(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683912
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】電解用アノードの鋳造装置および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 25/04 20060101AFI20200413BHJP
B22C 3/00 20060101ALI20200413BHJP
B22C 23/02 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
B22D25/04 B
B22D25/04 G
B22C3/00 B
B22C23/02 E
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-206866(P2015-206866)
(22)【出願日】2015年10月21日
(65)【公開番号】特開2017-77573(P2017-77573A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵介
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】谷 明久
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−164468(JP,A)
【文献】
特開2012−236206(JP,A)
【文献】
特開平07−032090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠回転可能なターンテーブルと、該ターンテーブル上に設置された複数個のアノード鋳型と、前記ターンテーブルの回転方向に沿って鋳込み位置と、冷却領域と、電解用アノードを剥ぎ取るアノード剥取機とがその順で設けられており、
鋳込まれた電解用アノードとアノード鋳型との間に離型剤スラリーを散布する離型剤散布位置を前記冷却領域内に設定されており、
前記冷却領域内において、前記電解用アノードを前記アノード鋳型から押し上げる押し上げ手段と、離型剤を散布する離型剤散布手段が設けられている
ことを特徴とする銅電解用アノードの鋳造装置。
【請求項2】
前記離型剤位置における離型剤散布タイミングが、前記押し上げ手段により前記電解用アノードのショルダー部がアノード鋳型から押し上げられる1次押上げの後から前記電解用アノードがアノード鋳型内における鋳込み位置に戻されるまでの間である
ことを特徴とする請求項1記載の銅電解用アノードの鋳造装置。
【請求項3】
熔融粗金属をアノード鋳型に鋳込む鋳込み工程と、前記アノード鋳型に鋳込まれた前記熔融粗金属を冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された電解用アノードを前記アノード鋳型から剥ぎ取る剥取り工程とを含み、さらに、前記アノード鋳型に離型剤スラリーを散布する離型剤散布工程を有する銅電解用アノードの製造方法であって、
離型剤スラリーを散布するタイミングが、冷却工程途中であって、前記電解用アノードのショルダー部が鋳型から押し上げられる1次押上げの後から前記アノードが鋳型内における鋳込み位置に戻されるまでの間である
ことを特徴とする銅電解用アノードの鋳造方法。
【請求項4】
前記離型剤スラリーが、
結晶水を保持した粘土粉からなるスラリーである
ことを特徴とする請求項3記載の銅電解用アノードの鋳造方法。
【請求項5】
前記離型剤スラリーの固形分濃度が、
0.040〜0.080g/cm3である
