(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687412
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】食用油脂の精製方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/02 20060101AFI20200413BHJP
C11B 3/10 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
A23D9/02
C11B3/10
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-23953(P2016-23953)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-139995(P2017-139995A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】永岩 達夫
(72)【発明者】
【氏名】荒川 浩
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−031190(JP,A)
【文献】
特開昭55−067518(JP,A)
【文献】
特開2002−121581(JP,A)
【文献】
特開2005−006510(JP,A)
【文献】
特開2016−040366(JP,A)
【文献】
特開2005−008675(JP,A)
【文献】
特開平07−203845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性白土及び/又は二酸化ケイ素に加え、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムをパーム系油脂に添加し、該パーム系油脂を脱色する工程、及び
脱色した上記パーム系油脂を15℃以下で保管する工程を具備する、食用油脂の風味劣化防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂の精製は、その起源に関係なく、通常は、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱臭工程の順に行なわれる。これらの精製工程により、不純物が少なく、酸価が低く、着色がなく、臭いのない食用油脂が得られる。尚、サラダ油等、低温下でも油脂結晶を生成させないことが必要である食用油脂の製造の場合や、原料油脂としてロウ分の多い油脂を使用した場合には、上記精製工程に脱ロウ工程が付加されることがある。
【0003】
脱ガム工程とは、油脂に溶存するリン脂質等のガム質をリン酸処理等により沈殿・分離し、除去する工程である。
【0004】
脱酸工程とは、油脂に含まれる遊離脂肪酸をアルカリで中和処理して、生じたセッケンを除去する工程である。
【0005】
脱色工程とは、色素成分や他の微量成分を、活性白土等の吸着剤で除去する工程である。
【0006】
脱臭工程とは、減圧下で加熱した油脂に水蒸気を吹き込み、揮発性成分を蒸留し、除去する工程である。
【0007】
従来、上述の精製工程を経て得られた食用油脂であっても風味劣化する場合があることが知られている。
【0008】
例えばヤシ油やパーム核油のような短鎖脂肪酸を多く含有する油脂では、保存中に加水分解をおこし、石鹸臭といわれる劣化臭が発生することが知られている。
【0009】
また、大豆油、魚油等の高度不飽和脂肪酸を多く含有する油脂では二重結合の開裂により、もどり臭と言われる劣化臭が発生することが知られている。
【0010】
これらの対策としては、保管中の水分管理や酸化防止剤の適正量の添加、或いは光の遮断や低温保管、さらには脱酸素等の方法により防止可能なことが判明している。
しかし、最近の知見では、短鎖脂肪酸も高度不飽和脂肪酸も含有しないパーム油において劣化臭が発生することがしばしば問題となってきた。しかもこの劣化臭は低温保管条件であっても発生することが知られている。
【0011】
このような新たな油脂の風味問題に対し、例えば、特定の乳化剤を添加する方法(例えば特許文献1、2参照)、脱色工程前又は脱色工程後に油脂を酸で洗浄する油脂の精製方法(例えば特許文献3参照)、未脱臭カカオ脂と特定比で混合する方法(例えば特許文献4参照)、脱色工程の前に過酸化物価を1以下とする加熱工程を挿入する方法(例えば特許文献5参照)、微量のクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドを添加する方法(例えば特許文献6参照)等が提案されている。
しかし、これらの方法は十分な効果が得られず、特に特許文献1、2、4の方法では得られる食用油脂の用途が限定されてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−055687号公報
【特許文献2】特開2005−168482号公報
【特許文献3】特開2006−028466号公報
【特許文献4】特開2012−249604号公報
【特許文献5】特開2013−028752号公報
