特許第6686719号(P6686719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6686719熱線遮蔽微粒子分散体、熱線遮蔽合わせ透明基材、およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686719
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】熱線遮蔽微粒子分散体、熱線遮蔽合わせ透明基材、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20200413BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20200413BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20200413BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20200413BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C08L101/12
   C08K3/22
   C01G41/00 A
   C03C27/12 D
   C09K5/14 Z
【請求項の数】12
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-119125(P2016-119125)
(22)【出願日】2016年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-222783(P2017-222783A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2018年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 美香
(72)【発明者】
【氏名】福山 英昭
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−532822(JP,A)
【文献】 特開平08−259279(JP,A)
【文献】 特開2016−088960(JP,A)
【文献】 特開2016−029165(JP,A)
【文献】 特開2012−072402(JP,A)
【文献】 特開2011−063740(JP,A)
【文献】 特表2016−511799(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0030802(US,A1)
【文献】 特開2017−007889(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104828868(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C01G 25/00−47/00、49/10−99/00
C03C 27/00−29/00
C09K 3/00、3/20−3/32、5/00−5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な熱可塑性樹脂を含む熱線遮蔽微粒子分散体であって、
前記熱線遮蔽微粒子が、元素LおよびMと、タングステンと、酸素とを有し、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子であり
前記元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、
前記元素Mは、K、Rb、Csから選択される、前記元素Lとは異なる元素であり、
前記一般式のA、B、Cの値が0.25≦(A+B)/C≦0.35であり、Dの値は、前記複合タングステン酸化物が六方晶となることが出来るものであり、前記透明な熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項2】
前記熱線遮蔽微粒子のみによる光吸収を算出し、その可視光透過率を85%としたときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が30%以上60%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲における透過率の平均値が20%以下であり、且つ、波長2100nmにおける透過率が22%以下である熱線遮蔽微粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項3】
前記透明な熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、
または、前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項4】
前記熱線遮蔽微粒子を、0.5質量%以上80.0質量%以下含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項5】
前記熱線遮蔽微粒子分散体が、シート形状、ボード形状またはフィルム形状であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項6】
前記熱線遮蔽微粒子分散体に含まれる単位投影面積あたりの前記熱線遮蔽微粒子の含有量が、0.1g/m以上5.0g/m以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項7】
可視光透過率が70%のときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が10%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲に存在する透過率の平均値が8%以下であり、且つ、波長2100nmの透過率が5%以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体。
【請求項8】
複数枚の透明基材間に、請求項1から7のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体が存在していることを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材。
【請求項9】
可視光透過率が70%のときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が10%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲に存在する透過率の平均値が8%以下であり、且つ、波長2100nmの透過率が8.0%以下であることを特徴とする請求項8に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
【請求項10】
元素LおよびMと、タングステンと、酸素とを有し、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子であり
前記元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、
前記元素Mは、K、Rb、Csから選択される、前記元素Lとは異なる元素であり、
前記一般式のA、B、Cの値が0.25≦(A+B)/C≦0.35であり、Dの値は、前記複合タングステン酸化物が六方晶となることが出来るものである熱線遮蔽微粒子を、透明な熱可塑性樹脂中へ均一に混合して、熱線遮蔽微粒子分散体を得る工程を有することを特徴とする熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法により製造された熱線遮蔽微粒子分散体を、透明基材で挟む工程を有することを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法により製造された熱線遮蔽微粒子分散体を、フィルム状またはボード状に成形する工程を有することを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好で、且つ優れた熱線遮蔽機能を有しながら、所定の波長を有する近赤外光を透過する熱線遮蔽微粒子分散体および熱線遮蔽合わせ透明基材およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる熱線遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、導電性微粒子、導電性微粒子の分散体、および、合わせ透明基材を用いた熱線遮蔽技術は、その他の技術と比較して熱線遮蔽特性に優れ低コストであり電波透過性があり、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0003】
例えば特許文献1には、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明樹脂や、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明合成樹脂をシートまたはフィルムに成形したものを、透明合成樹脂基材に積層してなる赤外線吸収性合成樹脂成形品が提案されている。
【0004】
特許文献2には、少なくとも2枚の対向する板ガラスの間に、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの混合物を分散させた中間層を、挟み込んだ合わせガラスが提案されている。
【0005】
また、出願人は特許文献3にて、窒化チタン微粒子、ホウ化ランタン微粒子のうち少なくとも1種を分散した選択透過膜用塗布液や選択透過膜を開示している。
【0006】
しかし、特許文献1〜3に開示されている赤外線吸収性合成樹脂成形品等の熱線遮蔽構造体には、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽性能が十分でない、という問題点が存在した。例えば、特許文献1〜3に開示されている熱線遮蔽構造体の持つ熱線遮蔽性能の具体的な数値の例として、JIS R 3106に基づいて算出される可視光透過率(本発明において、単に「可視光透過率」と記載する場合がある。)が70%のとき、同じくJIS R 3106に基づいて算出される日射透過率(本発明において、単に「日射透過率」と記載する場合がある。)は、50%を超えてしまっていた。
【0007】
そこで出願人は、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、前記赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MxWyOz(但し、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有し、当該複合タングステン酸化物微粒子が六方晶、正方晶、または立方晶の結晶構造を有する微粒子のいずれか1種類以上を含み、前記赤外線遮蔽材料微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする熱線遮蔽分散体を、特許文献4として開示した。
【0008】
特許文献4に開示したように、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽分散体は高い熱線遮蔽性能を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は50%を下回るまでに改善された。とりわけ元素MとしてCsやRb、Tlなど特定の元素から選択される少なくとも1種類を採用し、結晶構造を六方晶とした複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽微粒子分散体は卓越した熱線遮蔽性能を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は37%を下回るまでに改善された。
【0009】
