特許第6687028号(P6687028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6687028共重合体、その製造方法、電線被覆用樹脂材料および電線
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687028
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】共重合体、その製造方法、電線被覆用樹脂材料および電線
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/26 20060101AFI20200413BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20200413BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20200413BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C08F214/26
   C08F210/02
   H01B7/02 Z
   H01B3/44 C
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-530841(P2017-530841)
(86)(22)【出願日】2016年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2016071595
(87)【国際公開番号】WO2017018353
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2019年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-148487(P2015-148487)
(32)【優先日】2015年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】相田 茂
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽司
(72)【発明者】
【氏名】柿内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】安宅 真和
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−18002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/26
C08F 210/02
H01B 3/44
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに由来する構成単位と、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位と、第3の単量体に由来する構成単位とからなる共重合体であり、
融点が245〜265℃であり、
前記共重合体について昇温溶離分別法によって得られた溶出曲線における溶出温度が205℃以上の成分の割合(H:面積%)に対する溶出温度が190〜200℃の成分の割合(L:面積%)の比(L/H)と、前記共重合体の全構成単位に対する前記第3の単量体に由来する構成単位の割合(M:モル%)とが、下式(I)の関係を満足する、共重合体。
log(L/H)/M≧0.90 ・・・(I)
【請求項2】
前記エチレンに由来する構成単位と前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位との合計に対する、前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位の割合が40〜70モル%である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記共重合体の全構成単位に対する前記第3の単量体に由来する構成単位の割合が、0.1〜5モル%である、請求項1または2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記第3の単量体が、フルオロアルキルエチレンまたはペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項5】
融点が250260℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項6】
ASTM D3159に準拠し、温度297℃、荷重49Nの条件下で測定されたメルトフローレートが、1〜50g/10分である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の共重合体を含む、電線被覆用樹脂材料。
【請求項8】
芯線と、
前記芯線に被覆された請求項7に記載の電線被覆用樹脂材料からなる被覆層と
を有する、電線。
【請求項9】
前記被覆層の厚さが、0.01〜5mmである、請求項8に記載の電線。
【請求項10】
前記芯線の断面積が、0.01〜200mmである、請求項8または9に記載の電線。
【請求項11】
エチレンに由来する構成単位と、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位と、第3の単量体に由来する構成単位とからなる共重合体を製造する方法であって、
前記共重合体の融点が245〜265℃であり、
重合圧力が1.5MPaであり、
重合媒体が、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン及びハイドロフルオロエーテルのいずれかであり、
重合容器内に、エチレン、テトラフルオロエチレンおよび第3の単量体を仕込んで重合を開始した後、前記重合容器内に、エチレン、テトラフルオロエチレンおよび第3の単量体を連続的または断続的に追加供給する際に、追加供給されるエチレンとテトラフルオロエチレンとの合計に対する追加供給される第3の単量体の割合(m2:モル%)を、重合初期に生成する共重合体の全構成単位に対する第3の単量体に由来する構成単位の割合(M1:モル%)と、m2/M1が1.10以上となるように異ならせる、共重合体の製造方法。
【請求項12】
前記重合容器内に、塩素−炭素結合を有する化合物を実質的に存在させない、請求項11に記載の共重合体の製造方法。
【請求項13】
得られた前記共重合体におけるエチレンに由来する構成単位と前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位との合計に対する、前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位の割合が40〜70モル%である、請求項11または12に記載の共重合体の製造方法。
【請求項14】
得られた前記共重合体の全構成単位に対する前記第3の単量体に由来する構成単位の割合が、0.1〜5モル%である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項15】
