(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686630
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】重金属等不溶化材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/02 20060101AFI20200413BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20200413BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20200413BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200413BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20200413BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
B01J20/02 BZAB
B09B3/00 304K
B09B3/00 304G
C02F1/28 B
C02F1/28 L
C02F1/28 E
C09K3/00 S
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-68596(P2016-68596)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-177011(P2017-177011A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】板谷 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
(72)【発明者】
【氏名】林 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】下川 吉信
【審査官】
高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−236073(JP,A)
【文献】
特表平05−500325(JP,A)
【文献】
特開2010−214254(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/126691(WO,A1)
【文献】
特開2015−166080(JP,A)
【文献】
特表2009−526198(JP,A)
【文献】
特開2002−239378(JP,A)
【文献】
特表2015−506452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 − 20/28
20/30 − 20/34
B09B 1/00 − 5/00
C02F 1/28
C08K 3/00
3/20 − 3/32
C04B 2/00 − 32/02
40/00 − 40/06
F23G 5/00
5/20 − 5/22
5/32 − 5/38
F23J 3/00 − 7/00
11/00 − 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが8以上となる環境下で用いる重金属等不溶化材であって、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とし、アルミニウム含量が8.86〜11.22質量%で、カルシウム含量が46.53〜48.92質量%で、Si含量が23.18〜27.48質量%で、Mg含量が6.47〜7.99質量%であり、重金属等はセレン及び/又はフッ素であることを特徴とする、重金属等不溶化材。
【請求項2】
半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とする、重金属等不溶化材であって、重金属等はセレン及び/又はフッ素であり、前記重金属等不溶化材中のアルミニウム含量が8.86〜11.22質量%で、カルシウム含量が46.53〜48.92質量%で、Si含量が23.18〜27.48質量%で、Mg含量が6.47〜7.99質量%となるように、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントの配合を予め決定して配合することを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の重金属等不溶化材の製造方法において、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメント中のアルミニウム含量及びカルシウム含量をそれぞれ予め測定しておくことを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属等不溶化材及びその製造方法に関し、特に石炭灰等から溶出するセレンやフッ素等の重金属等を吸着低減するための最適な配合を有する重金属等不溶化材、及び、石炭灰等から溶出する重金属等であるセレンやフッ素等を吸着低減するための最適な配合を容易に予め決定して、その決定した配合割合で配合することにより製造ができる、重金属等不溶化材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、人体へ悪影響を及ぼし、皮膚障害、嘔吐、全身ケイレン、神経過敏症、貧血、胃腸障害等を引き起こすことがあることから、水質汚濁防止法により排水中の濃度が規制されている。
一方、セレンは、ガラスの着色、脱色剤や光伝導性を利用し複写機感光体などの電気材料、触媒等の製造に広く利用されているため、ガラス工場、半導体工場等からの排水に含有されており、これらの工場跡地の土壌から溶出することがある。
