特許第6686069号(P6686069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6686069蒸発源装置、蒸着装置、および蒸着システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686069
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】蒸発源装置、蒸着装置、および蒸着システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20200413BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20200413BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C23C14/24 B
   C23C14/24 A
   H05B33/10
   H05B33/14 A
【請求項の数】24
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-102198(P2018-102198)
(22)【出願日】2018年5月29日
(65)【公開番号】特開2019-206733(P2019-206733A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2018年10月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−015637(JP,A)
【文献】 特開2007−186787(JP,A)
【文献】 特開2012−207238(JP,A)
【文献】 特開2011−049163(JP,A)
【文献】 特開2004−214120(JP,A)
【文献】 特開2018−003122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を収容する容器と、
冷却部材と、
前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、
前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、
前記容器は、固体状態または液体状態の前記蒸着材料を収容する収容部と、前記開口と前記収容部との間に配置され、前記収容部と連通し、気体状態の前記蒸着材料を収容する蒸発部と、前記収容部と前記蒸発部との間に配置され、前記収容部および前記蒸発部のそれぞれと連通する中間部と、を有し、
前記冷却部材は、前記蒸発部の少なくとも一部を取り囲む第1の冷却部と、前記収容部の少なくとも一部を取り囲む第2の冷却部と、を有し、
前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、
前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、
前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、
前記中間部の幅は、前記蒸発部の幅および前記収容部の幅よりも小さく、
前記蒸発部の前記対向面に垂直な方向の幅は、前記収容部の前記対向面に垂直な方向の幅よりも小さく、
前記第1の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅は、前記第2の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅よりも小さい
ことを特徴とする蒸発源装置。
【請求項2】
蒸着材料をそれぞれ収容する複数の容器と、
複数の冷却部材と、
前記複数の容器のそれぞれの開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下にそれぞれ制限する複数の制限部材と、を備える蒸発源装置であって、
前記複数の制限部材のそれぞれは、前記冷却部材のそれぞれと対向する対向面を有し、
前記複数の容器のそれぞれについて、前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、
前記複数の冷却部材のそれぞれは、前記複数の容器のそれぞれの少なくとも一部を挟む
ように配置され、
前記複数の制限部材のそれぞれは、前記複数の冷却部材のそれぞれの少なくとも一部を挟むように配置され、
前記複数の容器は並んで配置されており、
隣り合う2つの前記容器のそれぞれに対応する2つの前記制限部材は、対向して配置される
ことを特徴とする蒸発源装置。
【請求項3】
蒸着材料を収容する容器と、
冷却部材と、
前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、
前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、
前記容器は、固体状態または液体状態の前記蒸着材料を収容する収容部と、前記開口と前記収容部との間に配置され、前記収容部と連通し、気体状態の前記蒸着材料を収容する蒸発部と、を含み、
前記冷却部材は、前記蒸発部の少なくとも一部を取り囲む第1の冷却部と、前記収容部の少なくとも一部を取り囲む第2の冷却部と、を有し
記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、
前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、
前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、
前記蒸発部の前記対向面に垂直な方向の幅は、前記収容部の前記対向面に垂直な方向の幅よりも小さく、
前記第1の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅は、前記第2の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅よりも小さい
ことを特徴とする蒸発源装置。
【請求項4】
蒸着材料を収容する容器と、
