(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683908
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】真空成膜装置と真空成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20200413BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20200413BHJP
C23C 14/20 20060101ALI20200413BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
C23C14/56 D
C23C14/34 K
C23C14/20 A
C23C14/14 G
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-234948(P2015-234948)
(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-101282(P2017-101282A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年12月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−223968(JP,A)
【文献】
特開平07−243042(JP,A)
【文献】
特開2013−237896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 14/14
C23C 14/20
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段と、冷却キャンロールの近傍に配置された回転駆動される前フィードロールを真空チャンバー内に備え、ロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムが上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に巻き付けられると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に上記成膜手段により成膜処理を行う装置であって、上記前フィードロールが加熱ロールで構成されていない真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールの外周面が軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成され、上記前フィードロールの外周面に対し接離可能に制御されたニップロールが前フィードロールに付設されており、かつ、上記前フィードロールおよび上記冷却キャンロール表面が金属で構成されるか若しくは該表面に金属めっきが施されていると共に、上記ニップロール表面がゴム若しくは樹脂で構成されており、更に、搬送中の耐熱性長尺樹脂フィルムに発生したフィルム皺を検出する皺検出手段が真空チャンバー内に設けられ、当該皺検出手段からの信号に基づき前フィードロールの外周面に対し上記ニップロールが接離可能に制御されるようになっていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段と、冷却キャンロールの近傍に配置された回転駆動される前フィードロールを真空チャンバー内に備え、ロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムが上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に巻き付けられると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に上記成膜手段により成膜処理を行う装置であって、上記前フィードロールが加熱ロールで構成されていない真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールの外周面が軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成され、上記前フィードロールの外周面に対し接離可能に制御されたニップロールが前フィードロールに付設されており、かつ、上記前フィードロールおよび上記冷却キャンロール表面が金属で構成されるか若しくは該表面に金属めっきが施されていると共に、上記ニップロール表面がゴム若しくは樹脂で構成されており、更に、上記前フィードロールの外周面に対し一定間隔で上記ニップロールが間欠的に接離するようになっていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項3】
真空チャンバー内をロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムを、回転駆動される前フィードロールを介し回転駆動される冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段により上記冷却キャンロールの外周面と接していない耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に成膜処理を行う方法であって、上記前フィードロールが加熱ロールで構成されていない真空成膜方法において、
上記冷却キャンロールの外周面を軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成し、上記前フィードロールおよび上記冷却キャンロール表面を金属で構成するか若しくは該表面に金属めっきを施し、かつ、接離可能に制御されたニップロールを上記前フィードロールに付設すると共に上記ニップロール表面をゴム若しくは樹脂で構成し、前フィードロールに搬入される耐熱性長尺樹脂フィルムにフィルム皺が検出された場合に上記ニップロールを前フィードロールに圧接させてフィルム皺を取り除くようにしたことを特徴とする真空成膜方法。