【0003】
さらに、「石炭灰中の砒素・セレンに関する溶出特性の検討」(井野場誠治、下垣久、電力中央研究所 研究報告書(2004))によれば、従前より炭種によっては一般土壌より高濃度のセレンを含有する石炭灰が火力発電所等から排出されている。
【0004】
近年、産業廃棄物の投棄等により、該廃棄物に含有される重金属で土壌が汚染される問題や、また工場跡地における土壌汚染も問題となっている。
更に、石炭灰を路盤材として用いているが、石炭灰にはセレンやフッ素等の重金属等を含有しているものも存在し、これらの重金属等の溶出が問題となっている。
【0005】
特に、「全国実態調査報告書(2013)」(一般財団法人石炭エネルギーセンター)によれば、福島第一原発事故後、日本の総発電量に占める石炭火力発電の割合が増加し、それに伴い石炭灰排出量の増加が見られている報告がなされており、今後、石炭灰の利用は増加するものと推測できる。
【0006】
しかし、例えば、農産物を生育する上で、土壌汚染は深刻な問題であり、重金属等が溶出すると、地下水が汚染され、健康被害が深刻な問題となっている。
またヒトだけでなく、周辺の生態系へ及ぼす影響も無視できるものではなく、社会的な問題として、大きく注目されている。
【0007】
かかる事情に鑑み、石炭灰や土壌から溶出する重金属等及び重金属等含有廃水を処理することができる方法や不溶化材が期待されている。
【0008】
排水処理及び土壌中における重金属等不溶化材として使用される薬剤として硫酸ナトリウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、酸化マグネシウム、チタン塩、セリウム塩、キレート剤、ハイドロタルサイト、シュベルトマナイトなどが知られているが、これらの薬剤は、不溶化効果が低かったり、複合汚染に対応することが困難であったり、コストが高かったり、安定的な確保が難しい等の問題を有していた。
【0009】
これらの問題に鑑み、不溶化材として半焼成ドロマイト、 仮焼ドロマイトや部分分解ドロマイト等と称されているドロマイト系吸着材が提案されており、例えば以下のドロマイト材が開示されている。
特開2012−157834号公報(特許文献1)には、ドロマイトを焼成して得られた、遊離酸化カルシウムの含量が1.2重量%以下であって、遊離酸化マグネシウムの含量が8重量%以上である半焼成ドロマイトと、水可溶性の鉄化合物との配合物からなる排水中のフッ素および/または重金属イオンの除去剤が開示されている。
【0010】
また、特開2011−240325号公報(特許文献2)には、ドロマイトを焼成して得られた、遊離酸化カルシウムの含量が1.2重量%以下であって、遊離酸化マグネシウムの含量が8重量%以上である半焼成ドロマイトを有効成分とする排水中の重金属イオンおよび(または)リン酸イオンの除去剤が開示されている。
【0011】
しかし、アルカリ環境下で、優れたセレンやフッ素等の除去率を有する重金属等不溶化材及びその製造を簡易にする設計基準を設けて重金属等不溶化材を製造する技術思想は一切記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−157834号公報
【特許文献2】特開2011−240325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、アルカリ性環境下においても、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去能に優れる重金属等不溶化材を提供することである。
また、本発明の他の目的は、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分として含有し、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去能に優れる重金属等不溶化材を製造するための配合設計を予め決定することができる、簡易な重金属等不溶化材の製造方法を提供することである。
特に、石炭灰を路盤材に用いたときにはアルカリ性環境が形成されるので、かかるアルカリ環境下において、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去能に優れる重金属等不溶化材及び重金属等不溶化材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去率と、重金属等不溶化材中のアルミニウム及びカルシウム含量とが相関性を有することを見出し、重金属等不溶化材中のアルミニウムとカルシウムの含量が特定の含量となるように予め設計することにより、本発明に到ったものである。
本発明は、以下の技術的特徴を有するものである。
【0015】
(1)本発明の重金属等不溶化材は、pHが8以上となる環境下で用いる重金属等不溶化材であって、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とし、アルミニウム含量が8
.86〜1
1.22質量%で、カルシウム含量が4
6.53〜4
8.92質量%で、Si含量が23.18〜27.48質量%で、Mg含量が6.
47〜7.99質量%であ
り、重金属等はセレン及び/又はフッ素であることを特徴とする、重金属等不溶化材であ
る。
【0016】
(
2)本発明の重金属等不溶化材の製造方法は、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とする、重金属等不溶化材であって、
重金属等はセレン及び/又はフッ素であり、前記重金属等不溶化材中のアルミニウム含量が8
.86〜1
1.22質量%で、カルシウム含量が4
6.53〜4
8.92質量%で、Si含量が23.18〜27.48質量%で、Mg含量が6.
