特許第6688129号(P6688129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688129研磨用組成物、磁気ディスク基板の製造方法および磁気ディスク基板の研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688129
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】研磨用組成物、磁気ディスク基板の製造方法および磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20200421BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20200421BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20200421BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   C09G1/02
   B24B37/00 H
   G11B5/84 A
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-69378(P2016-69378)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179137(P2017-179137A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100142239
【弁理士】
【氏名又は名称】福富 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴治
(72)【発明者】
【氏名】神谷 知秀
(72)【発明者】
【氏名】横道 典孝
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−258606(JP,A)
【文献】 特開2015−127988(JP,A)
【文献】 特開2015−071660(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/017896(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
C09G 1/02
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒と酸とポリマーと酸化剤と水とを含み、
該研磨用組成物を固液分離して得られる溶液中のNaイオン濃度C(ppm)と、該研磨用組成物に含まれる砥粒の含有量W(重量%)との比の値(C/W)が、20以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記Naイオン濃度Cが100ppm以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記酸として、無機酸を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒は、シリカ粒子を含む、請求項1〜3の何れか一つに記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記ポリマーとして、アニオン性ポリマーを含む、請求項1〜4の何れか一つに記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記ポリマーとして、スルホン酸基含有単量体由来の構成単位を有するスルホン酸系重合体を含む、請求項1〜5の何れか一つに記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記研磨用組成物における液相中のKイオン濃度は1000ppm以上である、請求項1〜6の何れか一つに記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の研磨用組成物を用意すること、および、
前記研磨用組成物を磁気ディスク基板に供給して該磁気ディスク基板を研磨すること
を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の研磨用組成物を磁気ディスク基板に供給して該磁気ディスク基板を研磨することを含む、磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、該研磨用組成物を用いる磁気ディスク基板の製造方法および磁気ディスク基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面が要求される基板の製造プロセスには、研磨液を用いて該基板の原材料である研磨対象物を研磨する工程が含まれる。例えば、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板(Ni−P基板)の製造においては、一般に、より研磨効率を重視した研磨(一次研磨)と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨工程(仕上げ研磨工程)とが行われている。Ni−P基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する従来技術として、特許文献1、4が挙げられる。また、特許文献2、3は半導体基板の研磨に主に使用される研磨用組成物に関する技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−179763号公報
【特許文献2】特開2009−212496号公報
【特許文献3】特開2003−109921号公報
【特許文献4】特開2002−294225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、Ni−P基板等のディスク基板その他の基板について、より高品位の表面が要求されるようになってきており、かかる要求に対応し得る研磨用組成物の検討が種々行われている。例えば特許文献1には、特定の重量平均分子量をもつ水溶性高分子化合物を用いることにより、基板研磨の際のスクラッチ(研磨傷)を増加させる要因となり得るシリカ砥粒の凝集等を抑制する技術が記載されている。しかし、このような技術によっても研磨後の表面品質に関する近年の要求レベルには充分に対応できない場合があった。
【0005】
そこで本発明は、研磨後の表面に存在するスクラッチの数を効果的に低減し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、かかる研磨用組成物を用いた
ディスク基板の研磨方法を提供することである。関連する他の目的は、スクラッチ数の低減された表面を備えたディスク基板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書により提供される研磨用組成物は、砥粒と酸とポリマーと酸化剤と水とを含む研磨用組成物である。そして、該研磨用組成物を固液分離して得られる溶液中のNaイオン濃度C(ppm)と、該研磨用組成物に含まれる砥粒の含有量W(重量%)との比の値(C/W)が、20以下である。かかる研磨用組成物によると、研磨後の表面においてスクラッチの数を効果的に低減することができる。
