【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、超高分子量ポリエチレンと特定の分子量、溶融張力、歪硬化性を有するポリエチレンを含む組成物が、力学的強度、耐熱性、延伸性に優れ、クリーン性も優れる延伸微多孔膜を提供しうる超高分子量ポリエチレン組成物となり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、固有粘度([η])が10dl/g以上80dl/g以下の超高分子量ポリエチレン100重量部に対し、重量平均分子量(Mw)60万以下、210℃における溶融張力が100mN以上で、歪硬化性を有し、JIS K6760に準拠した密度が935kg/m
3以上960kg/m
3以下のポリエチレン5重量部以上5000重量部以下を含むことを特徴とする超高分子量ポリエチレン組成物およびそれよりなる延伸微多孔膜に関するものである。
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の超高分子量ポリエチレン組成物製は、[η]が10dl/g以上80dl/g以下の超高分子量ポリエチレン100重量部に対し、Mwが60万以下、210℃における溶融張力が100mN以上で、歪硬化性を有し、JIS K6760に準拠した密度が935kg/m
3以上960kg/m
3以下のポリエチレンを含む組成物である。
【0015】
そして、該超高分子量ポリエチレン組成物は、超高分子量ポリエチレン組成物の[η]が、超高分子量ポリエチレンの[η]の0.9倍以下、特に0.8倍以下となる超高分子量ポリエチレン組成物であることが好ましい。
【0016】
本発明の超高分子量ポリエチレン組成物を構成する超高分子量ポリエチレンとしては、[η]が10dl/g以上80dl/g以下の超高分子量ポリエチレンと称される範疇に属するものであればよく、チーグラーナッタ触媒、メタロセン触媒等により調製された如何なる超高分子量ポリエチレンであってもよい。また、超高分子量ポリエチレンと称されるものとしては、例えば超高分子量エチレン単独重合体;超高分子量エチレン−プロピレン共重合体、超高分子量エチレン−1−ブテン共重合体、超高分子量エチレン−1−ヘキセン共重合体、超高分子量エチレン−1−オクテン共重合体等の超高分子量エチレン−α−オレフィン共重合体;等を挙げることができる。ここで、[η]が10dl/g未満である場合、得られる組成物は、力学的特性に劣るものとなる。一方、[η]が80dl/gを越える場合、得られる組成物は成形時の流動性に劣るものとなり、特に延伸微多孔膜とする際の成形性に劣るものとなる。なお、本発明における[η]は、例えばウベローデ型粘度計を用い、デカヒドロナフタレンを溶媒としたポリマー濃度0.0005〜0.01%の溶液にて、135℃において測定する方法により測定することが可能である。
【0017】
そして、本発明の超高分子量ポリエチレン組成物を構成する超高分子量ポリエチレンとしては上記範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、中でも延伸微多孔膜とした際に力学的強度、耐熱性、延伸性に優れ、クリーン性も優れるものとなることからメタロセン系超高分子量ポリエチレンであることが好ましく、特に以下に説明する超高分子量ポリエチレン又はその粒子であることが好ましい。
【0018】
該超高分子量ポリエチレンは、延伸微多孔膜とする際に粒子の流動性がよく、保管設備、保管容器、ホッパーでの充満率に優れる等、操作性が向上することから、粒子形状を有するものであることが好ましく、その際の(2)嵩密度は130kg/m
3以上700kg/m
3以下であることが好ましく、延伸微多孔膜とする際の特に加工性に優れるものとなることから200kg/m
3以上600kg/m
3以下であることが好ましい。なお、嵩密度は、例えばJIS K6760(1995)に準拠した方法で測定することが可能である。
【0019】
該超高分子量ポリエチレンは、延伸微多孔膜とした際に、耐熱性、強度等に優れるものとなることから、(3)示差走査型熱量計(以下、DSCと記すこともある。)にて、1stスキャンした際の1stスキャンのTm
1、その後、5分間放置後、10℃/分の降温速度で−20℃まで降温し、5分間放置後、再度、2ndスキャンした際の2ndスキャンのTm
2をそれぞれ測定し、ΔTm=Tm
1−Tm
2が9℃以上30℃以下であることが好ましく、特に11℃以上30℃以下であることが好ましく、更に耐熱性、機械的強度、成形性のバランスに優れる超高分子量ポリエチレン組成物となることからΔTmが11℃以上15℃以下であることが好ましい。
【0020】
なお、一般的なポリエチレンにおいては、高融点を有するポリエチレンとして、高密度ポリエチレンに属するエチレン単独重合体が知られている。しかし、該高密度ポリエチレンにおける融点は130〜135℃程度と低いものである。一方、本発明の超高分子量ポリエチレン組成物に適した超高分子量ポリエチレンは、従来から知られているポリエチレンと比較しても極めて高い融点(Tm)を有するものであり、例えばエチレン単独重合体であるならば、Tm
