(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687056
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20200413BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20200413BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20200413BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20200413BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20200413BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
B01D21/01 101A
C02F1/44 C
C02F1/44 D
C02F1/44 E
B01D61/58
C02F1/56 K
C02F1/56 Z
C08K3/10
C08L33/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-84264(P2018-84264)
(22)【出願日】2018年4月25日
(65)【公開番号】特開2019-188337(P2019-188337A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2019年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩見 貴子
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/103860(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/045093(WO,A1)
【文献】
特開平10−180008(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/020157(WO,A1)
【文献】
米国特許第06416668(US,B1)
【文献】
国際公開第2017/130456(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
C08K 3/10
C08L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後に膜分離装置で膜分離する水処理方法において、被処理水に無機凝集剤を添加した後、質量平均分子量10万〜100万の水溶性のカチオン性ポリマーを添加して凝集処理し、凝集処理水を直接膜分離装置で膜分離する水処理方法であって、
該カチオンポリマーが、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリアミドの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩から選ばれるカチオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合物の1種又は2種以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記被処理水がリン、生物代謝物、キレート作用を有する有機酸、及び無機炭素のいずれかを含む、工業用水、市水、井水、工業排水、或いは排水の生物処理水である請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記膜分離装置が、精密濾過膜分離装置又は限外濾過膜分離装置である請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記膜分離装置で得られた処理水を、さらに逆浸透膜処理する請求項1〜3のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
流動電位法により前記被処理水を前記カチオン性ポリマーで滴定することで、該被処理水の電荷を中和するのに必要な該カチオン性ポリマーの必要量をカチオン消費量Aとして求め、該カチオン消費量Aと前記無機凝集剤及び該カチオン性ポリマーの添加濃度とが下記関係式(I)を満たすように、該カチオン性ポリマーの添加量と該無機凝集剤の添加量を制御する請求項1〜4のいずれかに記載の水処理方法。
カチオン消費量A×α=
カチオン性ポリマー添加濃度(mg/L)+無機凝集剤添加濃度(mg/L)×β
…(I)
α:水質変動を加味した安全係数
β:無機凝集剤のカチオン量をカチオン性ポリマーのカチオン量に換算する係数
【請求項6】