前記第3の単量体が、フルオロアルキルエチレンまたはペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)である、請求項11〜14のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、その製造方法、電線被覆用樹脂材料および電線に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンに由来する構成単位とテトラフルオロエチレンに由来する構成単位とを有する共重合体(以下、ETFE系共重合体とも記す。)は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電機絶縁性、機械的特性等に優れており、航空機、自動車、産業用ロボット等における電線の被覆層の材料として用いられている。
【0003】
しかし、ETFE系共重合体からなる被覆層を有する電線には、電線を屈曲させた状態で高温下に保持すると、被覆層にクラックが発生しやすいという問題がある。近年、航空機、自動車等の高性能化に伴い、電線の被覆層には、電線を屈曲させた状態で高温下に保持しても被覆層にクラックが入りにくい性質(以下、高温下での耐ストレスクラック性とも記す。)の向上が望まれている。
【0004】
被覆層の高温下での耐ストレスクラック性を向上できるETFE系共重合体としては、下記のものが提案されている。
塩素原子の含有量が70ppm以下であり、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位/エチレンに由来する構成単位の割合(モル比)が40/60〜70/30であり、他の単量体に由来する構成単位を全構成単位に対して0.3〜8モル%含有し、容量流速が0.01〜1000mm/秒であるETFE系共重合体(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5663839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のETFE系共重合体であっても、被覆層の高温下での耐ストレスクラック性は不充分である。航空機、自動車等における電線の使用環境が厳しくなるにつれて、電線にはさらに高い信頼性が求められている。そのため、電線の被覆層には、高温下での耐ストレスクラック性のさらなる向上、および高い耐熱温度(ETFE系共重合体の融点が高いこと)が望まれている。
【0007】
本発明は、高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を形成できるETFE系共重合体および電線被覆用樹脂材料、ならびに高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を有する電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ETFE系共重合体からなる被覆層の高温下での耐ストレスクラック性の向上について鋭意検討した結果、ETFE系共重合体において高結晶性成分の割合を少なくし、低結晶性成分の割合を多くすると、ETFE系共重合体からなる被覆層の高温下での耐ストレスクラック性が向上することを見出した。
ETFE系共重合体において低結晶性成分の割合を多くするために、ETFE系共重合体中の第3の単量体に由来する構成単位の割合を増やすことが考えられる。しかし、ETFE系共重合体中の第3の単量体に由来する構成単位の割合を増やすと、ETFE系共重合体の融点が下がって電線の被覆層の耐熱温度が不充分となる。
そこで、本発明者らは、ETFE系共重合体中の第3の単量体に由来する構成単位の割合を低く抑えつつ、低結晶性成分の割合を多くし、かつ高結晶性成分の割合を少なくすることによって、高温下での耐ストレスクラック性と高い耐熱温度とが両立された本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の[1]〜[15]の態様を有する。
[1]エチレンに由来する構成単位と、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位と、第3の単量体に由来する構成単位とからなる共重合体であり、前記共重合体について昇温溶離分別法によって得られた溶出曲線における溶出温度が205℃以上の成分の割合(H:面積%)に対する溶出温度が190〜200℃の成分の割合(L:面積%)の比(L/H)と、前記共重合体の全構成単位に対する前記第3の単量体に由来する構成単位の割合(M:モル%)とが、下式(I)の関係を満足する、共重合体。
log(L/H)/M≧0.90 ・・・(I)
[2]前記エチレンに由来する構成単位と前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位との合計に対する、前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位の割合が40〜70モル%である、[1]の共重合体。
[3]前記共重合体の全構成単位に対する前記第3の単量体に由来する構成単位の割合が、0.1〜5モル%である、[1]または[2]の共重合体。
[4]前記第3の単量体が、フルオロアルキルエチレンまたはペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)である、[1]〜[3]のいずれかの共重合体。
[5]融点が230〜280℃である、[1]〜[4]のいずれかの共重合体。
[6]ASTM D3159に準拠し、温度297℃、荷重49Nの条件下で測定されたメルトフローレートが、1〜50g/10分である、[1]〜[5]のいずれかの共重合体。
【0010】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかの共重合体を含む、電線被覆用樹脂材料。
[8]芯線と、前記芯線に被覆された[7]の電線被覆用樹脂材料からなる被覆層とを有する、電線。
[9]前記被覆層の厚さが、0.01〜5mmである、[8]の電線。
[10]前記芯線の断面積が、0.01〜200mmである、[8]または[9]の電線。
【0011】
[11]エチレンに由来する構成単位と、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位と、第3の単量体に由来する構成単位とからなる共重合体を製造する方法であって、重合容器内に、エチレン、テトラフルオロエチレンおよび第3の単量体を仕込んで重合を開始した後、前記重合容器内に、エチレン、テトラフルオロエチレンおよび第3の単量体を連続的または断続的に追加供給する際に、追加供給されるエチレンとテトラフルオロエチレンとの合計に対する追加供給される第3の単量体の割合(m2:モル%)を、重合初期に生成する共重合体の全構成単位に対する第3の単量体に由来する構成単位の割合(M1:モル%)と、m2/M1が1.10以上となるように異ならせる、共重合体の製造方法。
[12]前記重合容器内に、塩素−炭素結合を有する化合物を実質的に存在させない、[11]の共重合体の製造方法。
[13]得られた前記共重合体におけるエチレンに由来する構成単位と前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位との合計に対する、前記テトラフルオロエチレンに由来する構成単位の割合が40〜70モル%である、[11]または[12]の共重合体の製造方法。
