【実施例】
【0012】
以下本発明の実施例について図面とともに説明する。
本発明の木材の破断方法は、木材に形成した孔に、膨張力を発現できる膨張剤を配置し、膨張剤の膨張力によって木材を破断するものである。
ここで、木材破断に用いる膨張剤は、生石灰又はエトリンガイトを有効成分とし、水和反応によって膨張力を発現する物質である。膨張剤は、主たる膨張成分として遊離生石灰を用い、例えばカルボン酸やその塩等の遅延剤、例えばセメント等の水硬性剤、例えばデキストリンや澱粉等の多糖類の水和熱抑制剤を混合したものである。このような膨張剤は、接水することで、水との反応によって反応熱が発生する。膨張剤を孔内で水和反応させると、孔内の温度が上昇し、孔内の水が急激に気化することで膨張力を発現する。水和反応終了後には膨張しない。
【0013】
図1から
図3を用いて本発明の第1実施例による木材の破断方法を説明する。
図1は同実施例による木材の破断方法の説明図、
図2は同破断方法によって破断された状態の木材を示す写真、
図3は同破断方法によって破断された木材の端面を示す写真である。
本実施例では、長さ400mm、径級180mmのスギの丸太を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターMを用いた。
【0014】
本実施例による木材の破断方法では、木材(丸太)1に、第1の孔11と、第2の孔12と、第1の切り込み21と、第2の切り込み22とを形成する。
第1の孔11と、第2の孔12とは、木材1の芯方向にずらして形成し、孔径を30mmとして木材1を貫通している。本実施例では、第2の孔12は第1の孔11より70mm高い位置にずらして形成している。
第1の切り込み21は樹皮部から第1の孔11に至るように形成し、第2の切り込み22は樹皮部から第2の孔12の上方位置に至るように形成する。第1の切り込み21の始端21sと、第2の切り込み22の始端22sとは、木材1の芯に対して対称な位置が好ましい。
本実施例では、第2の切り込み22は第2の孔12の上端12tから上方に15mmの位置に形成している。第2の孔12には木材1の繊維方向、すわなち、芯方向にせん断力が働くため、第2の切り込み22の終端22eは、第2の孔12の鉛直方向の投影面に至ることが好ましく、第2の孔12の上端12tを越えて形成することがより好ましい。
本実施例による木材の破断方法では、木材1に、第1の孔11と、第2の孔12と、第1の切り込み21と、第2の切り込み22とを形成した後に、第1の孔11と第2の孔12とに膨張剤30を注入する。第1の孔11と第2の孔12とに注入する膨張剤30は、注入前に含水させている。なお、膨張剤30を第1の孔11と第2の孔に充填した後に注水して含水させ、水和反応させることでもよい。
膨張剤30注入後20〜30分で木材が破断する。なお、膨張剤の注入から木材の破断に至る所用時間は、主に、膨張剤の成分、木材の直径及び穿孔数等によって変動する。
図2は、含水させた膨張剤30を注入し、破断した後3時間程度経過した状態である。
図3に示すように、2つに破断した木材1a、1bの端面は、第1の切り込み21によって形成される半月状の第1の切り込み面21fと、第2の切り込み22によって形成される半月状の第2の切り込み面22fと、第1の切り込み面21fと第2の切り込み面22fとの間に芯方向に形成される破断面2とを有し、水和反応後の膨張剤30が付着している。
【0015】
次に、
図4から
図18を用いて本発明の第2実施例による木材の破断方法を説明する。本実施例は、木材を立木とした場合であり、
図4は同実施例による木材の破断方法の説明図、
図5は立木に孔と切り込みを形成した状態を示す写真、
図6は孔に膨張剤を注入した状態を示す写真、
図7から
図15は膨張剤の膨張力発現による伐倒状態を示す写真、
図16及び
図17は伐倒後の立木の根元側端面を示す写真、
図18は伐倒した立木の端面を示す写真である。
本実施例では、破断位置での直径234mm、円周735mmのスギの立木を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターLを用いた。
【0016】
本実施例による木材の破断方法では、木材(立木)1に、第1の孔11と、第2の孔12と、第1の切り込み21と、第2の切り込み22とを形成する。
第1の孔11と、第2の孔12とは、木材1の芯方向にずらして形成し、孔径を30mmとして木材1を貫通している。本実施例では、第2の孔12は第1の孔11より215mm高い位置にずらして形成している。
