特許第6684567号(P6684567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684567
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】殺菌された緑色野菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3508 20060101AFI20200413BHJP
   A23B 7/153 20060101ALI20200413BHJP
   A23B 7/10 20060101ALI20200413BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20200413BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20200413BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20200413BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   A23L3/3508
   A23B7/153
   A23B7/10 A
   A23L19/00 A
   A01N37/36
   A01N37/02
   A01P1/00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-209369(P2015-209369)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-79612(P2017-79612A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上岡 健人
(72)【発明者】
【氏名】三尋木 健史
(72)【発明者】
【氏名】市田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真美
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−246312(JP,A)
【文献】 特開2015−015905(JP,A)
【文献】 特開2012−075415(JP,A)
【文献】 特開平09−023860(JP,A)
【文献】 特開2009−065987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00− 3/54
A23L 19/00−19/20
A23B 7/00− 7/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが3以上、4.5以下の殺菌用組成物を用いて緑色野菜を殺菌する殺菌工程と、
前記殺菌工程によって前記緑色野菜を殺菌した後に、
当該緑色野菜を洗浄する、洗浄工程とを包含し、
前記殺菌用組成物は、
ヒドロキシ酸、及び、当該ヒドロキシ酸とは異なるモノカルボン酸を含み、
前記ヒドロキシ酸及び前記モノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値が当該殺菌用組成物のpHより大きく、
前記ヒドロキシ酸と前記モノカルボン酸との混合比が質量比で、100:1から5:1の間であり、
前記ヒドロキシ酸は、乳酸及びリンゴ酸の少なくとも一方であり、
前記モノカルボン酸は、酢酸である、
殺菌された緑色野菜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の殺菌された緑色野菜の製造方法において、
前記緑色野菜は葉野菜である、
殺菌された緑色野菜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の殺菌された緑色野菜の製造方法において、
前記殺菌用組成物はpH調整剤をさらに含む、
殺菌された緑色野菜の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の殺菌された緑色野菜の製造方法において、
前記殺菌工程では、前記緑色野菜と前記殺菌用組成物とを30秒以上、30分以下接触させる、
殺菌された緑色野菜の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の殺菌された緑色野菜の製造方法において、
前記殺菌工程には、予めカットされた緑色野菜を用いる、