【請求項4】
搬送中の耐熱性長尺樹脂フィルムに発生したフィルム皺を検出する皺検出手段を真空チャンバー内に配置し、当該皺検出手段からの信号に基づいて前フィードロールの外周面に対し上記ニップロールを接離可能に制御するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の真空成膜方法。
【請求項5】
上記ニップロールが前フィードロールに接触しかつ前フィードロールから離反するまでの圧接時間を、ニップロールに耐熱性長尺樹脂フィルムが接触した時点から当該耐熱性長尺樹脂フィルムの接触部位が前フィードロールを経由し冷却キャンロールに搬入される直前までの時間を上限にして設定するようにしたことを特徴とする請求項3または4に記載の真空成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内においてロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムを、前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段により耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に成膜処理を行う真空成膜装置と真空成膜方法に係り、特に、クラウン状の冷却キャンロールを適用しかつ耐熱性長尺樹脂フィルムに偶発的に発生するフィルム皺を除去できる真空成膜装置と真空成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、フレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムから作製される。近年、フレキシブル配線基板に形成される配線パターンはますます微細化、高密度化しており、金属膜付耐熱性樹脂フィルム自体が皺等のない平滑なものであることがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、接着剤により金属箔を耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法と称される)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法と称される)、乾式めっき法(真空成膜法)若しくは乾式めっき法(真空成膜法)と湿式めっき法との組み合わせにより耐熱性樹脂フィルムに金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法と称される)等が従来から知られている。また、メタライジング法における上記乾式めっき法(真空成膜法)には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
上記メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングで形成した第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングで形成した第二の金属薄膜とが、この順でポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料(すなわち、銅張積層樹脂フィルム基板)が開示されている。尚、ポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する場合、以下に述べるスパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
【0005】
上述したスパッタリング法は、一般に、成膜された金属薄膜等の密着力に優れる利点を有する反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムに皺が発生し易くなることも知られている。
【0006】
この皺の発生を防ぐため、スパッタリングウェブコータでは、ロールツーロール等により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムを、冷却機能を備える冷却キャンロールに密着させながら巻き付けることで成膜中の耐熱性長尺樹脂フィルムを裏面側から冷却する方式が採用されている。例えば、特許文献3には、上記スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、冷却キャンロールとして機能するクーリングロールを具備し、更に、クーリングロールの少なくとも耐熱性長尺樹脂フィルムの搬入側(搬送上流側)にサブロール(前フィードロール)が設けられており、このサブロールによって耐熱性長尺樹脂フィルムをクーリングロールに密着させる制御が行われている。
【0007】
ところで、熱負荷が作用していない耐熱性長尺樹脂フィルムに対し長さ方向へ向けて張力が印加された場合でも、
図1(A)〜(C)に示すように長尺樹脂フィルムの中央部に皺が発生する。すなわち、
図1(A)に示すように長尺樹脂フィルムに対し長さ方向へ向けて張力が印加されていない場合(張力開放状態)には長尺樹脂フィルムに弛みがなく平坦状であるが、長尺樹脂フィルムに対し長さ方向へ向けて張力が印加された場合(張力印加状態)には、
図1(B)〜(C)に示すように冷却キャンロール(クーリングロール)に接触していない状態でも、長尺樹脂フィルム全体が伸びて長尺樹脂フィルムの中央部に皺が発生する状態(中だるみ状態)となる。
【0008】
このため、耐熱性長尺樹脂フィルムに対し長さ方向へ向けて張力(搬送張力)が印加されていると、冷却キャンロール(円筒状クーリングロール)に巻き付けられた状態であっても、極僅かではあるが、
図2(A)に示すように耐熱性長尺樹脂フィルム中央部に皺が発生する状態(中だるみ状態)となる。
【0009】
