【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24及び25年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【文献】
日本免疫学会総会・学術集会記録 第42巻 プロシーディングス, 2013, p.161 (2-H-W38-12-P)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40に対する作用手段、BAFF受容体に対する作用手段及びIL−21受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程を含む、B細胞集団の製造方法であって、前記のCD40に対する作用手段及びBAFF受容体に対する作用手段が、CD40L及びBAFFを提示した構造物であるか、あるいは抗CD40抗体又は分泌型CD40Lと、抗BAFF受容体抗体又は分泌型BAFFとの組合せであり、
IL−21受容体に対する作用手段が、IL−21及び/又は抗IL−21受容体抗体である、B細胞集団の製造方法。
B細胞がマウス細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後9日目〜13日目における比増殖速度が0.6(1/日)以上である、請求項1から3の何れか1項に記載のB細胞集団の製造方法。
B細胞がヒト細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜18日目における比増殖速度が0.1(1/日)以上である、請求項1から3の何れか1項に記載のB細胞集団の製造方法。
B細胞にBach2遺伝子を導入する前に、B細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下、かつIL−4あるいはIL−4及びIL−2の存在下で培養する、請求項2又は3に記載のB細胞集団の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ナイーブB細胞および抗原接触後のB細胞に関わらず、特定の抗原に対して高い親和性を示すIgG抗体を産生可能なB細胞のみを高い選択性で且つ短時間に得ることには、未だに至っていない。従って、本発明は、特定抗原に対して特異的なIgG陽性B細胞を含む抗原特異的B細胞集団を簡便に製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。さらに本発明は、上記したB細胞集団の製造方法により製造されるB細胞集団、及び上記したB細胞集団の製造方法を使用してモノクローナル抗体を製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、B細胞にBach2遺伝子を導入することによってBach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養することによって、B細胞集団を高い増殖速度で長期間培養できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程を含む、B細胞集団の製造方法。
[2] Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞が、B細胞にBach2遺伝子を導入することによって得られる細胞である、[1] に記載のB細胞集団の製造方法。
[3] Bach2遺伝子が、下記(a)〜(d)の何れかの遺伝子である、[2]に記載のB細胞集団の製造方法。
(a)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子;
(b)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子であって、Bach2遺伝子と同等の機能を有する遺伝子;
(c)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子であって、Bach2遺伝子と同等の機能を有する遺伝子;又は
(d)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、Bach2遺伝子と同等の機能を有する遺伝子。
[4] ウイルスベクターを用いてB細胞にBach2遺伝子を導入する、[2]又は[3] に記載のB細胞集団の製造方法。
[5] 前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターである、[4]に記載のB細胞集団の製造方法。
【0013】
[6A] B細胞がマウス細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後9日目〜13日目における比増殖速度が0.6(1/日)以上である、[1]から[5]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[7A] B細胞がマウス細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後9日目〜17日目、9日目〜22日目、9日目〜27日目、9日目〜32日目、及び9日目〜38日目の何れか1以上における比増殖速度が0.6(1/日)以上である、[6A]に記載のB細胞集団の製造方法。
[8A] B細胞がマウス細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後13日目〜17日目、17日目〜22日目、及び22日目〜27日目の何れか1以上における比増殖速度が0.6(1/日)以上であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後27日目〜32日目、及び32日目〜38日目の何れか1以上における比増殖速度が0.4(1/日)以上である、[6A]又は[7A]に記載のB細胞集団の製造方法。
[6B] B細胞がヒト細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜18日目における比増殖速度が0.1(1/日)以上である、[1]から[5]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[7B] B細胞がヒト細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜24日目、及び12日目〜30日目の何れか1以上における比増殖速度が0.2(1/日)以上である、[6B]に記載のB細胞集団の製造方法。
[8B] B細胞がヒト細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後18日目〜24日目及び24日目〜30日目の何れか1以上における比増殖速度が0.15(1/日)以上である、[6B]又は[7B]に記載のB細胞集団の製造方法。
【0014】
[9] 前記CD40及び/又はBAFF受容体に対する作用手段が、CD40L及び/又はBAFFを提示した構造物、CD40の刺激因子、又はBAFF受容体の刺激因子の何れかで1以上である、[1]から[8]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[10] 前記構造物が、担体、フィーダー細胞、細胞外マトリックス、生体組織または臓器の何れかである、[9]に記載のB細胞集団の製造方法。
[11] 前記のCD40の刺激因子又はBAFF受容体の刺激因子が、抗CD40抗体、分泌型CD40L、抗BAFF受容体抗体、又は分泌型BAFFのいずれかである、[9]又は[10]に記載のB細胞集団の製造方法。