47〜7.99質量%となるように、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントの配合を予め決定して配合することを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法である。
【0017】
(
3)上記(
2)の重金属等不溶化材の製造方法において、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメント中のアルミニウム含量及びカルシウム含量をそれぞれ予め測定しておくことを特徴とする。
【0018】
(4)上記(
2)乃至(
3)のいずれかの重金属等不溶化材の製造方法は、pHが8以上となる環境下で重金属等不溶化材を用いるための製造であることを特徴とする。
【0019】
なお、本発明において、重金属等とは、土壌汚染対策法で定める第二種特定有害物質を意味し、セレン等の半金属や、フッ素等のハロゲンも、「重金属等」として表す。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重金属等不溶化材は、石炭灰を路盤材に用いた際等のアルカリ性環境において、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去能に優れることができる。
また、本発明の重金属等不溶化材の製造方法は、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分として含有して、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去能に優れる重金属等不溶化材の配合設計を、予め決定することができるため、セレンやフッ素等に対して、優れた重金属等吸着性能を有する不溶化材の製造を容易にすることができる。
特に、石炭灰を路盤材に用いた際のアルカリ性環境において、セレンやフッ素等の重金属等吸着除去能に優れる重金属等不溶化材を製造するための配合設計を予め決定して、製造することが可能となる。
従って、半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメント中の各アルミニウム量とカルシウム量とを予め測定することで、半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメントを配合する最適な配合割合を予め設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一例の重金属等不溶化材のセレン吸着除去率と、pH環境との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を以下の実施態様により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の重金属等不溶化材は、pHが8以上となる環境下で用いる重金属等不溶化材であって、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とし、アルミニウム含量が8質量%以上で且つカルシウム含量が45〜50質量%である、重金属等不溶化材である。
かかる含量で、アルミニウムとカルシウムとを含むことにより、pHが8以上のアルカリ環境下においても、セレンやフッ素等の重金属等を効率的に吸着除去することが可能となる。
【0023】
また、本発明の重金属等不溶化材の製造方法は、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とする重金属等不溶化材であって、前記重金属等不溶化中のアルミニウム含量が8質量%以上で且つカルシウム含量が45〜50質量%、好ましくは45〜47質量%となるように、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントの配合割合を予め決定して調製する、重金属等不溶化材の製造方法である。
【0024】
特に、本発明の重金属等不溶化材の製造方法は、重金属等、特にセレン及び/又はフッ素を有効に吸着除去することができる重金属等不溶化材の最適な配合割合を決定するための製造方法であり、本発明の重金属等不溶化材は、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とする重金属等不溶化材である。
【0025】
半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを必須成分とする重金属等不溶化材を構成する半焼成ドロマイトとしては、市場で入手し得る任意の半焼成ドロマイトを用いることができ、産地や原料ドロマイトの組成は問わない。
ドロマイトは、石灰石CaCO
3とマグネサイトMgCO
3のモル比が1:1となる複塩構造をとっており、CO
32−基を挟んでCa
2+イオンとMg
2+イオンが交互に層を成しており、一般に、炭酸マグネシウムの割合が10〜45質量%のものをいう。ドロマイトは、国内に多量に存在しており、ドロマイトを使用した重金属等吸着材は、コストや環境負荷の点からも有利である。
【0026】
半焼成ドロマイトは、重金属等不溶化性能を発現することに大きく貢献しており、MgO系や軽焼ドロマイトと比較してpHが9〜10と弱アルカリ性であることから、本発明に好適に適用することができるものである。
【0027】
特に、半焼成ドロマイトとしては、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析したドロマイト焼成物中の残留CaMg(CO
3)
2相の含量が、0.4≦x≦35.4(質量%)となる半焼成ドロマイトを好適に用いることができる。