[14]得られた前記共重合体の全構成単位に対する前記第3の単量体に由来する構成単位の割合が、0.1〜5モル%である、[11]〜[13]のいずれかの共重合体の製造方法。
[15]前記第3の単量体が、フルオロアルキルエチレンまたはペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)である、[11]〜[14]のいずれかの共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合体および電線被覆用樹脂材料は、高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を形成できる。
本発明の共重合体の製造方法によれば、高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を形成できる共重合体を製造できる。
本発明の電線は、高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の共重合体について昇温溶離分別法によって得られた溶出曲線およびカラム温度の昇温プロファイルの一例を示す図である。
図2】例1〜5における重合槽に最初に仕込んだ溶液中の第3の単量体の濃度と、重合初期に生成する共重合体中の第3の単量体に由来する構成単位の割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「昇温溶離分別法」は、充填材が充填されたカラムに試料溶液を注入し、充填材の表面に試料を結晶化させた後、カラムに移動相を流しながらカラムを昇温して移動相に試料を溶出させ、移動相に溶出した試料の濃度を検出して、溶出温度と溶出量との関係を求める方法である。以下、「昇温溶離分別法」を「TREF」とも記す。
「融点」は、示差走査熱量測定法で測定した融解による吸熱ピークにおける温度である。
「メルトフローレート」は、ASTM D3159に準拠し、温度:297℃、荷重:49Nの条件下で測定した、直径:2mm、長さ:8mmのオリフィスから10分間に流れ出す重合体の質量である。以下、「メルトフローレート」を「MFR」とも記す。
なお、以下、「構成単位」を「単位」と記す。
【0015】
<共重合体>
本発明の共重合体は、エチレンに由来する単位(以下、E単位とも記す。)と、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す。)に由来する単位(以下、TFE単位とも記す。)と、第3の単量体に由来する単位(以下、第3の単位とも記す。)とからなるETFE系共重合体である。
【0016】
(単位)
E単位の割合は、E単位とTFE単位との合計に対して、60〜30モル%が好ましく、50〜35モル%がより好ましく、46〜43モル%がさらに好ましい。TFE単位の割合は、E単位とTFE単位との合計に対して、40〜70モル%が好ましく、50〜65モル%がより好ましく、54〜57モル%がさらに好ましい。E単位およびTFE単位の割合が前記範囲内であれば、被覆層の耐熱性、耐候性、耐薬品性、薬液透過防止性、耐ストレスクラック性や引張強度等の機械的特性等、および共重体の溶融成形性等がさらに優れる。
E単位の割合が少ない(TFE単位の割合が多い)と、高分子鎖の凝集力を低下させる含フッ素単量体単位の割合が多くなるため、被覆層の機械的特性が低下する場合がある。
E単位の割合が多い(TFE単位の割合が少ない)と、非フッ素単量体であるE単位の割合が多くなるため、高温下で共重合体の分解が促進され、また、共重合体の融点が低下する。そのため、被覆層の耐熱性が低下する場合がある。
【0017】
本発明の共重合体が第3の単位を有することによって、被覆層の機械的特性および共重体の溶融成形性が良好になる。
第3の単量体としては、CH=CX(CFY(ただし、XおよびYはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表されるフルオロアルキルエチレン(以下、FAEとも記す。)、フルオロオレフィン(ただし、TFEを除く。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとも記す。)、重合性炭素−炭素二重結合を2個有するペルフルオロビニルエーテル、脂肪族環構造を有する含フッ素単量体等が挙げられる。第3の単位は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
FAEとしては、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH(ただし、nは、2〜8の整数である。)等が挙げられる。
フルオロオレフィンとしては、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。
PAVEとしては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられる。
重合性炭素−炭素二重結合を2個有するペルフルオロビニルエーテルとしては、CF=CFOCFCF=CF、CF=CFO(CFCF=CF等が挙げられる。
脂肪族環構造を有する含フッ素単量体としては、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等が挙げられる。
【0019】
第3の単量体としては、高温下での耐ストレスクラック性に優れる被覆層を得やすい点から、FAEおよびPAVEのいずれか一方または両方が好ましく、FAEがより好ましい。
FAEとしては、高温下での耐ストレスクラック性に優れる被覆層を得やすい点から、CH=CH(CFYで表される化合物が好ましい。nは、高温下での耐ストレスクラック性に著しく優れる被覆層を得やすい点から、2〜8の整数であり、4〜6の整数が好ましい。
FAEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
第3の単位の割合は、共重合体の全単位に対して、0.1〜5モル%が好ましく、1.0〜3モル%より好ましく、1.5〜2.5モル%がさらに好ましく、1.8〜2.3モル%が特に好ましい。第3の単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、高温下での耐ストレスクラック性に優れる被覆層を得やすい。第3の単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、被覆層の機械的特性が優れる。また、共重合体の融点の低下が抑えられ、被覆層の耐熱温度を高くできる。
【0021】
(TREFにおける溶出成分)
本発明の共重合体は、TREFによって得られた溶出曲線における溶出温度が205℃以上の成分の割合(H:面積%)に対する溶出温度が190〜200℃の成分の割合(L:面積%)の比(L/H)と、共重合体中の第3の単位の割合(M:モル%)とが、下式(I)の関係を満足する。
log(L/H)/M≧0.90 ・・・(I)
log(L/H)/Mは、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。また、log(L/H)/Mは15以下が好ましく、12以下がより好ましい。
【0022】
