターンを有しても良い。
【0032】
導電膜120において、第1の領域122と第2の領域124は、実質的に同じ材料で構成される。
【0033】
ここで、第2の領域124は、微細構造部分を有するという特徴を有する。すなわち、第2の領域124は、
図2の丸枠内の拡大図に示すように、上面視、複数の微細クラック130で取り囲まれた複数のセル状区画132で構成された部分を有する。
【0034】
微細クラック130の幅は、1nm〜50nmの範囲であり、5nm〜30nmの範囲であることが好ましい。また、セル状区画132の最大寸法L
maxは、10μm未満であり、1μm〜7μmの範囲であることが好ましい。
【0035】
ここで、セル状区画132の最大寸法L
maxは、該セル状区画132の最も大きな寸法として規定される。例えば、
図2に示すセル状区画132aのように、セル状区画が略多角形状(例えば、略矩形、略台形、および略平行四辺形など)の場合、最大寸法L
maxは、最も長い対角線の長さとして定められる。また、セル状区画132が略円形または略楕円形の場合、最大寸法L
maxは、直径または長軸の長さとして定められる。
【0036】
このような第2の領域124の構成では、第2の領域124に電流が流れる際に、多数の微細クラック130の存在により、スムーズな電流の流通が妨げられる。従って、電流は、最短距離で流れることが難しくなり、電流の経路は、みかけの寸法に比べて実質的に長くなる。その結果、第1の領域122と第2の領域124が実質的に同じ材料で構成されていても、第2の領域124では、第1の領域122に比べて電気抵抗が実質的に高くなる。
【0037】
従って、第1の導電膜付き基板100では、導電膜120の第2の領域124を、電流が流れにくい「高抵抗領域」として利用することができる。
【0038】
また、これにより、第1の導電膜付き基板100では、基材の上に、従来のような、導電性金属酸化物の膜の存在部分/非存在部分によるパターンが形成された場合と同様の状態を再現することができる。例えば、
図2に示した例では、導電膜120の第1の領域122の部分が、従来の導電性金属酸化物の膜の存在部分として機能する。
【0039】
このような第1の導電膜付き基板100では、導電膜120に従来の凹凸パターンのような「段差」が存在しない。また、導電膜120の面内に、実質的に屈折率の異なる領域が存在しない。このため、第1の導電膜付き基板100では、従来のような骨見えの問題を有意に解消または抑制することができる。
【0040】
さらに、第1の導電膜付き基板100では、骨見えの問題の対策として、インデックスマッチング層および屈折率調整層などの新たな層を設けたりする必要がなく、より簡便な構成で、骨見えの問題に対処できる。このため、比較的簡単な製造プロセスで、導電膜付き基板を提供することが可能となる。
【0041】
図3には、第1および第2の領域を有する導電性金属酸化物の膜の一形態例(SEM写真)を示す。
図3において、2つの第1の領域の間に、約8μmの幅にわたって微細構造分を有する第2の領域が線状に形成されていることがわかる。
【0042】
(各構成部材について)
次に、
図1および
図2に示した第1の導電膜付き基板100を例に、導電膜付き基板を構成する各部材の仕様について、より詳しく説明する。
【0043】
(基材110)
基材110は、いかなる材料で構成されても良い。
【0044】
例えば、基材110は、透明な材料で構成された透明基材であっても良い。そのような透明基材用材料としては、例えば、ガラス、樹脂またはプラスチック等が挙げられる。
【0045】
透明基材用のガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、石英ガラス、および無アルカリガラス等が挙げられる。
【0046】
一方、プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリカーボネート等が挙げられる。
【0047】
また、基材110は、必ずしも単一の部材で構成される必要はなく、例えば複数の層で構成されても良い。例えば、アルカリ金属を含むガラスを基材として使用する場合、ガラス側からのアルカリ金属の拡散を防止するため、しばしば、ガラスの表面にバリア膜が配置される場合がある。従って、本願においても、アルカリ金属を含むガラスを基材110に適用する場合、このガラスの表面に、例えばシリカのようなバリア膜を設置しても良い。