被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理手段と、該第1の凝集処理手段の凝集処理水に質量平均分子量10万〜100万の水溶性のカチオン性ポリマーを添加して凝集処理する第2の凝集処理手段と、該第2の凝集処理手段の凝集処理水を直接膜分離する膜分離装置とを有する水処理装置であって、
該カチオンポリマーが、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリアミドの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩から選ばれるカチオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合物の1種又は2種以上であることを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
前記被処理水がリン、生物代謝物、キレート作用を有する有機酸、及び無機炭素のいずれかを含む、工業用水、市水、井水、工業排水、或いは排水の生物及び無機炭素のいずれかを含む、工業用水、市水、井水、工業排水、或いは排水の生物処理水である請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記膜分離装置が、精密濾過膜分離装置又は限外濾過膜分離装置である請求項6又は7に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記膜分離装置で得られた処理水を処理する逆浸透膜分離装置を更に有する請求項6〜8のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項10】
流動電位法により前記被処理水を前記カチオン性ポリマーで滴定することで、該被処理水の電荷を中和するのに必要な該カチオン性ポリマーの必要量をカチオン消費量Aとして求め、前記無機凝集剤及び該カチオン性ポリマーの添加濃度とが、下記関係式(I)を満たすように、該カチオン性ポリマーの添加量と該無機凝集剤の添加量を制御する手段を更に有する請求項6〜9のいずれかに記載の水処理装置。
カチオン消費量A×α=
カチオン性ポリマー添加濃度(mg/L)+無機凝集剤添加濃度(mg/L)×β
…(I)
α:水質変動を加味した安全係数
β:無機凝集剤のカチオン量をカチオン性ポリマーのカチオン量に換算する係数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後、凝集処理水を膜分離装置で膜分離する水処理において、膜分離装置の汚染を防止すると共に、凝集剤使用量を低減する水処理方法及び水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水、市水、井水、工業排水などの被処理水を処理する方法として、原水中の有機物並びに濁質(SS)を除去する目的で無機凝集剤で凝集処理した後に、凝集処理水を沈殿分離装置や浮上分離装置、或いは精密濾過膜(MF膜)モジュール又は限外濾過膜(UF膜)モジュールによる膜分離装置によって固液分離して清澄水を得る方法がある。しかし、この方法では、例えば被処理水が高pHないしは高アルカリ度である場合や、高濃度のリンや生物代謝物を含む場合、これらの物質が無機凝集剤を分散させるため、無機凝集剤のみの凝集処理では大量の無機凝集剤が必要となり、汚泥発生量の増加につながる。さらには、無機凝集剤濃度が増加することによって、固液分離に用いた膜分離装置の洗浄頻度の増加につながる。
【0003】
無機凝集剤のみでは凝集処理が困難な被処理水に対して、無機凝集剤とともにカチオン性ポリマーを用いる方法がある。例えば、特許文献1には、無機凝集剤の添加に先立ちカチオン性ポリマーを添加することで、高pHあるいは高アルカリ度の被処理水を凝集処理する技術が記載されている。しかしながら、本方法では原水中の有機物やSSが最初にカチオン性ポリマーと反応するため、カチオン性ポリマーの必要添加量が多く、コスト増加につながる。
【0004】
特許文献2には、無機凝集剤と高分子凝集剤とを添加して凝集処理した後、固液分離する前に再び無機凝集剤を添加する技術が示されているが、この方法では凝集剤の添加回数が多く、装置が複雑で操作が煩雑になる問題がある。
【0005】
特許文献3には、実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を用い、そのの添加に先立ち無機凝集剤を添加する方法が示されているが、この方法では、非水溶性の粒子を含む凝集フロックが粗大になるため、固液分離に用いる膜分離装置内に濁質汚染を引き起こす問題がある。また、水に溶解しないポリマーは静置状態で沈降するため、薬品タンク内を常に攪拌する必要があり、薬注設備が複雑になる上に設備維持コストも増大する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−140577号公報