また、出願人は一般式MaWOc(但し、0.001≦a≦1.0、2.2≦c≦3.0、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種類以上の元素)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を含有し、前記一般式MaWOcで示される複合タングステン酸化物の粉体色L*a*b*表色系で評価したとき、L*が25〜80、a*が−10〜10、b*が−15〜15であることを特徴とする紫外・近赤外光遮蔽分散体を、特許文献5として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−136230号公報
【特許文献2】特開平8−259279号公報
【特許文献3】特開平11−181336号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2005/037932公報
【特許文献5】特開2008−231164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子や、それを用いた熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽ガラス、熱線遮蔽微粒子分散体や合わせ透明基材が、市場での使用範囲を拡大した結果、新たな課題が見出された。
その課題は、前記一般式MxWyOzで記載された複合タングステン酸化物微粒子、当該複合タングステン酸化物微粒子を含有した熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラス、当該複合タングステン酸化物微粒子を含有した分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材を、窓材等の構造体に適用した場合、当該窓材等を通過する光において、波長700〜1200nmの近赤外光の透過率も大きく低下してしまうことである。
当該波長領域の近赤外光は人間の眼に対してほぼ不可視であり、また安価な近赤外LED等の光源により発振が可能であることから、近赤外光を用いた通信、撮像機器、センサー等に広く利用されている。ところが、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた窓材等の構造体、熱線遮蔽体や熱線遮蔽基材、分散体や合わせ透明基材等の構造体は、当該波長領域の近赤外光も、熱線と伴に強く吸収してしまう。
この結果、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた窓材等の構造体、熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラス、分散体や合わせ透明基材を介しての、近赤外光を用いた通信、撮像機器、センサー等の使用が制限される事態になる場合も生じていた。
【0012】
例えば、特許文献4に記載された複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽フィルムを一般住宅の窓に貼りつけた場合、室内に置かれた赤外線発振機と室外に置かれた赤外線受信機からなる侵入探知装置の間の近赤外光による通信が妨害され、装置は正常に動作しなかった。
【0013】
上記課題が存在するにも関わらず、複合タングステン酸化物微粒子などを用いた熱線遮蔽フィルムや窓材等の構造体、分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材は熱線を大きくカットする能力が高く、熱線遮蔽を望まれる市場分野においては使用が拡大した。しかし、このような熱線遮蔽フィルムや窓材等の構造体、分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材を用いた場合は、近赤外光を用いる無線通信、撮像機器、センサー等を使用することが出来ないものであった。
【0014】
加えて、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子や、それを用いた熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽ガラス、熱線遮蔽微粒子分散体や合わせ透明基材は、波長2100nmの熱線の遮蔽が充分ではなかった。
【0015】
例えば、特許文献4に記載された複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽フィルムを一般住宅の窓に貼りつけた場合、室内で肌にジリジリとした暑さを感じた。
【0016】
本発明は、上述の状況の下で成されたものである。そして、その解決しようとする課題は、窓材等の構造体に適用された場合に、熱線遮蔽特性を発揮し、肌へのジリジリ感を抑制すると伴に、当該構造体、当該熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス、当該分散体や合わせ透明基材を介した近赤外光を用いる通信機器、撮像機器、センサー等の使用を可能とする、熱線遮蔽微粒子、および、当該熱線遮蔽微粒子を含有する、熱線遮蔽微粒子分散体、熱線遮蔽合わせ透明基材およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決する為、さまざまな検討を行った。
例えば、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽ガラス、熱線遮蔽微粒子分散体および熱線遮蔽合わせ透明基材を介した場合であっても、近赤外光を用いる通信機器、撮像機器、センサー等の使用を可能とするには、波長800〜900nmの領域における近赤外光の透過率を向上させれば良いと考えられた。そして、当該波長領域における近赤外光の透過率を単に向上させるだけであれば、複合タングステン酸化物微粒子の膜中濃度、熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスにおける複合タングステン酸化物微粒子の濃度、熱線遮蔽微粒子分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材における複合タングステン酸化物微粒子の膜中濃度を適宜減少させればよい、とも考えられた。
しかし、複合タングステン酸化物微粒子の濃度、熱線遮蔽微粒子分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材における複合タングステン酸化物微粒子の膜中濃度を減少させた場合、波長1200〜1800nmの領域をボトムとする熱線吸収能力も同時に低下し、熱線遮蔽効果を低下させることになり、肌へのジリジリ感も感じることになってしまう。
【0018】
ここで、太陽光が、肌へのジリジリ感を与えるのは、波長1500〜2100nmの熱線の影響が大きいためであると考えられる(例えば、尾関義一ほか、自動車技術会学術講演会前刷集 No.33−99、13(1999)参照。これは、人間の皮膚の持つ吸光度が、波長700〜1200nmの近赤外光に対しては小さい一方で、波長1500〜2100nmの熱線に対しては大きい為であると考えられる。
【0019】
以上の知見を基に、本発明者らは種々研究を重ねた結果、一般式NB´で表される複合タングステン酸化物微粒子においては、その近赤外吸収能が、プラズモン共鳴吸収とポーラロン吸収との2種類の要素で構成されていることに注目した。そして、当該2種類の構成要素が吸収する近赤外光の波長領域が異なることに想到した。そして、複合タングステン酸化物微粒子において、プラズモン共鳴吸収は保存したまま、ポーラロン吸収の大きさを制御するという画期的な構成に想到した。
【0020】
そして、前記一般式NB´で表される複合タングステン酸化物における元素Nに替えて、K、Rb、Csから2種以上の元素L、Mを選択し、当該2種以上の元素L、Mの配合比を制御することにより、当該複合タングステン酸化物微粒子のポーラロン吸収を制御する構成にも想到した。
【0021】
具体的には、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外吸収バンドは、波長1200〜1800nmをボトムとするプラズモン共鳴吸収と、波長700〜1200nm領域のポーラロン吸収とから構成されていることから、プラズモン共鳴吸収は保存したまま、ポーラロン吸収の大きさを制御することによって、波長1200〜1800nmの領域をボトムとする熱線吸収能力は保持したまま、波長800〜900nmの吸収を制御し、波長2100nmの領域における吸収能力が向上した複合タングステン酸化物微粒子を得ることが出来るとの知見を得たものである。
【0022】
しかしながら、当該ポーラロン吸収能を制御することで、波長800〜900nmの領域に近赤外光の透過率を向上させた複合タングステン酸化物微粒子は、熱線遮蔽微粒子の分散体における熱線遮蔽性能の評価基準として従来用いられていた指標(例えば、JIS R 3106で評価される可視光透過率に対する日射透過率。)を用いて評価した場合、従来の技術に係る複合タングステン酸化物と比較して劣るのではないか、とも懸念された。
そこで、当該観点から、ポーラロン吸収の大きさを制御することによって、波長800〜900nmの近赤外光の透過率を向上させた複合タングステン酸化物微粒子についてさらに検討した。
【0023】
そして、上述した、ポーラロン吸収の大きさを制御することによって波長800〜900nmの近赤外光の透過率を向上させた複合タングステン酸化物微粒子は、従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子と比較して、熱線遮蔽微粒子としての性能において劣るものではないことが知見された。
これは、ポーラロン吸収の大きさを制御することによって波長800〜900nmの近赤外光の透過率を向上させた複合タングステン酸化物微粒子において、プラズモン吸収の絶対値は減少するが、可視光での透過率が大きくなり単位面積当たりの複合タングステン酸化物微粒子濃度を高くすることができ、波長1500〜2100nmの熱線の透過を抑制できるためである。
【0024】
以上の検討の結果、本発明者らは、熱線遮蔽機能を有し、元素LおよびMと、タングステンと酸素とを有し、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子に想到し、本発明を完成した。
但し、前記元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、前記元素Mは、K、Rb、Csから選択される、前記元素Lとは異なる1種以上の元素である。
【0025】
さらに、本発明者らは、上述の本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽材料、熱線遮蔽微粒子分散体や合わせ透明基材においても、熱線遮蔽体としての性能において劣るものではなく、肌へのジリジリ感を抑制する観点からも、従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子と同等であることも知見し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
透明な熱可塑性樹脂を含む熱線遮蔽微粒子分散体であって、
前記熱線遮蔽微粒子が、元素LおよびMと、タングステンと、酸素とを有し、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子であり
前記元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、
前記元素Mは、K、Rb、Csから選択される、前記元素Lとは異なる元素であり、
前記一般式のA、B、Cの値が0.25≦(A+B)/C≦0.35であり、Dの値は、前記複合タングステン酸化物が六方晶となることが出来るものであり、前記透明な熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする熱線遮蔽微粒子分散体である。
第2の発明は、
前記熱線遮蔽微粒子のみによる光吸収を算出し、その可視光透過率を85%としたときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が30%以上60%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲における透過率の平均値が20%以下であり、且つ、波長2100nmにおける透過率が22%以下である熱線遮蔽微粒子を含むことを特徴とする第1の発明に記載の熱線遮蔽微粒子分散体である。