冷却部材と、
前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、
前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、
前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、
前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、
前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、
前記容器は、前記開口を形成するノズル部を含み、
前記ノズル部は、前記容器の第1の面に対して突出して設けられ、
前記冷却部材は、前記容器の前記第1の面に対向して配置される対向部を含み、
前記制限部材は、前記対向部に対向するように延在する延在部を含む
ことを特徴とする蒸発源装置。
【請求項5】
前記制限部材は、前記冷却部材により冷却される
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項6】
前記制限部材は、前記冷却部材と熱的に接続されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項7】
前記制限部材は、前記制限部材を前記冷却部材に対して固定する固定部材を介して、前記冷却部材と熱的に接続されている
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項8】
前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を取り囲むように配置されている
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項9】
前記断面において、前記制限部材は、前記蒸発部の少なくとも一部および前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置されている
ことを特徴とする請求項1または3に記載の蒸発源装置。
【請求項10】
前記断面において、
前記制限部材の前記蒸発部の少なくとも一部を挟む部分の前記対向面に垂直な方向における間隔は、前記第2の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅よりも小さい
ことを特徴とする請求項に記載の蒸発源装置。
【請求項11】
前記容器を加熱する加熱部をさらに備え、
前記加熱部は、前記容器と前記冷却部材との間に配置される
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項12】
前記容器を加熱する加熱部をさらに備え、
前記加熱部は、第1の加熱部と第2の加熱部とを含み、
前記第1の加熱部は、前記蒸発部に対向するように配置され、
前記第2の加熱部は、前記収容部に対向するように配置され、
前記第1の加熱部および前記第2の加熱部は、前記容器と前記冷却部材との間に配置されることを特徴とする請求項1,3,9または10のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項13】
前記第1の加熱部は、前記第2の加熱部よりも高い温度で制御される
ことを特徴とする請求項12に記載の蒸発源装置。
【請求項14】
前記加熱部の温度が250℃以上1400℃以下となるように制御される
ことを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項15】
前記加熱部と前記冷却部材との間に配置され、前記加熱部からの熱を反射する反射部材をさらに備え、
前記反射部材は、前記冷却部材により冷却される
ことを特徴とする請求項11から14のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項16】
前記反射部材はモリブデンにより構成され、前記容器はタンタルにより構成され、前記制限部材は、ステンレスにより構成される
ことを特徴とする請求項15に記載の蒸発源装置。
【請求項17】
前記制限部材は、前記冷却部材の表面に沿って取り外し可能に設けられている
ことを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項18】
前記容器は、前記開口を形成するノズル部を含み、
前記ノズル部は、前記容器の第1の面に対して突出して設けられ、
前記冷却部材は、前記容器の前記第1の面に対向して配置される対向部を含み、
前記制限部材は、前記対向部に対向するように延在する延在部を含む
ことを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項19】
前記冷却部材は、前記冷却部材の内部に、冷却用の液体を流動させるための流路が設けられている
ことを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項20】
前記容器は、前記開口を複数有する
ことを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の蒸発源装置。
【請求項21】
前記断面において、前記制限部材の前記蒸発部の少なくとも一部を挟む部分の前記対向面に垂直な方向における間隔は、前記第2の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅よりも小さい
ことを特徴とする請求項1または3に記載の蒸発源装置。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の蒸発源装置と、
前記蒸発源装置が配置され、蒸着が行われる真空チャンバと、を備える
ことを特徴とする蒸着装置。
【請求項23】
前記蒸着装置は、前記蒸発源装置が搭載される移動機構を有し、
前記移動機構を移動させて蒸着を行う
ことを特徴とする請求項22に記載の蒸着装置。
【請求項24】
各々が請求項1から請求項21のいずれか一項の蒸発源装置を備える複数の蒸着装置と、