1として140℃を超える極めて高い融点を有している。該超高分子量ポリエチレンにおいては、ポリエチレンの分子鎖が配向するなどして、高度に結晶化されているため、DSCにて測定した際のTm
1とTm
2差であるΔTmが9℃以上30℃以下という極めて大きな差となると考えている。
【0021】
さらに、該超高分子量ポリエチレンは、チタンが原因で発生する変色(黄変)や酸化劣化等の抑制が可能で色調が良好なものとなり、耐候性にも優れる超高分子量ポリエチレン組成物を提供することが可能となるから、チタンの含有量が少ないものであることが好ましく、特にチタンの含有量が0.02ppm以下又は検出限界以下、のものが好ましい。なお、チタンの含有量は、化学滴定法、蛍光X線分析装置、ICP発光分析装置等による測定等により求めることができる。
【0022】
該超高分子量ポリエチレンは、より強靭な延伸微多孔膜を提供することが可能となることから、(4)プレス温度190℃、プレス圧力20MPaで加熱圧縮した後、前記(3)により測定した2ndスキャンのTm
2より10℃〜30℃低い金型温度で冷却して成形したシートの引張破断強度(TS(MPa))が、下記関係式(a)を満たすものであることが好ましく、更により強靭で機械強度、耐摩耗性に優れる延伸微多孔膜を提供することが可能となることから、下記関係式(c)を満たすものであることが好ましい。
TS≧1.35×Tm
2−130 (a)
1.35×Tm
2−130≦TS≦2×Tm
2−175 (c)
なお、一般的なポリエチレンの引張破断強度は、最も高い高密度ポリエチレンでも45MPa程度と低いものである。また、従来の超高分子量ポリエチレンも、その高い分子量を十分生かすことができておらず、引張破断強度は一般的なポリエチレンと同等であり、50MPaを超えることはなかった。このため、高延伸倍率で圧延成形するなどにより配向させて、強度を高める方法がとられていた。
【0023】
しかし、該超高分子量ポリエチレンは、高分子鎖が適度に絡み合っているため、[η]が7dl/g、好ましくは15dl/gを超える超高分子量ポリエチレンの領域であっても、更にその分子量を高くしても引張破断強度が低下せず、むしろ、さらに向上する傾向を示すものである。そして、該超高分子量ポリエチレンとしては、膜とした際により強度が優れるものとなることから、高密度ポリエチレンの領域に属するものであるならば前記(4)により測定した引張破断強度として、40MPa以上を有するものであることが好ましく、より好ましくは50MPa以上を有するものである。
【0024】
なお、引張破断強度の測定条件としては、特に制限はなく、例えば厚み0.1〜5mm、幅1〜50mmの短冊形、ダンベル型等の試験片を、引張速度1mm/分〜500mm/分の速度で測定する方法を例示することができる。
【0025】
該超高分子量ポリエチレンは、比較的低分子量成分の含有量が低く、高分子鎖の適度な絡み合いが可能となり、特に耐熱性にも優れる超高分子量ポリエチレン組成物となることから、(5)加熱圧縮成形したシートを、前記(3)により測定した2ndスキャンのTm
2より20℃高い温度で溶融延伸したときの破断応力(MTS(MPa))が1.5MPa以上を有するものであることが好ましく、更に2MPa以上を有するものであることが好ましい。
【0026】
なお、分子量50万以下の一般的なポリエチレンは、融点(Tm)より20℃高い温度では、流動性が高く、自重で成形体が変形してしまい、溶融延伸はできない。また、従来の超高分子量ポリエチレンは、融点(Tm)より20℃高い温度でも、溶融延伸は可能であるが、含有する低分子量成分の影響により、歪み硬化が起きず、応力が低い状態のまま、1MPa前後の応力で破断してしまい、耐熱性に劣るものとなる場合が多々見られた。
【0027】
そして、溶融延伸に用いる加熱圧縮成形シートの成形条件としては、制限はなく、例えばプレス温度100〜250℃、プレス圧力5〜50MPaの条件であり、その中でも特に前記(4)に記載した加熱圧縮成形法を例示することができる。また、溶融延伸方法としては、例えば厚み0.1〜5mm、幅1〜50mmの短冊形、ダンベル型等の試験片を、引張速度1mm/分〜500mm/分の速度で延伸する方法を例示することができる。さらに、溶融延伸時の破断応力としては、歪み硬化が起き、延伸に伴い応力が増加した場合はその最大値を破断応力とし、歪み硬化が起きず、延伸しても応力が増加しない場合は、降伏後の平坦領域の応力を破断応力とした。
【0028】
該超高分子量ポリエチレンは、特に耐熱性に優れる超高分子量ポリエチレン組成物となることから、(6)前記(5)により測定した溶融延伸したときの破断応力(MTS(MPa))と固有粘度([η])が、下記関係式(b)を満たすものであることが好ましく、特に溶融延伸性、成形性にも優れるものとなることから、下記関係式(d)を満たすものであることが好ましい。
MTS≧0.079×[η] (b)
