(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の板状部材または棒状部材は、前記容器の内周面の一周にわたって等間隔で配置され、かつそれぞれが前記横軸に平行に形成される、請求項4に記載の被覆処理装置。
前記容器内で揮発した前記被覆液の溶媒を前記容器から取り出して前記溶媒を回収する溶媒回収系を備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の被覆処理装置。
前記溶媒回収系は、前記容器内で揮発した前記被覆液の溶媒を前記容器から取り出した後に冷却して前記溶媒を回収する冷却部を備える、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の被覆処理装置。
前記溶媒回収系は、前記容器内で揮発した前記被覆液の溶媒の吸引ノズルが、前記スプレーノズルの近傍であって、かつ前記被覆液を噴霧する方向の反対側に配置される、請求項7から請求項12のいずれか1項に記載の被覆処理装置。
前記スプレーノズルは、2流体ノズルが使用され、噴霧される前記被覆液のミスト径が10μm以下である、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の被覆処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<被覆処理装置>
本発明の実施形態に係る被覆処理装置は、粒子の表面に被覆液を付着させてこの被覆液を乾燥させ、粒子の表面に被覆層を形成するまでの表面処理を連続的に行うものである。本発明の実施形態の被覆処理装置(以下、単に「装置」ということがある。)の具体的な態様は以下のようになっている。ただし、以下に示す構成の一部は削除されることがある。
1)粒子を処理するための密閉可能な容器と、容器内で被覆液を噴霧するスプレーノズルと、を備える。
2)容器内の粒子を流動させて撹拌する機構と、被覆液を噴霧するスプレーノズルを容器に固定する機構と、容器外から容器内の粒子を加熱する機構と、容器内を減圧して排気する機構と、揮発した有機溶媒を回収する機構と、を備える。
3)被覆液のノズルへの目詰まりを防止する機構と、揮発した溶媒を容器の外部で冷却して回収する機構と、を備える。
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、水平面に平行な平面をXY平面とする。このXY平面において、後述する容器1の横軸AX1の方向をX方向と表記し、X方向に直交しかつ後述する揺動軸AX2の方向をY方向と表記する。また、XY平面に垂直な方向を上下方向またはZ方向と表記する。また、本明細書において上方は+Z方向であり、下方は−Z方向である。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の方向が+方向であり、矢印の方向とは反対の方向が−方向であるものとして説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る被覆処理装置の一例を示す概略図である。
図1に示すように、被覆処理装置1は、粒子2に被覆処理するための横長型(または横型)の密閉性の高い円筒状の(または円柱状の)容器3を備える。容器3は、水平面(XY面)またはほぼ水平面、すなわち、粒子2が容器3の一方の端に偏らない程度の面、例えば水平面から10°以内の面、に平行な横軸AX1を囲むように連続する内周面3B(
図2等参照)を有し、かつ粒子2を投入して密閉可能である。なお、粒子2は、容器3に備える不図示の開閉扉を介して投入または回収される。また、容器3の内周面3Bは、横軸AX1まわりに連続する曲面であるため、容器3を回転させることにより、粒子2を連続して流動させることができる。
【0023】
容器3の材質は、金属製もしくはガラス製のいずれでもよいが、安全性から腐食しにくい金属、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属製が好ましい。また、容器3の形状は円筒状の密閉構造とすることにより、後述する回転駆動部5などにより回転が容易となるため好ましい。ただし、容器3は、円筒状に限定されず、例えば、断面が楕円状、長円状、または多角形状であってもよいし、一部に曲率が異なる部分が形成されてもよい。また、
図1では横長型(X方向に長い)容器3を示しているが、X方向に短くてもよい。例えば、容器3のX方向の長さが、容器3の直径より短くてもよい。
【0024】
容器3は、不図示の架台に設置された2本の駆動ローラ4上に載置されて支持される。不図示の架台は、例えば工場等の建屋内の床面等に設置される。2本の駆動ローラ4は、それぞれ横軸AX1に平行のX方向に沿って、かつY方向に所定の間隔をあけて配置される。この所定の間隔は、容器3の直径より小さく設定される。駆動ローラ4は、回転駆動部5を駆動することにより回転し、容器3を回転させる。回転駆動部5は、例えば、電動モータ等が使用されるが、これに限定されず、駆動源が油圧等であってもよい。また、駆動ローラ4の回転数(すなわち容器3の回転数)は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。
【0025】
また、容器3を回転させる機構は、上記した駆動ローラ4を用いることに限定されず、任意の機構を用いることができる。また、このような、容器3を横置きとして用いる横型の装置は、ドラム式構造が好ましく、例えば、ドラムミキサ、真空振動乾燥機、ロッキングミキサ(愛知電機社製)、レーディゲミキサ、リボンミキサ等の他、ロータリキルン、あるいはボールミル架台に円筒状容器を載置した装置でも適用可能である。
【0026】
容器3の+X側及び−X側は、端面3Aによって容器3の密閉構造を形成している。このうち、+側の端面3Aのほぼ中央部分に、ロータリジョイント6が設けられる。ロータリジョイント6には、後述するスプレーノズル7の配管8、9、及び同じく後述する溶媒回収系12の配管14を貫通して配置される。このロータリジョイント6は、容器3とのジョイント部にベアリングが設けられており、容器3が回転してもベアリング部が回転するだけで配管8、9、14を保持することができ、配管8、9先端のスプレーノズル7や、配管14先端の吸引ノズル13を容器3の一定位置に配置させることができる。なお、
図1では、配管8、9、14を+側の端面3Aに配置しているがこれに限定されず−X側の端面3Aに配置してもよい。また、配管8、9、14を同一の端面3Aに配置することに限定されず、例えば、配管8、9を+側の端面3Aに配置し、配管14を−X側の端面3Aに配置してもよい。
【0027】
また、被覆処理装置1は、
図1に示すように、容器3内の粒子2に対して被覆液Lを噴霧するスプレーノズル7を備える。スプレーノズル7は、容器3内の粒子2に被覆液Lを均一に噴霧できるように、容器3の横軸AX1上あるいは横軸AX1近傍(容器3の中央付近)に設置される。ただし、スプレーノズル7は、容器3内の粒子2に被覆液Lを均一に噴霧できる位置であれば横軸AX1上あるいは横軸AX1近傍に配置されることに限定されない。また、スプレーノズル7は、被覆液Lを上向きに噴霧するように設定されるが、これに限定されず、例えば、斜め上方に向けて、または横向きまたは下向きに被覆液Lを噴霧してもよい。
【0028】
スプレーノズル7は、流動した粒子2や被覆液L中に含まれることがある微細粒子による目詰まりを防止する手段を有するものが用いられ、例えば、被覆液Lとアトマイズ用気体を併せた2流体ノズルが用いられる。2流体ノズルとは、液を噴出すると同時に液のアトマイズ用気体を噴出するため、気体の圧力を用いることで勢いよく噴霧することができ、目詰まりを防止することができる。なお、スプレーノズル7は、1流体ノズルが用いられてもよい。1流体ノズルは、気体の導入がなく、目詰まりしやすいため、高圧噴霧するなどして目詰まりを防止することが好ましい。
【0029】
スプレーノズル7は、
図1に示すように、配管8、9に接続される。配管8は、容器3の外部から被覆液Lをスプレーノズル7に導入するための被覆液ポンプ10に接続される。また、配管9は、同じく容器3の外部からアトマイズ用気体をスプレーノズル7に導入するための気体ポンプ11に接続される。アトマイズ用気体としては、例えば、空気の他に、窒素ガスなど被覆液Lや粒子2に対して不活性な気体が使用される。被覆液ポンプ10は、必要な送液量、液圧に制御できるものであればよく、チューブポンプ、モーノポンプ、ダイアフラムポンプ等、吐出量に応じて選択することができる。また、気体ポンプ11は、必要なアトマイズ用気体を供給可能な任意のものを選択することができる。また、スプレーノズル7は、粒子2の処理量に応じて数を増やすことができる。この場合、横軸AX1近傍においてX方向に並べて複数のスプレーノズル7を配置してもよい。
【0030】
スプレーノズル7から被覆液Lを噴霧するが、被覆処理する粒子2として、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定における体積基準の50%積算粒径であるD50を平均粒径として粒径3〜20μm、より好ましくは5〜18μmを対象とした場合、噴霧するミスト径を小さくすることで、乾燥時に粒子間に発生する液だまりによる凝集が発生しにくい。このため、噴霧される被覆液Lのミスト径は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。例えば、2流体ノズルではミスト径を2〜3μmまで絞ることができる。また、被覆液Lの噴霧量やアトマイズ用気体の供給量(被覆液ポンプ10や気体ポンプ11の駆動)は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。