第1の切り込み21は樹皮部から第1の孔11に至るように形成し、第2の切り込み22は樹皮部から第2の孔12の上方位置に至るように形成する。第1の切り込み21の始端21sと、第2の切り込み22の始端22sとは、木材1の芯に対して対称な位置が好ましい。
本実施例では、第2の切り込み22は第2の孔12の上端12tから上方に20mmの位置に形成している。
第1の切り込み21と第2の切り込み22とは、木材1の直径より大きな間隔とすることが好ましく、本実施例では第1の切り込み21と第2の切り込み22との間隔を250mmとしている。
【0017】
図5に示すように、本実施例による木材の破断方法では、木材1に、第1の孔11と、第2の孔12と、第1の切り込み21と、第2の切り込み22とを形成した後に、
図6に示すように、第1の孔11と第2の孔12とに膨張剤30を注入する。第1の孔11と第2の孔12とに注入する膨張剤30は、注入前に含水させている。
図6と比較して
図7では、膨張剤30が第1の孔11及び第2の孔12から噴き出し始めている。第1の孔11及び第2の孔12から噴き出した膨張剤30は空気に触れて冷却されることで硬化する。従って、第1の孔11及び第2の孔12の開口は膨張剤30で塞がれ、特に第2の孔12内には内部圧力の上昇によって芯方向にせん断力が加わり、第2の孔12と第2の切り込み22との間に亀裂を生じる(
図9参照)。
そして、
図10に示すように、第2の孔12に加わる膨張力によって、第2の孔12から下方に亀裂が発生する。
図11から
図13に示すように、第2の孔12から下方に発生した亀裂が第1の孔11に到達することで、木材1が伐倒する。
図16から
図18に示すように、破断した木材1a、1bの端面は、第1の切り込み21によって形成される半月状の第1の切り込み面21fと、第2の切り込み22によって形成される半月状の第2の切り込み面22fと、第1の切り込み面21fと第2の切り込み面22fとの間に芯方向に形成される破断面2とを有し、水和反応後の膨張剤30が付着している。
【0018】
次に、
図19から
図21を用いて本発明の第3実施例による木材の破断方法を説明する。
図19は同実施例による木材の破断方法の説明図、
図20は木材に孔を形成した状態を示す写真、
図21は同破断方法によって破断された状態の木材を示す写真である。
本実施例では、長さ400mm、径級180mmのスギの丸太を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターMを用いた。
【0019】
本実施例による木材の破断方法では、木材(丸太)1に、第1の孔11、第2の孔12、第3の孔13・・・、及び第nの孔nを、木材1の芯方向にずらして形成し、孔径を30mmとして木材1を貫通している。本実施例では、それぞれの孔11、12、13・・nの中心間の芯方向距離を50mmとし、第2の孔12を第1の孔11より高い位置、第3の孔13を第2の孔12より高い位置、・・・第nの孔nを第n−1の孔n−1より高い位置に形成している。
本実施例による木材の破断方法では、木材1に、第1の孔11から第nの孔nを形成した後に、第1の孔11から第nの孔nに膨張剤30を注入する。注入する膨張剤30は、注入前に含水させている。
図21は、含水させた膨張剤30を注入後3時間程度経過した状態である。
図21に示すように、第1の孔11から第nの孔nまでの間に、連続する破断面2が形成され、この破断面2には、水和反応後の膨張剤30が付着している。
【0020】
次に、
図22から
図24を用いて本発明の第4実施例による木材の破断方法を説明する。
図22は同実施例による木材の破断方法の説明図、
図23は木材に孔を形成した状態を示す写真、
図24は同破断方法によって破断された状態の木材を示す写真である。
本実施例は、第3の実施例に加えて、最上段の第nの孔nに至る切り込み23を形成している。切り込み23を形成する以外は、第3の実施例と同一であるため説明を省略する。
本実施例のように、樹皮部から第nの孔nに至る切り込み23を形成することで、第nの孔nから上方への亀裂を防止できる。
【0021】
次に、
図25から
図42を用いて本発明の第5実施例による木材の破断方法を説明する。本実施例は、木材を立木とした場合であり、
図25は同実施例による木材の破断方法の説明図、
図26及び
図27は立木に孔を形成する作業状態を示す写真、
図28は立木に孔を形成した状態を示す写真、
図29及び
図30は孔に膨張剤を注入する作業状態を示す写真、
図31は孔に膨張剤を注入した状態を示す写真、
図32から