上記「中だるみ状態」が極僅かであっても、「中だるみ部位」に隙間が生じて冷却キャンロール(円筒状クーリングロール)との熱伝導効率が不十分となるため、その分、冷却効果が低下し、スパッタリング成膜の熱負荷に起因して上記「中だるみ部位」に幅方向の皺が発生し易くなる問題が存在した。特に、スパッタリング成膜の製造効率等を高める目的で耐熱性長尺樹脂フィルムの搬送速度を高めた場合には、所望膜厚のスパッタリング成膜を短時間で行う必要があることから大電力をスパッタリングカソードに印加することになるため、その分、耐熱性長尺樹脂フィルムに与える熱負荷が更に大きくなって上記問題が顕著となる。また、フィルムの搬送速度を高く設定しなくても、膜厚の薄い長尺状樹脂フィルムが適用された場合には、厚いフィルムと比較し長尺状樹脂フィルムに与える熱負荷が相対的に大きくなるため皺の発生が顕著となる。
【0010】
この問題を解消するため、非特許文献1では、ロール中央部に較べてロール端部側が高い「逆クラウン形状」の冷却キャンロール構造を採用し、冷却キャンロール端部側の周速がロール中央部より速くなるようにして耐熱性長尺樹脂フィルムの幅方向に皺が発生し難い装置を提案している。しかし、「逆クラウン形状」の冷却キャンロール構造を採用する方法は、大気中において長尺樹脂フィルムとロールのグリップ力が弱くかつフィルムの搬送速度が速いときには効果的な方法であるが、スパッタリング成膜等真空チャンバー(減圧室)内の真空中において長尺樹脂フィルムとロールのグリップ力が強くかつフィルムの搬送速度が遅いときには効果的な方法とは言えなかった。
【0011】
他方、上記問題を解消するため、特許文献4では、ロール端部側に較べロール中央部が高い太鼓型(クラウンロール形状:特許文献4から計算すると中央部が2〜3mm程度高い)の冷却キャンロール形状にすることでフィルムの幅方向に皺が発生し難い装置を提案している。そして、「逆クラウン形状」の冷却キャンロール構造を採用する上記非特許文献1の装置と比較し、真空中において長尺樹脂フィルムとロールのグリップ力が強くかつフィルムの搬送速度が遅いときには、
図2(B)に示すように太鼓型(クラウンロール)形状の冷却キャンロール構造を採用する特許文献4の装置(方法)は、クラウンロールに長尺樹脂フィルムを巻き付けて上述の「中だるみ部位」を伸ばす作用があるため効果的であった。
【0012】
しかし、特許文献4の装置(方法)は、真空中において長尺樹脂フィルムとロールのグリップ力が強くかつフィルムの搬送速度が遅いときには効果的であるが、フィルムの搬送速度を速めた場合(すなわち、スパッタリングカソードに大電力を印加して短時間の成膜を行う場合)、長尺樹脂フィルムの状態や歪の有無、ロールツーロール搬送系の誤差等が累積することで偶発的に発生するフィルム皺を十分に防止できない問題が存在した。
【0013】
このような背景の下、本発明者は、特許文献4に記載されたクラウン状の冷却キャンロールを用いると共に、前フィードロールを加熱ロールで構成し、かつ、長尺樹脂フィルムに対しその幅方向へ向けて張力を付与する幅拡げ機構を有するニップロールを前フィードロールに付設した表面処理装置(真空成膜装置)を提案している(特許文献5参照)。
【0014】
そして、特許文献5に記載の表面処理装置(真空成膜装置)によれば、成膜処理前における長尺樹脂フィルムを前フィードロール(加熱ロールで構成されている)により予め加熱し、かつ、加熱された長尺樹脂フィルムに対しニップロールの幅拡げ機構により幅方向へ向け張力を付与しながら上記長尺樹脂フィルムをクラウン状の冷却キャンロールに搬入させていることから、搬送張力により生じた長尺樹脂フィルムの「中だるみ部位」が上記前フィードロールの加熱作用とニップロールの幅拡げ作用並びにクラウン状冷却キャンロールの伸ばし作用により幅方向へ拡げられるため、長尺樹脂フィルムのフィルム皺を回避することが可能となるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平02−098994号公報
【特許文献2】特開平06−009616号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】特開平10−008249号公報
【特許文献5】特開2013−237896号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】“ The Mechanics of Web Handling ”, David R. Roisum, Ph.D, TAPPI PRESS, (1998) p.83-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、特許文献5に記載の表面処理装置(真空成膜装置)を用いた場合、長尺樹脂フィルムにおけるフィルム皺の発生を回避することは可能になった。
【0018】
しかし、特許文献5に記載の表面処理装置(真空成膜装置)は前フィードロールを加熱ロールで構成する必要があるため、従来の装置に較べてその消費電力が若干高くなる問題があり、更に、幅拡げ機構を有するニップロールが常に前フィードロールに接触する構造になっているため、ニップロールに起因する接触傷が長尺樹脂フィルムに付いてしまう問題も確認され、未解決な課題が依然として存在した。
