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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684579
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】非接触給電システム
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/14 20060101AFI20200413BHJP
   H02J 50/00 20160101ALI20200413BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20200413BHJP
   B60M 7/00 20060101ALI20200413BHJP
   B60L 53/00 20190101ALI20200413BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   H01F38/14
   H02J50/00
   H02J7/00 P
   H02J7/00 301D
   B60M7/00 X
   B60L53/00
   H05K9/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-238313(P2015-238313)
(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公開番号】特開2017-107896(P2017-107896A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝代 健次
(72)【発明者】
【氏名】山野上 耕一
(72)【発明者】
【氏名】川口 人士
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−113021(JP,A)
【文献】 特開2010−035300(JP,A)
【文献】 特開2014−135382(JP,A)
【文献】 再公表特許第2010/131349(JP,A1)
【文献】 国際公開第2006/134913(WO,A1)
【文献】 特開2015−047013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
B60L 53/00
B60M 7/00
H02J 7/00
H02J 50/00
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に設置された第1のコイルと車体下面に設置された第2のコイルとが対向して前記第1のコイルと前記第2のコイルとの間で非接触給電を行う非接触給電システムであって、
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルがいずれもスパイラルコイルであり、
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルのうち電力を送電する送電コイルについて、車幅方向からの側面視で前記送電コイルの全体が隠れるように、前記送電コイルに対して車幅方向の両側にフランジが立設されており、
前記フランジにおいて前記送電コイル側の面に非導電性磁性薄膜が形成されており、
前記送電コイルは、磁性体で形成されたコイルコア上に取り付けられ、
前記コイルコアは、前記フランジが設けられる鉄板上に取り付けられ、
前記コイルコアの部分には前記非導電性磁性薄膜が設けられていない一方で、前記鉄板における前記フランジと前記コイルコアとの間の領域は、前記非導電性磁性薄膜が形成されている
ことを特徴とする非接触給電システム。
【請求項2】
前記フランジの突出高さが前記送電コイルの表面の高さと等しい、請求項1に記載の非接触給電システム。
【請求項3】
前記フランジが前記送電コイルの外周を囲む環状のフランジである、請求項1または請求項2に記載の非接触給電システム。
【請求項4】
前記非導電性磁性薄膜が磁性塗料を塗布して形成された塗膜である、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の非接触給電システム。
【請求項5】
前記フランジは、前記送電コイルの車幅方向両側及び車両後方を囲みかつ前記送電コイルの車両前方が開放されたU字状またはコ字状をなす、
請求項1または請求項2に記載の非接触給電システム。
【請求項6】
前記フランジは、前記送電コイルの車幅方向両側にのみ設けられている、請求項1または請求項2に記載の非接触給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触給電システムに関し、特に、地上側の1次コイルと車上側の2次コイルとの間で非接触給電を行うプラグインハイブリッド車や電気自動車用の非接触給電システムに好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
外部電力でバッテリ充電されるプラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)では、充電ケーブルの接続作業の煩わしさ、衣服の汚れ、雨天時の不安などから、ワイヤレスでの給電(非接触給電)のニーズが高くなっている。