殺菌された緑色野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌された緑色野菜の製造方法及び殺菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の変化に伴い、予めカットされたカット野菜の需要が増している。このようなカット野菜の殺菌には、従来、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの塩素系殺菌剤を用いて野菜を殺菌した場合、殺菌剤の漂白作用により野菜が脱色されやすい、殺菌後の野菜に塩素臭が残りやすい、殺菌後の野菜に付着した殺菌剤を除去するときに野菜が傷つきやすい等、カット野菜の品質を低下させやすいという問題がある。そして、このような問題は、カット野菜に対する消費者のイメージを低下させる原因となっている。
【0004】
さらに、塩素系殺菌剤は、有機物の存在下では分解されて殺菌能を失ってしまう、金属腐食能を有するため生産ラインの保守が煩雑になる、強い刺激臭を有する等により、殺菌剤を使用するカット野菜の製造者に負担がかかるという、製造上の問題も有している。従って、塩素系殺菌剤に代わる殺菌剤の開発が求められている。
【0005】
塩素系殺菌剤を用いない野菜の処理方法として、特許文献1〜3に記載された方法が知られている。特許文献1には、有機酸と酢酸ナトリウムとを含む、pH5.8〜6.4の水溶液を用いてカット生野菜を処理する方法が記載されている。特許文献2には、食塩、酢酸及び食用有機酸を含む組成物を用いてカット根菜類を処理する方法が記載されている。特許文献3には、有機酸類、有機酸塩類、電解質類及びアルコール類から選択される二種以上の殺菌用成分を組み合わせて、食品、調理用器具等を殺菌する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−201940号公報(1991年9月3日公開)
【特許文献2】特開2002−34448号公報(2002年2月5日公開)
【特許文献3】特開平11−246312号公報(1999年9月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
殺菌剤として酸を用いる場合、殺菌剤のpHが低い方が、殺菌効果が高いと考えられる。しかしながらpHが低い殺菌剤を用いて緑色野菜を殺菌した場合、緑色野菜に含まれる葉緑素が分解されて、緑色野菜が白っぽく変色してしまうという問題が生じる。
【0008】
そこで、緑色野菜の変色をより抑制し、且つ、殺菌効果のより高い殺菌方法が望まれている。
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、変色をより抑制し、且つ、緑色野菜をより効果的に殺菌することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る殺菌された緑色野菜の製造方法は、pHが3以上、4.5以下の殺菌用組成物を用いて緑色野菜を殺菌する殺菌工程を包含し、前記殺菌用組成物は、ヒドロキシ酸、及び、当該ヒドロキシ酸とは異なるモノカルボン酸を含み、前記ヒドロキシ酸及び前記モノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値が当該殺菌用組成物のpHより大きく、前記ヒドロキシ酸と前記モノカルボン酸との混合比が質量比で、100:1から5:1の間である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変色をより抑制し、且つ、緑色野菜をより効果的に殺菌することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で得た殺菌されたホウレンソウの製造直後の状態を撮影した画像である。
図2】実施例で得た殺菌されたホウレンソウの製造2日後の状態を撮影した画像である。
図3】比較例で得た殺菌されたホウレンソウの製造直後の状態を撮影した画像である。
図4】比較例で得た殺菌されたホウレンソウの製造2日後の状態を撮影した画像である。
図5】実施例で得た殺菌されたカットレタス及びカットキャベツの製造直後の状態を撮影した画像である。
図6】実施例で得た殺菌されたカットレタス及びカットキャベツの製造2日後の状態を撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の特徴>
本発明に係る殺菌された緑色野菜の製造方法(以下、単に「本発明に係る製造方法」という。)は、pHが3以上、4.5以下の殺菌用組成物を用いて緑色野菜を殺菌する殺菌工程を包含し、前記殺菌用組成物は、ヒドロキシ酸、及び、当該ヒドロキシ酸とは異なるモノカルボン酸を含み、前記ヒドロキシ酸及び前記モノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値が当該殺菌用組成物のpHより大きく、前記ヒドロキシ酸と前記モノカルボン酸との混合比が質量比で、100:1から5:1の間である。
【0014】