【0007】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記Naイオン濃度Cが100ppm以下である。このようなNaイオン濃度Cの範囲内であると、上述した効果(例えばスクラッチ数低減効果)がより良く発揮され得る。
【0008】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記酸として無機酸を含む。このような研磨用組成物によると、研磨レートや面精度を向上させつつ、上記スクラッチの数をより良く低減することができる。
【0009】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒は、シリカ粒子を含む。砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨において、上記比の値(C/W)を特定の値以下にすることによるスクラッチ数低減効果がより好適に発揮され得る。
【0010】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記ポリマーとして、アニオン性ポリマーを含む。アニオン性ポリマーを含有させることにより、上記スクラッチの数をより良く低減することができる。
【0011】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記ポリマーとして、スルホン酸基含有単量体由来の構成単位を有するスルホン酸系重合体を含む。研磨用組成物にスルホン酸系重合体を含有させることにより、上記スクラッチの数をより効果的に低減することができる。
【0012】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、磁気ディスク基板を研磨するための研磨用組成物として好適である。磁気ディスク基板の分野では、高容量化や高信頼性のために、よりスクラッチの少ない表面が求められている。したがって、磁気ディスク基板は、ここに開示される技術の好ましい適用対象となり得る。
【0013】
この明細書によると、また、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。その製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用意すること、および、前記研磨用組成物を磁気ディスク基板に供給して該磁気ディスク基板を研磨することを包含する。この製造方法によると、スクラッチが高度に抑制された高品質の表面を有する磁気ディスク基板を製造することができる
【0014】
この明細書によると、さらに、磁気ディスク基板の研磨方法が提供される。その研磨方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を磁気ディスク基板に供給して該磁気ディスク基板を研磨することを含む。この研磨方法によると、スクラッチが高度に抑制された高品質の表面を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒と酸とポリマーと酸化剤と水とを含む。そして、該研磨用組成物を固液分離して得られる溶液中のNaイオン濃度C(ppm)と、該研磨用組成物に含まれる砥粒の含有量W(重量%)との比の値(C/W)が、20以下である。
【0017】
<Naイオン濃度>
ここに開示される技術において、研磨用組成物を固液分離して得られる溶液中のNaイオン濃度、すなわち研磨用組成物の液相中のNaイオン濃度Cは、以下のようにして測定することができる。砥粒として、コロイダルアルミナ、コロイダルセリア、コロイダルシリカなどの静電的に溶媒中に分散しているコロイダル粒子を用いる場合は、測定対象の研磨用組成物のサンプルを低温(例えば−20℃)で保持して凍結した後、解凍する処理を複数回(例えば3回〜5回)繰り返すことにより砥粒等の固形物を沈殿させる。また、コロイダル粒子以外の砥粒を用いる場合は、自然沈降または遠心分離などで砥粒等の固形物を沈殿させる。その後、上澄み液(溶液)を採取してICP(Inductively Coupled Plasma:高周波誘導結合プラズマ)発光分析装置を用いて元素分析することによって、研磨用組成物を固液分離して得られる溶液中のNaイオン濃度C(ppm)を求めることができる。ICP発光分析装置としては、例えば島津製作所社製 型式「ICPS−8100」を使用することができる。
【0018】
ここに開示される研磨用組成物は、上記固液分離して得られる溶液中のNaイオン濃度Cと、砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)が、20以下である。このことにより、該研磨用組成物を用いた研磨後の表面においてスクラッチの数を効果的に低減することができる。このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、上記C/Wが大きい(すなわち砥粒の含有量に対してNaイオン濃度が高い)研磨用組成物を用いた研磨では、イオン半径が小さくかつプラスに帯電したNaイオンが砥粒の粒子間に入り込み、粒子間の電気的な反発の中和が起こると考えられ、研磨中の砥粒の凝集を促進させ得る。そのため、凝集により生じた粗大粒子によってスクラッチ等の研磨傷が発生しやすくなる。これに対して、上記C/Wが小さい(すなわち砥粒の含有量に対してNaイオン濃度が低い)研磨用組成物を用いた研磨では、Naイオンを起点とした砥粒粒子の凝集が起こりにくく、研磨中に粗大粒子が形成されにくい。このことがスクラッチ数の低減に寄与するものと考えられる。同様の効果は、Naイオンと同等もしくはそれ以下のイオン半径を有する他の一価カチオン(例えばLiイオン)、および二価または三価のカチオン全般(例えばアルカリ土類金属イオンや多価の遷移金属イオン)についても発揮され得る。
【0019】
上記Naイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)は、通常は20以下、好ましくは16以下(例えば15以下)、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下、特に好ましくは5以下である。所定値以下の比の値(C/W)を有する研磨用組成物は、Naイオンを起点とした砥粒粒子の凝集が起こりにくい。したがって、ここに開示される技術の適用効果が適切に発揮され得る。比の値(C/W)の下限は特に限定されないが、例えば0.002以上であり得る。ここに開示される技術は、例えば研磨用組成物におけるNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)が0.002以上20以下(好ましくは0.002以上5以下)である態様でも好ましく実施され得る。
【0020】
上記研磨用組成物における液相中のNaイオン濃度Cは、砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)が前記関係を満たす限りにおいて特に限定されず、例えば1000ppm以下であり得る。液相中のNaイオン濃度Cは、スクラッチをより良く低減する等の観点からは、通常は100ppm以下、好ましくは80ppm以下、より好ましくは60ppm以下、さらに好ましくは40ppm以下、特に好ましくは20ppm以下であり得る。Naイオン濃度Cは、スクラッチ低減の観点からは低いほど好ましいため、下限は特に限定されない。あるいは、実用上の観点から、Naイオン濃度Cは、上述したいずれかの上限値以下であってかつ0.01ppm以上であってもよい。ここに開示される技術は、例えば研磨用組成物の液相中のNaイオン濃度Cが0.01ppm以上100ppm(好ましくは0.01ppm以上80ppm以下)である態様でも好ましく実施され得る。