【0003】
非接触給電には、地上側の1次コイルと車上側の2次コイルとの間の電磁誘導を利用する電磁誘導式と、磁界共鳴を利用する磁界共鳴式とがある。いずれの方式でも送電コイルから大きな交番磁界が発生し、磁界が人体に与える影響が懸念される。自動車用の非接触給電システムの国際標準化において、車外での交番磁界が国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の一般ガイドライン基準の27μT以下であることが求められる見込みである。
【0004】
従来、自動車の非接触給電システムにおいて、送電コイルの外周を磁性材で囲んで送電コイルからの漏洩磁界の発生を低減している(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−166070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非接触給電システムで使用されるコイルのタイプとしてヘリカルコイルとスパイラルコイルがあるが、自動車用の非接触給電システムの国際標準化において、1次コイルおよび2次コイルとしてスパイラルコイルを採用することが決定した。スパイラルコイルは、ヘリカルコイルに比べて漏洩磁界が少ないため、上記基準を満たしやすくなる。しかし、急速充電などで送電パワーを上げると漏洩磁界が大きくなり、上記基準を満たさなくなるおそれがある。また、非接触給電時には地上側の送電コイルは車体で隠されるため、普通車のように車体がある程度大きければ人を送電コイルから一定距離以上遠ざけることができるが、コミューターなどの小型車の場合には車体が小さいため、人を送電コイルから一定距離以上遠ざけることができずに上記基準を満たさなくなるおそれがある。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、自動車向けの非接触給電システムにおいて電力伝送効率を良好に保ちつつ車外への漏洩磁界を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従った非接触給電システムは、地上に設置された第1のコイルと車体下面に設置された第2のコイルとが対向して第1のコイルと第2のコイルとの間で非接触給電を行う非接触給電システムであって、第1のコイルおよび第2のコイルがいずれもスパイラルコイルであり、第1のコイルおよび第2のコイルのうち電力を送電する送電コイルについて、車幅方向からの側面視で送電コイルの全体が隠れるように、送電コイルに対して車幅方向の両側にフランジが立設されており、フランジにおいて送電コイル側の面に非導電性磁性薄膜が形成されており、送電コイルは、磁性体で形成されたコイルコア上に取り付けられ、コイルコアは、フランジが設けられる鉄板上に取り付けられ、コイルコアの部分には非導電性磁性薄膜が設けられていない一方で、鉄板におけるフランジとコイルコアとの間の領域は、非導電性磁性薄膜が形成されている、というものである。
【0009】
これによると、送電コイルの周りにフランジを設けることで送電コイルからの漏洩磁界を低減し、さらにフランジにおいて送電コイル側の面(内周面)に非導電性磁性薄膜が形成されていることで、第1のコイルと第2のコイルとの間の電力伝送効率を良好に保つことができる。
【0010】
好ましくは、フランジを送電コイルの外周から75mm程度離れた位置に立設する。また、非導電性磁性薄膜の比透磁率を50程度にする。また、フランジの突出高さを送電コイルの表面の高さと等しくする。
【0011】
これらによると、漏洩磁界の低減および電力伝送効率の向上の両者をバランスよく実現することができる。
【0012】
フランジが送電コイルの外周を囲む環状のフランジであってもよい。
【0013】
これによると、送電コイルの側面全方向への漏洩磁界を低減することができる。
【0014】
非導電性磁性薄膜が磁性塗料を塗布して形成された塗膜であってもよい。
【0015】
これによると、フランジの内周面に磁性塗料を塗布するといった簡易な方法で非導電性磁性薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、自動車向けの非接触給電システムにおいて電力伝送効率を良好に保ちつつ車外への漏洩磁界を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る非接触給電システムの概略図
図2】一例に係る送電コイルの平面図および断面図
図3】一例に係る受電コイルの平面図および断面図
図4】フランジに使用される素材別の磁束密度がガイドライン基準以下となるコイル中心から距離のグラフ
図5】フランジに使用される素材別の電力伝送効率のグラフ
図6A】送電コイル側のフランジの一例を示す図
図6B】送電コイル側のフランジの別例を示す図
図6C】送電コイル側のフランジのさらに別例を示す図
図7】フランジの磁性塗料の比透磁率と磁束密度がガイドライン基準以下となるコイル中心から距離との関係を示すグラフ
図8】フランジの磁性塗料の比透磁率と電力伝送効率との関係を示すグラフ
図9】フランジの直径と磁束密度がガイドライン基準以下となるコイル中心から距離との関係を示すグラフ