本発明に係る製造方法によれば、酸の解離を抑えた状態で緑色野菜に接触させることができる。非解離状態の酸は菌体内で解離して当該菌体を殺菌する。これにより、緑色野菜に存在する生菌が殺菌される。本発明によれば、殺菌処理後時間が経過しても菌が増殖しにくく、増殖抑制効果がある。例えば、製造後48時間経過後においても、一般生菌数が、製造直後から大幅に増加しないように殺菌される。
【0015】
また、本発明に係る殺菌された緑色野菜の製造方法によれば、殺菌による緑色野菜の変色を抑制することができる。これは、ヒドロキシ酸とモノカルボン酸とを併用することにより、野菜の軟化及び野菜からの水の滲出が抑制され、酸による野菜へのダメージが軽減されることに起因するものと推測される。
【0016】
<殺菌工程>
本発明に係る製造方法に含まれる殺菌工程は、殺菌用組成物を用いて緑色野菜を殺菌する工程である。
【0017】
<殺菌用組成物>
殺菌工程において用いる殺菌用組成物は、そのpHが3以上、4.5以下であり、ヒドロキシ酸、及び、当該ヒドロキシ酸とは異なるモノカルボン酸を含み、ヒドロキシ酸及びモノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値が、殺菌用組成物のpHよりも大きい。
【0018】
<pH>
殺菌用組成物のpHは、3以上、4.5以下である。pHが3未満であると酸による野菜へのダメージが大きく、緑色野菜が変色しやすくなる。pHが4.5より大きいと十分な殺菌効果が得られない。
【0019】
<pHのより好ましい範囲>
また、殺菌用組成物のpHは、4以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましい。4以下であることによって、殺菌効果をより高めることができる。
【0020】
<第一酸解離定数>
殺菌用組成物に含まれるヒドロキシ酸及びモノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値は、殺菌用組成物のpHより大きい。したがって、殺菌用組成物において、ヒドロキシ酸及びモノカルボン酸のうち、いずれか一方の第一酸解離定数の値が、殺菌用組成物のpHより大きくてもよいし、殺菌用組成物に含まれるヒドロキシ酸及びモノカルボン酸の両方の第一酸解離定数の値が、殺菌用組成物のpHより大きくてもよい。
【0021】
第一酸解離定数が殺菌用組成物のpHよりも大きい酸は、殺菌工程に用いられるまでその解離が抑制されており、菌に取り込まれたときに解離する。そのため、殺菌用組成物に含まれるヒドロキシ酸及びモノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値が、殺菌用組成物のpHより大きいことによって、変色を抑制しつつ、緑色野菜を殺菌することができる。
【0022】
<ヒドロキシ酸の第一酸解離定数の例>
ヒドロキシ酸の第一酸解離定数は殺菌用組成物のpHより大きいものであればよく、3以上であることが好ましく、3.4以上であることがより好ましく、また、4以下であることが好ましい。3以上であることにより緑色野菜の変色をより抑制できる。4以下であることにより緑色野菜のより効率的に殺菌できる。
【0023】
<モノカルボン酸の第一酸解離定数の例>
モノカルボン酸の第一酸解離定数は殺菌用組成物のpHより大きいものであればよく、3以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、また、5以下であることが好ましい。3以上であることにより緑色野菜の変色をより抑制できる。5以下であることにより緑色野菜のより効率的に殺菌できる。
【0024】
<ヒドロキシ酸>
殺菌用組成物は、ヒドロキシ酸を含んでいる。殺菌用組成物が後述のモノカルボン酸のみを含む場合、殺菌処理後に変色が起こりやすいが、ヒドロキシ酸と併用することにより変色を抑制することができる。そのため、十分に殺菌された高品質の緑色野菜を提供することができる。
【0025】
<ヒドロキシ酸の具体例>
ヒドロキシ酸としては、例えば、炭素数が7以下の有機酸が挙げられ、具体例として、グルコン酸(pKa=3.86)、乳酸(pKa=3.8)、ヒドロキシ酢酸(pKa=3.83)、リンゴ酸(pKa=3.4)、酒石酸(pKa=3.22)等が挙げられる。また、ヒドロキシ酸は、上述した複数の酸の少なくとも1種を含んでいればよく、上述した複数の酸を2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0026】
<モノカルボン酸>
本発明に係る製造方法にて用いる殺菌用組成物に含まれるモノカルボン酸としては、上述したヒドロキシ酸とは異なる物質であればよい。
【0027】
<モノカルボン酸の具体例>
モノカルボン酸としては、例えば、炭素数が7以下の有機酸が挙げられ、具体例として、酢酸(pKa=4.76)、ソルビン酸(pKa=4.77)、プロピオン酸(pKa=4.87)、安息香酸(pKa=4.21)等が挙げられる。また、モノカルボン酸は、上述した複数の酸の少なくとも1種を含んでいればよく、上述した複数の酸を2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0028】