これは、半焼成ドロマイト中に含まれるCaMg(CO
3)
2相を定量して、上記範囲内の残留量とすることで、原料となるドロマイト鉱石の産地による組成の相違や、焼成温度等の焼成条件の設定などに関係なく、ドロマイトが最大に優れた重金属等吸着性能を有することが可能となるからである。
【0028】
ドロマイトは焼成することで、CaMg(CO
3)
2→MgO+CaCO
3+CO
2であらわされる分解反応を示す。ドロマイトの焼成による上記熱分解により、細孔及びMgOが形成されて重金属等不溶化能を発揮しているものと考えられる。
特に、ドロマイトを焼成した半焼成ドロマイト中のドロマイト相(CaMg(CO
3)
2相)の残留量を粉末X線回折によるリートベルト法により解析して、残留CaMg(CO
3)
2相の含量が、0.4≦x≦35.4(質量%)、好ましくは1.8≦x≦17.4(質量%)となる半焼成ドロマイトであれば、該ドロマイトが、より優れた重金属等不溶化性能を得ることができることとなる。
残留CaMg(CO
3)
2相の含量が、上記範囲内とすることで、重金属等を、より良好に不溶化することを実現することが可能となるものである。
【0029】
かかる好適な半焼成ドロマイトは、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析したドロマイト焼成物中の残留CaMg(CO
3)
2相の含量が、0.4≦x≦35.4(質量%)となるように焼成することで製造することができる。
ドロマイトを焼成する温度は、特に限定されず、通常ドロマイトを焼成して半焼成ドロマイトを製造する温度、例えば650〜1000℃で焼成することができる。残留CaMg(CO
3)
2相の含量が、0.4≦x≦35.4(質量%)となるように焼成すれば焼成時間も制限されるものではない。
【0030】
また、重金属等不溶化材を構成する高炉スラグとしては、特に限定されず、市場で入手し得る任意の高炉スラグを用いることができ、由来やその組成は問わない。
例えば、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ等を例示することができる。
【0031】
重金属等不溶化材を構成する普通ポルトランドセメントしては、特に限定されず、市場で入手し得る任意の普通ポルトランドセメントを用いることができ、普通ポルトランドセメントは、JIS R 5210に規定されている性質を有するものである。
【0032】
本発明の重金属等不溶化材を調製するにあったては、上記半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメント中に含まれるアルミニウムの含量及びカルシウムの含量を予め測定する。
分析方法としては、これらの各材料を分析して、含有されるアルミニウム含量及びカルシウム含量を測定することができれば、任意の分析方法で測定することができる。好ましくは、半焼成ドロマイトの各成分の含量は、JIS M 8851「ドロマイトの分析方法」に準じて分析した値、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントの各成分の含量は、JIS R 5202[セメントの化学分析方法]を用いて分析した値等を用いることができ、予め上記各材料中のアルミニウム含量及びカルシウム含量を分析測定する。
上記各材料中のアルミニウムの含量及びカルシウムの含量を予め測定しておくことにより、セレンやフッ素等の重金属等を吸着除去するための最適な配合割合の設計を決定することが容易となる。
【0033】
セレンやフッ素等の重金属等を吸着除去するための最適な配合設計は、半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメントを必須成分として配合して得られる重金属等不溶化材中のアルミニウム含量が、8質量%以上で且つカルシウム含量が45〜50質量%となるように、好ましくはアルミニウム含量が8〜12質量%で且つカルシウム含量が45〜47質量%となるように、アルミニウム量とカルシウム量が予め測定されている半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメントを配合する。
このように最適な配合割合を設計して決定することで、セレンやフッ素等の重金属等を効率的に吸着除去できる重金属等不溶化材得ることができる。
【0034】
本発明は、重金属等不溶化材中に含まれるアルミニウム及びカルシウムにだけ注目して、重金属等不溶化材中のアルミニウム及びカルシウムの含有割合が本発明の範囲内に入るように、半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメントの配合割合を予め決定すればよく、極めて簡易に最適配合設計を決定すること可能となり、かかる予め決定した最適配合割合に応じて、半焼成ドロマイト、高炉スラグ、普通ポルトランドセメントを配合することで、本発明の重金属等不溶化材を容易に製造することが可能となる。
【0035】
特に、石炭灰を路盤材等に用いた場合には、雨水等により石炭灰からセレンやフッ素が溶出され、また環境がアルカリ性環境となる。
本発明の重金属等不溶化材、具体的には本発明の製造方法により設計製造された重金属等不溶化材は、かかるアルカリ性環境下において、重金属等であるセレンやフッ素等を効率的に吸着除去できる重金属等不溶化材とすることができる。
【0036】
本発明の重金属等不溶化材及びその製造方法を以下の具体例により詳述する。
半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントに含まれる各成分を分析して測定する。その結果を例えば下記表1に示す。