【特許文献2】特開平11−77062号公報
【特許文献3】特開2009−240974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後、凝集処理水を膜分離装置で膜分離する水処理において、膜分離装置の汚染を防止すると共に、凝集剤使用量を低減する水処理方法及び水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、最初に原水中の有機物やSSと無機凝集剤とを反応させた後に、特定の分子量の水溶性のカチオン性ポリマーを添加することで、分散する無機凝集剤コロイドや微細フロックとカチオン性ポリマーとを効率的に反応させることができ、カチオン性ポリマー添加後直接膜分離装置で膜分離しても膜分離装置を汚染することなく、また、凝集剤使用量の低減も可能であることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後に膜分離装置で膜分離する水処理方法において、被処理水に無機凝集剤を添加した後、質量平均分子量10万〜800万の水溶性のカチオン性ポリマーを添加して凝集処理し、凝集処理水を直接膜分離装置で膜分離することを特徴とする水処理方法。
【0010】
[2] 前記被処理水がリン、生物代謝物、キレート効果を有する有機酸、及び無機炭素のいずれかを含む、工業用水、市水、井水、工業排水、或いは排水の生物処理水である[1]に記載の水処理方法。
【0011】
[3] 前記膜分離装置が、精密濾過膜分離装置又は限外濾過膜分離装置である[1]又は[2]に記載の水処理方法。
【0012】
[4] 前記膜分離装置で得られた処理水を、さらに逆浸透膜処理する[1]〜[3]のいずれかに記載の水処理方法。
【0013】
[5] 流動電位法により前記被処理水を前記カチオン性ポリマーで滴定することで、該被処理水の電荷を中和するのに必要な該カチオン性ポリマーの必要量をカチオン消費量Aとして求め、該カチオン消費量Aと前記無機凝集剤及び該カチオン性ポリマーの添加濃度とが下記関係式(I)を満たすように、該カチオン性ポリマーの添加量と該無機凝集剤の添加量を制御する[1]〜[4]のいずれかに記載の水処理方法。
カチオン消費量A×α=
カチオン性ポリマー添加濃度(mg/L)+無機凝集剤添加濃度(mg/L)×β
…(I)
α:水質変動を加味した安全係数
β:無機凝集剤のカチオン量をカチオン性ポリマーのカチオン量に換算する係数
【0014】
[6] 被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理手段と、該第1の凝集処理手段の凝集処理水に質量平均分子量10万〜800万の水溶性のカチオン性ポリマーを添加して凝集処理する第2の凝集処理手段と、該第2の凝集処理手段の凝集処理水を直接膜分離する膜分離装置とを有することを特徴とする水処理装置。
【0015】
[7] 前記被処理水がリン、生物代謝物、キレート作用を有する有機酸、及び無機炭素のいずれかを含む、工業用水、市水、井水、工業排水、或いは排水の生物処理水である[6]に記載の水処理装置。
【0016】
[8] 前記膜分離装置が、精密濾過膜分離装置又は限外濾過膜分離装置である[6]又は[7]に記載の水処理装置。
【0017】
[9] 前記膜分離装置で得られた処理水を処理する逆浸透膜分離装置を更に有する[6]〜[8]のいずれかに記載の水処理装置。
【0018】
[10] 流動電位法により前記被処理水を前記カチオン性ポリマーで滴定することで、該被処理水の電荷を中和するのに必要な該カチオン性ポリマーの必要量をカチオン消費量Aとして求め、前記無機凝集剤及び該カチオン性ポリマーの添加濃度とが、下記関係式(I)を満たすように、該カチオン性ポリマーの添加量と該無機凝集剤の添加量を制御する手段を更に有する[6]〜[9]のいずれかに記載の水処理装置。
カチオン消費量A×α=
カチオン性ポリマー添加濃度(mg/L)+無機凝集剤添加濃度(mg/L)×β
…(I)
α:水質変動を加味した安全係数
β:無機凝集剤のカチオン量をカチオン性ポリマーのカチオン量に換算する係数
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被処理水を凝集処理して膜分離装置で膜分離する水処理において、膜分離装置の汚染を防止した上で、凝集剤使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例で用いた外圧式ミニモジュール試験装置を示す構成図である。
【