<ヒドロキシ酸とモノカルボン酸との混合比>
ヒドロキシ酸とモノカルボン酸との混合比は、質量比で、100:1から5:1の間である。
【0029】
モノカルボン酸の質量を1としたときのヒドロキシ酸が100より多いと、十分な殺菌効果が得られない。
【0030】
モノカルボン酸の質量を1としたときのヒドロキシ酸が5より少ないと、殺菌中の緑色野菜へのダメージが大きくなり、殺菌処理後、緑色野菜が変色する。
【0031】
<ヒドロキシ酸及びモノカルボン酸の濃度>
殺菌工程に用いる際の殺菌用組成物中のヒドロキシ酸の濃度は適宜設定すればよく、質量比で0.005%以上であることが好ましく、0.025%以上であることがより好ましい。ヒドロキシ酸の濃度が0.005%以上であることにより、十分な殺菌効果が得やすくなるとともに緑色野菜の変色をより防止することができる。
【0032】
なお、ヒドロキシ酸の濃度の上限は特に限定されないが、食味及び食感が好ましい殺菌された緑色野菜を得る観点から、0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。
【0033】
殺菌工程に用いる際の殺菌用組成物中のモノカルボン酸の濃度は適宜設定すればよく、質量比で0.001%以上であることが好ましく、0.005%以上であることがより好ましい。モノカルボン酸の濃度が0.001%以上であることにより、十分な殺菌効果が得やすくなるとともに緑色野菜の変色をより防止することができる。
【0034】
なお、モノカルボン酸の濃度の上限は特に限定されないが、食味及び食感が好ましい殺菌された緑色野菜を得る観点から、0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。
【0035】
<pH調整剤>
殺菌用組成物は、所望のpH等に応じて、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。pH調整剤は、塩基当量が小さいものであると緑色野菜の変色を抑制しやすく、より好ましい。このようなpH調整剤は、殺菌用組成物のpHを好適に低下させることが可能であり、殺菌用組成物の殺菌効果をより高めることができる。
【0036】
<pH調整剤の具体例>
pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、コハク酸、フマル酸、フィチン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。また、pH調整剤は、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩等の上述したヒドロキシ酸及びモノカルボン酸の塩、リン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩等の塩であってもよい。pH調整剤としては、好ましくは塩酸、リン酸、フマル酸、フィチン酸又はこれらの塩を用いるとよい。
【0037】
<pH調整剤の含有量>
殺菌用組成物にpH調整剤を含有させる場合の含有量は、含有させるpH調整剤の種類と、目的とするpHとに応じて適宜決定されるものであり、特に限定されない。
【0038】
<塩素濃度>
上述したように、本発明に係る製造方法によれば、高い殺菌効果を維持しつつ、緑色野菜の変色を抑制することができる。そのため、変色を抑制するための他の成分(たとえば、食塩等)を包含しなくてもよい。食塩が残存すると、食塩の脱水作用による野菜の軟化、野菜に塩味が付与されることによる食味の劣化、人体に対する健康等の観点から好ましくない場合がある。しかし、本発明に係る製造方法によれば、食塩の量を制限したり、より少量にしたりするという要望にも応えることができる。
【0039】
<添加剤>
殺菌用組成物は、上述した成分以外の添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等のガム類、ペクチン、等の安定剤、グリセリン脂肪酸エステル等のモノグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、リゾチーム等の保存料等が挙げられる。
【0040】
<殺菌用組成物の製造方法>
本発明に係る製造方法に用いる殺菌用組成物は、上述した各成分を混合して製造すればよい。例えば、各成分をそれぞれ予め溶媒に溶解した溶液同士を混合してもよく、各成分を溶媒に混合してもよい。溶媒は水が好ましい。残存しても人体に悪影響を与えないからである。
【0041】
<殺菌用組成物の形態>