ことを特徴とする請求項4記載の銅電解アノードの鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用アノードの鋳造装置および鋳造方法に関する。さらに詳しくは、銅製錬に代表される非鉄製錬プロセスにおける電解工程で使用される電解用アノードの鋳造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅やニッケル等の有価金属を含有する硫化精鉱のような非鉄金属原料から銅やニッケルといった有価金属を得るための非鉄製錬プロセスでは、原料を熔解し、酸化させる工程において、濃縮した目的金属を含む熔融状態にあるマットとスラグとを比重分離し、マットを次の工程において、酸化して熔融粗金属とする。そして、得られた熔融粗金属は、次の鋳造工程において電解用アノードの形状に鋳造され、電解工程で電解製錬が行われることにより、さらに純度の高い目的金属に仕上げられる。
【0003】
非鉄金属製錬の一例である銅製錬においては、銅精鉱等の原料を熔錬炉、転炉、精製炉で順番に処理して銅品位を99%以上に高めた熔融粗金属である粗銅(以下「精製粗銅」という)を鋳造して電解用アノードとし、これを続く電解工程に投入する。
電解工程では、上記アノードとカソードが電解槽中に交互に挿入され、電解精製が行われる。アノードから溶け出した銅はカソード上に電着し、その後、電解精製の終了したカソードは電解槽から引き上げられ、洗浄され、所定の枚数に結束され、製品として保管される。
【0004】
上記のように用いられる電解用アノードAの形状は、
図5に示すように略四角形の本体部20と、本体部20の上端部両側から側方に突出したショルダー部21とからなる。このショルダー部21は、電解槽に対する挿入時や引き揚げ時にクレーン等の吊具を引掛ける部分である。このため、ショルダー部21の形成が寸法や厚さの点で不充分であるとクレーンで吊るせなくなるので、不良アノードとして排棄処分する必要がある。
【0005】
なお、製品形状や電解槽サイズにも関連するが、アノード及びカソードのサイズは、1000mm〜1400mm程度の方形に収まるサイズが一般的である。この電解工程では、純度99.99%程度の電気銅を得ることができる。
【0006】
従来より、上記のごとき電解用アノードAはターンテーブル型の鋳造装置で鋳造されている。
図6に基づき従来の電解用アノード鋳造装置を説明する(特許文献1、3参照)。
この電解用アノード鋳造装置は、ターンテーブル101の上に載置されたアノード鋳型102を間欠的に回転しつつ、鋳込、冷却、剥取りを順次行うことによって、電解用アノードAを形成することができるように構成されている。
精製炉104から供給された精製粗銅がアノード鋳型102に傾注して鋳込まれ、ターンテーブル101上で間欠回転していくと、精製粗銅は冷却フード107内で冷却されて固体化する。そして、固体化した精製粗銅は、剥取り機111で、アノード鋳型102から剥ぎ取られることにより、電解用アノードAとなる。
【0007】
既述のごとく、上記工程の間に不良アノードは除去されなければならない。
たとえば、鋳込み時の溶湯流れが悪く、電解用アノードAのショルダー部21に溶湯が良好に行き渡らない場合には、ショルダー部21の形成が不充分となる。あるいは後述する押上げピンの押す力に耐えられないほど寸法や厚さに不足があると、図
7の点線で示す「腰折れ」状態のアノードA´となって、電解工程で電解槽中に挿入できなくなる。このようなアノードA´を不良アノードと呼び、図
6に示す不良アノード剥取機110で工程から除去される。
【0008】
(アノードの押上げ回数:1次と2次)
上記電解用アノードAをアノード鋳型102から剥ぎ取る場合は、アノード鋳型102が剥取機111の設置箇所に到達する以前に、電解用アノードAをアノード鋳型102から、いったん押し上げる押上げ操作が行われる。
図7に示すように、アノード鋳型102には押上げピン103が備えられ、剥取り操作が容易となる位置まで、ショルダー部21側を押し上げている。
また、この押上げは、電解用アノードAとアノード鋳型102との離型、その後の剥ぎ取りを円滑にするために、2回に分けて押上げ操作が行われるのが一般的である。
【0009】
最初の押上げは「1次押上げ」と呼ばれ、ショルダー部21を押し上げた後、鋳込まれた位置にショルダー部21を戻す。そして、再度「2次押上げ」とよばれる押上げによって、電解用アノードAが剥ぎ取られる位置まで押し上げるという操作が行われている。
【0010】
(アノードの押上げ位置:冷却フード内)
また、この押上げは、
