特許第6684955号(P6684955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6684955
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】調理ソース
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20200413BHJP
【FI】
   A23L23/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-197352(P2019-197352)
(22)【出願日】2019年10月30日
【審査請求日】2019年11月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴比古
(72)【発明者】
【氏名】速水 里美
(72)【発明者】
【氏名】松田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】西田 岳史
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/021276(WO,A1)
【文献】 特開2018−014971(JP,A)
【文献】 特表2014−500038(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/061288(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/080284(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0203096(US,A1)
【文献】 特許第6497765(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00−23/10
A23L 5/00−5/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非レトルト品である調理ソースにおいて、
酢酸と、食用油脂と、ソルビン酸塩、を含有し、
前記酢酸が0.03質量%以上0.30質量%以下であり、
記酢酸1質量部に対する前記ソルビン酸塩の含有割合が0.3質量部以上7.0質量部以下であ
ことを特徴とする調理ソース。
【請求項2】
前記食用油脂の含有量が3質量%以上20質量%以である
ことを特徴とする請求項1に記載の調理ソース。
【請求項3】
前記ソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウム又はソルビン酸カルシウムの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の調理ソース。
【請求項4】
前記調理ソースが、卵黄又は乳化性澱粉の少なくとも一方をさらに含有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の調理ソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手作りのような風味を有し、かつ香りを良好に感じさせることができる調理ソースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レトルト処理されたカレーソースやパスタソースなどの調理ソースが知られている。レトルト処理は、耐熱性容器に収容された食品を加熱及び加圧により殺菌することにより、当該食品の保存性を高める処理である。一方で、レトルト食品は、独特の臭気(レトルト臭)が発生することが知られている。例えば特許文献1には、レトルト臭を抑制する観点から、所定の粘度、pHを有しクルクミノイド等の成分を含有するカレーソース等のレトルト食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−169644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レトルト食品では、レトルト臭を十分に抑制することが難しいことに加えて、高温高圧の処理によって食品本来の香り成分が変性しやすい。これにより、レトルト食品では、喫食者にその食品本来の香りを十分に感じさせることが難しかった。一方で、レトルト処理せずに保存性を高めた食品は、塩味や甘味が強くなり、不自然な風味を有することが多かった。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、手作りのようなまろやかな風味を有し、かつ本来の香りを十分に感じさせることができる調理ソースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。
