特許第6687444号(P6687444)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687444
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】液体スープパックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20200413BHJP
   B65B 3/04 20060101ALI20200413BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20200413BHJP
【FI】
   A23L23/00
   B65B3/04
   A23L27/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-66983(P2016-66983)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-176009(P2017-176009A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智子
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 紀和
(72)【発明者】
【氏名】小川 史恭
(72)【発明者】
【氏名】河原 琢磨
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−179871(JP,A)
【文献】 特開平05−154367(JP,A)
【文献】 特開2005−095061(JP,A)
【文献】 国際公開第03/094636(WO,A1)
【文献】 特開2001−000137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
A23L 27/00
B65B 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性部分と油脂部分を含み、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプの液体スープパックの充填おいて、予め含水性部分の重量の40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの製造方法。
【請求項2】
含水性部分と油脂部分を含み、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプの液体スープパックの充填おいて、予め含水性部分の重量の40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生麺や冷凍麺又は即席麺に添付される液体スープのパックへの充填方法に関するものである。さらに、詳しくは含水性部分と油脂部分を含む液体スープパックの充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体スープは種々の分野で使用されている。例えば、生麺、冷凍麺又は即席麺には、麺に濃縮された液体スープが添付されており、当該液体スープをお湯や水で薄めてから汁もののつゆやつけ麺のつけ汁に使用される。
液体スープは通常、澱粉等や増粘剤、肉や野菜等のエキス成分、グルタミン酸ナトリウム、IMP、GMP等を水に溶解又は懸濁した含水性部分と、これとは別にラードや植物油脂などの油脂類が同一のパックに入っていることが多い。
【0003】
また、近年より濃厚な液体スープが求められるようになってきており、エキス分や油脂分の含量が多く使用されている液体スープも種々利用されている。
液体スープパックは通常、上述の水溶液部分と油脂部分を原料タンクに保存しておき、これらを殺菌等の加熱処理を施し、充填機により別のノズルでプラスチック製の軟包材の袋に充填する方法が一般的である(図1参照)。
ここで、この従来までの方法で充填したスープは、パック内で含水性部分と油脂部分が分離して存在しており、当該スープを希釈等して喫食する際の液体スープは、“マイルドさ”にかける場合があった。
このような、液体調味料の充填方法として、例えば、以下の特許文献がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−207172 但し、当該特許文献は、多種類の調味原料成分を増粘剤により増粘させたものを多層状に充填するもので、増粘剤の使用を前提としており、含水率の高い一般的な液体スープとは対象が異なることが予想される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、このような液体スープを一つのパックに充填する際の手順について見直し、よりマイルドさに優れた液体スープパックを製造する方法を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの種々の検討の結果、原料タンク内における油脂部分の一部を、予め油脂部分の一部を含水性部分と混合しておくことで、その後に油脂部分を当該混合後の含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填して液体スープパックを製造する方法が、マイルドさを出す上で効果的であることを見出した。
すなわち、本願第一の発明は、
“含水性部分と油脂部分を含む液体スープパックの充填おいて、予め油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの製造方法、”
である。
【0007】
また、本願発明は、上記の充填方法自体も意図している。
すなわち、本願第二の発明は、
“含水性部分と油脂部分を含む液体スープパックの充填おいて、予め油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの充填方法。”、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体スープパックの製造方法によってよりマイルドさに優れた液体スープパックを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来までの含水性部分と油脂部分を含んだ液体パックスープへの充填の模式図である。