【0031】
また、被覆処理装置1は、
図1に示すように、容器3内で被覆液Lから揮発した有機溶媒を回収する溶媒回収系12を備える。溶媒回収系12は、吸引ノズル13と、配管14と、捕集部15と、冷却部16と、真空装置17と、を備える。吸引ノズル13は、例えば、端面を解放した管、あるいは側面に穴開け加工した管を用いることができる。吸引ノズル13の設置位置は、スプレーノズル7の近傍でもよいが、その際はスプレーノズル7による被覆液Lの噴霧方向とは逆向きに配置する必要がある。これは吸引ノズル13からの吸引により、噴霧したミストを直接吸引することの防止や、噴霧したミストの角度が変わり、ミストが偏って噴霧されることを防止するためである。また、吸引ノズル13は、ミストを直接吸引しない位置に設置することが好ましく、その配置は任意である。ただし、吸引ノズル13の位置が下方すぎると粒子2の吸い込み量が増加するため、容器3のほぼ中央付近に配置することが好ましい。
【0032】
配管14は、上述したようにロータリジョイント6を介して配置され、吸引ノズル13により吸引したガスを容器3の外部に取り出す。配管14の他端は捕集部15に接続される。捕集部15は、排出された溶媒蒸気を含むガスと粒子2とを分離する濾過フィルタである。捕集部15は、冷却部16まで粒子2が達しないようにするためのものであり、バグフィルタ等が用いられる。フィルタの材質は、金属製、布製のいずれでもよいが、粒子2を捕集可能な目開きであればよく、10μm以下の目開きのものが好ましい。フィルタの目開きの下限は、特に限定されないが、例えば1μm以上である。
【0033】
このような目開きのフィルタを使用しても、粒子2の粒度分布内には微細な粒子も含まれていることから、フィルタを通過するものや長時間作業でフィルタに目詰まりするものが発生することがある。これを解消するために、被覆液Lの噴霧と容器3内のガスの排出とを交互に行う、間欠式の実施が好ましい。具体的には被覆液Lの噴霧後、粒子2を攪拌した後に容器3の回転または攪拌を停止し、粒子2の舞い上がりが収まった時点で容器3内のガスの排出(例えば真空吸引)を開始する。これにより粒子2の粉末のフィルタ通過や目詰まりは大きく緩和される。さらにフィルタまでの配管14の長さや、容器3内の真空度、被覆液Lの噴霧量、容器3内の乾燥温度、粒子2に対する攪拌速度等を最適化することにより、一層フィルタの目詰まり抑制の効果を向上させることができる。
【0034】
捕集部15を通過したガスは、冷却部16に導入される。冷却部16は、溶媒蒸気を含むガスを冷却するコンデンサー部(冷却塔)を含んで構成される。このコンデンサー部で冷却されることにより、ガス中から有機溶媒が回収される。有機溶媒の回収率は例えば80%以上となるため、冷却部16より後段の排出ガスは無害化される。被覆液Lの有機溶媒として主にアルコール類を用いた場合、原料に占める溶媒のコストは非常に大きいものであり、従来技術と比べて、溶媒の回収、再利用が可能なことは、コスト面、環境側面で効果が大きい。また、従来のように再利用せずに燃焼して処理することが不要である。なお、コンデンサー部で冷却されて回収された有機溶媒は、例えば冷却部16の下部16Aに溜められて回収される。
【0035】
真空装置17は、容器3内を吸引して減圧することにより、吸引ノズル13から容器3内のガスを配管14を介して捕集部15及び冷却部16に導入するために用いられる。真空装置17としては任意の装置が選択される。例えば、真空装置17として、ロータリポンプや、ダイアフラムポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプ、などの真空ポンプが用いられる。また、容器3内の吸引量や吸引のタイミング(すなわち真空装置17の駆動や停止など)は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。
【0036】
なお、溶媒回収系12は、上記した構成に限定するものではなく、被覆液Lから揮発した溶媒を容器3から取り出して回収可能な任意の構成を適用することができる。また、本実施形態の被覆処理装置1は、溶媒回収系12を備えるか否かは任意であり、溶媒回収系12がなくてもよい。
【0037】
また、被覆処理装置1は、
図1に示すように、容器3内を加熱するための加熱部18を備える。加熱部18は、被覆液Lを噴霧した後の溶媒を揮発させ、乾燥を促すためのものである。
図1では容器3の外周部に加熱部18を設置しているが、これに限定されない。加熱部18として、容器3内部の温度を有機溶媒の揮発温度、例えば、50〜100℃まで加熱することができる機能であればよく、例えば、容器3の外周に熱媒が流れるようなジャケットを設けることや、マイクロ波を用いた加熱の他に、被覆処理装置1全体を加熱される環境下に設置することでもよい。また、容器3に与える熱量(すなわち加熱部18の駆動)は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。また、本実施形態の被覆処理装置1は、加熱部18を備えるか否かは任意であり、加熱部18がなくてもよい。
【0038】
また、被覆処理装置1は、
図1に示すように、容器3の内周面3Bに沿って粒子2を流動させかつ粒子2を撹拌する撹拌機構19を備える。この撹拌機構19により、粒子2を容器3において撹拌して、各粒子2に対して均一に被覆液Lを付着させることが可能となる。
【0039】
図2は、攪拌機構19の一例を示す概略図である。
図2(A)に示すように、撹拌機構19として、容器3の内周面3Bの一部から内側に突出する4枚の板状部材(邪魔板)20が用いられる。4枚の板状部材20は、容器3の内周面3Bの一周にわたって等間隔で配置され、かつそれぞれが横軸AX1に平行に形成される。なお、板状部材20の数は任意に設定可能であり、例えば1枚から3枚、あるいは5枚以上であってもよい。また、複数の板状部材20は等間隔に配置されることに限定されず、間隔が異なってもよい。また、板状部材20の内周面3Bからの突出量は任意に設定され、各板状部材20で突出量が同一でもよく、また突出量が異なってもよい。
【0040】
この板状部材20により、容器3を回転させると、
図2(B)に示すように、粒子2は板状部材20の移動によって持ち上げられた後に落下する。この粒子2の動作が繰り返されることにより粒子2を効率よく撹拌することができる。また、粒子2は板状部材20によって持ち上げられた後に落下するだけなので、粒子2へのダメージが少なく、攪拌性を向上することができる。また、撹拌機構19として板状部材20を用いることに限定されず、棒状部材など、内周面3Bから突出して粒子2を撹拌可能なものであれば適用可能である。また、板状部材20等の取り付け位置は、粒子2の処理量や、容器3の回転速度等によって変えることができる。
【0041】
被覆処理装置1における粒子2の撹拌は、粒子2を流動させて均一に被覆液Lを付着させることができればよい。被覆液Lの有機溶媒にアルコールを含む場合、容器3内を加熱により乾燥させているため、噴霧して粒子2に付着すると同時に被覆液Lは瞬時に乾燥されてしまう。そのため、粒子2の動きを活発にして均一に被覆するため、容器3の回転数を上げる等、攪拌を強める等の工夫がされてきたが、本実施形態では、板状部材20を設置することで、容易に粒子2を撹拌して流動させることができ、粒子2に対して均一に被覆処理することが可能となっている。
【0042】
図3は、撹拌機構19の他の例(撹拌治具)を示す概略図である。
図3(A)に示すように、撹拌機構19として、容器3の内周面3Bに沿って移動する複数の撹拌羽(へら)21が用いられる。複数の撹拌羽21は、横軸AX1に沿って配置された棒状部材22から延びる棒状の接続部材23の先端に取り付けられる。撹拌羽21の先端は、容器3の内周面3Bから隙間をあけた状態となっている。棒状部材22は、容器3の端面3Aにあるロータリジョイント6から容器3の内外にわたって配置されており、羽駆動部24を駆動することにより回転可能である。接続部材23は、棒状部材22のX方向に沿って所定間隔で反対の方向に交互に延びた状態で設けられる。撹拌羽21の形状は、例えば、リボン型、パドル型、アンカ型のいずれでもよく、粒子2を撹拌して流動させることができればよい。
【0043】
羽駆動部24を駆動して棒状部材22を回転させることにより、
図3(B)に示すように、粒子2は撹拌羽21の移動によって持ち上げられた後に落下する。この粒子2の動作が繰り返されることにより粒子2を効率よく撹拌することができる。なお、撹拌羽21を移動させる際、容器3は撹拌羽21と逆向きまたは同じ向きに回転させてもよく、また、容器3を回転させなくてもよい。容器3を回転させない場合は、容器3を回転させる回転駆動部5等(
図1参照)が不要である。また、撹拌羽21の数や棒状部材22から延びる方向については図示の形態に限定されず、任意に設定可能である。また、撹拌羽21の回転速度等は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。