その結果、本発明者らは、非レトルト品であって所定の含有量の酢酸を含有するとともに、当該酢酸に対して所定の含有割合のソルビン酸塩又はエタノールを含有する調理ソースが、本来の香りを十分に感じさせることができ、さらに、意外にも、酸味等の抑えられた手作りのようなまろやかな風味を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)非レトルト品である調理ソースにおいて、
酢酸と、食用油脂と、ソルビン酸塩又はエタノールと、を含有し、
前記酢酸が0.03質量%以上0.30質量%以下であり、
前記調理ソースが前記ソルビン酸塩を含有する場合、前記酢酸1質量部に対する前記ソルビン酸塩の含有割合が0.3質量部以上7.0質量部以下であり、
前記調理ソースが前記エタノールを含有する場合、前記酢酸1質量部に対する前記エタノールの含有割合が5質量部以上80質量部以下である
ことを特徴とする調理ソース、
(2)前記食用油脂の含有量が3質量%以上50質量%以である
ことを特徴とする(1)に記載の調理ソース、
(3)前記ソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウム又はソルビン酸カルシウムの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の調理ソース、
)前記調理ソースが、卵黄又は乳化性澱粉の少なくとも一方をさらに含有する
ことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の調理ソース、
である。



【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、手作りのようなまろやかな風味を有し、かつ本来の香りを十分に感じさせることができる調理ソースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明の調理ソースは、非レトルト品であって、所定の含有量の酢酸と、所定の含有量の食用油脂と、酢酸に対して所定の含有割合のソルビン酸塩又はエタノールと、を含有することを特徴とする。本発明の調理ソースは、非レトルト品であるため、レトルト臭を抑制でき、喫食時まで調理ソース本来の香りや風味を維持させることができる。また、本発明の調理ソースは、揮発性の高い酢酸によって、喫食時に調理ソース本来の香りが十分に感じられるとともに、ソルビン酸塩又はエタノールによって、酢酸の酸味等が抑えられ、手作りのようなまろやかな風味が感じられるものである。
【0011】
<調理ソース>
本発明の調理ソースとは、他の食品に添加すること、あるいは調理に用いられることが可能な液状又はペースト状の調味料をいう。本発明の調理ソースは、例えば、カレーソース、トマトソース、デミグラスソース、ホワイトソース、ミートソース、クリームソース、バジルソース、コリアンダーソース、その他のソース類であるとよく、好ましくはカレーソースであるとよい。本発明のカレーソースは、手作りのような風味を有するとともに、喫食者に、スパイシーで食欲をそそるカレー特有の香りを強く感じさせることができる。
なお、本明細書において、「調理ソース本来の香り」とは、手作りの当該調理ソースから感じられるような香りをいい、「調理ソース本来の風味」とは、手作りの当該調理ソースから感じられるような風味をいうものとする。
【0012】
<非レトルト品>
本発明の調理ソースは、非レトルト品である。非レトルト品とは、レトルト処理が行われていない食品をいう。レトルト処理とは、耐熱性容器に充填及び密封された食品を、加熱及び加圧により殺菌する処理をいう。本発明の調理ソースは、レトルト処理を行っていないため、レトルト食品に特有のレトルト臭の発生を抑制でき、香り成分の変性を防止することができる。これにより、本発明の調理ソースは、喫食者に、調理ソース本来の良好な香りや風味を感じさせることができる。
【0013】
<酢酸>
本発明の調理ソースが含有する酢酸は、食用として供されるものであれば特に限定されない。例えば、本発明の酢酸としては、食酢、醸造酢、ワインビネガー、氷酢酸等の食品及び食品製造の際に一般的に使用される酢酸含有原料を用いることができる。
【0014】
<酢酸の含有量>
本発明の酢酸の含有量は、0.03質量%以上0.30質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上0.30質量%以下とすることができ、より好ましくは0.06質量%以上0.13質量%以下とすることができる。
