(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686955
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】半導体ウェーハの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 642B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-65628(P2017-65628)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-170366(P2018-170366A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健作
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】
平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−011005(JP,A)
【文献】
特開平06−077201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハを、フッ酸を充填したフッ酸槽内に挿入して、前記フッ酸に浸漬し、前記フッ酸槽から引き出した後、前記半導体ウェーハを、オゾン水を充填したオゾン水槽内に挿入して、前記オゾン水に浸漬して洗浄する半導体ウェーハの洗浄方法であって、
前記オゾン水槽内への前記半導体ウェーハの挿入を、少なくとも、前記半導体ウェーハの下端が前記オゾン水に接触してから、前記半導体ウェーハが完全にオゾン水に浸漬するまで、挿入速度を20000mm/min以上として行うことを特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
前記フッ酸槽からの前記半導体ウェーハの引き出しを、引き出し速度1000mm/min以下として行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項3】
前記オゾン水槽内への前記半導体ウェーハの挿入を、前記半導体ウェーハの下端が前記オゾン水に接触してから、前記半導体ウェーハの上端が前記オゾン水の液面から50mm以上の位置となるまで、挿入速度を20000mm/min以上として行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項4】
前記半導体ウェーハとして、シリコンウェーハを洗浄することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体ウェーハのバッチ式洗浄において、フッ酸(HF)とオゾン水を用いた浸漬式の洗浄方法が一般的となっている。この方法では、HF洗浄でウェーハ上の酸化膜を除去するのと同時にパーティクル等の異物を除去し、その後のオゾン水洗浄でウェーハの酸化を行うことによって、自然酸化膜の生成と、残っているパーティクル等の異物の除去を行っている。
【0003】
この時、従来より、半導体ウェーハを洗浄液が充填された洗浄槽内に浸漬(挿入)する速度(浸漬速度)に比べ、洗浄槽から引き上げる(引き出す)速度(引き上げ速度)が重要であるとされている(例えば、特許文献1)。
【0004】
従来、半導体ウェーハ上に付着するパーティクル等の異物を低減させるために、フッ酸槽からの引き上げ速度を低速とすることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−283483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体ウェーハをフッ酸洗浄して自然酸化膜を剥離すると、ベア面(疎水面)が出ている状態となる。このベア面が出ている状態のウェーハをオゾン水槽にて洗浄(酸化)させる工程において、従来では、オゾン水槽への浸漬(挿入)速度は固定されており、変更することは無く、一般的に10000mm/min程度と低速であった。
【0007】
ところが、オゾン水槽での洗浄工程においては、酸化膜の形成時にパーティクル等の異物の除去も同時に行われるが、浸漬速度が遅い場合、オゾン水と半導体ウェーハの相対速度が遅いために、パーティクルの脱離が起きにくく、パーティクル等の異物が残留してしまう問題があることが判った。
【0008】
さらに、一般に、オゾン水の薬液の流れが下から上へ流れる向きであるため、洗浄槽の液面付近にパーティクル等の脱離した異物が滞留しやすい。そのため、浸漬速度が遅いと、脱離したパーティクルがウェーハ上の完全に酸化が進んでいない箇所に再付着してしまう問題があることも判ってきた。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、半導体ウェーハをフッ酸に浸漬して洗浄した後、オゾン水に浸漬して洗浄する方法において、パーティクル等の異物の残留や除去した異物の再付着を防ぐことができる半導体ウェーハの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、半導体ウェーハを、フッ酸を充填したフッ酸槽内に挿入して、前記フッ酸に浸漬し、前記フッ酸槽から引き出した後、前記半導体ウェーハを、オゾン水を充填したオゾン水槽内に挿入して、前記オゾン水に浸漬して洗浄する半導体ウェーハの洗浄方法であって、前記オゾン水槽内への前記半導体ウェーハの挿入を、少なくとも、前記半導体ウェーハの下端が前記オゾン水に接触してから、前記半導体ウェーハが完全にオゾン水に浸漬するまで、挿入速度を20000mm/min以上として行うことを特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法を提供する。