図6に示す冷却フード107内で行われている。冷却フード107内では、シャワー状の冷却水が、電解用アノードAおよびアノード鋳型102に散布されており、前記の押上げにより、冷却効果も高くなっている。
図6の例では、「1次押上げ」はD点(冷却フード内における進行方向略中間点)で、「2次押上げ」はE点(D点よりも進行方向下流側)で行なわれているが、「1次押上げ」の後にショルダー部21を鋳型内に戻す位置、および「2次押上げ」のE点は図の位置に限定されるものではなく、冷却フード7内であれば、ある程度自在に調製することができる。
【0011】
ただし、「1次押上げ」の位置は、押上げによる負荷に電解用アノードAが耐えられる、すなわち変形しない程度まで電解用アノードAが固化している必要があるため、鋳型温度≦700℃となるD点以降の位置であることが必要である。これが守られないと、
図7の点線で示すように、固化途中のアノードAが、押上げピン103の押し上げる力に負けて、下に凸の状態に曲がる「腰折れ」状態の不良アノードA´となってしまう。
【0012】
(剥取り工程後の離型剤散布)
上記の電解用アノードAの製造の過程で、電解用アノードAとなった精製粗銅を剥ぎ取った後のアノード鋳型102には、次の精製粗銅を鋳込む前に、アノード鋳型102からの電解用アノードAの剥離性を高めるために、粘度水散布部112の位置で、離型剤スラリー(粘土等の離型剤を水で溶いたもの)が鋳型内面に散布される。
そして離型剤スラリー中の水分を充分に蒸発させた後、再び、精製粗銅がアノード鋳型102に鋳込まれるというサイクルを繰り返す。
【0013】
離型剤スラリーは、別名、粘土水とも呼ばれており、例えば、特許文献1(段落0015参照)に示すように、粘土水は鋳型1枚当たり110gの粘土を1.1〜1.5リットルの水(0.07〜0.10g/c m
3)程度の固形分濃度で懸濁させたスラリーとして、アノード鋳型102の鋳込み面に均等に散布することが一般的である。
熔体の鋳込み時に水分が残っていると、熔体が冷却固化されるまえに、急激に水蒸気が発生して所望の形状にならないだけでなく、熔体が飛散するなど安全上の問題もあるので、上記のように均等に散布した後は、充分に水分を乾燥させ(この工程で鋳型の温度は180℃程度となっている)、粘土粉のみが、鋳込み面を均等に被覆した状態にして、熔体の鋳込み作業が行われる。
【0014】
アノード鋳造工程の品質問題として、電解用アノードAの鋳バリ、額縁、亀裂、膨れ等がある。膨れを発生させる一因として、離型剤スラリーとして使用する粘土粉中の結晶水がある。離型剤スラリーに粘土粉を使用した場合、粘土粉には結晶水が含まれているため、熔銅を鋳込むと粘土粉が加熱されて温度が上昇し、結晶水が分解する。この分解した結晶水が水蒸気となり、その水蒸気が溶銅表面付近に取り込まれ、表面から大気中に抜け出す前に溶銅表面の固化が進行してしまうため、アノード表面に“膨れ”が発生する。膨れと呼ばれる鋳造欠陥は、後工程の電解工程でアノードとカソードの間の面間距離、いわゆる極間距離を狭めるために電解時のショートを誘発しやすくなる。
そのため、膨れは電流効率の直接的な低下原因の一因となり易く、電解の操業度向上に寄与するため膨れを抑制する技術が要請されている。
【0015】
(特許文献2の従来技術)
そこで、電解用アノードの表面の平滑性を向上させることを目的とした様々な手段が考案されている。一例として、特許文献2がある。特許文献2には、アノード鋳型に離型剤スラリーを塗布、乾燥した後に、粗銅を注湯し、冷却固化後のアノードを鋳型から取り出すようにしたアノードの鋳造方法であって、離型剤スラリーとして粘土粉と水ガラスを含有する混合水溶液を使用する電解用アノードの製造方法が開示されている。
しかし、この従来技術はアノード周縁部の亀裂抑制および鋳張りを抑制する技術であり、上記した膨れの対策に適用することは困難である。
【0016】
また、特許文献2の従来技術では、粘土水を作成する前に粘土粉の結晶水を除去する操作をするので、粘土の特性が変化し、粘土水を作成する際の固形分の分散性が悪化して均一な鋳型表面が得られない場合もある。このため、鋳型との焼き付きが発生したこともあった。