0.079×[η]≦MTS≦0.23×[η] (d)
該超高分子量ポリエチレンは、特に粉体としての流動性に優れ、成形加工性、物性に優れる超高分子量ポリエチレン組成物となることから、(7)平均粒径が1μm以上1000μm以下であるものが好ましい。なお、平均粒径に関しては、例えばJIS Z8801で規定された標準篩を用いたふるい分け試験法等の方法により測定することができる。
【0029】
該超高分子量ポリエチレンの製造方法としては、如何なる方法を用いても良く、例えばポリエチレン製造用触媒を用い、エチレンの単独重合、エチレンと他のオレフィンとの共重合を行う方法を挙げることができ、その際のα−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等を挙げることができる。また、重合方法としては、例えば溶液重合法、塊状重合法、気相重合法、スラリー重合法等の方法を挙げることができ、その中でも、特に粒子形状が整った超高分子量ポリエチレンの製造が可能となると共に、高融点、高結晶化度を有し、機械強度、耐熱性、耐摩耗性に優れる超高分子量ポリエチレン組成物を提供しうる超高分子量ポリエチレンを効率よく安定的に製造することが可能となることからスラリー重合法であることが好ましい。また、スラリー重合法に用いる溶媒としては、一般に用いられている有機溶媒であればいずれでもよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、イソブタン、プロパン等の液化ガス、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、1−ヘキセンなどのオレフィンを溶媒として用いることもできる。
【0030】
また、該超高分子量ポリエチレンを製造するのに用いるポリエチレン製造用触媒としては、該超高分子量ポリエチレンの製造が可能であれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば少なくとも遷移金属化合物(A)、脂肪族塩にて変性した有機変性粘土(B)及び有機アルミニウム化合物(C)より得られるメタロセン系触媒を挙げることができる。
【0031】
そして、該遷移金属化合物(A)としては、例えば(置換)シクロペンタジエニル基と(置換)フルオレニル基を有する遷移金属化合物、(置換)シクロペンタジエニル基と(置換)インデニル基を有する遷移金属化合物、(置換)インデニル基と(置換)フルオレニル基を有する遷移金属化合物等を挙げることができ、その際の遷移金属としては、例えばジルコニウム、ハフニウム等を挙げることができ、その中でも特に超高分子量ポリエチレンを効率よく製造することが可能となることから、(置換)シクロペンタジエニル基とアミノ基置換フルオレニル基を有するジルコニウム化合物、(置換)シクロペンタジエニル基とアミノ基置換フルオレニル基を有するハフニウム化合物であることが好ましい。
【0032】
そして、より具体的には、例えばジフェニルメチレン(1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(1−インデニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(4−フェニル−1−インデニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(2−(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(2−(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(2−(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(2,7−ビス(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(2,7−ビス(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(2,7−ビス(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(4−(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(4−(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシランジイル(シクロペンタジエニル)(4−(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2−(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2−(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2−(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