【0044】
本実施形態は、横長の容器3を有する横型の被覆処理装置1であり、縦長の容器を有する竪型の装置(後述する
図6の装置)とは異なり、撹拌羽21と容器3の内周面3B間のクリアランスを狭めたり、棒状部材22の回転に大きな力を必要とすることなく、粒子2を流動させて撹拌することができる。このため、撹拌羽21と内周面3Bとの間に粒子2が入り込んでも、摩擦等により粒子2の破壊など、粒子2がダメージを受けることはない。
図3(B)に示すように、横型の場合、撹拌羽21の回転に伴って粒子2は自然落下するため、低速の回転でも粒子2は簡単に流動して撹拌される。
【0045】
図4は、容器3を揺動した状態の一例を示す概略図である。
図4(A)に示すように、被覆処理装置1は、揺動軸AX2を中心として、容器3を搖動させる揺動駆動部25を備えてもよい。揺動軸AX2は、横軸AX1と直交しかつ水平面(XY面)またはほぼ水平面に平行に設定される。また、揺動軸AX2は、容器3のX方向のほぼ中央に設定されるが、これに限定されず、容器3の+側または−X側に偏って設定されてもよい。容器3は、揺動駆動部25を駆動することにより、
図4(B)に示すように、揺動軸AX2を中心として揺動する。これにより、容器3内の粒子2は、容器3の揺動に伴って流動し、撹拌される。なお、容器3を搖動させる回転量は任意に設定可能である。また、揺動駆動部25の駆動は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。
【0046】
なお、上記した容器3の揺動は、
図2に示すような板状部材20を備える撹拌機構19と併せて用いてもよい。この場合、容器3は、横軸AX1を中心として回転しながら、揺動軸AX2を中心として揺動する。これにより、粒子2は、より一層撹拌される。また、上記した容器3の揺動は、
図3に示すような撹拌羽21を備える撹拌機構19と併せて用いてもよい。この場合、撹拌羽21を回転しながら、揺動軸AX2を中心として容器3を揺動する。これにより、粒子2は、より一層撹拌される。なお、
図4に示すような、容器3を揺動させるか否かは任意である。
【0047】
図5は、撹拌機構19の他の例を示す概略図である。
図5に示すように、被覆処理装置1は、容器3を支持する支持部26を備えるとともに、支持部26を介して容器3を振動させる振動駆動部27を備えてもよい。容器3は4本の支持部26により支持される。振動駆動部27は、これら支持部26のうち少なくとも1本を加振することにより容器3を振動させる。これにより、容器3内の粒子2は、容器3の振動(例えば上下動)に伴って容器3の底部に滞留することなく流動し、撹拌される。なお、容器3に与える振動の周波数や振幅は任意に設定可能であり、また、連続的に振動させてもよく、断続的に振動させてもよい。また、振動駆動部27の駆動は、不図示の制御装置によって制御されてもよく、また、手動で設定してもよい。
【0048】
また、支持部26は、
図1に示すような駆動ローラ4であってもよい。すなわち、振動駆動部27は、駆動ローラ4を加振することにより容器3を振動させてもよい。この場合、容器3は、回転駆動部5(
図1参照)による駆動ローラ4の回転により回転しながら、振動駆動部27による駆動ローラ4の加振により振動することになる、これにより、粒子2は、より一層撹拌される。
【0049】
本実施形態の被覆処理装置1は、
図1に示す形態から撹拌機構19を除いた形態であってもよい。すなわち、本実施形態の被覆処理装置1は、少なくとも、横軸AX1を中心として回転する容器3と、容器3内で粒子2に対する被覆液Lを噴霧するスプレーノズル7と、容器3内で揮発した被覆液Lの溶媒を容器3から取り出して溶媒を回収する溶媒回収系12と、を備える形態であってもよい。このような形態であっても、粒子2に対して被覆液Lにより適切に被覆処理を行うことができ、かつ、溶媒回収系12により容器3内のガスから溶媒を回収して被覆処理に要するコストを低減することができる。
【0050】
また、被覆液L中に高沸点の有機溶媒を若干加えておくことで、瞬間的な乾燥による局部的な被覆形成を抑制することができ、粒子2の攪拌・流動を弱めても、粒子2内に浸透して被覆液Lの展伸性が行われるため、均一な被覆が可能であり好ましい。
【0051】
ここで、本実施形態の被覆処理装置1との比較のため、従来の被覆処理装置を参考例として説明する。
図6は、従来の被覆処理装置の参考例を示す概略図である。
図6に示すように、従来の被覆処理装置100は、粒子2に被覆処理するための竪型の容器103と、容器103内の底部に設けられた回転盤104と、容器103の下部に設けられて回転盤104を回転駆動する動力部105、粒体2を流動させるための気体を供給する装置108と、流動用の気体を導入するために容器103の下方に設けられた気体導入口109と、気体排出口112より排出されたガスから粒子2を分離する装置110と、処理された粒体2が気体排出口112から排出するのを防止するフィルタ111と、で構成された転動流動装置に、容器103の外部より被覆液Lを導入するために容器103の下方に設けられた処理液導入路106と、処理液導入路106近くに設けられて被覆液Lを導入するためのアトマイズ用気体導入路107と、を備えたものである。
【0052】
この被覆処理装置100においては、気流によって粒子2を流動させており、流動状態にある粒子2はフィルタ111によって、噴霧時に使用される気体および流動するための気体と分離され、ほとんどが容器103内に留まる。しかしながら、処理できる粒子2の径はフィルタ111の網目の大きさから制限され、通常、レーザー回折散乱法による粒度分布測定における体積基準の50%積算粒径であるD50を平均粒径として、D50=10μm以下の粒子は、フィルタ111で捕集されず、排気と共に容器103外に排出されることがあるため、処理できない。しかも、長時間の被覆処理を行う場合、フィルタ111に目詰まりが生じ、それ以上の処理が困難になる場合がある。このため、定期的なフィルタ111の清掃、もしくは交換が頻繁に必要となる。大量の粒子2を処理する量産の場合、フィルタ111の清掃もしくは交換により、稼働を停止しなければならず、連続運転ができないため、生産性が低下してコスト増となるという問題がある。
【0053】
さらに、短時間で乾燥させる必要から、被覆処理に用いる被覆液L中には、通常、有機溶媒を含み、例えばエタノールなどが溶媒中に多く含まれるため、粒子2を流動させる気体を系外に排出する際、気体と共に揮発した有機溶媒が大気中に放出されるため、環境悪化を招く恐れが生じる。そこで、上述した特許文献4(特開2012−143725号公報)のように、一般的には排出ガスを活性炭フィルタに通過させ、有害成分を吸収することを試みられている。しかしながら、有機溶媒が回収できずにコスト増となるという問題がある。さらに、被覆処理装置100で使用される気体の流量は、例えば0.2〜0.3m
3/時と非常に大きく、かつ噴霧する被覆液L中の有機溶媒量が1〜5g/分と小さいため、気流中の有機溶媒濃度が薄すぎて、溶媒蒸気が活性炭に吸着するまえに気体と共に系外に排出されてしまい、回収はおろか吸着もできないという問題があった。
【0054】
また、被覆処理装置100のように、竪型の攪拌装置の場合、多くは容器103の底部に攪拌用の回転盤(またはロータ、攪拌羽など)104を設け、高速に攪拌することにより粒子2をはじき飛ばして粒子2を上下動させることにより流動させている。竪型の装置では、容器103は縦に長いため、投入される粒子2は底部に多く堆積するため、粒子2を上下動させるには大きな動力が必要となる。このため、高速で回転する回転盤104に衝突した粒子2は遠心力で飛ばされて容器103の側内面に衝突し、粒子2の表面に損傷が生じてしまう。また、回転盤104と容器103の底部との間には僅かな隙間があるため、その隙間に粒子2が入り込み、摩擦等により粒子2が破壊されてしまう。
【0055】
これに対し、本実施形態の被覆処理装置1は、容器3を横型とした装置であるため、例えば、
図3に示すような撹拌羽21などの攪拌治具を備えるものであっても、構造上、撹拌治具による攪拌時において粒子2に与える損傷を大幅に軽減することができる。すなわち、容器3の底部面積が竪型に比べて広いため、堆積も多くならず粒子2は動きやすい。また、円筒状の容器3では、底部は曲面を呈しているため、粒子2も流動しやすく、容器3の底部の角に動かない粒子2は存在しにくい。このため撹拌羽21など攪拌治具に僅かな動きを与えるだけで、粒子2は流動するため、粒子2の損傷が抑制される。
【0056】
このように、本実施形態の被覆処理装置1によれば、従来の転動流動装置100のように大量の気体によって粒子2を流動させることがないため、大量の気体をろ過して通過させる高価な機能を必要とせず、また、捕集部15等においてフィルタでの目詰まりを大きく緩和することができる。さらに、容器3内では有機溶媒が揮発して生成したガスが大部分であり、容器3から取り出したガスから有機溶媒を効率よく回収することができる。
【0057】