【0019】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、特許文献4に記載された装置(方法)の解決課題、すなわち、長尺樹脂フィルムの状態や歪の有無、ロールツーロール搬送系の誤差等が累積することで偶発的に発生する長尺樹脂フィルムのフィルム皺を十分に防止できない課題、および、特許文献5に記載された表面処理装置(真空成膜装置)の未解決な課題が解消された真空成膜装置と真空成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段と、冷却キャンロールの近傍に配置された回転駆動される前フィードロールを真空チャンバー内に備え、ロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムが上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に巻き付けられると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に上記成膜手段により成膜処理を行う装置であって、上記前フィードロールが加熱ロールで構成されていない真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールの外周面が軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成され、上記前フィードロールの外周面に対し接離可能に制御されたニップロールが前フィードロールに付設されており、かつ、上記前フィードロールおよび上記冷却キャンロール表面が金属で構成されるか若しくは該表面に金属めっきが施されていると共に、上記ニップロール表面がゴム若しくは樹脂で構成されて
おり、更に、搬送中の耐熱性長尺樹脂フィルムに発生したフィルム皺を検出する皺検出手段が真空チャンバー内に設けられ、
当該皺検出手段からの信号に基づき前フィードロールの外周面に対し上記ニップロールが接離可能に制御されるようになっていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る第2の発明は、
回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段と、冷却キャンロールの近傍に配置された回転駆動される前フィードロールを真空チャンバー内に備え、ロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムが上記前フィードロールを介して冷却キャンロールの外周面に巻き付けられると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に上記成膜手段により成膜処理を行う装置であって、上記前フィードロールが加熱ロールで構成されていない真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールの外周面が軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成され、上記前フィードロールの外周面に対し接離可能に制御されたニップロールが前フィードロールに付設されており、かつ、上記前フィードロールおよび上記冷却キャンロール表面が金属で構成されるか若しくは該表面に金属めっきが施されていると共に、上記ニップロール表面がゴム若しくは樹脂で構成されて
おり、更に、上記前フィードロールの外周面に対し一定間隔で上記ニップロールが間欠的に接離するようになっていることを特徴とするものである。
【0022】
次に、本発明に係る第
3の発明は、
真空チャンバー内をロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムを、回転駆動される前フィードロールを介し回転駆動される冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面に沿って配置された熱負荷を伴う成膜手段により上記冷却キャンロールの外周面と接していない耐熱性長尺樹脂フィルムの表面側に成膜処理を行う方法であって、上記前フィードロールが加熱ロールで構成されていない真空成膜方法において、
上記冷却キャンロールの外周面を軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン状に形成し、上記前フィードロールおよび上記冷却キャンロール表面を金属で構成するか若しくは該表面に金属めっきを施し、かつ、接離可能に制御されたニップロールを上記前フィードロールに付設すると共に上記ニップロール表面をゴム若しくは樹脂で構成し、前フィードロールに搬入される耐熱性長尺樹脂フィルムにフィルム皺が検出された場合に上記ニップロールを前フィードロールに圧接させてフィルム皺を取り除くようにしたことを特徴とし、
第
4の発明は、
第
3の発明に記載の真空成膜方法において、
搬送中の耐熱性長尺樹脂フィルムに発生したフィルム皺を検出する皺検出手段を真空チャンバー内に配置し、当該皺検出手段からの信号に基づいて前フィードロールの外周面に対し上記ニップロールを接離可能に制御するようにしたことを特徴とし、
第
5の発明は、
第
3の発明または第
4の発明に記載の真空成膜方法において、
上記ニップロールが前フィードロールに接触しかつ前フィードロールから離反するまでの圧接時間を、ニップロールに耐熱性長尺樹脂フィルムが接触した時点から当該耐熱性長尺樹脂フィルムの接触部位が前フィードロールを経由し冷却キャンロールに搬入される直前までの時間を上限にして設定するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る真空成膜装置および真空成膜方法によれば、
太鼓型(クラウン状)の冷却キャンロールが適用されているため、長さ方向へ向けて張力(搬送張力)が印加された状態にある長尺樹脂フィルムの上記「中だるみ部位」を伸ばすことができ、かつ、前フィードロールが加熱ロールで構成されていないため、特許文献5に記載された装置と比較して消費電力の軽減が図れると共に、前フィードロールの外周面に対し接離可能に制御されたニップロールが前フィードロールに付設されているため、長尺樹脂フィルムの搬送速度を速めた場合において偶発的に発生する長尺樹脂フィルムのフィルム皺等を簡単に取り除くことが可能となる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1(A)は長尺樹脂フィルムに対し長さ方向へ向けて張力が印加されていない(すなわち張力開放状態)場合の長尺樹脂フィルム表面を示す平面図、
図1(B)は長尺樹脂フィルムに対し長さ方向へ向けて張力が印加(張力印加状態)された場合に生じる長尺樹脂フィルムの「中だるみ部位」を示す平面図、
図1(C)は
