(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を観察した際にB、C、Mo、W、Cu、Niの単体もしくは化合物の結晶構造が観察され、窒化珪素結晶粒子は粒界相で覆われており、さらに窒化珪素結晶粒子同士の界面の粒界界面の最小厚みが0.2nm以上3.4nm以下であり、単位面積20μm×20μmあたりにおいて、長径が2.0μm以上の窒化珪素粒子はアスペクト比2以上の割合が90%以上であることを特徴とする窒化珪素焼結体。
断面を観察した際に、C単体のグラファイト構造が観察され、そのグラフェン層間距離が3.25〜3.35オングストロームの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素焼結体。
窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を撮影したとき、単位面積20μm×20μmあたりに、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物が少なくとも1個以上存在しており、それらの最大長さが10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体。
粒界相に、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種の4A族元素を含む粒子が存在し、当該粒子の長径が2μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体。
窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を撮影したとき、単位面積20μm×20μmあたりに、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種の4A族元素を含む粒子が少なくとも1個以上存在することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態に係る窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を観察した際にB、C、Mo、W、Cu、Niの単体もしくは化合物の結晶構造が観察され、さらに窒化珪素結晶粒子同士の界面の粒界界面の最小厚みが0.2nm以上であることを特徴とするものである。また、窒化珪素結晶粒子同士の界面の粒界界面の最小厚みは5nm以下であることが好ましい。
窒化珪素焼結体は、窒化珪素粉と焼結助剤粉を混合して焼結して製造される。焼結工程を行うことにより、焼結助剤粉は粒界相となる。実施形態にかかる窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶粒子同士の界面の粒界界面の最小厚みが0.2nm以上となっていることを特徴とする。窒化珪素結晶粒子同士の界面の粒界界面の最小厚みとは、窒化珪素結晶粒子の2粒子界面の粒界相の厚さのことである。窒化珪素結晶粒子の2粒子界面に所定厚さの粒界相が存在するということは、個々の窒化珪素結晶粒子の表面が粒界相で覆われた状態となっていることを示す。なお、窒化珪素焼結体の表面に存在する窒化珪素結晶粒子においては粒界相で覆われていなくてもよい。言い換えれば、窒化珪素焼結体の任意の断面において、すべての窒化珪素結晶粒子は粒界相で覆われていることを特徴とするものである。
【0008】
窒化珪素結晶粒子を粒界相で覆うことにより、高温環境下での耐久性が向上する。窒化珪素結晶粒子が粒界相で覆われていないということは窒化珪素結晶粒子同士が直接接している状態、粒界相が欠落してポアとなる状態を示す。実施形態のように、窒化珪素結晶粒子同士の界面の粒界界面の最小厚みが0.2nm以上とすることにより、粒界相を介して窒化珪素結晶粒子を強固に接合できる。粒界相の幅が0.2nm未満では強固な接合が得られない。一方、あまり粒界相の幅が厚いと、厚い粒界相が破壊起点となり強度が低下するおそれがある。そのため、粒界相の幅は0.2〜5nm、さらには0.5〜2nmの範囲であることが好ましい。窒化珪素結晶粒子の2粒子間を0.2〜5nmと薄い粒界相で結合することにより、粒界相が破壊起点とならずに強度を向上させることができる。特に、高温でのビッカース硬度を高くすることができる。
【0009】