なお、表1に示す半焼成ドロマイトの各成分の含量は、JIS M 8851[ドロマイトの分析方法]に準じて分析した値、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントの各成分の含量は、JIS R 5202[セメントの化学分析方法]に準じて分析した値を示す。
【0037】
次いで、下記表1に示す各成分を有する半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを用い、下記表2に示す各配合割合で当該半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントを配合して均一に混合することにより、各重金属等不溶化材を調製する。
【0040】
上記表1及び表2より算出した各重金属等不溶化材の成分の含量を、以下の表3に示す。
【0042】
下記表4に示す各試薬を用いて調製したセレン(Se)とフッ素(F)とをそれぞれ1mg/lで含む溶液(セレンとフッ素とを両方含む)100mlに、上記表3に示す各重金属等不溶化材を1g添加配合し、24時間振とうして均一に混合する。
【0044】
次いで、24時間経過後、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引濾過を実施し、固液分離を行い、ろ液中のセレン濃度を「水素化合物発生ICP発光分光分析法」(JIS K 0102:2013)により測定して定量し(Cf)、また、当該ろ液中のフッ素の濃度は、JIS K 0170−20116に準じて、フッ素連続流れ分析装置(ビーエルテック(株)「連続流れ分析装置 SWAAT」)を用いて測定して、下記式より吸着除去率を算出する。
吸着除去率(%)=(Ci−Cf)/Ci×100
上記式中、Ci=吸着試験における初期濃度(mg/l)、Cf=吸着試験における最終濃度(mg/l)を示す。
その結果を下記表5に示す。
【0045】
また、ろ液のpH及び酸化―還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F−73(pH電極:9615S−10D、ORP電極:9300−10D)にて測定する。
その結果を表5に示す。
なお、ろ液のpHが12以上の高アルカリの状態は、石炭灰を路盤材として利用した場合の環境と同様の環境を示す。
【0047】
上記表3及び表5より、半焼成ドロマイト、高炉スラグ及び普通ポルトランドセメントからなる重金属等不溶化材中に含有される各成分のうち、セレン及びフッ素の吸着除去率とアルミニウム及びカルシウム含量とが相関関係にあることがわかる。
従って、セレン及びフッ素を有効に吸着除去するためには、重金属等不溶化材中のアルミニウム含量を8質量%以上、好ましくは8〜11質量%で且つカルシウム含量が45〜50質量%、好ましくは45〜46質量%となるように、重金属等不溶化材を設計すればよいことがわかる。
【0048】
重金属等不溶化材中のアルミニウム含量が8質量%以上、好ましくは8〜12質量%で、且つ、カルシウム含量が45〜50質量%、好ましくは45〜47質量%となるように、重金属等不溶化材を設計することで、セレンの吸着除去率を68%以上、好ましくは70%以上とすることができ、またフッ素の吸着除去率を45質量%以上とすることができることがわかる。
【0049】
また下記表6に示す各Good’s Bufferを用いて、セレンの吸着除去率とpHとの関係を測定する。
具体的には、まず、下記6に示す各Good’s Bufferを、超純水に1M添加し、その後NaOH(試薬:和光純薬工業(株))を用いて、表6に示す各pHに調整し、上記表4示すセレン(Se(IV))を用いて調製した1000mg/lのセレン溶液を添加して、セレン(IV)1mg/l標準液を調製する。
【0051】
各標準液100mlに、上記表3に示すNo.8の重金属等不溶化材を1g添加配合し、24時間振とうして均一に混合する。
次いで、24時間経過後、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引濾過を実施し、固液分離を行い、各標準液中のセレン濃度を「水素化合物発生ICP発光分光分析法」(JIS K 0102:2013)により測定して定量し(Cf)、下記式より吸着除去率を算出する。
吸着除去率(%)=(Ci−Cf)/Ci×100
上記式中、Ci=吸着試験における初期濃度(mg/l)、Cf=吸着試験における最終濃度(mg/l)を示す。
その結果を、表7に示す。
【0052】
また、各標準液中の酸化―還元電位(ORP)を、ORP電極:9300−10D)にて測定する。
その結果を表7及び
図1に示す。
【0054】
上記表7及び
図1の結果より、pHの上昇とともに、特に、pHが8以上となるアルカリ環境下において、セレンの除去吸着率も向上することがわかる。
従って、本発明の重金属等不溶化材、特に本発明の製造方法を適用して設計製造された重金属等不溶化材は、かかるアルカリ性環境下において、有効にセレンやフッ素等の重金属等を効率的に吸着除去できる重金属等不溶化材を得ることができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の重金属等不溶化材及びその製造方法は、例えば、石炭灰から溶出するセレンやフッ素等の重金属等を不溶化するために用いる重金属等不溶化材とすることが可能で、セレンやフッ素等の重金属等を効率良く、吸着除去する不溶化材の設計に適用することができ、例えば、トンネルやダム等の掘削工事や建設工事等によって大量に発生するセレンやフッ素等の重金属等を含む汚染土壌の処理や、工場等のセレンやフッ素等の重金属等を含む排水の処理に有効に適用して重金属等を不溶化することができる重金属等不溶化材に適用することができる。