図2】実験例Iにおけるカチオン性ポリマーと無機凝集剤の添加順の凝集処理水質(MFF)に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の水処理方法及び水処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の水処理方法は、被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後に膜分離装置で膜分離する水処理方法において、被処理水に無機凝集剤を添加した後、質量平均分子量10万〜800万の水溶性のカチオン性ポリマーを添加して凝集処理し、凝集処理水を直接膜分離装置で膜分離することを特徴とする。
【0023】
本発明の水処理装置は、被処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理手段と、該第1の凝集処理手段の凝集処理水に質量平均分子量10万〜800万の水溶性のカチオン性ポリマーを添加して凝集処理する第2の凝集処理手段と、該第2の凝集処理手段の凝集処理水を直接膜分離する膜分離装置とを有することを特徴とする。
【0024】
[メカニズム]
本発明によれば、被処理水に最初に無機凝集剤を添加して被処理水中の有機物やSSと無機凝集剤とを反応させた後に、カチオン性ポリマーを添加するため、分散する無機凝集剤コロイドや微細フロックとカチオン性ポリマーとを効率的に反応させることができ、カチオン性ポリマー添加後直接膜分離装置で膜分離しても膜分離装置を汚染することなく、また、凝集剤使用量の低減も可能となる。
【0025】
仮にカチオン性ポリマーを無機凝集剤の前に添加した場合、カチオン性ポリマーが原水中のSSや有機物などのアニオン成分と反応して消費される。そのため、無機凝集剤の後にカチオン性ポリマーを添加する場合と比べて、分散した無機凝集剤コロイドと反応するために必要なカチオン性ポリマーの量が増加する。一方、カチオン性ポリマー添加量/無機凝集剤添加量の割合が一定以上になった場合、凝集フロックが分離膜に吸着しやすく膜を汚染しやすくなる。よって、本発明においては、分離膜前の凝集にカチオン性ポリマーを用いる場合は、無機凝集剤の添加後にカチオン性ポリマーを用いる。
【0026】
本発明で用いるカチオン性ポリマーは、その質量平均分子量が10万以上と比較的大きいため、後述の実施例に示されるように、凝集フロックが膜閉塞を引き起こし難く、一方で、質量平均分子量800万以下でかつ水溶性であるため凝集フロックが膜モジュール内に堆積し難く、このため膜分離装置内の汚染を防止して、長期に亘り安定に処理を継続することができる。
また、無機凝集剤とカチオン性ポリマーとの併用で無機凝集剤の添加量を低減することができ、その際にカチオン性ポリマーを無機凝集剤よりも後に添加するため、カチオン性ポリマーの必要添加量を低減することができ、結果として全体の凝集剤使用量を低減することができる。
【0027】
[被処理水]
本発明で処理する被処理水としては特に制限はないが、本発明は、無機凝集剤のみでは十分な凝集処理効果を得ることが困難な、リン、生物代謝物、キレート作用を有する有機酸、或いは無機炭素を含む、工業用水、市水、井水、工業排水、排水の生物処理水の処理に有効である。
キレート作用を有する有機酸としては、クエン酸、蟻酸、コハク酸、酢酸及び酪酸などが例示できる。これらの有機酸は例えば半導体製造工程中のメッキ工程などに用いられ、該排水を処理する際に無機凝集剤の錯イオン形成剤あるいは分散剤として作用する。このような有機酸を含む排水の凝集は、凝集pHが高いほど有機酸の錯イオン形成能が高まるため、凝集状態が悪化する。凝集pHが高くなる場合とは、例えば、CuやMn等の重金属処理を目的に凝集を行う場合、或いは、原水中のTOC除去における最適凝集pHが6以上である場合、無機凝集剤にポリ塩化アルミニウムを用いる場合を挙げることができる。
【0028】
[無機凝集剤による凝集処理]
被処理水に添加する無機凝集剤としては、幅広いpH範囲でフロックを形成することができる鉄系又はアルミニウム系の無機凝集剤を使用することが好ましい。鉄系無機凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などが挙げられ、アルミニウム系無機凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウムが挙げられる。特に凝集効果とコストの面で鉄系無機凝集剤である塩化第二鉄が好ましい。これらの無機凝集剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
被処理水への無機凝集剤の添加量は、被処理水の水質や、用いる無機凝集剤の種類、要求される処理水水質等によっても異なるが、有効成分量として2〜100mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0030】