本発明者らの検討によれば、溶出温度が205℃以上の成分の割合が少ないほど、被覆層の高温下における耐ストレスクラック性が優れる。たとえば、溶出温度が205℃以上の成分の割合が1.0面積%以下であるETFE系共重合体からなる被覆層を有する電線について、高温下で熱処理した後、電線を自己径に巻きつけ、ストレスを加えた状態で再び高温下で熱処理した際、被覆層にクラックが発生しにくくなる。
log(L/H)は、低温溶出成分と高温溶出成分との比、すなわち低結晶性成分と高結晶性成分との比を示している。この比が大きいほど、被覆層のクラックの原因となる高結晶性成分の量が少ないことを示す。
【0023】
log(L/H)/Mは、低結晶性成分と、共重合体の結晶性を低下させる第3の単位との比を示している。この比が大きいほど、第3の単位あたりに増大する低結晶性成分の割合が多くなる、すなわち共重合体の融点を低下させる第3の単位の割合を抑えつつ、共重合体の低結晶性成分の割合を多くでき、その結果、被覆層の高温下における耐ストレスクラック性が改善されることを示している。
【0024】
第3の単位の割合(M)を低く抑えることによる利点としては、下記の点が挙げられる。
・第3の単位は、エチレン、TFEよりも高価である。よって、第3の単位の割合を低く抑えつつ被覆層の高温下における耐ストレスクラック性が改善されるということは、低コストで被覆層の高温下における耐ストレスクラック性が改善されるということになる。
・第3の単位は、共重合体の融点を低下させる。よって、第3の単位の割合を低く抑えつつ被覆層の高温下における耐ストレスクラック性が改善されるということは、共重合体の融点を低下させることなく被覆層の高温下における耐ストレスクラック性が改善されるということになる。
【0025】
TREFによる溶出曲線は、下記の手順によって得る。
・試料(共重合体)を移動相と同じ溶媒に試料濃度が3mg/mLとなるように加え、210℃で30分間撹拌して試料溶液を調製する。
・試料溶液の200μLを、充填材としてステンレスビーズが充填されたカラムに注入する。
・カラムを195℃から120℃まで4℃/分の速度で冷却して、試料を充填材の表面に結晶化させる。
・カラムを120℃で5分間保持し、熱平衡状態とする。
・カラムに移動相を1.00mL/分で流しながら、図1に示す昇温プロファイルにてカラムを120℃から205℃まで3℃/分の速度で昇温し、205℃で30分間保持して、充填材の表面の試料を順次溶出させる。
・カラムから流れ出た移動相を検出器に通し、移動相に溶出した試料の濃度を検出し、図1に示すような溶出時間に対する検出強度の変化を示す溶出曲線を得る。
・溶出曲線における溶出時間を溶出温度に変換して、目的とする溶出曲線を得る。
【0026】
TREFにおけるカラム温度条件は、標準で降温速度4℃/分、熱平衡温度120℃、昇温速度3℃/分であるが、下記の理由から移動相の溶媒の選択によってはカラム温度条件の調整が必要である。すなわち、移動相の溶媒は任意に選択できるが、溶媒の種類によって溶出温度もずれてしまう。TREFに用いる溶媒を任意に選択した際には、標準試料のピークおよび半値幅が所定の温度となるように溶出の際のカラム温度条件を調整し、溶媒に対応させた条件にて実際の試料のTREFを行う。具体的には、基準試料として旭硝子社製のFluon(登録商標)LM−ETFE LM730APを用い、移動相として後述する溶媒から選択したものを用い、上述した手順によってTREFによる溶出曲線を得る。基準試料が溶出曲線において169℃のピーク温度を有するように、かつ該ピークの半値幅が13℃となるように、カラム温度条件を調整する。これにより、任意の溶媒を選択した際にも同一のL/Hを得ることができ、試料の溶出温度が較正される。
【0027】
移動相としては、下記含フッ素芳香族化合物(A)および下記脂肪族化合物(B)のいずれか一方または両方を含む溶媒を用いる。
含フッ素芳香族化合物(A):融点が230℃以下であり、フッ素含有量が5〜75質量%の含フッ素芳香族化合物。
脂肪族化合物(B):融点が230℃以下であり、1個のカルボニル基を有する炭素数6〜10の脂肪族化合物。
【0028】
含フッ素芳香族化合物(A)としては、含フッ素ベンゾニトリル、含フッ素安息香酸およびそのエステル、含フッ素芳香族炭化水素、含フッ素ニトロベンゼン、含フッ素フェニルアルキルアルコール、含フッ素フェノールのエステル、含フッ素芳香族ケトン、含フッ素芳香族エーテル、含フッ素芳香族カーボネート、安息香酸のポリフルオロアルキルエステル、フタル酸のポリフルオロアルキルエステル等が挙げられる。その中でも上記融点、フッ素含量の条件を満たすものとしては、ペンタフルオロベンゾニトリル、2,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,5−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、3,4−ジフルオロベンゾニトリル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、3−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、ペンタフルオロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸エチル、2,4−ジフルオロ安息香酸メチル、3−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、4−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、ペルフルオロビフェニル、ペルフルオロナフタレン、ペルフルオロフェナントレン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ペンタフルオロニトロベンゼン、2,4−ジフルオロニトロベンゼン、ペンタフルオロベンジルアルコール、1−(ペンタフルオロフェニル)エタノール、酢酸ペンタフルオロフェニル、プロパン酸ペンタフルオロフェニル、ブタン酸ペンタフルオロフェニル、ペンタン酸ペンタフルオロフェニル、ペルフルオロベンゾフェノン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾフェノン、2’,3’,4’,5’,6’−ペンタフルオロアセトフェノン、3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)アセトフェノン、ペンタフルオロアニソール、3,5−ビス(トリフルオロメチル)アニソール、デカフルオロジフェニルエーテル、4−ブロモ−2,2’,3,3’,4’,5,5’,6,6’−ノナフルオロジフェニルエーテル、ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネート、安息香酸2,2,2−トリフルオロエチル、安息香酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル、安息香酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、安息香酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、安息香酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル、フタル酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)等が挙げられる。