[12] B細胞を培養する培地中に含まれるCD40の刺激因子の濃度が10ng/mL以上である、[9]から[11]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[13] B細胞を培養する培地中に含まれるBAFF受容体の刺激因子の濃度が10ng/mL以上である、[9]から[12]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
【0015】
[14] Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程が、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段及びIL−21受容体に対する作用手段の存在下においてB細胞を培養する工程である、[1]から[13]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[15] Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程が、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段、IL−21受容体に対する作用手段、並びにIL−4及び/又はIL−2の存在下においてB細胞を培養する工程である、[1]から[13]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[16] IL−21受容体に対する作用手段が、IL−21及び/又は抗IL−21受容体抗体である、[14]又は[15]に記載のB細胞集団の製造方法。
[17] B細胞を培養する培地中に含まれるIL−21及び/又は抗IL−21受容体抗体の濃度が1 ng/mL以上である、[16]に記載のB細胞集団の製造方法。
[18] B細胞を培養する培地中に含まれるIL−4の濃度が5ng/mL以上である[15]に記載のB細胞集団の製造方法。
[19] B細胞を培養する培地中に含まれるIL−2の濃度が2.5U/mL以上である、[15]又は[18]に記載の製造方法。
【0016】
[20] B細胞にBach2遺伝子を導入する前に、B細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下、かつIL−4あるいはIL−4及びIL−2の存在下で培養する、[2]から[5]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[21] B細胞を培養する培地中に含まれるIL−4の濃度が5ng/mL以上である[20]に記載のB細胞集団の製造方法。
[22] B細胞を培養する培地中に含まれるIL−2の濃度が2.5U/mL以上である、[20]又は[21]に記載の製造方法。
[23] Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程が、FASを介した刺激の非存在下において培養する工程である、[1]から[22]の何れかに記載のB細胞集団の製造方法。
[24] FASを介した刺激の非存在下において培養した前記B細胞を、FASを介した刺激の存在下において培養する工程をさらに含む、[23]に記載のB細胞集団の製造方法。
[25] [1]から[24]のいずれかに記載の製造方法により製造されるB細胞集団。
[26] B細胞が、ウイルスベクターに組み込まれたBach2遺伝子を有する、[25]に記載のB細胞集団。
[27] B細胞がマウス細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後9日目〜13日目における比増殖速度が0.6(1/日)以上である、[25]又は[26]に記載のB細胞集団。
[28] B細胞がヒト細胞であり、B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜18日目における比増殖速度が0.1(1/日)以上である、[25]又は[26]に記載のB細胞集団。
[29] [1]から[24]のいずれかに記載の製造方法により製造されたB細胞集団を使用する、モノクローナル抗体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定抗原に対して特異的なIgG陽性B細胞を含む抗原特異的B細胞集団を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明のB細胞集団の製造方法は、Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程を含む方法である。
【0020】
Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞は、B細胞にBach2遺伝子を導入することによって得られる細胞、またはB細胞が元々有しているBach2遺伝子の発現量又は存在量を増大させることにより得られる細胞の何れでもよい。
【0021】
B細胞が元々有しているBach2遺伝子の発現量又は存在量を増大させる手法としては、Menin遺伝子(Nature Communications, 5:3555, DOI:10:1038.ncomms4555)をB細胞に導入する方法、レプトマイシンB(LMB)の添加によりBach2の核外輸送を阻害して核に局在化させる方法、またはBach2のユビキチン化とプロテアソ−ムによる分解の阻害剤を添加する方法などが挙げられるが、特に限定されない。
【0022】
B細胞にBach2遺伝子を導入する場合におけるBach2遺伝子としては、下記(a)〜(d)の何れかの遺伝子であることが好ましい。
(a)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子;
(b)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子であって、Bach2遺伝子と同等の機能を有する遺伝子;
(c)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子であって、Bach2遺伝子と同等の機能を有する遺伝子;又は
(d)配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、Bach2遺伝子と同等の機能を有する遺伝子。
【0023】
配列番号1に示すアミノ酸配列は、マウスBach2のアミノ酸配列であり、配列番号2に示すアミノ酸配列は、ヒトBach2のアミノ酸配列である。
【0024】
配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列との配列同一性は、90%以上が好ましいが、93%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、98%以上が特に好ましい。アミノ酸配列の配列同一性は、配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列と評価したいアミノ酸配列とを比較し、両方の配列でアミノ酸が一致した位置の数を比較総アミノ酸数で除して、さらに100を乗じた値で表される。
【0025】
配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子は、「Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons, Inc., 1989)」等に記載の公知の方法に準じて調製することができる。
【0026】