第3の発明は、
前記透明な熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、
または、前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、のいずれかであることを特徴とする第1または第2の発明に記載の熱線遮蔽微粒子分散体である。
第4の発明は、
前記熱線遮蔽微粒子を、0.5質量%以上80.0質量%以下含むことを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体である。
第5の発明は、
前記熱線遮蔽微粒子分散体が、シート形状、ボード形状またはフィルム形状であることを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体である。
第6の発明は、
前記熱線遮蔽微粒子分散体に含まれる単位投影面積あたりの前記熱線遮蔽微粒子の含有量が、0.1g/m以上5.0g/m以下であることを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体である。
第7の発明は、
可視光透過率が70%のときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が10%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲に存在する透過率の平均値が8%以下であり、且つ、波長2100nmの透過率が5%以下であることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体である。
第8の発明は、
複数枚の透明基材間に、第1から第7の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子分散体が存在していることを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材である。
第9の発明は、
可視光透過率が70%のときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が10%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲に存在する透過率の平均値が8%以下であり、且つ、波長2100nmの透過率が8.0%以下であることを特徴とする第8の発明に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材である。
第10の発明は、
元素LおよびMと、タングステンと、酸素とを有し、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子であり
前記元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、
前記元素Mは、K、Rb、Csから選択される、前記元素Lとは異なる元素であり、
前記一般式のA、B、Cの値が0.25≦(A+B)/C≦0.35であり、Dの値は、前記複合タングステン酸化物が六方晶となることが出来るものである熱線遮蔽微粒子を、透明な熱可塑性樹脂中へ均一に混合して、熱線遮蔽微粒子分散体を得る工程を有することを特徴とする熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法である。
第11の発明は、
第10の発明に記載の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法により製造された熱線遮蔽微粒子分散体を、透明基材で挟む工程を有することを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法である。
第12の発明は、
第10の発明に記載の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法により製造された熱線遮蔽微粒子分散体を、フィルム状またはボード状に成形する工程を有することを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散体または熱線遮蔽合わせ透明基材は、熱線遮蔽特性を発揮し、肌へのジリジリ感を抑制すると伴に、これら構造体等が介在した場合であっても、近赤外光を用いた通信機器、撮像機器、センサー等の使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例1に係る粉末AのX線回折プロファイルである。
図2】実施例2に係る粉末BのX線回折プロファイルである。
図3】実施例3に係る粉末CのX線回折プロファイルである。
図4】実施例4に係る粉末DのX線回折プロファイルである。
図5】実施例5に係る粉末EのX線回折プロファイルである。
図6】実施例6に係る粉末FのX線回折プロファイルである。
図7】実施例7に係る粉末GのX線回折プロファイルである。
図8】比較例1に係る粉末HのX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、[a]熱線遮蔽微粒子、[b]熱線遮蔽微粒子の製造方法、[c]熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法、[d]熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法、の順で説明する。
【0030】
[a]熱線遮蔽微粒子
(複合タングステン酸化物微粒子)
本発明に係る熱線遮蔽微粒子は、元素LおよびMと、タングステンと、酸素とを有し、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子であって、前記元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、前記元素Mは、K、Rb、Csから選択される、前記元素Lとは異なる1種以上の元素である。具体的には、元素LおよびMとして、KRb、KCs、RbCs,KRbCs(各元素の順序は変更可能である。)の組み合わせをとることが出来る。
そして、当該複合タングステン酸化物微粒子のみによる光吸収を算出し、その可視光透過率を85%としたときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が30%以上60%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲における透過率の平均値が20%以下であり、且つ、波長2100nmにおける透過率が22%以下である熱線遮蔽微粒子である。
【0031】
そして、一般式(L)Wで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子において、元素LおよびMと、タングステンとの原子比が、0.001≦(A+B)/C≦1.0であることが好ましく、0.25≦(A+B)/C≦0.35であることがさらに好ましい。(A+B)/Cの値が0.001以上1.0以下、さらに好ましくは0.25以上0.35以下であれば、複合タングステン酸化物の六方結晶単相が得やすく、熱線吸収効果が十分に発現するためである。一方、Dの値は、複合タングステン酸化物が六方晶となることが出来るものであれば良い。尚、複合タングステン酸化物において、六方晶以外に、正方晶や斜方晶が析出することがある。これら六方晶以外の析出物の熱線吸収効果は、六方晶の複合タングステン酸化物の吸収特性には及ばない。尤も、これら六方晶以外の析出物が、六方晶の複合タングステン酸化物単体が発揮する熱線吸収効果へ影響しない程度に含まれていても特に問題は無い。
複合タングステン酸化物には、その他の不純物が含まれていないことが好ましい。当該不純物が含まれていないことは、複合タングステン酸化物粉末のXRD測定を行った際に、不純物のピークが観察されないことにより確認される。
【0032】
また、本発明にかかる複合タングステン酸化物において、熱線吸収効果などの低下のない限り、酸素の一部が他の元素で置換されていても構わない。当該他の元素としては、例えば、窒素や硫黄、ハロゲン等が挙げられる。
【0033】
本発明にかかる複合タングステン酸化物微粒子の粒子径は、当該複合タングステン酸化物微粒子や、その分散液を用いて製造される熱線遮蔽膜/熱線遮蔽基材の使用目的によって適宜選定することができるが、1nm以上800nm以下であることが好ましい。これは粒子径が800nm以下であれば、本発明にかかる複合タングステン酸化物微粒子による強力な近赤外吸収を発揮でき、また粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造が容易であるからである。
【0034】
熱線遮蔽膜を透明性が求められる用途に使用する場合は、当該複合タングステン酸化物微粒子が40nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。当該複合タングステン酸化物微粒子が40nmよりも小さい分散粒子径を有していれば、微粒子のミー散乱およびレイリー散乱による光の散乱が十分に抑制され、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することが出来るからである。自動車の風防など特に透明性が求められる用途に使用する場合は、さらに散乱を抑制するため、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を30nm以下、好ましくは25nm以下とするのが良い。
【0035】
[b]熱線遮蔽微粒子の製造方法
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0036】
まず、タングステン化合物出発原料について説明する。
本発明にかかるタングステン化合物出発原料は、タングステン、元素、元素それぞれの単体もしくは化合物を含有する混合物である。タングステン原料としてはタングステン酸粉末、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステン粉末をアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。元素LおよびMの原料としては、元素Lまたは元素Mの単体、元素Lまたは元素Mの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酸化物、炭酸塩、タングステン酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0037】
上述したタングステン、元素LおよびMに係るそれぞれの原料を秤量、タングステン化合物出発原料、元素LおよびMを0.001≦(A+B)/C≦1.0を満たす所定量をもって配合し混合する。このとき、元素LおよびM、タングステンに係るそれぞれの原料ができるだけ均一に、可能ならば分子レベルで均一混合していることが好ましい。したがって前述の各原料は溶液の形で混合することがもっとも好ましく、各原料が水や有機溶剤等の溶媒に溶解可能であることが好ましい。
各原料が水や有機溶剤等の溶媒に可溶であれば、各原料と溶媒を十分に混合したのち溶媒を揮発させることで、本発明にかかるタングステン化合物出発原料を製造することができる。もっとも各原料に可溶な溶媒がなくとも、各原料をボールミル等の公知の手段で十分に均一に混合することで、本発明にかかるタングステン化合物出発原料を製造することができる。
【0038】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。まず、不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、400℃以上1000℃以下が好ましい。400℃以上で熱処理された出発原料は十分な熱線吸収力を有し、熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることがよい。
【0039】