なお、粒界相の幅の測定方法は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により行うものとする。窒化珪素焼結体の任意の断面をSTEM観察(拡大写真を撮影)する。拡大写真にて窒化珪素結晶粒子の2粒子間で最も接近している箇所の粒界部分のインテンシティプロファイルを求める。これにより粒界相の幅を求めることができる。
【0010】
実施形態にかかる窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶粒子の2粒子間の粒界相の幅が0.2nm以上となっている。言い換えると、窒化珪素結晶粒子の2粒子間の最短距離が0.2nm以上になっていることを示している。また、粒界相の幅が0.2〜5nmとなっているということは、窒化珪素結晶粒子の2粒子間の最短距離が0.2〜5nmの範囲になっていることを示す。
【0011】
また、窒化珪素焼結体の任意の断面を観察した際にB、C、Mo、W、Cu、Niの単体もしくは化合物の結晶構造が観察されることが必要である。B(ホウ素)、C(炭素)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)の単体またはその化合物は、粒界相の強化に機能する。また、固体潤滑性や高温での安定性がある。そのため、常温のみならず高温での耐磨耗性が向上する。
また、B化合物としては、炭化ホウ素(BC)、窒化ホウ素(BN)などが挙げられる。また、C化合物としては、炭化けい素(SiC)、炭化ホウ素(BC)、炭化モリブデン(Mo
2C)、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)などが挙げられる。また、炭窒化チタン(TiCN)などの金属炭窒化物も挙げられる。また、Mo化合物としては、炭化モリブデン(Mo
2C)などが挙げられる。また、W化合物としては、炭化タングステン(WC)などが挙げられる。また、Cu化合物としては、硫化銅(Cu
2S)などが挙げられる。また、Ni化合物としては、硫化ニッケル(NiS、NiS
2、Ni
3S
2、Ni
3S
4)などが挙げられる。
【0012】
B、C、Mo、W、Cu、Niの単体もしくは化合物の結晶構造の中ではC単体が好ましい。また、C単体にグラファイト構造が観察され、そのグラフェン層間距離が3.25〜3.35オングストローム(Å)であることが好ましい。グラフェンとは炭素の同素体の一種である。炭素原子1個分の厚さしかない平面状の物質であり、炭素原子のsp
2結合によって形成されたハチの巣状の結晶格子で構成されているものである。このハチの巣状の結晶格子をグラフェンシートと呼ぶ。グラフェン層間距離とは、グラフェンシートが積層構造をとったときの層間距離のことを示す。グラファイトは、このグラフェン層間距離の理論値が3.30オングストロームである。グラフェン層間距離が3.25〜3.35オングストロームの範囲であるということは、窒化珪素焼結体内に存在するC単体が理論値に近いグラファイトであることを示す。また、C単体としては、その他としてアモルファス炭素が挙げられる。実施形態に係る窒化珪素焼結体はグラファイトが存在していれば、アモルファス炭素や金属炭化物が含有されていても良い。
【0013】
炭素、特にグラファイトは固体潤滑性が高い。さらに高温下での安定性がある。そのため、粒界にグラファイトを存在させることにより、耐磨耗性を向上させることができる。
また、B、C、Mo、W、Cu、Niの単体もしくは化合物の結晶構造の存在の有無はXRD分析、TEM分析、ラマン光分析のいずれかで行うことができる。
また、窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を撮影したとき、単位面積20μm×20μmあたりに、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物が少なくとも1個以上存在しており、それらの最大長さが10μm以下であることが好ましい。
単位面積20μm×20μmと微小な領域においてB、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の少なくとも1種を1個以上存在させることにより、耐磨耗性の部分的なバラツキを低減させることができる。また、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の最大長さは10μmを超えて大きいと、部分的な耐磨耗性のバラツキの原因となるおそれがある。そのため、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の最大長さは10μm以下、さらには3μm以下と小さいことが好ましい。