殺菌工程に用いるために準備する殺菌用組成物の形態は、殺菌方法の具体的な態様等に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
例えば、上述した成分を所定の容量で水等の溶媒に溶解させた液体形態であってもよい。また、上述した成分を高濃度で溶媒に溶解した高濃度の溶液の形態で準備し、使用前に所定の容量に希釈してもよい。高濃度の溶液の形態とする場合、モノカルボン酸及びヒドロキシ酸の濃度は5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0043】
<殺菌用組成物と緑色野菜との接触方法>
殺菌工程においては、緑色野菜と上述した殺菌用組成物とを接触させることによって、緑色野菜を殺菌する。接触させる方法としては、例えば、殺菌用組成物中に緑色野菜を浸漬する、殺菌用組成物が流れる流路中に緑色野菜を保持する、殺菌用組成物を含む溶液をスプレー、シャワー等により緑色野菜に吹き付ける等の方法が挙げられる。
【0044】
<殺菌時間>
殺菌工程において、緑色野菜と殺菌用組成物との接触時間は適宜設定すればよいが、30秒以上であることが好ましく、1分以上であることがより好ましい。また、殺菌工程において、緑色野菜と殺菌用組成物との接触時間は、30分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。緑色野菜と殺菌用組成物とを30秒以上接触させることによって、高い殺菌効果が得られる。また、緑色野菜と殺菌用組成物との接触時間を30分以下という短時間にすることによって、緑色野菜の味、食感、におい、色等への悪影響を防ぐことができる。
【0045】
<殺菌される菌>
殺菌工程においては、緑色野菜に存在する菌を殺菌する。例えば、葉、茎等の外側の表面、結球野菜の内部の葉の表面などの緑色野菜の表面に存在する菌を好適に殺菌する。殺菌工程において殺菌可能な菌の例として、食中毒の原因菌が挙げられ、例えば、大腸菌を好適に殺菌可能である。
【0046】
<緑色野菜の具体例>
殺菌工程によって殺菌する緑色野菜の具体例としては、葉緑素(クロロフィル)を含む野菜であればよく、例えば、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、リーフレタス、ロメインレタス、青梗菜、小松菜、ニラ、カラシナ、春菊、ミズナ、ケール、ベビーリーフ等の葉野菜、ズッキーニ、オクラ、シシトウガラシ、ピーマン、ゴーヤ、キュウリ等の果菜、アスパラガス、青ネギ、ワサビ等の茎菜、ブロッコリー、スプラウト、菜の花等の花菜等が挙げられる。中でも葉野菜に対して本発明に係る製造方法は好適に適用される。また、殺菌工程においては、2種以上の緑色野菜を同時に殺菌してもよい。
【0047】
<緑色野菜の形態>
殺菌工程において殺菌する緑色野菜の形態は、カット等の加工を施していない緑色野菜でもよく、予めカットされたカット緑色野菜であってもよい。カット緑色野菜は、例えば、上述した緑色野菜のいずれかを、収穫後に水洗し、刃物を用いて適当な大きさにカットしたものであり得る。また、本明細書において「カット緑色野菜」は、剥皮されたものも含む。
【0048】
また、緑色野菜を、殺菌工程の前に殺菌効率が所望の程度になるようにカット(例えば、半割等)して、殺菌工程の後、及び/又は後述する洗浄工程の後に、製造する製品の態様に応じて、さらに細かくカット(例えば、千切り等)してもよい。
【0049】
殺菌工程において、キャベツ、レタス等の外葉が結球した緑色野菜を殺菌する場合には、例えば、予め半割、四つ割等にカットした緑色野菜を、殺菌用組成物に浸漬させることが好ましい。また、殺菌工程において、ホウレンソウのように外葉が結球していない緑色野菜を殺菌する場合には、カットしていない緑色野菜をそのまま殺菌用組成物に接触させてもよい。
【0050】
<洗浄工程>
本発明に係る製造方法は洗浄工程を包含することがより好ましい。洗浄工程では、殺菌工程によって緑色野菜を殺菌した後に、当該緑色野菜を洗浄する。緑色野菜を洗浄することによって、緑色野菜に付着した殺菌用組成物を除去できる。
【0051】
<洗浄液>
緑色野菜を洗浄する洗浄液としては、緑色野菜に付着した殺菌用組成物を除去することが可能であればよく、例えば、水が挙げられる。
【0052】
<洗浄方法の例>
洗浄する方法としては、例えば、洗浄液中に緑色野菜を浸漬する、洗浄液が流れる流路中に緑色野菜を保持する、洗浄液をスプレー等により緑色野菜に吹き付ける等により、緑色野菜を洗浄する等の方法が挙げられる。
【0053】
<洗浄時間>
緑色野菜を洗浄する時間は、緑色野菜に付着した殺菌用組成物を除去することが可能な時間であればよいが、緑色野菜中の栄養成分の流出を防ぐために、短時間であることがより好ましい。なお、洗浄工程においては、緑色野菜に付着した殺菌用組成物が完全に除去されなくてもよく、緑色野菜の味、におい等に影響しない程度に殺菌用組成物が付着してもよい。