【0017】
(特許文献3の従来技術)
そこで、特許文献3では、膨れの原因として粘土粉が保持している結晶水に注目し、予め粘土粉を高温で処理し、結晶水を除去する技術が記載されている。この従来技術によると、膨れを大きく減少させることができることが可能であるが、上記の結晶水除去処理をするためには、新規コストが必要であり、また、処理後の粘土粉を離型剤として使用すると、鋳型が焼付くという別の問題点が発生する場合があり、未だ充分成熟した技術とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001-191171号公報
【特許文献2】特開2015-139779号公報
【特許文献3】特開2012-236206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記問題点を解決するため、銅電解用アノードを鋳造する際に、膨れの発生を抑制でき、製造コストを低減でき、しかも鋳型の焼付きを抑制することが可能な、銅電解用アノードの製造装置と製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、アノード鋳造工程を見直し、特定のタイミングで粘土水を散布することにより上記課題への対応策を見出した。
すなわち、冷却途中の高温のアノードと鋳型間に、より詳しくは、1次押上げ後、アノードが鋳型に戻される間に、粘土水を散布することにより上記課題を解決して本発明を完成させたものである。
【0021】
第1発明の銅電解用アノードの鋳造装置は、間欠回転可能なターンテーブルと、該ターンテーブル上に設置された複数個のアノード鋳型と、前記ターンテーブルの回転方向に沿って鋳込み位置と、冷却領域と、電解用アノードを剥ぎ取るアノード剥取機とがその順で設けられており、鋳込まれた電解用アノードとアノード鋳型との間に離型剤スラリーを散布する離型剤散布位置を前記冷却領域内に設定
されており、前記冷却領域内において、前記電解用アノードを前記アノード鋳型から押し上げる押し上げ手段と、離型剤を散布する離型剤散布手段が設けられていることを特徴とする。
第2発明の銅電解用アノードの鋳造装置は、第1発明において、前記離型剤位置における離型剤散布タイミングが、
前記押し上げ手段により前記電解用アノードのショルダー部がアノード鋳型から押し上げられる1次押上げの後から前記電解用アノードがアノード鋳型内における鋳込み位置に戻されるまでの間であることを特徴とする。
第3発明の銅電解用アノードの鋳造方法は、熔融粗金属をアノード鋳型に鋳込む鋳込み工程と、前記アノード鋳型に鋳込まれた前記熔融粗金属を冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された電解用アノードを前記アノード鋳型から剥ぎ取る剥取り工程とを含み、さらに、前記アノード鋳型に離型剤スラリーを散布する離型剤散布工程を有する銅電解用アノードの製造方法であって、離型剤を散布するタイミングが、冷却工程途中であって、前記電解用アノードのショルダー部が鋳型から押し上げられる1次押上げの後から前記アノードが鋳型内における鋳込み位置に戻されるまでの間であることを特徴とする。
第4発明の銅電解用アノードの鋳造方法は、第3発明において、前記離型剤スラリーが、結晶水を保持した粘土粉からなるスラリーであることを特徴とする。
第5発明の銅電解用アノードの鋳造方法は、第4発明において、前記離型剤スラリーの固形分濃度が、0.040〜0.080g/cm
3であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1発明の鋳造装置によれば、冷却途中
において、電解用アノード
を押し上げてアノード鋳型との間に離型剤スラリーを散布すると、散布された離型剤スラリーに含まれる結晶水の一部が分解される。この際、アノードの固化は進行しており、結晶水由来の水蒸気が電解用アノード表面に取り込まれることがない。また、結晶水が分解除去された粘土は、次の鋳込みで鋳込まれる溶銅表面と接しても、水蒸気をほとんど発生させない。このため、得られる電解用アノードの「膨れ」を抑制すことが可能になる。