【0048】
基材110の厚さは、特に限られないが、例えば、0.1mm〜6mmの範囲であっても良い。
【0049】
(導電膜120)
導電膜120は、導電性を有する金属酸化物を含む限り、いかなる材料で構成されても良い。
【0050】
例えば、導電膜120は、透明導電膜であっても良い。そのような透明導電膜としては、例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、および亜鉛(Zn)からなる群から選定された少なくとも一つの金属の酸化物を有するものが挙げられる。例えば、透明導電膜は、ITO(インジウムスズ酸化物)、FTO(フッソスズ酸化物)、TTO(タンタルスズ酸化物)、AZO(アルミ亜鉛酸化物)、またはGZO(ガリウム亜鉛酸化物)等であっても良い。
【0051】
導電膜120の厚さは特に限られず、導電膜120は、例えば10nm〜300nmの範囲の厚さを有しても良い。
【0052】
なお、導電膜120は、必ずしも単層で構成される必要はなく、2層以上の積層膜として構成されても良い。
【0053】
前述のように、導電膜120は、第1の領域122および第2の領域124を有し、第2の領域124は、導電膜120を上面から見た際に、複数の微細クラック130で取り囲まれた複数のセル状区画132を有する。また、第2の領域124は、このような微細構造部分を含むため、第1の領域122に比べて、高い電気抵抗を有する。
【0054】
第2の領域124に含まれる微細クラック130は、1nm〜50nmの範囲の幅を有する。幅の寸法は、5nm〜30nmの範囲であることが好ましい。また、微細クラック130によって取り囲まれるセル状区画132の最大寸法L
maxは、10μm未満であり、1μm〜7μmの範囲であることが好ましい。
【0055】
また、導電膜120において、第1の領域122の最表面の高さレベルと、第2の領域124の最表面の高さレベルは、第1の領域122の最表面の高さに対して±30%の範囲内にあることが好ましい。特に、第1の領域122の最表面と、第2の領域124の最表面は、実質的に同じ高さレベル(第1の領域122の最表面の高さに対して±20%の範囲)にあることがより好ましい。これにより、従来の「骨見え」現象をよりいっそう抑制することが可能になる。
【0056】
前述のように、導電膜120において、第1の領域122と第2の領域124の配置態様は、特に限られない。例えば、導電膜120において、第2の領域124は、
図2に示すような線状パターンの他、格子状パターン、またはドット状パターンとして配置されても良い。あるいは、逆に、第1の領域122が、そのようなパターンで配置されても良い。また、線状パターン、格子状パターン、およびドット状パターンにおいて、パターンの幅は、例えば、5μm〜150μmの範囲であっても良い。
【0057】
(本発明の一実施形態による導電膜付き基板の適用例について)
前述のような特徴を有する本発明の一実施形態による導電膜付き基板は、例えば、表示デバイス等に使用することができる。
【0058】
表示デバイスとしては、例えば、タブレット端末などの静電容量式のタッチパネルが挙げられる。例えば、タッチパネル搭載のタブレットPC等では、導電膜付き基板の前述のような特徴的な構成により、従来のような骨見えの問題を有意に解消または抑制することができる。
【0059】
(本発明による導電膜付き基板の製造方法)
次に、
図4を参照して、本発明の一実施形態による導電膜付き基板の製造方法について説明する。
【0060】
なお、以下の説明では、前述の
図1および
図2に示した構成を有する第1の導電膜付き基板100を例に、その製造方法について説明する。従って、各部材を説明する際には、
図1および
図2に示した参照符号を使用する。ただし、以下の説明が、その他の構成の導電膜付き基板の製造方法にも同様に適用できることは、当業者には明らかである。
【0061】
図4には、本発明の一実施形態による導電膜付き基板の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを概略的に示す。
【0062】