7−ビス(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7−ビス(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7−ビス(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライドジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(4−(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(4−(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(4−(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、7−ビス(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、7−ビス(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、7−ビス(ジイソプロピルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、7−ビス(ジ−n−ブチル−アミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、7−ビス(ジベンジルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(3、6−ビス(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(3、6−ビス(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(3、6−ビス(ジ−n−プロピル−アミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、5−ビス(ジメチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、5−ビス(ジエチルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2、5−ビス(ジイソプロピルアミノ)−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライドなどのジルコニウム化合物;これらのジクロロ体をジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体に変えたジルコニウム化合物、およびこれら化合物のジルコニウムをハフニウムに変えたハフニウム化合物などを例示することができる。
【0033】
該脂肪族塩にて変性した有機変性粘土(B)としては、例えばN,N−ジメチル−ベヘニルアミン塩酸塩、N−メチル−N−エチル−ベヘニルアミン塩酸塩、N−メチル−N−n−プロピル−ベヘニルアミン塩酸塩、N,N−ジオレイル−メチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−ベヘニルアミンフッ化水素酸塩、N−メチル−N−エチル−ベヘニルアミンフッ化水素酸塩、N−メチル−N−n−プロピル−ベヘニルアミンフッ化水素酸塩、N,N−ジオレイル−メチルアミンフッ化水素酸塩、N,N−ジメチル−ベヘニルアミン臭化水素酸塩、N−メチル−N−エチル−ベヘニルアミン臭化水素酸塩、N−メチル−N−n−プロピル−ベヘニルアミン臭化水素酸塩、N,N−ジオレイル−メチルアミン臭化水素酸塩、N,N−ジメチル−ベヘニルアミンヨウ化水素酸塩、N−メチル−N−エチル−ベヘニルアミンヨウ化水素酸塩、N−メチル−N−n−プロピル−ベヘニルアミンヨウ化水素酸塩、N,N−ジオレイル−メチルアミンヨウ化水素酸塩、N,N−ジメチル−ベヘニルアミン硫酸塩、N−メチル−N−エチル−ベヘニルアミン硫酸塩、N−メチル−N−n−プロピル−ベヘニルアミン硫酸塩、N,N−ジオレイル−メチルアミン硫酸塩等の脂肪族アミン塩;P,P−ジメチル−ベヘニルホスフィン塩酸塩、P,P−ジエチル−ベヘニルホスフィン塩酸塩、P,P−ジプロピル−ベヘニルホスフィン塩酸塩、P,P−ジメチル−ベヘニルホスフィンフッ化水素酸塩、P,P−ジエチル−ベヘニルホスフィンフッ化水素酸塩、P,P−ジプロピル−ベヘニルホスフィンフッ化水素酸塩、P,P−ジメチル−ベヘニルホスフィン臭化水素酸塩、P,P−ジエチル−ベヘニルホスフィン臭化水素酸塩、P,P−ジプロピル−ベヘニルホスフィン臭化水素酸塩、P,P−ジメチル−ベヘニルホスフィンヨウ化水素酸塩、P,P−ジエチル−ベヘニルホスフィンヨウ化水素酸塩、P,P−ジプロピル−ベヘニルホスフィンヨウ化水素酸塩、P,P−ジメチル−ベヘニルホスフィン硫酸塩、P,P−ジエチル−ベヘニルホスフィン硫酸塩、P,P−ジプロピル−ベヘニルホスフィン硫酸塩等の脂肪族ホスフォニウム塩;等の脂肪族塩により変性された粘土を挙げることができる。