本明細書において、Bach2遺伝子と同等の機能を有するとは、配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子と同等の機能を有することを意味し、例えば、B細胞に導入した場合に、同等の細胞増殖機能を発揮することなどを意味する。また、Bach2遺伝子の機能の一つとしては、Bach2遺伝子の発現産物が、Blimp1遺伝子のプロモーター上流のMARE(Maf-recognition element)と第5イントロン中のIRF結合配列に結合して、Blimp1遺伝子の転写を抑制することが知られている。Bach2遺伝子と同等の機能を有するとは、Bach2遺伝子の場合と同様に、Blimp1遺伝子の転写を抑制する機能を有するものでもよい。
【0027】
欠失、挿入、置換および/または付加により改変されたアミノ酸配列としては、1種類のタイプ(例えば置換)の改変のみを含むものであっても良いし、2種以上の改変(例えば、置換と挿入)を含んでいても良い。また、置換の場合には、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸(同族アミノ酸)であることが好ましい。ここでは、以下に挙げる各群の同一群内のアミノ酸を同族アミノ酸とする。
(第1群:中性非極性アミノ酸)Gly,Ala,Val,Leu,Ile,Met,Cys,Pro,Phe
(第2群:中性極性アミノ酸)Ser,Thr,Gln,Asn,Trp,Tyr
(第3群:酸性アミノ酸)Glu,Asp
(第4群:塩基性アミノ酸)His,Lys,Arg。
【0028】
前記の複数個のアミノ酸とは、例えば、60個、好ましくは20個、より好ましくは15個、さらに好ましくは10個、さらにより好ましくは5個、4個、3個、特に好ましくは2個以下のアミノ酸を意味する。
【0029】
配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子とは、配列番号1及び/又は配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAまたはその一部をプローブとして、ストリンジェントな条件下にコロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。
【0030】
ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning, A laboratory manual, second edition (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)」等に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAとは、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより取得できるDNAを挙げることができる。好ましくは65℃で1倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、さらに好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、最も好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で洗浄することにより取得できるDNAである。
【0031】
以上のようにハイブリダイゼーション条件を記載したが、ハイブリダイゼーション条件はこれらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0032】
B細胞にBach2遺伝子を導入するためには、Bach2遺伝子を有する組み換えベクターを構築し、この組み換えベクターをB細胞に導入すればよい。ベクターとしては、ウイルスベクター、プラスミドベクター、またはリポソームベクター(例えば、カチオニックリポソームベクター)等が挙げられる。ウイルスベクターの具体例としては、レトロウイルスベクター(例えば、HIVベクターなどのレンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター、バキュロウイルスベクター等が挙げられる。ベクターは、好ましくは、ウイルスベクターであり、さらに好ましくは、レトロウイルスベクター(例えば、HIVベクターなどのレンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターであり、特に好ましくはレトロウイルスベクター(例えば、HIVベクターなどのレンチウイルスベクター)である。
【0033】
ベクターには、Bach2遺伝子以外に、Bach2遺伝子の発現を制御する配列(例えば、プロモーター配列、ターミネーター配列、エンハンサー配列)や宿主細胞を選択するための遺伝子マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子)等を含んでいてもよい。ベクターの構築方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
【0034】
Bach2遺伝子を含むベクターのB細胞への導入方法としては、例えば、ウイルスベクターの場合には感染により行うことができ、プラスミドベクターの場合にはエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、又はリポフェクション法等が挙げられる。
【0035】
Bach2遺伝子の発現の上昇のレベルについては本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、元々のB細胞と比べて、Bach2遺伝子の発現量が1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明に用いられるB細胞は、好ましくはIgG陽性B細胞、即ち、表面にIgGを有するB細胞である。IgG陽性B細胞は、B細胞を含有する細胞集団からIgG抗体の有無に基づいて得ることができる。
【0037】
本発明に用いられるB細胞を含有する細胞集団は、一般には末梢血細胞、骨髄細胞又はリンパ系臓器、例えば脾臓細胞などに由来する細胞集団であればよく、特に限定されない。またIgG陽性B細胞としては、抗原未反応のナイーブB細胞であっても、抗原接触後のB細胞であってもよい。ここで本明細書における「ナイーブB細胞」とは、抗原と未反応の成熟B細胞を一般に指し、CXCR5陽性且つCD40陽性の表面抗原を示す細胞が該当する。また、本発明に用いられる細胞集団は、IL−21受容体(IL−21R)、CD40、BAFF受容体(BAFF−R)を有するものが好ましく、またFasを有することも好ましく、さらに抗原を認識可能なIgG陽性B細胞を含むものが好ましい。本発明の目的を妨げない範囲で分化段階における他のステージのB細胞や多種の細胞が含まれていてもよい。培養による選択の効率の観点から、IgG陽性B細胞以外のB細胞、例えば、IgE陽性細胞、CD138陽性(プラズマ)細胞や、B細胞以外の細胞、例えば、T細胞、単球、NK細胞を除去することが好ましい。
【0038】
本発明において細胞集団は、免疫系が確立された生物由来の細胞集団であればよく、哺乳動物の霊長類、例えばヒト、サルなど、有蹄類、例えばブタ、ウシ、ウマなど、小型哺乳類の齧歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなど、鳥類、例えはニワトリ、ウズラなどが含まれる。本細胞集団の由来としては、齧歯類及び霊長類であることが好ましく、マウス、ヒトを例示することができる。脾臓等の生体組織から細胞集団を調製する方法は、通常のB細胞集団を調製する条件をそのまま適用すればよい。また、生体由来の細胞集団に限定されず、確立されたB細胞株であってもよい。
【0039】