また、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の最大長さが5nm以下の場合は、窒化珪素結晶粒子同士の2粒子間の粒界に存在することが好ましい。また、最大長さが5nmを超える場合は化珪素結晶粒子同士の3粒子間の粒界(3重点)に存在することが好ましい。
また、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物は単位面積20μm×20μmあたりの存在個数は30個以下が好ましい。存在個数が10個を超えて多いと、窒化珪素結晶粒子の割合が少なくなるので耐磨耗性が低下するおそれがある。
【0014】
また、粒界相に、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種の4A族元素を含む粒子が存在し、当該粒子の長径が2μm以下であることが好ましい。また、窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を撮影したとき、単位面積20μm×20μmあたりに、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種の4A族元素を含む粒子が少なくとも1個以上存在することが好ましい。
Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)から選ばれる1種の元素を含む粒子は、粒界相を強化する粒子となる。4A族との表記は日本の周期律表に基づくものである。
Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)から選ばれる1種の元素を含む粒子の長径が2μmを超えて大きいと、窒化珪素結晶粒子同士の距離が大きくなりすぎるおそれがある。また、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)から選ばれる1種の元素を含む粒子は、窒化珪素結晶粒子同士の3重点に存在することが好ましい。また、単位面積20μm×20μmあたりの存在個数の上限は10個以下が好ましい。また、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種の元素を含む粒子としては、Ti、Zr、Hfの窒化物、炭化物、酸化物が挙げられる。
【0015】
また、窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面に対しラマン光分析を実施したとき、単位面積20μm×20μmあたりに、2690〜2720cm
−1、1570〜1600cm
−1、780〜810cm
−1の範囲の中で2ヶ所以上にピークが検出されることが好ましい。より好ましくは、それぞれ3つのピークが検出されることである。
2690〜2720cm
−1に検出されるピークはグラフェンの存在を示すG’−bandである。また、1570〜1600cm
−1に検出されるピークはグラファイトの存在を示すG−bandである。また、780〜810cm
−1に検出されるピークはSi−C伸縮振動を示すものである。Si−C伸縮振動が検出されるということはSiCが存在することを示すものである。このため、2690〜2720cm
−1、1570〜1600cm
−1、780〜810cm
−1の範囲にそれぞれピークが検出されるということは、グラフェン、グラファイト、SiCがそれぞれ存在することを示す。単位面積20μm×20μmと微小な領域でグラフェン、グラファイト、SiCを存在させることにより高温強度をより高めることができる。
【0016】
ラマン光分析条件は、顕微レーザ−ラマン分光分析法を用い、励起レーザー波長532nm、対物レンズ100倍、検出器CCD、マッピング領域20μm×20μm、測定ピッチ1μmである。また、測定装置はThermo Fishier Scientific社製Almegaが挙げられる。
また、単位面積20μm×20μmをラマン光分析したとき、2690〜2720cm