含フッ素芳香族化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
脂肪族化合物(B)としては、環状ケトン、鎖状エステルが挙げられる。その中でも上記融点、カルボニル基と炭素数の条件を満たすものとしては、2−メチルシクロペンタノン、3−メチルシクロペンタノン、2−エチルシクロペンタノン、3−エチルシクロペンタノン、2,2−ジメチルシクロペンタノン、2,3−ジメチルシクロペンタノン、3,3−ジメチルシクロペンタノン、2,5−ジメチルシクロペンタノン、2,4−ジメチルシクロペンタノン、3,4−ジメチルシクロペンタノン、2−プロピルシクロペンタノン、2−イソプロピルシクロペンタノン、3−プロピルシクロペンタノン、3−イソプロピルシクロペンタノン、2,2,5−トリメチルシクロペンタノン、2−ブチルシクロペンタノン、2−イソブチルシクロペンタノン、2−tert−ブチルシクロペンタノン、3−ブチルシクロペンタノン、3−イソブチルシクロペンタノン、3−tert−ブチルシクロペンタノン、2,2,5,5−テトラメチルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロペンタノン、2−エチルシクロヘキサノン、3−エチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン、2,2−ジメチルシクロヘキサノン、2,3−ジメチルシクロヘキサノン、2,4−ジメチルシクロヘキサノン、2,5−ジメチルシクロヘキサノン、2,6−ジメチルシクロヘキサノン、2−プロピルシクロヘキサノン、2−イソプロピルシクロヘキサノン、3−プロピルシクロヘキサノン、3−イソプロピルシクロヘキサノン、4−プロピルシクロヘキサノン、4−イソプロピルシクロヘキサノン、2,2,6−トリメチルシクロヘキサノン、2,2,4−トリメチルシクロヘキサノン、2,4,4−トリメチルシクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、2,4,6−トリメチルシクロヘキサノン、2−ブチルシクロヘキサノン、2−イソブチルシクロヘキサノン、2−tert−ブチルシクロヘキサノン、3−ブチルシクロヘキサノン、3−イソブチルシクロヘキサノン、3−tert−ブチルシクロヘキサノン、4−ブチルシクロヘキサノン、4−イソブチルシクロヘキサノン、4−tert−ブチルシクロヘキサノン、2,2−ジエチルシクロヘキサノン、2,4−ジエチルシクロヘキサノン、2,6−ジエチルシクロヘキサノン、3,5−ジエチルシクロヘキサノン、2,2,6,6−テトラメチルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、2−メチルシクロヘプタノン、3−メチルシクロヘプタノン、4−メチルシクロヘプタノン、2−エチルシクロヘプタノン、3−エチルシクロヘプタノン、4−エチルシクロヘプタノン、2,2−ジメチルシクロヘプタノン、2,7−ジメチルシクロヘプタノン、2−プロピルシクロヘプタノン、2−イソプロピルシクロヘプタノン、3−プロピルシクロヘプタノン、3−イソプロピルシクロヘプタノン、4−プロピルシクロヘプタノン、4−イソプロピルシクロヘプタノン、2,2,7−トリメチルシクロヘプタノン、イソホロン、(−)−フェンコン、(+)−フェンコン、ギ酸イソペンチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸オクチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ペルフルオロペンタン酸エチル等が挙げられる。
脂肪族化合物(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
移動相における含フッ素芳香族化合物(A)および脂肪族化合物(B)の合計の含有割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0031】
(融点)
本発明の共重合体の融点は、230〜280℃が好ましく、245〜265℃がより好ましく、250〜260℃がさらに好ましい。
共重合体の融点が前記範囲の下限値以上であれば、高温下で共重合体が溶融または軟化しにくい。そのため、被覆層において局所的または全体的に厚さが変動しにくく、絶縁性が低下しにくい。たとえば、自動車用電線の耐熱性は、ISO 6722に規定されている。ISO 6722におけるThermal overload試験では異常な高温を想定し、短期間耐熱性試験温度よりも25℃高い温度での試験が設定されている。共重合体の融点が230℃未満では異常時の高温にさらされた際に被覆層が絶縁性を担保できない可能性がある。
共重合体の融点が前記範囲の上限値以下であれば、溶融成形性が優れる。
【0032】
(MFR)
本発明の共重合体のMFRは、1〜50g/10分が好ましく、10〜45g/10分がより好ましく、20〜40g/10分がさらに好ましく、25〜35g/10分が最もこのましい。共重合体のMFRが前記範囲の下限値以上であれば、溶融成形性が優れる。共重合体のMFRが前記範囲の上限値以下であれば、被覆層の機械的特性が優れる。
【0033】
(共重合体の製造方法)
本発明の共重合体は、公知の重合法によってエチレン、TFEおよび第3の単量体を重合させることによって製造される。重合法としては、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法等が挙げられ、懸濁重合法、溶液重合法が好ましく、溶液重合法がより好ましい。
【0034】
溶液重合法としては、たとえば、重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤の存在下に、重合媒体中にてエチレン、テトラフルオロエチレンおよび第3の単量体を重合させる方法が挙げられる。
重合媒体としては、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。
重合開始剤としては、アゾ化合物、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシエステル、非フッ素系ジアシルペルオキシド、含フッ素ジアシルペルオキシド、含フッ素ジアルキルペルオキシド、無機過酸化物等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、連鎖移動定数が大きく、使用量が少なくてすむ点から、アルコール、ハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ケトン、メルカプタン、エステル、エーテルが好ましく、連鎖移動定数がさらに大きく、共重合体の末端基の安定性が高い点から、アルコール、ハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボンがより好ましく、アルコール、ハイドロカーボンがさらに好ましい。アルコールとしては、水に溶解しやすく、製造後に共重合体と分離しやすい点から、メタノール、エタノールが好ましい。ハイドロカーボンとしては、連鎖移動定数がさらに大きく、共重合体の末端基の安定性が高く、沸点が室温よりも充分に高く、かつ100℃以下である点から、n−ペンタン、シクロヘキサンが好ましい。