【0021】
上記研磨用組成物における液相中のNaイオン濃度Cは、例えば研磨用組成物に含まれる砥粒およびポリマーの種類や含有量を変えることによって調整することができる。すなわち、砥粒およびポリマーの種類や含有量を適切に選択することによって、研磨用組成物における液相中のNaイオン濃度Cをここに開示される適切な範囲に調整することができる。その他、Naイオン濃度を適切な範囲に調整する方法としては、当該組成物中の酸の種類や濃度を変える、酸化剤の種類や含有量を変える、陽イオン交換によってNaイオンを除去する等の方法を採用することができる。上記Naイオン濃度を制御する方法は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0022】
なお、Naイオン濃度Cを適切な範囲に調整する方法として、研磨用組成物の構成材料にナトリウム塩以外の塩を用いる場合、Naイオンと同等もしくはそれ以下のイオン半径を有する他の一価カチオン、および二価または三価のカチオン全般についてはNaイオンと同様に砥粒を凝集させる要因となり得るため、Naイオンよりも大きなイオン半径を有する他の一価カチオン(例えばKイオン、Rbイオン、Csイオンなど)、なかでもKイオンが塩を構成するカチオンとしては好ましい。
【0023】
上記研磨用組成物における液相中のKイオン濃度Cは、例えば1000ppm以上であり得る。液相中のKイオン濃度Cは、典型的には1500ppm以上(例えば2000ppm以上)、例えば2500ppm以上(典型的には3000ppm以上)であってもよい。また、Kイオン濃度Cは、上述したいずれかの下限値以上であってかつ10000ppm以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば研磨用組成物の液相中のKイオン濃度Cが1000ppm以上8000ppm以下(典型的には2000ppm以上5000ppm以下)である態様でも実施され得る。なお、上記研磨用組成物における液相中のKイオン濃度Cは、Naイオン濃度Cと同様、ICP発光分析に基づく前述の方法に準じて求めることができる。
【0024】
上記研磨用組成物における液相中のKイオン濃度Cに対するNaイオン濃度Cの比(C/C)は、例えば(C/C)≦0.5であり得る。通常は(C/C)≦0.1、典型的には(C/C)≦0.05、例えば(C/C)≦0.02であってもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物における液相中のKイオン濃度CおよびNaイオン濃度Cの比の値(C/C)が0.0005以上0.5以下(例えば0.001以上0.02以下)である態様でも実施され得る。
【0025】
ここに開示される研磨用組成物の好適例として、液相中のKイオン濃度Cが1000ppm以上であり、かつ、pHが7.0以下であるもの;液相中のKイオン濃度Cが1500ppm以上であり、かつ、pHが5.0以下であるもの;液相中のKイオン濃度Cが2000ppm以上であり、かつ、pHが4.0以下であるもの;液相中のKイオン濃度Cが3000ppm以上であり、かつ、pHが3.0以下であるもの;等が挙げられる。
【0026】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒の材質や性状は、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はない。例えば、砥粒は無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子のいずれかであり得る。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。上記アルミナ粒子としては、α−アルミナ、α−アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α−アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナ、η−アルミナ、κ−アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。砥粒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ここに開示される技術において使用し得る砥粒の好適例としてシリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子としては、研磨用組成物が溶液中のNaイオン濃度について前記範囲を満たす限りにおいて特に限定されないが、コロイダルシリカ、乾式法シリカ等が好ましく用いられる。ここでいう乾式法シリカの例には、四塩化ケイ素やトリクロロシラン等のシラン化合物を典型的には水素火炎中で燃焼させることで得られるシリカ(フュームドシリカ)や、金属シリコンと酸素の反応により生成するシリカが含まれる。また、コロイダルシリカの例には、Na、K等のアルカリ金属とSiOとを含有するケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム含有液)を原料または中間原料に用いて製造されるシリカや、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されるシリカ(アルコキシド法シリカ)が含まれる。なかでもスクラッチを低減する等の観点から好ましいシリカとして、ケイ酸カリウム含有液を中間原料として使用するシリカ、アルコキシド法シリカが挙げられる。あるいは、Na量を低減したケイ酸ナトリウム含有液に由来するケイ酸ソーダ法コロイダルシリカを用いてもよい。この場合、例えば、適当な手段(例えば陽イオン交換)によってNa量を低減したケイ酸ソーダ法コロイダルシリカを用いてもよい。
【0028】
ここに開示される技術において、研磨用組成物中に含まれる砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が会合した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態の砥粒と二次粒子の形態の砥粒とが混在していてもよいが、より好ましくは砥粒が一次粒子の形態で研磨用組成物に含まれる形態である。
【0029】
上記砥粒の平均一次粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、特に好ましくは10m以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、より面精度の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。
【0030】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径は、BET法に基づいて求められる平均粒子径をいう。例えば、砥粒がシリカ砥粒(すなわちシリカ粒子からなる砥粒)の場合、シリカ砥粒の平均一次粒子径は、BET法により測定される比表面積S(m/g)から、D1(nm)=(6000/2.2)/Sの式により算出され得る。この式における2.2はシリカの比重の値である。
【0031】