図4に示すように、この第1の製造方法は、
基材の第1の表面に、導電膜を形成するステップ(ステップS110)と、
前記導電膜に、第2の領域のパターンを形成するステップであって、
前記第2の領域は、上面視、複数の微細クラックで取り囲まれた複数のセル状区画で構成された部分を有し、
該部分において、各微細クラックは、1nm〜50nmの幅を有し、各セル状区画は、10μm未満の最大寸法を有する、
ステップ(ステップS120)と、
を有する。
【0064】
(ステップS110)
まず、導電膜付き基板用の基材110が準備される。前述のように、基材110としては、例えば、ガラス、樹脂またはプラスチック等のような透明基材が使用されても良い。また、基材110は、複数の部材(層)で構成されても良い。
【0065】
次に、基材110の一つの表面(第1の表面112)に、導電膜120が形成される。
【0066】
導電膜120は、前述のように、ITOのような透明導電膜で構成されても良い。
【0067】
また、導電膜120を形成する方法は、特に限られない。導電膜120は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、およびPVD法等により、基材110上に成膜しても良い。
【0068】
導電膜120は、複数の層で構成されても良い。導電膜120の厚さは、例えば、10nm〜300nmの範囲である。
【0069】
(ステップS120)
次に、ステップS110で形成された導電膜120に、第2の領域124のパターンが形成される。
【0070】
この第2の領域124は、前述のように、上面視、複数の微細クラック130で取り囲まれた複数のセル状区画132で構成された部分(すなわち微細構造部分)を有する。また、各微細クラック130は、1nm〜50nmの幅を有し、各セル状区画132は、10μm未満の最大寸法を有する。
【0071】
このような微細構造部分の存在により、第2の領域124は、周囲に比べて電気抵抗が高い領域、すなわち高抵抗領域として機能する。
【0072】
なお、このような特徴を有する第2の領域124は、例えば、以下のような方法により、形成することができる。
【0073】
(第2の領域124の形成方法)
(a)まず、導電膜120の第2の領域124を形成する部分に、レーザ光が照射される。
【0074】
レーザ光の種類は、特に限られず、例えばCO
2レーザ等のガスレーザ、およびYAGレーザ等の固体レーザー等が使用できる。レーザ光は、例えばマスク等を介して、導電膜120に照射されても良い。
【0075】
レーザ光の照射により、被照射領域が局部的に加熱され、導電膜120に局部的な体積変化(膨脹)が生じる。また、これにより、被照射領域に、多数の微細クラック130が発生するとともに、該微細クラックで取り囲まれた多数のセル状区画132が形成される。
【0076】
その結果、被照射領域に、微細構造部分を有する第2の領域124を配置することができる。
【0077】
ここで、導電膜120の被照射領域に投与されるエネルギーは、あまり大きくならないように留意する必要がある。例えば、高パワーのレーザ光を選定するなどの影響により、被照射領域に投与されるエネルギーが大きくなりすぎると、導電膜120にレーザ光を照射した際に、被照射領域の導電膜120が除去されてしまうおそれがあるからである。(この場合、従来の導電膜のパターン(凹凸パターン)が形成されてしまう。)
従って、被照射領域に投与されるエネルギーは、導電膜120の被照射領域に、微細クラック130およびセル状区画132が形成されるような、適正な範囲から選定される。
【0078】
以上のようなステップS110〜S120の工程を経て、導電膜120が第2の領域124のパターンを有する、第1の導電膜付き基板100を製造することができる。
【0079】
以上、第1の製造方法を例に、本発明の一実施形態による導電膜付き基板の製造方法について説明した。しかしながら、本発明の一実施形態による導電膜付き基板は、その他の製造方法で製造されても良いことは当業者には明らかである。
【0080】