【0011】
このような半導体ウェーハの洗浄方法であれば、パーティクル等の異物の残留や除去した異物の再付着を防ぐことができる。また、搬送速度の高速化にも繋がるため、スループットが向上する。
【0012】
またこの場合、前記フッ酸槽からの前記半導体ウェーハの引き出しを、引き出し速度1000mm/min以下として行うことが好ましい。
【0013】
このようにフッ酸槽からの引き出し速度を低速化させることで、より一層、パーティクル等の異物を低減させることができる。
【0014】
またこの場合、前記オゾン水槽内への前記半導体ウェーハの挿入を、前記半導体ウェーハの下端が前記オゾン水に接触してから、前記半導体ウェーハの上端が前記オゾン水の液面から50mm以上の位置となるまで、挿入速度を20000mm/min以上として行うことが好ましい。
【0015】
このようにオゾン水槽内へ半導体ウェーハを挿入することで、オゾン水槽の液面付近に滞留しているパーティクル等の異物の付着を、確実に防止することができるために好ましい。
【0016】
また、前記半導体ウェーハとして、シリコンウェーハを洗浄することが好ましい。
【0017】
本発明の洗浄方法は、シリコンウェーハを洗浄する場合に特に有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半導体ウェーハの洗浄方法であれば、半導体ウェーハをフッ酸に浸漬して自然酸化膜を除去した後、オゾン水に浸漬して自然酸化膜を形成する洗浄方法において、パーティクル等の異物の残留や除去した異物の再付着を防ぐことができる。さらに、搬送速度の高速化にも繋がるので、スループットが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の半導体ウェーハの洗浄方法の一例を示した洗浄フロー図である。
【
図2】半導体ウェーハをオゾン水槽内へ挿入する工程を示す概略図である。
【
図3】実施例1〜6、比較例1〜4における、オゾン水槽内へのシリコンウェーハの挿入速度と、パーティクル測定結果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述したように、半導体ウェーハをフッ酸槽に浸漬して自然酸化膜を除去後、オゾン水槽に浸漬することで酸化し、自然酸化膜を形成する方法において、従来の洗浄方法では、パーティクル等の異物が残留する問題や除去した異物が再付着する問題があった。
【0021】
そして、本発明者らは上記の問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、オゾン水槽内への半導体ウェーハの挿入を、所定の挿入速度以上とすることによって、パーティクル等の異物の残留や除去した異物の再付着を防ぐことができることを見出し、本発明に到達した。
【0022】
即ち、本発明は、半導体ウェーハを、フッ酸を充填したフッ酸槽内に挿入して、前記フッ酸に浸漬し、前記フッ酸槽から引き出した後、前記半導体ウェーハを、オゾン水を充填したオゾン水槽内に挿入して、前記オゾン水に浸漬して洗浄する半導体ウェーハの洗浄方法であって、前記オゾン水槽内への前記半導体ウェーハの挿入を、少なくとも、前記半導体ウェーハの下端が前記オゾン水に接触してから、前記半導体ウェーハが完全にオゾン水に浸漬するまで、挿入速度を20000mm/min以上として行うことを特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法を提供する。
【0023】
尚、本発明において「挿入速度」とは、半導体ウェーハと洗浄槽との相対速度をいい、具体的には、(i)半導体ウェーハを引き下げて、所定の位置の洗浄槽に挿入する場合の、半導体ウェーハの引き下げ速度、(ii)洗浄槽を上昇させて所定の位置の半導体ウェーハを洗浄槽に挿入する場合の洗浄槽の上昇速度、(iii)半導体ウェーハの引き下げ及び洗浄槽の上昇が共に行われ、半導体ウェーハの引き下げ速度と洗浄槽の上昇速度を足した速度等のいずれをも含む。以下、「引き出し速度」も同様に、半導体ウェーハと洗浄槽との相対速度をいう。
【0024】
以下、本発明の半導体ウェーハの洗浄方法を詳細に説明する。
図1に、本発明の半導体ウェーハの洗浄方法の一例を示した洗浄フロー図を示す。
【0025】
本発明において、洗浄対象の半導体ウェーハは、特に限定されないが、シリコンウェーハを用いることができる。
【0026】
半導体ウェーハに対し、フッ酸洗浄の前に、例えばアンモニア・過酸化水素水洗浄(SC1洗浄)や純水によるリンスを行うことができる(
図1(A)、(B))。
【0027】
次いで、半導体ウェーハを、フッ酸を充填したフッ酸槽内に挿入して、フッ酸に浸漬してフッ酸洗浄を行う(
図1(C))。このフッ酸洗浄では、半導体ウェーハに形成されていた自然酸化膜が除去される。フッ酸の濃度や温度は限定されないが、濃度は0.3〜3.0%、温度は10〜30℃が好ましい。
【0028】