砥粒の平均二次粒子径は特に限定されないが、研磨レート等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、18nm以上であることがより好ましい。また、保存安定性(例えば分散安定性)の観点から、砥粒の平均二次粒子径は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、マイクロトラック・ベル社製動的光散乱式粒子径分布測定装置型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0032】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。研磨用組成物を後述するファイナルポリシング工程に使用する場合は球形に近い形状が好ましい。
【0033】
研磨用組成物における砥粒の含有量W(複数種類の砥粒を含む場合には、それらの合計含有量)は、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、典型的には0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、1.5重量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。研磨後の表面平滑性や研磨の安定性の観点から、通常、上記砥粒の含有量Wは、20重量%以下が適当であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下である。
【0034】
<水>
ここに開示される研磨組成物は、上述のような砥粒の他に、該砥粒を分散させる水を含有する。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。
【0035】
ここに開示される研磨組成物(典型的にはスラリー状の組成物)は、例えば、その固形分含量(non-volatile content;NV)が0.5重量%〜30重量%である形態で好ましく実施され得る。上記NVが1重量%〜20重量%である形態がより好ましい。
【0036】
<ポリマー>
ここに開示される研磨用組成物は、ポリマーを含有する。ここでいうポリマーとは、同一(単独重合体;ホモポリマー)もしくは相異なる(共重合体;コポリマー)繰り返し構成単位を有する化合物をいい、典型的には重量平均分子量(Mw)が500以上(好ましくは1000以上)の化合物であり得る。かかるポリマーは水溶性の高分子であることが好ましい。ポリマーを研磨用組成物に含有させることにより、研磨後の面精度が向上し得る。ポリマーの種類としては、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はなく、アニオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、両性ポリマーのいずれも使用可能である。そのなかでもアニオン性ポリマーを含むことが好ましい。アニオン性ポリマーとしては、カルボン酸系重合体、スルホン酸系重合体などが挙げられる。
ポリマーの具体例としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン等が挙げられる。上記ポリマーが中和された塩の形態で用いられる場合、スクラッチを低減する等の観点からは、Na塩以外の塩あるいはNa塩を陽イオン交換したものを用いることが好ましい。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記ポリマーの含有量(複数のポリマーを含む態様では、それらの合計含有量)は、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、例えば0.0001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の研磨対象物(例えば磁気ディスク基板)の表面平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.02重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、0.2重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.15重量%以下、例えば0.1重量%以下である。
【0038】
好ましい一態様では、ポリマーとしてスルホン酸系重合体が用いられる。ここでスルホン酸系重合体とは、該スルホン酸系重合体を構成するモノマー単位として、1分子中に少なくとも一つのスルホン酸基を有する単量体(モノマー)に由来する構成単位Xを含む重合体をいう。スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、2‐(メタ)アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸系重合体は、上記スルホン酸基含有単量体に由来する構成単位Xを、1種または2種以上含んでいることが好ましい。また、スルホン酸基含有単量体以外の単量体に由来する成分を含有していてもよい。
【0039】
ここに開示されるスルホン酸系重合体の好適例として、実質的にスルホン酸基含有単量体由来の構成単位Xのみからなる高分子量のスルホン酸系重合体Aが挙げられる。換言すると、スルホン酸系重合体Aは、該重合体の分子構造に含まれる全構成単位のモル数に占める上記構成単位Xのモル数の割合(モル比)が99モル%以上(例えば99.9モル%以上、典型的には99.9〜100モル%)であることが好ましい。そのようなスルホン酸系重合体Aの例として、ここに開示されるスルホン酸基含有単量体の1種のみからなるホモポリマーやスルホン酸基含有単量体の2種以上からなる共重合体(コポリマー)が挙げられる。ホモポリマーの例として、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸等が例示される。かかるスルホン酸系重合体は、中和された塩の形態で用いられてもよい。中和された塩としては、Na、K等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。スクラッチを低減する等の観点からは、Na塩以外の塩の形態、Na塩を陽イオン交換した形態、もしくは未中和の形態のスルホン酸系重合体Aを用いることが好ましい。
【0040】
上記スルホン酸系重合体Aの分子量は、研磨後の面精度を向上させる等の観点から、典型的には10×10以上、好ましくは20×10以上、より好ましくは30×10以上である。好ましい一態様において、スルホン酸系重合体Aの分子量は、40×10以上であってもよく、例えば45×10以上であってもよい。また、スルホン酸系重合体Aの分子量は、典型的には100×10以下であり、分散安定性や濾過性等の観点から、好ましくは80×10以下、より好ましくは60×10以下である。なお、スルホン酸系重合体Aの分子量としては、GPCにより求められる重量平均分子量(Mw)(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。
【0041】