重合温度は、0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。
重合圧力は、0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。
重合時間は、1〜30時間が好ましく、2〜20時間がより好ましい。
【0035】
上述した式(I)の関係を満足する共重合体を製造する方法としては、方法(1)〜(4)が挙げられ、製造工程が少なく、共重合体を製造しやすい点から、方法(1)または(2)が好ましく、方法(1)がより好ましい。
方法(1):得られる共重合体が式(I)の関係を満足するように、重合場の各単量体の割合を制御する方法。
方法(2):得られる共重合体が式(I)の関係を満足するように、重合場の温度を制御する方法。
方法(3):式(I)の関係を満足するように、得られた共重合体から特定の成分を分離する方法。
方法(4):L/Hが異なる2種類以上の共重合体を混合して、式(I)の関係を満足する共重合体を得る方法。
【0036】
方法(1)、(2)によって、式(I)の関係を満足する共重合体を製造できる理由は、下記のとおりである。
各単量体を重合させて得られる共重合体は、数多くの高分子鎖の集合体である。高分子鎖ごとに、各単量体単位の割合、分子量等が異なるため、TREFによる溶出温度にもばらつき、すなわち分布が生じる。本発明は、このような分布を有する共重合体のうち、式(I)の関係を満足するものが、耐熱性に優れることを見出したものである。TREFによる溶出温度の分布は、重合場(すなわちラジカル重合であれば、反応活性種であるラジカルの周囲)における各単量体の割合または重合場の温度で決まる。よって、重合場の各単量体の割合または重合場の温度を制御することによって、第3の単位の割合(M)を低く抑えつつ、低結晶性成分の割合(L)を多くし、かつ高結晶性成分の割合(H)を少なくする、すなわち式(I)の関係を満足する共重合体を製造できる。
【0037】
以下、方法(1)について具体的に説明する。
方法(1)の具体例としては、重合容器内に、エチレン、TFEおよび第3の単量体を仕込んで重合を開始した後、重合容器内に、エチレン、TFEおよび第3の単量体を連続的または断続的に追加供給する際に、追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給される第3の単量体の割合を、重合初期に生成する共重合体の全単位に対する第3の単位の割合と異ならせる方法が挙げられる。
上記重合初期に生成する共重合体の全単位に対する第3の単位のモル%で表した割合を本発明ではM1で表し、上記追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給される第3の単量体のモル%で表した割合を本発明ではm2で表す。
【0038】
方法(1)においては、M1に対するm2の比(m2/M1)は、1.10以上であり、1.13以上が好ましく、1.16以上がより好ましい。m2/M1が前記範囲内であれば、式(I)の関係を満足する共重合体を容易に製造できる。
ここで、重合初期に生成する共重合体は、重合媒体の1Lあたりに含まれる共重合体の質量が1〜20gの範囲にあるときに生成する共重合体である。
【0039】
方法(1)においてM1に対するm2の比を制御することによって、式(I)の関係を満足する共重合体を製造できる理由は、下記のとおりである。
重合媒体中で各単量体を重合させる場合、重合媒体の1Lあたりに含まれる共重合体の質量が1〜20gの範囲内にある重合初期においては、スラリーの粘度が低く、TFE/エチレン混合ガスの液相への溶解が抑制されることはない。そのため、液相に存在する第3の単量体の割合が高まることがなく、第3の単位の割合(M1)が設計通りの共重合体が生成する。
ところが、重合媒体中で各単量体を重合させる場合、重合の進行に伴い、重合媒体中に共重合体が生成してくるため、重合媒体と共重合体との混合物であるスラリーの粘度は上昇し、スラリーの粘度上昇に伴って、TFE/エチレン混合ガスの液相への溶解が抑制される。そして、重合中盤から終盤にかけては、TFE/エチレン混合ガスの液相への溶解が抑制されるとともに、m2/M1が1.10以上、すなわち第3の単量体の割合を比較的増やした状態で第3の単量体が追加供給される。そのため、重合中盤から終盤にかけては液相に存在する第3の単量体の割合が高まり、重合初期に比べ第3の単位の割合が多い共重合体(低結晶性成分)が多く生成すると考えられる。このようなメカニズムは、m2/M1を制御することによるものであり、最終的に得られる共重合体中の第3の単位の割合(M)を低く抑えるためにm2およびM1をそれぞれ低く抑えても、m2/M1を制御すれば同様のメカニズムが発揮されて、低結晶性成分が多く生成する。
【0040】
このように、M1に対するm2の比(m2/M1)を制御することによって、第3の単位の割合(M)を低く抑えつつ、低結晶性成分の割合(L)を多くし、かつ高結晶性成分の割合(H)を少なくする、すなわち式(I)の関係を満足する共重合体を得ることが可能となる。
たとえば、後述する実施例に示すように、重合初期に生成する共重合体中の第3の単位の割合(M1)が1.5モル%となるような単量体の仕込み割合で各単量体、重合媒体等を仕込んで重合を開始し、重合中に連続的または断続的に追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する第3の単量体の割合(m2)を1.75モル%とし、最終的に得られる共重合体中の第3の単位の割合(M)を2.0モル%とすることで、式(I)の関係を満足する共重合体を製造できる。
【0041】
本発明の共重合体の製造方法においては、重合容器内(重合場)に、塩素−炭素結合を有する化合物を実質的に存在させないことが好ましい。塩素−炭素結合を有する化合物が存在すると、耐熱老化性、耐サーマルストレスクラック性が低下する。
【0042】
塩素−炭素結合を有する化合物を実質的に存在させないということは、重合容器内に塩素−炭素結合を有する化合物を添加する等の操作によって重合容器内に積極的に塩素−炭素結合を有する化合物を含ませないということである。すなわち、重合容器内に塩素−炭素結合を有する化合物がまったく存在しない、または重合容器内に不可避的不純物としての塩素−炭素結合を有する化合物金属元素が含まれていてもよいということである。塩素−炭素結合を有する化合物を実質的に存在させないとは、具体的には、重合容器内の溶液中に塩素−炭素結合を有する化合物が3000ppm以下である状態をいう。
【0043】
塩素−炭素結合を有する化合物としては、メチルクロライド、メチレンクロライド、クロロホルム、ジクロロエタン等のハイドロクロロカーボン類、クロロフルオロメチレン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(AK225)等のハイドロクロロフルオロカーボン類等が挙げられる。
【0044】
(作用機序)