B細胞を含む細胞集団の培養は、通常、B細胞の培養に用いられる培地による通常の培養条件であればよい。このような培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)や、RPMI1640などを挙げることができる。これらの培地に対しては、通常、血清、各種ビタミン、各種抗生物質等、通常の細胞培養に適用可能な各種添加剤を添加してもよい。 培養温度などの培養条件は、一般的なB細胞に対して用いられる培養条件をそのまま適用することができ、例えば、37℃5%CO
2の条件が挙げられる。 細胞集団の培地への播種密度は、細胞集団の由来や組織から調製した細胞の状態、また同一培養系内で行う培養日数によって異なるが、一般に、1×10
2個〜1×10
7個/cm
2、好ましくは1×10
3個〜1×10
7個/cm
2とすればよく、特にヒトB細胞は高密度で培養を開始した方が増殖率が良いことから、好ましくは1×10
4個〜1×10
7個/cm
2とすればよい。この範囲内であれば、4日間程度の培養後に、過増殖状態になることを予防できる。
【0040】
本発明に用いられるB細胞は、IL−21の存在下で、CD40、BAFF受容体を介した刺激により細胞内シグナルを生じさせる場合には、IL−21受容体(IL−21R)、CD40、及びBAFF受容体(BAFF−R)を有することが好ましい。これらの分子に対する刺激は、これらの分子を外部から認識してCD40及びBAFF受容体を有するIgG陽性B細胞の内部に細胞内シグナルを生じさせるものであれば制限はない。
【0041】
本発明においてCD40及び/又はBAFF受容体に対する作用手段としては、CD40リガンド(CD40L)及び/又はBAFFを提示した構造物、CD40の刺激因子、又はBAFF受容体の刺激因子の何れかで1以上などが挙げられる。
【0042】
CD40の刺激因子としては、抗CD40抗体、又は分泌型CD40Lなどが挙げられる。CD40Lは、CD40に対するリガンドであり、CD40Lのアミノ酸配列は公知となっている(例えば、Nature, Vol.357, pp.80-82 (1992)及び、EMBO J., Vol.11, pp.4313-4321 (1992)参照)。本発明では、CD40Lの配列のうち、受容体結合能に関与する活性ドメインの結合能が失われない程度に保存されていればよく、例えば、活性ドメインの80%以上のアミノ酸配列相同性があれば、本発明において利用可能である。このようなCD40Lは、自然に発現する細胞から単離したものであってもよく、既知のアミノ酸配列に基づいて合成したものであってもよい。また、CD40Lは、培養系中のB細胞に対してCD40Lの存在に対応したシグナルを与えることができる形態であればよく、遊離型であっても、膜結合型であってもよい。
【0043】
遊離型CD40LなどのCD40の刺激因子は、IgG陽性B細胞を含む細胞集団を形成するためには、B細胞が増殖を維持可能な濃度で培養系に存在すればよく、例えば、10ng/ml〜10μg/mlだが、B細胞の増殖に伴う相対的な減少を考慮して好ましくは50ng/ml〜10μg/mlとすることができる。
【0044】
BAFF受容体の刺激因子としては、抗BAFF受容体抗体、又は分泌型BAFFなどが挙げられる。
【0045】
BAFF(B細胞活性化因子:B cell activation factor belonging to the tumor necrosis factor family)は、TNF類縁分子であって抗原と反応したB細胞の増殖、分化等に関与していることが知られている分子であり、BAFFのアミノ酸配列は既に公知となっている(例えば、J Exp Med, Vol.189, pp.1747-1756 (1999)及び、Science, Vol. 285, pp.260-263 (1999)及び、J Bio Chem, Vol.274, pp.15978-15981, (1999))。本発明では、BAFFの配列のうち、受容体結合能に関与する活性ドメインの結合能が失われない程度に保存されていればよく、例えば、活性ドメインの80%以上のアミノ酸配列相同性があれば、本発明において利用可能である。このようなBAFFは、自然に発現する細胞から単離したものであってもよく、既知のアミノ酸配列に基づいて合成したものであってもよい。また、BAFFは、培養系中のIgG陽性B細胞に対してBAFFの存在に対応したシグナルを与えることができる形態であればよく、遊離型(即ち、分泌型)であっても、膜結合型であってもよい。
【0046】
遊離型BAFFなどのBAFF受容体の刺激因子は、IgG陽性B細胞を含む細胞集団を形成するためには、B細胞が増殖を維持可能な濃度で培養系に存在すればよく、例えば、10ng/ml〜10μg/ml、高濃度であればより生存支持活性が期待できるとの観点から好ましくは50ng/ml〜10μg/ml濃度とすることができる。
【0047】
Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程は、FASを介した刺激の非存在下において培養する工程でもよいし、FASを介した刺激の存在下において培養する工程でもよい。また、FASを介した刺激の非存在下において培養したB細胞を、その後に、FASを介した刺激の存在下において培養してもよい。B細胞を選択濃縮するためには、FASを介した刺激の存在下において培養する前に、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程を行うことが好ましい。
【0048】
Fasリガンド(FasL)は、TNFファミリーに属するデス因子、即ちアポトーシス誘導活性を示すサイトカインであり、そのアミノ酸配列は公知となっている(例えば、Cell, Vol.75, pp.1169-1178 (1993))参照。本発明では、FasLの配列のうち、受容体結合能に関与する活性ドメインの結合能が失われない程度に保存されていればよく、例えば、活性ドメインの80%以上のアミノ酸配列相同性があれば、本発明において利用可能である。このようなFasLは、自然に発現する細胞から単離したものであってもよく、既知のアミノ酸配列に基づいて合成したものであってもよい。また、FasLは、培養系中のIgG陽性B細胞に対してFasの存在に対応したシグナルを与えることができる形態であればよく、細胞内シグナルを生じさせることができれば遊離型であっても、膜結合型であってもよい。 FasLは、一般的にB細胞に対してアポトーシスを誘導可能な濃度で培養系に存在していればよく、例えば、10ng/ml〜10μg/ml、また抗原刺激による細胞死の抑制を誘導する観点から、好ましくは10ng/ml〜1μg/mlの濃度とすることができる。
【0049】
なお、CD40L、BAFF及びFasLの由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、ヒト、マウスを例示することができる。また、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来するものであってもよく、異なる種に由来するものであってもよい。
【0050】
CD40、BAFF受容体(BAFF−R)又はFasに対する抗体又は抗体断片は、当業界で既知の方法に従って得ることができる。CD40、BAFF受容体(BAFFR)又はFasに対して結合能を有する抗体であれば、特に制限はない。これらの抗体又は抗体断片は、担体の表面に提示された形態であっても、抗体表面に固定化されていない遊離型又は可溶化形態であってもよい。
【0051】