【0034】
また、該有機変性粘土(B)を構成する粘土化合物としては、粘土化合物の範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、一般的にシリカ四面体が二次元上に連続した四面体シートと、アルミナ八面体やマグネシア八面体等が二次元上に連続した八面体シートが1:1又は2:1で組合わさって構成されるシリケート層と呼ばれる層が何枚にも重なって形成され、一部のシリカ四面体のSiがAl、アルミナ八面体のAlがMg、マグネシア八面体のMgがLi等に同型置換されることにより層内部の正電荷が不足し、層全体として負電荷を帯びており、この負電荷を補償するために層間にはNa
+やCa
2+等の陽イオンが存在しているものとして知られているものである。そして、該粘土化合物としては天然品、または合成品としてのカオリナイト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母、脆雲母、縁泥石等が存在し、これらを用いることが可能であり、その中でも入手のしやすさと有機変性の容易さからスメクタイトが好ましく、特にスメクタイトのなかでもヘクトライトまたはモンモリロナイトがさらに好ましい。
【0035】
該有機変性粘土(B)は、該粘土化合物の層間に該脂肪族塩を導入し、イオン複合体を形成することにより得る事が可能である。該有機変性粘土(B)を調製する際には、粘土化合物の濃度0.1〜30重量%、処理温度0〜150℃の条件を選択して処理を行うことが好ましい。また、該脂肪族塩は固体として調製して溶媒に溶解させて使用しても良いし、溶媒中での化学反応により該脂肪族塩の溶液を調製してそのまま使用しても良い。該粘土化合物と該脂肪族塩の反応量比については、粘土化合物の交換可能なカチオンに対して当量以上の脂肪族塩を用いることが好ましい。処理溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;エチルアルコール、メチルアルコール等のアルコール類;エチルエーテル、n−ブチルエーテル等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;アセトン;1,4−ジオキサン;テトラヒドロフラン;水、等を用いることができる。そして、好ましくは、アルコール類または水を単独もしくは溶媒の一成分として用いることである。
【0036】
また、ポリエチレン製造用触媒を構成する有機変性粘土(B)の粒径に制限はなく、その中でも触媒調製時の効率、ポリエチレン製造時の効率に優れるものとなることから1〜100μmであることが好ましい。その際の粒径を調節する方法にも制限はなく、大きな粒子を粉砕して適切な粒径にしても、小さな粒子を造粒して適切な粒径にしても良く、あるいは粉砕と造粒を組み合わせても良い。また、粒径の調節は有機変性前の粘土に行っても、変性後の有機変性粘土に行っても良い。
【0037】
該有機アルミニウム化合物(C)としては、有機アルミニウム化合物と称される範疇に属するものであれば如何なるものも用いることができ、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウムなどを挙げることができる。
【0038】
該ポリエチレン製造用触媒を構成する該遷移金属化合物(A)(以下(A)成分ということもある。)、該有機変性粘土(B)(以下、(B)成分ということもある。)、および該有機アルミニウム化合物(C)(以下、(C)成分ということもある。)の使用割合に関しては、ポリエチレン製造用触媒としての使用が可能であれば如何なる制限を受けるものでなく、その中でも、特に超高分子量ポリエチレンを生産効率よく製造することが可能なポリエチレン製造用触媒となることから、(A)成分と(C)成分の金属原子当たりのモル比は(A)成分:(C)成分=100:1〜1:100000の範囲にあることが好ましく、特に1:1〜1:10000の範囲であることが好ましい。また、(A)成分と(B)成分の重量比が(A)成分:(B)成分=10:1〜1:10000にあることが好ましく、特に3:1〜1:1000の範囲であることが好ましい。
【0039】
該ポリエチレン製造用触媒の調製方法に関しては、該(A)成分、該(B)成分および該(C)成分を含むポリエチレン製造用触媒を調製することが可能であれば如何なる方法を用いてもよく、例えば各(A)、(B)、(C)成分に関して不活性な溶媒中あるいは重合を行うモノマーを溶媒として用い、混合する方法などを挙げることができる。また、これらの成分を反応させる順番に関しても制限はなく、この処理を行う温度、処理時間も制限はない。また、(A)成分、(B)成分、(C)成分のそれぞれを2種類以上用いてポリエチレン製造用触媒を調製することも可能である。
【0040】