第2発明によれば、電解用アノードのショルダー部がアノード鋳型から持ち上げられている間に離型剤スラリーを散布するので、アノード鋳型の表面全域に、かつ均等に離型剤スラリーを散布できる。このため、加熱による水分蒸発後は、スラリー中の粘土粉がアノード鋳型表面に均一な厚みで残っているので、電解用アノードのアノード鋳型への焼付きも抑制できる。
第3発明の鋳造方法によれば、冷却工程中であって、前記電解アノードのショルダー部分が鋳型から押し上げられる1次押上げの後、鋳型に戻されるまでの間に、離型剤スラリーを散布すると、散布されたスラリーに含まれる結晶水の一部が分解され、分解された結晶水が水蒸気になっても、既に電解アノード表面が確実に固化しているため、前記水蒸気は電解アノード表面に取り込まれることがない。このため、得られる電解用アノードの「膨れ」を抑制すことが可能になり、しかも、アノードと鋳型の固着も抑制することができる。
第4発明によれば、粘土粉スラリーは、アノード鋳型への流送の際やアノード鋳型の鋳型凹部内への散布の際に、容易に水と混合できるので、均一なスラリーを得易すい。
第5発明によれば、スラリーの固形分濃度が0.040〜0.080g/cm
3とすることにより、散布時間を必要な時間内に短縮でき、水分の充分な蒸発も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解用アノード鋳造装置の説明図である。
【
図2】本発明の鋳造方法におけるアノード鋳型の表面温度変化を示すグラフである。
【
図3】本発明における離型剤散布方法の説明図である。
【
図4】(A)は本発明の鋳造工程中における粘土粉の温度変化を示す説明図、(B)は従来技術の鋳造工程中における粘土粉の温度変化を示す説明図である。
【
図6】従来の電解用アノード鋳造装置の説明図である。
【
図7】押上げピンによるアノード剥ぎ取り動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を
図1〜
図3に基づき詳細に説明する。
(アノード鋳造装置)
本発明の一実施形態におけるアノード鋳造装置は、
図1に示すように、間欠回転可能なターンテーブル1と、このターンテーブル1上に設置された複数個のアノード鋳型2とを備えており、かつターンテーブル1の回転方向に沿って鋳込み位置Iと、冷却領域IIと、不良アノードを剥ぎ取る不良アノード剥取機10と、正常な電解用アノードを剥ぎ取るアノード剥取機11とがその順で設けられている。そして、鋳込まれた電解用アノードAとアノード鋳型2との間に離型剤スラリーを散布する離型剤散布位置を前記冷却領域(冷却工程IIが実施される領域と同じ)内に設定したものである。
【0025】
(アノード鋳造方法)
本発明のアノード鋳造方法は、上記アノード鋳造装置を用いて実施するもので、ターンテーブル1を間欠回転させて、アノード鋳型2を同方向に間欠移動させて、つぎの工程を順に実施する。すなわち、熔融粗金属をアノード鋳型2に鋳込む鋳込み工程Iと、このアノード鋳型2に鋳込まれた熔融粗金属を冷却する冷却工程IIと、この冷却工程IIで冷却されたアノード鋳型2から熔融粗金属からなる電解用アノードを剥ぎ取る剥取り工程IIIとを含み、さらに、アノード鋳型2に離型剤スラリーを散布する離型剤散布工程IVを実行する。そして、離型剤散布工程IVにおいて、離型剤スラリーを散布するタイミングは、冷却工程IIの途中であって、電解用アノードのショルダー部がアノード鋳型から押し上げられる1次押上げの後からそのアノードが鋳型2内における鋳込み位置に戻されるまでの間とされている。
【0026】
鋳込み工程Iは、精製炉4からの熔湯をターンテーブル1上のアノード鋳型2に注湯することにより行われる、
冷却工程IIは、ターンテーブル1の上面から冷却水をシャワー噴霧する冷却フード7内で行われる。この冷却フード7が設けられている領域が特許請求の範囲にいう冷却領域である。
剥取り工程IIIは公知の剥取機11により行われる。
【0027】
(本発明の特徴)
本発明では、離型剤散布工程IVにおける離型剤散布タイミングTは、