すなわち、被覆処理に用いる被覆液Lの多くには、短時間で乾燥させるため、溶媒として有機溶媒、特にアルコールを用いる。このため、前述したように加熱乾燥時に発生する溶媒蒸気を含むガスを容器3の外部に直接排出することは環境悪化を招くことになる。さらにアルコールは高価なため、処理毎に消費することはコスト面で大きな負担となる。このような問題点を解決するため、活性炭により溶媒蒸気を吸収させた後、取り出した活性炭を再加熱して溶媒を回収し、溶媒を再利用することも試みられている。しかし、活性炭は破過するまでの時間が短く、頻繁に再生する必要があることや、吸収効率も低いため、回収しても実質50%ほどにしかならない。さらに従来のような転動流動装置を用いた場合は、気体流量が大きいために溶媒蒸気が活性炭に吸着するまえに気体と共に系外に排出されてしまうことが多く、高い収率での回収は困難である。
【0058】
本実施形態の被覆処理装置は、粒子2を流動させるための気体を導入しないため、容器3内の雰囲気は、大部分が加熱乾燥により揮発した被覆液Lの溶媒蒸気となっている。これを減圧吸引して溶媒蒸気を排出させ、容器3の外部で冷却して回収することで、容器3内での粒子2の乾燥を促進しながら、溶媒の回収も可能としている。減圧吸引することで溶媒の回収効率も上がり、その回収率は80%を超える。このため、回収した溶媒は再利用可能となり、コスト面でも有利となる。
【0059】
図7は、実施形態に係る被覆処理方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明は、被覆処理方法の一例であって、この方法に限定するものではない。例えば、
図7に示すフローチャートの一部のステップは削除されてもよい。
図7のフローチャートを説明する際に、適宜
図1〜
図6を参照する。
【0060】
図7に示すように、まず、容器3内に粒子2を投入する(ステップS01)。容器3への粒子2の投入は、容器3の不図示の開閉扉等により行う。粒子2の投入は、予め設定された量を投入するロータリバルブあるいはマニュピレータなど、粒子2の投入を自動で行ってもよく、また、手作業で粒子2を投入してもよい。次に、容器3内の粒子2を流動させて撹拌する(ステップS02)。例えば、撹拌機構19として
図2に示す構成である場合、粒子2を容器3に投入した後、回転駆動部5を駆動して容器3を横軸AX1を中心として回転させる。これにより、容器3内の粒子2は、容器3の回転に伴って移動する板状部材20により流動し、撹拌される(
図2(B)参照)。なお、被覆処理装置1が
図3〜
図5に示す構成を備えている場合は、適宜駆動して容器3内の粒子2の撹拌を行う。
【0061】
次に、
図7に示すように、容器3内を加熱する(ステップS03)。容器3内の加熱は、加熱部18を駆動することにより行う(
図1参照)。容器3内には例えば温度センサ等が配置され、この温度センサからの出力に応じて加熱部18を駆動する。容器3内は、予め設定された温度になるまで加熱部18により容器3内を加熱する。また、容器3内が設定温度となった後は、加熱部18は、その温度を維持するように出力を低下させるか、または間欠駆動を行う。
【0062】
次に、
図7に示すように、容器3内に所定量の被覆液Lを噴霧する(ステップS04)。被覆液Lは、スプレーノズル7により上向きに噴霧される(
図2(B)参照)。被覆液Lは、被覆液ポンプ10及び気体ポンプ11を駆動することにより、スプレーノズル7からアトマイズ用気体とともに噴霧される。被覆液Lの噴霧量は予め設定され、容器3に投入された粒子2の全部または大部分に対して適切な被覆を行うことが可能な噴霧量に設定される。被覆液Lの噴霧量は、単位時間あたりで一定でもよく、また、異なってもよい。例えば、噴霧初期は単位時間当たりの噴霧量を少なくして時間経過とともに単位時間あたりの噴霧量を増加させてもよい。また、被覆液Lの噴霧量は、被覆液Lの噴霧時間等によって制御されてもよく、連続した噴霧の他に断続的に噴霧を行ってもよい。ステップS04において容器3内に被覆液Lが噴霧されることにより、容器3内において撹拌されている各粒子2の表面に被覆液Lを付着させることができる。
【0063】
次に、
図7に示すように、粒子2を撹拌しながら粒子2の表面の被覆液Lを乾燥させる(ステップS05)。粒子2に付着した被覆液Lは、有機溶媒が揮発することで乾燥し、粒子2の表面に被覆膜を形成させる。有機溶媒が揮発する際においても粒子2を撹拌することにより、粒子2同士が接合するのを抑制できる。また、容器3内は加熱部18により熱されているので被覆液L中の溶媒の揮発を促進させることができる。
【0064】
なお、
図7のフローチャートには示していないが、容器3内のガスは、吸引ノズル13から溶媒回収系12によって取り出され、例えば液状の溶媒として回収される。なお、容器3内のガスを取り出すタイミング(吸引するタイミング)は、任意であるが、粒子2の撹拌中に行ってもよく、また、容器3の回転を停止した後のいずれであってもよい。また、上述したように、溶媒回収系12は真空装置17により容器3内を減圧しながらガスを吸引するので(
図1参照)、容器3内の減圧により被覆液Lの溶媒の揮発を促進し、容器2表面の乾燥を早めることができる。
【0065】
次に、
図7に示すように、被覆処理後の粒子2を容器3から取り出す(ステップS06)。粒子2の取り出しは、上述した開閉扉を開けて容器3を傾けることで行ってもよいし、また、吸引装置を用いてもよい。吸引装置を用いる場合、例えば、開閉扉から吸引口を差し込んで粒子2を吸引することにより容器3の外部に粒子2を取り出してもよい。容器3から取り出された粒子2は、所定の保管用容器、袋等に収容されて保管または搬送される。
【0066】
このような工程により粒子2の被覆処理が完了する。このように、粒子2を流動させて撹拌しながら被覆液Lを噴霧することにより、粒子2に被覆膜を形成するので、容易かつ効率よく被覆処理を行うことができる。また、粒子2の撹拌も
図6に示す従来の被覆処理装置100と比べて比較的緩やかに行われるので粒子2の損傷等が少なく、歩留りを向上させることができる。
【0067】
以下に、本発明の被覆処理装置1を用いた被覆処理方法の具体例として、紛体2として正極活物質粒子を用いた場合の正極活物質の被覆処理と、本発明の方法により被覆処理された正極活物質を用いた非水系電解質二次電池を、その例として説明する。
【0068】
<粒子>
粒子2としては、特に限定されず、例えば、従来公知の正極活物質粒子を用いることができる。正極活物質粒子の中でも、高い生産性が求められるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を好適に用いることができる。リチウムイオン二次電用正極活物質粒子としては、例えば、リチウムニッケル複合酸化物粒子(例えば、LiNiO
2、LiNiCoAlO
2など)、リチウムコバルト複合酸化物粒子(例えば、LiCoO
2など)、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn
2O
4)、あるいは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子(例えば、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2など)のような三元系リチウム含有複合酸化物粒子が挙げられる。
【0069】
正極活物質粒子は、高電池容量の観点から、下記一般式(1)で示されることが好ましい。下記一般式(1)のように、ニッケル(Ni)の比率が高い正極活物質粒子は、高い電池容量を示す
一般式:Li
aNi
1−bM
1bO
2 ・・・(1)
(式中、M
1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、または13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.95≦a≦1.20、0≦b≦0.5である。)
【0070】
また、正極活物質粒子は、より高い電池容量を得るという観点から、下記一般式(2)で示されることがより好ましい。
一般式:Li
tNi
1−x−yCo
xM
2yO
2 ・・・(2)
(式中、M
2は、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、0.95≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15である。)
【0071】
上記一般式(2)中、xの値は、二次電池作製時の高容量化とサイクル特性改善の観点から、0.05≦x≦0.20であることが好ましい。また、M
2は、正極活物質の熱安定性の観点から、少なくともAlを含むことが好ましい。
【0072】
例えば、上記一般式(1)又は一般式(2)で示される正極活物質粒子は、水分に対する感度が高く、表面からリチウムが溶出しやすい性質を有する。例えば、被覆処理前のLiNiCoAlO
21gを24℃の純水50mlに浸けると瞬時に多量のリチウムが溶出し、水溶液はアルカリ側に移行してpHは13近傍に達する。上述した被覆処理装置又は被覆処理方法を用いて、被覆処理した正極活物質粒子は、耐水性が改善され、Liの溶出が大幅に抑制される。例えば、被覆処理した正極活物質粒子1gを加えた後、10分間経過した水溶液は、pHが11.2以下とすることができる。また、正極活物質粒子のpHが11.2以下である場合、長時間の正極合材(ペースト状組成物)のゲル化が抑制される。正極合材(ペースト状組成物)がゲル化し、増粘すした場合、集電体に塗布する際のムラが生じて、得られる正極の充放電特性にバラツキが発生する、正極合材の流動性が悪化する、終電体上の塗布膜の緻密性が低下する等の問題が発生する。