図1(B)のA−A’面断面図。
【
図2】
図2(A)は従来例に係る円筒状の冷却キャンロール面に長尺樹脂フィルムが巻き付けられた際に現れる「中だるみ部位」を示す概略断面図、
図2(B)は太鼓型(クラウン状)の冷却キャンロール面に長尺樹脂フィルムが巻き付けられた際に上記「中だるみ部位」が幅方向へ拡げられる状態を示す概略断面図。
【
図3】本発明に係る真空成膜装置および真空成膜方法の説明図。
【
図4】
図4(A)は、
図3の真空成膜装置を矢印A方向から見た「ニップロール」「前フィードロール」「冷却キャンロール」「長尺樹脂フィルム」「後フィードロール」の平面図、および、搬送される長尺樹脂フィルムの幅方向領域における進行具合の差異を曲線(フィルム皺でない)で示す説明図、
図4(B)は
図4(A)の側面図。
【
図5】
図5(A)はニップロールが前フィードロールに接していない解放時における長尺樹脂フィルムの幅方向領域における進行具合の差異を曲線(フィルム皺でない)で示す説明図とその側面図、
図5(B)はニップロールが前フィードロールに接触したニップ時における長尺樹脂フィルムの幅方向領域における進行具合の差異を曲線(フィルム皺でない)で示す説明図とその側面図。
【
図6】
図6(A)はニップロールが前フィードロールに接触したニップ時におけるニップロールの作用を示す説明図、
図6(B)はニップロールの作用によりフィルム皺が取り除かれた長尺樹脂フィルムの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0026】
尚、熱負荷を伴う成膜手段としてスパッタリングを例に挙げて具体的に説明する。
【0027】
(1)本発明に係る真空成膜装置
図3に示す成膜装置はスパッタリングウェブコータと称される装置で、ロールツーロール方式により搬送される耐熱性長尺樹脂フィルムの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に用いられる。
【0028】
具体的に説明すると、本発明に係る真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、
図3に示すように真空チャンバー(減圧室)50内に、耐熱性長尺樹脂フィルム52を巻き出す巻出ロール51と、長尺樹脂フィルム52を巻き取る巻取ロール64と、巻出ロール51と巻取ロール64間に設けられかつ内部で温調された冷媒が循環していると共にサーボモータにより回転駆動されるクラウン形状の冷却キャンロール56と、冷却キャンロール56の上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロール51から供給された長尺樹脂フィルム52を冷却キャンロール56に搬入させる前フィードロール55と、冷却キャンロール56の下流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に冷却キャンロール56から送り出される長尺樹脂フィルム52を上記巻取ロール64側へ搬出させる後フィードロール61が配置された構造を有しており、上記前フィードロール55にはその外周面に対し接離可能に制御されかつゴム製のフリーロールで構成されたニップロール65が付設されており、更に、上記冷却キャンロール56の対向側には熱負荷を伴う成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が冷却キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0029】
また、上記巻出ロール51から冷却キャンロール56までの上流側搬送路上には、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール53と、ゴム製ロールで構成されかつ長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサロール54と、サーボモータにて回転駆動される前フィードロール55がそれぞれ配置されている。
【0030】
そして、サーボモータにて回転駆動される冷却キャンロール56に対しその周速度が遅くなるように調整された前フィードロール55により長尺樹脂フィルム52に搬入張力が作用し、張力センサロール54から送り出されて冷却キャンロール56に向かう長尺樹脂フィルム52が冷却キャンロール56の外周面に密着し搬送されるようになっている。
【0031】
また、上記冷却キャンロール56から巻取ロール64までの下流側搬送路上にも、サーボモータにて回転駆動される後フィードロール61と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサロール62と、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール63がそれぞれ配置されている。
【0032】
そして、冷却キャンロール56に対しその周速度が同一若しくは速くなるように調整された上記後フィードロール61により長尺樹脂フィルム52に搬出張力が作用し、冷却キャンロール56から巻取ロール64側に向けて長尺樹脂フィルム52が排出されるようになっている。
【0033】
また、上記巻出ロール51と巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺樹脂フィルム52の張力バランスが保たれるようになっている。更に、冷却キャンロール56の回転とこれに連動して回転するサーボモータ駆動の前フィードロール55と後フィードロール61により、巻出ロール51から長尺樹脂フィルム52が巻き出されて上記巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0034】
また、スパッタリングウェブコータ(真空成膜装置)では、上述したように熱負荷を伴う成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が上記冷却キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0035】