図2にも示すように、冷却工程IIの間に存在する。また、冷却工程IIの間であって、1次押上げを行うD位置から、電解用アノードAをいったん下げて電解用アノードAのショルダー部21が鋳型2に戻されるまでの間に、離型剤スラリーを散布するところに特徴がある。すなわち、従来技術では、剥取り工程の後であったところ、全工程中のより上流にある冷却工程IIの途中で行うところに特徴がある。
このように、離型剤散布タイミングTを全工程の上流側に移すと、アノード鋳型2に多量の熱が含まれているので、離型剤スラリーに含まれる粘土の結晶水を分解除去可能な温度まで加熱ないし加温を加えることができる。加えて電解アノード表面は固化しており、分解した結晶水由来の水蒸気が電解アノード表面に取り込まれることがない。また、結晶水が分解除去された粘土は、次の鋳込み作業で溶銅表面と接しても、水蒸気をほとんど発生させることがないので、得られる電解用アノードの「膨れ」を抑制すことが可能になり、しかも、アノードと鋳型の固着も抑制することができる。
【0028】
(離型剤散布タイミング)
図2に示した離型剤散布タイミングTを、
図3を参照しながら説明する。
図3の上段は1次押上げ位置Dの直後である。このタイミングであれば、電解用アノードAは約700℃に低下しており、
押し上げ手段としての押上げピン3の押す力に耐えられる程度に固化している。そして、この固化状態の電解用アノードAとアノード鋳型2との間に隙間があるので、その開口部が最も広くなる方向、すなわち、ショルダー部21側から離型剤スラリーを散布する。
散布方法には、アノード鋳型2の凹部の全面に散布することさえできれば、とくに制限はなく、
離型剤散布手段としての専用の散布ノズルで注入しても良いし、万全の暑熱対策を取った作業員が手作業で散布しても良い。
【0029】
離型剤スラリーの散布は、電解用アノードAのショルダー部21の1次押し上げ位置Dから戻し始めて2次押上げ位置Eの前までに完了させる。この間に、
図2中段に示すように、離型剤スラリーの水分はかなり蒸発して粘土粉となっているので、その粘土粉が電解用アノードAとアノード鋳型2に挟まれる状態となる。
【0030】
図
3下段は、鋳込み位置Iを示しており、アノード鋳型2の底部に粘土粉が焼成された状態で膜状に残っている状態を示している。この焼成粘土粉の上に熔融粗金属(つまり熔体)が鋳込まれる。
【0031】
(離型剤の種類)
本発明の電解用アノードの製造方法においては、離型剤スラリーの原料として、粘土、雲母、或いは、ひる石等、結晶水を含有する無機系の離型剤を適宜用いることができる。
離型剤スラリーとして結晶水を含まないものを用いることもできるが、結晶水を含まない離型剤は、硫酸バリウム等、人工的に得られる離型剤がほとんどであり、値段も高価となる。
一方、粘土に代表される天然系の離型剤原料は、結晶水を含有はしているものの、入手が容易で、値段も安価である。また、そのような天然系の離型剤原料の中でも、取り扱い性が良好な粘土を、特に好ましく用いることができる。
【0032】
離型剤原料としての粘土は、アノード鋳型2への流送の際や、アノード鋳型2の鋳型凹部内への散布の際に、容易に水と混合でき、均一なスラリーが得易いという利点がある。
本明細書における粘土とは、粒径が2μm以下の微細な鉱物であり、主成分は、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、イライト、バーミキュライト等の鉱物のうち、1種、或いは2種以上を含む鉱物のことを言う。
離型剤原料としての粘土粉にも、とくに制限はなく、従来技術によって結晶水を除去した粘土粉でも、前記の「膨れ」、「焼付き」の抑制効果に変わりないが、結晶水を保持した通常の粘土粉であっても、事前処理のために要するコストが不要となるので好ましい。
【0033】
また、離型剤スラリーとしての粘土水を散布する際に、アノード鋳型2の凹部の全面に散布することができれば、粘土水を作成する際の固形分濃度に制限はない。
粘土水は鋳型1枚あたり、110gの粘土を1.1〜1.5リットルの水(0.07〜0.10g/c m