【0054】
洗浄工程後の緑色野菜を、さらに、水切り、乾燥等して付着した洗浄液を除去してもよい。また、洗浄工程後の緑色野菜を、さらに、適当な大きさにカットしてもよい。
【0055】
<本発明に係る緑色野菜の殺菌用組成物>
本発明に係る緑色野菜の殺菌用組成物は、pHが3以上、4.5以下であり、ヒドロキシ酸、及び、当該ヒドロキシ酸とは異なるモノカルボン酸を含み、前記ヒドロキシ酸及び前記モノカルボン酸の少なくとも一方の第一酸解離定数の値が当該殺菌用組成物のpHより大きく、前記ヒドロキシ酸と前記モノカルボン酸との混合比が質量比で、100:1から5:1の間である。
【0056】
本発明に係る殺菌用組成物は、上述した本発明に係る製造方法において用いる殺菌用組成物と同一であるため、その詳細な説明は省略する。
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.24%、モノカルボン酸である酢酸を0.04%添加し、pH調整剤としてフマル酸ナトリウムを用いてpH3.2に調整した殺菌用組成物を得た。
【0059】
得られた殺菌用組成物3L中にホウレンソウ100gを浸漬し、5分間撹拌して殺菌処理を施した。殺菌処理したホウレンソウを流水で2分間すすいだ後、700rpmで1分間遠心脱水に供し、殺菌されたホウレンソウを得た。
【0060】
[実施例2]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.0475%、モノカルボン酸である酢酸を0.005%添加し、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムを用いてpH4.4に調整した殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0061】
[実施例3]
清水に、ヒドロキシ酸であるリンゴ酸を0.1%、モノカルボン酸である酢酸を0.04%添加し、pH調整剤として酢酸ナトリウムを用いてpH4に調整した殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0062】
[比較例1]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.21%、モノカルボン酸である酢酸を0.07%添加し、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムを用いてpH2.9に調整した殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0063】
[比較例2]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.05%、モノカルボン酸である酢酸を0.00045%添加し、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムを用いてpH5.5に調整した殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0064】
[比較例3]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.05%添加し、pH5である殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0065】
[比較例4]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.5%、モノカルボン酸である酢酸を0.5%、エタノールを1%、食塩を1%添加し、pH2.6である殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0066】
[比較例5]
清水に、ヒドロキシ酸である乳酸を0.5%、モノカルボン酸である酢酸を0.5%、添加し、pH2.7である殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0067】
[比較例6]
清水に、モノカルボン酸である酢酸を0.5%添加し、pH3.5である殺菌用組成物を得た。得られた殺菌用組成物を用い、実施例1の方法に準じて殺菌されたホウレンソウを得た。
【0068】
[試験例1]殺菌処理による緑色野菜の変化
実施例1〜3及び比較例1〜6で得た、殺菌されたホウレンソウを、透明ポリ袋に密封して10℃で48時間保管した後、ホウレンソウの外観について、専門のパネラー3人により下記の評価基準に基づいて評価した。
【0069】
<評価基準>
A:殺菌前と遜色のない外観が保たれていた;
B:殺菌前と概ね遜色のない外観が保たれていた;
C:殺菌前と比較して一部に変色が認められた;
D:殺菌前と比較して変色と水分の滲出が認められた。
【0070】