【0073】
正極活物質粒子は、例えば、レーザー回折散乱法による平均粒径D50が3μm以上20μmであり、充填性の観点から、好ましくは5μm以上18μm以下である。平均粒径D50が上記範囲であることにより、高い電池容量を維持しながら電池容器内への充填性を向上させるという効果がある。
【0074】
<被覆液>
次に、粒子2を被覆する被覆液Lについて説明する。粒子2が正極活物質粒子である場合、被覆液Lは、例えば、Al、Ti、Nbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む被覆液Lを用いることができる。これらの金属化合物を含む被覆液Lを、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に処理した後、熱処理をした場合、その表面にAl、Ti、Nbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む酸化物からなる微粒子により形成された被覆層を有する正極活物質粒子を得ることができる。このような正極活物質粒子は、正極活物質が本来持つ電池性能を阻害することなく、正極合材(ペースト状組成物)のゲル化が抑制されるとともに、高いサイクル特性を有する。
【0075】
被覆液Lの製造方法は、例えば、1)Al、Ti、Nbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属アルコキシドと、アルコールとを混合し、混合液(A)を得ることと、2)混合液(A)にキレート剤を混合し、混合液(B)を得ることと、3)混合液(B)に加水分解用の水分を混合することと、を含む。混合液(B)中の金属アルコキシドは、水を加えることにより加水分解反応し、微粒子を生成する。
【0076】
まず、金属アルコキシドと、アルコールとを混合する工程について説明する。正極活物質を被覆する被覆液Lの場合、金属アルコキシドとしては、例えば、Al、Ti、Nbからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む金属アルコキシドが用いられる。金属アルコキシドとしては、−エトキシド、−メトキシド、−イソプロポキシド、−ブトキシドを用いることができる。具体的には、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ニオブペンタエトキシドなどが挙げられる。また、金属アルコキシドは、金属アルコキシドのモノマー又はオリゴマーを用いることができる。金属アルコキシドのオリゴマーは、被覆液Lに含まれるアルコールに溶解することができれば使用可能である。また、金属アルコシキドは、モノマー及びオリゴマーの両方を用いることができる。
【0077】
アルコールは、例えば、炭素数1〜4程度の低級アルコールが用いられる。炭素数が5以上の高級アルコール類や炭化水素系の溶媒に用いて揮発乾燥させると、有害性や異臭の問題が生じることがある。低級アルコールとしては、例えば、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールから選択される1種類以上が挙げられる。低級アルコールの中でも、金属アルコシキド及び他の添加成分の溶解性やコストの観点から、エタノール及び/または2−プロパノールが好ましい。また、アルコールは、脱水したものを用いることが好ましい。脱水により、金属アルコキシドとアルコールとを混合する際の加水分解反応が抑制される。これにより、金属アルコシキドと、後の工程で加える水分とを加水分解反応させ、微粒子を形成させることができる。
【0078】
アルコールは、低級アルコール以外の高沸点溶媒を含んでもよい。高沸点溶媒は、例えば、沸点120℃以上のアルコールが挙げられる。沸点120℃以上のアルコールは、低級アルコールとの相溶性が高く、金属アルコキシドとの相溶性も高い。アルコールは、例えば、主溶媒として低級アルコールを含み、かつ、高沸点溶媒を少量含んでもよい。これにより、被覆処理時の乾燥速度を制御し、被覆膜の均一性を高めることができる。
【0079】
金属アルコシキドと、アルコールと、例えば、不活性ガス雰囲気中、加熱混合し、混合液(A)を得る。混合液(A)は、金属アルコキシドがアルコール中に溶解する。混合液(A)は、金属アルコキシドの濃度が例えば60質量%以下、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下となるように混合することができる。金属アルコシキドの濃度が上記範囲である場合、混合液(A)中の金属アルコキシドとキレート剤との反応をより均一なものとすることができる。
【0080】
次に、混合液(A)に、キレート剤を混合し、混合液(B)を得る。金属アルコキシドは、加水分解速度が速く、外気中の湿気により、容易に加水分解反応が生じ、水酸化物を生成しやすい。そこで、例えば、アルコキシド金属化合物中の官能基(アルコキシ基)の一部をキレート剤で修飾(キレート化)することにより、金属アルコキシドの加水分解反応速度を容易に制御することができる。
【0081】
金属アルコシキドは、キレート剤の添加によりキレート化され、加水分解反応が抑制された水溶性有機化合物となる。キレート剤は、例えば、アミノカルボン酸、又はその塩、もしくはジケトン類から選択される少なくとも1種が用いられる。キレート剤は、具体的には、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ニトリロトリ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、L−アスパラギン酸又はこれらの塩などが挙げられる。これらの中でも、熱分解性の観点から、アセチルアセトンが好ましい。
【0082】
金属アルコシキドは、キレート化の際、金属アルコシキドの有する一部のアルコキシ基が修飾(キレート化)される。例えば、金属アルコキシドとして、ニオブペンタエトキシドを用い、かつ、キレート剤として、アセチルアセトンを用いる場合、ニオブペンタエトキシドの有する5つの官能基(エトキシ基)のうち、その2つ以上4つ以下の官能基を補う分の同モル数のアセチルアセトンを加えて、一部のエトキシ基をキレート化する。これにより、金属アルコキシドの加水分解反応が抑制され、外気に対する安定性を向上させ、かつ複合酸化物粒子への吸着性が維持される。なお、全てのアルコキシ基をキレートする場合、金属アルコキシドがアルコール中に溶解しなくなるばかりか、複合酸化物粒子の表面に吸着または化学反応しなくなり、被覆層の形成が不十分となりやすい。
【0083】
混合液(B)は、例えば、混合液(A)にキレート剤を徐々に添加した後、50℃以上100℃以下で0.5時間以上4時間以下、加熱して得ることができる。混合液(A)とキレート剤とを、このような条件で混合することにより、アルコキシ基の修飾反応が促進され、金属アルコキシドの水への安定性が向上する。
【0084】
キレート剤の添加量は、金属アルコキシド100質量部に対して、例えば、30質量部以上100質量部以下、好ましくは40質量部以上100質量部以下となるように加えれば、加水分解により微細な前駆体粒子を生成させることができる。30質量部未満であると加水分解反応が高まるため粒子径が大きくなりやすく、100質量部を超えると加水分解が十分に行われないことがある。なお、キレート剤は、例えば、低級アルコールなどのアルコールに溶解したものを用いてもよい。
【0085】
混合液(A)又は混合液(B)は、金属アルコシキド、アルコール、キレート剤以外の他の成分を含んでもよい。例えば、金属アルコシキドとアルコールとを混合する際、あるいはキレート剤を添加した後、さらに有機リン酸を加えてもよい。これにより、複合酸化物粒子に形成される被覆層にリン酸金属塩が含まれ、正極活物質の耐水性を向上させることができる。有機リン酸としては、例えば、リン酸トリエチル、リン酸トリメチルなどを用いることができる。
【0086】
次に、混合液(B)に水分を混合する。一部のアルコキシ基がキレート化された金属アルコシキドを含む混合液(B)中に、水分を少量加えることにより、金属アルコシキドの部分的な加水分解(部分的加水分解)を進ませる。これにより、多量の水系又は有機系の溶媒の中で金属アルコシキドが安定化し、水系又は有機系の溶媒に対する被覆液(原液)の安定性が向上する。
【0087】
混合液(B)へ添加する水分量は、金属アルコキシド100質量部に対して、例えば、5質量部以上50質量部以下であり、好ましくは15質量部以上30質量部以下が好ましい。水分量が50質量部を超えると加水分解が急激に進みすぎてゲル化を起こしやすく、5質量部以下では加水分解量が十分でない場合がある。
【0088】
混合液(B)に水分を添加する際、一瞬、少量の白濁が生じることがあるが、直ぐに透明性のある液体に戻る。この現象の原因は、限定されないが、例えば、有機物を含む状態で部分的加水分解することで、見かけ上は透明な液体になったと考えられる。また、混合液(B)に水分を添加した後、20℃以上80℃以下で、0.5時間以上25時間以下で保持して、安定化した混合液(C)を得ることが好ましい。また、水分を添加した混合液(B)を攪拌しながら、上記条件で保持して、混合液(C)を得てもよい。水分を添加した後、加熱することにより、部分的加水分解反応を終了させる。