−1、1570〜1600cm
−1、780〜810cm
−1の範囲にそれぞれピークされるとき、同じ位置から3つのピークが検出されてもよし、それぞれ別々の位置から検出されても良い。同じ位置であるということは、前述のように測定ピッチ1μm(測定スポット1μm×1μm)にしたときに3つのピークが検出されることを示す。ピークの検出位置としては、2690〜2720cm
−1のピークまたは1570〜1600cm
−1のピークが検出される位置と、780〜810cm
−1のピークが検出される位置が異なる方が好ましい。これは単位面積1μm×1μm(測定スポット1μm×1μm)で見たときにSiCとグラファイトまたはグラフェンが同じ領域にないことを示している。これにより、グラフェン、グラファイト、SiCのそれぞれの特性を活かすことができる。
【0017】
また、前記窒化珪素は、窒化珪素結晶粒子と粒界相を具備する窒化珪素焼結体の任意の断面を撮影したとき、単位面積20μm×20μmあたりにおいて、長径が2.0μm以上の窒化珪素結晶粒子を観察したとき、アスペクト比2以上の窒化珪素粒子が90%以上であることが好ましい。なお、アスペクト比2以上の窒化珪素粒子の割合は面積比で求めるものとする。このような組織構造とすることにより、強度特性と耐薬品性を兼ね備えた窒化珪素焼結体を提供することが可能である。アスペクト比2以上の割合が90%未満では強度、特に破壊靭性値が低下する。
また、長径と短径の平均値を粒径と定義したとき、粒径が2.0μm以下の窒化珪素粒子が、窒化珪素粒子全体の合計面積に対して面積比で70%以上であることが望ましい。微細かつアスペクト比が大きい粒子を主構成とすることで、材料強度と耐摩耗性の向上が可能である。粒径が2.0μm以下の窒化珪素粒子が、窒化珪素粒子全体の合計面積に対して面積比で70%以下であるとき、応力集中時に粒子の脱粒が起こりやすくなり、結果として耐摩耗性が不十分となる。
【0018】
実施形態にかかる窒化珪素焼結体は、室温でのビッカース硬度Hvが1450以上であることが好ましい。また、300℃でのビッカース硬度Hvが1350以上であることが好ましい。また、1000 ℃でのビッカース硬度Hvが850以上であることが好ましい。実施形態にかかる窒化珪素焼結体は、粒界相の幅を制御しているので使用環境が300℃以上の高温下になったとしても高い硬度を維持することができる。
また、ビッカース硬度の測定はJIS−R−1610に基づいて行うものとする。また、試験力は9.807Nで行うものとする。
また、動摩擦係数を小さくすることもできる。質量をもった物体が動いているとき、その物体の進行方向と逆向きに働く力を動摩擦力(Dynamic Friction Force)という。動摩擦係数が小さいというということは、進行方向と逆向きに働く力が小さいため、自己潤滑性を有することが分かる。このため、耐磨耗性が向上する。
【0019】
また、窒化珪素焼結体は添加成分を15質量%以下含有することが好ましい。添加成分とは、窒化珪素以外の成分を示す。窒化珪素焼結体では、窒化珪素以外の添加成分とは焼結助剤成分を示す。焼結助剤成分は粒界相を構成するものである。添加成分が15質量%を超えて多いと粒界相が多くなりすぎる。粒界相が多くなると粒界相の幅を0.2〜5nmの範囲に制御し難くなる。
また、窒化珪素焼結体は、細長い β−窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとっている。焼結助剤成分が多くなると窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとれない部分ができてしまうため望ましくない。
また、添加成分は3質量%以上12.5質量%以下が好ましい。さらに添加成分は5質量%以上12.5質量%以下が好ましい。添加成分が3質量%未満では、粒界相が少なすぎて窒化珪素焼結体の密度が低下するおそれがある。添加成分を3質量%以上にしておけば、相対密度が95%以上にし易くなる。また、添加成分を5質量%以上にすることにより、相対密度を98%以上にし易くなる。
【0020】
また、添加成分は、B、C、Mo、W、Cu、Niの単体または化合物の1種以上を7質量%以下であることが好ましい。また、焼結工程にてB、C、Mo、W、Cu、Niの単体または化合物になる前駆体を添加してもよい。