フッ酸槽からの半導体ウェーハの引き出しは、引き出し速度1000mm/min以下として行うことが好ましい。このように、フッ酸槽からの半導体ウェーハの引き出しを比較的低速で行うことによって、より一層、パーティクル等の異物を低減させることができる。
【0029】
次いで、半導体ウェーハを、オゾン水を充填したオゾン水槽内に挿入して、オゾン水に浸漬して洗浄する(
図1(D))。
【0030】
図2は、半導体ウェーハをオゾン水槽内に挿入する工程を示す概略図である。本発明は、半導体ウェーハ1を、オゾン水2が充填されたオゾン水槽3内へ挿入するのに際し、少なくとも、半導体ウェーハ1の下端がオゾン水2に接触してから(
図2(A))、半導体ウェーハ1が完全にオゾン水2に浸漬する(
図2(B))まで、挿入速度を20000mm/min以上として行うことを特徴とする。また、挿入速度の上限は特に限定されないが、通常、50000mm/minが装置限界である。
【0031】
フッ酸槽での洗浄で自然酸化膜が除去された半導体ウェーハ1は、表面がベア面(疎水面)となっているために、非常にパーティクルなどの異物が付着しやすく、また、半導体ウェーハ1に付着している異物の量も多い。
【0032】
フッ酸槽での洗浄後のオゾン水槽での洗浄(再酸化処理)において、従来の様に低速(10000mm/min程度)でオゾン水槽内へ浸漬すると、酸化膜形成時にパーティクル等の異物の除去も同時に行われるが、オゾン水と半導体ウェーハの相対速度が遅いために、パーティクルの脱離が起きにくく、パーティクル等の異物が残留してしまう。
【0033】
更に、オゾン水の洗浄液の流れが下から上へ流れる向きであるため、オゾン水槽の液面付近にパーティクル等の脱離した異物が滞留しやすい。そのため、浸漬速度が遅いと脱離したパーティクルがウェーハ上の完全に酸化が進んでいない箇所に再付着してしまう。
【0034】
一方で、本発明のように、半導体ウェーハ1の挿入速度を20000mm/min以上と高速にすると、半導体ウェーハ1からのパーティクルの脱離が効率良くなされ、半導体ウェーハ1をオゾン水槽3内へ素早く沈められるために、液面(槽界面)付近でのパーティクルの再付着が減少し、高品質なウェーハが得られることになる。また、搬送速度の高速化にも繋がるため、スループットが向上する。
【0035】
また、本発明では、半導体ウェーハ1の下端がオゾン水2に接触してから(
図2(A))、半導体ウェーハ1の上端がオゾン水2の液面から50mm以上の位置となるまで(
図2(C))、挿入速度を20000mm/min以上として、半導体ウェーハ1のオゾン水槽3への挿入を行うことが好ましい。このようにすることで、オゾン水槽3の液面付近に滞留しているパーティクル等の異物の付着を、確実に防止することができるために好ましい。
【0036】
上記のようにオゾン水槽3内に挿入された半導体ウェーハ1は、ウェーハ保持部4に保持された状態でオゾン水2に浸漬される(
図2(D))。オゾン水の濃度は、好ましくは1ppm以上であり、オゾン水の温度は、好ましくは10〜30℃であり、好ましい洗浄時間は60〜300秒である。
【0037】
その後、半導体ウェーハ1をオゾン水槽3から引き出す。この際の引き出し速度については特に限定されず、1000mm/min以下とすることができる。オゾン水による洗浄後は、適宜、乾燥等の処理(
図1(E))を行っても良い。
【0038】
尚、オゾン水槽以外のすべての槽において、半導体ウェーハの挿入速度は、高速化することによって悪影響を及ぼすことはなく、パーティクル等の再付着の抑制やスループットの改善が見込まれる。従って、すべての槽の挿入速度を高速とする、例えば、20000mm/min以上とすることが望ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
直径300mmのシリコンウェーハを用いて、アンモニア・過水洗浄→純水リンス→フッ酸洗浄→オゾン水洗浄の順にディップ式洗浄を行い、その後乾燥を行った。その際、オゾン水槽内へのシリコンウェーハの挿入速度を、シリコンウェーハの下端がオゾン水に接触してから、シリコンウェーハの上端がオゾン水の液面から50mmの位置となるまで、表1に示す速度として行った。オゾン水槽以外の槽内への挿入速度は、15000mm/minとし、全ての槽からの引き出し速度は、1000mm/minとした。
【0041】
乾燥後、KLA−Tencor社製SP5にて、直径16nm以上のパーティクルについて、パーティクル測定を行った。表1に測定されたパーティクル数を示す。
図3に、オゾン水槽内へのシリコンウェーハの挿入速度と、パーティクル測定結果との関係を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1、
図3に示されるように、シリコンウェーハ上のパーティクル数は、オゾン水槽への浸漬速度を上昇させていくと共に減少していき、挿入速度が20000mm/min(実施例1)以上であれば、ウェーハ上のパーティクル数は収束していきほぼ一定となることが判った。即ち、実施例1〜6では、ウェーハ上のパーティクル数が改善し、ウェーハの品質が向上した。
【0044】
一方で、比較例1〜比較例4では、パーティクルが多く観察された。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0046】
1…半導体ウェーハ、 2…オゾン水、 3…オゾン水槽、 4…保持部。