なお、無機凝集剤はその種類に応じて、好適凝集処理pH範囲が存在し、塩化第二鉄等の鉄系無機凝集剤ではpH5〜6程度が好ましく、アルミニウム系無機凝集剤ではpH6〜7程度が好ましいことから、必要に応じて酸又はアルカリを添加して好適pH範囲にpH調整することが好ましい。
【0031】
被処理水に無機凝集剤を添加した後は被処理水中の有機物やSSと無機凝集剤とを十分に反応させるために2〜10分程度急速攪拌することが好ましい。
なお、本発明において、急速攪拌とは回転数として100〜200rpm程度をさし、緩速攪拌とは回転数として20〜100rpm程度をさす。
【0032】
[カチオン性ポリマーによる凝集処理]
本発明で用いるカチオン性ポリマーは、質量平均分子量10万〜800万の水溶性のものである。
ここで、「水溶性」とは、水に対する溶解度が1g以上/水100g(20℃)であることをさす。
また、「カチオン性ポリマー」とは、コロイド当量が正の値を示すものであり、例えばコロイド当量は、1.0〜6.0meq/gであることが好ましい。ここで、コロイド当量は1/400NのPVSK(ポリビニル硫酸カリウム)で滴定を行い、流動電位法により測定される。
【0033】
また、カチオン性ポリマーの質量平均分子量とは、クロマトグラフィー法(GPC法)により測定された質量平均分子量の値である。
【0034】
カチオン性ポリマーの質量平均分子量が10万未満では、形成される凝集フロックが微細になるため膜閉塞を引き起こし易く、一方で質量平均分子量が800万を超えると凝集フロックが粗大になりすぎ、膜モジュール内に堆積しやすくなる。このため、本発明で用いるカチオン性ポリマーの質量平均分子量は10万〜800万、好ましくは20万〜100万の範囲とする。
【0035】
カチオン性ポリマーとしては、上記の質量平均分子量を有する水溶性のものであればよく、特に制限はないが、カチオン性モノマーとアクリルアミド等のノニオン性モノマーとの共重合物を好適に用いることができる。カチオン性モノマーの具体例としては、ジメチルアミノエチルアクリレートやジメチルアミノエチルメタクリレートの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピルアクリアミドやジメチルアミノプロピルメタクリアミドの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。なお、4級アンモニウム塩としては、メチルクロライドやエチルクロライドなどの4級アンモニウム塩を用いることができる。
これらのカチオン性ポリマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
無機凝集剤による凝集処理水(以下、「無機凝集処理水」と称す場合がある。)へのカチオン性ポリマーの添加量は、被処理水或いは無機凝集処理水の水質や用いるカチオン性ポリマーの種類によっても異なるが、有効成分量として0.1〜5mg/Lの範囲をすることが好ましい。
【0037】
無機凝集処理水にカチオン性ポリマーを添加した後は、カチオン性ポリマーとの反応時間を確保するために2〜10分程度の急速攪拌と、その後2〜10分程度の緩速攪拌を行うことが好ましい。
【0038】
[膜分離装置による膜分離]
無機凝集処理水にカチオン性ポリマーを添加して凝集処理して得られた凝集処理水(以下、「カチオン凝集処理水」と称す場合がある。)は、直接膜分離装置で膜分離する。
ここで、「直接膜分離する」とは、カチオン凝集処理水に更なる凝集剤の添加や、沈殿槽等による固液分離等を行わずに、そのまま膜分離装置に給水することをさす。
【0039】
本発明で用いる膜分離装置については、その膜素材、膜形式や構造には特に制限はないが、膜分離装置はMF膜分離装置又はUF膜分離装置を用いることが好ましい。
UF膜、MF膜の孔径については、0.2μm以下、例えば0.1〜0.01μm程度のものを用いることが好ましい。
【0040】
また、膜分離装置による膜分離方式にも特に制限はなく、後述の実施例ではデッドエンド通水方式で行っているが、クロスフロー通水方式であってもよい。
【0041】
[高度処理]
本発明において、上記の膜分離装置による膜分離で得られる処理水は有機物、SS等が十分に除去された高水質のものであり、これをそのまま工業用水として使用したり放流することができるが、必要に応じて逆浸透(RO)膜分離装置でRO膜処理してもよく、この場合において、RO膜処理に供する水が十分に高水質であるため、RO膜分離装置の差圧上昇等の問題を引き起こすことなく、安定かつ効率的な処理を行って、高水質の純水を得ることができる。
【0042】
[凝集剤添加量の制御]
無機凝集処理水に対してカチオン性ポリマーを過剰添加した場合、カチオン凝集処理水中の荷電がプラス雰囲気になるため、カチオン性ポリマーの吸着対象物質(原水中SS、有機物、無機凝集剤コロイド)の除去率を低下させる結果となる。そのため、被処理水の電荷を中和するために必要なカチオン消費量Aを測定し、添加する凝集剤の総カチオン量を被処理水のカチオン消費量A以下に調整することが好ましい。被処理水のカチオン消費量Aは流動電位法により、被処理水を用いるカチオン性ポリマーで滴定することにより求めることができる。