また、還元性雰囲気中における熱処理条件としては、出発原料を300℃以上900℃以下で熱処理することが好ましい。300℃以上であれば本発明にかかる六方晶構造を持つ複合タングステン酸化物の生成反応が進行し、900℃以下であれば六方晶以外の構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子や金属タングステンといった意図しない副反応物が生成し難く好ましい。
【0040】
この時の還元性ガスは、特に限定されないが、Hが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N等の不活性ガスにHを体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2%以上混合したものである。Hが体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。当該還元温度および還元時間、還元性ガスの種類と濃度といった条件により、一般式(L)Wで表記され、六方晶系の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子(但し、元素Lは、K、Rb、Csから選択される元素であり、元素Mは、K、Rb、Csから選択され、且つ、前記元素Lとは異なる1種以上の元素である。)を生成させることが出来る。上述したように、当該複合タングステン酸化物の構造中における、元素LおよびMと、Wとの原子数比が0.001≦(A+B)/C≦1.0であることが好ましく、0.25≦(A+B)/C≦0.35であることがさらに好ましいが、上述の処理条件を適宜調整することで実現することが出来る。
必要に応じて、還元性ガス雰囲気中にて還元処理を行った後、不活性ガス雰囲気中にて熱処理を行ってもよい。この場合の不活性ガス雰囲気中での熱処理は400℃以上1200℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0041】
本発明に係る熱線遮蔽微粒子が表面処理され、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上を含有する化合物、好ましくは酸化物で被覆されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。当該表面処理を行うには、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上を含有する有機化合物を用いて、公知の表面処理を行えばよい。例えば、本発明に係る熱線遮蔽微粒子と有機ケイ素化合物とを混合し、加水分解処理を行えばよい。
【0042】
[c]熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法
熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法について(1)粉粒体状の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法、(2)シート形状またはフィルム形状の熱線遮蔽微粒子分散体(熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽シート)の製造方法、の順で説明する。
【0043】
(1)粉粒体状の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法
本発明に係る熱線遮蔽微粒子と、脂肪酸および/または脂肪酸アミドと、液状の媒体へ、所望により適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を添加し分散処理を行うことで、本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散液を得ることができる。
熱線遮蔽微粒子を液状の媒体へ分散する方法は、当該微粒子が均一に液状の媒体に分散する方法であれば任意に選択できる。例としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることが出来る。
【0044】
媒体としては水、有機溶媒、石油系溶剤、油脂、液状樹脂、プラスチック用の液状可塑剤、あるいはこれらの混合物を選択し熱線遮蔽分散液を製造することができる。上記の要求を満たす有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3−メチル−メトキシ−プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などを挙げることができる。これらの中でも極性の低い有機溶剤が好ましく、特に、イソプロピルアルコール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n−ブチルなどがより好ましい。これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
石油系溶剤としては、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)などが好ましい。
【0046】
液状の樹脂としては、メタクリル酸メチル等が好ましい。プラスチック用の液状可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤などが好ましい例として挙げられる。なかでもトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサオネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサオネートは、加水分解性が低い為、さらに好ましい。
【0047】
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有することが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、熱線遮蔽膜中でも本発明に係る熱線遮蔽微粒子を均一に分散させる効果を持つ。
【0048】
好適に用いることのできる分散剤としては、リン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等があるが、これらに限定されるものではない。高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤などが挙げられる。
【0049】
当該分散剤の添加量は、熱線遮蔽微粒子100重量部に対し10重量部〜1000重量部の範囲であることが望ましく、より好ましくは20重量部〜200重量部の範囲である。分散剤添加量が上記範囲にあれば、熱線遮蔽微粒子が液中で凝集を起こすことがなく、分散安定性が保たれる。
【0050】
分散処理の方法は当該熱線遮蔽微粒子が均一に液状媒体中へ分散する方法であれば公知の方法から任意に選択でき、たとえばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることができる。
均一な熱線遮蔽微粒子分散液を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pH調整したりしても良い。
【0051】
上述した熱線遮蔽微粒子分散液中における熱線遮蔽微粒子の含有量は0.01質量%〜50質量%であることが好ましい。0.01質量%以上であれば後述するプラスチック成型体などの製造に好適に用いることができ、50質量%以下であれば工業的な生産が容易である。さらに好ましくは1質量%以上35質量%以下である。
【0052】
熱線遮蔽微粒子分散液から揮発成分を除去することで、本発明に係る分散粉や可塑剤分散液を得ることが出来る。熱線遮蔽微粒子分散液から揮発成分を除去する方法としては、当該熱線遮蔽微粒子分散液を減圧乾燥することが好ましい。具体的には、熱線遮蔽微粒子分散液を攪拌しながら減圧乾燥し、熱線遮蔽微粒子含有組成物と揮発成分とを分離する。当該減圧乾燥に用いる装置としては、真空攪拌型の乾燥機があげられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の際の圧力値は適宜選択される。
【0053】
当該減圧乾燥法を用いることで、熱線遮蔽微粒子分散液からの揮発成分の除去効率が向上すると伴に、本発明に係る分散粉や可塑剤分散液が長時間高温に曝されることがないので、分散粉や可塑剤分散液中に分散している熱線遮蔽微粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに分散粉や可塑剤分散液の生産性も上がり、蒸発した揮発成分を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0054】
当該乾燥工程後に得られた本発明に係る分散粉や可塑剤分散液において、残留する揮発成分は5質量%以下であることが好ましい。残留する揮発成分が5質量%以下であれば、当該分散粉や可塑剤分散液を、熱線遮蔽合わせ透明基材に加工した際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
【0055】
また、熱線遮蔽微粒子や前記分散粉と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に混合したのち、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、一般的な溶融押出されたストランドをカットする方法によりペレット状に加工することによって、本発明に係るマスターバッチを得ることが出来る。この場合、その形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。この場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
【0056】
透明な熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体といった樹脂群から選択される樹脂、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体から、好ましい樹脂の選択を行うことが出来る。
【0057】
(2)シート状またはフィルム状の熱線遮蔽微粒子分散体の製造方法
本発明に係る分散粉、可塑剤分散液、またはマスターバッチを透明樹脂中へ均一に混合することにより、本発明に係るシート状またはフィルム状の熱線遮蔽微粒子分散体を製造できる。当該シート状またはフィルム状の熱線遮蔽微粒子分散体からは、従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子の持つ熱線遮蔽特性を担保し、耐湿熱性に優れた、本発明に係る熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムを製造できる。
【0058】
本発明に係る熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムを製造する場合、当該シートやフィルムを構成する樹脂には多様な熱可塑性樹脂を用いることが出来る。そして、本発明に係る熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムが各種の窓材に適用されることを考えれば、十分な透明性を持った熱可塑性樹脂であることが好ましい。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体といった樹脂群から選択される樹脂、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体から、好ましい樹脂の選択を行うことが出来る。
【0059】
さらに、本発明に係る熱線遮蔽シートをそのままボード状の窓材として使用する場合は、透明性が高く、且つ窓材として要求される一般的な特性、すなわち剛性、軽量性、長期耐久性、コストなどの点を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがさらに好ましい。