CD40L、BAFF又はFasLは、培養系中のB細胞に対して確実に細胞内シグナルを与える観点から、構造物の表面に提示された形態であることが好ましい。構造物としては、担体、フィーダー細胞、細胞外マトリックス、生体組織または臓器の何れかであることが好ましい。各分子を表面に提示するために用いられる担体としては、人工脂質二重膜、ポリスチレン若しくはポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック、コラーゲン、ナイロン、ニトロセルロース、寒天、アガロース、セファロースなどの多糖、紙、ガラスなどを、上記分子を表面に提示するために通常用いられるものであれば、特に制限されることなく挙げることができる。担体の形状には特に限定はなく、シート状、平板状、球状、スポンジ状、繊維状などのいずれの形状としてもよい。構造物としては、細胞の確実な選択性の観点から、フィーダー細胞であることが好ましい。フィーダー細胞として使用可能な細胞としては、線維芽細胞、上皮細胞(例えばHeLa細胞)、胎児腎臓細胞(例えば、HEK293など)、濾胞樹状細胞などを挙げることができる。なかでも、増殖速度が速く、細胞表面積が大きい、フィーダー細胞の除去が簡便であるとの観点から、線維芽細胞が好ましい。
【0052】
CD40L、BAFF、及び所望によりFasLを細胞表面に提示されたフィーダー細胞は、CD40L、BAFF、及びFasLの既知の配列に基づいて、当業者であれば遺伝子組み換え技術等を用いて作製することができる。 フィーダー細胞の由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、マウス、ヒトなどを例示することができる。また、フィーダー細胞は、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来する細胞であってもよく、異なる種に由来する細胞であってもよい。
【0053】
本発明においては、IgG陽性B細胞に対して、特定抗原を提示することにより、所望のIgGを産生するB細胞を選別してもよい。特定抗原とは、目的とする抗原特異的IgG陽性B細胞が親和性を示す抗原を意味し、目的に応じて適宜選択される。抗原の種類としては、抗原性を示すものであれば特に制限はなく、DNA、RNAなどの核酸、糖鎖、脂質、アミノ酸、ペプチド、タンパク、ハプテン、低分子化合物などを挙げることができる。これらの物質は、B細胞が認識できる形態で提示されていればよく、遊離型であっても担体固定型であってもよい。B細胞への確実な提示の観点から、抗原は、担体に固定された形態であることが好ましい。
【0054】
IgG陽性B細胞による抗原認識性を高めるために、用いられる抗原には、抗原単独で用いられる形態の他に、既知の補助分子を付加した形態、抗体分子との結合形態など、当業界で既知の抗原性を高める形態を適用してもよい。
【0055】
抗原の提示に抗体分子との結合形態を適用した場合あるいはタンパク抗原と抗体Fc領域との融合タンパクを適用した場合には、担体表面に抗原を展示させるための足場、例えばFcレセプター分子又は、プロテインAまたはプロテインGなどを更に用いればよい。また担体の構成成分に対して結合するタンパク質と、抗原蛋白の融合タンパク質を用いてもよい。また、抗原として膜型タンパク質を提示する場合はその遺伝子を発現ベクターの形で担体としての細胞に導入して発現させてもよい。それ以外のタンパクの場合は適当なシグナルペプチド(分泌タンパクの場合は不要)と適当な膜貫通領域(例えばMHC classIのもの)との融合タンパクとして発現させることのできる発現ベクターを担体としての細胞に導入して発現させてもよい。
【0056】
目的とする抗原特異的B細胞の選択効率の観点から、CD40L、BAFF又はFasLと、抗原とは、フィーダー細胞に提示されていることが更に好ましい。なお、CD40L、BAFF、そして所望によりFasL及び抗原は、IgG陽性B細胞に対して細胞内シグナルを生じさせることができれば、必ずしも同一のフィーダー細胞上に存在していなくてもよい。
【0057】
本発明において好ましくは、Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する際に、IL−21受容体に対する作用手段の存在下において培養を行う。
【0058】
IL−21受容体に対する作用手段としては、IL−12または抗IL−21受容体抗体を使用することができる。
IL−21は、天然由来のものであってもよく、生物工学的に得られた組換え体のものであってもよい。IL−21の由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられる。これらの分子はそれぞれ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、例えばマウス、ヒトなどを挙げることができる。また、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来する分子であってもよく、異なる種に由来する細胞であってもよい。
【0059】
B細胞を培養する培地中に含まれるIL−21及び/又は抗IL−21受容体抗体の濃度は、特定抗原に対して親和性を有するIgG陽性B細胞を増殖可能な量であればよく、一般に、1ng/ml〜1μg/mlとすることが好ましく、100ng/ml〜1μg/mlとすることが更に好ましい。
【0060】
選別工程は、播種密度及び細胞種などの条件によって異なる場合もあるが、確実な選別の観点から一般に選別工程開始後半日以上とし、確実な選別の観点から1日〜3日としてもよく、1日〜2日とすることが好ましいが、細胞の生存能が維持されれば、より長期であってもよく、より長期に培養することによって、より高い親和性を有する抗原特異的IgG陽性B細胞を得ることができる。
【0061】
また、B細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、選別工程はフィーダー細胞を更新しながら、繰り返し行ってもよい。その場合、各選別工程の後にIgG陽性B細胞を増殖させるために、後述する二次培養を行うことが好ましい。B細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、工程を繰り返す毎に抗原の濃度や価数を変化(減少)させてもよい。さらに、B細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、直前の工程の培養上澄、または培養上澄中に産生された抗体を次の工程を行う際に培養系へ加えてもよい。これにより、B細胞受容体と抗体との競合が生じて、より高い親和性のB細胞受容体をもつB細胞が選別され得る。
【0062】
本発明において好ましくは、Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する際に、IL−4及び/又はIL−2の存在下において培養してもよい。但し、得られる細胞集団におけるIgG陽性B細胞の割合の観点から、培養系にはIL−4が含まれていない方が好ましい。
【0063】
本発明におけるIL−21受容体(IL−21R)、CD40、BAFF受容体(BAFF−R)を有するIgG陽性B細胞は、これらの分子の存在を、例えば抗体等を用いたときの反応性等に基づいて得てもよいが、調製時間及び目的とするIgG陽性B細胞の細胞密度の観点から、B細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL−4の存在下で培養する一次培養工程及びIL−21の存在下で培養する二次培養工程により培養すること(培養工程)を含む方法によって得たものであることが好ましい。
【0064】