【0043】
本発明では、このようにして被処理水のカチオン消費量Aを求め、無機凝集剤とカチオン性ポリマーの添加濃度とが下記関係式(I)を満たすように、無機凝集剤とカチオン性ポリマーの添加量を制御することが好ましい。
カチオン消費量A×α=
カチオン性ポリマー添加濃度(mg/L)+無機凝集剤添加濃度(mg/L)×β
…(I)
ここで、αは水質変動を加味した安全係数であり、通常、0.6〜0.9程度である。
また、βは、用いる無機凝集剤のカチオン量をカチオン性ポリマーのカチオン量に換算する係数であり、流動電流計を用いた滴定により求められる。
【0044】
上記のカチオン性ポリマーと無機凝集剤の添加量の制御は、予め求めた被処理水のカチオン消費量Aと用いる無機凝集剤の換算係数βと、予め設定された安全係数αが入力される制御手段により自動制御で行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0046】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた無機凝集剤及びカチオン性ポリマーは以下の通りである。
無機凝集剤:塩化第二鉄
カチオン性ポリマー:質量平均分子量5万、10万、20万、70万、100万、800万又は1000万のジメチルアミノエチルアクリレート・メチルクロライド四級塩/アクリルアミド共重合体(コロイド当量2.5〜3.0meq/g)
【0047】
また、試験装置としては、
図1(a),(b)に示す外圧式ミニモジュール試験装置(外圧式中空糸UF膜、孔径:0.02μm、膜長さ:7.5cm、膜面積:10.6cm
2、膜素材ポリフッ化ビニリデン)を用いた。
図1(a)中、1は中空糸膜、2はポッティング剤、3は原水導入口、4は排水口、5はモジュールハウジングであり、内部に中空糸膜1が装填されている。原水は導入口3からハウジング5内に導入され、中空糸膜1を透過した透過水が中空糸膜1の膜内からハウジング5外へ取り出される。
【0048】
この外圧式中空糸ミニモジュール10に
図1(b)の通り配管を接続して外圧式ミニモジュール試験装置とした。この試験装置では、原水の処理時は、バルブV
1,V
2,V
3を閉として、ポンプPを作動させて、給水タンク6から配管11を経て原水を外圧式ミニモジュール10に導入し、透過水を配管13を経て処理水タンク7に送給するデッドエンド通水方式で膜分離を行う。膜の逆洗浄を行う際は、ポンプPを停止し、バルブV
1を閉、V
2,V
3を開として、配管13Aより空気を配管13に送気し、配管13内の水を中空糸膜1の内側(2次側)から外側(1次側)へ透過させる。排水時は、ポンプPを停止した状態で、バルブV
1,V
2を開、バルブV
3を閉として、配管11Aから空気を配管11に送気し、配管12よりモジュール10内の水を排出させる。配管11A,13Aからの空気は0.15MPaで送気した。水張り時は、バルブV
2を開、バルブV
1,V
3を閉として、ポンプPを作動させて給水タンク6内の水をモジュール10内に導入する。PIは圧力計である。
【0049】
[実施例1〜5、比較例1〜2]
液晶工場排水の生物処理水(SS濃度:40mg/L、TOC:2〜2.5mg/L)を150rpmで急速攪拌しながら無機凝集剤(塩化第二鉄)を38%水溶液として100mg/Lを添加し、次いでpH調整剤(水酸化ナトリウム)を用いてpH5.5に調整した。更に5分間急速攪拌した後、引き続き150rpmで急速攪拌しながら、表1に示す通り、質量平均分子量の異なるカチオン性ポリマー0.6mg/Lをそれぞれ添加して5分間反応させた後に、50rpmでさらに5分間緩速攪拌して凝集処理を行った。
【0050】
得られた凝集処理水を、
図1(a),(b)に示す外圧式ミニモジュール試験装置に48時間通水した。通水中、フラックス4m
3/m
2/dの濾過28分おきに逆洗浄(30秒)、次いで排水(30秒)、その後水張り(30秒)を行い、配管11に設けた圧力計Plで測定される膜間差圧の上昇速度を調べた。
また、給水(膜分離処理に供した凝集処理水)のSS濃度と、48時間の通水で得られた排水中のSS量を測定し、モジュール内のSS残留率を以下の式で算出した。
【0051】
【数1】
【0052】
給水SS濃度および排水中SS量は、これらの水を、直径47mm、孔径1μmのガラス濾紙で濾過した際に得られる濾取物の乾燥重量として測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より次のことが分かる。