図2】本発明の含水性部分と油脂部分を含んだ液体スープパックへの充填例の実施形態の模式図である。
図3】本発明の含水性部分と油脂部分を含んだ液体スープパックへの充填例の別の実施形態の模式図である。
【符号の説明】
【0010】
1 原料用タンク
3 充填用タンク
5 充填ノズル
7 液体包装パック
【発明を実施するための形態】
【0011】
─液体スープパック─
本発明にいう液体スープパックとは、主として即席食品(カップ麺、袋麺のような即席麺、即席ライス)、チルド食品(チルド麺等)又は冷凍麺等の食品に添付される液体スープパックであって、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプに主として利用される。
【0012】
─液体スープの含水性部分─
本発明にいう液体スープの含水性部分とは、澱粉や増粘剤を水に溶解したもの、醤油、味噌、鶏肉、豚肉、鶏ガラ等の水分を使用して製造される肉や野菜等の原料エキス成分をいう。これらに加えて、風味の増強等に用いられる水分に溶解する固形物、例えば、塩、グルタミン酸ソーダ、IMP、GMP等を水に溶解又は懸濁したものも含む趣旨である。 尚、本発明にいう“含水性”との意味は、積極的に油を含まない趣旨ではない。すなわち、例えば、肉エキスであれば、当該原料由来の油を含む場合があり、各素材の本来含有する油分を含む場合もあることは勿論である。
【0013】
─油脂部分─
本発明にいう油脂部分とは、上述の含水性部分に含まれることのなる油脂部分とは異なり、外部より積極的に添加する油脂部分をいう。
通常、液体スープの製造においては、上述の含水性部分に加えて油脂を別途添加する場合がほとんどである。このように油脂を加えることで、調味油、油溶性香料などによる調理香の付与、油特有のうま味が付与される。
【0014】
─含水性部分と油脂部分の含量比─
含水性部分と油脂部分の構成比は、商品の種類によっても異なる。概ね、含水性部分が100重量部に対して0.1〜30重量部程度の範囲である。尚、本発明は、含水性部分と油脂部分の両方を含む液体スープパックであれば、構成比は特に限定されない。
【0015】
─液体スープパックの充填─
液体スープパックは図1のように、通常、含水性部分と油脂部分を別々の原料タンクに保存し、上述の水溶液部分と油脂部分を別のタンクからそれぞれ、別々のノズルを通じて、一つのパックに充填するのが一般的である。
【0016】
─予め油脂部分の一部を含水性部分と混合─
本発明においては、図2に示すように従来、別々にノズルで充填されていた含水性部分と油脂部分についてその油脂部分の一部を含水性部分に混合しておくことを特徴とする。
すなわち、通常、液体スープパックに別々に充填される液体スープパックにおいて、油脂部分の一部を予め含水性部分のタンクに入れて十分混合しておく。尚、混合の程度は、含水性部分と油脂部分を混合した場合において、油脂部分の分離が見られない程度に行うことが好ましい。具体的には、撹拌を止めて1分以上は油の分離が見られない状態とするように混合する。
混合後の油脂部分を含む含水性部分と残りの油脂部分は別途、スープパック用の軟包材に充填される。包装用のパックへの充填時においては、図2に示すように当該油脂部分を混合しておいた含水性部分と油脂部分を別々のノズルでパック内に流し込んで充填を行う。
【0017】
尚、他の実施態様として、図3に示すように、加熱又はノズルでの充填の前に、油脂部分を一部含んだ含水性部分と残りの油脂部分を混ぜておくという方法も可能である。但し、本方法においては、この場合、過剰に混ぜると含水性部分と油脂部分の分離が発生し、予め含水部分に含ませた油脂部分までも含めて分離してしまう場合があるため、すでに一部の油脂部分を含んだ含水性部分に過剰な油脂部分を包含することとなる程度まで混ぜる必要はない。
【0018】
─含水性部分に添加しておくことのできる油脂部分の量─
本発明において、含水性部分に添加可能な油脂部分の量は、油脂部分を添加・混合した場合に含水性部分と添加した油脂部分が水油分離をしないことが好ましい。すなわち、含水性部分に過剰な油脂部分を添加すると混合しても分離してしまい本発明の目的を達成することができなくなる。
また、一旦、分離が起こるとほぼ全ての分離が起こってしまうため、分離が起きない範囲の油脂の添加量にすることが必要となる。
含水性部分に添加しておく油脂部分の量は、微量でも効果が生じるが、概ね含水性部分の重量に対して1重量%以上あれば、明確に効果を奏することができる。
【0019】
さらに、好ましくは、概ね含水性部分100重量部に対して、2部〜20部程度の油脂部分の添加・混合が好ましい。
尚、この場合、混合できる油脂部分の量は含水性部分の粘度に影響されることが大きい。すなわち、含水性部分に濃厚なエキス分や固形分が含まれており、粘度が高い状態であるとより多くの油脂部分を予め添加・混合しておくことができる。
このため、粘度の大きさに応じて混合できる油脂の量も変化する。但し、本発明においてはノズルから充填するために、含水性部分の粘度が過剰に高いとノズル内を流動しずらくなるという問題が生じる。また、一方、粘度が低すぎると、ノズルから含水性部分が流出するという問題も生じる。
このため、粘度において、概ね0.5〜5.0Pa・s程度の粘度範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、0.8〜4.6Pa・s程度である。
【0020】
─分離の問題─
本発明では、含水性部分に油脂部分の一部を含有させる構成を採用するが、この場合、含有させる油脂の量が問題になる場合がある。すなわち、含水性部分に対して余りに多くの油脂部分を含有させようとすると、含水性部分と油脂部分が分離してしまう場合がある。
すなわち、本発明者の研究の結果、含水性部分に予め含有させることのできる油脂部分の量は所定の範囲が好ましいことがわかった。