【0089】
ここで、液体の透明性とは、液中に浮遊する目に見える粒子が確認できる度合いをいう。例えば、液体中に粗粒がある場合、光の散乱により白濁を示し、微粒(ナノ粒子)であれば光が透過するために液は透明性を得る。ナノ粒子とは、例えば、中心粒子径が100nm以下の粒子である。なお、中心粒子径(例えばD50)は、ナノ粒子の粒度分布において、ある粒子径より大きい粒子の個数または質量が、全粒子の個数または質量の50%を占めるときの粒子径である。粒子径は、動的光散乱法/レーザードップラー法によって測定される。
【0090】
安定化した混合液(C)は、希釈するために多量の水系溶媒を加えても白濁や沈殿物の生成を抑制することができる。混合液(C)は、例えば、1ヶ月放置してもその様子は変わらない程度の安定性を有する。混合液(C)は、そのまま被覆液Lとして使用できる。
【0091】
混合液(C)は、適宜、水系溶媒又は有機系溶媒で希釈して、被覆液Lとして用いてもよい。これにより、適度な微粒子の濃度を有する被覆液Lが得られ、正極活物質粒子の表面に前駆体微粒子を均一に被覆(堆積)できる。混合液(C)は、例えば、アルコール、水、または水とアルコールの混合溶媒で希釈できる。これにより、噴霧コート時に、より均一に被覆処理できる。リチウムニッケル複合酸化物粒子、例えば、Niの含有量がLi以外の金属元素の合計に対して50原子%以上の場合、耐水性が低いためアルコールを用いることが好ましい。
【0092】
希釈に用いるアルコールは、アルコキシド金属化合物を溶解する際と同様に、エタノール、2−プロパノール及び1−ブタノールから選択される1種類以上の低級アルコールであることが好ましく、エタノールもしくは2−プロパノールであることがより好ましい
【0093】
また、混合液(C)は、例えば、乾燥速度を緩和し、粒子への液浸透や噴霧後の膜の展伸性を考慮する場合、アルコールの一部を高沸点有機溶媒、特に高沸点アルコールとしてもよい。高沸点アルコールは、1−ブタノールの沸点117℃を超える沸点を有するアルコールが好ましい。
【0094】
高沸点アルコールとしては、具体的には、2メチル−1ブタノ−ル(沸点128℃)、1エトキシ−2プロパノール(132℃)、2−イソプロポキシエタノール(144℃)等が挙げられる。高沸点アルコールは、アルコール全体の5質量%以上30質量%以下含むことが好ましい。これにより、乾燥速度が緩和され、上述の効果以外に急速な有機物の揮発が生じず、膜割れや剥離等の膜欠陥が少なくなる。高沸点アルコールは水溶解性が低いため、希釈液として高沸点アルコールを含む場合、金属アルコキシドの加水分解性をより抑制することができる。
【0095】
上記製造方法により得られる被覆液Lは、Al、Ti、Nbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む微粒子(金属アルコシキド由来)が分散される。被覆液L中の微粒子は、レーザー散乱回折測定による平均粒径D50が20nm以下、好ましくは1nm以上10nm以下、より好ましくは1nm以上5nmn以下の微粒子からなる。
【0096】
また、正極合材(ペースト状組成物)のゲル化抑制効果を得るためには、リチウムニッケル複合酸化粒子表面の多くの面積を被覆することが好ましい。したがって、前駆体微粒子は、扁平状または鱗片状であってアスペクト比が0.3以上0.8以下であることが好ましい。これにより、電解質との十分な接触を確保しながら、複合酸化粒子表面の多くの面積を被覆することができる。
【0097】
被覆液L中の金属アルコシキドに由来する微粒子の含有量は、後述する熱処理温度が250〜350℃の範囲にある場合、正極活物質粒子100質量部に対して、被覆層を形成した際の金属酸化物に換算した量で0.01質量部以上1.0質量部以下となるように調製されることが好ましく、0.03質量部以上0.2質量部以下に調製されることがより好ましい。熱処理温度が250〜350℃の場合、得られる被覆層は酸化物状態にあるため、電池セルによる電池特性を評価すると、被覆層によりLiの移動が阻害されるため、初期放電容量が低下してしまう。これを抑制するために被覆層は極力、薄膜にする必要がある。一方、被覆層が酸化物であることで、耐水性は高まり、本発明が目的とするゲル化の抑制には効果が高い。
【0098】
上記金属酸化物に換算した量で0.01質量%未満になる場合、被覆層中に十分な量の微粒子を形成させることができないことがある。また、1.0質量%を越える場合、複合酸化物粒子の表面全体に吸着させる量を混合した際に被覆層が厚くなり、正極活物質のリチウムイオンの拡散を阻害することがある。
【0099】
また、熱処理温度が350〜600℃の範囲にある場合、正極活物質粒子100質量部に対して、被覆層を形成した際の金属酸化物に換算した量で1.0質量部以上3.0質量部以下となるように調製されることが好ましい。熱処理温度が250〜350℃の場合とは異なり、この熱処理により得られる被覆層は、正極活物質粒子との界面で反応を示した表層へと変化する。これにより、被覆層により阻害されたLiの移動は緩和され、その結果、初期放電容量は未被覆時並みにまで回復する。一方、被覆層は酸化物から反応物に変わることで耐水性は若干の低下が見られる。こうした熱処理温度と被覆層の厚みを組み合わせることにより、耐水性と電池特性とのバランスを調整することが可能となる。
【0100】
粒子2と混合(噴霧)する際の被覆液Lの量は、被覆液Lを複合酸化物粒子の表面全体に吸着、かつ浸透させるだけの量は最低必要であり、粒子2の表面に堆積させる十分な量の微粒子を含有する量を用いる。被覆液Lの量は、乾燥時の効率を考慮して決定すればよく、例えば、粒子2量100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となるように希釈することが好ましい。なお、被覆液Lの量が多くとも乾燥時間が長くなるだけであり、得られる被覆処理後の粒子2の粉体特性に支障はない。粒子2として正極活物質粒子を用いた場合、正極活物質粒子に被覆液Lを噴霧した後、例えば、10rpm以上100rpm未満で攪拌して混合できる。
【0101】
粒子2表面の被覆液Lを乾燥させる際の乾燥温度は、アルコール含む溶媒を用いた場合、50℃以上150℃以下とすることができる。乾燥温度を上記範囲とすることにより、正極活物質粒子の劣化を抑制し、かつ、適度な時間で乾燥させることができ、生産性が向上する。また、溶媒として水系溶媒を主に用いた場合、乾燥温度は、例えば、100℃以上200℃以下で行う。乾燥時間は、溶媒が蒸発して粒子2間の粘着が発生しない程度になればよく、例えば、1時間以上24時間以下とする。
【0102】
被覆処理した粒子2は、さらに、熱処理してもよい。熱処理により、粒子2表面に形成された微粒子の堆積被膜を、より粒子2表面に強固に結着させるとともに、被膜中に残渣する不要な成分を除去しすることができる。
【0103】
例えば、被覆処理した正極活物質粒子の場合、熱処理温度は、前述のように250〜600℃の範囲とすることが好ましく、被覆層が薄い場合は250〜350℃の範囲で、厚い場合には350〜600℃とすることがより好ましい。また、熱処理時間は、0.1〜10時間とすることが好ましく、0.3〜5時間がより好ましく、0.3〜3時間がさらに好ましい。熱処理時の雰囲気は、酸素含有雰囲気、特に純酸素雰囲気が選択され、200℃を超える温度の場合は酸素雰囲気下で処理を行い、正極活物質粒子表面が還元されないようにすることが好ましい。熱処理した場合、被覆液L中の微粒子が酸化され、酸化物となるため膜質が向上する。これにより、正極酸化物粒子表面に形成される被覆層がより強固となり、電池作製時の混練等によっても被覆層が剥離しない正極活物質が得ることができる。
【0104】
<正極活物質>
上記した方法により得られる正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、高容量で高出力である。特により好ましい形態で得られた正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、例えば、
図8に示す2032型コイン電池の正極に用いた場合、170mAh/g以上、より最適な条件では190mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られる。また、熱安定性が高く、安全性においても優れている。その際の被覆前後の放電容量変化は5%の範囲にあり、好ましくは2%以内にあり、被覆による界面抵抗の悪化が小さいことを表している。
【0105】
<リチウムイオン二次電池>
上記した方法により得られる被覆層を有する正極活物質は、リチウムイオン二次電池に好適に用いられる。リチウムイオン二次電池は、正極、負極及び非水電解液から構成される。以下に、リチウムイオン二次電池を構成する各構成要素について説明する。なお、以下で説明するリチウムイオン二次電池の実施形態は、例示に過ぎず、下記の実施形態以外、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、リチウムイオン二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0106】