前記複数の蒸着装置が接続される基板搬送装置と、を備える蒸着システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発源装置、蒸着装置、および蒸着システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの一種として、有機材料の電界発光を用いた有機EL素子を備えた有機EL装置が注目を集めている。かかる有機ELディスプレイ等の有機電子デバイス製造において、蒸発源装置を用いて、基板上に有機材料や金属電極材料などの蒸着材料を蒸着させて成膜を行う工程がある。
【0003】
特許文献1の蒸着装置では、蒸発源装置を構成する容器の内部に発生した有機材料の蒸気は、該容器の開口から放出されると、蒸気調整部材によって規定される放出口を通って真空槽の内部に放出される。さらに、該蒸気調整部材の上には、筒状の防着板が、筒の一端を基板ホルダ側に向け、他端を放出口に向けた状態で配置されている。放出口から放出された有機材料の蒸気は、筒状の防着板の内部を通り、基板ホルダ側の端部の開口から放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−325391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の防着板は、蒸着材料の放射角度を制限する制限部材として機能する。防着板には、輻射によって直接的に、あるいは有機材料の蒸気を介して間接的に、容器または容器を加熱するヒータからの熱が加わる。防着板に熱が加わると、その熱によって成膜対象の基板が加熱されてしまう可能性がある。成膜対象の基板が過度に加熱されると、基板上に形成されている回路や画素が損傷してしまう可能性があるため、好ましくない。
【0006】
そこで本発明では、上述の課題に鑑み、制限部材の温度上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての蒸発源装置は、蒸着材料を収容する容器と、冷却部材と、前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、
前記容器は、固体状態または液体状態の前記蒸着材料を収容する収容部と、前記開口と前記収容部との間に配置され、前記収容部と連通し、気体状態の前記蒸着材料を収容する蒸発部と、前記収容部と前記蒸発部との間に配置され、前記収容部および前記蒸発部のそれぞれと連通する中間部と、を有し、前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、前記中間部の幅は、前記蒸発部の幅および前記収容部の幅よりも小さいことを特徴とする。
本発明の別の一側面としての蒸発源装置は、蒸着材料をそれぞれ収容する複数の容器と、複数の冷却部材と、前記複数の容器のそれぞれの開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下にそれぞれ制限する複数の制限部材と、を備える蒸発源装置であって、前記複数の制限部材のそれぞれは、前記冷却部材のそれぞれと対向する対向面を有し、前記複数の容器のそれぞれについて、前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、前記複数の冷却部材のそれぞれは、前記複数の容器のそれぞれの少なくとも一部を挟むように配置され、前記複数の制限部材のそれぞれは、前記複数の冷却部材のそれぞれの少なくとも一部を挟むように配置され、前記複数の容器は並んで配置されており、隣り合う2つの前記容器のそれぞれに対応する2つの前記制限部材は、対向して配置されることを特徴とする。
本発明の別の一側面としての蒸発源装置は、蒸着材料を収容する容器と、冷却部材と、前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、前記冷却部材は、前記蒸発部の少なくとも一部を取り囲む第1の冷却部と、前記収容部の少なくとも一部を取り囲む第2の冷却部と、を有し、前記容器は、固体状態または液体状態の前記蒸着材料を収容する収容部と、前記開口と前記収容部との間に配置され、前記収容部と連通し、気体状態の前記蒸着材料を収容する蒸発部と、を含み、前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、前記蒸発部の前記対向面に垂直な方向の幅は、前記収容部の前記対向面に垂直な方向の幅よりも小さく、前記第1の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅は、前記第2の冷却部の前記対向面に垂直な方向における幅よりも小さいことを特徴とする。
本発明の別の一側面としての蒸発源装置は、蒸着材料を収容する容器と、冷却部材と、前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、前記容器は、前記開口を形成するノズル部を含み、前記ノズル部は、前記容器の第1の面に対して突出して設けられ、前記冷却部材は、前記容器の前記第1の面に対向して配置される対向部を含み、前記制限部材は、前記対向部に対向するように延在する延在部を含むことを特徴とする。
本発明の別の一側面としての蒸発源装置は、蒸着材料を収容する容器と、冷却部材と、前記容器の開口から放出される蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する制限部材と、を備える蒸発源装置であって、前記制限部材は、前記冷却部材と対向する対向面を有し、前記開口の開口面の法線方向を含み、前記対向面に垂直な断面において、前記冷却部材は、前記容器の少なくとも一部を挟むように配置され、前記制限部材は、前記冷却部材の少なくとも一部を挟むように配置され、前記容器は、固体状態または液体状態の前記蒸着材料を収容する収容部と、前記開口と前記収容部との間に配置され、前記収容部と連通し、気体状態の前記蒸着材料を収容する蒸発部と、を含み、前記容器の前記収容部には、前記蒸着材料を収容するための坩堝部材と、前記坩堝部材の上部に配置された仕切部材が配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制限部材の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】蒸着装置の模式的断面図