酢酸の含有量を0.03質量%以上とすることで、喫食時に温かい調理ソースから酢酸を揮発させ、これに伴って調理ソース自体の香り成分の揮発を促すことができる。これにより、喫食者に、調理ソース本来の香りを十分に感じさせることができる。
酢酸の含有量を0.30質量%以下とすることで、酢酸特有の酸味やえぐ味を抑制し、調理ソース本来の風味が損なわれることを防止できる。
また、酢酸の含有量を0.05質量%以上0.30質量%以下、さらに0.06質量%以上0.13質量%以下とすることで、上記作用効果をより一層高めることができる。
【0015】
<ソルビン酸塩>
本発明の調理ソースが含有するソルビン酸塩は、食品に使用可能なソルビン酸塩であり、例えばソルビン酸カリウム又はソルビン酸カルシウムの少なくとも一方を含んでいるとよい。
【0016】
<ソルビン酸塩の酢酸1質量部に対する含有割合>
本発明の調理ソースがソルビン酸塩を含有する場合、酢酸1質量部に対するソルビン酸塩の含有割合は、0.3質量部以上7.0質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以下4.0質量部以下であり、より好ましくは0.8質量部以上3.0質量部以下である。
上記ソルビン酸塩の含有割合を0.3質量部以上7.0質量部以下とすることで、酢酸による酸味やえぐ味を抑制することができ、まろやかな風味の調理ソースを製することができる。
上記ソルビン酸塩の含有割合を0.4質量部以下4.0質量部以下、さらに0.8質量部以上3.0質量部以下とすることで、酢酸による酸味やえぐ味をより効果的に抑制することができ、よりまろやかな風味の調理ソースを製することができる。
【0017】
<エタノール>
本発明のエタノールとしては、精製されたエタノール、又は食品及び食品製造の際に一般的に使用されるエタノール含有原料を用いることができる。
【0018】
<エタノールの酢酸1質量部に対する含有割合>
本発明の調理ソースがエタノールを含有する場合、酢酸1質量部に対するエタノールの含有割合は、5質量部以上80質量部以下であり、好ましくは12質量部以上60質量部以下である。
上記エタノールの含有割合を5質量部以上とすることで、酢酸による酸味やえぐ味をエタノールの甘味や深みのある風味等によって抑制することができ、まろやかな風味の調理ソースを製することができる。さらに、上記エタノールの含有割合を5質量部以上とすることで、喫食時に温かい調理ソースからエタノールが揮発し、これに伴って調理ソース自体の香り成分の揮発が促され、喫食者に調理ソース本来の香りをより強く感じさせることができる。
上記エタノールの含有割合を80質量部以下とすることで、調理ソースからエタノールの風味が過度に感じられることを抑制できる。
上記エタノールの含有割合を12質量部以上60質量部以下とすることで、上記作用効果をより一層高めることができる。
【0019】
<ソルビン酸塩及びエタノールの双方を含む調理ソース>
本発明の調理ソースは、ソルビン酸塩又はエタノールの少なくとも一方を含んでいればよく、ソルビン酸塩及びエタノールの双方を含んでいてもよい。この場合の調理ソースは、(a)酢酸1質量部に対するソルビン酸塩の含有割合が0.3質量部以上7.0質量部以下であるという条件、又は(b)酢酸1質量部に対するエタノールの含有割合が5質量部以上80質量部以下であるという条件、のうちの少なくとも一方の条件を満たしていればよい。これにより、酢酸による酸味やえぐ味が効果的に抑制される。
【0020】
<食用油脂>
本発明の調理ソースは、さらに食用油脂を含有するとよい。当該食用油脂としては、例えば、動植物油及びこれらの精製油、化学的又は酵素的処理を施して得られた油脂等が挙げられる。動植物油としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、卵黄油等が挙げられる。化学的又は酵素的処理を施して得られた油脂としては、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等が挙げられる。このような食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
<食用油脂の含有量>
本発明の食用油脂の含有量は、3質量%以上20質量%以下であるとよい。
上記食用油脂の含有量を3質量%以上とすることで、調理ソースに食用油脂特有の深みのある風味を付与するとともに、調理ソースのまろやかさを助長させることができる。