また、Ti、Zr、Hfまたはその化合物を添加する場合は、5質量%以下であることが好ましい。また、焼結工程にてTi、Zr、Hfまたはその化合物になる前駆体を添加してもよい。
また、それ以外の添加成分としては、希土類元素、アルミニウム、マグネシウムまたはその化合物が挙げられる。また、希土類元素としては、イットリウムが好ましい。また、添加量としては、前述の成分と合計して15質量%以下になるようにする。また、添加の形態としては、酸化物(複合酸化物含む)、窒化物(複合窒化物含む)、酸窒化物(複合酸窒化物含む)、炭化物(複合炭化物含む)などが挙げられる。
【0021】
また、後述するように、製造工程において焼結助剤として添加する場合は、酸化物(複合酸化物含む)、窒化物(複合窒化物含む)、炭化物(複合炭化物)が好ましい。Y元素の場合、酸化イットリウム(Y
2O
3)が好ましい。Al元素の場合、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)、MgO・Al
2O
3スピネルが好ましい。Mg元素の場合、酸化マグネシウム(MgO)、MgO・Al
2O
3スピネルが好ましい。Si元素の場合、酸化けい素(SiO
2)、炭化けい素(SiC)が好ましい。Ti元素の場合、酸化チタン(TiO
2)、窒化チタン(TiN)が好ましい。また、Hf元素の場合、酸化ハフニウム(HfO
2)が好ましい。Mo元素の場合、酸化モリブデン(MoO
2)炭化モリブデン(Mo
2C)が好ましい。C元素に関しては、炭化けい素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)として添加することが好ましい。
【0022】
また、これら焼結助剤の組合せは、粒界相に固溶体や結晶化合物を形成することができる。固溶体や結晶化合物を形成させると高温での耐久性が向上する。
また、製造工程において添加する焼結助剤の組合せとしては、次に示す組合せが好ましい。
【0023】
まず、第一の組合せとしては、MgOを0.1〜1.7質量%、Al
2O
3を0.1〜4.3質量%SiCを0.1〜10質量%、SiO
2を0.1〜2質量%、添加するものである。これにより、Mg、Al、Si、Cの4種を添加剤分として含有することになる。なお、MgOとAl
2O
3を添加する場合、MgO・Al
2O
3スピネルとして0.2〜6質量%添加しても良い。
また、第一の組合せに、TiO
2を0.1〜2質量%追加してもよい。第一の組合せにTiO
2を添加することにより、Mg、Al、Si、C、Tiの5種を添加剤分として含有することになる。
【0024】
また、第二の組合せとしては、Y
2O
3を0.2〜3質量%、MgO・Al
2O
3スピネルを0.5〜5質量%、AlNを2〜6質量%、HfO
2を0.5〜3質量%、Mo
2Cを0.1〜3質量%、添加するものである。第二の組合せは、添加成分として、Y、Mg、Al、Hf、Mo、Cの6種類を添加するものである。
【0025】
また、第三の組合せとしては、Y
2O
3を2〜7質量%、AlNを3〜7質量%、HfO
2を0.5〜4質量%、添加するものである。これにより、添加成分をY、Al、Hfの3種とするものである。
【0026】
また、上記第一ないし第三の組合せにおいて、焼結助剤成分の含有量の上限は合計で15質量%以下とする。
上記第一ないし第三の組合せは、いずれもY
2O
3とAl
2O
3を添加する組合せを使用していないことである。第一の組合せはY
2O
3を使用していない。また、第二の組合せは、MgO・Al
2O
3スピネルとして添加している。また、第三の組合せはAl
2O
3を使用していない。Y
2O
3とAl
2O
3の組合せは焼結すると、YAG(Al
5Y
3O
12)、YAM(Al
2Y
4O
9)、YAL(AlYO
3)といったイットリウムアルミニウム酸化物が形成され易い。
【0027】
また、焼結工程は、1600〜1950℃で行うことが好ましい。また、常圧焼結、雰囲気加圧焼結、HIPなど様々な焼結方法を用いることができる。また、これら焼結方法を組み合わせても良い。
また、C単体を形成する場合、金属炭化物として添加したものを焼結工程の一部また焼結工程後にて還元する方法が有効である。このような方法であれば、最大径2μm以下、さらには5nm以下の微小なC単体を形成することができる。
【0028】