ここに開示されるスルホン酸系重合体の他の好適例として、(メタ)アクリル酸由来の構成単位とスルホン酸基含有単量体由来の構成単位Xとを含む低分子量の(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体が挙げられる。なお、ここでいう「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の一方または両方を包含する概念である。かかる(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体は、上述したスルホン酸基含有単量体に由来する構成単位Xを、1種または2種以上含んでいてもよい。また、スルホン酸基含有単量体および(メタ)アクリル酸単量体以外の単量体に由来する成分を含有していてもよい。上記(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の例としては、(メタ)アクリル酸/イソプレンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/2‐アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/イソプレンスルホン酸/2‐アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸共重合体等が挙げられる。かかる(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体は、中和された塩の形態で用いられてもよい。中和された塩としては、Na、K等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。スクラッチを低減する等の観点からは、Na塩以外の塩の形態、Na塩を陽イオン交換した形態、もしくは未中和の形態の(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体を用いることが好ましい。
【0042】
上記(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の分子量は、研磨後の面精度を向上させる等の観点から、典型的には500以上、好ましくは800以上、より好ましくは1000以上である。好ましい一態様において、(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の分子量は、1500以上であってもよく、例えば2000以上であってもよい。また、(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の分子量は、典型的には50000以下であり、分散安定性や濾過性等の観点から、好ましくは30000以下、より好ましくは20000以下、さらに好ましくは15000以下である。なお、(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の塩の分子量としては、GPCにより求められる重量平均分子量(Mw)(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。
【0043】
ここで開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、ポリマーとして、上述したスルホン酸系重合体Aと(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体とが組み合わせて用いられる。スルホン酸系重合体Aと(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体とを併用する場合、スルホン酸系重合体Aの含有量は、例えば0.0001重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.0002重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上、さらに好ましくは0.002重量%以上である。また、スルホン酸系重合体Aの含有量は、0.02重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.015重量%以下、例えば0.01重量%以下である。また、その場合の(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の含有量は、例えば0.0001重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.02重量%以上である。また、(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の含有量は、0.2重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.15重量%以下、例えば0.1重量%以下である。
【0044】
<酸>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨促進剤として酸を含む。酸としては、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、無機酸や有機酸(例えば、炭素原子数が1〜10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、アミノ酸等)が挙げられる。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
無機酸の具体例としては、リン酸、硝酸、硫酸、塩酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、スルファミン酸等が挙げられる。
【0046】
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ニコチン酸、ピコリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタンヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0047】
研磨レートの観点から好ましい酸として、リン酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、メタンスルホン酸等が例示される。なかでも硝酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸が好ましい。
【0048】
好ましい一態様では、研磨用組成物は、酸として無機酸を含む。無機酸としては、リン酸、硝酸、硫酸、塩酸などが挙げられる。なかでもリン酸、硝酸、硫酸が好ましく、リン酸が特に好ましい。無機酸を用いることにより、有機酸を用いる場合に比べて、研磨レートを向上させつつ、スクラッチの数をより効果的に低減することができる。上記無機酸にさらに有機酸が組み合わせて用いられてもよい。ここで開示される技術は、無機酸と有機酸とが組み合わせて用いられる態様でも実施され得る。
【0049】
研磨用組成物中における酸の含有量は、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に限定されない。酸の含有量は、通常、0.1重量%以上が適当であり、0.5重量%以上が好ましく、0.8重量%以上(例えば1.2重量%以上)がより好ましい。酸の含有量が少なすぎると、研磨レートが不足しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。酸の含有量は、通常、15重量%以下が適当であり、10重量%以下が好ましく、5重量%以下(例えば3重量%以下)がより好ましい。酸の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。