図2】実施例1の蒸発源装置の模式図
図3】実施例2の蒸発源装置の模式図
図4】実施例3の蒸発源装置の模式図
図5】実施例4の蒸発源装置の模式図
図6】実施例5の蒸発源装置の模式図
図7】有機EL表示装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。なお、以下で説明する各実施例を適宜組み合わせたものも、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0011】
[実施例1]
<真空装置の概略構成>
図1は、蒸着装置(成膜装置)100の構成を示す模式図である。蒸着装置100は、真空チャンバ200を有する。真空チャンバ200の内部は、減圧雰囲気に維持される。真空チャンバ200の内部には、被処理体設置台(基板ホルダ)210によって保持された被処理体である基板10と、マスク220と、蒸発源装置240が設けられる。被処理体設置台210は、基板10を載置するための受け爪などの支持具や、基板を押圧保持するためのクランプなどの押圧具を備え、基板を保持する。
【0012】
基板10は、基板搬送装置に配置される搬送ロボット(不図示)により真空チャンバ200内に搬送されたのち、被処理体設置台210によって保持され、成膜時には水平面(XY平面)と平行となるよう固定される。基板搬送装置には、蒸着装置100を含む複数の蒸着装置が接続され、蒸着システムを構築している。マスク220は、基板10上に形成する所定パターンの薄膜パターンに対応する開口パターンをもつマスクであり、例えばメタルマスクである。成膜時にはマスク220の上に基板10が載置される。
【0013】
真空チャンバ200内には、その他、基板10の温度上昇を抑制する冷却板(不図示)を備えていてもよい。また、真空チャンバ200の上には、基板10およびマスク220の少なくとも一方をアライメントするためのアライメント機構(不図示)を備えていてもよい。アライメント機構は、例えば、基板10およびマスク220の少なくとも一方をX方向またはY方向に移動させるアクチュエータや、基板10およびマスク220の少なくとも一方を保持するためのクランプ機構用アクチュエータなどの駆動手段を備えていてもよい。また、アライメント機構は、基板10およびマスク220の少なくとも一方を撮像するカメラを備えていてもよい。
【0014】
蒸発源装置240は、蒸着材料242を収容して保持する容器400と、蒸着材料242を加熱し、蒸着材料242の蒸気を容器400の開口から放出させるために、容器40
0を加熱する加熱部430を備える。その他の各構成要素については、後ほど詳しく述べる。蒸着装置100は、蒸発源装置240の他に、蒸着材料242の放出を抑えるシャッタや、基板10に形成された膜の膜厚を計測するための膜厚モニタなどを備えていてよい(いずれも不図示)。また、蒸着装置100は、成膜を一様に行うために蒸発源装置240を移動させる、移動機構250を備えてもよい。移動機構250は、蒸発源装置240をXY方向、すなわち、基板10の基板面に平行な方向に移動させる機構であることが好ましいが、これに限定はされず、Z方向、すなわち基板10の基板面に垂直な方向に移動させる機構であってもよい。移動機構250は、蒸発源装置240を搭載できる構成が好ましい。なお、図1における蒸発源装置240の各構成要素の形状、位置関係、サイズ比は例示にすぎない。
【0015】
容器400の材質としては、例えば、セラミック、金属、カーボン材料などを用いることができるが、これに限定されず、蒸着材料242の物性や加熱部430による加熱温度との関係で好ましいものを用いる。中でも、容器400の材質としては、タングステン、レニウム、タンタル、モリブデン、ニオブ、バナジウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンなどの高融点金属、あるいは上記金属を含む合金が好ましい。ここで、高融点金属とは、鉄の融点より高い融点を有する金属を指す。
【0016】
加熱部430としては、例えば、シース加熱部や金属ワイヤ線などの抵抗加熱式の加熱部が挙げられるが、これに限定されず、蒸着材料242を蒸発させる加熱性能があればよい。また加熱部の形状についても、図1のようなプレート状のほか、ワイヤ状、メッシュ状など任意の形状を採用できる。蒸着時には、加熱部430の温度は、蒸着材料242が気体状態となるような温度に制御されることが好ましく、250℃以上1400℃以下となるように制御されることが好ましい。蒸着時には、加熱部430の温度は、蒸着材料242が有機材料の場合には250℃以上450℃以下となるように制御されることが好ましく、蒸着材料242が金属材料の場合には650℃以上1400℃以下となるように制御されることが好ましい。
【0017】
蒸着装置100は、制御部270を有する。制御部270は、蒸発源装置240の制御、例えば、加熱の開始や終了のタイミング制御、温度制御、シャッタを設ける場合はその開閉タイミング制御、移動機構250を設ける場合はその移動制御などを行う。なお、複数の制御手段を組み合わせて制御部270を構成してもよい。複数の制御手段とは、例えば、加熱制御手段、シャッタ制御手段、蒸発源移動機構の移動制御手段などである。制御部270は、基板10の搬送およびアライメント制御手段など、蒸発源装置240以外の機構の制御手段を兼ねていてもよい。
【0018】
制御部270は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/O、UIなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部270の機能は、メモリまたはストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部270の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、蒸着装置ごとに制御部270が設けられていてもよいし、1つの制御部270が複数の蒸着装置を制御してもよい。