図10】フランジの直径と電力伝送効率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0019】
なお、発明者らは、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、厚み、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る非接触給電システムの概略を示す。例えば、本実施形態に係る非接触給電システムは、プラグインハイブリッド車や電気自動車などの自動車100のバッテリ30をワイヤレスで充電する磁界共鳴式の非接触給電システムである。
【0021】
本実施形態に係る非接触給電システムにおいて、地上に地上装置200および送電ユニット60が設置されている。自動車100と地上装置200とは無線300により通信できるようになっている。自動車100は、バッテリ30の充電量を判断し、地上装置200に対して無線300を通じて適宜給電の開始/停止を要求する。地上装置200は、自動車100からの要求に従って自動車100への電気エネルギーの供給/停止をコントロールする。
【0022】
自動車100へ電気エネルギーを供給する場合、地上装置200は、商用電力(AC電源)から85kHz帯(81.38k〜90kHz)の3kWクラスの高周波電流を生成する。地上装置200が生成した高周波電流はケーブル201を通じて送電ユニット60に通電される。送電ユニット60には図略の送電コイル(1次コイル)が収容されており、当該送電コイルに高周波電流が通電されることで送電ユニット60に強力な磁界が発生する。
【0023】
一方、自動車100において、車体下面に受電ユニット10が設置されている。バッテリ30を充電する場合、受電ユニット10が送電ユニット60と上下に対向する位置に来るように自動車100を移動させる。受電ユニット10と送電ユニット60とのギャップは100〜160mmである。
【0024】
受電ユニット10には図略の受電コイル(2次コイル)およびコンデンサからなる共振回路が収容されており、当該受電コイルが送電ユニット60で発生した磁界に晒されることで当該共振回路が共鳴して受電ユニット10に高周波電流が発生する。受電ユニット10に発生した高周波電流は整流器20により直流電流に変換されてバッテリ30に充電される。このように、本実施形態に係るシステムでは、地上装置200から自動車100へ磁界共鳴によりワイヤレスで電気エネルギーが供給される。
【0025】
バッテリ30にはインバータ40が接続されている。自動車100を走行させる場合、インバータ40がバッテリ30に蓄電された直流電流を交流電流に変換して自動車100の動力源である電動モータ50を駆動する。
【0026】
図2は、一例に係る送電コイルの平面図および断面図である。送電ユニット60には送電コイル61が収容されている。送電コイル61は、直径5.4mmの絶縁被覆電線62を円形の渦巻き状に2段8回巻きしたスパイラルコイルであり、外径は350mm、内径は260mmである。送電コイル61は、フェライトなどの磁性体で形成された円盤状のコイルコア63上に取り付けられている。コイルコア63の直径は400mmである。コイルコア63は鉄板64に取り付けられている。
【0027】
送電コイル61の側面方向への漏洩磁界を低減するために、送電コイル61の外周から75mm程度離れた位置において送電コイル61の外周を取り囲むように、厚さ数mmの鉄板でできた環状のフランジ65が設けられている。フランジ65の直径は500mmである。なお、フランジ65は、鉄板64と一体成形されてもよいし、あるいは、溶接やネジ止めなどで鉄板64に取り付けられてもよい。
【0028】
送電コイル61の側面方向への漏洩磁界の低減という観点から、フランジ65の突出高は、側面視で送電コイル61の全体が隠れるような高さとする。ここで、送受電コイル間距離をできるだけ短くした方が電力伝送効率を高くすることができ、また、漏洩磁界を抑制することもできるため、送電ユニット60において送電コイル61の表面よりも突出する部材を設けないことが望ましい。したがって、フランジ65の突出高は最大限高くしても送電コイル61の表面の高さ程度にすることが適当である。
【0029】
フランジ65の内周面に磁性塗膜66が形成されている。磁性塗膜66は、フェライトなどの磁性体を微小な粒もしくは磁性体片にしたものを含む塗料(磁性塗料)を厚さ数mmに塗布して形成することができる。磁性塗膜66は、高透磁率および高電気抵抗という特徴を有し、磁束を吸収するとともに渦電流による損失を抑制することができる。すなわち、フランジ65の内周面に磁性塗膜66を形成することにより、フランジ65に渦電流が発生するのを抑制して電力伝送効率を良好に保つことができる。
【0030】
なお、コイルコア63で覆われていない鉄板64の表面にも磁性塗膜66を形成してもよい。これにより、鉄板64に渦電流が発生するのを抑制して電力伝送効率を向上させることができる。
【0031】