【特許文献6】特開2013−049829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって本発明の目的は、風味に影響を与えることなく、風味劣化、特にパーム系油脂の低温保管時の風味劣化を防止する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、食用油脂の脱色工程において、吸着剤に加え、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムを添加した場合、上記課題を解決可能なことを知見した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、脱色工程において、吸着剤に加え、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムを添加することを特徴とする食用油脂の精製方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、脱色工程において、吸着剤に加え、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムを添加することを特徴とする食用油脂の風味劣化防止方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、風味に影響を与えることなく、食用油脂の風味劣化、特にパーム系油脂の低温保管時の風味劣化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の食用油脂の精製方法について、その好ましい実施形態に基づき、詳細に説明する。
【0019】
本発明に使用する食用油脂としては、特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。本発明においては、これらの食用油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明では、上記食用油脂の中でも本発明の高い効果が得られる点で、パーム系油脂であることが好ましい。
【0021】
本発明において、パーム系油脂とは、パーム油、又はこれを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができる。
尚、上記パーム分別油には、2段以上の分別工程を経て得られる、例えばパーム中部油、パームスーパーオレインやパームハードステアリン等も含むものとする。
【0022】
本発明では、パーム系油脂の中でも、本発明の高い効果が得られる点で、パーム油、パーム分別油、パーム部分硬化油、パーム極度硬化油、或いはこれらを使用して得られたエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0023】
本発明で使用する吸着剤としては食用油脂の精製の脱色工程で通常使用される各種の多孔質物質を使用することができ、例えば酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート、活性炭、二酸化ケイ素等を使用することができる。本発明においては、これらの吸着剤を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明では、上記吸着剤の中でも本発明の高い効果が得られる点で、活性白土及び/又は二酸化ケイ素を使用することが好ましく、より好ましくは活性白土及び二酸化ケイ素を併用する。
【0025】
ここで吸着剤の使用量は、その種類や比表面積、粒径等の物性によっても異なり、一概に規定することはできないが、一般に、無水物換算で、食用油脂100質量部当り0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、最も好ましくは0.3〜3質量部である。また、活性白土及び二酸化ケイ素を併用する場合の両者の質量比率は、好ましくは前者:後者=50:50〜98:2であり、より好ましくは80:20〜95:5であり、最も好ましくは90:10〜95:5である。
【0026】
本発明では、上記吸着剤に加え、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムを使用する。この酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムを併用しないと本発明の効果は得られない。その作用機構については不明であるが、おそらくは風味劣化に関与する前駆物質を吸着除去しているものと思われる。
【0027】
ここで、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムの好ましい添加量は、食用油脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、最も好ましくは0.3〜3質量部である。
また、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを併用する場合の両者の質量比率は、好ましくは前者:後者=95:5〜5:95であり、より好ましくは90:10〜10:90である。
【0028】
本発明では、上記吸着剤と酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムの複合製剤を使用することができる。該複合製剤としては、酸化マグネシウムと二酸化ケイ素との複合製剤を使用することが好ましい。尚、酸化マグネシウムと二酸化ケイ素との複合製剤を使用する場合は、前述のように活性白土と併用することが好ましい。
【0029】
本発明における食用油脂と、吸着剤、並びに酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムとの接触温度は50〜150℃が好ましく、60〜120℃がより好ましく、70〜100℃がより一層好ましい。また、接触時間は、同様の点から、10〜180分が好ましく、20〜120分がより好ましく、30〜120分がさらに好ましく、60〜120分がより一層好ましい。圧力は、常圧下でも行うことができるが、望ましくは100torr以下の真空下が好ましい。
【0030】