上記培養工程では、一次培養及び二次培養とも、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら行うことができる。CD40及びBAFF受容体を介した刺激としては、選別工程と同様に、これらの分子に対する抗体を用いて行ってもよく、CD40L及びBAFFを用いてもよい。またこれらの抗体及び分子からの刺激を確実に培養対象となる細胞集団に対して付与する観点から、これらの抗体またはCD40L及びBAFFを有する担体、例えばフィーダー細胞等を用いてもよい。CD40L及びBAFFと、担体等については、選別工程において記載した事項をそのまま適用することができる。培養工程で用いられる担体又はフィーダー細胞については、それぞれ培養用担体または培養用フィーダー細胞とよぶことがある。
【0065】
一次培養に用いられるIL−4は、天然由来のものであってもよく、生物工学的に得られた組換え体のものであってもよい。IL−4の濃度は、B細胞の効果的な増殖の観点から1ng/ml〜100ng/mlとすることが好ましく、5ng/ml〜100ng/mlとすることがより好ましく、10ng/ml〜50ng/mlとすることがさらに好ましい。
【0066】
また一次培養では、培養対象となるB細胞集団の種類や由来に応じて、IL−4とともに他のサイトカインも使用してもよい。例えばIL−2をIL−4と併用する場合には、IL−2の濃度は1unit/ml〜1000unit/mlであることが好ましく、2.5unit/ml〜1000unit/mlであることがより好ましく、2.5unit/ml〜500unit/mlであることがさらに好ましく、10unit/ml〜100unit/mlであることが特に好ましい。
【0067】
一次培養を開始するときの細胞の播種密度は、特に制限はないが、細胞集団の由来や組織から調製した細胞の状態、また同一培養系内で行う培養日数によって異なるが、一般に、1×10
2個〜1×10
6個/cm
2、好ましくは1×10
3個〜1×10
6個/cm
2とすればよい。 また一次培養は、播種密度によって異なる場合もあるが、B細胞集団の増殖速度の観点から一般に培養開始後2日〜8日としてもよく、細胞集団中のIgG陽性B細胞の密度の観点から3日〜6日とすることが好ましく、3日〜5日とすることがより好ましい。
【0068】
二次培養を開始する際には、一次培養後の培養系に所定量のIL−21を添加してもよく、一次培養後の培養系から細胞を回収して、IL−4を含まないIL−21含有培地に移して開始してもよい。二次培養におけるIgG陽性B細胞の増殖速度及び得られた細胞集団中におけるIgE陽性B細胞の混入を抑制する観点から、IL−21を含有し且つIL−4を含まない培地により二次培養を行うことが最も好ましい。
【0069】
なお、本発明で用いられるIL−4及びIL−21の由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられる。これらの分子はそれぞれ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、マウス、ヒトなどを例示することができる。また、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来する分子であってもよく、異なる種に由来する細胞であってもよい。
【0070】
二次培養終了後には、目的とするB細胞の濃度を確実に高めるために、IgG陽性B細胞以外の細胞を除去することが好ましい。除去対象となる細胞としては、IgE陽性B細胞、CD138陽性の形質細胞、フィーダー細胞(存在する場合)などを挙げることができる。これらの細胞は、表面に存在する固有の表面抗原に対する抗体等を用いた既知の技術で除去することができる。
【0071】
また二次培養では、培養対象となるB細胞集団の種類や由来に応じて、IL−21とともに他のサイトカインも使用してもよい。例えば、IL−2をIL−21と併用する場合には、IL−2の濃度は1unit/ml〜1000unit/mlであることが好ましく、2.5unit/ml〜1000unit/mlであることがより好ましく、2.5unit/ml〜500unit/mlであることがさらに好ましく、10unit/ml〜100unit/mlであることが特に好ましい。
【0072】
本発明のB細胞集団の製造方法では、目的とする抗原特異的IgG陽性細胞を選別するために必要な期間行えばよく、選別工程を開始するときのIgG陽性B細胞の数、用いられる抗原の種類又はフィーダー細胞の状態などによって適宜変更することができる。例えば、効率よく目的とする細胞集団を得るために、選別工程を1日〜2日間としてもよく、培養工程を含む場合には、一次培養を3日〜5日間、二次培養を2日〜5日間とし、選別工程を1日〜2日間としてもよい。
【0073】
本発明の製造方法では、選別工程の後に、選別された抗原特異的IgG陽性B細胞を更に増殖させるための増殖工程を含んでもよい。この増殖工程は、選別工程で選別された特定抗原に対して抗原特異的IgG陽性B細胞を増殖させることができる培養条件で行えばよいが、選別されたIgG陽性B細胞の効率よい増殖の観点から、IL−21の存在下で、CD40L及びBAFFと共に培養するものであることが好ましい。増殖工程で好ましく用いられるIL−21については、前述した二次培養又は選別工程で適用した条件をそのまま適用することができる。また、増殖工程に好ましく用いられるCD40L及びBAFFについても、前述した事項をそのまま適用することができる。
【0074】
増殖工程は、得られた細胞集団中の目的とするIgG陽性B細胞の数に応じた期間継続すればよく、一般に1日以上、好ましくは3日以上とすることができるが、培養系に含まれる細胞集団の増殖速度及び密度に応じて適宜調整すればよい。
【0075】
本発明によれば、上記したB細胞集団の製造方法により製造されるB細胞集団が提供される。本発明のB細胞は好ましくは、ウイルスベクターに組み込まれたBach2遺伝子を有している。本発明のB細胞集団は、好ましくは、本明細書中後記する通りの高い比増殖速度を有している。上記の通り、本発明のB細胞集団は好ましくは、高い比増殖速度を有するものではあるが、比増殖速度の数値による規定は、B細胞集団の好ましい態様を規定するものである。本発明のB細胞集団の構造自体を製造方法によらずに特定することは、不可能又は非実際的であるという事情が存在することから、本発明のB細胞集団は、製造方法(即ち、Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程を含む、B細胞集団の製造方法)により規定されるものである。
【0076】
本発明のB細胞集団の増殖は比増殖速度を用いて評価することができる。比増殖速度は、単位時間あたりの細胞量の増加として定義され、比増殖速度:μ=ln(m
t2/m
t1)/(t2−t1) で表される。ここで、m
t1 はt1日目における細胞数、m
t2はt2日目における細胞数である(ただし、t2>t1)。したがって、比増殖速度の単位は、(個/個/日)=(1/日)である。
以下、B細胞がマウス細胞である場合と、B細胞がヒト細胞である場合について、比増殖速度の好ましい範囲について説明する。
【0077】
(B細胞がマウス細胞である場合)
本発明によるB細胞集団の製造方法及び上記製造方法から得られたB細胞集団においては、好ましくは、B細胞にBach2遺伝子を導入した後9日目〜13日目における比増殖速度が0.6(1/日)以上であり、より好ましくは0.8(1/日)以上であり、特に好ましくは1.0(1/日)以上である。
また、B細胞にBach2遺伝子を導入した後9日目〜17日目、9日目〜22日目、9日目〜27日目、9日目〜32日目、及び9日目〜38日目の何れか1以上における比増殖速度は、好ましくは0.6(1/日)以上である。9日目〜17日目、9日目〜22日目、9日目〜27日目の何れか1以上における比増殖速度は、好ましくは0.6(1/日)以上であり、より好ましくは0.8(1/日)以上である。好ましくは9日目〜17日目、9日目〜22日目、9日目〜27日目のすべての比増殖速度は、好ましくは0.6(1/日)以上であり、より好ましくは0.8(1/日)以上である。