また、上記添加成分は焼結助剤としての役目も優れている。そのため、 β型窒化珪素結晶粒子のアスペクト比2以上の割合を60%以上と高くすることができる。なお、アスペクト比2以上の割合は、窒化珪素焼結体の任意の断面をSEM観察して拡大写真(3000倍以上)を撮影する。拡大写真に写る窒化珪素結晶粒子の長径と短径を測定し、アスペクト比を求める。単位面積50μm×50μmあたりのアスペクト比2以上の窒化珪素結晶粒子の面積比(%)を求めるものとする。
また、同様の断面において、長径と短径の平均を粒径と定義したとき、粒径が2μm以上の窒化珪素粒子が窒化珪素粒子全体に占める個数割合が35%以上と高い値にすることが出来る。なお、個数割合の上限は55%以下が好ましい。あまり大きな粒子ばかりであると粒界相の幅の制御が困難になる。
以上のような窒化珪素焼結体は、前述のビッカース硬度のみならず、破壊靭性および3点曲げ強度も向上させることができる。破壊靭性値は6.0MPa・m
1/2以上、3点曲げ強度は900MPa以上とすることができる。なお、破壊靭性値はJIS−R−1607のIF法に基づき、新原の式により求めた値である。また、3点曲げ強度はJISR−1601に基づいた値である。
【0029】
以上のような窒化珪素焼結体は、高温耐久性部材に好適である。実施形態にかかる窒化珪素焼結体は高温環境下でのビッカース硬度が高いため、使用環境が300℃以上になるものに好適である。このような分野として、ベアリングボール、圧延ロール、摩擦攪拌接合用ツール、熱間工具、ヒータのいずれか1種が挙げられる。
【0030】
図1にベアリングボールの一例を示した。
図1中、1はベアリングボール、2は摩擦面である。ベアリングボール1は球体であるため、球体表面全体が摩擦面2となる。ベアリングボール1が窒化珪素焼結体となる。高温での耐久性を向上させてあるので、高温環境下の軸受に適用できる。また、高速回転に伴い摩擦熱が高温になったとしても、優れた耐久性を得ることができる。
【0031】
また、
図2には圧延ロールの一例を示した。図中、3は圧延ロール、2は摩擦面である。圧延ロールは円柱形状である。円柱形状のロール表面が摩擦面2となる。圧延ロールは常温加工や熱間加工など様々な使用環境に適用される。実施形態に圧延ロール3は摩擦面2が窒化珪素焼結体からなるものである。窒化珪素焼結体の高温での耐久性を向上させてあるので、300℃以上の熱間加工用圧延ロールに用いることができる。
【0032】
また、
図3には、摩擦攪拌接合用ツールの一例を示した。図中、4は摩擦攪拌接合用ツール、2は摩擦面である。摩擦攪拌接合用ツール4の摩擦面2は窒化珪素焼結体からなるものである。
図3では円柱形状を例示したが、球体、凸形状などが適用できる。
また、摩擦攪拌接合装置は、被接合材の接合時間を短縮、かつ生産効率を上げるために接合ツール部材を回転速度500rpm以上、押込荷重5kN以上で使用することが望まれる。また、摩擦熱により摩擦面の温度が800℃以上の高温環境になる。窒化珪素焼結体の高温での耐久性を向上させてあるので、接合ツールとしての耐久性が向上する。
上記以外にも、熱間工具、ヒータ用基板など使用環境が300℃以上の高温耐久性部材に好適である。
【0033】
また、摩擦面2は表面粗さRaが5μm以下であることが好ましい。摩擦面の表面粗さRaを小さくすることにより、ベアリングボールや摩擦攪拌接合用ツールのように 摺動させる部材の特性を向上させることができる。
【0034】
次に、窒化珪素焼結体の製造方法について説明する。実施形態にかかる窒化珪素焼結体は上記構成を有していれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、効率的に得るための方法として次の方法が挙げられる。
粒界相の幅を0.2nm以上、さらには0.2〜5nmに制御するためには原料粉末の調製が重要である。
まず、窒化珪素粉末としては、平均粒径2μm以下、α化率90%以上、不純物酸素含有量2wt%以下のものを用意する。
【0035】
第一の方法は、添加する焼結助剤粉末を平均粒径1 μm以下、さらには0.5μm以下と小さくすることが好ましい。また、焼結助剤粉末の平均粒径の標準偏差を0.2μm以下とすることが好ましい。平均粒径や標準偏差の制御は、ボールミルやジェットミルによる微細化、ふるい分けなどを用いることが好ましい。このような焼結助剤粉末と窒化珪素粉末を混合して原料粉末とする。焼結助剤は焼結工程にて粒界相になる。焼結助剤粉末を小さく、均一な粒径にしたものを用いることにより、薄い粒界相を形成することができる。