上記食用油脂の含有量を20質量%以下とすることで、調理ソースの香り成分の揮発性を良好にすることができ、喫食者に調理ソース本来の香りを十分に感じさせることができる。
【0022】
<卵黄/乳化性澱粉>
本発明の調理ソースは、さらに、卵黄又は乳化性澱粉の少なくとも一方を含有しているとよい。卵黄又は乳化性澱粉は、ソルビン酸塩又はエタノールと協働し、酢酸の酸味やえぐ味をさらに抑制させ、調理ソースのまろやかさを高めることができる。
本発明の調理ソースは、好ましくは卵黄を含有しているとよい。これにより、調理ソースの酢酸の酸味やえぐ味を効果的に抑制できるとともに、調理ソースに卵黄特有の深みのある風味を付与することができ、より良好な風味の調理ソースを製することができる。特に、本発明の調理ソースがカレーソースの場合、当該カレーソースに卵黄を含有させることで、カレールーやカレー粉由来のスパイシーさと卵黄のまろやかさとが重なり合い、より深い味わいのカレーソースを製することができる。
【0023】
<卵黄>
本発明の卵黄としては、一般的に流通している卵黄であればいずれのものでもよく、例えば生卵黄(液卵黄)、又は生卵黄に所定の処理を行ったもの等が挙げられる。所定の処理の例としては、食塩や糖分等の添加、ストレーナー等によるろ過処理、低温殺菌等の殺菌処理、冷凍及び解凍、乾燥及び水戻し、脱糖処理等が挙げられる。これらの処理は、一種のみ行ってもよいし、二種以上を組み合わせて行ってもよい。なお、液卵黄とは、鶏等の鳥類の卵を割卵し卵白を分離したものをいい、割卵及び分離後、所定期間冷蔵保存したもの及び凍結後解凍させたものを含むものとする。
【0024】
<卵黄の含有量>
本発明の卵黄の含有量は、例えば0.01質量%以上10質量%であるとよく、好ましくは0.1質量%以上1質量%以下であるとよい。
卵黄の含有量を上記範囲とすることで、卵黄特有のまろやかさによってソルビン酸塩又はエタノールとともに酢酸の酸味やえぐ味をさらに抑制できるとともに、調理ソースに深い風味を付与することができる。なお、卵黄の含有量は、卵黄が未加工の生の状態における濃度(生換算)とする。
【0025】
<乳化性澱粉>
本発明の乳化性澱粉としては、食用であり乳化性を有する澱粉を用いることができ、例えば乳化性を有する加工澱粉を用いることができる。本発明の乳化性澱粉は、好ましくはオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムであるとよい。これにより、酢酸の酸味やえぐ味をより効果的に抑制し、調理ソースのまろやかさをさらに高めることができる。
本発明の乳化性澱粉の含有量は、例えば0.01質量%以上10質量%以下であるとよく、好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下であるとよい。
【0026】
<調理ソースの粘度>
本発明の調理ソースの粘度は、0.1Pa・s以上250Pa・s以下であるとよく、好ましくは50Pa・s以上150Pa・s以下であるとよい。これにより、調理ソースの粘性を、喫食者がまろやかさを感じやすい粘性に調整することができる。
本発明の粘度は、BH型粘度計を使用し、品温25℃、回転数2rpm、ロータNo.5の条件で測定した粘度であって、測定開始後ロータが2回転したときの示度により算出した値である。
【0027】
<調理ソースのpH>
本発明の調理ソースのpHは、3以上6以下であるとよく、好ましくは3.5以上5.5以下であるとよい。調理ソースのpHを上記範囲とすることで、酸味が抑えられ、調理ソースの風味をまろやかにし易くするとともに、保存性を高めることができる。
本発明の調理ソースのpHの値は、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(例えば株式会社堀場製作所製 卓上型pHメータF−72)を用いて測定した値である。
【0028】
<調理ソースの水分活性>
本発明の調理ソースの水分活性(Aw)は、0.80以上0.95以下であるとよく、好ましくは0.85以上0.95以下であるとよい。これにより、本発明の調理ソースは、非レトルト品であっても保存性を高めることができるとともに、調理ソース本来の風味を維持しやすくなる。
【0029】
<調理ソースのその他の原料>