一方、本発明にかかる熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムを後述する熱線遮蔽合わせガラスの中間層として用いる場合は、透明基材との密着性、耐候性、耐貫通性などの観点から、ポリビニルアセタール樹脂やエチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルブチラール樹脂であることがさらに好ましい。
【0060】
また、熱線遮蔽シートまたは熱線遮蔽フィルムを中間層として用いる場合であって、当該シートやフィルムを構成する熱可塑性樹脂が単独では柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合、例えば熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、さらに可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤としては、本発明に係る熱可塑性樹脂に対して可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えばポリビニルアセタール樹脂で構成された熱線遮蔽フィルムに用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0061】
分散粉または可塑剤分散液またはマスターバッチと、熱可塑性樹脂と、所望に応じて可塑剤その他添加剤とを混練した後、当該混練物を、押出成形法、射出成形法等の公知の方法により、例えば、平面状や曲面状のシート材に成形することにより、熱線遮蔽シートを製造することができる。
熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムの形成方法には、公知の方法を用いることが出来る。例えば、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等を用いることができる。
【0062】
[d]熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法
本発明に係る熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムを、板ガラスまたはプラスチックの材質からなる複数枚の透明基材間に、中間層として介在させて成る熱線遮蔽合わせ透明基材について説明する。
熱線遮蔽合わせ透明基材は、中間層をその両側から透明基材を用いて挟み合わせたものである。当該透明基材としては、可視光領域において透明な板ガラス、または、板状のプラスチック、またはフィルム状のプラスチックが用いられる。プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であるが、例えば、自動車等の輸送機器に用いる場合は、当該輸送機器の運転者や搭乗者の透視性を確保する観点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂といった透明樹脂が好ましが、他にも、PET樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、等が使用可能である。
【0063】
本発明にかかる熱線遮蔽合わせ透明基材は、本発明に係る熱線遮蔽シートや熱線遮蔽フィルムを挟み込んで存在させた対向する複数枚の無機ガラスを、公知の方法で張り合わせ一体化することによっても得られる。得られた熱線遮蔽合わせ無機ガラスは、主に自動車のフロント用の無機ガラスや、建物の窓として使用することが出来る。
【0064】
前記熱線遮蔽シート、熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材に含まれる前記熱線遮蔽微粒子の濃度は特に限定されないが、シート/フィルムの投影面積あたりの含有量が、0.1g/m以上5.0g/m以下であることが好ましい。これは0.1g/m以上であれば熱線遮蔽微粒子を含有しない場合と比較して有意に熱線遮蔽特性を発揮でき、5.0g/m以下であれば熱線遮蔽シート/フィルムが可視光の透過性を完全には失わないからである。
【0065】
本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散体、および熱線遮蔽合わせ透明基材の光学特性は、可視光透過率が70%のときに、波長800〜900nmの範囲における透過率の平均値が13%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1500nmの範囲に存在する透過率の平均値が8%以下であり、且つ、波長2100nmの透過率が5%以下である。尚、可視光透過率を70%に調整することは、熱可塑性樹脂中の熱線遮蔽微粒子濃度の調整、または、熱可塑性樹脂の膜厚の調整により、容易になされる。
【0066】
また、本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材へさらに紫外線遮蔽機能を付与させるため、無機系の酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどの粒子、有機系のベンゾフェノンやベンゾトリアゾールなどの少なくとも1種以上を添加してもよい。
【0067】
また、本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率を向上させるために、熱可塑性樹脂中へATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛、インジウム錫複合酸化物などの粒子を、さらに混合してもよい。これらの透明粒子がコーティング層へ添加されることで、波長750nm付近の透過率が増加する一方、1200nmより長波長の赤外光を遮蔽するため、近赤外光の透過率が高く、且つ熱線遮蔽特性の高い熱線遮蔽微粒子分散体や熱線遮蔽合わせ透明基材が得られる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例、比較例における熱線遮蔽微粒子分散液の波長300〜2100nmの光に対する透過率は、分光光度計用セル(ジーエルサイエンス株式会社製、型番:S10−SQ−1、材質:合成石英、光路長:1mm)に分散液を保持して、日立製作所(株)製の分光光度計U−4100を用いて測定した。
当該測定の際、分散液の溶媒(メチルイソブチルケトン)を、上述のセルに満たした状態で透過率を測定し、透過率測定のベースラインを求めた。この結果、以下に説明する分光透過率、および可視光透過率は、分光光度計用セル表面の光反射や、溶媒の光吸収による寄与が除外され、熱線遮蔽微粒子による光吸収のみが算出されることとなる。
可視光透過率は、波長380〜780nmの光に対する透過率から、JIS R 3106に基づいて算出した。熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布計を用いて測定した。
【0070】
実施例、比較例における熱線遮蔽シート、および合わせ透明基材の光学特性は、分光光度計U−4000(日立製作所(株)製)を用いて測定した。可視光透過率は、波長380〜780nmの光に対する透過率からJIS R 3106に従って測定を行った。
【0071】
[実施例1]
(Rb/Cs/W(モル比)=0.30/0.03/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)の各粉末を、Rb/Cs/W(モル比)=0.30/0.03/1.00相当となる割合で秤量したのちメノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給下で加熱し600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下で800℃、30分間焼成して、実施例1に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末A」と略称する。)を得た。
【0072】
粉末AをX線回折法で測定した結果を図1に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Aは六方晶単相であることが判明した。従って、Rb成分、Cs成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0073】
粉末A20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と略称する。)10質量%、メチルイソブチルケトン70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、15時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液A」と略称する)を得た。ここで、分散液A内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ26nmであった。
【0074】
分散液Aを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Aの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は37.1%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は8.2%、波長2100nmの透過率は15.2%であることが判明した。
当該測定結果より、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子は、後述する比較例1に係る従来方法で作製したセシウムタングステンブロンズに比べて、可視光透過バンドが明らかに広がっており、波長2100nmの熱線遮蔽性能が向上していることが確認された。
分散液Aの測定結果を表1に記載した。
【0075】
分散液Aへ、さらに分散剤aを添加し、分散剤aと複合タングステン酸化物微粒子との質量比が[分散剤a/複合タングステン酸化物微粒子]=3となるように調製した。次に、スプレードライヤーを用いて、この複合タングステン酸化物微粒子分散液Aからメチルイソブチルケトンを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Aと略称する。)を得た。
【0076】
熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂に対して、製造される熱線遮蔽シート(2.0mm厚)の可視光透過率が70%となるように所定量の分散粉Aを添加し、熱線遮蔽シートの製造用組成物を調製した。
【0077】
この熱線遮蔽シートの製造用組成物を、二軸押出機を用いて280℃で混練し、Tダイより押出して、カレンダーロール法により2.0mm厚のシート材とし、実施例1に係る熱線遮蔽シート(以下、シートAと略称する。)を得た。
【0078】
上述したシートAの可視光透過率は70%であった。
シートAの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は19.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.8%、波長2100nmの透過率は2.5%、ヘイズは1.0%と測定された。シートAの評価結果を表2に記載した。
【0079】
[実施例2]
(Rb/K/W(モル比)=0.10/0.23/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と、水酸化ルビジウム(RbOH)および水酸化カリウム(KOH)の各粉末とを、Rb/K/W(モル比)=0.10/0.23/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末B」と略称する。)を得た。
【0080】
粉末BをX線回折法で測定した結果を図2に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Bは純粋な六方晶単相であることが判明した。従って、Rb成分、K成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0081】
粉末B20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液B」と略称する)を得た。ここで、分散液B内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ21nmであった。