図40は膨張剤の膨張力発現による伐倒状態を示す写真、
図41は伐倒後の立木の根元側端面を示す写真、
図42は伐倒した立木の端面を示す写真である。
本実施例では、破断位置での直径372mm、円周1170mmのスギの立木を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターLを用いた。
【0022】
本実施例による木材の破断方法では、木材(立木)1に、第1の孔11、第2の孔12、第3の孔13・・・、及び第nの孔nを、木材1の芯方向にずらして形成し、孔径を31.8mmとして木材1を貫通している。本実施例では、それぞれの孔11、12、13・・nの間の距離を15mmとし、第2の孔12を第1の孔11より高い位置、第3の孔13を第2の孔12より高い位置、・・・第nの孔nを第n−1の孔n−1より高い位置に形成している。
【0023】
図26から
図28に示すように、本実施例による木材の破断方法では、木材1に、第1の孔11から第nの孔nを形成した後に、
図29から
図31に示すように、第1の孔11から第nの孔nに膨張剤30を注入する。注入する膨張剤30は、注入前に含水させている。
図31と比較して
図32では、膨張剤30が一部の孔nから噴き出し始めている。
図33及び
図34は膨張剤30の噴き出し状態の変化を示している。孔nから噴き出した膨張剤30は空気に触れて冷却されることで硬化する(
図35参照)。従って、孔の開口は膨張剤30で塞がれ、孔内には内部圧力の上昇によって芯方向にせん断力が加わり、孔と孔との間に亀裂を生じる(
図36参照)。
そして、
図37から
図40に示すように、孔に加わる膨張力によって、孔と孔との間に亀裂が発生し、亀裂が連続することで、木材1が伐倒する。
図41及び
図42に示すように、破断した木材1a、1bの端面は、孔によって形成される凹面3と、複数の孔の間に形成される破断面2とを有し、水和反応後の膨張剤30が付着している。
【0024】
次に、
図43から
図45を用いて本発明の第6実施例による木材の破断方法を説明する。
図43は同実施例による木材の破断方法の説明図、
図44は木材に孔と切り込みを形成した状態を示す写真、
図45は同破断方法によって破断された状態の木材を示す写真である。
本実施例では、長さ400mm、径級180mmのスギの丸太を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターMを用いた。
【0025】
本実施例による木材の破断方法では、木材(丸太)1に、第1の孔11と、第2の孔12と、切り込み24とを形成する。
第1の孔11と、第2の孔12とは、同一高さに形成し、孔径を30mmとして木材1を貫通している。
切り込み24は樹皮部から第1の孔11及び第2の孔12を貫通させて形成する。
本実施例では、第1の孔11と第2の孔12との中心間距離を50mmとしている。
本実施例による木材の破断方法では、木材1に、第1の孔11と、第2の孔12と、切り込み24とを形成した後に、第1の孔11と第2の孔12とに膨張剤30を注入する。第1の孔11と第2の孔12とに注入する膨張剤30は、注入前に含水させている。
図45は、含水させた膨張剤30を注入し、破断した後3時間程度経過した状態である。
図45に示すように、2つに破断した木材1a、1bの端面は、切り込み24によって形成される半月状の切り込み面24fと、切り込み面24fから樹皮部に至る破断面2とを有し、水和反応後の膨張剤30が付着している。
【0026】
次に、
図46及び
図47を用いて本発明の第1比較例による木材の破断方法を説明する。
図46は同比較例による木材の破断方法の説明図、
図47は同比較例による木材の状態を示す写真である。
本比較例では、長さ400mm、径級180mmのスギの丸太を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターMを用いた。
【0027】
本比較例による木材の破断方法では、木材(丸太)1に、放射状に複数本の孔101〜108を同一高さに、すなわち木材1の芯に垂直な平面上に形成する。
図47(a)は、膨張剤を注入した状態を示している。
本比較例では、
図47(b)に示すように、孔101の上下方向、すなわち木材1の芯の方向に亀裂を生じるが、木材1を破断することはできなかった。
本比較例では、孔径10mmの孔を10本、孔径25mmの孔を10本、孔径40mmの孔を8本として行ったが、いずれも木材1を破断することはできなかった。
図47(c)は膨張剤を注入しない状態での木材1の断面を、