【0019】
容器400内部に蒸着材料242が収容され、基板10のマスク220への載置(あるいはマスク220の基板10への載置)やアライメントなどの準備が完了すると、制御部270の制御によって加熱部430が動作を開始し、蒸着材料242が加熱される。温度が十分に高まると、蒸着材料242が蒸発し、容器400の開口401から気体状態の蒸着材料242が放出され、基板10の表面に付着し、膜を形成する。容器400から放出
される蒸着材料242は、蒸着材料242の気体(蒸気)であり、この蒸気は加熱部430によって加熱されている。複数の容器に別種の蒸着材料をそれぞれ収容しておくことで、共蒸着を行うことも可能である。
【0020】
形成された膜の膜厚を膜厚モニタ(不図示)等で測定しながら制御を行うことで、基板上に所望の厚さを持った膜が形成される。一様な厚さで成膜するために、例えば、基板10を回転させたり、移動機構250により蒸発源装置240を移動させたりしながら蒸着を行ってもよい。また、基板10の大きさによっては、複数の容器400を並行して加熱することも好ましい。
【0021】
容器400の形状は任意である。蒸発源装置240は、蒸着材料242を放出する開口が一つである点状の蒸発源装置であってもよいし、蒸着材料242を放出する開口を複数有しており、複数の開口が一列に配列された線状の蒸発源装置であってもよい。あるいは、蒸着材料242を放出する開口を複数有し、複数の開口が二次元的に面状に配列された面状の蒸発源装置であってもよいし、点状の蒸発源装置を複数用意し、材料がなくなった場合に使用する蒸発源装置を交換するリボルバ式の蒸発源装置であってもよい。
【0022】
後述するように、ある種類の蒸着材料が成膜された基板上に別種の蒸着材料を成膜することで、複層構造を形成できる。その場合、容器内の蒸着材料を交換したり、容器自体を別種の蒸着材料が格納されたものに交換したりしてもよい。また、真空チャンバ内に複数の蒸発源装置を設けて交換しながら用いてもよいし、基板10を現在の蒸着装置から搬出し、別種の蒸着材料が収納された蒸発源装置を備える他の蒸着装置に搬入してもよい。
【0023】
<蒸発源装置の詳細構成>
図2(a)は、本実施形態の蒸発源装置240の構成を説明するための概略断面図である。図2(b)は、線状の蒸発源装置240の概略上面図であり、図2(c)は、点状の蒸発源装置240の概略上面図である。図2(b)、(c)のA−A断面が、図2(a)で示されている。なお、A−A断面は、後述する容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材410の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面である。図2(a)〜(c)の図1と共通する構成については同じ符号を付し、説明を簡略化する。
【0024】
蒸発源装置240は、容器400、制限部材410、冷却部材420、加熱部430、反射部材440を備える。容器400は、蒸着材料を保持する。本実施例では、容器400は、タンタルで構成される。容器400をタンタルで構成することで、加熱部430による加熱温度を1400℃にまで上げても、容器400の変形を抑制することができる。容器400の側面には、加熱部430が設けられ、容器400内に保持された蒸着材料を加熱し、容器400に設けられた開口401から気体状態の蒸着材料を放出する。本実施例の加熱部430は、容器400側面のみに配置されているが、容器400の上面や底面にも設けてもよい。
【0025】
冷却部材420は、蒸着材料を加熱する熱により、真空チャンバ内全体の温度が上昇することを防ぐために、蒸着材料が保持される容器400の少なくとも一部を覆うように配置される。本実施例では、冷却部材420は、容器400と加熱部430を取り囲むように設けられている。冷却部材420の内部には、冷却用の液体を流動させるための流路(不図示)が設けられ、冷却部材420を冷却する。本実施例では、冷却部材420は、ステンレスで構成される。
【0026】
反射部材440は、加熱部430と冷却部材420との間に配置される。反射部材440は、冷却部材420により冷却され、冷却部材420と同様に蒸着材料を加熱する熱により、真空チャンバ内全体の温度が上昇することを防ぐ。本実施例では、反射部材440
は、モリブデンで構成されるが、タングステン、イリジウム、ルデニウム等の材料で構成されてもよい。また、反射部材440は、複数枚で構成され、それぞれの反射部材の間に空間を設ける構造としてもよい。
【0027】
制限部材410は、容器400の開口401から放出される気体状の蒸着材料の放射角度を一定の角度以下に制限する機能を有する。制限部材410は、図2のA−A断面において容器400を挟むように配置され、容器400の開口端部から蒸着材料が放出する方向に延びる構成になっている。容器400から放出された蒸着材料は、制限部材410によって、放射角度が一定の角度以下に制限される。これにより、蒸着装置において蒸着を行う際の、蒸着材料の基板10への入射角度を一定の角度以下に制限することができ、マスク220を介した成膜におけるパターニング精度を高めることができる。また、蒸着材料が、真空チャンバ200の壁面など、基板10およびマスク220以外の部分に付着してしまうことを抑制することができる。なお、本明細書において、放射角度とは、容器の開口から放射される蒸着材料の放射方向と、容器の開口の法線とがなす角度をいう。また、本明細書において、入射角度とは、基板に入射する蒸着材料の入射方向と、基板の基板面の法線とがなす角度をいう。
【0028】
本実施形態では、制限部材410は、図2のA−A断面において冷却部材420を挟むように配置されている。制限部材410は、冷却部材420の少なくとも一部を覆うように配置されており、冷却部材420と対向する対向面を有している。このように構成することで、容器400を冷却する冷却部材420は、容器400のみならず、制限部材410も冷却することができる。制限部材410は、容器400の開口401から放出された気体状の蒸着材料の一部を物理的に遮蔽することで蒸着材料の放射角度を制限するため、制限部材410は蒸着材料の熱によって温度が上昇しやすい。本実施形態のように、制限部材410が冷却部材420の少なくとも一部を挟むように配置されていることで、制限部材410は冷却部材420によって冷却されるため、蒸着中も制限部材410の温度上昇を抑制することができる。