【0082】
分散液Bを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Bの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は58.3%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は19.4%、波長2100nmの透過率は16.2%であることが判明した。
分散液Bの測定結果を表1に記載した。
【0083】
分散液Bへ、さらに分散剤aを添加した以外は実施例1と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Bと略称する。)を得た。
【0084】
分散粉Bを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽シート(以下、シートBと略称する。)を得た。
【0085】
上述したシートBの可視光透過率は70%であった。
シートBの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は39.2%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は7.0%、波長2100nmの透過率は2.7%、ヘイズは1.2%と測定された。シートBの評価結果を表2に記載した。
【0086】
[実施例3]
(Rb/K/W(モル比)=0.20/0.13/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化カリウム(KOH)、の各粉末を、Rb/K/W(モル比)=0.20/0.13/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末C」と略称する。)を得た。
【0087】
粉末CをX線回折法で測定した結果を図3に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Cは六方晶単相であることが判明した。従って、Rb成分、K成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0088】
粉末C20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液C」と略称する)を得た。ここで、分散液C内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ18nmであった。
【0089】
分散液Cを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Cの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は53.3%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は13.2%、波長2100nmの透過率は11.5%であることが判明した。
分散液Cの測定結果を表1に記載した。
【0090】
分散液Cへ、さらに分散剤aを添加し、分散剤aと複合タングステン酸化物微粒子との質量比が[分散剤a/複合タングステン酸化物微粒子]=3となるように調製し、これを撹拌型真空乾燥機(月島製ユニバーサルミキサー)を使用して、減圧操作も加えた加熱蒸留を80℃で2時間行い、メチルイソブチルケトンを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Cと略称する。)を得た。
【0091】
分散粉Cを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る熱線遮蔽シート(以下、シートCと略称する。)を得た。
【0092】
上述したシートCの可視光透過率は70%であった。
シートCの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は34.2%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は3.9%、波長2100nmの透過率は1.6%、ヘイズは1.1%と測定された。シートCの評価結果を表2に記載した。
【0093】
[実施例4]
(Cs/K/W(モル比)=0.05/0.28/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と、水酸化セシウム(CsOH)および水酸化カリウム(KOH)の各粉末とを、Cs/K/W(モル比)=0.05/0.28/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末D」と略称する。)を得た。
【0094】
粉末DをX線回折法で測定した結果を図4に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Dは六方晶単相であることが判明した。従って、Cs成分、K成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0095】
粉末D20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液D」と略称する)を得た。ここで、分散液D内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ23nmであった。
【0096】
分散液Dを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Dの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は57.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は15.7%、波長2100nmの透過率は13.3%であることが判明した。
分散液Dの測定結果を表1に記載した。
【0097】
分散液Dへ、さらに分散剤aを添加した以外は実施例1と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Dと略称する。)を得た。
【0098】
分散粉Dを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る熱線遮蔽シート(以下、シートDと略称する。)を得た。
【0099】
上述したシートDの可視光透過率は70%であった。
シートDの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は38.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は5.0%、波長2100nmの透過率は2.0%、ヘイズは1.0%と測定された。シートDの評価結果を表2に記載した。
【0100】
[実施例5]
(Cs/K/W(モル比)=0.10/0.23/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と、水酸化セシウム(CsOH)および水酸化カリウム(KOH)との各粉末を、Cs/K/W(モル比)=0.10/0.23/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末E」と略称する。)を得た。
【0101】
粉末EをX線回折法で測定した結果を図5に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Eは六方晶単相であることが判明した。従って、Cs成分、K成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0102】
粉末E20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液E」と略称する)を得た。ここで、分散液E内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ24nmであった。
【0103】
分散液Eを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Eの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は50.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は10.9%、波長2100nmの透過率は10.7%であることが判明した。
分散液Eの測定結果を表1に記載した。
【0104】
分散液Eへ、さらに分散剤aを添加した以外は実施例1と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Eと略称する。)を得た。
【0105】
分散粉Eを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る熱線遮蔽シート(以下、シートEと略称する。)を得た。
【0106】
上述したシートEの可視光透過率は70%であった。
シートEの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は31.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は2.9%、波長2100nmの透過率は1.4%、ヘイズは1.0%と測定された。シートEの評価結果を表2に記載した。
【0107】
[実施例6]
(Cs/K/W(モル比)=0.20/0.13/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と、水酸化セシウム(CsOH)および水酸化カリウム(KOH)との各粉末を、Cs/K/W(モル比)=0.20/0.13/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末F」と略称する。)を得た。
【0108】
粉末FをX線回折法で測定した結果を図6に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Fは六方晶単相であることが判明した。従って、Cs成分、K成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0109】
粉末F20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液F」と略称する)を得た。ここで、分散液F内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ28nmであった。
【0110】
分散液Fを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Fの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は42.5%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は8.0%、波長2100nmの透過率は10.7%であることが判明した。
分散液Fの測定結果を表1に記載した。
【0111】
分散液Fへ、さらに分散剤aを添加した以外は実施例1と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Fと略称する。)を得た。
【0112】
分散粉Fを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る熱線遮蔽シート(以下、シートFと略称する。)を得た。
【0113】
上述したシートFの可視光透過率は70%であった。
シートEの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は24.2%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.8%、波長2100nmの透過率は1.4%、ヘイズは1.1%と測定された。シートFの評価結果を表2に記載した。
【0114】
[実施例7]