本発明の調理ソースは、上述の原料の他、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜選択された原料を含有することができる。具体的には、本発明の調理ソースは、調味料、香辛料、増粘剤、各種エキス、着色料、香料、各種アミノ酸、各種ビタミン、各種ミネラル、その他の添加物を含有することができる。調味料としては、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、醤油、魚醤等が挙げられる。香辛料としては、胡椒、クミン、ターメリック、コリアンダー、フェネグリーク、オールスパイス、シナモン、カルダモン、クローブ、フェンネル、ジンジャー、ニンニク等が挙げられる。増粘剤としては、加工澱粉、未加工澱粉、ガム質、ペクチン等が挙げられる。加工澱粉としては、例えば、湿熱処理澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉等が挙げられる。未加工澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ等が挙げられる。ガム質としては、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、タラガム、グアガム、アラビアガム、タマリンドガム、サイリュームシードガム等が挙げられる。
【0030】
<調理ソースの製造方法>
本発明の調理ソースの製造方法は、原料を混合した混合物を得る工程と、混合物を加熱する工程と、を含む。さらに、調理ソースの製造方法は、好ましくは、混合物を得た後であって加熱前に、当該混合物を耐熱性容器に加えて密封する工程を含んでいるとよい。
【0031】
<混合物を得る工程>
本工程では、酢酸と、食用油脂と、ソルビン酸塩又はエタノールと、必要に応じてその他の原料を常法にしたがって均一に混合し、混合物を得ることができる。混合物中の各原料の割合は、上記調理ソースを得ることができれば特に限定されない。例えば、酢酸の含有量は、好ましくは0.03質量%以上0.30質量%以下である。食用油脂の含有量は、好ましくは3質量%以上20質量%以下である。調理ソースがソルビン酸塩を含有する場合、例えば、酢酸1質量部に対するソルビン酸塩の含有割合は、0.3質量部以上7.0質量部以下である。調理ソースがエタノールを含有する場合、例えば、酢酸1質量部に対するエタノールの含有割合は、5質量部以上80質量部以下である。
また、混合物には、上記各原料に加え、所定量の水が加えられてもよい。
本発明の混合物は、各原料を均一に混合する観点から、例えば、ニーダー、ミキサー等の一般的な撹拌機を用いて攪拌されるとよい。
【0032】
<混合物を耐熱性容器に加える工程>
本工程では、混合物を耐熱性容器に加えて密封する。耐熱性容器としては、後述する加熱工程における耐熱性を有していれば特に限定されず、例えば耐熱性パウチが挙げられる。混合物を含む耐熱性容器を密封することで、加熱工程における酢酸やエタノールの揮発を抑制することができる。したがって、喫食時において、酢酸が揮発して調理ソース本来の香り成分を揮発させる作用や、エタノールが酢酸の酸味を抑制する作用等を十分に発揮させることができる。
【0033】
<加熱工程>
本工程では、例えば耐熱性容器に密封された混合物を、常法にしたがって70〜100℃で加熱する。これにより、本発明の調理ソースが製される。
【0034】
<本発明の作用効果>
本発明の調理ソースは、非レトルト品であるため、レトルト臭の発生を抑制でき、調理ソース本来の風味と香りを喫食時まで維持させることができる。
上記調理ソースが0.03質量%以上0.30質量%以下の酢酸を含有することで、喫食時に温めた調理ソースから、レトルト処理されないことで維持された調理ソース本来の香り成分を、酢酸とともに揮発させることができる。したがって、喫食者に調理ソース本来の香りを強く感じさせることができる。
一方で、酢酸は、特有の酸味やえぐ味を有しており、調理ソース本来の風味を損ねる恐れがある。
そこで、上記調理ソースが酢酸1質量部に対して0.3質量部以上7.0質量部以下のソルビン酸塩を含有することで、意外なことに、酢酸の酸味やえぐ味を抑えることができ、調理ソース本来の、手作りのようなまろやかな風味を引き立たせることができる。
あるいは、上記調理ソースが、ソルビン酸塩に替えて、酢酸1質量部に対して5質量部以上80質量部以下のエタノールを含有することでも、エタノールの甘味等によって酢酸の酸味を抑えることができ、調理ソース本来のまろやかな風味を引き立たせることができる。
さらに、調理ソースが、好ましくは3質量%以上20質量%以下の食用油脂を含有することで、調理ソースのまろやかさを深められるとともに、調理ソースの香り成分の揮発を促すことができる。
以上のように、本発明の調理ソースは、非レトルト品であることに加えて、酢酸、食用油脂、及びソルビン酸塩又はエタノールが協調して作用することで、手作りのようなまろやかな風味を有し、かつ、喫食者に、調理ソース本来の香りを十分に感じさせることができる。