3)程度の固形分濃度で懸濁させたスラリーとして、鋳型2の鋳込み面に均等に散布することが一般的であるが、本発明の場合には、通常より高い温度の位置(つまり、冷却領域の途中)で散布することにより、水分の蒸発速度が大きくなるため、0.040〜0.080g/cm
3程度と、一般的な固形分濃度よりも、やや薄めにした方が好ましい。
【0034】
粘土水の固形分濃度が0.040g/cm
3より薄いと、アノード鋳型1枚当りの散布時間が掛かりすぎるので、電解用アノードAのショルダー部21がアノード鋳型2の元の位置に戻されるまでの時間に間に合わないおそれがある。また、0.080g/cm
3より濃いと、散布方法によっては水分の蒸発に間に合わないおそれが出てくる。
これに対し、スラリーの固形分濃度が0.040〜0.080 g/cm
3とすれば、散布時間を必要な時間内に短縮でき、水分の充分な蒸発も可能となる。
【0035】
(本発明による利点)
本発明の電解用アノードの鋳造装置または鋳造方法によれば、粘土粉中の結晶水が分解する温度よりも高い冷却途中の電解用アノードで加熱することにより、結晶水を分解除去するので、あらかじめ粘土粉を焼成する必要がなく、コスト的に有利であり、膨れの発生量減少ができるだけでなく、更に、鋳型の焼付きを抑制することが可能であるため、その工業的価値は大きい。
【0036】
つぎに、本発明による利点の詳細を説明する。
(1)「膨れ」が抑制される理由
図2に示すように、離型剤スラリーを散布している間に、粘土水に残された水分の蒸発が完了して粘土粉だけとなると、急速に電解用アノードAとアノード鋳型2との温度が冷却帯出口で約650℃まで昇温され「2次押上げ」がおこなわれるまで、その温度に保持される。
その後、650℃程度まで上昇した粘土粉の温度はターンテーブル1の進行とともに徐々に低下するが、次回の鋳込みまでの間に受ける加熱で、粘土粉に保持される結晶水の大部分が飛ばされ、次回の鋳込みで溶銅表面と接しても水蒸気をほとんど発生させないので、結晶水を原因とする「膨れ」が抑制される。
【0037】
(2)焼付きが抑制される理由
発明者らの予想が含まれるが、電解用アノードAとアノード鋳型2に挟まれる最初の段階で、粘土水には水分が残され、流動性が高くなっており、仮に局所的に粘土粉の濃度が高い部分があったとしても、電解用アノードAとアノード鋳型2にはさまれることにより、散布状態が均一化される。
図2中段に示すように、粘土粉は電解用アノードAとアノード鋳型2との間に挟まれて、電解用アノードAの重みで押圧されるので、
図2下段に示すように、アノード鋳型2の表面に、均一な粘土鋳型の被膜が形成される。
このため、従来の粘土水散布よりも、均一な鋳型表面が形成され、次回の鋳込み後に得られる電解用アノードとアノード鋳型との焼付きによる固着も抑制されるものと考えられる。
【0038】
(3)剥取り後の粘土水散布の不要化
以上のことから、従来は必要だった、剥ぎ取り後の粘土水散布も不要となる。
さらには、従来では、粘土水散布直前のアノード鋳型2には、アノード剥ぎ取り後に粘土粉が残留しており、新たな粘土水を散布する前に除去作業をする必要があったが、本発明では、アノード剥ぎ取り前に、既に(次回鋳込みのための)均一な鋳型表面が形成されているので、前記除去作業も不要になる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
共通の条件は次の通りである。
アノード製造装置 :
図1の装置
アノード製造枚数 :40枚(ターンテーブル2回転分)
離型剤スラリーは表1のとおり。
【表1】
【0040】
粘土粉A:結晶水を保持した通常の粘土粉
粘土粉B:粘土粉Aを900℃で10分間保持して結晶水を除去した粘土粉
「膨れ」の測定:得られた40枚の電解用アノードAについて、その表面に発生した膨れのうち最も高い膨れの高さを測定し、平均して得られた数値を、「膨れ」値とした。
【実施例1】
【0041】
本発明を適用し、粘土水1を1次押上げ直後に散布し、操業した。
その結果、電解用アノードAとアノード鋳型2の焼付き固着による剥ぎ取り不良は発生しなかった。
また、膨れは、比較例2の40%程度であった。