すなわち、含水性部分の重量に対して、概ね、40重量%を超えて含有させようとしても分離してしまう場合がある。一旦、分離が起こると、本来ならば含有できる油脂の量も超えて分離が起こってしまう。
このため、本発明の実施に際しては、分離が起こらない程度の油脂分を含有させることが重要になる。このため、含有させる油脂の重量は含水性部分に対して40重量%以下が好ましい。また、さらに好ましくは、20重量%以下である。
【0021】
─“マイルドさ”─
本発明にいう“マイルドさ”とは、口あたりをやわらかくする効果であり、含水性部分の持つ塩味などの鋭さをやわらげることであり、油特有のうま味の付与によるスープ全体のうま味の相乗効果である。
【実施例】
【0022】
以下に、本願発明の試験例を示すが、本発明はこれらの試験例に限定されるものでない。
【0023】
[試験例]
以下に本発明の試験例について説明する。本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。含水性部分と油脂部分の一部を含む液体スープとして、含水性部分としては、キサンタンガム及びグアガムの混合品(キサンタンガム:13%+グアガム:87%、以下、「増粘剤ミックス」とする)を水に溶解させて調製したものを用いた。
また、前記増粘剤ミックスの水に対する溶解量を変えることで、種々の粘度の含水性部分を用いて試験した。
【0024】
具体的には、上記増粘剤ミックスを0.03(試験区1)、0.13(試験区2)、0.23(試験区3)、0.26(試験区4)、0.33(試験区5)、0.36(試験区6)、0.39(試験区7)、0.43(試験区8)、0.46(試験区9)の各重量に対して水を加えて、合計が33gとなるようにし、これを十分に混合して各含水性部分を調製した。
本含水性部分に対する油脂部分として、油脂(ラード)を21g用いた。液体スープパック全体としては、上記の含水性部分33g及び油脂部分21gの合計54gとなるようにした。
【0025】
前記の増粘剤ミックスの量を変えて調製した各試験区の含水性部分に対して、油脂部分の一部についてその量を変えて添加・混合して、油脂部分を予め混合した含水性部分を調製した。
本調製は25℃の温度下で行い、当該温度での水の粘度は、0.51Pa・sであった。
各試験区の含水性部分に対して油脂部分の添加量を変えて、プロペラ撹拌によって混合し、含水性部分に油脂部分の一部を包含させるように処理した。但し、後述するように、一部の試験区においては、油脂部分の添加量が多すぎると分離が起こってしまう現象が見られた。混合後に得られた油脂部分の一部を含む含水性部分については、上記の分離がないかを確認した。
【0026】
さらに、ノズルから排出の際の充填適性についても評価した。すなわち、各試験区のサンプルについて油分離度合と粘度液性度合から工業生産的に行えるかを判断した。ノズルからの押し出しの際に粘度が低く油が分離している場合、充填適性は悪くなる。また、粘度が高すぎるとノズルから押出すことができないため、充填適性は悪くなる。このような評価基準より評価を行った。
評価基準(充填適性)最良:5 ⇔ 不良:1
【0027】
次に、上記試験区の中の油脂部分を一部含む含水性部分について、適宜、ピックアップして粘度を測定した。測定した粘度計は、TOKIMEC社製のデジタル粘度系 DVL-B2を用いてロータ;No.4、ダイヤル;60として行った。
上記各試験区の油脂部分を含む含水性部分について、液体スープパックを調整するために、実際に工場にて使用する材質PET12//VMPET12/LLDPE40、サイズ200mm幅の折りたたみ部分、長さ100mm部分で三方をシールしたプラスチック袋に対して、上述の油脂含有含水性部分と、残りの油脂部分(油脂:ラード21gのうちから予め含水性部分に添加・混合した油脂部分を除いた残りの油脂部分)を別のノズルから充填して開口部をヒートシールして各試験区の液体スープパックを完成させた。
【0028】
得られた各液体スープパックの喫食時の官能検査については以下のように行った。すなわち、陶器製の丼状の容器に各試験区の液体スープパックをすべて押し出して、上部より熱湯を100g注加して溶解後、調理後の各スープを喫食し、各試験区を試食・官能試験を行った。
評価の基準は、喫食時のスープの“マイルドさ”を5段階で評価を行った。評価は以下の基準で行った。
評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1
以上の試験結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

続けて、表2に結果を示す。

【表2】

─結果─
含水性部分に油脂部分を予め少しでも入れると入れない場合に比べて、喫食時のスープに“マイルドさ”が付与されることがわかった。
但し、試験区4−1〜4−4、6−1〜6−6に示したように、予め混合する油脂部分を含水性部分に対する重量比で40重量%よりも大きくすると、含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができないことがわかった。
次に、上述の各試験区の中から複数の試験区について選択して、その粘度を測定したが、これらの結果を併せたものを以下の表3に示す。
【表3】

上述のように、所定の充填性を満たすには、粘度が0.5〜5.0Pa.s程度が必要であることが判明した。また、試験区4−1〜4−4及び試験区6−1〜6−6に示すように含水性部分に添加する油脂の量が40重量%を超えると含水性部分と油脂部分が分離する傾向が見られた。
これらの結果より、本発明においては、油脂部分の一部を添加し、混合後の含水性部分の粘度が0.5〜5.0Pa.sが好ましいことがわかった。
尚、油脂部分の添加前の含水性部分の粘度について0.6程度であると、油脂部分の添加量を増加させるに従い粘度が増加していることがわかった。また、同粘度について、3.0程度であると、油脂部分の添加量を増加させるに従い粘度が低下していることが判明した。
図1
図2
図3