そして、スパッタリング成膜に際しては、スパッタリングウェブコータの減圧室内を到達圧力10
-4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。スパッタリングウェブコータ(真空成膜装置)の形状や材質に関しては、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものが使用される。また、スパッタリングウェブコータにおける減圧室内の減圧状態を維持するため、スパッタリングウェブコータには、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が付設されている。
【0036】
尚、金属膜のスパッタリング成膜の場合には、板状のターゲット(図示せず)を使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題となる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率が高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。また、
図3に示すスパッタリングウェブコータ(真空成膜装置)は、熱負荷を伴う成膜手段としてスパッタリングを想定したものであることからマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が示されているが、熱負荷を伴う成膜手段が蒸着等の他の成膜手段である場合は、板状ターゲットに代えて他の成膜手段が設けられる。他の成膜手段としては、CVD(化学的気相成長)および蒸着法等が例示される。
【0037】
そして、
図3に示す本発明に係る真空成膜装置は、前フィードロール55の外周面に対し接離可能に制御されたニップロール65が付設され、ニップロール65はゴム製フリーロールで構成されると共に、冷却キャンロール56は円筒部が切削研磨加工等により軸方向中央部より軸方向両端部が低いクラウン形状になっていることを特徴とする。
【0038】
尚、上記冷却キャンロール56における軸方向中央部と軸方向両端部の直径差(クラウン量)は、搬送される長尺樹脂フィルムの種類、長尺樹脂フィルムの厚み、スパッタリング成膜時の熱負荷、成膜する膜厚、長尺樹脂フィルムの搬送速度等に依存するため、これ等の条件に基づき適正に設定することが好ましい。例えば、上記長尺樹脂フィルム52が厚さ10〜40μmのポリイミドフィルムで構成される場合、冷却キャンロール56における軸方向の長さ800mm当たり、その軸方向中央部より軸方向両端部が100〜1000μm低くなるように設定するとよい。軸方向中央部の高さが100μm未満の太鼓型(クラウンロール形状)では十分な効果が認められず、また、上記軸方向中央部の高さが1000μmを超えた太鼓型(クラウンロール形状)では長尺樹脂フィルム52の端部側が冷却キャンロール56から浮いてしまう傾向が認められ、長尺樹脂フィルム52の中央に皺が発生することがあるからである。
【0039】
(2)本発明に係る真空成膜装置におけるニップロールの作用
(2-1)クラウン状の冷却キャンロールによる作用
図4(A)は、
図3の「真空成膜装置」内を矢印A方向から見た「ニップロール14」「前フィードロール11」「冷却キャンロール10」「長尺樹脂フィルム13」および「後フィードロール12」の平面図であり、長尺樹脂フィルム13内に示された複数の曲線(フィルム皺でない)は、搬送される長尺樹脂フィルム13の幅方向領域における進行具合の差異を示したものである。但し、
図4(B)に示すように「ニップロール14」が作用していない(長尺樹脂フィルム13にニップロール14が触れていない)条件の場合を前提としている。
【0040】
すなわち、クラウン状の冷却キャンロール10は、軸方向中央部の円周が軸方向両端部の円周より長いため、長尺樹脂フィルム13は、冷却キャンロール10における搬入側と搬出側前後の「前フィードロール11」および「後フィードロール12」付近においてフィルムの幅方向に亘り均一に進行する訳でなく、
図4(A)の曲線で示されているように搬入側(上流側)の「前フィードロール11」付近では長尺樹脂フィルム13の幅方向中央部が先に進み、搬出側(下流側)の「後フィードロール12」付近では長尺樹脂フィルム13の幅方向中央部が遅れて出てくる。尚、「後フィードロール12」付近において長尺樹脂フィルム13の幅方向中央部が遅れて出てくる理由は、「冷却キャンロール10」の周速度に対して「前フィードロール11」の周速度が遅く設定される一方、「後フィードロール12」の周速度は「冷却キャンロール10」と同一若しくは速くなるように調整されているためである。すなわち、長尺樹脂フィルム13が「冷却キャンロール10」に搬入される際には、長尺樹脂フィルム13に搬入張力が作用するため長尺樹脂フィルム13全体が「冷却キャンロール10」に巻き付けられた状態で進行(すなわち、フィルム幅方向に亘り均一に進行)する一方、長尺樹脂フィルム13が「冷却キャンロール10」から搬出される際には、長尺樹脂フィルム13に搬出張力が作用し長尺樹脂フィルム13の幅方向中央が搬送方向と逆の方向へ引っ張られた状態で進行するためである。
【0041】
(2-2)ニップロールの作用
図5(A)と
図5(B)は、
図3の「真空成膜装置」内を矢印A方向から見た「ニップロール」「前フィードロール」および「長尺樹脂フィルム」の説明図(平面図)と側面図であり、長尺樹脂フィルム内に示された複数の曲線(フィルム皺でない)は搬送される長尺樹脂フィルムの幅方向領域における進行具合の差異を示したものである。
【0042】
まず、ゴム製のフリーロールで構成された「ニップロール22」が「前フィードロール20」に接していない「解放時におけるニップロール22」について