低分子量の質量平均分子量を用いると、フロックが微細になるため膜閉塞を生じやすく、差圧上昇速度が大きくなる傾向を示した(比較例1)。カチオン性ポリマーの分子量が大きくなると、フロックが粗大になるためモジュール内に堆積しやすく、SS残留率が増加した(比較例2)。これらの結果から、膜汚染性の観点から、カチオン性ポリマーの適正質量平均分子量は10万〜800万であり、望ましくは20万〜100万であることが分かる。
【0055】
[実験例I]
以下の無機凝集剤とカチオン性ポリマーを用いて、無機凝集剤とカチオン性ポリマーの添加順序による効果を調べる実験を行った。
無機凝集剤:塩化第二鉄
カチオン性ポリマー:質量平均分子量20万のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(コロイド当量5.9meq/g、固有粘度0.75dg/L)
試験水:国内工業用水にリン酸(リン酸は無機凝集剤を分散させる目的で添加した。)を6mg/L asPになるように添加したモデル水を用いた。
【0056】
試験方法は以下の通りである。
試験水に無機凝集剤(塩化第二鉄)を38%水溶液として75mg/Lおよびカチオン性ポリマー0.6mg/L(純分として)を添加し、pH調整剤(水酸化ナトリウム)を用いてpH5.5に調整して凝集処理し、得られた凝集処理水を、No.5Aろ紙でろ過した後、ろ液をφ25mm、孔径0.45μmの酢酸セルロースメンブレンフィルターを用いて−500mmHgで減圧濾過した。このとき、初めの150mLをろ過するのに要した時間をT1(秒)、次の150mLをろ過するのに要した時間をT2(秒)とし、MFF=T2/T1で処理水の評価を行った。
MFFは小さい値であるほど、良好な水質であることを意味する。
【0057】
無機凝集剤及びカチオン性ポリマーによる凝集処理手順は、各例毎に以下の通りとした。
実験例I−1(無機凝集剤添加後カチオン性ポリマー添加):試験水を150rpmで急速撹拌しながら無機凝集剤を添加し、次いでpH調整剤を用いてpH5.5に調整し、更に5分間急速撹拌し、急速撹拌しながらカチオン性ポリマーを添加して5分間反応させ、その後、50rpmで更に5分間緩速撹拌して凝集処理した。
実験例I−2(カチオン性ポリマー添加後無機凝集剤添加):試験水を150rpmで急速撹拌しながらカチオン性ポリマーを添加し、次いで無機凝集剤を添加した後にpH調整剤を用いてpH5.5に調整し、更に5分間急速撹拌した。その後、50rpmで更に5分間緩速撹拌して凝集処理した。
実験例I−3(カチオン性ポリマー及び無機凝集剤同時添加):試験水を150rpmで急速撹拌しながら無機凝集剤とカチオン性ポリマーを同時に添加し、次いでpH調整剤を用いてpH5.5に調整し、50rpmで更に5分間緩速撹拌して凝集処理した。
【0058】
結果を
図2に示す。
図2より次のことが明らかである。
実験例I−2,3は、いずれも無機凝集剤添加後カチオン性ポリマーを添加した実験例I−1よりもMFFが大きく、凝集不良であった。これは、原水中のアニオン成分とカチオン性ポリマーが反応し、分散する無機凝集剤コロイドと反応しきれなかったためである。本結果より、分散する無機凝集剤を捕捉する目的でカチオン性ポリマーを用いる場合、無機凝集剤の後にカチオン性ポリマーを添加する方が、カチオン性ポリマーを効率よく使用できるため、少量の添加量で充分な凝集効果が得られることが分かる。
【0059】
[実験例II]
実験例Iで用いた無機凝集剤とカチオン性ポリマーと同一の無機凝集剤とカチオン性ポリマーを用い、キレート効果を有する有機酸を含む排水に対するカチオン性ポリマーの効果を調べる実験を行った。
試験水としては、国内半導体工場のメッキ工程排水(有機酸を含む溶存有機物濃度10〜20mg/L,銅濃度6mg/L)を用いた。
試験方法は、以下の通りである。
【0060】
試験水中の銅を除去する目的で凝集処理を実施した。試験水を150rpmで急速攪拌しながら無機凝集剤(塩化第二鉄)を38%水溶液として500mg/Lを添加し、次いでpH調整剤(水酸化ナトリウム)を用いてpH9に調整した。更に5分間急速攪拌した後、急速撹拌しながらカチオン性ポリマー0〜5mg/L(純分として表2に示す添加量)を添加して5分間反応させた。その後、50rpmでさらに5分間緩速攪拌してフロックを成長させた。得られた凝集処理水を、No.5Aろ紙でろ過した後、ろ液中の銅イオン濃度を測定した。
銅イオン濃度が低いほど、凝集処理が効果的に実施され、凝集状態が良好であることを意味する。
結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2より、カチオン性ポリマーの添加量の増加に伴い、ろ液の銅イオン濃度が低下しており、凝集状態が改善されたことが分かる。
【符号の説明】
【0063】
1 中空糸膜
2 ポッティング剤
3 原水導入口
4 排水口
5 モジュールハウジング
6 給水タンク
7 処理水タンク
10 外圧式中空糸ミニモジュール