【0036】
第二の方法は、第一の方法で調製した原料粉末(窒化珪素粉末と焼結助剤粉末を混合したもの)を造粒して造粒粉を作製する工程を行うことである。予め造粒粉とすることにより、窒化珪素粉末の周囲に焼結助剤粉末が均一に存在している状態とすることができる。これにより、薄い粒界相を形成することができる。
【0037】
第三の方法は、第二の方法で調製した造粒粉に熱処理を行う方法である。造粒粉に熱処理を加えることにより、薄い粒界相を形成した上で、粒界相に固溶体や結晶化合物を形成することができる。また、熱処理温度は300〜900℃の範囲であることが好ましい。熱処理としては、加熱処理、プラズマ処理、レーザ処理などが挙げられる。また、熱処理は、真空中、不活性雰囲気中が好ましい。また、熱処理温度が900℃を超えると、焼結工程で緻密な焼結体を得難くなる。
【0038】
次に、原料粉末に有機バインダを添加し、成型する工程を行う。成型工程は、目的とするプローブ形状を有する金型を用いることが好ましい。また、成型工程に関しては、金型成型やCIPなどを用いても良い。
次に、成型工程で得られた成形体を脱脂する。脱脂工程は、窒素中400〜800℃で行うことが好ましい。
次に、脱脂工程で得られた脱脂体を焼結する。焼結工程は、1600℃以上で行うものとする。焼結工程は、不活性雰囲気中または真空中が好ましい。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気が挙げられる。また、焼結工程は、常圧焼結、加圧焼結、HIPが挙げられる。また、複数種類の焼結方法を組合せてもよい。
【0039】
また、C単体を形成する場合、金属炭化物として添加したものを焼結工程の一部また焼結工程後にて還元する方法が有効である。このような方法であれば、最大径2μm以下、さらには5nm以下の微小なC単体を形成することができる。還元工程としては水素雰囲気中が好ましい。また、脱脂体の残炭量を増やして、焼結工程にてC単体にすることも有効である。SiC、グラファイト、グラフェンを存在させるときにはこのような方法が好ましい。
【0040】
得られた焼結体に対し、摩擦面に該当する箇所を研磨加工するものとする。研磨加工により、摩擦面の表面粗さRaを5μm以下、さらには1μm以下にするものとする。研磨加工はダイヤモンド砥石を用いた研磨加工であることが好ましい。
【0041】
(実施例)
(実施例1〜10、比較例1〜
6)
表1、表2に示した窒化珪素粉末、焼結助剤を用意して原料粉末を調製した。なお、焼結助剤の添加量は窒化珪素粉末と焼結助剤の合計量を100wt%としたときの比率である。解砕混合工程はボールミルにより行った。また、窒化珪素粉末は、表1、表2に示したように一部のものには酸化処理を行ったものを用いた。
また、焼結助剤は、Al成分はAl
2O
3粉末またはAlN粉末として添加した。また、Ti成分はTiO
2粉末として添加した。それ以外の成分は金属単体で添加した。
【0044】
得られた原料混合物に樹脂バインダを混合して成型圧力150MPaにて成型工程を行った。得られた成形体に500℃で脱脂工程を行った。得られた脱脂体に対し、1800℃×4時間の常圧焼結、1600℃×20MPa×2時間のHIP処理を行った。この工程により実施例および比較例に係る窒化珪素焼結体を作製した。
各窒化珪素焼結体に対して、任意の断面を切断加工し、単位面積20μm×20μmの拡大写真(SEM写真)を撮影した。拡大写真を使って、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の個数と、4A族元素を含む化合物結晶の個数を求めた。また、長径2.0μm以上の窒化珪素結晶粒子のアスペクト比2以上の個数割合を求めた。SEM写真において窒化珪素結晶粒子の最大径を長径とした。また、(長径+短径)÷2を平均粒径とした。それぞれ単位面積20μm×20μmあたりの個数割合を求めた。また、窒化珪素結晶粒子同士の粒界界面厚み(nm)の測定をTEMにより行った。その結果を表3に示す。
【0046】
実施例1〜10に係る窒化珪素焼結体は、B、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の個数は1〜8個であり、4A族元素化合物の結晶の個数は1〜3個であった。各焼結体に関しては実質的に気孔(ポア)は確認されなかった。また、TEM観察した結果、実施例にかかる窒化珪素焼結体のB、C、Cu、Ni、Mo、Wの入った結晶、および4A族元素化合物結晶はともに化合物単体であった。