例えば、上記方法では、ステップS120において、導電膜に微細構造部分を形成するため、導電膜にレーザ光が照射される。しかしながら、その代わりに、フラッシュランプ照射により、導電膜に微細構造部分を形成しても良い。その他にも、各種方法により、導電膜に微細構造部分を形成することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0082】
(実施例1)
以下の方法で、導電膜付き基板を作製した。
【0083】
まず、基材として、厚さ3.2mmのソーダライム製の透明なガラス基板を準備した。なお、このガラス基板の一方の表面には、予めバリア層として、SiO
2層が配置されている。SiO
2層の厚さは、約20〜30nmである。
【0084】
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、ガラス基板の上に、スパッタリング法により、ITO層を成膜した。ターゲットには、SnO
2を10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
【0085】
次に、ITO層の上に、スパッタリング法により、TTO層を成膜した。ターゲットには、Ta
2O
5を5wt%含むSnO
2ターゲットを使用した。成膜されたTTO層の膜厚は、20nmであった。
【0086】
これにより、SiO
2層付きガラス基板の上に2層構造の導電膜が配置されたサンプル(以下、「サンプル1」と称する)が製造された。
【0087】
次に、このサンプル1の導電膜に、以下の方法で、被照射領域のパターンを形成した。
【0088】
まず、サンプル1を、導電膜が上向きとなるように水平に配置した。
【0089】
次に、このサンプル1の導電膜に、レーザ光を照射した。レーザ光には、波長が1064nmのレーザを使用した。また、レーザ光のパルスエネルギーは、4μJとした。
【0090】
レーザ光は、第1の方向に沿って、直線状に走査した。次に、レーザ光の照射位置を4μmだけずらし、同じ方向に沿ってレーザ光を照射した。これを数回繰り返し、幅約10μmの直線状の被照射領域を形成した。導電膜の別の位置でも同様の操作を繰り返し、導電膜に、複数の直線状被照射領域を形成した。
【0091】
以上の工程により得られた導電膜付き基板を、以下、「実施例1に係る導電膜付き基板」と称する。なお、実施例1に係る導電膜付き基板において、骨見え現象は認められなかった。
【0092】
(評価)
次に、実施例1に係る導電膜付き基板を用いて、以下の各種評価を行った。
【0093】
(表面観察)
実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜の表面を、走査型電子顕微鏡(FE−SEM SU−70:HITACHI社製)を用いて観察した。
【0094】
図5および
図6には、得られた結果の一例を示す。
図5には、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜の一部の拡大表面写真が示されており、
図6には、導電膜の被照射領域の拡大写真が示されている。
【0095】
これらの図から、導電膜のレーザ光の被照射領域には、微細構造部分が存在することがわかる。この微細構造部分において、微細クラックの幅は、何れの箇所でも、1nm〜50nmの範囲であった。また、セル状区画の最大寸法L
maxは、1μm〜7μmの範囲であった。
【0096】
このように、レーザ光の照射により、被照射領域に、微細構造部分を有する第2の領域が形成されていることが確認された。すなわち、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜には、第1の領域(レーザ光の非照射領域に相当する)と、第2の領域(レーザ光の被照射領域に相当する)のパターンが形成されていることが確認された。
【0097】
(表面凹凸状態の測定)
次に、導電膜の表面凹凸状態を測定した。測定には、触針式段差計(DEKTAK150:Veeco社製)を使用した。測定は、導電膜の第1の領域〜第2の領域にわたって実施した。
【0098】
なお、測定の際には、触針が第2の領域を垂直に横断するように触針を走査させた。すなわち、測定は、導電膜の第2の領域の延伸方向に対して略垂直な方向に沿って実施した。
【0099】
図7には、測定結果の一例を示す。図において、横軸は、導電膜の水平方向の相対位置を表し、縦軸は、導電膜の最表面の高さレベルを表している。