図5(A)を用いて説明する。「ニップロール22」が解放しているとき、長尺樹脂フィルム24は「前フィードロール20」の外周面をある程度滑ることが可能になるため、上述したように「前フィードロール20」付近では長尺樹脂フィルム24の幅方向中央部が先に進んでいる(長尺樹脂フィルム24内の曲線参照)。
【0043】
また、ゴム製のフリーロールで構成された「ニップロール23」が「前フィードロール21」に圧着(接触)している「作用時におけるニップロール23」について
図5(B)を用いて説明すると、長尺樹脂フィルム25は「前フィードロール21」と完全に密着するため、「前フィードロール21」付近では長尺樹脂フィルム25の幅方向に亘り均一に進むよう一瞬なる(長尺樹脂フィルム25内の曲線と直線参照)。
【0044】
そして、ゴム製のフリーロールで構成された「ニップロール31」が「前フィードロール30」に圧着(接触)した瞬間、
図6(A)に示すように長尺樹脂フィルム32はフィルムの幅方向中心部から先に「ニップロール31」に拘束され、その拘束は長尺樹脂フィルム32が進むにつれて両端部に広がって行くため、結果的に一瞬フィルムを広げる効果がある。もちろん、この効果は継続的に持続するものではなく、長尺樹脂フィルム32の幅方向中央部が先に進んでいるときのみ有効になる。
【0045】
従って、長尺樹脂フィルム13をニップして拘束する区間は、
図4(B)に示すように長くとも「ニップロール14」の直下の位置[
図4(B)中のB位置]から長尺樹脂フィルム13が「冷却キャンロール10」に接触する位置[
図4(B)中のC位置]までに解放することが望ましい。言い換えると、「ニップロール」が「前フィードロール」に接触しかつ「前フィードロール」から離反するまでの圧接時間については、「ニップロール」に長尺樹脂フィルムが接触した時点から当該長尺樹脂フィルムの接触部位が「前フィードロール」を経由し「冷却キャンロール」に搬入される直前までの時間を上限にして設定することが望ましい。「ニップロール14」を解放しない場合、「クラウン状の冷却キャンロール10」に長尺樹脂フィルム13が密着することになるため、無理な応力が加わって更なるフィルム皺を発生させてしまうことがある。
【0046】
(2-3)ニップロールを前フィードロールに圧着させるタイミング
前フィードロールにニップロールを圧着させるタイミングは、偶発的にフィルム皺が長尺樹脂フィルムに発生した時点を肉眼で検知して決定するか、あるいは、カメラ等の受光器を備えたフィルム皺連続画像検出器(皺検出手段)でフィルム皺を検出して決定する方法等が例示される。
【0047】
更に、長尺樹脂フィルムの状態や歪の有無、ロールツーロール搬送系の誤差等が累積することで偶発的に発生してしまうフィルム皺に対し、フィルム皺発生の有無を検出することなく一定間隔でニップロールを間欠的に接離させる方法を採用した場合にも、ロールツーロール搬送系の誤差等の累積を解消できるため有効な方法である。
【0048】
(3)耐熱性長尺樹脂フィルムと銅張積層樹脂フィルム基板
(3-1)耐熱性長尺樹脂フィルム
耐熱性長尺樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルム等が例示される。
【0049】
(3-2)銅張積層樹脂フィルム基板
本発明に係る真空成膜装置および真空成膜方法を用いて、銅張積層樹脂フィルム基板を製造することができる。
【0050】
上記銅張積層樹脂フィルム基板としては、耐熱性樹脂フィルム表面にNi、Ni系合金、クロム等からなる下地金属層と、下地金属層の表面に積層された銅薄膜層とで構成された構造体が例示される。このような構造を有する銅張積層樹脂フィルム基板は、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記銅薄膜層)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0051】
上記Ni合金等からなる層はシード層(下地金属層)と呼ばれ、銅張積層樹脂フィルム基板の電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。そして、シード層には、Ni−Cr合金またはインコネル、コンズタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができる。また、銅張積層樹脂フィルム基板の金属膜(銅薄膜層)を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。尚、電気めっき処理(すなわち、電解めっき処理)のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0052】
また、上記銅張積層樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが挙げられ、銅張積層樹脂フィルムとしての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0053】
尚、上記銅張積層樹脂フィルム基板として、耐熱性長尺樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明に係る技術的範囲が以下の実施例の内容に限定されるものではない。
【0055】
図3に示す真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、耐熱性長尺樹脂フィルム52には、幅500mm、長さ1500m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。
【0056】
また、冷却キャンロール56は、直径900mm、幅750mmのステンレス製で、キャンロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。また、冷却キャンロール56は、冷却制御温度20℃の条件下において、ロール軸方向中央部の直径がロール軸方向両端部の直径より約400μm大きくなるように研削研磨加工されたものである。
【0057】