【0050】
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩)、アンモニウム塩(例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩)、アルカノールアミン塩(例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩)等が挙げられる。
塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0051】
ここに開示される研磨用組成物に含まれ得る塩としては、無機酸の塩(例えば、アルカリ金属塩やアンモニウム塩)を好ましく採用し得る。例えば、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、リン酸カリウムが好ましく、塩化カリウム、硝酸カリウム、リン酸カリウムを更に好ましく使用し得る。スクラッチを低減する等の観点からは、Naイオンと同等もしくはそれ以下のイオン半径を有する他の一価カチオン(例えばLiイオンや1価の遷移金属イオン)、および二価または三価のカチオン全般(例えばアルカリ土類金属イオンや多価の遷移金属イオン)については砥粒を凝集させる要因となり得るため、Naイオンよりも大きなイオン半径を有する他の一価カチオン(例えばKイオン、Rbイオン、Csイオンなど)が塩を構成するカチオンとしては好ましい。
【0052】
酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様において、酸(好ましくは無機酸)と、該酸とは異なる酸の塩(好ましくは無機酸の塩)とを組み合わせて用いることができる。
【0053】
<酸化剤>
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を含有する。酸化剤の例としては、過酸化物、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、過塩素酸、塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過臭素酸、臭素酸、次亜臭素酸、オルト過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属カリウム、二クロム酸カリウム等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素およびペルオキソ二硫酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
ここに開示される技術において、酸化剤は、塩の形態で存在しているものも使用し得る。その場合、酸化剤は、ナトリウムを含んでもよく、含まなくてもよいが、スクラッチを低減する等の観点からは、ナトリウムを実質的に含まない酸化剤であることが好ましい。
【0054】
研磨用組成物中における酸化剤の含有量は、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上で、さらに好ましくは0.3重量%以上である。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨対象物を酸化する速度が遅くなり、研磨レートが低下するため、実用上好ましくない場合がある。また、酸化剤の含有量は、5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。
【0055】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、塩基性化合物、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば、Ni−P基板等のような磁気ディスク基板用の研磨用組成物)に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0056】
<塩基性化合物>
研磨用組成物には、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物としては、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。スクラッチを低減する等の観点からは、水酸化ナトリウム以外のアルカリ金属水酸化物が好ましく、Naイオンよりも大きなイオン半径を有する他の一価カチオン(例えばKイオン、Rbイオン、Csイオンなど)の水酸化物がより好ましく、なかでも水酸化カリウムを用いることが好ましい。
炭酸塩や炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム;このような水酸化第四級アンモニウムのアルカリ金属塩(例えばカリウム塩);等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
有機酸塩の具体例としては、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸アンモニウム等が挙げられる。
ここに開示される技術において、塩基性化合物は、ナトリウムを含んでもよく、含まなくてもよいが、スクラッチを低減する等の観点からは、ナトリウム塩以外の塩が好ましく、Naイオンよりも大きなイオン半径を有する他の一価カチオン(例えばKイオン、Rbイオン、Csイオンなど)の塩がより好ましく、なかでもカリウム塩を用いることが特に好ましい。
【0058】
研磨用組成物中における塩基化合物の含有量は、その目的が研磨用組成物のpHの調整であるため、酸の含有量にも連関する。すなわち、酸と塩基性化合物の含有量は研磨レート向上とスクラッチ低減を両立するため適切な範囲に設定することが重要である。好ましくは、研磨用組成物中における酸の含有量に対する塩基性化合物の含有量の比(塩基性化合物の含有量/酸の含有量)が、モル比で0.1以上1.0以下である。
【0059】
<界面活性剤>
研磨用組成物には、必要に応じて界面活性剤を含有させることができる。ここでいう界面活性剤とは、1分子中に少なくとも一つ以上の親水部位(典型的には親水基)と一つ以上の疎水部位(典型的には疎水基)とを有する化合物をいう。界面活性剤としては、研磨用組成物がNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)について前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はなく、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用可能である。界面活性剤の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリアクリル酸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤の他の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
ここに開示される技術において、界面活性剤は、ナトリウムを含んでもよく、含まなくてもよいが、スクラッチを低減する等の観点からは、ナトリウムを実質的に含まない、Naイオンをイオン交換したものであることが好ましい。
【0061】