本発明では、上記吸着剤、並びに酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムとの接触の順序は特に限定されず、食用油脂に対し、吸着剤と接触させた後に酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムとの接触を行ってもよく、また、食用油脂に対し、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムとの接触を行った後に吸着剤と接触させてもよく、さらには、吸着剤との接触と、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムとの接触を同時に行ってもよいが、本発明では、ろ過効率の点で吸着剤との接触と、酸化マグネシウム及び/又は酸化アルミニウムとの接触を同時に行うことが好ましい。
【0031】
本発明の食用油脂の精製方法では、上記脱色処理を行う以外は通常の食用油脂の精製と同様の処理を行なうことができる。すなわち、脱ガム工程、脱酸工程、脱臭工程、さらには脱ロウ工程等を特に制限することなく行うことができるが、上記脱色工程を終えた後に脱臭工程を行うことが好ましい。
【0032】
脱臭工程を行う場合、その際の脱臭温度は180〜280℃が好ましく、200〜270℃がより好ましく、さらに好ましくは210〜270℃、特に好ましくは230〜265℃である。
【0033】
本発明の精製方法で得られた食用油脂は、従来の精製方法で得られた食用油脂に比べ、風味劣化が抑制されているという特徴を有する。特に食用油脂がパーム系油脂である場合は特に低温保管時の風味劣化が抑制されている。尚、本発明でいう低温とは具体的には15℃以下、好ましくは5℃以下であることを言う。
【0034】
本発明の精製方法で得られた食用油脂は、一般の食用油脂同様に、飲食品の製造に使用することができる。その場合、得られる飲食品は、従来の精製方法で得られた食用油脂を使用した飲食品に比べ食用油脂由来の風味劣化が抑制されており、食用油脂がパーム系油脂である場合は低温保管時の風味劣化が抑制されているという特徴を有する。
【0035】
ここで上記飲食品の例としては、例えば、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、風味ファットスプレッド、ドレッシング、マヨネーズ、冷菓、スプレー用油脂、フライ用油脂、チョコレート用油脂、バッター用油脂等の油脂加工食品をはじめ、フラワーペースト、餡等の製菓製パン用素材、洋菓子、和菓子、パン、スナック、カレー、シチュー、グラタン、調味料、即席調理食品、畜産加工品、水産加工品、野菜加工品等の、油脂を使用する飲食品を挙げることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0037】
<食用油脂の精製>
〔実施例1〕
1000mlの4つ口フラスコにRBDパーム油500gを採取し、活性白土7.5g、二酸化ケイ素0.5g及び酸化マグネシウム0.5gを添加し、撹拌羽を用いて300rpm、減圧下(約8Torr)、90℃で20分間脱色工程を行った。続けて、ブフナー漏斗で吸引ろ過し、白土を除去した。さらに水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約2Torr)、250℃で60分間脱臭工程を行い、精製パーム油を得た。
【0038】
〔実施例2〕
実施例1の二酸化ケイ素と酸化マグネシウムの代わりに二酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの複合製剤(ミズカライフF−2G;SiO
2/MgO質量比=1.72、水澤化学工業製)1.0gを添加した以外は実施例1と同様にして脱色、脱臭工程を行い、精製パーム油を得た。
【0039】
〔実施例3〕
実施例1の酸化マグネシウム0.5gの代わりに酸化アルミニウム5gを添加した以外は実施例1と同様にして脱色、脱臭工程を行い、精製パーム油を得た。
【0040】
〔実施例4〕
実施例1の二酸化ケイ素0.5g及び酸化マグネシウム0.5gを、酸化マグネシウムのみ0.5gに変更した以外は実施例1と同様にして脱色、脱臭工程を行い、精製パーム油を得た。
【0041】
〔比較例1〕
1000mlの4つ口フラスコにRBDパーム油500gを採取し、活性白土7.5gを添加し、撹拌羽を用いて300rpm、減圧下(約8Torr)、90℃で20分間脱色工程を行った。続けて、ブフナー漏斗で吸引ろ過し、白土を除去した。さらに水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約2Torr)、250℃で60分間脱臭工程を行い、精製パーム油を得た。
【0042】
〔比較例2〕
実施例1の二酸化ケイ素0.5g及び酸化マグネシウム0.5gを、二酸化ケイ素のみ1.0gに変更した以外は実施例1と同様にして脱色、脱臭工程を行い、精製パーム油を得た。
【0043】
<評価基準>
上記実施例及び比較例で得られた精製パーム油は下記の評価方法に従って酸価及び色調の測定、及び、風味劣化試験を行った。
【0044】
酸価については基準油脂分析法に従い測定し、結果を表1に記載した。
【0045】
色調については基準油脂分析試験法(2.2.1.1-1996)記載のロビボンド法に準拠し、5.25インチのガラスセルを使用し、R値とY値を測定し、R/Yの値を表1に記載した。
【0046】
風味劣化試験については得られた精製パーム油を溶解後120mlのポリカップに30g流し込み、5℃の冷蔵庫に入れて保管し、2週間目、4週間目、6週間目及び8週間目に11人のパネラーにより官能評価を行った。尚、官能評価においては、食用油脂を固体のまま数gを口に含んで官能評価を行った際の風味について下記の評価基準により4段階に評価し、その平均値をその評価とした。
【0047】
<評価基準>
0点:口の中で感じる不快な青臭い風味がない
1点:口の中に入れてから暫くして不快な青臭い風味を感じる
2点:口の中に入れた直後に不快な青臭い風味を強く感じる
3点:口の中に入れた直後に不快な青臭い風味を非常に強く感じる
【0048】
【表1】