【0029】
本実施形態において、制限部材410は、固定部材(不図示)によって、冷却部材420に固定されている。固定部材は特に限定されるものではないが、ボルトなどを用いることができる。金属など、熱伝導率の高い材料で構成された固定部材によって制限部材410を冷却部材420に固定することで、制限部材410と冷却部材420とを熱的に接続することができる。これにより、冷却部材420による制限部材410の冷却効率を高めることができる。一方、制限部材410と冷却部材420との間には空間が設けられていることが好ましい。これにより、制限部材410が冷却部材420によって過度に冷却されることを抑制することができる。
【0030】
なお、制限部材410の冷却部材420または容器400に対する固定方法は特に限定はされない。例えば、制限部材410の重力方向の下方に冷却部材420を延在させて制限部材410を突き当て支持する突き当て部(不図示)を形成し、これにより制限部材410を突き当て支持してもよい。これによれば、制限部材410の位置決めを容易にすることができ、その結果、蒸着材料の放射角度を容易に設定できるようになる。なお、突き当て部による突き当て支持と、上述の固定部材による固定とを組み合わせてもよい。
【0031】
本実施形態において、制限部材410、冷却部材420、反射部材440は、それぞれ板状の部材であるため、制限部材410を制限板、冷却部材420を冷却板、反射部材440を反射板とそれぞれ呼ぶこともできる。制限部材410は、ステンレス、アルミ、チタン、カーボン等の材料で形成されるが、これに限定されない。また、制限部材410は、単一の材料で構成される形態に限らず、複数の材料で構成される形態でもよい。また、制限部材410は、単一の部品で構成される形態に限らず、複数の部品を溶接やネジ止め
などによって組み合わせて構成されてもよい。制限部材410を構成する複数の部品は、制限部材410のうちの蒸気の制限をする部分(制限部)を構成する部品と、制限部材410のうちの冷却部材420で冷却される部分(基部、冷却部)を構成する部品とを含みうる。これらの部品は、制限部が基部を介して冷却部材420で冷却されるように、複数の部品が熱的に接続されていればよい。
【0032】
蒸着を行うと蒸着材料が制限部材410に付着するため、一定期間、蒸着工程が行われた後には、制限部材410を交換または洗浄する等のメンテナンスが必要となる。本実施形態では、制限部材410を冷却部材420に固定するための固定部材を取り外すことによって固定を解除することで、制限部材410を取り外すことができる。すなわち、制限部材410は、冷却部材420から取り外し可能に設けられている。これにより、上述のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0033】
より具体的には、制限部材410を冷却部材420よりもひと回り大きな筒状の部材とすることで、筒状の制限部材410に冷却部材420を脱挿入可能な構成とすることができる。これによれば、制限部材410の冷却部材420への固定を解除した状態で制限部材410を引き抜くことで、冷却部材420の表面に沿って制限部材410を移動させて取り外すことができる。この結果、メンテナンス作業をより一層容易に行うことができる。あるいは、制限部材410を筒状の部材とせずとも、制限部材410および冷却部材420の少なくとも一方に、制限部材410に対する冷却部材420の相対移動をガイドするガイド部を設けておいてもよい。これによっても、制限部材410を冷却部材420の表面に沿って移動させて取り外すことができるようにすることができる。
【0034】
本実施例で制限部材410は、冷却部材420の側面を囲むように設けているが、冷却部材420の側面一部に配置されない構成としてもよい。
【0035】
[実施例2]
図3に示す本実施例の蒸発源装置240は、容器400の高さ方向に対して、制限部材の構成が実施例1と異なる例を示す。他の実施例と共通する構成については同じ符号を付し、説明を簡略化する。図3に示すように、容器400を以下のように分けて説明する。ノズル部400(a)は、開口401を形成し、容器400の面(第1の面)に突出して設けられる領域である。収容部400(c)は、固体状態または液体状態の蒸着材料を収容する領域である。蒸発部400(b)は、ノズル部400(a)と収容部400(c)の間に位置し、気体状態の蒸着材料を収容する領域である。蒸発部400(b)は、収容部400(c)と連通しており、収容部400(c)で生じた気体状態の蒸着材料が移動可能に構成されている。なお、図3図2(a)と同様に、容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材412の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面(A−A断面)を示している。
【0036】
また、本実施例では、容器400の内部に蒸着材料を収容するための坩堝部材450と坩堝部材450の上部に配置された仕切部材460を有する。坩堝部材450と仕切部材460は、収容部400(c)と対向する位置に配置されている。坩堝部材450を設けることで、蒸着材料の交換を簡単に行うことができる。仕切部材460は、気体状態の蒸着材料が通過する開口を有しており、蒸着材料の突沸による飛び散りを防止することができる。仕切部材460の有する開口の形状や個数については特に限定はされないが、仕切部材460の有する開口は、ノズル部400(a)と対向する位置以外の位置に設けられていることが好ましい。これにより、蒸着材料の突沸による飛び散りをより一層防止することができる。
【0037】
加熱部430は、蒸発部400(b)に対向する第1の加熱部430(a)と、収容部
400(c)に対向する第2の加熱部430(b)に分かれた構成となっている。このような構成にすることにより、蒸発部400(b)への加熱温度と収容部400(c)への加熱温度とを個別に調節することが可能となる。