該超高分子量ポリエチレンを製造する際の重合温度、重合時間、重合圧力、モノマー濃度などの重合条件については任意に選択可能であり、その中でも、重合温度0〜100℃、重合時間10秒〜20時間、重合圧力常圧〜100MPaの範囲で行うことが好ましい。また、重合時に水素などを用いて分子量の調節を行うことも可能である。重合はバッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であり、重合条件を変えて、2段以上に分けて行うことも可能である。また、重合終了後に得られる超高分子量ポリエチレンは、従来既知の方法により重合溶媒から分離回収され、乾燥して得ることができる。
【0041】
次に、本発明の超高分子量ポリエチレン組成物を構成するポリエチレンは、Mwが60万以下、好ましくは5万以上60万以下、さらに好ましくは10万以上60万以下である。ここで、Mwが60万を超えるポリエチレンである場合、得られる組成物の粘度が高くなり、成形が困難になる。
【0042】
該ポリエチレンは、190℃における溶融張力が100mN以上、好ましくは150mN以上を有するものである。また、該ポリエチレンは、一軸伸張等において、(伸長)粘度が歪みと共に急激に増加する歪硬化性を示すものである。このような特性を有するポリエチレンを構成とすることにより、本発明の超高分子量ポリエチレン組成物は、微多孔膜等とする際に膜厚のバラツキが小さくなり、薄膜化しても、均一な膜厚を有するものとなる。
【0043】
該ポリエチレンは、JIS K6760に準拠した密度が935kg/m
3以上960kg/m
3以下のものである。ここで、密度が935kg/m
3未満である場合、得られる組成物は、強度が低いものとなる。一方、960kg/m
3を超える場合、得られる組成物は、脆い上に取扱い性に劣るものとなる。
【0044】
そして、該ポリエチレンは、得られる組成物を延伸微多孔膜とした際に強度、表面外観に優れる延伸微多孔膜となることから重量平均分子量と数平均分子量(以下、Mnと称する場合もある。)の比(Mw/Mn)が3.0〜8.0であるものが好ましい。
【0045】
該ポリエチレンは、例えばメタロセン触媒と呼ばれる遷移金属錯体と特定の助触媒を組み合わせた触媒の存在下に、エチレンを単独重合、またはエチレンと上記にて例示したα−オレフィンを共重合することにより製造することができる。該ポリエチレンは、特開2004−346304号公報、特開2005−248013号公報、特開2006−2057号公報、特開2006−321991号公報、特開2007−169341号公報、特開2010−43152号公報、特開2011−89019号公報、特開2011−89020号公報等の方法によって得られたものであってもよい。
【0046】
本発明の超高分子量ポリエチレン組成物は、該超高分子量ポリエチレン100重量部に対し、該ポリエチレン5重量部以上5000重量部以下、好ましくは20重量部以上2000重量部以下を含んでなるものである。ここで、ポリエチレンが5重量部未満である場合、得られる組成物は成形加工性に劣るものとなる。一方、5000重量部を越える場合、得られる組成物は、機械的強度、耐熱性に劣るものとなる。
【0047】
本発明の超高分子量ポリエチレン組成物を調製する際の方法としては、該超高分子量ポリエチレンとポリエチレンを混合して超高分子量ポリエチレンの組成物を得ることが可能であれば如何なる方法であってもよく、例えば溶融状態での押出混練、ロール混練、または、溶媒に溶解し、溶液状態にした後、押出混練、ロール混練、もしくは攪拌翼を用いた攪拌混合などをした後、溶媒留去、溶媒抽出等により溶媒を除去する方法等を挙げることができる。また、有機溶媒に溶解する場合は、後で述べる有機溶媒との混合反応と兼ね、得られた混合物をそのまま用いることも可能である。この際の溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、オクタデカン、エイコサン、流動パラフィン、イソパラフィン等の直鎖状若しくは分岐状の飽和又は不飽和の脂肪族化合物;シクロヘキサン、シクロデカン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン等の飽和又は不飽和の脂環族化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族化合物;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物;等を例示することができる。
【0048】
本発明の超高分子量ポリエチレン組成物は、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、抗ブロッキング剤、スリップ剤、滑剤、核剤、顔料等;カーボンブラック、タルク、ガラス粉、ガラス繊維、金属粉等の無機充填剤または補強剤;有機充填剤または補強剤;難燃剤;中性子遮蔽剤等の公知の添加剤、更には、ポリプロピレン系樹脂、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリスチレン、これらの無水マレイン酸グラフト物等の樹脂を配合していても良く、このような添加剤の添加方法としては、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレンに配合する方法、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレンと、成形の際にブレンドする方法、予めドライブレンドもしくはメルトブレンドする方法、等を挙げることができる。