以上説明した本発明の共重合体にあっては、式(I)の関係を満足するため、被覆層のクラックの原因となる高結晶性成分の割合が少ない。また、式(I)の関係を満足する、すなわち第3の単位の割合あたりの低結晶性成分の割合が多いため、共重合体の融点を低下させる第3の単位の割合を抑えつつ、低結晶性成分の割合を多く(すなわち高結晶性成分の割合を少なく)できる。その結果、高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を形成できる。
【0045】
<電線被覆用樹脂材料>
本発明の電線被覆用樹脂材料は、本発明の共重合体を含む。
電線被覆用樹脂材料における本発明の共重合体の含有割合は、電線被覆用樹脂材料に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0046】
本発明の電線被覆用樹脂材料は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、他の樹脂、添加剤等が挙げられる。
他の樹脂としては、本発明の共重合体以外のETFE系共重合体、ETFE系共重合体以外の溶融成形可能なフッ素樹脂等が挙げられる。
添加剤としては、熱安定剤、顔料、紫外線吸収剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、有機過酸化物等が挙げられる。
【0047】
本発明の電線被覆用樹脂材料は、熱安定剤を含むことが好ましい。
熱安定剤としては、酸化第一銅、酸化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅が好ましい。熱安定剤としては、湿度の高い空気中でも安定性に優れる点から、酸化第二銅がより好ましい。
熱安定剤の含有量は、本発明の共重合体の100質量部に対して、0.00015〜0.02質量部が好ましく、0.0002〜0.005質量部がより好ましく、0.0003〜0.002質量部が特に好ましい。熱安定剤の含有量が前記範囲内であれば、電線被覆用樹脂材料からなる被覆層は、より高温での耐ストレスクラック性に優れ、着色が抑制される。
【0048】
(作用機序)
以上説明した本発明の電線被覆用樹脂材料にあっては、本発明の共重合体を含むため、高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い被覆層を形成できる。
【0049】
<電線>
本発明の電線は、芯線と、芯線に被覆された本発明の電線被覆用樹脂材料からなる被覆層とを有する。
【0050】
(芯線)
芯線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられ、銅が好ましい。芯線には、錫、銀等のメッキが施されていてもよい。
芯線の断面積は、0.01〜200mmが好ましく、0.05〜100mmがより好ましく、0.1〜50mmがさらに好ましい。芯線の断面積が前記範囲の下限値以上であれば、充分な容量の信号もしくは電力を伝送できるので好ましい。芯線の断面積が前記範囲の上限値以下であれば、可とう性に優れるので好ましい。
【0051】
(被覆層)
被覆層の厚さは、0.01〜5mmが好ましく、0.05〜1mmがより好ましく、0.1〜0.5mmがさらに好ましい。被覆層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、電気絶縁性が充分となる。被覆層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電線被覆用樹脂材料の使用量が抑えられ、電線のコストが抑えられる。また、電線が重くならず、軽量化が望まれる航空機用電線、自動車用電線として好適となる。
【0052】
(電線の製造方法)
本発明の電線は、たとえば、電線被覆用樹脂材料を溶融し、ダイスの吐出口から芯線のまわりに押し出して、芯線のまわりに被覆層を形成することによって製造できる。
電線の製造に用いる装置としては、電線ダイスクロスヘッドが設けられた押出機等が挙げられる。
【0053】
(作用機序)
以上説明した本発明の電線にあっては、被覆層が本発明の電線被覆用樹脂材料からなるため、被覆層が高温下での耐ストレスクラック性に優れ、かつ耐熱温度が高い。このような電線は、高温にさらされる航空機、自動車等に用いた場合であっても、クラックによる絶縁破壊が起こりにくい。
また、本発明の電線被覆用樹脂材料に含まれる本発明の共重合体が耐熱性および溶融成形性に優れるため、芯線の断面積が小さく、被覆層の厚さが薄い電線であっても高速で製造でき、低コストで耐熱性に優れた電線を製造できる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
例1〜3は実施例であり、例4〜5は比較例である。
【0055】
(MFR)
メルトインデクサー(テクノセブン社製)を用い、ASTM D3159に準拠し、温度:297℃、荷重:49Nの条件下で直径:2mm、長さ:8mmのオリフィスから10分間に流出する共重合体の質量(g)を測定し、MFR(g/10分)とした。
【0056】
(融点)
走査型示差熱分析器(SII社製、DSC7200)を用い、空気雰囲気下にて、共重合体の5mgを300℃まで10℃/分で加熱して5分間保持した後、150℃まで10℃/分で冷却して5分間保持し、再び300℃まで10℃/分で加熱した際の融解による吸熱ピークにおける温度を融点(℃)とした。
【0057】
(塩素含有量)
共重合体を酸素フラスコ法で燃焼処理し、発生した分解ガスを吸収液に吸収させ、イオンクロマトグラフ法によって塩化物イオンを定量し、塩素含有量(質量ppm)とした。
【0058】
(各単位の割合)
全フッ素量測定の結果および溶融F−NMR測定の結果から算出した。
【0059】
(TREF)
移動相は、上述した含フッ素芳香族化合物(A)および脂肪族化合物(B)からイソホロンを選択した。
試料溶出温度較正は、以下のように実施した。
基準試料として旭硝子社製のFluon(登録商標)LM−ETFE LM730APを用い、移動相として前記選択した溶媒を用い、後述する手順によってTREFによる溶出曲線を得た。基準試料が溶出曲線において169℃のピーク温度を有するように、かつ該ピークの半値幅が13℃となるように、熱平衡温度およびカラム昇降温速度を調整し、試料溶出温度を較正した。
【0060】
共重合体についてのTREFによる溶出曲線は、下記の手順によって得た。
・試料(共重合体)を移動相と同じ溶媒に試料濃度が3mg/mLとなるように加え、オートサンプラーを用いて210℃で30分間撹拌して試料溶液を調製した。
・試料溶液の200μLを、充填材としてステンレスビーズが充填されたカラムに注入した。
・カラムを195℃から120℃まで4℃/分の速度で冷却して、試料を充填材の表面に結晶化させた。
・カラムを120℃で5分間保持し、熱平衡状態とした。
・カラムに移動相を1.00mL/分で流しながら、カラムを120℃から205℃まで3℃/分の速度で昇温して、充填材の表面の試料を順次溶出させた。
・カラムから流れ出た移動相を粘度検出器に通し、移動相に溶出した試料の濃度を検出した。
【0061】
(耐ストレスクラック性)
共重合体100質量部に対して熱安定剤として酸化第二銅を0.0006質量部添加し、押出機を用いてペレット状の電線被覆用樹脂材料を得た後、直径:1.8mmの銅の芯線のまわりに、溶融押出成形法にて電線被覆用樹脂材料を押し出して厚さ:0.5mmの被覆層を形成して電線を得た。