【0038】
一般的には、収容部400(c)に収容される固体状態または液体状態の蒸着材料に関して、高温の熱による材料の劣化が懸念される。そのため第2の加熱部430(b)は、固体状態または液体状態の蒸着材料を気体状態に変化させられる程度の温度で制御されることが好ましい。具体的には、蒸着材料の昇華温度または沸点付近の温度で制御されることが好ましい。それに対し、蒸発部400(b)に収容される気体状態の蒸着材料は、ノズル部400(a)に蒸着材料が凝固しないように気体状態を維持する必要がある。そのため第1の加熱部430(a)は、第2の加熱部430(b)よりも高い温度で制御される。
【0039】
本実施例において、冷却部材420は、容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材412の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面において、蒸発部400(b)と収容部400(c)とを挟むように配置されている。
【0040】
制限部材412は、容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材412の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面において、冷却部材420と蒸発部400(b)を挟むように配置されている。制限部材412の冷却部材420に対する固定方法は実施例1と同様である。制限部材412は、蒸発部400(b)の少なくとも一部および冷却部材420の少なくとも一部を覆うように配置されている。本実施例では、制限部材412は、第1の加熱部430(a)に対向し、第2の加熱部430(b)とは対向しない構成になっている。ただし、この構成に限定はされず、制限部材412が、第2の加熱部430(b)の一部と対向する構成であってもよい。
【0041】
[実施例3]
図4に示す本実施例の蒸発源装置240は、容器400のノズル部400(a)周辺の制限部材の構成が実施例1、2と異なる例を示す。他の実施例と共通する構成については同じ符号を付し、説明を簡略化する。冷却部材420を以下のように分けて説明する。対向部420(a)は、ノズル部400(a)が配置される容器400の上面である面(第1の面)に対向して配置される領域である。側面部420(b)は、容器400の側面に対向して配置される領域である。底面部420(c)は、容器400の底面に対向して配置される領域である。なお、図4図2(a)と同様に、容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材414の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面(A−A断面)を示している。
【0042】
制限部材414は、容器400の側面に対向する基部414(c)、ノズル部400(a)の開口端部から蒸着材料が放出する方向に位置する制限部414(b)、冷却部材420の対向部420(a)に対向して延びる延在部414(a)を含む。制限部材414の冷却部材420に対する固定方法は実施例1と同様である。この構成により、実施例1、2に比べて、制限部材414が冷却部材420との対向する面積を増やすことができ、制限部材414の冷却効率を向上させることができる。
【0043】
[実施例4]
図5に示す本実施例の蒸発源装置240は、蒸発部400(b)と収容部400(c)をつなぐ中間部400(d)を設ける例を示す。他の実施例と共通する構成については同じ符号を付し、説明を簡略化する。なお、図5図2(a)と同様に、容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面(A−A断面)を示している。
【0044】
中間部400(d)は、蒸発部400(b)および収容部400(c)のそれぞれと連通している。中間部400(d)は、蒸発部400(b)と収容部400(c)より蒸着材料を収容する領域の体積が小さい。A−A断面において、中間部400(d)の制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な方向における幅502は、蒸発部400(b)および収容部400(c)の制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な方向における幅(501、503)のいずれよりも小さい。さらに、蒸発部400(b)は、収容部400(c)より蒸着材料を収容する領域の体積が小さい。A−A断面において、蒸発部400(b)の制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な方向における幅501は、収容部400(c)の制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な方向における幅503よりも小さい。なお、本実施例の場合は、上記の各幅は、「制限部材に挟まれる方向における幅」と言い換えることもできる。
【0045】
反射部材440は、蒸発部400(b)に対向する第1の反射部材440(a)と、収容部400(c)に対向する第2の反射部材440(b)に分かれた構成となっている。また本実施例では、第1の反射部材440(a)は、蒸発部400(b)のみに対向しているが、中間部400(d)に対向してもよいし、中間部400(d)に対向する反射部材を別途設けてもよい。
【0046】
冷却部材420は、蒸発部400(b)の少なくとも一部を取り囲む第1の冷却部と、収容部400(c)の少なくとも一部を取り囲む第2の冷却部と、を有する。本実施例では、第1の冷却部は中間部400(d)の少なくとも一部も取り囲んでいる。A−A断面において、第1の冷却部の制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な方向における幅504は、第2の冷却部の制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な方向における幅505よりも小さい。制限部材416は、冷却部材420の蒸発部400(b)と中間部400(d)に対向する領域を挟むように配置され、冷却部材420の収容部400(c)に対向する領域には対向しない構成となっている。制限部材416の蒸発部400(b)と冷却部材420を挟む方向における間隔506は、冷却部材420の収容部400(c)を挟む方向における幅505より小さい。このことにより、スペースを活用して蒸発源装置240を構成することができる。