【0049】
そして、本発明の超高分子量ポリエチレン組成物は、超高分子量ポリエチレンの有する優れた耐熱性、機械的特性と共に、ポリエチレンの有する優れた加工性を有し、さらに優れた延伸性、クリーン性も有するものであることから、延伸微多孔膜に特に適したものとなる。
【0050】
該延伸微多孔膜としては、膜強度と透過性に影響する膜抵抗とのバランスに優れるものとなることから空隙率10%以上80%以下、特に25%以上65%以下の延伸微多孔膜であることが好ましい。その際の膜厚としては、0.001〜1mm、平均細孔径としては、1〜1000nmであることが好ましい。その際の空隙率は、例えば空隙率(V%)=100−10×(10cm×10cmの延伸微多孔膜重量)(W、g)/(延伸微多孔膜の真密度(g/cm
3)×延伸微多孔膜の膜厚(d、mm))により求めることができる。また、延伸微多孔膜の膜厚(mm)は、例えば該延伸微多孔膜の30点で接触式膜厚計にて膜厚を測定し、その平均値として求めることができる。平均細孔径は、窒素吸着法、水銀圧入法の他、走査型電子顕微鏡による観察により得られた画像から画像解析により求めることも可能である。
【0051】
該延伸微多孔膜は、特に強度に優れ、薄膜化が可能となることから、23℃で測定した引張破断強度が150MPa以上であることが好ましい。また、特に耐熱性、高温時の耐久性、安定性に優れることから熱収縮率が2%以下であることが好ましい。なお、本発明における引張破断強度は、例えば引張試験機等により測定できる。その際の測定条件としては、初期長20mmの試験片を延伸速度10〜100mm/分で延伸するなどして測定することができる。また、熱収縮率は、5cm角の微多孔膜を例えば、1時間100℃で加熱した後、24時間放冷し、その後の収縮率を測定することにより測定することができる。
【0052】
本発明の超高分子量ポリエチレン組成物を延伸微多孔膜とする際の製造方法としては特に制限は無く、例えば超高分子量ポリエチレン組成物と有機溶媒とを50℃以上300℃以下の温度で混合しシート状物とした後、該シート状物から有機溶媒の除去を行う工程と二軸延伸を施す工程を付する方法を挙げることができる。
【0053】
その際の有機溶媒としては、例えばオクタン、デカン、ドデカン、オクタデンカン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の高沸点の脂肪族炭化水素又は脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素;ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;直鎖もしくは分岐状の流動パラフィン;パラフィンワックス;炭素数5以上の高級アルコール;フタル酸エステル類、又はこれらの混合物を挙げることができる。また、該超高分子量ポリエチレン組成物と有機溶媒を混合する際には、効率よく均一性、平滑性に優れる延伸微多孔膜が得られることから超高分子量ポリエチレン組成物の濃度が0.5wt%以上60wt%以下であることが好ましく、5wt%以上40wt%以下であることが特に好ましい。そして、超高分子量ポリエチレン組成物と有機溶媒とを混合する際には、例えば攪拌翼を取り付けた反応槽で混合する方法、単軸、二軸等の押出機で押出混練する方法、反応器での混合の後、押出混練をする方法等の方法を挙げることができる。そして、得られた混合物は、例えば圧縮成形、Tダイ、サーキュラーダイ等からの押出法、インフレーション成形等の方法により、有機溶媒を含むシート状物として成形される。
【0054】
さらに、該シート状物から有機溶媒を除去する工程としては、例えば加熱による乾燥法、低融点の脂肪族又は脂環族炭化水素、アルコール、ハロゲン化炭化水素等による溶媒抽出後、乾燥する方法等が挙げられる。
【0055】
また、二軸延伸を施す工程としては、例えば同時二軸延伸法、逐次二軸延伸を行う遂次二軸延伸法等を行う工程を挙げることができ、その際の延伸速度、延伸温度は一定又は変化を伴う多段階であってもよい。延伸倍率が縦方向に2〜20倍、横方向に2〜20倍のものであることが好ましい。延伸温度は、0℃以上200℃以下が好ましい。なお、有機溶媒の除去工程、二軸延伸を行う工程の工程順は任意であり、例えば有機溶媒の除去の後に二軸延伸を行なっても、二軸延伸の後に有機溶媒の除去を行なっても、これらを同時におこなってもよい。また、延伸後、アニーリングを施すこともできる。
【0056】
該延伸微多孔膜は、強度、耐熱性に優れることから、気体分離膜、ガス透過膜、テープ、チューブ、セパレータ、等の部材として用いることができる。