(正極)
正極は、正極合材から形成される。被覆層を有する正極活物質粒子と、導電材とバインダー、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これらを混練してペースト状の正極合材が作製される。正極合材中の各構成成分の含有量は、特に限定されず、一般のリチウム二次電池の正極合材と同様とすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質の含有量が60質量%以上95質量%以下、導電材の含有量が1質量%以上20質量%以下、結着剤の含有量が1質量%以上20質量%以下とすることができる。
【0107】
得られた正極合材を、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させて、シート状の正極を形成する。塗布された正極合材は、必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧してもよい。シート状の正極は、目的とする二次電池に応じて適当な大きさに裁断等される。なお、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法により作成されてもよい。
【0108】
正極に用いられる導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)やアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などが挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリアクリル酸などが挙げられる。バインダーは、正極活物質粒子同士をつなぎ止める役割を有する。
【0109】
正極合材は、必要に応じ、溶剤を添加できる。溶剤は、特に限定されず、正極活物質、導電材、活性炭などを分散させ、バインダーを溶解できるものであればよい。溶剤は、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルフォスフォアミド等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材は、必要に応じ、活性炭を添加できる。活性炭の添加により、電気二重層容量が増加する。
【0111】
負極には、金属リチウム、リチウム合金等や、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0112】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体、リチウム・チタン酸化物(Li
4Ti
5O
12)等の酸化物材料を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これら活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0113】
(セパレータ)
正極と負極との間にはセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な穴を多数有する膜を用いることができる。
【0114】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0115】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0116】
(電池の形状、構成)
以上説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明に係るリチウム二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
【0117】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極をセパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に上記非水電解液を含浸させる。正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、並びに負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続する。以上の構成のものを電池ケースに密閉して電池を完成させることができる。
【実施例】
【0118】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例における各評価は、下記方法によって実施した。
【0119】
(評価方法)
1)溶媒回収率の測定
溶媒回収率は、被覆処理に投入する溶媒重量を計量しておき、回収装置に溜まった溶媒重量から求めた。
2)被覆液付き正極活物質および被膜付き正極材活物質の諸物性
・被膜付き正極活物質の耐水性評価、吸湿試験
【0120】
耐水性は、24℃の純水50mlに正極活物質1gを加えて撹拌し、10分経過後のpHを測定することにより評価した。また、耐湿性は、30℃−70%RHの恒温恒湿槽に正極活物質を7日間暴露した後、暴露前後での質量増加率により評価した。
・ゲル化評価
【0121】
ゲル化評価は、被覆熱処理後の正極活物質9.5g、フッ化ビニリデン(PVDF)バインダー0.5g、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)5.5g、水分0.2gを加えて自公転練り込み機によりスラリー状にした後、24℃で4日間静止保管し、目視観察によるゲル化状況を確認した。
・SEM観察
処理後の粒子表面がダメージにより粉砕されているか、SEM観察により外観を確認した。
【0122】
3)電池の製造および電池特性の評価
(電池の製造)
正極活物質の評価には、
図8に示す2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
【0123】
図8に示すように、コイン型電池30は、ケース31と、このケース31内に収容された電極35とから構成されている。ケース31は、中空かつ一端が開口された正極缶32と、この正極缶32の開口部に配置される負極缶33とを有しており、負極缶33を正極缶32の開口部に配置すると、負極缶33と正極缶32との間に電極35を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0124】
電極35は、正極36、セパレータ37および負極38とからなり、この順で並ぶように積層されており、正極36が正極缶32の内面に接触し、負極38が負極缶33の内面に接触するようにケース31に収容されている。なお、ケース31はガスケット34を備えており、このガスケット34によって、正極缶32と負極缶33との間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット34は、正極缶32と負極缶33との隙間を密封してケース31内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0125】
前記コイン型電池30は、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極36を作製した。作製した正極36を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。この正極36と、負極38、セパレータ37および電解液とを用いて、上述したコイン型電池30を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。なお、負極38には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。セパレータ37には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0126】
(電池特性の評価)
製造したコイン型電池30の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
初期放電容量は、コイン型電池30を製作してから24時間程度放置後、0.05Cにてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0127】
[実施例1]
(リチウムニッケル複合化合物LiNiCoAlO
2)
公知技術で得られたリチウムニッケル複合酸化物粉末を正極材活物質として用いた。すなわち、Niを主成分とする酸化ニッケル粉末と水酸化リチウムを混合して焼成することにより、Li
1.080Ni
0.74Co
0.14Al
0.12O
2で表される正極材活物質となるリチウムニッケル複合酸化物粉末を得た。このリチウムニッケル複合酸化物粉末の平均粒径はD50=14.3μmであり、比表面積は0.37m
2/gであった。
(TiO
2被覆液の作製)