[試験例2]殺菌後の一般生菌数の増加率
実施例1〜3及び比較例1〜6で得た、殺菌されたホウレンソウについて、殺菌、すすぎ、脱水処理を施した直後のもの、及び、当該ホウレンソウを透明ポリ袋に密封して10℃で48時間保管したものを用いて、次のように一般生菌数を測定した。
【0071】
すなわち、実施例1〜3及び比較例1〜6で得た、殺菌されたホウレンソウ各3gを、それぞれ別のストマッカー袋に入れ、各袋にリン酸緩衝生理食塩水27gを添加してストマッカー処理して、試料液を得た。次に、食品衛生検査指針 微生物編 2015(厚生労働省)に記載の生菌数の検査手順に従って、得られた試料液の一般生菌数を測定した。具体的には次の通りである。まず、試料液を段階的に希釈してシャーレに1mL滴下し、ここに標準寒天培地15mLを添加して混釈した。次に、培地を35±1℃で48±3時間培養した。以上の操作によって形成されたコロニー数を計測することで、一般生菌数を測定した。測定結果を下記の評価基準に基づいて評価した。
【0072】
<評価基準>
A:増殖抑制効果が見られた:
実施例1では殺菌後の菌の増殖が抑制されていた。つまり、殺菌直後の一般生菌数は27×10個であり、殺菌から2日後(48時間後)の一般生菌数は64×10個であった。そこで、実施例1と同程度の抑制効果が確認できた例をAと評価した。
【0073】
B:増殖抑制効果が不十分であった:
比較例1では、殺菌後、食品としての安全性に問題の無い範囲ではあるが、生菌が増殖していた。つまり、殺菌直後の一般生菌数が42×10個であり、製造2日後(48時間後)の一般生菌数は47×10個であった。そこで、比較例1と同様に一般生菌数が増殖した例をBと評価した。
【0074】
試験例1及び2の結果を表1に示す。また、実施例1〜3で得た、殺菌されたホウレンソウについて、製造直後(図1)及び製造2日後(図2)の状態を撮影した画像を図1及び2に示す。なお、図1及び2において、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3の画像を示す。さらに、比較例1〜5で得た、殺菌されたホウレンソウについて、製造直後(図3)及び製造2日後(図4)の状態を撮影した画像を図3及び4に示す。なお、図3及び4において、(a)は比較例1、(b)は比較例2、(c)は比較例3、(d)は比較例4、(e)は比較例5の画像を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1、図1及び2に示すように、実施例1〜3の殺菌組成物を用いて殺菌されたホウレンソウは、殺菌前と遜色のない外観が保たれていた。また、実施例1〜3の殺菌組成物を用いて殺菌されたホウレンソウは、増殖抑制効果が十分であり、保存後の一般生菌数の増加はほぼ見られなかった。
【0077】
一方、表1、図3及び4に示すように、比較例1および6の殺菌組成物を用いて殺菌されたホウレンソウは、殺菌前と比較して一部に変色が認められた。また、比較例4及び5の殺菌組成物を用いて殺菌されたホウレンソウは、殺菌前と比較して変色と水分の滲出が認められた。比較例2及び3の殺菌組成物を用いて殺菌されたホウレンソウは、増殖抑制効果が不十分であり、保存後の一般生菌数が大幅に増加した。
【0078】
[実施例4]
実施例1において、pH調整剤をリン酸ナトリウムに置き換えた以外は同様に調製した殺菌用組成物を用い、ホウレンソウに替えて約3cm四方にカットしたカットレタス100gを用い、殺菌されたカットレタスを得た。得られたカットレタスについて、製造直後(図5)及び製造2日後(図6)の状態を撮影した画像を図5及び6に示す。なお、図5及び6において、(a)が実施例4のカットレタスの画像を示している。
【0079】
得られた殺菌されたカットレタスを、試験例1及び試験例2の方法に準じて評価したところ、製造後48時間保管後においても殺菌前と比べて遜色のない外観が保たれ、保存後の一般生菌数の増加はほぼ見られなかった。
【0080】
[実施例5]
実施例1において、ホウレンソウに替えて約3cm四方にカットしたカットキャベツ100gを用い、殺菌されたカットキャベツを得た。得られたカットキャベツについて、製造直後(図5)及び製造2日後(図6)の状態を撮影した画像を図5及び6に示す。なお、図5及び6において、(b)が実施例5のカットキャベツの画像を示している。
【0081】
得られた殺菌されたカットキャベツを、試験例1及び試験例2の方法に準じて評価したところ、製造後48時間保管後においても殺菌前と比べて遜色のない外観が保たれ、増殖抑制効果が十分であり、保存後の一般生菌数の増加はほぼ見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、食品に関連する産業において利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6