なお、粘土水の散布においては、容易にアノード鋳型全面に、ほぼ均等に散布することが可能だった。
【実施例2】
【0042】
粘土水2を使用した以外は、実施例1と同様の条件で操業した。
その結果、電解用アノードAとアノード鋳型2の焼付き固着による剥ぎ取り不良は発生しなかった。
また、膨れは、比較例2の38%程度であった。
なお、粘土水の散布においては、容易にアノード鋳型全面に、ほぼ均等に散布することが可能だった。
【実施例3】
【0043】
粘土水3を使用した以外は、実施例1と同様の条件で操業した。
その結果、電解用アノードとアノード鋳型の焼付き固着による剥ぎ取り不良は発生しなかった。
また、膨れは、比較例2の42%程度であった。
なお、粘土水の散布においては、散布量が多くなったため100cm
3程度の散布残りを生じた。
【実施例4】
【0044】
粘土水4を使用した以外は、実施例1と同様の条件で操業した。
その結果、電解用アノードとアノード鋳型の焼付き固着による剥ぎ取り不良は発生しなかった。
また、膨れは、比較例2の41%程度であった。
なお、粘土水の散布においては、散布量が多めだったが、散布残りなくアノード鋳型全面に散布することが可能だった。
【実施例5】
【0045】
粘土水5を使用した以外は、実施例1と同様の条件で操業した。
その結果、電解用アノードとアノード鋳型の焼付き固着による剥ぎ取り不良は発生しなかった。
また、膨れは、比較例2の41%程度であった。
なお、粘土水の散布においては、散布量が少なめであったが、なんとかほぼ均等にアノード鋳型全面に散布することが可能だった。
【実施例6】
【0046】
粘土水6を使用した以外は、実施例1と同様の条件で操業した。
その結果、電解用アノードとアノード鋳型の焼付き固着による剥ぎ取り不良は発生しなかった。
また、膨れは、比較例2の43%程度であった。
なお、粘土水の散布においては、散布量が少なめであり、アノード鋳型全面に散布することが可能だったが、鋳型凹部に散布された粘土に、わずかに濃淡のあることが目視で確認された。
【0047】
(比較例1)
本発明を適用せず、特許文献2の方法を適用した。つまり、粘土水2を
図1の粘土水散布部で散布した。
その結果、電解用アノードとアノード鋳型の焼付き固着が発生し、最初の離型である1次押上げ時に離型はできたものの、固着の影響によって端部が変形した電解用アノード4枚が、不良アノードとして工程内から除去された。
なお、合格した電解用アノードの膨れは比較例2の39%程度であり、また、粘土水は従来設備を使用し、問題なく散布することができた。
【0048】
(比較例2)
本発明を適用せず、粘土水1を
図5に示す粘土水散布部12で散布した。
その結果、電解用アノードとアノード鋳型の固着は発生しなかった。
しかし、膨れは、電解操業でショートを発生しやすい範囲の値の下限となったため、アノード表面の平滑化処理(研削)が必要となり、操業効率が低下した。
【0049】
(参考例1)
粘土粉Aを本発明の方法で散布した後、鋳込み直前に、アノード鋳型表面に形成された粘土鋳型の一部を測定サンプルとして採取し、TG-DTA分析した結果が、
図4の(A)図である。
(参考例2)
粘土粉Aを従来の方法で散布した後、鋳込み直前に、アノード鋳型表面に形成された粘土鋳型の一部を測定サンプルとして採取し、TG-DTA分析した結果が、
図4の(B)図である。
【0050】
参考例1と参考例2の比較により、559.2℃付近までの最大の減量には相違点が確認される。
従来の方法で形成された粘土鋳型部分に含まれる粘土には、0.65%以上の重量減が確認される。一方、本発明の方法で形成された粘土鋳型に含まれる粘土には、0.12%程度の重量減しか確認できない。
上記温度付近における粘土の重量減少は、粘土から結晶水が除去されたものと考えられ、従って、本発明の散布方法によれば、鋳込み直前の粘土中から80%以上の結晶水が除去されているものと考えられる。
なお、TG-DTA(示差熱−熱重量)分析は、JIS K0129による測定方法により行った。
【符号の説明】
【0051】
I 鋳込み工程
II 冷却工程
III 剥取り工程
1 ターンテーブル
2 アノード鋳型
T 離型剤散布タイミング