界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、界面活性剤の含有量を、例えば0.0005重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは5重量%以下、例えば1重量%以下である。
【0062】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤およびアミノホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。アミノホスホン酸系キレート剤の例には、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が含まれる。
これらのうちアミノカルボン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸及びグルタミン酸二酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、ジエチレントリアミン五酢酸およびグルタミン酸二酢酸が挙げられる。
ここに開示される技術において、キレート剤は、ナトリウムを含んでもよく、含まなくてもよいが、スクラッチを低減する等の観点からは、ナトリウムを実質的に含まないキレート剤であることが好ましい。
【0063】
防腐剤および防カビ剤の例としては、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0064】
<pH>
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に制限されない。研磨用組成物のpHは、例えば、6.0以下(典型的には1.0〜6.0)とすることができ、5.5以下(典型的には1.0〜5.0)としてもよい。研磨レートや面精度等の観点から、研磨用組成物のpHは、4.5以下(例えば1.0〜4.5)とすることができ、4.0以下(典型的には1.0〜4.0)とすることがより好ましく、3.5以下(例えば1.0〜3.5)とすることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHは、例えば3.0以下(典型的には1.0〜3.0)とすることができる。上記pHは、例えば、ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の研磨用の研磨用組成物に好ましく適用され得る。また、このようなpHを有する研磨用組成物において、前述した効果(スクラッチ数低減効果)が好適に発揮され得る。
【0065】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨後のスクラッチを高度に低減し得ることから、高精度な表面が要求される研磨対象物、例えば、磁気ディスク基板の研磨に好ましく適用され得る。例えば、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni−P基板)を研磨する用途に特に好適である。上記基材ディスクは、例えば、アルミニウム合金製、ガラス製、ガラス状カーボン製等であり得る。このような基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するNi−P基板用の研磨用組成物として好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0066】
ここに開示される研磨用組成物は、上述のように高精度な表面が要求される研磨対象物の研磨(ポリシング)に好ましく適用され得る。したがって、この明細書により、研磨用組成物を用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法(例えば磁気ディスク基板の製造方法)および該方法により製造された磁気ディスク基板が提供される。研磨用組成物でポリシングされる研磨対象物は、ラッピング(粗研磨)、グラインディング、めっき等の工程を経て得られた研磨対象物であり得る。研磨用組成物は、液相中のNaイオン濃度Cと、該研磨用組成物に含まれる砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)が20以下であるため、スクラッチの発生を防ぎ、より高品質の表面を実現することができる。また、研磨用組成物を用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法によると、高品質の表面を有する研磨物を効率よく製造することができる。
【0067】
研磨用組成物は、研磨後の表面においてスクラッチを高度に低減し得ることから、研磨対象物のファイナルポリシング工程(最終研磨工程)に特に好ましく使用され得る。したがって、この明細書によると、研磨用組成物を用いたファイナルポリシング工程を含む研磨物の製造方法(例えば磁気ディスク基板の製造方法)および該方法により製造された磁気ディスク基板が提供される。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。
【0068】
ここに開示される研磨用組成物は、また、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。予備研磨工程は、典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。ここに開示される研磨用組成物は、いずれのポリシング工程にも使用可能であり、これらのポリシング工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ファイナルポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
【0069】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物(例えば磁気ディスク基板)に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物(濃縮液)は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.5倍〜50倍程度とすることができ、通常は2倍〜20倍程度が適当である。かかる濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨用組成物(研磨液)を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0070】
なお、ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、水以外の成分)のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。
好ましくは、研磨剤濃縮液として、主に砥粒を含むA液と、酸化剤およびA液含有成分を除く残りの成分(化学薬品)を含むB液とからなり、研磨用組成物調製時にA液とB液と酸化剤水溶液と希釈水とを混合してなる態様であり得る。
【0071】
<研磨プロセス>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物(例えば磁気ディスク基板)の研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を研磨液として用意する。上記研磨液を用意することには、前記濃縮液に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。