図3は、一例に係る受電コイルの平面図および断面図である。受電ユニット10には受電コイル11が収容されている。受電コイル11は、直径5.4mmの絶縁被覆電線12を円形の渦巻き状に1段8回巻きしたスパイラルコイルであり、外径は350mm、内径は260mmである。受電コイル11は、フェライトなどの磁性体で形成された円盤状のコイルコア13上に取り付けられている。コイルコア13の直径は400mmである。コイルコア13は自動車100の下面のアンダーカバーを構成する鉄板14に取り付けられている。
【0032】
基本的に非接触給電システムでは地上装置200から自動車100へワイヤレスで電気エネルギーが供給されるが、逆に、自動車100で生成した電力を地上装置200へワイヤレスに伝送することもある。この場合、受電コイル11および送電コイル61の役割が入れ替わり、受電コイル11が送電コイルとして機能し、送電コイル61が受電コイルとして機能する。したがって、受電コイル11についても側面方向への漏洩磁界を低減する必要がある。
【0033】
受電コイル11の側面方向への漏洩磁界を低減するために、受電コイル11の外周から75mm程度離れた位置において受電コイル11の外周を取り囲むように、厚さ数mmの鉄板でできた環状のフランジ15が設けられている。フランジ15の直径は500mmである。なお、フランジ15は、鉄板14と一体成形されてもよいし、あるいは、溶接やネジ止めなどで鉄板14に取り付けられてもよい。
【0034】
受電コイル11の側面方向への漏洩磁界を低減するという観点から、フランジ15の突出高は、側面視で受電コイル11の全体が隠れるような高さとする。ここで、送受電コイル間距離をできるだけ短くした方が電力伝送効率を高くすることができ、また、漏洩磁界を抑制することもできるため、受電ユニット10において受電コイル11の表面よりも突出する部材を設けないことが望ましい。したがって、フランジ15の突出高は最大限高くしても受電コイル11の表面の高さ程度にすることが適当である。
【0035】
フランジ15の内周面に磁性塗膜66(図2)と同様の磁性塗膜16が形成されている。これにより、フランジ15に渦電流が発生するのを抑制して電力伝送効率を良好に保つことができる。コイルコア13で覆われていない鉄板14の表面にも磁性塗膜16を形成してもよい。これにより、鉄板14に渦電流が発生するのを抑制して電力伝送効率を向上させることができる。
【0036】
磁性塗膜16および上記の磁性塗膜66は、特許請求の範囲に記載の「非導電性磁性薄膜」の一例である。磁性塗料を塗布することに代えて磁性フィルムなどを貼り付けてもよい。あるいは、メッキや蒸着などの方法で磁性薄膜を形成してもよい。
【0037】
さらに、磁性塗膜16は外部環境に晒されるため、磁性塗料に防錆処理を施したり、磁性塗料を塗布した後に磁性塗膜16の表面に防錆処理を施したりすることが望ましい。
【0038】
受電コイル11の形状は送電コイル61の形状と同じにする必要はない。例えば、受電コイル11の外径および内径を上記よりも100mmずつ小さく(外径250mm、内径160mm)してもよい。このように受電コイル11を小型化することで、受電ユニット10のコストを低減することができ、また、受電ユニット10の取り付け作業が容易になる。
【0039】
送電コイル61および受電コイル11ともに円形である必要はない。例えば、送電コイル61および/または受電コイル11を車幅方向に長い長円形や楕円形にしてもよい。
【0040】
次に、フランジ15およびフランジ65に使用する素材の最適選択について説明する。図2の送電コイル61と図3の受電コイル11とを150mm隔てて対向させて送電コイル61に85kHz帯の3kWの高周波電流を通電するという条件でシミュレーションを行った。図4は、フランジに使用される素材別の磁束密度がガイドライン基準(27μT)以下となるコイル中心から距離のグラフである。ここでいうコイル中心とは送電コイル61の中心である。コイル中心からの距離が短いほど漏洩磁界が低減できていると言える。図5は、フランジに使用される素材別の電力伝送効率のグラフである。なお、いずれのグラフにも比較例としてフランジなしの場合が含まれる。
【0041】
図4および図5のグラフにおいて、
(1)「フランジなし磁性塗膜なし」は、フランジ15およびフランジ65を設けずに、鉄板14および鉄板64の表面に磁性塗膜も形成しない場合を表す。
(2)「フランジなし磁性塗膜あり」は、フランジ15およびフランジ65を設けずに、鉄板14および鉄板64の表面に磁性塗膜を厚さ1mmで形成した場合を表す。
(3)「鉄(磁性塗膜なし)」は、鉄製のフランジ15およびフランジ65を設け、磁性塗膜は形成しない場合を表す。
(4)「アルミニウム(磁性塗膜なし)」は、アルミニウム製のフランジ15およびフランジ65を設け、磁性塗膜は形成しない場合を表す。
(5)「フェライト(磁性塗膜なし)」は、フェライト製のフランジ15およびフランジ65を設け、磁性塗膜は形成しない場合を表す。
(6)「鉄+磁性塗膜(比透磁率100)」は、鉄製のフランジ15およびフランジ65を設け、その内周面および鉄板14および鉄板64の表面に比透磁率が100の磁性塗膜16および磁性塗膜66を厚さ1mmで形成した場合を表す。
(7)「鉄+磁性塗膜(比透磁率250)」は、鉄製のフランジ15およびフランジ65を設け、その内周面および鉄板14および鉄板64の表面に比透磁率が250の磁性塗膜16および磁性塗膜66を厚さ1mmで形成した場合を表す。
【0042】