(Cs/K/W(モル比)=0.25/0.08/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と、水酸化セシウム(CsOH)および水酸化カリウム(KOH)との各粉末を、Cs/K/W(モル比)=0.25/0.08/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末G」と略称する。)を得た。
【0115】
粉末GをX線回折法で測定した結果を図7に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Gは六方晶単相であることが判明した。従って、Cs成分、K成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0116】
粉末G20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液G」と略称する)を得た。ここで、分散液G内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ20nmであった。
【0117】
分散液Gを、適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した際の、分散液Gの透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は34.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は7.0%、波長2100nmの透過率は14.1%であることが判明した。
分散液Gの測定結果を表1に記載した。
【0118】
分散液Gへ、さらに分散剤aを添加した以外は実施例1と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Gと略称する。)を得た。
【0119】
分散粉Gを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る熱線遮蔽シート(以下、シートGと略称する。)を得た。
【0120】
上述したシートGの可視光透過率は70%であった。
シートEの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は17.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.5%、波長2100nmの透過率は2.2%、ヘイズは1.2%と測定された。シートGの評価結果を表2に記載した。
【0121】
[比較例1]
(Cs/W(モル比)=0.33/1.00となる複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽シート)
タングステン酸(HWO)と、水酸化セシウム(CsOH)との各粉末を、Cs/W(モル比)=0.33/1.00相当となる割合で秤量した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子(以下、「粉末H」と略称する。)を得た。
【0122】
粉末HをX線回折法で測定した結果を図8に示す。得られたX線回折プロファイルから、粉末Hは六方晶単相であることが判明した。従って、Cs成分、タングステン成分は、六方晶複合タングステン酸化物微粒子の結晶中に完全に固溶していると判断された。
【0123】
粉末H20質量%、分散剤a10質量%、MIBK70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、12時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液H」と略称する)を得た。ここで、分散液H内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ29nmであった。
【0124】
分散液Hを適宜MIBKで希釈して10mm厚の矩形容器に入れ、分光透過率を測定した。可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した時の透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は21.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は10.9%、波長2100nmの透過率は22.3%となった。分散液Hの測定結果を表1に記載した。
【0125】
分散液Hへ、さらに分散剤aを添加した以外は実施例1と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(以下、分散粉Hと略称する。)を得た。
【0126】
分散粉Hを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽シート(以下、シートHと略称する。)を得た。
【0127】
上述したシートHの可視光透過率は70%であった。
シートHの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は8.5%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は2.8%、波長2100nmの透過率は4.5%、ヘイズは1.0%と測定された。シートHの評価結果を表2に記載した。
【0128】
[実施例8]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例1で作製した分散粉Aとポリカーボネート樹脂ペレットとを、複合タングステン酸化物微粒子の濃度が2.0質量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合し混合物とした。当該混合物を、二軸押出機を用いて290℃で熔融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、熱線遮蔽透明樹脂成形体用の実施例8に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチAと略称する。)を得た。
ポリカーボネート樹脂ペレットへ、所定量のマスターバッチAを所定量添加し、実施例8に係る熱線遮蔽シートの製造用組成物を調製した。尚、当該所定量とは、製造される熱線遮蔽シート(2.0mm厚)の可視光透過率が70%となる量である。
【0129】
当該実施例8に係る熱線遮蔽シートの製造用組成物を、二軸押出機を用いて280℃で混練し、Tダイより押出し、カレンダーロール法により2.0mm厚のシート材として、実施例8に係る熱線遮蔽シート(以下、シートIと略称する。)を得た。
【0130】
上述したシートIの可視光透過率は70%であった。
シートIの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は19.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.8%、波長2100nmの透過率は2.2%、ヘイズは1.1%と測定された。シートIの評価結果を表3に記載した。
【0131】
[実施例9]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例2で作製した分散粉Bを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例9に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチBと略称する。)を得た。
【0132】
マスターバッチBを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例9に係る熱線遮蔽シート(以下、シートJと略称する。)を得た。
【0133】
上述したシートJの可視光透過率は70%であった。
シートJの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は39.3%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は7.0%、波長2100nmの透過率は2.4%、ヘイズは1.1%と測定された。シートJの評価結果を表3に記載した。
【0134】
[実施例10]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例3で作製した分散粉Cを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例10に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチCと略称する。)を得た。
【0135】
マスターバッチCを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例10に係る熱線遮蔽シート(以下、シートKと略称する。)を得た。
【0136】
上述したシートKの可視光透過率は70%であった。
シートKの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は34.3%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は3.9%、波長2100nmの透過率は1.4%、ヘイズは1.2%と測定された。シートKの評価結果を表3に記載した。
【0137】
[実施例11]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例4で作製した分散粉Dを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例11に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチDと略称する。)を得た。
【0138】
マスターバッチDを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例11に係る熱線遮蔽シート(以下、シートLと略称する。)を得た。
【0139】
上述したシートLの可視光透過率は70%であった。
シートLの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は38.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は5.0%、波長2100nmの透過率は1.7%、ヘイズは1.0%と測定された。シートLの評価結果を表3に記載した。
【0140】
[実施例12]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例5で作製した分散粉Eを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例12に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチEと略称する。)を得た。
【0141】
マスターバッチEを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例12に係る熱線遮蔽シート(以下、シートMと略称する。)を得た。
【0142】
上述したシートMの可視光透過率は70%であった。
シートMの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は31.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は2.9%、波長2100nmの透過率は1.3%、ヘイズは1.2%と測定された。シートMの評価結果を表3に記載した。
【0143】
[実施例13]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例6で作製した分散粉Fを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例13に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチFと略称する。)を得た。
【0144】