また、CまたはSiCを添加した実施例2、実施例8〜10をラマン光分析した結果、2690〜2720cm
−1、1570〜1600cm
−1、780〜810cm
−1の範囲にそれぞれピークが検出された。これはグラフェン、グラファイト、SiCが存在することを示すものである。
なお、ラマン光分析装置は、Thermo Fishier Scientific社製Almegaを用いた。また、ラマン光分析条件は、顕微レーザ−ラマン分光分析法を用い、励起レーザー波長532nm、対物レンズ100倍、検出器CCD、マッピング領域20μm×20μm、測定ピッチ1μmで行った。
【0047】
また、実施例2、実施例8〜10では、測定ピッチ1μmで測定したところ、2690〜2720cm
−1、1570〜1600cm
−1、780〜810cm
−1の範囲の3つのピークが検出される箇所とそうでない箇所が存在していた。2690〜2720cm
−1に検出されるピークはグラフェンの存在を示すG’−bandである。また、1570〜1600cm
−1に検出されるピークはグラファイトの存在を示すG−bandである。また、780〜810cm
−1に検出されるピークはSi−C伸縮振動を示すものである。
測定ピッチ1μm(測定面積1μm×1μm)にて3つのピークがでたりでなかったりするということは、単位面積20μm×20μmという微小領域において、グラフェン、グラファイト、SiCがランダムに存在していることを示すものである。また、3つのピークが検出されない領域は、G’−bandとG−bandは検出されるが、Si−C伸縮振動が検出されないケースが多かった。
また、この際、観察されたグラファイトに対しTEM観察を実施したところ、グラフェン層間距離が3.25〜3.35オングストロームの範囲であった。
【0048】
また、比較例1〜6に関してはB、C、Cu、Ni、Mo、Wの単体もしくは化合物の
個数および4A族元素化合物の結晶の個数は必ずしも1個以上とならなかった。また、比較例
1、2、4では実質的に気孔は観察されなかったが、比較例3、5
、6では内部に気孔が観察された。
また、実施例および比較例に係る窒化珪素焼結体に対して、3点曲げ強度、破壊靭性、ビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度HvはJIS−R−1610に基づき試験力9.807N(ニュートン)で行った。また、破壊靭性値はJIS−R−1607のIF法に基づき、新原の式により求めた値である。また、3点曲げ強度はJIS−R−1601に基づき行った。いずれも室温(25 ℃)で測定した。その結果を表5に示す。
【0050】
次に実施例および比較例にかかる窒化珪素焼結体に関し、高温下でのビッカース硬度を求めた。ビッカース硬度Hvの測定は、測定環境を300 ℃、800 ℃に変えて測定した。それぞれの温度に1時間保持して測定した。その結果を表5に示す。
【0052】
表から分かるように、実施例にかかる窒化珪素焼結体は高温環境下でのビッカース硬度が高かった。これは薄い粒界相を形成しているため、高温環境下での粒界相の劣化が起き難いためである。高温環境下でも優れた硬度を示すため、使用環境が300℃以上になる高温耐久性部材に好適であることが分かる。
次に、実施例および比較例に係る窒化珪素焼結体の動摩擦係数νを測定した。測定はボールオンプレートの往復摺動試験にて行った。このとき、ボールはSUS304製直径9.525mmのものを用いた。また、プレートを実施例および比較例のものとした。ボールの表面粗さRaは0.080μm以下、プレートの表面粗さは0.020μm以下とし、試験荷重は5kN、摺動距離は10mm、摺動周期は1Hzとして試験を行った。その結果を表6に示した。
【0054】
実施例1〜10はνが0.7以下の小さい値となった。これは、微構造中にB、C、Cu、Ni、Mo、Wの化合物や、4A族元素の化合物が存在し、潤滑作用をもたらした為と考えられる。対して比較例1〜
6はνが最大0.7を超える大きな値となった。これは、潤滑作用のある元素が含まれていないことや、焼結体組織中に空隙が含まれていることが原因と考えられる。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。