図4のグラフからわかるように、漏洩磁界の低減に関しては上記(3)(4)(6)(7)が良好であり、コイル中心から400mm以上離れた場所において磁束密度をガイドライン基準以下にすることができる。これにより、車幅の短い小型車であっても車外へ漏洩する磁束密度を一般ガイドライン基準以下にすることができる。また、送電パワーが上がって磁束密度がガイドライン基準以下となるコイル中心からの距離が多少延びたとしても、それを車幅内に収めることができる。一方、図5のグラフ、電力伝送効率に関しては上記(2)(4)(5)(6)(7)が良好である。このことから、漏洩磁界の低減および電力伝送効率の両者を満足するのは上記(4)(6)(7)である。ここで、鉄板14および鉄板64への取り付けの容易性や一体成形性を考慮すると、フランジ15およびフランジ65はアルミニウム製ではなく鉄製であることが好ましく、さらにこの条件を満たすのは上記(6)(7)である。すなわち、上述したように、鉄製のフランジ15およびフランジ65の内周面に磁性塗膜16および磁性塗膜66を形成することが最適と言える。
【0043】
フランジ65およびフランジ15の形状は環状に限定されない。図6Aは、送電コイル61側のフランジ65の一例を示す図である。例えば、受電ユニット10が自動車100の車両後部の左右後輪の間に設置される場合を想定すると、車両前方は車長があるため人を送電コイル61から一定距離以上遠ざけることができるため、図6Aに示すようにフランジ65を平面視でU字形にして車両前方部分にフランジを設けなくても車両前方における車外への漏洩磁界は基準以下にすることができると考えられる。図6Bは、送電コイル61側のフランジ65の別例を示す図である。フランジ65は平面視でコの字型であってもよい。
【0044】
図6Cは、送電コイル61側のフランジ65のさらに別例を示す図である。給電中の自動車100の後方部分には地上装置200や壁などがあると車両後方に人が立ち入れないことが想定されるため、車両後方部分のフランジも省略して、図6Cに示すようにフランジ65を車両左右部分のみに設けるようにしてもよい。また、フランジ65は平面視で直線状にする以外に円弧状にしてもよい。
【0045】
なお、図示しないが、受電コイル側のフランジ15についても上記のフランジ65と同様にさまざまな形状にすることができる。
【0046】
次に、磁性塗膜16および磁性塗膜66に使用する磁性塗料の好適な比透磁率について説明する。上記と同じ条件でシミュレーションを行った。図7は、フランジの磁性塗料の比透磁率と磁束密度がガイドライン基準以下となるコイル中心から距離との関係を示すグラフである。ここでいうコイル中心とは送電コイル61の中心である。コイル中心からの距離が短いほど漏洩磁界が低減できていると言える。図8は、フランジの磁性塗料の比透磁率と電力伝送効率との関係を示すグラフである。
【0047】
これらグラフからわかるように、磁性塗料の比透磁率が0から50程度まで上がるにつれ、漏洩磁界の低減効果は下がるが電力伝送効率は急激に向上する。そして、磁性塗料の比透磁率が50を超えると電力伝送効率の向上はあまり見られず、漏洩磁界の低減効果もあまり悪化しない。このことから、磁性塗膜66に使用する磁性塗料の比透磁率は50程度が好適であると言える。なお、受電コイル側の磁性塗膜16についても同様のことが言える。
【0048】
次に、フランジ15およびフランジ65の好適な直径(内径)について説明する。上記と同じ条件でシミュレーションを行った。図9は、フランジの直径と磁束密度がガイドライン基準以下となるコイル中心から距離との関係を示すグラフである。ここでいうコイル中心とは送電コイル61の中心である。コイル中心からの距離が短いほど漏洩磁界が低減できていると言える。図10は、フランジの直径と電力伝送効率との関係を示すグラフである。
【0049】
これらグラフからわかるように、電力伝送効率についてはフランジ65の直径が500mm以上であれば十分であり、漏洩磁界の低減についてはフランジ65の直径が500mm以下であればよい。このことから、フランジ65の直径は500mm程度が好適と言える。すなわち、上記のように、フランジ65を送電コイル61の外周から75mm程度離れた位置に設けるのが好適である。なお、受電コイル側のフランジ15についても同様のことが言える。
【0050】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0051】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0052】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【0053】
上記では、便宜のため、磁界共鳴式の非接触給電システムを例に本発明における技術を説明したが、本発明は、磁界共鳴式の非接触給電システムに限定されず、電磁誘導式の非接触給電システムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
11 受電コイル(第2のコイル)
15 フランジ
16 磁性塗膜(非導電性磁性薄膜)
61 送電コイル(第1のコイル)
65 フランジ
66 磁性塗膜(非導電性磁性薄膜)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10