【0047】
[実施例5]
本実施例の蒸発源装置240は、容器400を複数設ける例を示す。図6に示すように、蒸発源装置240は、実施例4での蒸発源装置が2つ並べられた構成を有している。なお、図6図2(a)と同様に、容器400の開口401の開口面の法線方向を含み、制限部材416の冷却部材420と対向する対向面に垂直な断面(A−A断面)を示している。
【0048】
制限部材416は、固定部材であるボルト600により冷却部材420に固定されている。制限部材416と冷却部材420との間には、空間が設けられている。このように制限部材416と冷却部材420の間に空間を設け、輻射により制限部材416を冷却することにより、制限部材416が過度に冷却されることを抑制することができる。ボルト600を外すことによって固定を解除すれば、制限部材416を冷却部材420の側面に沿って移動させることができるようになり、制限部材416を冷却部材420から取り外すことができる。容器400は、冷却部材420に設けられたボルト状の突起部610に配置されている。加熱部430、反射部材440は、冷却部材420にボルト600とは異なるボルト(不図示)で固定されている。
【0049】
蒸発源装置240は、移動機構250上に設けられている。移動機構250の内部は、真空チャンバ200とは遮蔽された大気空間になっており、蒸発源装置240に接続され
る配線等(不図示)を収納することができる。この移動機構250が移動されることで、蒸発源装置240を移動しながら、蒸着することが可能となる。
【0050】
[実施例6]
<有機電子デバイスの製造方法の具体例>
本実施形態では、蒸発源装置を備える蒸着装置(蒸着装置)を用いた有機電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、有機電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成および製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図7(a)は有機EL表示装置60の全体図、図7(b)は1画素の断面構造を表している。本実施形態の蒸着装置が備える蒸発源装置240としては、上記の各実施形態にいずれかに記載の装置を用いる。
【0051】
図7(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0052】
図7(b)は、図7(a)のA−B線における部分断面模式図である。画素62は、被蒸着体である基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,62G,62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0053】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板63を準備する。
【0054】
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0055】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の蒸着装置に搬入し、被処理体設置台210にて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。こ
こで、本ステップでの成膜や、以下の各レイヤーの成膜において用いられる蒸着装置は、上記各実施形態のいずれかに記載された蒸発源装置を備えている。
【0056】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の蒸着装置に搬入し、被処理体設置台210にて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0057】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の蒸着装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の蒸着装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の蒸着装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0058】
電子輸送層67までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極68を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0059】
絶縁層69がパターニングされた基板63を蒸着装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。したがって、本例において、蒸着装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0060】
このようにして得られた有機EL表示装置は、発光素子ごとに発光層が精度よく形成される。上記製造方法を用いれば、基板や有機EL表示装置を駆動するための回路の損傷に起因する有機EL表示装置の不良の発生を抑制することができる。本実施形態に係る蒸着装置によれば、蒸発源装置の制限部材の温度上昇を抑制することができるため、成膜対象の基板の加熱を抑制することができるため、良好な蒸着が可能となる。
【符号の説明】
【0061】
240:蒸発源装置,400:容器,420:冷却部材,410:制限部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7