【実施例】
【0035】
<調理ソースの製造>
下記配合表の配合割合に基づいて、調理ソース(カレーソース)を調製した。
具体的には、下記配合表に記載の原料をミキサーへ投入し、5分間攪拌した。その後、耐熱性パウチに混合物を加えて密封し、80℃に到達するまで加熱処理を行うことで、実施例1のカレーソースを得た。
得られた実施例1の酢酸の含有量は0.1%、酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合は1部、食用油脂は12%であった。
【0036】
[配合表]
カレー粉 20%
食塩 2%
増粘剤(加工澱粉、キサンタンガム) 2%
醸造酢 2%(酢酸0.1%含有)
ソルビン酸カリウム 0.1%
食用油脂 12%
卵黄 0.2%
砂糖 15%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0037】
<試験例1>
試験例1として、酢酸の含有量及び酢酸1部に対するソルビン酸塩の含有割合が、調理ソースの風味と喫食時の調理ソース本来の香りの強さに与える影響について検討した。
実施例2〜5及び比較例1〜2のカレーソースを、酢酸及びソルビン酸カリウムの含有量以外は実施例1と同様に製した。実施例2〜5及び比較例1〜2に配合される酢酸及びソルビン酸カリウムの含有量は、表1に示すように調整された。なお、残余は清水で調整された。なお、実施例1〜5のカレーソースの粘度はいずれも50Pa・s以上150Pa・s以下の範囲内であり、pHは3.5以上5.5以下の範囲内であった。
次に、実施例1〜5及び比較例1〜2のカレーソースを食し、下記評価基準により評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[風味の強さの評価基準]
A:手作りのようなまろやかな風味が感じられた
B:Aより劣るが、手作りのようなまろやかな風味が感じられた
C:手作りのようなまろやかな風味が感じられない
[喫食時の香りの強さの評価基準]
A:喫食時に調理ソース本来の香りが強く感じられた
B:Aより劣るが、喫食時に調理ソース本来の香りが感じられた
C:喫食時に調理ソース本来の香りがあまり感じられなかった
【0039】
【表1】
【0040】
[試験例1の結果]
表1に示すように、酢酸が0.03%以上0.30%以下であって、酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が0.3部以上7.0部以下の実施例1〜5のカレーソースは、いずれもA又はB評価であり、良好な風味と香りの強さとを有していた。これにより、酢酸とソルビン酸カリウムが上記範囲で含有されている場合、手作りのようなまろやかな風味が感じられ、かつ喫食時に本来の香りが十分感じられる調理ソースが得られることが確認された。
特に、酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が0.8部以上3.0部以下の実施例1,3のカレーソースは、風味及び香りがともにA評価であって、十分にまろやかな風味が感じられ、かつ喫食時に本来の香りが強く感じられるものであった。これにより、酢酸とソルビン酸カリウムが上記範囲で含有されている場合、特に好ましい調理ソースが得られることが確認された。
一方で、酢酸が0.005%であって酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が10.0部の比較例1、及び酢酸が0.50%であって酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が0.2部の比較例2のカレーソースは、風味又は香りの評価がC評価であった。これにより、酢酸が0.03%以上0.30%以下であって、酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が0.3部以上7.0部以下の条件を満たしていない調理ソースは、十分な風味と香りが得られないことが確認された。
【0041】
<試験例2>
試験例2として、酢酸の含有量及び酢酸1部に対するエタノールの含有割合が、調理ソースの風味と喫食時の調理ソース本来の香りの強さに与える影響について検討した。
実施例6〜10及び比較例3〜4のカレーソースを、酢酸及びエタノールの含有量以外は実施例1と同様に製した。実施例6〜10及び比較例3〜4のカレーソースは、実施例1のソルビン酸カリウムに替えて、エタノールを含有するものとした。実施例6〜10及び比較例3〜4に配合される酢酸及びエタノールの含有量は、表2に示すように調整された。なお、残余は清水で調整された。なお、実施例6〜10のカレーソースの粘度はいずれも50Pa・s以上150Pa・s以下の範囲内であり、pHは3.5以上5.5以下の範囲内であった。