図47(d)は本比較例による破断方法実施後の木材1の断面である。
図47(d)に示すように孔101と孔102の終端側では孔径が拡張しているが、孔101と孔102との間は連通していない。
【0028】
次に、
図48及び
図49を用いて本発明の第2比較例による木材の破断方法を説明する。
図48は同比較例による木材の破断方法の説明図、
図49は同比較例による木材の状態を示す写真である。
本比較例では、長さ400mm、径級180mmのスギの丸太を用い、膨張剤には、太平洋マテリアル株式会社製パワーブライスターMを用いた。
【0029】
本比較例による木材の破断方法では、木材(丸太)1に、複数本の孔111〜113を同一高さに、すなわち木材1の芯に垂直な平面上に並行に形成する。
図49(a)は、膨張剤を注入した状態を示している。
本比較例では、
図49(b)に示すように、孔112の上下方向、すなわち木材1の芯の方向に亀裂を生じるが、木材1を破断することはできなかった。
図49(c)は本比較例による破断方法実施後の木材1の断面である。
図49(c)に示すように、孔111と、孔112と、孔113との間は連通していない。
なお、第1比較例及び第2比較例は、丸太を用いた実験であり、立木のように破断予定部分に大きな荷重が加わらないため、破断には至っていないが、立木に対して、十分な孔径や多数の孔数を形成することで伐倒は可能である。しかし、第1比較例及び第2比較例に対して、第1実施例から第6実施例に示すように、木材1の繊維方向、すなわち芯の方向を考慮することで容易に伐倒することができる。
【0030】
以上のように、本発明の実施例(以下、本実施例)によれば、膨張剤30の膨張力によって木材1を破断するため、木材1に形成した孔に膨張剤30を配置した後に作業者は木材1から離れることができ、樹木の伐倒作業における作業者の安全を確保できる。
また本実施例によれば、木材1の芯方向にずらして形成される第1の孔11と第2の孔12に膨張力が働くことで、第1の孔11と第2の孔12との間に芯方向(芯に沿った縦方向)の亀裂を発生させることができる。
また、本実施例によれば、更に切り込み21、22、23、24を有することで、木材1を破断させやすい。
また、本実施例によれば、第1の孔11と、第2の孔12を形成し、第1の孔11と第2の孔12とは木材(立木)1の芯を貫通させ、第2の孔12を第1の孔11より高い位置に形成し、木材1の樹皮部から第1の孔11に至る第1の切り込み21と、木材1の樹皮部から第2の孔12の上方位置に至る第2の切り込み22とを形成することで、第1の孔11と第2の孔12との間に芯方向の亀裂が発生し、この亀裂によって生じる破断面2が、第1の切り込み21によって形成される半月状の第1の切り込み面21f、及び第2の切り込み22によって形成される半月状の第2の切り込み面22fとつながることで、木材1を確実に伐倒できるとともに、予定された方向に伐倒することができる。
また、本実施例によれば、少なくとも第1の孔11と、第2の孔12と、第3の孔13とを形成し、第2の孔12を第1の孔11より高い位置に形成し、第3の孔13を第2の孔12より高い位置に形成し、第1の孔11と第2の孔12との間、及び第2の孔12と第3の孔13との間が破断面2となるように、第1の孔11と、第2の孔12と、第3の孔13とが連鎖して伐倒することができ、傾斜した破断面2となるために、予定された方向に伐倒することができる。
また、本実施例によれば、膨張剤30を、生石灰又はエトリンガイトを有効成分とし、木材1に形成した第1の孔11に配置することで木材1の破断に用いることで、水和反応によって膨張力を発現でき、水和反応で木材1が破断に到るまでには20〜30分程度の所定の反応時間を要するため、作業者は木材1から離れることができる。
また、本実施例によれば、水和反応後の膨張剤30が端面に付着しているので、端面での樹液の分泌や吸水を防止できる。
また、本実施例によれば、第1の切り込み面21fと第2の切り込み面22fとの間に芯方向に破断面2が形成されるため、この破断面2を杭打ち面など、搬送作業に利用することができる。
また、本実施例によれば、凹部3と破断面2とによって端面には凹凸面が形成されるため、この凹凸面を杭打ち面など、搬送作業に利用することができる。
なお、本実施例では、孔をドリルで形成し、孔形状が丸孔の場合で説明したが、複数の孔を連続的に形成することで、孔形状を、楕円形状、凹部が複数連続する形状、又は多角形状であってもよい。
また、本実施例では、全て貫通孔とした場合で説明したが、木材1の直径をDとした時、2/3D以上の深さを有すれば良い。