また、モータ駆動される前フィードロール55と後フィードロール61は直径150mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきがそれぞれ施されている。
【0058】
更に、前フィードロール55の外周面に対し接離可能に設けられたニップロール65は、直径70mm、幅750mmのステンレス製で、ロール表面がフッ素ゴム(商品名:バイトン)で被覆されたグリップ力に優れるロールを採用した。尚、
図4(B)に示した「ニップロール」直下の位置[
図4(B)中のB位置]から長尺樹脂フィルムが「冷却キャンロール」に接触する位置[
図4(B)中のC位置]までの区間は約300mmであった。
【0059】
そして、耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)52に成膜される金属膜はシード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、かつ、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58、59、60にはCuターゲットを用い、更に、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は20kWの電力制御で成膜を行った。尚、各カソードへの印加電力は、スパッタ熱に起因するフィルム皺が発生する限界に近いレベルである。
【0060】
また、上記巻出ロール51と巻取ロール64の張力は80Nとし、巻出ロール51に上記耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性長尺樹脂フィルム)52をセットし、かつ、キャンロール56を経由して耐熱性ポリイミドフィルム52の先端部を巻取ロール64に取り付けた。
【0061】
また、真空チャンバー50を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0062】
そして、耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性長尺樹脂フィルム)52の搬送速度を4m/分(約67mm/秒)にした後、各マグネトロンスパッタカソード57、58、59、60にアルゴンガスを導入して電力を印加し、Ni−Cr膜のシード層とCu膜の成膜を開始した。
【0063】
[確 認]
(1)ニップロール65を離反させた状態(前フィードロール55の外周面にニップロール65を圧接させない状態)で、上記耐熱性長尺樹脂フィルム(長さ1500m)52の成膜を行ったところ、偶発的なフィルム皺は合計8回発生していた。フィルム皺の発生はいずれも成膜長の後半に増加する傾向が確認された。この原因は、スパッタ成膜時における熱負荷が真空成膜装置の内部に蓄積し、部分的に高温になってしまった箇所が存在する結果、これに伴う搬送系のミスアライメントに起因したものと推定している。
【0064】
(2)また、耐熱性長尺樹脂フィルム(長さ1500m)52の上記成膜中において、冷却キャンロール56上の耐熱性長尺樹脂フィルム52を肉眼にて観察し、フィルム皺が確認されたときに前フィードロール55外周面にニップロール65を約2秒間に圧着した。この間に耐熱性長尺樹脂フィルム52は約134mm(67mm×2秒)進行する。その結果、冷却キャンロール56上における全てのフィルム皺は解消され、巻取ロール64にフィルム皺の無い銅張積層長尺樹脂フィルムを巻き取ることができた。
更に、巻き取った銅張積層長尺樹脂フィルムにはニップロール65の圧接に起因する接触傷の発生は無かった。
【0065】
(3)更に、冷却キャンロール56上の耐熱性長尺樹脂フィルム52を肉眼にて観察する方法を採らずに、42秒(耐熱性長尺樹脂フィルム52が冷却キャンロール56を1周分進行する時間)間隔で、ニップロール65を約2秒間ニップさせる制御を行った。
この結果、冷却キャンロール56上の耐熱性長尺樹脂フィルム52にフィルム皺は発生せず、巻取ロール64にフィルム皺の無い銅張積層長尺樹脂フィルムを巻き取ることができた。
【0066】
更に、巻き取った銅張積層長尺樹脂フィルムにはニップロール65の圧接に起因する接触傷の発生は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る真空成膜装置および真空成膜方法によれば、クラウン状の冷却キャンロールが適用されているため長さ方向へ向けて張力(搬送張力)が印加された状態にある長尺樹脂フィルムの「中だるみ部位」を伸ばすことができ、かつ、前フィードロールの外周面に対し接離可能に制御されたニップロールが付設されているため長尺樹脂フィルムの搬送速度を速めた場合において偶発的に発生する長尺樹脂フィルムのフィルム皺等を簡単に取り除くことが可能となる。このため、液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線基板に用いられる銅張積層樹脂フィルムの製造法として適用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0068】
10 冷却キャンロール
11 前フィードロール
12 後フィードロール
13 耐熱性長尺樹脂フィルム
14 ニップロール
20 前フィードロール
21 前フィードロール
22 ニップロール
23 ニップロール
24 耐熱性長尺樹脂フィルム
25 耐熱性長尺樹脂フィルム
30 前フィードロール
31 ニップロール
32 耐熱性長尺樹脂フィルム
50 真空チャンバー
51 巻出ロール
52 耐熱性長尺樹脂フィルム
53 フリーロール
54 張力センサロール
55 前フィードロール
56 冷却キャンロール
57 マグネトロンスパッタリングカソード(成膜手段)
58 マグネトロンスパッタリングカソード(成膜手段)
59 マグネトロンスパッタリングカソード(成膜手段)
60 マグネトロンスパッタリングカソード(成膜手段)
61 後フィードロール
62 張力センサロール
63 フリーロール
64 巻取ロール
65 ニップロール