マスターバッチFを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例13に係る熱線遮蔽シート(以下、シートNと略称する。)を得た。
【0145】
上述したシートNの可視光透過率は70%であった。
シートNの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は24.2%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.8%、波長2100nmの透過率は1.3%、ヘイズは1.1%と測定された。シートNの評価結果を表3に記載した。
【0146】
[実施例14]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
実施例7で作製した分散粉Gを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例14に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチGと略称する。)を得た。
【0147】
マスターバッチGを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例13に係る熱線遮蔽シート(以下、シートPと略称する。)を得た。
【0148】
上述したシートPの可視光透過率は70%であった。
シートPの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は17.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.5%、波長2100nmの透過率は1.9%、ヘイズは1.1%と測定された。シートPの評価結果を表3に記載した。
【0149】
[比較例2]
(熱線遮蔽マスターバッチを用いて作製した熱線遮蔽シート)
比較例1で作製した分散粉Hを用いた以外は実施例8と同様にして、比較例2に係るマスターバッチ(以下、マスターバッチHと略称する。)を得た。
【0150】
マスターバッチHを用いた以外は実施例8と同様にして、比較例2に係る熱線遮蔽シート(以下、シートRと略称する。)を得た。
【0151】
上述したシートRの可視光透過率は70%であった。
シートHの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は8.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は2.9%、波長2100nmの透過率は3.9%、ヘイズは1.0%と測定された。シートRの評価結果を表3に記載した。
【0152】
[実施例15]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
ポリビニルブチラール樹脂に可塑剤のトリエチレングリコ−ル−ジ−2−エチルブチレ−トを添加し、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤との重量比が[ポリビニルブチラール樹脂/可塑剤]=100/40となるように調製した混合物を作製した。この混合物に実施例1で作製した分散粉Aを、所定量添加し、熱線遮蔽フィルムの製造用組成物を調製した。尚、当該所定量とは、製造される熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率が70%となる量である。
【0153】
この製造用組成物を3本ロールのミキサーを用いて70℃で30分練り込み混合し、混合物とした。当該混合物を、型押出機で180℃に昇温して厚み1mm程度にフィルム化してロールに巻き取ることで、実施例15に係る熱線遮蔽フィルムを作製した。
この実施例15に係る熱線遮蔽フィルムを10cm×10cmに裁断し、同寸法を有する厚さ3mmの無機クリアガラス板2枚の間に挟み込み、積層体とした。次に、この積層体をゴム製の真空袋に入れ、袋内を脱気して90℃で30分保持した後、常温まで戻し袋から取り出した。そして、当該積層体をオートクレーブ装置に入れ、圧力12kg/cm、温度140℃で20分加圧加熱して、実施例7に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートAと略称する。)を作製した。
【0154】
合わせガラスシートAの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートAの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は17.8%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.9%、波長2100nmの透過率は4.2%、ヘイズは1.6%と測定された。合わせガラスシートAの評価結果を表4に記載した。
【0155】
[実施例16]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Bを用いた以外は、実施例15と同様にして実施例16に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートBと略称する。)を作製した。
【0156】
合わせガラスシートBの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートBの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は34.2%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は6.6%、波長2100nmの透過率は4.6%、ヘイズは1.2%と測定された。合わせガラスシートBの評価結果を表4に記載した。
【0157】
[実施例17]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Cを用いた以外は、実施例15と同様にして実施例17に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートCと略称する。)を作製した。
【0158】
合わせガラスシートCの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートCの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は30.1%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は3.8%、波長2100nmの透過率は2.8%、ヘイズは1.5%と測定された。合わせガラスシートCの評価結果を表4に記載した。
【0159】
[実施例18]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Dを用いた以外は、実施例15と同様にして実施例18に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートDと略称する。)を作製した。
【0160】
合わせガラスシートDの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートDの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は33.6%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は4.9%、波長2100nmの透過率は3.4%、ヘイズは1.4%と測定された。合わせガラスシートDの評価結果を表4に記載した。
【0161】
[実施例19]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Eを用いた以外は、実施例15と同様にして実施例19に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートEと略称する。)を作製した。
【0162】
合わせガラスシートEの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートEの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は28.0%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は2.9%、波長2100nmの透過率は2.5%、ヘイズは1.6%と測定された。合わせガラスシートEの評価結果を表4に記載した。
【0163】
[実施例20]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Fを用いた以外は、実施例15と同様にして実施例20に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートFと略称する。)を作製した。
【0164】
合わせガラスシートFの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートFの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は21.7%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.8%、波長2100nmの透過率は2.5%、ヘイズは1.6%と測定された。合わせガラスシートFの評価結果を表4に記載した。
【0165】
[実施例21]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Gを用いた以外は、実施例15と同様にして実施例21に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートGと略称する。)を作製した。
【0166】
合わせガラスシートGの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートGの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は16.1%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は1.5%、波長2100nmの透過率は3.8%、ヘイズは1.4%と測定された。合わせガラスシートGの評価結果を表4に記載した。
【0167】
[比較例3]
(熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽合わせ透明基材)
分散粉Hを用いた以外は、実施例15と同様にして比較例3に係る熱線遮蔽合わせガラスシート(以下、合わせガラスシートHと略称する。)を作製した。
【0168】
合わせガラスシートHの可視光透過率は70.0%であった。
合わせガラスシートHの光学特性を測定したところ、透過率プロファイルから、波長800〜900nmにおける透過率の平均値は8.1%、波長1200〜1500nmにおける透過率の平均値は2.9%、波長2100nmの透過率は7.3%、ヘイズは1.8%と測定された。合わせガラスシートHの評価結果を表4に記載した。
【0169】
[実施例1〜21および比較例1〜3の評価]
実施例1〜14に係る熱線遮蔽シート、実施例15〜21に係る熱線遮蔽合わせガラスシートにおいては、従来の複合タングステン酸化物微粒子を用いた比較例1、2に係る熱線遮蔽シート、比較例3に係る熱線遮蔽合わせガラスシートと比較して、可視光透過率が85%のとき、波長800〜900nmの近赤外光の透過率の平均値が高く、波長1200〜1800nm、波長2100nmの透過率が低い。この結果から、K、Rb、Csのうちから選択される1種類以上の元素と、K、Rb、Csのうちから選択される1種類以上の元素(ただし元素と元素は異なる)を含み、六方晶系の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽熱線遮蔽微粒子分散体は、高い遮熱特性を担保し、肌へのジリジリ感を低減しながら、波長800〜900nmの近赤外光で高い透過率が得られることが判明した。
【0170】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8