図7では、第2の領域が図のほぼ中心(位置X=210μm〜220μmの範囲)に配置されるように表示されている。
【0100】
この測定結果から、第2の領域は、極わずかではあるが上方に盛り上がる傾向にあることがわかる。第2の領域が凹状になっていないことから、実施例1において選定されたレーザ光のパワーでは、第2の領域がアブレーション除去される(すなわち厚さが薄くなる)ほどのエネルギーは投与されなかったことがわかる。
【0101】
また、得られた結果から、レーザ光照射によって、被照射領域が局部的に加熱され、これにより導電膜に局部的な体積膨脹が生じたことが考えられる。さらに、そのような体積膨脹に伴い、導電膜に多数の微細クラックが生じ、これにより微細構造部分が形成されたものと考えられる。
【0102】
なお、第2の領域における盛り上がりの程度は、最大でも200Å程度と極めて小さく、第2の領域の最表面は、実質的に第1の領域の最表面とほぼ同じ高さレベルにあると言える。
【0103】
(電気抵抗評価)
次に、以下の方法で、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜の電気抵抗を評価した。
【0104】
まず、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜を、所定の範囲で切断し、電気抵抗測定サンプルを得た。
【0105】
図8には、導電膜の切断の態様を模式的に示す。
【0106】
図8に示すように、導電膜720は、第1の領域722および第2の領域724を有する。電気抵抗測定サンプルAは、長さL=6mm×幅W=5mmの寸法で切断した。ここで、電気抵抗測定サンプルAの「長さ」は、
図8のX方向、すなわち、導電膜720の第2の領域724の延伸方向に対して垂直な方向の寸法を意味し、電気抵抗測定サンプルAの「幅」は、
図8のY方向、すなわち、第2の領域724の延伸方向に平行な方向の寸法を意味する。電気抵抗測定サンプルAは、長さLの中央部分に一本の第2の領域724が含まれるように採取した。
【0107】
このようにして採取した電気抵抗測定サンプルAを用いて、電気抵抗測定サンプルAの線間抵抗Rsを測定した。測定には、デジタルマルチメーター(CDM−17D:CUSTOM社製)を使用した。
【0108】
次に、前述の方法で製造したサンプル1(すなわち導電膜に第2の領域が形成されていないもの)を用いて同様の測定を行い、線間抵抗Roを測定した。また、以下の(1)式から、電気抵抗測定サンプルAの電気抵抗の変化率Pを求めた:
電気抵抗の変化率P=
Rs/Ro(第2の領域が形成されていないもの) (1)式
その結果、変化率P=11.4となった。すなわち、電気抵抗測定サンプルAの線間抵抗は、第2の領域を形成する前の状態の導電膜の電気抵抗に比べて、11.4倍増加した。
【0109】
この結果は、第2の領域の電気抵抗が、第1の領域の電気抵抗に比べて有意に上昇していること、すなわち、第2の領域が高抵抗領域になっていることを示唆するものである。
【0110】
次に、導電膜の別の箇所から採取した電気抵抗測定サンプルBを用いて、同様の測定を実施した。
【0111】
図9には、導電膜から電気抵抗測定サンプルBを採取する際の態様を模式的に示す。
【0112】
図9に示すように、電気抵抗測定サンプルBは、長さL=6mm×幅W=5mmの寸法で切断した。ただし、電気抵抗測定サンプルBは、長さLの中央部分に合計5本の第2の領域724a〜724eが含まれるように採取した。なお、この態様では、各第2の領域724a〜724eは、約20μmのピッチで配置されている。
【0113】
測定の結果、変化率P=30となった。すなわち、電気抵抗測定サンプルBの線間抵抗は、第2の領域を形成する前の状態の導電膜の電気抵抗に比べて、30倍増加した。
【0114】
このように、実施例1に係る導電膜付き基板では、被照射領域に「微細構造部分」が形成され、被照射領域が第2の領域になっていること、および該第2の領域が高抵抗領域になっていることが確認された。
【0115】
(自由電子濃度)
次に、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜の自由電子濃度をアクセント・オプティカル・テクノロジーズ社製のホール効果測定装置を使用して評価した。その結果、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜の自由電子濃度は、1.3×10