次に、実施例6〜10及び比較例3〜4のカレーソースを食し、試験例1と同様の評価基準により評価した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
[試験例2の結果]
表2に示すように、酢酸が0.03%以上0.30%以下であって、酢酸1部に対するエタノールの含有割合が5部以上80部以下の実施例6〜10のカレーソースは、風味及び香りの評価がA又はB評価であり、いずれも良好な風味と香りの強さとを有していた。これにより、酢酸とエタノールが上記範囲で含有されている場合、手作りのようなまろやかな風味が感じられ、かつ喫食時に本来の香りが十分感じられる調理ソースが得られることが確認された。
特に、酢酸1部に対するエタノールの含有割合が12部以上60部以下の実施例7,8のカレーソースは、非常にまろやかな風味が感じられ、かつ喫食時に本来の香りが強く感じられるものであった。これにより、酢酸とエタノールが上記範囲で含有されている場合、特に好ましい調理ソースが得られることが確認された。
一方で、酢酸が0.005%であって酢酸1部に対するエタノールの含有割合が100部の比較例3、及び酢酸が0.50%であって酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が3部の比較例4のカレーソースは、風味又は香りの評価がC評価であった。これにより、酢酸が0.03%以上0.30%以下であって、酢酸1部に対するエタノールの含有割合が5部以上80部以下の条件を満たしていない調理ソースは、十分な風味と香りが得られないことが確認された。
【0044】
<試験例3>
試験例3として、食用油脂の含有量が調理ソースの風味と喫食時の調理ソース本来の香りの強さに与える影響について検討した。
実施例11〜13のカレーソースを、食用油脂の含有量以外は実施例1と同様に製した。実施例11〜13に配合される食用油脂の含有量は、表3に示すように調整された。また、実施例14のカレーソースを、食用油脂の含有量を40質量%とし、砂糖を5%、卵黄1%とした以外は、実施例1と同様に製した。なお、いずれの実施例においても残余は清水で調整された。実施例11〜14のカレーソースの粘度はいずれも50Pa・s以上150Pa・s以下の範囲内であり、pHは3.5以上5.5以下の範囲内であった。
次に、実施例11〜14のカレーソースを食し、試験例1と同様の評価基準により評価した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
[試験例3の結果]
表3に示すように、酢酸0.10%、酢酸1部に対するソルビン酸カリウムの含有割合が1.0部であって、食用油脂が3%以上20%以下の実施例1,12,13のカレーソースは、十分にまろやかな風味が感じられ、かつ喫食時に本来の香りが強く感じられるものであった。これにより、食用油脂が上記範囲で含有されている場合、特に好ましい調理ソースが得られることが確認された。
【0047】
<試験例4>
試験例4として、ソルビン酸塩の種類が、調理ソースの風味と喫食時の調理ソース本来の香りの強さに与える影響について検討した。
実施例15のカレーソースを、ソルビン酸塩をソルビン酸カルシウムとした以外は実施例1と同様に製した。実施例15のカレーソースの粘度及びpHはいずれも実施例1と同等であった。
次に、実施例15のカレーソースを食し、試験例1と同様の評価基準により評価した。
その結果、実施例15のカレーソースも、実施例1のカレーソースと同様に、十分にまろやかな風味が感じられ、かつ喫食時に本来の香りが強く感じられるものであった。これにより、ソルビン酸塩の種類をソルビン酸カルシウムに変更した場合も、ソルビン酸カリウムを用いた場合と同等の効果が得られることが確認された。
【要約】
【課題】手作りのようなまろやかな風味を有し、かつ本来の香りを十分に感じさせることができる調理ソースを提供する。
【解決手段】本発明の調理ソースは、非レトルト品であって、酢酸と、食用油脂と、ソルビン酸塩又はエタノールと、を含有することを特徴とする。前記酢酸が0.03質量%以上0.30質量%以下である。前記調理ソースが前記ソルビン酸塩を含有する場合、前記酢酸1質量部に対する前記ソルビン酸塩の含有割合が0.3質量部以上7.0質量部以下である。前記調理ソースが前記エタノールを含有する場合、前記酢酸1質量部に対する前記エタノールの含有割合が5質量部以上80質量部以下である。
【選択図】なし