9日目〜32日目及び9日目〜38日目の比増殖速度はともに0.6(1/日)以上であることが好ましい。
【0078】
また、B細胞にBach2遺伝子を導入した後13日目〜17日目、17日目〜22日目、及び22日目〜27日目の何れか1以上における比増殖速度が0.6(1/日)以上であり、13日目〜17日目、17日目〜22日目、及び22日目〜27日目のすべての比増殖速度が0.6(1/日)以上であることが好ましい。
また、B細胞にBach2遺伝子を導入した後27日目〜32日目及び32日目〜38日目の何れか1以上における比増殖速度が0.4(1/日)以上であることが好ましく、27日目〜32日目及び32日目〜38日目の比増殖速度がともに0.4(1/日)以上であることが好ましい。
【0079】
なお、上記したマウスB細胞についての比増殖速度の上限は特に限定されないが、一般的には2.3(1/日)以下、又は1.6(1/日)以下である。
【0080】
(B細胞がヒト細胞である場合)
本発明によるB細胞集団の製造方法及び上記製造方法から得られたB細胞集団においては、好ましくは、B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜18日目における比増殖速度が0.1(1/日)以上であり、より好ましくは0.13(1/日)以上であり、特に好ましくは0.15(1/日)以上である。
【0081】
また、B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜24日目、及び12日目〜30日目の何れか1以上における比増殖速度は、好ましくは0.1(1/日)以上であり、より好ましくは0.13(1/日)以上であり、さらに好ましくは0.15(1/日)以上である。B細胞にBach2遺伝子を導入した後12日目〜30日目における比増殖速度は、より好ましくは0.15(1/日)以上であり、特に好ましくは0.2(1/日)以上である。
12日目〜24日目、及び12日目〜30日目の比増殖速度はともに0.1(1/日)以上であることが好ましく、ともに0.15(1/日)以上であることがより好ましく、ともに0.2(1/日)以上であることがさらに好ましい。
【0082】
また、B細胞にBach2遺伝子を導入した後18日目〜24日目及び24日目〜30日目の何れか1以上における比増殖速度が0.15(1/日)以上であることが好ましく、0.20(1/日)以上であることがより好ましい。18日目〜24日目及び24日目〜30日目の比増殖速度がともに、0.15(1/日)以上であることが好ましく、0.20(1/日)以上であることがより好ましい。
【0083】
なお、上記したヒトB細胞についての比増殖速度の上限は特に限定されないが、一般的には1.5(1/日)以下、又は1.0(1/日)以下である。
【0084】
なお、本発明では、上述した選別工程後に得られた細胞に対して用いられる「抗原特異的IgG陽性B細胞集団」との用語は、得られた細胞を総括する意味で用いられ、細胞の数に限定されない。即ち、複数個の細胞を指す場合に用いられる他、1個の細胞のみが存在する場合にも同様に用いられる。
【0085】
本発明の抗原特異的IgG陽性B細胞集団は、上述した製造方法により得られた細胞集団である。この細胞集団では、用いられた特定抗原に対して特異性を有するIgG陽性B細胞で主として構成されており、例えば、同様の抗原と一次接触した生体由来の脾臓組織に由来する細胞集団よりも、抗原に対して特異性を有するIgG陽性B細胞の密度が高い。従って、本抗原特異的IgG陽性B細胞集団であれば、特定抗原に対して親和性を有するIgG陽性B細胞を大量に必要とするモノクローナル抗体の製造や、細胞治療等に好適に用いることができる。
【0086】
なお、本発明の製造方法により得られたIgG陽性B細胞集団を構成するB細胞に対しては、抗体分子に変異を導入して、更に多様な抗原特異性を有するB細胞を得てもよい。このような変異の導入としては、例えば、V領域に対する変異の導入が挙げられる。これにより、抗原に対する親和性を更に改良することができる。V領域に対して変異を導入する方法としては、公知の方法を適用することができるが、変異導入の確実性の観点から、抗体遺伝子の体細胞突然変異(SHM)と抗体定常部領域遺伝子のクラススイッチ組み換え(CSR)の双方に寄与するAID(activation induced cytidine deaminase)の利用が挙げられる。あるいは、AIDの発現を増強するサイトカインなどを用いてもよい。
【0087】
本発明の一例としては、
CD40L及びBAFFを細胞表面に提示するフィーダー細胞上においてマウスIL−4を含有する培地中においてマウスB細胞を培養する工程;
Bach2遺伝子を含むレトロウイルスベクターを前記マウスB細胞に感染させる工程;及び
前記感染されたマウスB細胞を、マウスIL−21を含有する培地中で培養する工程:を含む、マウスB細胞集団の製造方法が提供される。さらに本発明によれば、上記したマウスB細胞集団の製造方法により製造されるマウスB細胞集団が提供される。
【0088】
本発明の別の例としては、
CD40L及びBAFFを細胞表面に提示するフィーダー細胞上においてヒトIL−4及びヒトIL−2を含有する培地中においてヒトB細胞を培養する工程;
Bach2遺伝子を含むレトロウイルスベクターを前記ヒトB細胞に感染させる工程;及び
前記感染されたヒトB細胞を、ヒトIL−21を含有する培地中で培養する工程:を含む、ヒトB細胞集団の製造方法が提供される。さらに本発明によれば、上記したヒトB細胞集団の製造方法により製造されるヒトB細胞集団が提供される。
【0089】
本発明のモノクローナル抗体の製造方法は、上述したB細胞集団の製造方法により得られた細胞集団を用いてモノクローナル抗体を製造することを含む。これにより、特定抗原に対するモノクローナル抗体を簡便に且つ迅速に得ることができる。
【0090】
本モノクローナル抗体の製造方法では、周知のハイブリドーマ作製方法を、上記の抗原特異的B細胞集団に対して適用すればよい。具体的には、本発明により得られたIgG陽性B細胞を含む細胞集団に対して、ミエローマ細胞等を周知の方法による細胞融合法を用いてハイブリドーマを得て、このハイブリドーマの中から、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈法等を用いて単離し、単離されたハイブリドーマが産生する抗体を回収すればよい。あるいは、上記の抗原特異的B細胞集団から抗体遺伝子を単離して、遺伝子組み換えによりモノクローナル抗体を作製する方法でもよい。
【0091】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【実施例】
【0092】
[実施例1]マウスB細胞の長期培養
(1)細胞の培養
B細胞調製物及び他の細胞の培養は、特に断らない限り、RPMI−1640(10%(v/v) FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン、55nM 2−ME、10mM HEPES及び1mM ピルビン酸ナトリウム添加)をB細胞培養培地として用いて、5%(v/v)CO
2、37℃の条件下で行った。
【0093】
(2)マウスB細胞の調製
マウス(C57BL/6、メス8週齢)から脾臓細胞を得て、常法により、ビオチン−抗マウスCD43抗体(BD Pharmingen社製)、ビオチン−抗マウスCD4抗体(Biolegend社製)、ビオチン−抗マウスTer−119抗体(eBioscience社製)、ビオチン−抗マウスCD11c抗体(eBioscience社製)を反応させ、CD43、CD4、Ter−119及びCD11c陰性のB細胞を、Streptavidin-Particle Plus-DM、BD IMagnet(BD Bioscience Pharmingen社製)を用いて回収し、マウスB細胞を得た。