得られた電線を、200℃のオーブンに入れ、96時間熱処理した後、室温まで冷却した。熱処理した電線を切断して5本に分け、その電線自身に8回転以上巻きつけた状態で固定し、200℃のオーブンに入れ、1時間熱処理し、被覆層のクラックの有無を確認した。
【0062】
(例1)
内容積:430Lのジャケット付きステンレス製重合槽を真空引きした。重合槽に、CH=CH(CFF(以下、PFBEとも記す。)の0.58質量%、メタノールの0.6質量%を含むCF(CFH溶液の255Lを仕込み、重合槽内を撹拌しながら66℃に加熱した。重合槽に、TFE/エチレン=84/16(モル比)の混合ガスを内圧が1.5MPa(ゲージ圧)になるまで仕込み、これにtert−ブチルペルオキシピバレートの1質量%を含むCF(CFH溶液の3.6kgを加えて重合を開始した。重合中、内圧が1.5MPaGを保持するようにTFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを連続的に追加供給すると同時に、PFBEを連続的に追加供給した。追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給されるPFBEの割合(m2)は1.75モル%とした。TFE/E=54/46(モル比)の混合ガスを3kg仕込んだ段階(重合初期)の共重合体の全単位に対するPFBE単位の割合(M1)は1.5モル%であった。TFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを34kg仕込んだ時点でガスの供給を停止し、重合槽を冷却し、未反応の混合ガスをパージして共重合体のスラリーを得た。得られたスラリーを850Lの造粒槽に移送し、340Lの水を加え、加熱しながら溶媒を除去し、共重合体(1)を得た。結果を表1に示す。
【0063】
(例2)
重合槽に仕込む溶液中のPFBEの濃度を0.58質量%から0.56質量%に変更し、重合開始剤溶液の量を3.6kgから3.2kgに変更し、追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給されるPFBEの割合(m2)を1.75モル%から1.7モル%に変更した以外は、例1と同様にして共重合体(2)を得た。結果を表1に示す。
【0064】
(例3)
重合槽に仕込む溶液中のPFBEの濃度を0.58質量%から0.33質量%に変更し、重合槽に仕込む溶液中のメタノールの濃度を0.6質量%から0.65質量%に変更し、重合開始剤溶液の量を3.6kgから2.7kgに変更し、追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給されるPFBEの割合(m2)を1.75モル%から1.45モル%に変更した以外は、例1と同様にして共重合体(3)を得た。TFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを3kg仕込んだ段階(重合初期)の共重合体の全単位に対するPFBE単位の割合(M1)は1.0モル%であった。結果を表1に示す。
【0065】
(例4)
重合槽に仕込む溶液中のPFBEの濃度を0.58質量%から0.75質量%に変更し、重合槽に仕込む溶液中のメタノールの濃度を0.6質量%から0.7質量%に変更し、重合開始剤溶液の量を3.6kgから1.8kgに変更し、追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給されるPFBEの割合(m2)を1.75モル%から2.0モル%に変更した以外は、例1と同様にして共重合体(4)を得た。TFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを3kg仕込んだ段階(重合初期)の共重合体の全単位に対するPFBE単位の割合(M1)は2.0モル%であった。結果を表1に示す。
【0066】
(例5)
重合槽に仕込む溶液中のPFBEの濃度を0.58質量%から0.50質量%に変更し、重合槽に仕込む溶液中のメタノールの濃度を0.6質量%から0.85質量%に変更し、重合開始剤溶液の量を3.6kgから1.3kgに変更し、追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給されるPFBEの割合(m2)を1.75モル%から1.4モル%に変更した以外は、例1と同様にして共重合体(5)を得た。TFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを3kg仕込んだ段階(重合初期)の共重合体の全単位に対するPFBE単位の割合(M1)は1.4モル%であった。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
例1〜3においては、追加供給されるエチレンとTFEとの合計に対する追加供給されるPFBEの割合(m2)を、重合初期に生成する共重合体の全単位に対するPFBE単位の割合(M1)と異ならせているため、log(L/H)/Mが0.90以上である共重合体が得られた。
一方、例4〜5においては、m2をM1と同程度にしているため、log(L/H)/Mが0.90未満である共重合体が得られた。
【0069】
図2は、例1〜5における重合槽に最初に仕込んだ溶液中の第3の単量体(PFBE)の濃度と、重合初期に生成する共重合体中の第3の単量体(PFBE)単位の割合(M1)との関係を示すグラフである。グラフに示すように、TFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを3kg仕込んだ段階(重合初期)のM1は、重合槽に最初に仕込んだ溶液中のPFBEの濃度に依存している。
引き続き、例1〜3においては、各単量体を連続的に追加供給する際にm2とM1とを異ならせているため、重合中盤から終盤にかけては液相に存在する第3の単量体の割合が高まり、重合初期に比べ第3の単位の割合の多い共重合体(低結晶性成分)が多く生成すると考えられる。一方、例4〜5においては、各単量体を連続的に追加供給する際にm2とM1とをほぼ同じにしているため、重合中盤から終盤にかけては液相に存在する第3の単量体の割合がさほど高まることなく、第3の単位の割合が重合初期と同程度の共重合体が生成していると考えられる。
【0070】
例1〜2は耐ストレスクラック性試験において、クラックが発生せず、例3は5本のサンプルのうち2本にクラックが発生したものの、残り3本にはクラックが発生しなかった。一方、例4〜5は全てのサンプルにクラックが発生した。この差は、共重合体の製造において各単量体を連続的に追加供給する際にm2とM1とを異ならせているか、ほぼ同じにしているかによって生じる差である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の共重合体は、航空機用電線、自動車用電線、鉄道用電線、半導体製造装置用電線、加熱炉用電線、ポンプ用電線、化学装置用電線、ヒーター用電線等における被覆層として有用である。
なお、2015年7月28日に出願された日本特許出願2015−148487号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1
図2