21/cm
3であった。
【0116】
(実施例2)
以下の方法で、導電膜付き基板を作製した。
【0117】
まず、基材として、厚さ0.7mmの無アルカリガラス製の透明なガラス基板を準備した。
【0118】
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、ガラス基板の上に、スパッタリング法により、ITO層を成膜した。ターゲットには、SnO
2を10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
【0119】
次に、ITO層の上に、スパッタリング法により、TTO層を成膜した。ターゲットには、Ta
2O
5を5wt%含むSnO
2ターゲットを使用した。成膜されたTTO層の膜厚は、35nmであった。
【0120】
これにより、ガラス基板の上に2層構造の導電膜が配置されたサンプル(以下、「サンプル2」と称する)が製造された。
【0121】
次に、このサンプル2の導電膜に、以下の方法で、被照射領域のパターンを形成した。
【0122】
まず、サンプル2を、導電膜が上向きとなるように水平に配置した。
【0123】
次に、このサンプル2の導電膜に、レーザ光を照射した。レーザ光には、波長が1064nmのレーザを使用した。また、レーザ光のパルスエネルギーは、4μJとした。
【0124】
レーザ光は、第1の方向に沿って、直線状に走査した。次に、レーザ光の照射位置を2μmだけずらし、同じ方向に沿ってレーザ光を照射した。これを数回繰り返し、幅約10μmの直線状の被照射領域を形成した。導電膜の別の位置でも同様の操作を繰り返し、導電膜に、複数の直線状被照射領域を形成した。
【0125】
以上の工程により得られた導電膜付き基板を、以下、「実施例2に係る導電膜付き基板」と称する。なお、実施例2に係る導電膜付き基板において、骨見え現象は認められなかった。
【0126】
(評価)
実施例2に係る導電膜付き基板を用いて、実施例1の場合と同様方法で、各評価を行った。
【0127】
(表面観察)
実施例2に係る導電膜付き基板の導電膜の表面観察の結果、導電膜のレーザ光の被照射領域には、微細構造部分が存在することがわかった。この微細構造部分において、微細クラックの幅は、何れの箇所でも、1nm〜50nmの範囲であった。また、セル状区画の最大寸法L
maxは、1μm〜7μmの範囲であった。
【0128】
このように、レーザ光の照射により、被照射領域に、微細構造部分を有する第2の領域が形成されていることが確認された。すなわち、実施例2に係る導電膜付き基板の導電膜には、第1の領域(レーザ光の非照射領域に相当する)と、第2の領域(レーザ光の被照射領域に相当する)の繰り返しパターンが形成されていることが確認された。
【0129】
(表面形態の測定)
実施例2に係る導電膜付き基板において、導電膜の第2の領域の表面凹凸状態を測定した。
【0130】
図10には、測定結果の一例を示す。図において、横軸は、導電膜の水平方向の相対位置を表し、縦軸は、導電膜最表面の高さレベルを表している。
図10では、第2の領域が図のほぼ中心(位置x=200μm〜210μm)に配置されるように表示されている。
【0131】
この測定結果から、第2の領域は凹状になっておらず、第2の領域の最表面は、実質的に第1の領域の最表面とほぼ同じ高さレベルにあることがわかった。
【0132】
(電気抵抗評価)
実施例1の場合と同様の方法で、実施例2に係る導電膜付き基板の導電膜の電気抵抗を評価した。
【0133】
その結果、前述の(1)式から得られる電気抵抗測定サンプルAにおける電気抵抗の変化率P=8.9となった。すなわち、電気抵抗測定サンプルAの線間抵抗は、第2の領域を形成する前の状態の導電膜の電気抵抗に比べて、8.9倍増加した。
【0134】
また、電気抵抗測定サンプルBにおける電気抵抗の変化率P=48.8となった。
【0135】
(自由電子濃度)
次に、実施例2に係る導電膜付き基板の導電膜の自由電子濃度を評価した。その結果、実施例1に係る導電膜付き基板の導電膜の自由電子濃度は、1.4×10
21/cm