【0094】
(3)レトロウイルスベクターの調製
pMX-IRES-GFPベクター(Proc Natl Acad Sci U S A, Vol.97, pp.3062-3066 (2000))のマルチクローニングサイトにマウスBcl−6(Oncogene. 1995 Oct 19;11(8):1657-63.)、マウスBach2(Mol Cell Biol. 1996 Nov;16(11):6083-95.)、マウスBcl−2(Cell. 1987 May 22;49(4):455-63.)をそれぞれサブクローニングした。また、何も組み込まないベクターを空ベクター(mock)とした。これらのベクターから定法に従ってそれぞれレトロウイルスベクターを作製した。
【0095】
(4)マウスB細胞への遺伝子導入
CD40L及びBAFFを細胞表面に提示するフィーダー細胞、40LB細胞は、特開2011−92142号公報に記載の細胞を用いた。実験には、直径10cm細胞培養プレート(BD Falcon社製)に、40LB細胞を3×10
6個播種し、24時間培養して単一層を形成させた後、120Gyのγ線を照射してからフィーダー細胞として使用した。上記(2)で調製したB細胞をフィーダー細胞上に、1.25×10
4個/mlの細胞密度で播種し、マウスIL−4(10 ng/ml、PEPRO TECH社製)を含有するB細胞培養培地で培養した。培養3日目に上記(3)で調製したレトロウイルスベクターのそれぞれをB細胞に感染させた。
【0096】
培養5日目に全細胞を、2mMのEDTAと0.5%のBSAを含むPBSを用いてフィーダー細胞ごと剥がし、ピペットでフラッシュして回収した。新たに準備された40LB細胞が播種されたプレートに、マウスIL−21(10 ng/ml、PEPRO TECH社製)を含有するB細胞培養培地に、回収された細胞集団を、2.5×10
3個/ml以下の細胞密度で播種して、培養を行った。
【0097】
各B細胞の5日目に播種した数を1とした細胞数の累積増加率を
図1に示す。
各B細胞について、5〜9日目、9〜13日目、9〜17日目、9〜22日目、9〜27日目、9〜32日目、及び9〜38日目の比増殖速度を
図2に示す。
また各B細胞について、5〜9日目、9〜13日目、13〜17日目、17〜22日目、22〜27日目、27〜32日目、及び32〜33日目の比増殖速度を
図3に示す。
図2及び
図3のグラフの縦軸は、比増殖速度の単位である(1/日)を示す。
図1に示されるように、mockやBcl2により形質転換したB細胞では、9日目以降ほとんど細胞が増殖しなくなる。また、Bcl6により形質転換したB細胞では、比増殖速度(1/日)は0.2程度であるのに対しBach2では、32−38日目でも0.4以上の比増殖速度を維持している。
【0098】
[実施例2]ヒトB細胞の長期培養
(1)レトロウイルスベクターの調製
pMX−IRES−hCD8(Nat Commun. 2011 Sep 6;2:465.)よりNcoI−SalIでhCD8断片を調製し、pMXs-IGベクター(EMBO J. 1999 Sep 1;18(17):4754-65.)のNcoI−SalIにサブクローニングし、pMXs−IRES−hCD8とした。これを空ベクター(mock)とした。pMXs−IRES−hCD8のBamHI−NotI間にコザック配列を含む形で、ヒトBach2(Oncogene. 2000 Aug 3;19(33):3739-49.)をサブクローニングし、pMXs−hBach2−IRES−hCD8とした。これをヒトBach2発現ベクターとした。これらのベクターから定法に従ってそれぞれレトロウイルスベクターを作製した。
【0099】
(2)ヒトB細胞の調製
健常人のヒト末梢血からFicoll−Paque PLUS(GEヘルスケア株式会社製)を用いてリンパ球を分離した。常法により、ビオチン−抗ヒトCD2抗体(Biolegend社製)、ビオチン−抗ヒトCD235a抗体(eBioscience社製)を反応させ、CD2、CD235陰性の細胞を、Streptavidin-Particle Plus-DM、BD IMagnet(BD Bioscience Pharmingen社製)を用いて回収した。これに常法により、PE/Cy7抗ヒトCD19抗体を反応させ、ARIAII(BD バイオサイエンス社製)でCD19陽性の細胞ソーティングし、ヒトB細胞を得た。
【0100】
(3)ヒトB細胞への遺伝子導入
回収したB細胞を、実施例1と同様に準備した40LB上で、ヒトIL−4(50ng/ml、PEPRO TECH社製)、ヒトIL−2(25 unit/ml、PEPRO TECH社製)を含有するB細胞培養培地で培養した。培養4日目に上記(1)で調製したレトロウイルスベクターのそれぞれをB細胞に感染させた。培養6日目に全細胞を、2mMのEDTAと0.5%のBSAを含むPBSを用いてフィーダー細胞ごと剥がし、ピペットでフラッシュして回収した。新たに準備された40LB細胞が播種されたプレートに、ヒトIL−21(10 ng/ml、PEPRO TECH社製)を含有するB細胞培養培地に、回収された細胞集団を、1×10
5個/ml以下の細胞密度で播種して、培養を行った。
各B細胞の6日目に播種した数を1とした細胞数の累積増加率を
図4に示す。
各B細胞について、6〜12日目、12〜18日目、12〜24日目、及び12〜30日目の比増殖速度を
図5に示す。
また各B細胞について、6〜12日目、12〜18日目、18〜24日目、及び24〜30日目の比増殖速度を
図6に示す。
図5及び
図6のグラフの縦軸は、比増殖速度の単位である(1/日)を示す。
上記方法により、ヒトB細胞を長期培養することができる。
【0101】
[実施例3]レンチウイルスベクターを用いたヒトB細胞の長期培養
(1)レンチウイルスベクターの調製
CS2−CMV−MCS(Virology. 2009 Oct 25;393(2):198-209.)のマルチクローニングサイトにヒトBach2(Oncogene. 2000 Aug 3;19(33):3739-49.)をそれぞれサブクローニングした。レンチウイルスベクターの調製はVirology. 2009 Oct 25;393(2):198-209.に記載の方法に従った。ヒトBach2をサブクローニングしないものを空ベクター(mock)とした。
【0102】
(2)ヒトB細胞の調製
健常人のヒト末梢血からLymphoprep Tube(Axis-Shield PoC AS社製)を用いて単核球を分離し、さらにB Cell アイソレーションキットII, ヒト(Miltenyi Biotec社製)を用いてヒトB細胞を得た。
【0103】
(3)ヒトB細胞への遺伝子導入
回収したB細胞に、上記(1)で調製したレトロウイルスベクターのそれぞれを、感染させた。感染後、直径10cm細胞培養プレート(BD Falcon社製)に、1.25×10
4個/mlの細胞密度で播種し、抗CD40抗体(1 μg/ml、Beckman Coulter社製)、分泌型ヒトBAFF(1 μg/ml、PEPRO TECH社製)、ヒトIL−4(50 ng/ml、PEPRO TECH社製)、ヒトIL−2(25 unit/ml、PEPRO TECH社製)を含有するB細胞培養培地で培養した。培養5日目に全細胞を回収し、抗CD40抗体(1 μg/ml、Beckman Coulter社製)、分泌型ヒトBAFF(1 μg/ml、PEPRO TECH社製)、ヒトIL−21(10 ng/ml、PEPRO TECH社製)、ヒトIL−2(25 unit/ml、PEPRO TECH社製)を含有するB細胞培養培地で培養した。
上記方法により、ヒトB細胞を長期培養することができる。