2−プロパノール250gにチタニウムブトキシド(関東化学製)13.6gを加えて攪拌し、混合液(A)を作製した。別容器に、2−プロパノール30gにアセチルアセトン(関東化学製)5.6gを加えて攪拌して作成したキレート剤含有溶液を作成した。混合液(A)中にキレート剤含有溶液を投入し、攪拌混合した後、得られた混合溶液を密栓した容器中に入れ、攪拌しながら60℃で0.5時間加熱後、冷却して室温に戻し、混合液(B)を作製した。2−プロパノール20gと純水2.4gを加えた混合液を混合液(B)に投入後、攪拌しながら30℃で1時間加熱後、室温に戻し、透明な黄色い混合液(C)を作製した。さらに混合液(C)に2−プロパノール20gと、2メチル―1ブタノール80gを加えて、部分的に加水分解した有機チタニウムを含む被覆液を得た。
(TiO
2被覆正極材活物質の作製)
上記で作製したリチウムニッケル複合酸化物粉末(正極材活物質)を4000g取り分け、ロッキングミキサ(愛知電機製:φ200×380:10L SUS容器)に投入した。容器片端の蓋側にはロータリージョイントを設け、真空吸引用ノズルと、2流体ノズルを導入した。2流体ノズルの口径はφ1.2mmを使用し、圧縮空気0.05MPa×10ml/min、送液速度3g/minを噴霧条件とし、60℃に設定したオーブン中に被覆装置を入れて40rpmで攪拌しながら、上記で作製した被覆液を噴霧した。噴霧を5分間行った後に、攪拌を停止させ静止後、5分間0.05MPaで減圧してバグフィルタ(目開き5μm)付き溶媒回収装置で真空吸引した。真空乾燥後、攪拌を開始して再度、噴霧と真空吸引を繰り返し、被覆処理を行った。噴霧終了後、攪拌と真空乾燥を繰り返し、完全な乾燥を行い、回収装置には回収率87%の透明な2―プロパノールを得た。
乾燥後の熱処理は45Lの容積のマッフル炉を用い、被膜付き正極活物質を投入した後、3L/minで純酸素ガスを導入しながら3℃/minで昇温し、300℃で0.5時間保持してTiO
2膜を被覆した正極材活物質を得た。被覆膜付き正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
【0128】
[実施例2]
(TiO
2被覆正極材活物質の作製)
実施例1と同様に作製した正極材活物質2000gを、ボールミル架台に取り付けた市販の広口ステンレスボトルで作製した容器(φ210×370:10L)に投入した。容器内壁には1cm角の板状部材(邪魔板)を4枚×長さ250×幅10(90度4分割)で設けた。容器片端の蓋側にはロータリージョイントを設け、真空吸引用ノズルと、2流体ノズルを導入した。2流体ノズルの口径はφ1.2mmを使用し、圧縮空気0.05MPa×10ml/min、送液速度2g/minを噴霧条件とし、60℃に設定したオーブン中に上記容器を入れて30rpmで攪拌しながら、実施例1で作製した被覆液を噴霧した。噴霧を5分間行った後に、攪拌を停止させ静止後、5分間0.05MPaで減圧してバグフィルタ付き溶媒回収装置で真空吸引した。真空乾燥後、攪拌を開始して再度、噴霧と真空吸引を繰り返し、被覆処理を行った。噴霧終了後、攪拌と真空乾燥を繰り返し、完全な乾燥を行い、回収装置には回収率90%の透明な2―プロパノールを得た。
【0129】
乾燥後の熱処理は45Lの容積のマッフル炉を用い、被膜付き正極活物質を投入した後、3L/minで純酸素ガスを導入しながら3℃/minで昇温し、300℃で0.5時間保持してTiO
2膜を被覆した正極材活物質を得た。被覆膜付き正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
【0130】
[実施例3]
(TiO
2被覆液の作製)
2−プロパノール2500gにチタニウムブトキシド(関東化学製)136gを加えて攪拌し、混合液(A)を作製した。別容器に2−プロパノール300gにアセチルアセトン(関東化学製)56gを加えて攪拌し、キレート剤含有溶液を作製した。混合液(A)中にキレート剤含有溶液を投入し、攪拌混合した後、得られた混合溶液を密栓した容器中に入れ、攪拌しながら60℃で1時間加熱後、冷却して室温に戻し、混合液(B)を作製した。2−プロパノール200gと純水24gを加えた混合液を混合液(B)に投入後、攪拌しながら30℃で3時間加熱後、室温に戻し、透明な黄色い混合液(C)を作製した。さらに混合液(C)に2−プロパノール200gと、2メチル−1ブタノール800gを加えて、部分的に加水分解した有機チタニウムを含む被覆液を得た。
【0131】
(TiO
2被覆正極材活物質の作製)
実施例1で作製した正極材活物質を40kg取り分け、ドラムミキサ(杉山重工製UD−05:50L)に投入した。容器片端の蓋側にはロータリージョイントを設け、真空吸引用ノズルと、2流体ノズルを導入した。2流体ノズルの口径はφ1.2mmを使用し、圧縮空気0.05MPa×100ml/min、送液速度20g/minを噴霧条件とし、60℃となるように容器外周から熱風ブロワで加熱して20rpmで攪拌しながら、実施例5で作製した被覆液を噴霧した。噴霧を20分間行った後に、攪拌を停止させ静止後、20分間0.05MPaで減圧してバグフィルタ付き溶媒回収装置で真空吸引した。真空乾燥後、攪拌を開始して再度、噴霧と真空吸引を繰り返し、被覆処理を行った。噴霧終了後、攪拌と真空乾燥を繰り返し、完全な乾燥を行い、回収装置には回収率84%の透明な2―プロパノールを得た。
乾燥後の熱処理は45Lの容積のマッフル炉を用い、被膜付き正極活物質を投入した後、3L/minで純酸素ガスを導入しながら3℃/minで昇温し、300℃で0.5時間保持してTiO
2膜を被覆した正極材活物質を得た。被覆膜付き正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
【0132】
(比較例1)
実施例1で作製した正極活物質を処理せずに、そのままの状態で正極活物質として評価した。正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
【0133】
(比較例2)
(竪型装置によるTiO
2被覆正極材活物質の作製)
実施例1で作製した正極材活物質を10kg取り分け、竪型のヘンシェル式被覆装置(月島マシン製バキュームミキシングドライヤED15B:15L)に投入した。天板から真空吸引用ノズルと、2流体ノズルを導入した。2流体ノズルの口径はφ1.2mmを使用し、圧縮空気0.05MPa×100ml/min、送液速度15g/minを噴霧条件とし、60℃となるように容器外周に設けた温水ジャケットで加熱して、ロータを200rpmで攪拌しながら、実施例1で作製した被覆液を噴霧した。噴霧を60分間連続して行いながら、真空排気装置にて0.03MPaに減圧して真空乾燥した。回収装置は付属していないため、溶媒の回収はできなかった。
乾燥後の熱処理は45Lの容積のマッフル炉を用い、被膜付き正極活物質を投入した後、3L/minで純酸素ガスを導入しながら3℃/minで昇温し、300℃で0.5時間保持してTiO2膜を被覆した正極材活物質を得た。被覆膜付き正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
【0134】
(比較例3)
(竪型装置によるTiO
2被覆正極材活物質の作製)
実施例1で作製した正極材活物質を10kg取り分け、竪型のヘンシェル式被覆装置(アーステクニカ製ハイスピードバキュームドライヤFS10:11L)に投入した。天板から真空吸引用ノズルと、2流体ノズルを導入した。2流体ノズルの口径はφ1.2mmを使用し、圧縮空気0.05MPa×100ml/min、送液速度15g/minを噴霧条件とし、60℃となるように容器外周に設けた温水ジャケットで加熱して、ロータを100rpmで攪拌しながら、実施例2で作製した被覆液を噴霧した。噴霧を60分間連続して行いながら、真空排気装置にて0.005MPaに減圧してバグフィルタ(目開き5μm)付き溶媒回収装置で真空吸引した。作業途中からバグフィルタに目詰まりが生じてフィルタ内に溶媒が蓄積し、溶媒を回収するまでには至らなかった。
乾燥後の熱処理は45Lの容積のマッフル炉を用い、被膜付き正極活物質を投入した後、3L/minで純酸素ガスを導入しながら3℃/minで昇温し、300℃で0.5時間保持してTiO
2膜を被覆した正極材活物質を得た。被覆膜付き正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
【0135】
(比較例4)
(転動流動装置によるTiO2被覆正極材活物質の作製)
実施例1で作製した正極材活物質を600g取り分け、転動流動装置((株)パウレック製、MP−01)を用いて熱風温度80℃、送風量0.3m
3/時で流動させた。2流体ノズルは容器底部から導入した。2流体ノズルの口径はφ1.2mmを使用し、圧縮空気0.1MPa×20ml/min、送液速度3g/minを噴霧条件とし、ロータを100rpmで攪拌しながら、実施例2で作製した被覆液を噴霧した。揮発した溶媒は気体と共に排出され、回収することはできなかった。
乾燥後の熱処理は45Lの容積のマッフル炉を用い、被膜付き正極活物質を投入した後、3L/minで純酸素ガスを導入しながら3℃/minで昇温し、300℃で0.5時間保持してTiO
2膜を被覆した正極材活物質を得た。被覆膜付き正極材活物質の評価結果を表1にまとめた。
転動流動装置は、他の竪型装置と比べて粒子へのダメージも無く、被覆性は良好であるが、1バッチの当たりの処理量が横型に比べて1/10であること、装置が高価であること、溶媒が回収できないこと、1バッチ毎にフィルタを清掃しなければいけないこと等、が量産するときのデメリットとなる。
【0136】
【表1】