3であった。
【0136】
この結果は、第2の領域の電気抵抗が、第1の領域の電気抵抗に比べて有意に上昇していること、すなわち、第2の領域が高抵抗領域になっていることを示唆するものである。
【0137】
このように、実施例2に係る導電膜付き基板では、被照射領域に「微細構造部分」が形成され、被照射領域が第2の領域になっていること、および該第2の領域が高抵抗領域になっていることが確認された。
【0138】
(実施例3)
以下の方法により、導電膜付き基板を作製した。
【0139】
まず、基材として、厚さ3.2mmのソーダライム製の透明なガラス基板を準備した。なお、このガラス基板の一方の表面には、予めバリア層として、SiO
2層が配置されている。SiO
2層の厚さは、約20〜30nmである。
【0140】
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、ガラス基板の上に、スパッタリング法により、ITO層を成膜した。ターゲットには、SnO
2を10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
【0141】
これにより、SiO
2層付きガラス基板の上に単層構造の導電膜が配置されたサンプル(以下、「サンプル3」と称する)が製造された。
【0142】
次に、このサンプル3の導電膜に、実施例1と同様の方法で、第2の領域のパターンを形成した。
【0143】
以上の工程により得られた導電膜付き基板を、以下、「実施例3に係る導電膜付き基板」と称する。なお、実施例3に係る導電膜付き基板において、骨見え現象は認められなかった。
【0144】
実施例3に係る導電膜付き基板を用いて、前述の各種評価を行った。
【0145】
その結果、実施例3に係る導電膜付き基板では、被照射領域に「微細構造部分」が形成され、被照射領域が第2の領域になっていること、および該第2の領域が高抵抗領域になっていることが確認された。また、第2の領域は凹状になっておらず、第2の領域の最表面は、実質的に第1の領域の最表面とほぼ同じ高さレベルにあることが確認された。
【0146】
(実施例4)
以下の方法で、導電膜付き基板を作製した。
【0147】
まず、基材として、厚さ0.7mmの無アルカリガラス製の透明なガラス基板を準備した。
【0148】
次に、このガラス基板を300℃に加熱した状態で、ガラス基板の上に、スパッタリング法により、ITO層を成膜した。ターゲットには、SnO
2を10wt%含むITOターゲットを使用した。成膜されたITO層の膜厚は、150nmであった。
【0149】
これにより、ガラス基板の上に単層構造の導電膜が配置されたサンプル(以下、「サンプル4」と称する)が製造された。
【0150】
次に、このサンプル4の導電膜に、実施例2と同様の方法で、第2の領域のパターンを形成した。
【0151】
以上の工程により得られた導電膜付き基板を、以下、「実施例4に係る導電膜付き基板」と称する。なお、実施例4に係る導電膜付き基板において、骨見え現象は認められなかった。
【0152】
実施例4に係る導電膜付き基板を用いて、前述の各種評価を行った。
【0153】
その結果、実施例4に係る導電膜付き基板では、被照射領域に「微細構造部分」が形成され、被照射領域が第2の領域になっていること、および該第2の領域が高抵抗領域になっていることが確認された。また、第2の領域は凹状になっておらず、第2の領域の最表面は、実質的に第1の領域の最表面とほぼ同じ高さレベルにあることが確認された。
【0154】
(実施例5および実施例6)
実施例1と同様の方法により、実施例5に係る導電膜付き基板を製造した。ただし、実施例5では、ガラス基板を加熱せずに、室温でITO層を成膜した。
【0155】
実施例2と同様の方法により、実施例6に係る導電膜付き基板を製造した。ただし、実施例6では、ガラス基板を加熱せずに、室温でITO層を成膜した。
【0156】
実施例5に係る導電膜付き基板の自由電子濃度は、4.8×10
21/cm
3であった。また、実施例6に係る導電膜付き基板の自由電子濃度は、4.5×10
21/cm
3であった。
【0157】
実施例5および実施例6では、レーザ光の照射による微細クラックを適正に形成することができず、骨見え現象を効果的に抑制することはできなかった。