【0072】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0073】
上述のような研磨工程は、磁気ディスク基板(例えばNi−P基板)の製造プロセスの一部であり得る。したがって、この明細書によると、上記ポリシング工程を含む磁気ディスク基板の製造方法が提供される。
【0074】
ここに開示される磁気ディスク基板製造方法は、前述した研磨用組成物を用いるポリシング工程よりも前に行われるポリシング工程(以下「工程(P)」ともいう。)をさらに含み得る。工程(P)を含む態様によると、ポリシング工程全体の所要時間を短縮して生産性を高める効果が実現され得る。工程(P)は、1種類の研磨用組成物を使用する1つのポリシング工程であってもよく、2種以上の研磨用組成物を順次に使用して行われる2以上のポリシング工程を含んでもよい。
【0075】
工程(P)に使用する研磨用組成物(以下「研磨用組成物(P)」ともいう。)は特に限定されない。例えば、砥粒としては、前述した研磨用組成物に使用し得る材料として例示した砥粒を使用可能である。研磨用組成物がシリカ粒子を含む場合、該シリカ粒子は、前述した研磨用組成物に含まれるシリカ粒子と同一であってもよく、異なってもよい。研磨用組成物(P)に含まれるシリカ粒子と、前述した研磨用組成物に含まれるシリカ粒子との相違は、例えば、粒子径、粒子形状、密度その他の特性の1または2以上における相違であり得る。
【0076】
研磨用組成物(P)は、典型的には砥粒の他に水を含む。その他、研磨用組成物(P)には、上述した研磨用組成物と同様の成分(酸、酸化剤、塩基性化合物、ポリマー、界面活性剤、各種添加剤等)を必要に応じて含有させることができる。特に限定するものではないが、研磨用組成物(P)のpHは、例えば12.0以下(典型的には0.5〜12.0)とすることができ、好ましくは7.0以下(例えば0.5〜7.0)、より好ましくは5.0以下(典型的には1.0〜5.0)、さらに好ましくは4.0以下(例えば1.0〜4.0)である。好ましい一態様において、研磨用組成物(P)のpHを3.0以下(典型的には1.0〜3.0)とすることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0078】
<研磨用組成物の調製>
砥粒としてのケイ酸ソーダ法コロイダルシリカを純水に分散させ、シリカの平均一次粒子径:18nm、pH9.1である分散体Aを調製した。また、砥粒としての陽イオン交換したケイ酸ソーダ法コロイダルシリカを純水に分散させ、シリカの平均一次粒子径:25nm、pH2.5である分散体Bを調製した。また、砥粒としての陽イオン交換したケイ酸ソーダ法コロイダルシリカを純水に分散させた後、KOHを加え、シリカの平均一次粒子径:25nm、pH10.2である分散体Cを調製した。
【0079】
上記得られた分散体A〜Cのいずれかと、ポリマー(水溶性高分子)と、リン酸と、31%過酸化水素水と、塩基性化合物と、純水とを混合して、例1〜8の研磨用組成物を調製した。研磨用組成物中における過酸化水素水の含有量は0.4重量%(例1〜8)とし、リン酸の含有量は1.5重量%(例1、2、6、7)または1.0重量%(例3、4、5、8)とした。また、研磨用組成物のpHは2.4(例1、2、6、7)または2.0(例3、4、5、8)とした。各例に係る研磨用組成物について、使用した分散体の種類および砥粒の含有量W、ポリマーの種類、Mwおよび含有量、研磨用組成物の液相中のNaイオン濃度CおよびKイオン濃度C、Naイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)を表1に纏めて示す。なお、各例の研磨用組成物のNaイオン濃度CおよびKイオン濃度Cは、測定対象の研磨用組成物を−20℃で保持して凍結した後、解凍する処理を3回繰り返すことにより砥粒等の固形物を沈殿させ、溶液中のNaイオン濃度およびKイオン濃度をICP発光分析に基づく前述の方法に準じて求めたものである。
【0080】
【表1】
【0081】
<ディスクの研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液に使用して、下記の条件で、研磨対象物を研磨する標準研磨試験を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を使用した。ここでは、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS−3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の値が6Åとなるように予備研磨したものを使用した。上記研磨対象物(以下「Ni−P基板」ともいう。)の直径は3.5インチ(外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型)、厚さは1.27mmであった。
【0082】
[研磨条件]
研磨装置:スピードファム株式会社製の両面研磨機、型式「9B−5P」
研磨パッド:スウェードノンバフタイプ
Ni−P基板の投入枚数:8枚(2枚/キャリア ×4キャリア)×2バッチ
研磨液の供給レート:80mL/分
研磨荷重:120g/cm
下定盤回転数:60rpm
研磨時間:5分
【0083】
<研磨レート>
各例に係る研磨用組成物を用いて上記研磨条件でNi−P基板を研磨したときの研磨レートを算出した。研磨レートは、次の計算式に基づいて求めた。
研磨レート[μm/min]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の片面面積[cm]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm]×研磨時間[min])×10
得られた値を表2の「研磨レート」の欄に示す。ここでは研磨レートが0.10μm/min以上のものを「○」、0.10μm/min未満のものを「×」と評価した。
【0084】
<スクラッチ>
上記研磨した基板の中から計6枚(3枚/1バッチ)を無作為に選択し、各基板の両面にあるスクラッチ数を下記測定条件で測定し、6枚(計12面)のスクラッチ数の合計を12で除して基板片面あたりのスクラッチ数(個/面)を算出した。そして、得られたスクラッチ数が15個/面未満のものを「◎」、15個/面以上20個/面未満のものを「○」、20個/面以上のものを「×」と評価した。結果を表2の「スクラッチ」の欄に示す。
【0085】
[スクラッチの測定条件]
測定装置:ケーエルエー・テンコール株式会社製 Candela OSA6100
Spindle speed: 10000rpm
測定範囲:17000‐46500μm
Step size:4.5μm
Encoder multiplier:×16
検出チャンネル:Q‐Sc channel
【0086】
【表2】
【0087】
表1、2に示すように、液相中のNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)が20以下である研磨用組成物を用いた例1〜5では、例6〜8に比べて、研磨レートが同程度であり、なおかつ、スクラッチ数でより良好な結果が得られた。この結果から、液相中のNaイオン濃度Cと砥粒の含有量Wとの比の値(C/W)が20以下である研磨用組成物によると、スクラッチ数が少ない高品質な研磨後の表面を実現し得ることが確かめられた。
【0088】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。